数千年が経った。
それにより、マグマだけだった大地は海が生まれ、大陸が生まれ、生命が生まれた。
そしてルフトはそれらに干渉することを決めた。
魔法は極まった。
疑似的な生命創造から死んでなければどうとでもなる回復魔法に加え魂さえ無事なら可能な蘇生にその魂すら欠片でも残っていれば治せる修復魔法を手に入れた。
これらは地上の適当な生命を実験台にしたので問題なく機能することがわかっている。
ルフトはある森の上でドキマギしながら森へと降下する。
そこは悲壮感漂う場所だった。
耳が尖っていて長く、金髪緑眼の整った容姿の者たちが多く居た。
「……天からの使者だ……!」
そう者たちはルフトを見て崇めるような声を上げた。
ルフトは今少し猫背で白いトーガを着ている。翼と輪っかこそないが天の使いだと言われれば納得できる装いだ。
更にはこの者たちよりも優れた美貌を有している。この者たちが数百人に一人レベルの容姿ならばルフトは数十億人に一人の美貌だ。
「天からの使者よ! どうか付して願い申す! どうかこの者たちに救いを!」
そう懇願するこの中で一番老いている者の周囲には怪我人が複数いた。
怪我人というよりは死ぬ一歩手前の者たちが二十人ほどいる。
彼らは魔物と戦い、傷着いて行った者たちだ。
この世界には魔法がある。
魔法はマナという大気に満ちるエネルギーによって成り立つ事象だ。
マナを取り込むことで魔力となる。
そしてこの魔力は魔法を繰り返し使う事で増大していく。
この増える量には際限がなく、理論上は数億だろうが数千京だろうが数値にすればそこまで伸びる。
だが、現実としてはそこまでいかない。
理由は二つある。一つは単に魔力もある程度は身体機能に依存するため老いると取り込めるマナの量が減り、魔力も増えるどころか減少するのだ。
もう一つは単純に生命の寿命だと其処まで伸びる前に寿命で死ぬ。
だがルフトは違う。
世界のほぼ始まりから生き続け、魔法を行使し現在進行形で百以上の魔法を行使し続けているルフトは魔力量もそれこそ京単位である。
そして魔力量は子に遺伝し、魔力によって肉体が変化していく。
この者たち──ルフト命名エルフ達は人間から進化した種族である。
魔物と呼ばれる者たちも先祖が魔法を行使した動物たちである。
「いいよ」
ルフトは端的にそう言い、右手を掲げた。
それだけで魔法が行使される。
瀕死の者も、死の傍に居た者も、関係なく傷が治る。
魔物によって切断された手足も、潰れた眼も、耳も、治っていく。
「おぉ……」
「神の奇跡だ!」
「これぞ天の救いだ!」
「対価を貰う」
ルフトは猫背のままそう言った。
「なんなりと! 我々に出来る事ならば──命以外ならば差し出します!」
そうエルフ達が膝を着いて言った。
「百年。私に従え。そして君たちは"エルフ"を名乗れ。それが対価」
「──畏まりました。我々は今後エルフを名乗り、貴女様に従います!」
ニヤリ、とルフトは笑みを浮かべた。
ルフトがこういったことをするのには訳がある。
それはこの世界を自身好みに改造する為だ。
だからこそ、覚えた魔法で世界をある程度操作した。
人類の誕生を早め、エルフを生み出し、獣人を生み出し、ドワーフを作り、ハーフフットを作り、なんかゴーレムっぽい種族を作ったりしたのだ。
ただ世界を統治する気はない。世界の支配者なんて器ではないからだ。
そして魔王などは作っていない。世界を害する気もないからだ。
そうしてエルフ達も統治も終わり、国を興して空に帰った後。
ルフトはある魔法を試していた。
ルフトの前には精巧な人形があった。
成人男性の人形だ。歳は二十代前半程度。黒髪赤目の男で顔の左半分は骨の様な仮面が付いている。
身長は百八十二センチ程。どこか優男と言った雰囲気の男だ。
体躯もよく程よく鍛えられている。
「
魔法を唱える。
この世界の魔法はイメージが重要だ。だから魔法名も居る。
魔法の名というのはこの魔法は世界に対しこういう事象を起こしますよ、と宣言するような物なので魔法名は必須だ。
ただわざわざ唱える必要はない。
そして人形に命が宿る。
人形がひとりでに動き出し、膝をついた。
「ご命令を。我が主よ」
そう人形が術者であるルフトを見上げながら言った。
