原子崩しみたいなビームをぶっぱなす   作:ぽこちー

3 / 4

残念ながら、1〜2章はカットだ



危うし、高楼の夜
02.バレエツインズ


 

 

 

 

 正面入り口で来訪者を待ち構えているのは、2体のボンプ像だ。それらは家政婦のような服装を身にまとい、互いに手を合わせながら、訪れる者たちを出迎えている。

 

 中央には、頭部がライトになった『考える人』の像が鎮座している。その両脇を挟むように階段が設けられており、階段の奥には『BALLET TWINS』の文字とロゴを背後に掲げた受付がある。

 

 ここは、『バレエツインズ』。

 かつて旧都でバレエグループが経営していた、最も人気のあるショッピングセンターである。

 

 しかし、旧都の陥落後、バレエグループは破産。今ではホロウに飲み込まれ、かつての輝きは見る影もなく失われてしまった。

 建物のすべてがホロウに飲み込まれているわけではない。ホロウの外にはみ出している部分であれば、比較的安全に行動できる。

 

 だが、その範囲はごくわずかだ。一歩でも奥へ踏み込めば、そこはエーテルの侵蝕を受け続ける危険地帯へと変わる。

 内部は薄い霧に包まれ、冷気を感じるほどの寒さが広がっている。その不気味さから、新エリー都でも指折りの心霊スポットとして知られていた。

 

 そんな立ち入り禁止区域にも指定されているバレエツインズに、3人のホロウレイダーと1体のボンプが足を踏み入れていた。

 邪兎屋のメンバーである『アンビー・デマラ』、『ビリー・キッド』、『猫宮又奈』。そして、ボンプの姿で彼らを案内する、パエトーンこと『リン』である。

 

 リンたちは、レインというハッカーを探すためにバレエツインズへとやってきた。

 彼女たちは、とある事件で手に入れた記憶素子を解読するため、優秀なハッカーを必要としていた。

 だが、邪兎屋の社長である『ニコ・デマラ』によれば、レインはすでに消息を絶ってしまったという。

 

 そこで、レインから送られてくる空のメッセージを解析した結果、彼女がバレエツインズからメッセージを送信していることが判明した。

 こうしてリンたちは、バレエツインズを調査し、レインの行方を追うことにしたのだった。

 

「うぅ……なんかここ、寒くね……?」

 

「確かに……中はピカピカなのに、みょーに居心地悪いぞ……」

 

 ビリーと猫又は肩をさすりながら、エントランスを見渡した。

 

 かつては多くの人々で賑わっていたこの場所も、今では人っ子1人いない。窓や壁に開いた穴からは冷気が吹き込み、風が吹き抜ける音や、電気がパチパチと漏れる音が静まり返った空間に響き渡っている。まさに、心霊スポットにはもってこいの場所だった。

 

「ん……警戒して。霧が濃い。何か潜んでいるかも」

 

「うぅ……」

 

 猫又は警戒心を強めるアンビーの背後に、ぴたりと引っ付いた。

 

 ガタン!!

 

 突如、背後から物音が響いた。

 

 アンビーは即座に振り返り、刀に手をかける。一方、残る3人はびくりと身体を跳ねさせ、勢いよく振り返った。

 

 音の正体は、先ほど来訪者を出迎えていたボンプ像の1体が倒れた音だった。

 

「ふぅ、ビビったぜ。は、はは……」

 

 ビリーはジャケットを整えながら、隣にいる猫又と目を合わせた。

 その横では、リンが額の汗を拭い、全員に声をかける。

 

『先を急ごっか……ここにいるのはマズいかも』

 

 リンたちはエントランスを抜け、道中に現れるエーテリアスたちを倒しながら、バレエツインズの上層部へと向かっていった。

 

 バレエツインズの内部は迷路のように入り組んでいる。さらに、肌寒い場所があるかと思えば、湿気のこもった空間もあり、不安定な環境によりアンビーたちの体力はじわじわと、しかし確実に削られていった。

