ソトア軍の攻撃は苛烈を極めている。それだけホワイトバレー基地を潰したいということなのだが、連中、大分鶏冠に来ているらしいな。既に死にかけ状態である基地を俺達が来るまでに潰せていないところを見るに、パープルマジックを筆頭にしたホワイトバレー基地の軍人たちは屈強な戦士であることが分かる。
「ねえバクスター。なんでソトアはホワイトバレーを潰そうと躍起になってるの?」
「一番の理由はここが、FCUの合流ポイントとして最適な場所の一つであるってことだな」
「あとはこの基地の周辺が、ソトアとしては喉から手が出る程欲しい資源の山ってことか」
恐らく鉱物資源などよりも欲しくて欲しくて堪らないものだろう。ソトア本国は元々、遊牧民が多く存在する大自然の恵み豊かな土地だった。だが、様々な要因が重なった結果砂漠化が加速……遊牧民が住める場所はどんどんと縮小されていき、近代化の波に呑まれていった。
もちろんソトアの人間の中には、砂漠化問題を何とかしようと奮起する者が多くいる。だが、その研究に金が回らない……いや、回さないくらい、ソトアが軍事国家へと成長してしまったせいで、残っていた自然を自分達で踏み潰してしまうという暴挙に出てしまった。土地がないなら奪えばいい、土地が無いなら作ればいい、なんて考えで。
もちろんソトアの人間が全員愚か者というわけではなく、軍上層部とエンソーの……何だったか……404だかなんだかが裏で糸を引いていた結果が今の戦争という話なのだ。実際、戦争が終わった後ソトアに行ったが、都市部の人間はソトアの野蛮人共とは違って穏やかで大らかな人間が多くいた。屋台のアイスクリームも絶品だったし。ヴェントゥス隊の連中から「ソトアに遊びに来たら、うちの山羊のチーズを食わせてやる」と円卓で言われたが、結局叶わずじまいだったな……今回は山羊のチーズを食べることができればいいんだが。……いや待て、遊牧民というのは羊というイメージなんだが、もしかしてヴェントゥス隊の彼の家は山岳地帯の方にあったのか?
「戦争なんてやらずに、砂漠化問題が苦しいから助けてって言えばいいのに」
「それができないから戦争になったんだ。人間は分かり合うことができるはずなんだけどな」
「信じ合えば憎悪なんて生まれない。けど、それができないのも人間だ」
だから争う。だから殺し合う。センチメンタルに浸るつもりはないが、悲しくなってくる気持ちはある。まあ、それはそれとして敵対するなら殺すが。
「俺達は戦うことしかできない。どこを落としどころにするのかは政治家の仕事だよ」
「だな。今俺達ができることは戦って生き延びること。それだけだ」
「戦わなければ生き残れないって息苦しいよ。絶対慣れない。トリガーが滅茶苦茶重いんだよ」
「慣れない方がいい。慣れなくていいんだよターシャ。引き金はずっと重いままがいいんだ」
じゃないと引き金がどんどん軽くなっていく。引き金というのは、そっと添えただけで鉛玉が飛ぶくらい軽いよりも、セーフティが二重、三重にかかっているのかというくらい重い方がいい。俺はもうトリガーの重みを感じられない。ずっと前から軽いままだ。意識しなくても引き金を引けるくらい、躊躇いも、重さも、何もかもが感じられない。
『ギア格納! よし、離陸した!!』
『待ちかねたぞパープルマジック2!』
ホワイトバレー基地に爆弾の雨を降らそうと迫る爆撃機を追いかけていると、パープルマジック2が離陸したという通信が耳に入ってきた。続くパープルマジック3、4も無事に滑走路から飛び上がったようだ。
『助かったぜジョーカー4!』
「はい」
『へっ、無口な野郎だ』
『パープルマジック3からジョーカー4へ。ギター弾くんだって? ならもっと自己主張するといい! そら、ついてこい!』
「っ! はい!!」