(うっし成功だな)
「お前の名はティードだ。これから私の従者を複数作る。それらの統括個体になれ」
「畏まりました」
こうしてルフトは己の勢力を作っていく──ー
■
ヒューマン。エルフ。ドワーフ。ロックモルド。
それらの種族たちにはある共通点がある。
それは彼らの神話、あるいは歴史に空の賢者──あるいは空の女神と呼ばれる者が登場するところだ。
空の賢者は地上に降り立ち、知恵と勇気と力をその種族に授けると、空に帰っていく……という物だ。
まさに神話そのものの登場人物である。
──その空の賢者を求め、勇者一行は空を飛んでいた。
勇者。それは聖剣に選ばれし存在。
聖剣とはまさしく空の女神が地上に残した希望の
名をカラドボルグ。黄金の剣であり、豪華な装飾が付いている。
効果としてはまさに魔──マナ特攻。所有者以外の魔力を打ち消す事であらゆる相手を脆弱な存在に劣化させるという力を持つ。
相手の最大魔力量そのものを削り取り、ただの脆弱な生命に堕とす力を持っている。
だが製作者であるルフトには相手の格が高すぎて効かないし、そもそも効かないようセーフティを付けているので効かない。
その聖剣に導かれて、勇者レーレとその一行は空の賢者の住まう島──蒼穹島に向かっていた。
聖剣には幾つか機能がある。
そのうちの一つに制作者であるルフトの住まう島への道案内機能があるのだ。
この機能は人類に危機が訪れた際、ルフトに救援を求められるように作った機能だ。
と言っても本当にやばいときは聖剣から直接ルフトに連絡がいくようになっているのでこうしてのんびり空の旅をしているのでそこまで緊急ではない。
勇者レーレはまだ少年と言える年齢の男だ。
赤い髪に赤い瞳をしており、黄金色の軽装鎧を着ている。
その傍には聖女ヒュムネが居る。
金髪碧眼の美少女で改造したシスター服を着ている。青色の服だ。
そして勇者パーティ最後の一人はシューレという名の女騎士だ。
銀髪碧眼の美女であり、ナイスバディの女だ。
顔つきはボーイッシュ系だろうが美女と言える部類だろう。唇も凛々しい。
だが顔以外は全身鎧でおおわれている。
この三人は竜の背に乗って飛んでいる。
この竜の名はアークールという全長五十メートルほどの巨大な竜だ。
形としてはワイバーンに近いが、その翼は鳥のように羽に覆われている純白の竜だ。
アークールは勇者と一対一で一騎打ちをし、任された結果こうして足代わりにされているという過去を持つ。
この世界には魔物が存在する。
魔物はマナを取り込み変化した存在だ。元となった動物がいる。
竜は恐竜がマナによって変化した種族であり、元から強者であったため変化しても食物連鎖の上位に位置する種族だ。
魔物は様々で代表的なゴブリンやオーク、ワームやオーガなどが居る。
そしてこの世界には魔法がある。
魔法は基本一人一属性だ。
属性と言っても色々ある。
七大属性と呼ばれる木、火、土、金、水、月、日属性にそこから分裂した聖属性や負属性、変わり種だと空間属性や切断属性なんてのもある。
一人一属性とは言うがその属性の魔法しか使えない、という訳ではなく本人の努力や才能によっては複数属性を扱うことが可能となる。
だがメイン属性以外はおざなりというか、弱い現象しか起こせない。
しかし基本と言ったようにある種の者たち──例えばハーフと呼ばれる種族などは二属性を達人のように扱う事も可能となる。
肝心のルフトの属性は神秘属性であり、これは全ての属性を兼ねた属性というチートである。
故にルフトはあらゆる魔法を行使できるのだ。神特性の肉体だからこそのチートである。
『そろそろ見えてくるはずだ』
聖剣カラドボルグがレーレにそう言った。
男の声だ。聖剣にも自我がある。眷属作成の魔法の応用で与えられた自我だ。
「もうすぐらしい。気を引き締めて行こう」
竜の背に座りながらレーレが言った。
その言葉によって「ようやくか」とシューレがニヤリと笑みを浮かべた。
そうして立ち上がって待っているとついに見えた。
聖剣を所持した者のみが行ける最奥聖域──蒼穹島だ。
「……美しい……」
聖女ヒュムネが声を漏らした。
そこはまさしく天の国と言った雰囲気の島だった。
整えられた花畑。神秘さを感じさせる光。
