空の賢者   作:Revak

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第5話

 

 街に入ったら歓迎ムード──なんてことはなく、むしろ剣呑とした雰囲気が漂っていた。

 ルフトは一人気づかなかったが、他の者たちは気づいていた。

 

 ルフトは今はこういう街並みなのかと観光気分だったが顔には出さなかった。

 

 鈍感なルフトでもなんか武装した人間多いな、とは思っていた。

 

 そうして街の奥の屋敷に辿り着く。

 ルフトの屋敷よりは大きいが素材の質では下の屋敷だ。

 

 屋敷には壁があり、門もある。

 門の前の衛兵がレーレたちに気づくと笑顔を向けた。

 

「勇者様! よくぞお戻りになってくださいました! 奥で領主様がお待ちです。どうぞ奥へ!」

 

 そう言って衛兵が門を開け、案内役を買って出る。

 

 衛兵に案内されるがまま屋敷の中に入り、領主の部屋に入る。

 

 部屋には男が居た。

 黒髪赤目の男で壮年の男だ。体は程よく鍛えられている。

 

「おぉ、勇者殿か……見慣れぬ女性がいるが、そちらの方は?」

「この人はルフトさん──空の賢者様です」

 

 その言葉に領主、デニスは目を大きく開いて驚いた。

 

「実在したとは……! そして今は勇者様の仲間になったと?」

「はい。魔王を倒すために協力してくれています」

「それはありがたい……! そして、恥を忍んで頼みたい。今、この街には魔王軍の四天王の一人──アインベルが魔族を率いてやってきている」

「四天王……!」

 

 そんなラノベみてぇな幹部実際に居るんだな、とルフトは一人謎の感心をしていた。

 だがルフト以外には緊張が流れる。

 

 アインベル。魔王軍四天王の一人だ。

 四天王間はだいたい同列の強さであり、誰が強いかなど一概には言えない。

 だがアインベルは街を三つ滅ぼした大魔族であり、強力な存在だ。

 率いる魔族も強力なのが多い。

 

 魔族は生まれ持っての魔力量が多い事が多く、戦闘で魔力量を鍛えていくので更に強くなっていく。

 この世界、努力できる才能を除けば魔力量は誰でも鍛錬すれば伸びる。と言っても一度に伸びる量などに差はあるが、ともかく限界はなく伸びていく。

 しかし最初のスタートラインには差があるのが現実だ。魔族は人間などよりよほど遠くにいるのである。

 

「わかりました。僕がアインベルを倒します。仲間のみんなには、魔族の対処を頼む」

 

 その言葉に仲間たちはわかった、と返答をした。

 正直に言えばルフトが一人適当に魔法なりチートを行使すれば一発で消し飛ぶ相手だが、それをすると勇者の成長にならないしそもそもそこまで地上に干渉して人類を神に縋るだけの無能にはしたくないので強力な個程度まで能力を制限してルフトは戦うつもりだ。

 本気を出せば救える命など山のようにあるが、それらは見捨てるつもりである。

 自分は全知でも全能でもないのだから、救える命には限りがあるのだから。

 

「魔族は明後日には五千の軍を率いてくるはずだ。それまで此方でも準備をしておく。よろしく頼む!」

 

 こうして対魔族の準備が始まった──

 

 

 

 

 ■

 

 

「…………」

 

 ルフトは一人、空から街を見ていた。

 

 この街も、いやそれどころか人類種自体ルフトがもたらした物だ。

 今の人の発展は、ルフトが居たから成り立ったと言っても過言ではない。

 ルフトが干渉しなければ今も原始人の様な生活をしていただろう。

 

 自分は神でも悪魔でもない。

 

 ただの人として、人の発展は喜ぶべきことである。

 

 ルフトは転移魔法で街の外、壁の少し外に転移した。

 

 そこでは塹壕やバリケードを作っている。

 ルフトが来ると尊敬のまなざしが向けられる。

 空の賢者というのは絵本にも出てくる存在だ。実物を見て感動するのである。アソパソマソに会ったような物だ。

 

 ルフトが手をかざし、魔法を行使する。

 

 鋼の壁が産み出され、地面が陥没し塹壕が作られる。

 

「これで少しはましになったろう」

 

「ありがとうございます! 空の賢者様!」

 

 そう言って作業をしていた者たちは礼を言うのだった。

 

 

 

 敵軍接近まで残り一時間。

 作戦会議が始まった。

 

 会議室にはレーレと領主デニス、ルフトに白銀の翼と緑の大樹という騎士団の団長が居た。

 

 白銀の翼の団長は銀髪碧眼の男で優男と言った雰囲気の男だ。

 どこかへらへらしておりダメ男な雰囲気を感じさせる。

 名はリチャード・C・コーエンという。

 

