大型偵察機とその護衛機を含めた敵を撃ち落とした11月1日。空母エンデュランスへと戻ってきた俺達は、夕日に照らされながら着艦のための低速飛行を行っていた。少しでもミスをすれば海へ真っ逆さま……というわけではないが、空軍のころの発着場とは違って距離が制限されている。ギリギリを狙おうとはせず、余裕を持って速度や角度を調整して着陸するべきだろう。
『ジョーカー1、こちら空母エンデュランス。レーダーで貴機を確認した。着艦態勢に入れ』
エンデュランスのエアボスからの通信を聞きながら、エンデュランスの甲板に着艦するための準備を進めていく。低速で、余裕を持った運転だ。オートパイロットなども駆使しつつ、距離を少しずつ詰めていき、エンデュランスとの距離が近付いていくその時。目の粗い鑢で全身を削られるような不快な感覚とあの時と同じような頭痛が襲い掛かる。
「っ……!」
コープの時と違って、その痛みは少々穏やかなものだが、痛いことには変わりない。まだ涙は滲んでいないが、この頭痛が伴ったということは────ああ、そうだ。忘れもしない。この日だ。この時間だ。彼らが幽霊船員として不死身になってしまったのは。
「何か、来る……!」
『何? ……ジョーカー1、着艦中止! 上昇しろ!!』
「了、解!」
エアボスの指示に従い、着艦態勢から戦闘機に戦うための操作を加える。抑えめにしていた出力を上げてパワーオン。羽を休めようとしていたスーパーホーネットが再び轟音を伴って動き出す。
『ジョーカー隊、着艦中止! 着艦中止! パワーオン! パワー! パワー! パワー!』
「何だって?」
バクスターの訝しむ声を聞きながら、速度を上げていく俺の機体が北西から飛来した敵艦上攻撃機を獲物として認識する。それと同時にミサイルを発射。二発のミサイルがエンデュランスを襲うA-6Eに迫り────そのまま命中する。爆弾を積んでいるせいなのか、それともそもそもの機体性能的に旋回能力が低いのか……黒焦げになって海に墜ちていった。
「まずは一機目────バクスター!」
「了解! FOX2!」
バクスターが放ったミサイルがもう一機のA-6Eを捉え、爆散させる。第一波は凌いだがすぐに第二波がやってくるのは目に見えていた。
『低空侵入によって発見が遅れた! まだまだ来るぞ!』
『ジョーカー隊、全て迎撃せよ! 空母を守れ!』
副長の命令に従って空母に迫る敵編隊を迎撃する。しかもクイーン隊無しの、ジョーカー隊だけでだ。コープ曰く、彼が率いていたジョーカー隊であればクイーン隊がいなければ空母の防衛も難しかった……らしいが、それは彼ができるだけクリーンな戦いをしていたからであって、クリーンな戦いをしようとしなければ、本物の撃墜王とその仲間達という隊になっていただろう。それくらいコープの飛ぶ技術は見事なものだ。バクスターやコスターのキルスコアも案外侮れない。逃げるだけなんて自嘲していたが……絶対過度な謙遜だろう。
『回避行動を取る! 取り舵一杯!!』
『転舵取り舵、回頭! 動揺に備え!』
第一波を凌いだものの、船が逃げることができなくては意味がない。エンデュランスがステルウォートと共に回避行動を取るが、レーダー上でも目視でも動きが鈍い。スクリューが一つ止まっただけでここまで鈍足になるのかと思ったのを鮮明に覚えている。
「前の戦闘で至近弾を受けたせいか。3軸あるうちの1軸が止まって動きが鈍いんだ」
「守らなきゃ! 敵を攪乱するよ!」
「了解。ついていくよ」
「そのまま分散戦闘に入る。ターシャとコスター、俺とバクスターで二方面を同時に迎撃する!」