パープルマジックに混ざってコスターが迫りくるソトアの攻撃を凌いでいく。爆撃機と共に飛んできたMig-21BISを次々と墜としていくパープルマジック隊は、間違いなくホワイトバレー基地のエースチームであると言っていいだろう。彼らが飛んでいる限り、三桁程度のシャドウズではどうにもできまい。
『ジョーカー1のミサイルが爆撃機に直撃! コックピットにクリーンヒットだ!』
『ナイスキル、ジョーカー1』
追いかけていた最後の爆撃機を潰し、第二波を凌いだ。残党のバラライカはパープルマジック隊とコスター、あとクィーン隊に任せておいても問題ないはず。となれば……この後飛んでくる戦闘機を潰す準備に入ろう。
「ターシャ、楽しんでるか?」
「空は広くなったけど、楽しくはない! でも、レイの飛び方は勉強になる」
「だな。色んな飛び方を自分なりに落とし込んでるって感じだ。円卓で飛んでた経歴は伊達じゃないな」
エンデュランスを含めて、俺の周囲の人間は俺が【円卓の番犬】であると確信を持っているようだ。何度も言うが、【円卓の番犬】は俺ではなくて上官なんだ。俺と一緒に飛んでた円卓の連中に聞けば、俺の上官だった人がどれだけ凄いファントム乗りだったのかすぐに分かるんだが……くそ、あいつらと連絡を取り合う手段がないのが悔やまれる。今の俺は【シーヴの翼】であって、【円卓の番犬】ではない。
「あれ……北に何かいない? キラキラ光った気がする」
『うん? 本当だ。北から迫る攻撃機編隊を探知。よく分かったなターシャ』
「なんか見えた気がしたんだ」
この頃から片鱗はあったが、やはりターシャはエースの素質がある。
エースには三つの種類があり、強さを求めるやつ、プライドに生きるやつ、戦況が読めるやつ……ターシャは恐らく三番目、戦況が読めるタイプのエースだ。読める、というよりも肌で何かを感じ取るセンスが高いのだろう。コープも三番目タイプのエース。エンデュランスの戦闘機パイロットの中でエースの素質がある連中は大体三番目タイプな気がしないでもないが……とにかく、ターシャはエースの素質があるに違いない。
ちなみに円卓防衛チームの中でも1、2を争う程洗練されたイエローチームからは、俺は一番目タイプのエースの素質があると言われた。なんでも、彼らが戦ったことがあるエースパイロットと同じようなものを俺に感じたらしい。なんとも勿体ない言葉だよ。
「爆撃機に紛れて侵入するとはな」
『この手口、影22か?』
『影22かどうかはともかく、迎撃してくれ。Su-25はホワイトバレー基地の脅威だ』
ああ、間違いなく脅威だよ、Su-25は。愛称はグラーチ……ミヤマガラスのように洗練されたデザインが美しい、亜音速戦闘機。フロッグフット、カエル足、なんても呼ばれるが、俺はグラーチの呼び方の方が好きだ。様々な戦闘機の系譜を資料で見たことがあるが、どれもこれも息を吞むほどに美しい。
「……影じゃないな」
「うん? なんで分かるんだ、レックス?」
「粘ついた殺気を感じない。ピリピリしてる……?」
シャドウズの連中から発せられる敵意や殺意は、鑢がけされているような感じの他に、粘ついた……タールのように真っ黒でドロドロとしたものを感じるのだ。連中は自分達のことを月を追いかける者とか何とか言っていたが、月を追いかけるために風になるどころか地中深くに埋まっている原油になってどうするんだ。
「ただ……遠くにそれっぽいのも感じる気がする。まだ遠いけど、近付いてきてる」
「エースの勘ってやつ? 前無人機墜とした時みたいな」
「レーダーも真っ青な感知範囲だなレックス。それの真偽を確かめる前に、作戦区域に入ってきた連中を墜とそう。コスターも戻ってきたしな」
おお、バラライカを全部墜として戻ってきたか。流石コスター。うちの隊のメンバーは全員優秀だから隊長機は肩身が狭くなるよ。
「おかえり、コスター。即興のセッションは上手くいったか?」
「まあ、それなりに?」
「そりゃよかった。ターシャ、揶揄うつもりだろうがやめとけ」