 対し緑の大樹の団長は大柄な男だ。背も高く二メートル程もある。

 筋肉質であり、腕も足も丸太のように太い。

 緑髪緑眼で耳が少し尖っており、エルフの血が混じっているとわかる。

 この世界、エルフやダークエルフなどの異種族が居るが、それらは人類判定を受けている。

 異種種族間でも子を成せる関係もあり、人間とエルフは子を成せる。

 だがこう言ったハーフの種族はラバのようなもので、子を作る能力が欠損する一代限りの存在になる。

 異種族のクォーターなどは生まれないのだ。

 

 そんなハーフエルフの名はリック・アレクサンダー・キングだ。

 

 騎士団の団長クラスともなると基本貴族、あるいは王族が務める事になる。

 魔力量は遺伝する。そのため強い魔力を持つ者同士が子を成し、最初の魔力量を多くして強者の子を増やすのだ。

 そのため貴族はより多くの魔力を持つ者と婚姻を成し、膨大な魔力を持つなら平民とだって子を成すこともある。

 そして子だくさんだ。魔力によって肉体が変異し、普通の生命とは超えた存在になることで繁殖力も高まるのである。

 子供が二桁は貴族なら当然である。産むのに十月十日もかからないし。魔力によって老いるのも低下するし。

 

「そちらが空の賢者様か。はは、絵本や神話の存在に会えるとは光栄だ!」

 

 ガハハ! とリックが笑う。

 

「うん。よろしく」

 

 ルフトは端的にそう言った。

 

「それで作戦はどうするの?」

 

 リチャードが領主に問いかけた。

 

「防衛線だ。ただ、勇者殿一行は隠密系の魔道具で隠れ、敵本陣に居る四天王、アインベルを倒す。それまで持ちこたえるのが勝利条件だ」

「なるほど、耐える戦いか。腕が成るな!」

 

 リックがむん! と力こぶを見せた。

 

「空の賢者様もアインベル戦に行くので?」

 

 リチャードが問いかける。

 

「いや。ルフト様──空の賢者様とシューレ殿は残って防衛だ。指揮はシューレ殿がする」

「なるほど、了解です」

 

 リチャードは納得したように頷いた。

 

「では、すぐに動こう」

 

 戦争が始まる。

 

 

 

 

 ■

 

 アインベル率いる魔族の軍勢がやって来た。

 一口に魔族と言ってもその実種族は多岐に渡る。

 例えばデモンゴート。彼らは山羊の頭に人の胴体。羊の脚を持つ種族で三メートル程の巨体を持つ。

 頭に山羊の角が生え尾骶骨からは先端がハートマークの黒いしっぽが生えているカプレシアなどの異種族。

 そういう風に別けられる種族ではなく、単に自らを悪魔と自称する異形の者たちも居た。

 

 この世界、種族は大きく三つに分けられる。

 人間、エルフ、ドワーフなどの人間種。

 

 ビーストマン、ヴァルグ、岩牙獣人(ガルドロア)などの形が人から少し外れている亜人種。

 

 体が異形其の物、あるいは寿命の概念がない、あるいはその両方の特性を持つ異形種の三種類だ。

 ルフトは異形種に分類される。寿命が無いからだ。死ぬことはあるが。

 

 魔族や悪魔は異形種に分類され、肉体的に強い特性を持つ。

 

 そして寿命が長い、あるいはないことによって他の種族を下等種族と見下す者も多い。アインベルもそうだ。

 

 長命種であるが故の作戦もまた当然とれる──が今の大将がそう言った策を好まず力技で押し通っていった。

 

 

「魔法攻撃! 始め!」

 

 壁の上やその上に浮遊している騎士団員たちが遠距離攻撃の魔法を放って行く。

 魔法は距離があると減衰し、遠くに行けば行くほど威力が下がっていく特性がある。

 故この距離でも多少減衰するがそれでも撃たないよりましだと魔法が放たれていく。

 

 炎、雷、冷気、負、風、多種多様な属性の魔法が魔族を襲う。

 

 魔族たちもノーダメージという訳にはいかない。何十人か死ぬが──軍として機能する程度には生き残った。

 

 そして最前線で騎士団と魔族たちが衝突した。

 

 

 

 

 ルフトは戦場を歩く。

 猫背。だが元の身長が高いが故に目立つ。

 魔族の一人が斬りかかってくる。

 

 ルフトは右手を上げ指先を向けた。

 

 襲い掛かった魔族が浮かび上がり、ねじ切られ死んだ。

 背後から火の魔法が放たれ、着弾する。

 ルフトは振り返ることなく魔法を行使し内側から爆破させ殺した。

 