さぁ、俺の仲間を殺そうと飛んでくる連中を全て墜とそう。俺達を殺そうとしているのだから、逆に墜とされたとしても文句は言えないだろう。そもそも病み上がりであまり食事も重いものを食べられなくて麦粥ばっかりだったもので腹が減ってるんだ。空腹で苛立ってるところに来たお前らの不運を呪え。
「レックス、特殊兵装を使おう。相手の数が多い」
「了解。特殊兵装オンライン」
発射する兵装を標準ミサイルから対空マルチロックミサイル、4AAMへと切り替えつつ敵機に接近する。手負いの空母相手だからなのか、相手は凄く油断しているような飛び方をしている。舐めた飛び方をしていると言い換えてもいい。艦上攻撃機を護衛しているのはF-4E……ファントムと呼ばれている戦闘機だ。低翼面荷重と高推力重量比により格闘戦もこなせる機動性を持った、旧式ながら根強く戦場を飛び続けている戦闘機だ。だというのに、是非とも撃墜してくれと言わんばかりの低速飛行だ。
実際、空軍にいた時に乗ったことがあるが、大量生産された理由が分かるくらい優秀な機体だったと思う。俺のパイロット教育を担当してくれた人が乗ったファントムを訓練とはいえ、一度も撃破判定に追い込めなかったのはついぞ心残りだ。彼は撤退戦で俺達を逃がすために誰よりも高く飛び続けて、墜ちてしまった。どうせなら、漂流するよりも前────具体的には、戦争が始まる前まで戻してくれたのならと思わなくもないが……それは贅沢なことか。
『手負いの空母一隻とイージス艦一隻の撃沈。なんて簡単な任務だ』
『さっさと帰って酒でも飲もうぜ』
……オープンチャンネルで任務の内容を口にするとか、上官にぶん殴られても文句は言えないぞ。というかなぜオープンチャンネルで通信をしてるんだ、こいつら。
「まあ、いいか」
『────!? 機影を一つ見失った! どこだ!? 上か!? 下か!?』
だから、そういう大事な情報をオープンチャンネルで叫ぶな。機密情報だったら事故死させられてるところだぞ。……まぁ、どうせこいつらはここで墜とす。楽な任務だと油断して撃墜される相手が悪いだけだ。
そんなことを考えつつ、雲の中に飛び込んでいた俺の機体が敵機の背後を取るように現れる。スズメバチだというのに、突然現れるやり方はどっちが
あの伝説の隊、【ラーズグリーズの悪魔】を敵国は畏怖と畏敬を示して【ラーズグリーズの亡霊】と呼んだらしいのだ。……とはいえ、俺は【ラーズグリーズの亡霊】と会ったことはない。宇宙ステーションのケイ・ナガセ氏を含めたウォードッグ隊────ナガセ氏曰く短期間の隊復活だったそうだ────というオーシアの隊と飛んだことはあるが、それだけだ。特にあの一番機……ブレイズと呼ばれていた彼は、間違いなく最悪を覆すエースだ。彼の飛び方は、ナガセ氏が言っていた通り、ぶっ飛んだ飛び方だった。それを話したら、ケイトに「あなたがそれを言うの?」と変な生き物を見るような目を向けられたのを覚えている。そしてそれに頷くターシャとコスターの姿も。……納得できん。
まぁ、そんなウォードッグ隊はさておき。機体性能で勝っており、相手が任務として偵察機を守らなくてはいけなかったから勝利できたが、もしかすると墜とされていたのは俺だったかもしれない。それくらい、あのバラライカを操縦していたパイロットは戦場で生き残ってきたベテランパイロットだった。
『ジョーカー1が4AAMを発射!』
先刻のバラライカのパイロットの背景を思いつつトリガーを引く。マルチロックミサイルは正確に敵機の背後を追いかけ────ディーラーの通信が入るのと同時に、全弾命中。当たり所が良かったのか、一発で四機の敵機が墜ちていった。
「全弾命中、と来たもんだ!」
「中々だね!」
「一気に減った。畳みかけよう」
