Demon's Remnant ― 悪魔の残滓 作:虚空小白
二人は休息を取りながら移動した。
日が暮れる頃には、目的地に辿り着いた。
しかし、出入口は閉ざされ、旅装束の男女らは困惑していた。
ロゼンは前にいた男性に声をかけた。
「おい、なぜ入らないんだ?」
男性は振り向かずに答えた。
「わからない。前の奴の話じゃ、門が閉じている上に、誰もいないらしいんだ」
ロゼンは額の右側を人差し指で掻いた。
受付とのやり取りを思い出す。
カイレンは妙に地図に拘っていた。
あの地図に細工がしてあるのかもしれない、とロゼンは考え、すぐにカイレンに声をかける。
「カイレン、すぐに引き返すぞ」
ロゼンは踵を返し、走り出した。
カイレンは慌てて、その後を追う。
ロゼンの隣に並び、カイレンは尋ねた。
「何で引き返すんっすか」
「これは俺の推測だが、目的地が違ったんだ。俺は地図を見て、北へ向かっているものだと思い込んでいた」
ロゼンは息を吐いた。
「全員が同じ方向へ進んでいるから、それが正しいと錯覚していた。だから、もう一度地図を確認する」
「じゃあ、うちらは北以外の方角にいるってことっすか?」
「可能性の話だ。だが、第二鏡面壁ヴェルナートは、北部平原から防衛するための拠点として建てられている。だから、ルミナルディアの北以外を防衛する意味がない」
カイレンが声を荒げた。
「じゃあ、うちらは騙されたんっすか!」
「いや、俺たちが勝手に勘違いしただけだ」
ロゼンは乱れた呼吸を整えて続ける。
「それに、一次試験はすでに始まっている」
「でも、受付は試験が二日後の午前九時って言ってたっすよ」
「ああ。二次試験が二日後の午前九時に行われるという意味だ。猶予が一日あることに疑問を持つべきだった」
「これからどうするんっすか」
「もう一度、ハウンド管理局で地図を見せてもらう。聞いて教えてもらえれば苦労はしないがな」
*
——守護の鏡ルミナルディア。午後十時前。
二人は息を切らし、汗だくになりながらハウンド管理局を訪れた。
「試験を受けに来た者だが、本物の地図を見せてくれないだろうか」
受付は微笑を浮かべる。
「承りました」
二人の前に、地図を広げた。
ロゼンはカウンターに手をつき、食い入るように地図を見つめる。しかし、何の手がかりもなかった。
顔を上げ、受付に尋ねた。
「これは、本物の地図なのか?」
「はい」
「ロゼン、うちにも見せてほしいっす」
「ああ」
ロゼンは後ろへ下がり、カイレンが地図に顔を近づけた。
次の瞬間、カイレンが地図を奪おうとする。
その前に受付が地図を回収し、息を吐いた。
「一体何の真似ですか」
カイレンはカウンターを叩いた。
「絶対あの地図に何か細工がしてあるっす!」
「しておりません」
ロゼンは「そういうことか」と呟き、カイレンに言った。
「カイレン、いくぞ。確認したいことができた」
ロゼンは外に出ていき、カイレンは後に続く。
前を歩くロゼンにカイレンは質問を投げかけた。
「ロゼン、そっちは宿の方向っす。疲れたんっすか?」
ロゼンは周囲の風景を見渡し、足を止める。
「やはりそういうことか」
「……何がっすか?」
「カイレン、俺たちは長い間、同じ宿で寝泊まりした。
カイレンは周辺を見渡し、首を横に振った。
「ないっす。ここはどこっすか?」
「単純な話だ。どういう訳か、ハウンド管理局は北区画以外にも存在する。恐らく、この試験のために東西南の区画にも用意したんだろう」
ロゼンは口の端を吊り上げる。
「地図に細工はなかった」
カイレンは腰に手を当てた。
「じゃあ、どういうことっすか?」
ロゼンは肩を竦める。
「俺たちは馬車で市場へ移動した。その後も、門まで馬車を使った。俺たちは知らず知らずのうちに、案内された門を
カイレンは腕を組んだ。
「つまり、馬車の御者も協力していたってことっすか?」
「ああ。住民は白い羽を身に着けている。御者も含めてな。ノアの話を思い出してみろ。ハウンド管理局と浄光教には、繋がりがあると見るのが妥当だろう」
カイレンは再び腰に手を当てた。
「どうしてそうなるんっすか?」
「警備兵の話を思い出せ。馬車の料金は浄光教が負担している」
カイレンが手をポンと叩く。
「そんなこと言っていた気がするっす」
ロゼンは踵を返し、カイレンに言った。