 

 やがて広いホールに出ると、ビリーと猫又は気を紛らわせるように雑談を始めた。

 

「なんかここ、普通のホロウよりシンドくねぇか? 寒くてジメジメしてて、変えたばっかの膝関節が錆びちまわねぇか、心配になってきたぜ……」

 

「ビリー、得体の知れないB級品には手を出さない方がいいぞ。やけに安い店でゴハンを食べたら、お腹を壊しちゃうのと一緒だ!」

 

 そんなやり取りを交わしていたビリーは、ふと、どこか様子のおかしいアンビーに気づいた。

 

「どうかしたか、アンビー?」

 

「建物に入ってから、ずっと視線を感じる」

 

「あ、俺も俺も! なんか入った瞬間からゾワッと来たんだよなぁ! 足元をしょっちゅう、何かがすり抜けていく気がしてよ」

 

『うーん、周囲の状況を探知できたらよかったんだけど。裂け目がいっぱいあるし、ホロウのデータも結構古いから……』

 

「だったら、進みながらデータを集めるしかないな」

 

 猫又が毛繕いをしながらそう言った、その瞬間だった。

 

 猫又の背後で、何かがギラリと赤く光った。

 次の瞬間、それは赤い閃光となって、猫又目掛けて高速で飛来した。

 

「猫又!!」

 

 アンビーは間一髪のところで猫又を引き寄せ、赤い閃光を回避することに成功した。

 

「うわだだだっ!? うぅ……よ、よかった……お鼻はまだついてる……!」

 

 リンは猫又に駆け寄りながら、赤い閃光の正体を確かめた。

 

『これ……ハサミ?』

 

 地面に突き刺さっていたのは、剣とハサミが合体したような奇妙な武器だった。

 

 アンビーはいつでも抜刀できるように刀に手をかけたまま、姿勢を低くする。そして、ハサミが飛んできた方向へと鋭い視線を向けた。

 

「誰!?」

 

 ホールの奥へと続く階段。

 

 その先から、コツコツと足音を響かせながら、何者かがこちらへ近づいてきていた。

 

 アンビーは刀をわずかに抜いた。

 

 残る3人はアンビーの背後に隠れながらも、こちらへと迫る何者かを見つめ続けている。

 

「お見事でした。さぞ容易い道中だったでしょうが——ここが終点です」

 

 姿を現したのは、白い狼のシリオンだった。

 執事服を見事に着こなし、凛とした佇まいでアンビーたちを見据えている。

 

 だが、その手にはメリケンサックが装着されていた。さらに、黒い義足からは、エーテルによって変換された氷の冷気が漏れ出している。

 顔の右半分は眼帯に覆われており、その隙間から覗く左目は、アンビーたちを『敵』と見定め、冷酷な眼差しを向けていた。

 

「ここは私有地でして、来客はお断りしております」

 

 狼のシリオンは胸ポケットから懐中時計を取り出すと、穏やかな口調で、しかし有無を言わせぬ冷たさを滲ませながら告げた。

 

「30秒でご用件をどうぞ。それ次第では……」

 

 ギロリ。

 

 赤い瞳が、アンビーたちを射抜いた。

 

 ただ者ではない。その威圧感にビリーと猫又、そしてリンは怯んだ。アンビーもまた、刀を握る手に力を込めながら、額に冷や汗を滲ませていた。

 

 カチ、カチと、時計の針が音を刻む。

 

 事情を説明したところで、「はい、そうですか」と見逃してくれるような相手ではない。戦闘になるのは確実だった。

 

 アンビーはそれを理解した上で、いつ、どのタイミングで刀を抜くべきか、慎重に見極めようとしていた。

 

 カチ、カチ、カチ。

 

 まるで地獄へのカウントダウンのように、時計の針が鳴り響く。

 

 額を伝う冷や汗。刀を握る手には、じっとりと汗が滲んでいた。

 