俺が同時撃墜を達成した途端に、ジョーカー隊の士気が上がったのを感じる。まあ、士気が上がろうが下がろうがいつも通り飛べるのがジョーカー隊なのだが。
「ディーラー、残りはこっちで攪乱してるやつだけ?」
『あー……いや、高高度から侵入する新編隊を確認。艦上攻撃機じゃない。爆撃機だ!』
「今墜としたのは先行部隊だったわけか……攻撃の本気度がダンチだ!」
抵抗できる戦力はできる限り潰したいというのが、ソトア軍や分離独立派の上層部の考え方だろう。そしてその考え方を下の人間もしている。戦争花嫁とは名ばかりの拉致なんてことが起きたという話も聞いているくらいだ。連中は奪えるものを奪えるだけ奪いたい人間ばかりなのかもしれない。
「うーん……?」
「どうした、レックス」
「ああいや……ディーラー、向こうの攻撃は空母に届いていないよな?」
『え? ああ、うん。ステルウォートにも届いてないし、当たりそうなのは迎撃し続けてる。いいことだと思うけど、それが?』
「いや、もしかしたら向こうは空母を沈める手段が無誘導の爆弾しかないのかも、と思ってさ」
前も思ったのだが、対艦ミサイルとかを叩き込んでこない辺りに、向こうのやる気を感じられないというか……なんとも呑気な戦い方をすると感じた。もしかすると、向こうの機体は無誘導の投下爆弾でエンデュランスを沈めるしかなかったのではないか?
『ええ? そんなことあり得る────いや、あり得るかも。分離独立派が一斉に独立したとしても、ソトアの侵攻が無かったことにはならない』
それまではFCUとして戦っていた国だってあったはず。それが一斉に独立したとしても、足りないものがたくさんあるという現実は変わらないのだ。ナイナイ尽くしは向こうも変わらない。もしかしたら、誘導爆撃を行うためのスマート化キットが足りていないのかも。だからといって何が変わるというわけでもないが。
「まずは爆撃機を墜とす。護衛機はついでに墜とせたら御の字だ。優先順位を間違えないようにしてくれ」
「了解────って、言ってる傍から爆撃機と同時に護衛機を墜としてるじゃないかレックス!」
「ああ、悪い。向こうの飛び方があんまりにも雑だから」
まさか薙ぎ払うように撃った機銃が爆撃機に命中するどころか、護衛機のキャノピーをぶち抜いて爆撃機と追突するとは思わなかった。あれが俗に言う神風特攻というやつか。って、連鎖してもう一機の爆撃機も巻き込まれて墜ちていった。しかもその近くにいた護衛機が爆弾の誘爆に巻き込まれてフラフラと飛んでいる────あ、ステルウォートのSAMが墜とした。ミラクルにも程があるだろう……いや、それだけ向こうの指揮系統が統一されていないということなのかも。
「ははっ……! レイが爆撃機墜としちゃった!」
「レックスは墜とすリーダーだ。気持ちを切り替えようぜ」
「なんか新鮮だよ!」
「確かに」
まぁ、コープが隊長機だった頃は生存重視で戦闘は二の次みたいな飛び方だったろうしな。コープがAWACSに乗ったら、敵が逃げるとしたら、もしくは待ち伏せているとしたらどこだってことを伝えてくれるだろうから、敵にとっては悪夢みたいな布陣ができあがりそうだ。
「ターシャ、護衛機の気を引けるか? 引けそうならコスターの射線に釣り出して擂り潰せ。それか爆撃機の移動を邪魔してやれ」
「了解、やってみる! ……指示を聞いて飛ぶのも新鮮」
「だね。レックス、俺はそのまま?」
「ターシャを見つつ、食えそうなやつは食っていいぞ」
「了解」
ジョーカー隊に指示を出しつつ、レーダーを確認。俺の進行方向に敵機の反応があるが、同じ高度にはいない。となると、上か下かだが……爆弾を投下するしかないとなれば、俺よりも上の高度にいるとは考えにくい、そう考えて下に目を向けると護衛機を伴って飛んでいるTU-95が三機見えた。