「えー?」
「そういうのは艦に戻ってからだ」
「レックス?」
悪いなコスター、俺は人を揶揄う趣味を持ち合わせていないが、お前がターシャに揶揄われているところを見るのは中々面白かったんだ。今回も揶揄いの生け贄となってくれ。
『作戦区域に侵入するSu-25を捕捉した。全て迎撃してくれ』
「了解。ジョーカー隊、全部食うぞ。ただし、無茶だけはするな。寒空でのベイルアウトは堪えるぞ」
『へぇ、経験が?』
「地元は雪が多い土地なもんで」
海の冷たさも中々堪えるが、それ以上に極寒の地でのベイルアウトは勘弁願いたい。爆炎で暖を取るよりも、薪窯とか、薪ストーブで体を温めたいところだ。そこにオニオンスープがあれば完璧なんだが……
「玉ねぎとライ麦があればいいんだが」
『ライ麦だって? ホワイトバレーじゃ腐る程あるぜ。あと、ジャガイモと軍用レーションならな』
「よぉし! 色々できそうで何よりだ!」
オニオンスープはできなくても、ジャガイモのポタージュは作れるだろう。キャビアがあるならチョウザメの肉もあるはずだから、それを使って体を温める料理が作れる。長旅で疲れた胃腸に優しい蒸し料理なんかがいいんじゃないだろうか。
「レックス、そろそろエンゲージだ。温かい料理は楽しみだが、切り替えよう」
「了解。さっさと墜としてストーブを囲もう」
山と山の間を縫うように飛んでくるグラーチを捕捉。バラライカも追従しているようだが、本命はやはりグラーチだろう。あの戦闘機の攻撃力は中々侮れない。パイロットの腕次第で化ける機体もあるが、グラーチはそこそこの腕であっても高い成果を叩き出せる優秀な機体だ。そもそもスホーイの系譜はどれもこれも傑作揃いだ。味方にいれば心強いが、敵に回ると相当に厄介な機体である。
『先遣部隊が壊滅してやがる』
『油断するなよ。手負いの獣ほど恐ろしい』
相も変わらず聞こえてくるソトア軍の通信はこの際気にしないことにして、こちらに向かってくるSu-25に向けてミサイルを一発撃ち込む。
牽制の一手はやはり躱されるが、これは想定内。この状況で相手がどう避けるか、ということを考えるのは円卓を飛んでいれば嫌でも予測できるようになる。真っ直ぐ飛んでくるミサイルを躱すために、グラーチはカラスが空へと羽ばたくように左上へと機体を上げていく。それを待っていた。
「ジョーカー1、FOX2」
ロックオンをせずに放ったミサイルが左へと逃げるグラーチの腹へと直撃する。咄嗟に逃げ、しかもフレアを使わずに回避しようとするからこそ、やつの動きは凄く単純。こうしてロックオンしなくてもミサイルがクリーンヒットしてしまう大きな的と化してしまったのだ。あのまま速度を上げて真っ直ぐ俺達の下を通れば、こんなやられ方はしなかったかもしれないのにな。
『ジョ、ジョーカー1が敵機を撃墜! ノーロックミサイルで!?』
「おいおい、なんて大技だよレックス!」
「曲芸も曲芸。何度も使えるようなものじゃない。そら、早く他の連中も擂り潰すぞ」
各個撃破なんてことはしない。可能であればまとめて、確実に潰す。
「ターシャ、俺達の前に連中を引っ張ってこれるか?」
「もちろん! ヒューッ! タリホー!!」
風を掴んで羽ばたく鳥のように軽やかに、スケートリンクを滑るプロスケーターのように華麗な飛行を見せるターシャ。こんな戦場であっても、彼女の飛び方はいつだって見惚れそうになるほど美しい。そんな彼女のフライトに引っ張られてくる敵機はまるで、可憐に咲き誇る花に釣られたミツバチのようだ。
「連れてきたよ! あとよろしく!」
「ありがとう、ターシャ。ジョーカー2、FOX2!」
「ジョーカー4、FOX2」
バクスターとコスターが時間差でミサイルを叩き込む。ターシャを追うことばかり考えていて、後方の敵機を見る余裕がなくなっていたらしいグラーチは、回避する余裕もなくミサイルの直撃を喰らって爆散する。ベイルアウトは……一機だけできたみたいだが、この極寒の土地で生き残るのは至難の業だろう。捕虜になった方がまだ生存率が上がるというものだ。
