島には幾つかの施設がある。
農場や魔法の実験施設、天兵保管庫などだ。
流石に勇者たちにすべてを見せる訳にはいかないので表向きの場所だけ見せ、勇者一行は空の賢者の力強さを知り一泊した。
そして翌日。アークールの前に勇者一行とルフトは居た。
「目的は果たせたようだな。勇者よ」
「うん。ありがとうアークール。地上に戻るときもよろしくね」
そうレーレはアークールの頬を撫でた。
「竜か……」
ルフトは竜の形をした眷属も作った事がある。だが直接竜には干渉していない。
やろうと思えば竜王なども作れるが作ってはいないのである。
「其方が空の賢者か……」
「そうだよ。私はルフトという。よろしくね、竜」
「うむ。よろしく頼む、ルフト殿。では私の背に乗るといい。地上まで送ろう」
そうして一行はアークールの背に乗る。
「では出発だ!」
アークールがそう叫び、羽ばたいた。
そのまま地上へと降下していく。
成層圏を抜け雲海を抜け、地上が見えてくる。
と言ってもある程度の高度──高度五千メートル程を飛んで行く。
「どこに向かうか聞いても?」
ルフトが尋ねた。
「はい。まずは恐山で降りてそこから近くの街のバッシキアに行きます。そこで準備をして、魔王城へ向かいます」
「魔王城までアークールに乗っていくのは駄目かい?」
「……それもありだとは思いますが、今の僕は魔族側からも狙われています。だから囮として行動し、敵を引き付けて──そのすべてを倒します」
その言葉にルフトは小さく微笑んだ。
「強引だね。嫌いじゃないよ、そういうの」
そして地上に降り立つ。
木々生い茂る力強い山の頂点にアークールは降りた。
そのまま勇者一行も降りる。
「ありがとう、アークール。また何かあったら頼むね」
「任せろ、勇者よ。何かあれば私の名を叫べ。そうすれば力になろう」
そういうとアークールは羽ばたき、空へと消えていった。
「それじゃあ、行きましょうか」
「うん」
そして一行は下山を開始する。
今、地上には国が幾つかある。
勿論大陸も幾つかあり、七つの大陸がある。
この恐山もこの勇者が生まれた国家──デュースという国の領地内にある。
勇者一行が雑談をしながら下山する。
全員戦士なので身体能力は高く、スタミナもある。故疲れる事無く下山をしている。
ルフトは神特性の身体に加え疲労無効の魔法を常にかけているので疲労はしない。
ルフトが己にかけている魔法は百を超える。
情報系無効。探知系無効。呪詛無効。疲労無効。睡眠無効。時間停止無効。空間操作無効……などなど。思いつく限りの対策魔法と便利系の魔法は使っている。
故問題なく下山が終わった。
その道中ルフトは特に話さなかった。
数百年己の眷属とネットでしか話してこなかったコミュ障は陽キャの会話に割り込めないのである。
山道が終わり普通の道となる。
そこからも徒歩だ。
会話が途切れたタイミングを狙いルフトが問いかける。
「ここから街にはどれぐらいかかる?」
「一日と半日です。途中で野営します」
「わかった」
ルフトは一瞬己の力で転移させようかと思ったが、辞めた。
何もかも魔法で思い通りにさせてはそれは天からの救いを待つ乞食と同じになる。
勇者をそんなちんけな存在にはさせたくないので控えて置いた。
そして夕方になり、野営することになった。
「野営は私がするよ」
そうルフトは言い出した。
「ルフト様が? いいのですか?」
「地面に寝っ転がるのが嫌だからね。それに様はつけなくていい。仲間なんだから」
そう言ってルフトは空間魔法を行使し異空間からミニチュアサイズの家を取り出す。
それを地面に放り投げる事で一軒家が建った。
「可搬の館……! 高級品だ!」
シューレがごくりと喉を鳴らした。
これらのアイテムは地上にも存在するが、そのほとんどがその実ルフト性だ。
地上にはダンジョンと呼ばれる場所がある。
それらの大半はルフトが創り出した場所で、無限にモンスターが湧いてくる場所であり、財宝が手に入る場所である。
その数は百を超え、それらの維持管理はルフト配下の者──大まかな管理はスールという眷属に任せている。
モンスターもまた
そのためルフトが一時離れても問題なく機能する。
ダンジョンからは
だがこの可搬の館はまだ人類で解析、複製できていないアイテムで持つのはそれこそ王侯貴族ぐらいの者だ。
更にこの家は最上位の代物で冷蔵庫や冷暖房、コンロや水道完備の物である。
「さ、入るよ」
そう言ってルフトが家の中に入っていくと勇者たちも入っていく。
玄関ホールを抜けた先はリビングでそこでくつろぐことが可能になっている。
「食事はどうする? 私が用意しようか?」
「いや、食材は用意してあるから料理しよう。ヒュムネと作るから二人は座って待っていてくれ」
「わかった」
そして大人しくルフトとシューレはリビングの椅子に座る。