「バクスター、脂っこい飯が並んでる。喰いに行くぞ」
「あんまり脂っこいと胃もたれするんだがな……口直しのピクルスなんかも欲しくなってくる」
「そうは言いつつ、好きだろ? クリスピーポークを挟んだサンドイッチとビールの組み合わせ」
「おいおい、最高の組み合わせじゃないか!」
バクスターと冗談を言い合いながら、爆撃機に向けて機首を向ける。特殊兵装は……使わなくてもいいか。あれだけ鈍足なら、標準ミサイルと機銃で事足りるだろう。
『レックス、バクスター。無線は聞こえてる。でも────一体どうなってるの?』
凛とした声が通信に入り込んでくる。クイーン隊の隊長、ケイト・エバンズだ。声には高揚と困惑が入り混じっている。恐らくコープが率いていたジョーカー隊と動きが違うことに困惑しているのだと思う。
『隊長が変わっただけなのに、まるで別部隊じゃない』
「あー……なんか、コープへの不満が滲んでませんか、姉御」
『まあ、彼には色々と苦労させられたもの。……姉御?』
あ、ヤバい。いつもの感じで話してしまったが、この頃のケイトはまだ姉御とは呼ばれていない。そもそも呼ばれるようになった頃も姉御と呼ぶなと言っていた。でも、姉御と呼びたくなるくらい頼りになるんだよなぁ、ケイトは。口では嫌がってたけど、案外まんざらでもなさそうだったし。
「姉御……確かにケイトさんってお姉さんポジかも。背中で語る感じの」
『ターシャ?』
『TACネームはビッグシスターかな? それとも姉御?』
『クルス、聞こえてるわよ』
『おっと、恐い恐い』
ケラケラと笑うクイーン隊の通信を聞きつつも、敵機を墜とすことは忘れずに飛ぶ。先刻の戦闘よりも敵機の数は多いはずだが、圧を感じない。少々無茶なマニューバをする必要性を感じないし、やったとしても軽いコブラ機動で敵の背後を取るくらいが精々。ハイGターンを多用するレベルじゃない。
というか任務に集中していないと、こちらにロックオンしている気がするケイトの気配が怖くて仕方がない。姉御って呼んだだけでどうしてこうも恐ろしい感じになるんだよ、あんた。
「あー、ケイト。とりあえず戻ったらレックスに変わった理由を聞いてみてくれ。俺だって戸惑ってる最中なんだ」
ナイスバクスター。助け舟を出してくれるのはやはりバクスターだ。流石は俺達の教授。
『了解。レックス、降りてきたら色々聞かせてもらうわよ。姉御って呼んだ理由も含めてね』
「あー、うん。お手柔らかに頼む」
「レイ、早速尻に敷かれてる」
『ターシャ? あなたにも色々根掘り葉掘り聞いてもいいのよ?』
「げっ」
ロックオンを外したと思っていたが、そんなことはなかった。だが、俺の道連れとしてターシャも巻き込めそうで何よりだ。巻き込めなかったらコープでも捕まえて、共に生き抜いてやろう。なあに、コープだってケイトに文句の一つや二つ言われても反論はできないだろうからな。
「レックス、後ろを追っかけてくるやつがいる。ターシャの攪乱を気にしてないみたいだ」
「結構しつこいよこいつ! そんでもって結構上手い!」
「おふくろさんに色目を使われるよりは好都合! ターシャ、コスター! レックスの命令通りに動け!」
バクスターの声に従ったターシャとコスターがこちらに真っ直ぐ飛んでくる。迷いはなく、俺の命令に忠実に従った飛行だ。ターシャとコスターを追いかけているのは……TU-95の護衛をしていたF-14D、トムキャットの愛称で呼ばれる戦闘機のようだ。俺達が今乗っているF/A18EやF型への機種転換が進んだことで、姿を消しつつある機体でもあるが、バラライカやファントムと同じように太鼓判を押せるくらいの優秀さを持っている機体である。パイロットの腕も中々のようだ。