「時間がない。急ぐぞ」
「はいっす!」
ロゼンは通りがかった人に声をかけ、北門の場所を教えてもらった。
二人は馬車を使わずに走る。
*
——朝日が昇る前に、二人は第二鏡面壁ヴェルナートに到着した。
警備兵が二人に声をかける。
「試験の参加者か?」
ロゼンは首を縦に振った。
「ああ」
「案内する。はぐれるなよ」
二人は警備兵の後に続いた。
建物の前で足を止め、警備兵は説明を始める。
「この中に受付がいる。あとはその者に聞け」
警備兵は踵を返し、その場を後にした。
ロゼンはドアに手を伸ばして開け、中へ入る。カイレンが後に続いた。
左手には、長テーブルを置いた簡易的な受付窓口があり、黒い制服を纏った男性が大きな欠伸をひとつした。
「名前は?」
「ロゼンだ」
「カイレンっす」
男性は書類に名前を記入する。
「ロゼンダとカイレンッス、と」
二人は息を吐いた。
「——『だ』は余計だ」
「——『っす』は余計っす」
男性は笑って言った。
「冗談だよ。これ、無くすなよ」
番号札を二人に渡す。
ロゼンの番号札は二十一番、カイレンは二十二番だった。
「番号札と同じ部屋を使え。お前ら、同室だからってエロいことに使うなよ」
「カイレン、いくぞ」
「はいっす」
こつんこつんと靴音が反響した。
二人は部屋に入り、足を止める。
二段ベッドと小さな窓しかない、狭くて殺風景な部屋だった。
「カイレン、俺は下のベッドを使うが構わないか」
「それはいいっすけど、エロいことって何っすか?」
ロゼンは装備を外し、靴を脱ぎ、ベッドに寝転んだ。
「子どもを作る行為のことだ。俺には生殖機能がないから安心しろ。俺は疲れたから、もう寝る」
カイレンは装備と靴を脱ぎ捨て、梯子を上りながら言った。
「うちはロゼンの子どもなら大歓迎だったっす」
「つまらないこと言ってないで早く寝ろ」
ロゼンは眠りについた。
*
——翌日。外へ出ることも許されず、丸一日が過ぎた。
その間、ロゼンはカイレンに魔法のことを教え続けた。
「わかったっす!」
カイレンは自信満々に頷くが、その実、半分も理解していないのが見て取れた。
——そして、一次試験を四十三名が通過した。
*
——一次試験開始から二日後の午前九時。
二次試験として、四十三名は場所を移し、出入口とは別に壁一面に黒い扉がずらりと並んだ大きな部屋に集められていた。
四十三名の前には、黒い制服を纏った金髪の男性が立っていた。
男性の年齢は四十過ぎ。前髪を残さず後ろへ撫で上げて束ね、引き締まった顔つきで四十三名を一瞥した。
その傍らには、ふくよかな体型をした茶髪の男性が控えていた。
金髪の男性が口を開いた。
「ワタシがハウンド管理局の代表を務める、局長のクラント・エーレンだ」
クラントは二次試験の説明を始める。
「これから諸君には、我々が作り上げた迷宮に入り、出口を目指してもらう。ただし、迷宮内が安全とは限らない」
淡々とした口調で続ける。
「全員が扉を選んだ後、ワタシの合図で中に入る。この迷宮内は時間経過とともに、入口から出口へ向かって地面が崩れるようになっている。だが、それで命を落とすことはない。出口は、この部屋に繋がっている。この部屋に戻ってきた者だけを二次試験通過とする」
参加者一同を一瞥し、続けた。
「番号札一番から順番に扉を選択しろ」
参加者が次々と扉の前に立つ。
——ロゼンの順番になり、隣にいるカイレンに言った。
「この部屋で待ってるからな」
「はいっす」
ロゼンは勘を頼りに、扉を選択した。
カイレンは近くの扉を選ぶ。
参加者一同が配置につき、クラントが声を張り上げた。
「始めろ!」
参加者一同が扉を開け、迷宮の中に足を踏み入れる。
クラントは微笑を浮かべた。
「ヴェルナー副長、例の扉を選んだ、銀髪の少年と黒髪の少女の名を教えてくれるか」
クラントの傍らに控えていたヴェルナーは書類に目を通した。
「少年はロゼン、少女はカイレンと思われます」
クラントの笑みが冷笑に変わる。
「もし、彼らが二次試験を通過できる実力なら、例の計画を進めよう」
ヴェルナーはビシッと敬礼した。
すると、お腹の肉が上下に動く。
「承知しました」
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