巨大な湖が存在し、川が流れている。川の水は島からある程度離れると光の粒子となって消えていく。
生命の偉大さを感じさせる──そんな島だ。
アークールが島の端に着地する。
「私はここでお前たちを待とう……何かあれば天に向かって叫べ。助けになろう」
「ありがとう、アークール」
レーレはそう礼を言ってから背から降り、島に踏み入れた。
レーレを先頭にし一行は蒼穹島を歩いて行く。
島にはちゃんと道があった。石畳の道だ。
街路樹も植えられているし、灯りの為の街灯もある。
そうして進んで行くと公園に辿り着いた。
公園には一人の男が草を刈っていた。
身長は百八十二センチ。黒髪赤目の男で優男と言った雰囲気の男で髭は生えていない
タキシードを着用しており、顔の左半分は骨の様な仮面で隠されている。
「おや。羽虫──ではなく我が主に認められた者たちですか」
そう男──ティードは眉を潜めながら勇者一行を見た。
「初めまして、僕はレーレ。聖剣に選ばれた勇者です。この島には空の賢者に会いに来ました……貴方が空の賢者ですか?」
「いいえ。私はあなた達が空の賢者と呼ぶ者の従者の一人、ティードと言う者です……しかしそうですか。貴方が勇者ですか……」
勇者という概念はルフトが地上に広めた。
聖剣を創り出し、それを広め、聖剣は人類が危機に陥った時、自らの主を選び、人類を救う、と。
実際に今、人類に危機が訪れている。
ヘルヘイムから来た魔族の王、魔王が地上に侵略し地上世界──アーズガルズにやって来たのだ。
ヘルヘイムの魔族を大量に連れての大侵攻である。
ルフトはそれに関わっていない。一応認知はしているが、まぁ聖剣とかばらまいたし大丈夫やろと楽観的に考え今日もゲームをしている。
「では、空の賢者に会う為の最終試練を課しましょう──私を倒してみなさい、人間ども」
そう言ってティードは微笑みを浮かべた。
「……わかりました。三対一は卑怯……とは言いませんよね」
冷や汗を流しながらレーレが問いかけた。
「そんな小さいことは気にしませんよ。さぁ、かかっていなさい」
「では──遠慮なく!」
そう言ってレーレは炎を纏った。
レーレの属性は火属性。火を纏う事によって加速を得たのだ。
ティードはそれをさらりと避ける。
ポケットに手を入れた状態での回避だ。
後ろにシューレが回り込み、剣で斬りかかった。
この世界には魔法があるが、武器も廃れていない。
単純に素手だとリーチ的な差が生じるし、魔法で武器を作ってもいいからだ。
だがゼロからの魔法生だと維持に魔力を消費するので物理的に存在する武器を振るう者も居る。シューレがそうだ。
シューレは風を剣に纏わせながら斬りかかるも、それも間一髪で回避される。
上下左右。挟み込むようにレーレとシューレが攻撃するが、その一撃たりともティードには届かない。
「神罰の矢!」
ヒュムネが錫杖を掲げ光属性の魔法を唱えた。
空から無数の光の矢が降り注ぐ。
それらはレーレとシューレには向かず、全てティードだけに向かう。
「ではこちらも──断空」
空に壁が生まれた。
ティードの属性は時空。時間と空間を操る属性だ。
それにより空間を操作し、壁を形成。光の矢を防いだのだ。
「光爆!」
レーレがそう叫び聖剣を振るい爆破を起こした。
爆破の煙によって周囲が一時見えなくなる。
「目くらましですか。ですが──」
レーレは左手に空間を纏う事で防壁とし、背後からのレーレの斬撃を手で受け止めた。
「マナで感知する私には無意味です」
ルフトが作り出した眷属たちは存在としてはマナに近い。
故にマナや魔力の感知能力が常人よりずば抜けて高い為、視界を封じられても相手を認識できる。
レーレは小さい爆破を起こし距離を取る。
「ではこちらからも攻撃を──」
『──何をしている?』
空から女の声がした。ソプラノボイスの声だ。
すぐさまティードは膝をついた。
「これは主様。聖剣に選ばれし勇者が来たので私の眼で選別をと──」
『お前にそこまでの権限を渡したつもりはないよ。ティード……その者たちを連れて私の家まで来なさい』
「畏まりました」
そういうとティードは立ち上がる。
「では、試練は終わりとしましょう……私の主──空の賢者に会いに行きましょうか」