「……私は料理が出来ないから手伝えないが、シューレ。君は手伝わないのかい?」
ルフトは待つ間の無言タイムがきついので雑談をけしかけた。
「ん、あぁ。私は料理下手でな。砂糖と塩を間違えたり、分量を間違えたりして失敗して以来料理はしていないんだ。二人に任せている」
「そうか……」
話題が終わった。
ルフトにここから話を盛り上がらせる事は出来なかった。
二分ほど沈黙が流れる。
ルフトが気合を入れて会話を始める。
「君はどうして勇者の仲間になったんだい?」
「私は最初から聖剣に選ばれし勇者の仲間候補だった。レーレが私を仲間に入れることを望んだから、私は仲間になった。勿論、今は純粋に仲間として共に行動している。レーレが嫌と言っても一緒にいるさ」
「……それはいいね。良い友情だ……しかし仲間候補……今の地上には国が幾つかあるが、君はこの国──デュース出身かい?」
地上には大陸が七つあり、この大陸はルフトが最も干渉している一つ目の大陸になる。
国は合計五つある。
それらの国は時に戦争し時に貿易し、発展を続けている。
デュースにこそルフトが聖剣を置いた国である。
「そうだ。私は蒼天の剣の副団長だったんだ」
「蒼天の剣? ……騎士団かい?」
「そうだ。知らないのか? わが国には騎士団が六つある。私はそのうちの一つ、蒼天の騎士団の副団長だったんだ。団員数も百人を超える大規模な団だったんだ」
「それは凄いね……副団長が勇者の仲間になっていいのかい? 騎士団の方は?」
「それなら問題ない。一時脱退という形になっていて、副団長は新しい者がいるからな」
「……そこまで覚悟を決めているんだねぇ」
一時脱退判定で後任も居る。その状態で団に戻っても厄介者扱いされるだろう。
それを覚悟の上か、あるいは魔王を倒した後は隠居でもするつもりなのか。
「ご飯できましたよー」
そう言ってレーレとヒュムネが配膳をする。
干し肉と野菜が入ったスープとコッペパンだ。
料理が豪華だが、これには当然訳がある。
時間魔法や空間属性の魔法の使い手が創り出した
これは異空間にある程度物資を仕舞え、上位の物には時間を止める効果すらついている。
そしてそれらの
と言っても容量が多いのは高級品でおいそれと手が出せないが。
レーレたちは勇者一行なのである程度物資も援助されている。
と言っても可搬の館は援助の中に入っていない。
可搬の館は究極凄く良いテントに過ぎないのでそれなら普通のテントでいいよね、というのがあるし割とアイテムボックスの容量を食うし後普通に高いので物資から外されたという事情がある。
四人は食事を始める。
「…………」
一体一ならある程度話せたが相手が複数だとルフトは黙ってしまった。
コミュ障であった。
■
見張りを四人交代して一夜を過ごした後。
一行は朝早くに動き出し、先日の夕飯の残りのスープとパンを食べた後可搬の館を片付け移動を再開した。
「しかし徒歩だと遅いね。何か足を出そうか?」
ルフトが歩くのに飽きたのでそう相談した。
移動用の魔法というのはあるが、それらは緊急時に使うものでこういうただの移動には使わない。
魔法は魔力を消費するので魔力を使って移動してたら襲撃喰らって魔力不足で負けました、なんてことになりかねないからだ。
「いえ。足ならこれから行く街──バッシキアに用意してあります。元はそれで移動してたんですが、蒼穹島に行くのにあたって一回置いて来たんです」
「ん、あるならいいや」
そうして半日程移動する事で街に辿り着いた。
城壁に守られた都市だ。
この世界にはでかい壁がある。
空を飛ぶのは熟練の魔法使いならさほど難しくなく、そのため壁は作りやすい。
壁を作るのは当然他国からの侵略や魔物などが街に入らないようにするためである。
門の方へ行くと門番の衛兵が居た。
騎士団と衛兵はまた違う。
同じ秩序を守る者ではあるが、所属が国か騎士団長かの違いがある。
そして戦闘力にも差がある。衛兵の方が多いが弱く、騎士団員の方が強い。
更に言えば衛兵は街を守る為街中に居るのが多いが騎士団はダンジョン攻略や魔物退治など積極的に外で動く。
衛兵は一行を見ると顔をほころばせた。
会話できる程度の距離まで近づくと話しかける。
「お帰りなさいませ勇者様! お待ちしておりました! ──そして、そちらの方が……例の方ですか?」
「うん。この人が空の賢者様だよ」
「おお! やはり伝説は本当だったのですね……!」
感動だ、と衛兵はルフトを尊敬のまなざしで見た。
ルフトはこういった事には慣れているので内心胸を張りつつ表情は一切変えず受け取った。
「ではさっそく領主様にお会いになってください。領主のスコット様が帰還をお待ちしておりました」
「デニスさんが……? わかりました。すぐ行きます」
そして一行はバッシキアに入っていったのだった。