「レイ、あとよろしく!」
「バトンタッチだ、レックス」
「了解。三人は爆撃機を墜としてくれ。そのトムキャットは俺が墜とす」
牽制を兼ねてすれ違いざまに機銃を発射。さすがに攻撃をしてきた相手を無視することができなかったらしいトムキャットが、ターシャとコスターに張り付くことを止めてこちらを狙ってくる。雄猫の名を冠しているだけあって、獲物を追う猫のように鋭いマニューバ。なるほど、未来のターシャとコスターであれば躱せるくらいのレベルだが、現状の二人では難しい。優秀なパイロットがトムキャットに乗っている。
「さて……猫が勝つか蜂が勝つか」
そんなことを呟き、機首を下にすることで重力と吹き下ろしてくる風を掴む。エンジンを吹かさずとも相応の速度が出る状況、背中にピッタリとついてくるトムキャットからロックオンされたことを告げるアラートが鼓膜をぶん殴ってくる中で、俺はなぜか笑っていた。笑っている状況ではないというのに。
命のやり取りを楽しめるような性格をしているわけでもないのに、俺は笑っている。いつの間にか俺は戦闘狂に変わってしまっていたのだろうか? ……分からないし、今考えることでもない。思考の端に笑っている理由をどかし、迫るミサイルをV字よりも鋭角に上昇することで回避する。中々ギリギリだったし、機銃を撃たれる可能性も考えていたが、そんなことはなかったようで安心した。
「レックスの動き、まるで猛犬だ」
「猟犬? あたしには怪鳥に見えるけど」
「俺にはまさにスズメバチって感じに見えるな」
ジョーカー隊の通信が頭の片隅に聞こえてくる。────おっと、誘いに乗ってこないか。わざと背中を見せたのに撃ってこない……カウンターの警戒をしてくる辺り、痛い目を見た記憶があるのか、それとも下手に動くとやられると感じているのか……いずれにしても警戒心がしっかりしている。ただ、二回目の揺さぶりに引っ掛かったな? 今度は俺が背中を追わせてもらうぞ。
『背後を取られた……!』
蛇のように絡みつき、確実に仕留めるために圧力をかけていく。ミサイルを叩き込むタイミングはまだじゃない。このタイミングで撃ったとしても、回避されるかフレアを焚いて回避されるのがオチだ。
『味方の援護に向かえ!』
『向かうって言っても、対空砲と他の戦闘機が邪魔で近づけない!! 連中たった四機なのにしぶといぞ!』
さっきも思ったが、お前らさては回線弄らずに飛んでるのか? FCUの回線を使ってるせいでお前らの通信が丸聞こえだぞ。オープンチャンネルで話してないとしても随分と杜撰なことをする。
『敵が離れない……! ロックオンから逃げられない……! ぐ、うぅうううう……!!』
思っていた以上に圧力に弱い。もうプレッシャーで動きを鈍らせるとは……まあ、好都合だ。トリガーを引き、ミサイルを発射。標準ミサイルが真っ直ぐと飛んでいき────トムキャットのエンジンと翼に着弾した。ベイルアウトを確認。俺が墜とした連中は今のところ、ほぼ全員がベイルアウトできてるな。運がいい。
『ジョーカー1が敵機を撃墜! さらにジョーカー2、3、4が爆撃機の共同撃墜を達成!』
「ま、あたしは攪乱しただけだけどね」
「それで十分役立ってる」
「実際助かってるよ、俺達は」
『全ての爆撃機を撃墜した。護衛機も順次作戦区域外へ離脱してる。任務達成────ってジョーカー1!? どこに行くんだ!?』
頭痛はまだ止んでいない。むしろ、さっきより強くなっている。近付けば近付くほど、それが誰かを殺そうと迫っているのを感じ取れば感じ取る程に、頭痛が酷くなっているように感じる。そして────その頭痛を感じさせる方向には、いつも殺気を感じる。不愉快な殺意と敵意が。今回はそれに併せて無機質な敵意を感じた。