「絶対零度の世界」

 

 この世界、ある程度物理法則は地球と似通っている。

 故温度の低温、絶対零度もまた−273.15℃である。

 

 そしてルフトは物質を操作──厳密にはその原子を操り運動を止めた。

 周囲一帯が凍てつく。

 絶対零度に限りなく近いマイナス二百七十度の世界だ。あらゆる生命は活動を辞め、死に至る。

 

 周囲一帯の百を超える魔族が凍死した。

 

「沸き上がる世界」

 

 周囲一帯の温度が今度は上昇する。

 摂氏二千度まで上昇し、周囲が焼き尽くされる。

 常人ならば全身焼け骨も灰になって死ぬだろう。

 

 しかしルフトは術者なのでその影響の一切をシャットアウトすることで無事でいた。

 

「あの女強いぞ! 警戒しろ!」

 

 魔族の一人がそう叫んだ。蛙頭の魔族だ。

 

「十二天砲」

 

 ルフトの周りに十二基のガトリングが召喚される。

 それらは回転しながら弾幕を展開する。

 味方には当たらない。フレンドリーファイアはオフの設定だからだ。この設定は魔法側でやっている。

 

 奥から二人の魔族が飛んでくる。

 赤い髪に赤い瞳。豪華絢爛な服。

 頭部には山羊の角が生え、背中には蝙蝠の翼がある。

 顔つきは両者にており、兄妹か双子かだろう。

 

 女の方が杖を向け、巨大な──直径五メートルほどの巨大な火球を飛ばして来た。

 

「聖者の防壁」

 

 ルフトは今度は魔法を行使する。

 神秘属性の巨大なタワーシールドが生成される。

 

 タワーシールドに炎がぶつかり、炎が消滅した。

 

 そのタワーシールドに向かって男の方が殴り掛かった。

 一発ぶん殴る事でタワーシールドがへこみ罅がはいり、二度殴る事でタワーシールドが砕けた。

 その勢いのまま男の魔族がルフトに向かって殴り掛かる。

 

「聖者の槍」

 

 ルフトは今度は地面から青白く輝く神聖なる槍を生成し飛ばした。

 この槍は聖剣と同じ効果を持つ。相手の最大魔力そのものを削り取り常人に堕とす能力だ。

 

 魔族はぎりぎりで回避し、ルフトの眼前まで移動して見せた。

 

 そのままルフトに殴り掛かる。

 

 ルフトは後ろに転移することで殴打を避ける。

 

 ルフトに格闘能力はない。

 近接戦が苦手どころではなく不可能レベルで下手なのだ。

 女の体に数千年経っても慣れてないし、そもそも拳やら武器で戦うというのが日本人である佐藤にとって想像しにくい事だからだ。

 これが体が筋骨隆々の大男の物だったりしたら違ったのかもしれないがこの体はドスケベボディの女だ。

 故魔法以外の戦闘技能は一切ない。完全な後衛型だ。

 

 だからこそ近接戦の対策はしている。

 

「聖者の行進」

 

 地面からまるでアンデッドが湧いてくるかのように騎士たちが産み出される。

 青白い全身鎧に身を包み盾と剣を持っている騎士たちだ。

 こういった存在は魔法でも作れる。創造系の魔法だ。

 だがこれを常に維持するのは困難で維持に常に魔力を消費するからだ。と言っても膨大な魔力を持つ者は維持と回復が拮抗、あるいは回復のが勝るので維持することも可能だ。

 だがこれらに自我はなく、単調な動きしか出来ない。

 ルフトも今使ったのには自我はないが、眷属たち──ティードやガブリエル、スールなどは自我を有し自己維持を自分自身でする。疑似的な魂を持つが故だ。

 そう言った違いがある。

 

 騎士たちは十三体産み出され、男魔族に斬りかかる。

 

「舐めるな!」

 

 魔族はそう叫び拳と足で戦い、騎士たちを吹っ飛ばしていく

 

「神罰の鉄槌」

 

 空に雷で出来た巨大な──それこそ五十メートルほどの巨大なハンマーが生成される。

 それは振り落とされ、魔族に命中し雷で焼き焦がし殺した。

 

 それと同時に奥の女魔族から炎の槍や砲弾、剣などが飛んでくる。

 

「聖者の防壁」

 

 タワーシールドが生成されそれらは防がれる。

 

「反射」

 

 そして、すべての魔法が反射され術者に向かう。

 女魔族も対抗魔法を唱えようとするがそれより早く魔法が着弾し、女魔族は焼死した。

 

「さて、この調子で行こうか」

 

 そう言ってルフトは歩き出した。

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