戦いの火蓋を切ったのは、麦野だった。
麦野が手を横に払うと、その軌道に沿って野球ボールほどの球体が複数出現した。直後、球体からライカン目掛けて薄紫色の閃光が放たれる。
ライカンは跳躍し、地面と平行に伸びる閃光を回避した。そして、壁を蹴り、麦野のもとへと飛び込んでいく。
それを予測していたかのように、麦野は再び球体を生成。迫り来るライカンに向けて、閃光を放った。
足場のない空中では、回避することは困難だ。だが、ライカンは冷気をまとった義足を振るい、閃光を薙ぎ払った。弾かれた閃光は地面や壁に激突し、次々とクレーターを刻み込んでいく。
そして、ライカンは閃光を足場にして、さらに加速。勢いを乗せた拳を麦野目掛けて振りかざした。
対する麦野も、ニヤリと笑みを浮かべる。
エーテル粒子をまとった拳を繰り出し、ライカンの一撃を迎え撃った。
ドンッ!!
両者の拳が激突した瞬間、その間から衝撃波が放たれ、周囲の空気を震わせた。
衝撃に耐えきれず、周囲のガラスが砕け散る。天井からもパラパラと破片が降り注いだ。
続けざまに、ライカンが麦野の顎を狙って左足を振り上げる。
しかし、麦野は首を後方へと反らし、間一髪で蹴りをかわした。さらに、がら空きになった腹部へ右フックを繰り出す。
だが、ライカンもただでは終わらない。
身体を半回転させながら、右肘で麦野の拳を受け止めた。
その瞬間、地面にピカリと光が走る。
地面から伸びた閃光が、ライカンの腕や頬を掠めた。しかし、いずれも致命傷には至らない。
ライカンは即座に麦野の腹部へ蹴りを繰り出したが、麦野は両腕を交差させて防御。その勢いを利用し、ライカンは麦野の腕を足場にして背後へと跳躍した。
こうして、2人の間に再び距離が生まれる。
束の間の静寂が訪れた。
「その義足、随分と金を注ぎ込んでるみてぇだなァ? 一方的にボコられたのが、相当屈辱だったのかァ?」
「……何故お前がここにいる?」
「そんなん、仕事に決まってるだろォが」
その直後だった。
麦野の頭上から、凄まじい雷撃が降り注いだ。
バチバチッ!!
鼓膜を突き破るかのような轟音が鳴り響き、リンたちは思わず耳を塞ぐ。
雷撃は雨のように麦野へと降り注ぎ、地面を次々と抉り取っていった。
だが、麦野の周囲には盾のように固められたエーテル粒子が展開されていた。降り注ぐ雷撃はその防壁に阻まれ、麦野にダメージを与えることはない。
直後、エーテル粒子の隙間から手が伸びた。
麦野は、降り注ぐ雷撃の1本を掴み取る。
そして、そのまま背後の壁へと叩きつけ、さらにもう1本を蹴り飛ばした。
『グェ〜!』
『ヤラレタ〜!』
吹き飛ばされた方向から、間の抜けた機械音声が響いた。
麦野はその勢いを利用して、バク宙を繰り出す。
そして、オーバーヘッドキックの要領で飛び掛かってきた何者かに、強烈な蹴りを叩き込んだ。
「くっ……!!」
女性の苦痛に満ちた声が響いた。
確かに何かを蹴った感触はあった。だが、手応えは浅い。
蹴りを受けた何者かが、そのまま後方へと飛び去っていく。
麦野は間髪入れず、相手目掛けて閃光を放った。
しかし、その間にライカンが割り込み、迫り来る閃光を弾き飛ばした。
背後から、ビュン、と風を切る音が聞こえた。
しかし、麦野は振り返らない。
ガキンッ!!
金属同士がぶつかり合うような音が、ホールに鳴り響いた。
「何、これ……!!」
背後から、メイド服を着た少女の驚きの声が漏れる。
少女が振り下ろしたハサミは、麦野に届いていなかった。麦野とハサミの間には、盾のようなエーテルの層が形成されており、その一撃を受け止めていたのだ。
その隙に、麦野はぐるりと身体を回転させる。その勢いを乗せた蹴りが、少女の身体をライカンのもとへと弾き飛ばした。
少女は咄嗟にハサミを盾にして直撃を防ぐ。
しかし、衝撃までは殺しきれず、そのままライカンのもとへと吹き飛ばされてしまった。
そんな少女を、宙を舞う女性が受け止める。
少女は苦痛に顔を歪め、舌打ちをしながらぼやいた。
「ボス、なんなのアイツ?」
「どうやら、一筋縄ではいかないお相手のようですね」
「エレン、リナ。奴は危険だ。絶対に油断してはならない」
敵意を向けてくる3人を見て、麦野は口元をぐちゃりと歪ませた。
「いいねェ……最近は緩い依頼ばっかで、ちょうど身体が鈍ってたところだ」
麦野の周囲に、無数の球体が出現する。
その球体は、まるで麦野の感情を映し出すかのように、どろどろと歪んでいった。やがて、その色は至極色へと変化していく。
「食後の運動程度には楽しませてくれるんだろうなァ!!!!」
「「「っ!!!!」」」
麦野の怒号が、空気を震わせた。
そして、再び一触即発の空気が漂い始めた、その瞬間だった。
カランカラン!!
丸ノコの刃が音を立てながら、麦野とライカンの間に転がってきた。
続いて、くすんだ灰色がかった緑色の髪をしたメイド服の少女が、焦った様子で小走りに現れた。
「はわわっ、ご、ごめんなさいっ!!」
あまりにも場違いな少女の登場に、その場は静寂に包まれた。
その静寂を破ったのは、猫又だった。
麦野とライカンの戦いを前に、リンたちは一箇所に固まって萎縮しながら、成り行きを見守ることしかできずにいた。
しかし、突如現れた少女を目にした猫又は、ぱっと目を輝かせて声を上げた。
「ん? カリンちゃん……? カリンちゃんだ!?」
「え? あっ、猫又様! それに調査員様……麦野様も……!!」
少女もまた、ぱあっと顔を輝かせ、猫又のもとへと駆け出した。
その様子を見たライカンは、麦野への警戒を解かないまま、少女に問いかけた。
「カリン、面識が?」
「はい! そうなんです。ホロウで迷子になっていたカリンを助けてくれた方々なんです!」
ライカンはリンたちへと視線を向けた。
リンとビリーは胸を張り、猫又はうんうんと頷く。アンビーは少し困惑していたものの、リンたちとカリンの様子から、少なくとも彼女たちが敵ではないことを理解し、警戒を緩めた。
一方、麦野はというと、興が醒めたとでも言いたげに舌打ちをすると、周囲に浮かんでいた球体を消滅させた。
そして、タキツボを伴い、周囲の探索を開始する。
「……なるほど。リナ、エレン。もういいでしょう」
「……はぁ〜い」
「……了解」
ライカンの指示を受け、女性と少女も警戒を解いた。
やがて、ライカンを中心にメイドたちが集まり、リンたちへと向き直る。
「顔見知りなのでしたら、手間が省けます」
そして、彼は静かに告げた。
「申し遅れました……私共は『ヴィクトリア家政』です」
戦闘描写めっちゃむずいけど楽しい〜って思ってたけど、2600文字しかいってなくて軽く絶望した。