「レイ、どこ行くの!?」
「積乱雲擬きに突っ込むぞ!?」
ターシャとコスターの困惑が込められた叫びを無視して、分厚い雲の中に突っ込む。雷は発生していないが、発生するのも時間の問題だろうくらいの分厚くて黒い雲を掻き分けて、頭痛の種になっている存在に近付いていく。……いた。頭が割れてしまいそうになるくらいの痛みを感じながらも、敵機を……無人攻撃機を確認した。
「無人機を確認。墜とすぞ」
『なんだって!? ……ああ、こちらも今確認した! 雲の影響もそうだが、その無人機自体がステルス機だったんだ!』
「なんて嗅覚だ。エースパイロットってのはそういうもんなのか?」
バクスターの呆れと称賛が込められた声に苦笑する。未来のことを知っているからだ、なんて言っても信じてはくれないだろう。
「FOX2」
『ジョーカー1、FOX2!』
ディーラーの通信後、雲の中で回避行動を取ろうとした無人機がミサイルに正面から激突して爆散する。しかもまさかの衝突事故で同時二機撃墜だ。これで残りは一機……
『敵機を撃墜! あと一機だ! 確実に墜としてくれ!』
言われなくても、そうするつもりだ。【シーヴの翼】を信じている彼らの期待を裏切らないため、なんてことは考えていない。ただ、彼らと食事を共にした時に聞いたステルウォートの乗員の話をずっと覚えていた。ずっと忘れられずにいた。話をしてくれた彼らの────イモータルズのメンバーの、寂しそうな顔が俺の脳裏に焼き付いている。あんな顔は見たくない。
「これで墜ちろ!」
ミサイルを発射、それと同時に残っている機銃も全弾叩き込む勢いで打ち込む。無人機はミサイルを回避し、撃ち込まれた機銃に対しても回避行動を取ろうとするが────直後、紫電が迸り、釣り上げられたムロアジのようにのたうち回りながら海へと急降下していった。
『無人機が雷で制御を失い、落下! そのまま海に落ちた!! レックス、無事か!?』
「あ゛あ゛……電気椅子に座らされたかと思ったよ」
『冗談が言えるなら上々だ。……よし、作戦区域の全敵対勢力消滅を確認! 今度こそ本当に任務完了だ!』
「レイの飛び方攻め過ぎだよ……せめて一声かけるとか、あるでしょ?」
俺の行動を窘めるようなターシャの言葉は、もっともだ。声音から分かる通り、間違いなく心配させてしまった。
「悪い。次から気を付ける」
「だといいけど……あのさ、レイ。これからは、ずっとあんな感じで飛ぶの?」
あんな感じ、というのは恐らく先程の飛び方と、敵を墜とす飛び方のことを言っているのだろう。コープが率いていたジョーカー隊は、逃げることに徹する部隊だった。それがいきなり敵を撃墜する部隊に変化したともなれば、隊の人間も、その周りも困惑するに決まっている。だが、俺はそういう飛び方をする。これからも、ずっと。
「ああ。これからもこんな感じだ」
「覚えよう。これがレックスのやり方なんだ。……やりづらいか?」
「別に? これがレイのやり方なら、付き合ってもいいかなとは思う。コスターは?」
「同じ。ただ、無茶すぎる飛び方は止めてほしいかな」
コスターからも苦言を呈されてしまった。これは着艦した後にバクスターからもありがたいお説教をいただくことが確定した気がするな。
「まあいいさ。とにかく、今度こそおふくろさんに帰ろう。今日は随分とくたびれた一日だった」
バクスターの言葉に肯定の意を示し、今度こそ空母エンデュランスに着艦するための針路を取る。頭痛はもう消えていた。
というわけでどうにかステルウォートを生存させました。これから?沈む可能性はある…かも。だってエースコンバットのイージス艦だし