 ほんの数秒のはずなのに、何十分にも感じられる。

 

 逃げ場のない圧迫感の中で、じわじわと追い詰められていく。それでもアンビーは覚悟を決め、刀を握る手にぎゅっと力を込めた。

 

 その動きを見逃さなかった狼のシリオンは、メリケンサックの位置を整え、黒い義足をギチギチと鳴らす。

 

 そして、アンビーが刀を抜き、駆け出した瞬間。

 狼のシリオンもまた、彼女を迎え撃つべく地を蹴った。

 

 刀と拳が交差する——その瞬間だった。

 

 2人の間を引き裂くように、地面から直径10cmほどの紫色の閃光が飛び出した。

 

 2人は間一髪で踏みとどまり、バックステップで閃光をかわした。

 

 だが、紫色の閃光はそれだけでは終わらなかった。

 次々と何本もの閃光が、ホールの中心を軸に円を描くように、地面を突き破って出現した。

 

「うにゃあ!? な、なんなんだ一体!?」

 

「ゆ、幽霊たちの祟りか!?」

 

『こ、これは……!!』

 

 慌てふためく猫又とビリーをよそに、リンは閃光の正体に気づいた様子だった。

 

 やがて、地面から次々と突き出していた閃光が、突然ぴたりと止んだ。

 辺りは静寂に包まれ、この場にいる全員がホールの中心へと視線を向ける。

 

 そして、次の瞬間——

 

 

 

 ゴバッ!!!!

 

 

 

 直径2mほどもある極太の閃光が、地面を抉りながら突き抜けた。

 

 先ほどまでの閃光によって地面はすでにボロボロになっていた。そのため、極太の閃光は抵抗を受けることもなく、地面を容易く抉り取っていく。

 

 そして、大きく開いた穴から、黒い影が飛び出してきた。

 その場にいた全員が影へと視線を向け、警戒心を強める。

 

「おい、タキツボ。お前、太ったんじゃないか? 腕めっちゃ疲れたんだけど」

 

『ボンプの体重が増えるわけない。むぎのが運動不足なだけ』

 

「おいおい、俺は最前列で一番仕事してるんだぜ?」

 

『何もかもビームで破壊しているから、多分それ、運動になってない』

 

 場違いなほど気の抜けた会話が、静まり返ったホールに響き渡った。

 

 やがて、黒い影の正体が明らかになる。

 

 それは、1人の青年と1体のボンプだった。

 

 青年は腕に抱えていたボンプをリンたちのもとへ軽く放り投げると、彼女たちには目もくれず、狼のシリオンへと歩き出した。

 

「貴方は……!」

 

「とってもおっかない兄ちゃん!!」

 

「きゅっ、救世主降臨!! ……で、いいんだよな、店長!?」

 

『うん!! ようやく来てくれたっ!!』

 

 突如現れた青年に、リンたちは歓喜の声を上げた。

 

 その一方で、青年を見つめる狼のシリオンの瞳は、いっそう鋭さを増していた。

 

「どっかで見たことがあると思ったら、あの時の泥棒野郎じゃねぇか。俺に右目と両足を潰されたってのに、まだ懲りずに泥棒なんかやってんのか? アァ?」

 

 青年はコキコキと手を鳴らしながら、狼のシリオンを見据える。

 

 対する狼のシリオンは、ギリッと歯を食いしばった。

 

 そして、目の前に立つ青年の名を、憎々しげに呟いた。

 

 

「麦野……沈流……ッ!!」

 





ライカンが右目や両足を失った原因が不明だったので、モッキンバード時代に麦野くんと対峙し失った、という設定にしました。
その時の話は……また今度。

あと、麦野くんの口調が原作麦野ではなく一方通行っぽくなってるのは、この小説のプロット段階の主人公を一方通行風にしてた名残が残っているからです。
性格も麦野より一方通行寄りになっていくと思いますが(特に『悪党』としての生き方)、ご理解いただけると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。