『全く……何度も正しい逃げ方を教えたんだがな……彼女は全く違う飛び方をする』
「ちゃーんと自分の飛び方に落とし込んでるからいいんですー! でしょ、レイ?」
「ああ、ちゃんとコープの飛び方の片鱗を感じるよ」
「ほら! レイもこう言ってる!」
『レックス、あまり甘やかしすぎるなよ』
コープから苦言を呈されたが、コープも結構甘やかしてると思うけどな。というかジョーカー隊含めて俺達はターシャに甘い。クィーン隊や副長、D.D.ジェンキンズ……それとステルウォートのイモータルズ(仮)も、何だかんだでターシャを末っ子みたく可愛がっている。そもそも彼女は軍人ではなく、民間のパイロットなのだ。軍隊みたくガチガチに厳しくする必要もないだろう。
『こちらクィーン1。レックス、Su-25のエンブレムは見た?』
俺達がワイワイやっていると、残ったバラライカを叩き落としたケイトが声をかけてきた。エンブレムの確認は今回の敵がシャドウズかどうかを聞きたいということだろう。
「こちらジョーカー1。エンブレムは確認済みだ。シャドウズじゃなかった。そもそも全部が黒くなかった」
『そりゃ残念だ。今まで墜とされたやつらの仇を取れると思ってたんだが』
「この先戦っていれば嫌でもその機会は来るさ」
敵影がレーダーから消えたことで、少しだけ尖っていた神経が丸くなっていく。とはいえ、次の波が来るまでの束の間の休息だ。ホワイトバレー基地の防衛において、次の波が大本命なのだから。
『敵の再アプローチに備える。周辺警戒へ移れ』
レーダーと睨めっこしているであろうディーラーの通信を耳にしながら、大本命が来るまでに可能な限りすり減った神経を回復させていく。そこまで消耗しているわけではないが、隙間の時間で回復をしておくのも大事なことだ。
「…………聞こえる。歌声が」
コスターが呟く。オープンチャンネルで馬鹿みたいに囀っている不愉快な雑音が聴こえるのだ。
「ほんとだ」
「例の音楽か」
『オープンチャンネルだ。これは……』
『レックス、やつらが来る』
コープの少しだけ強張った声に小さく頷き、敵が侵入してくるであろう方向に機首を向ける。止まらない、不愉快な音はどんどん大きく、ノイズが消えていく。ノイズが消えていくというのに、不愉快なのはもはや笑えてくる。
「無線の音楽が止まらない」
「敵が来る。もう一波!」
さあ神経を研ぎ澄ませ。敵から向けられる不愉快な敵意と殺気を感じ取れ。自分達がエリートだと思って慢心しているやつの命を擂り潰すために。ここは誰の縄張りなのかを、どちらが狩られる存在なのかを思い知らせてやるために。
『ディーラーより全機! 気を付けろ、今こちらに向かって来てるやつらが本命だ!』
『狙いは基地だ!』
『全く、今日って日は……!』
ホワイトバレー基地を防衛するパープルマジック隊のボヤきが聞こえてきたが、そこには諦めも敗北を感じ取った人間特有の感情もない。自分達が帰る場所を守ってみせるという気概と、ここで死んでたまるかという強い生への渇望が感じられる。本当に、晩年のあの時まで、ずっと夢に見るくらい……パープルマジック隊とはもっと長く飛んでいたかったと、心から思っていたほどに彼らの心はロックスターのように輝いている。
「レイ、逃げるなら掩護するよ。コープとはよく掩護し合って逃げるために飛んだ」
コープと同じであれば、逃げるために飛ぶだろうと思ったターシャがそんなことを言ってくる。さすがの俺でもシャドウズを相手にするくらいなら逃げるだろう、なんて思っていたりするのだろうか?
「どうする、逃げるでいい?」
「いいや。連中はここで墜とす」
「え!? 戦うの!?」
予想とは違う答えが返ってきたためか、凄く驚いた声を上げるターシャ。コープが隊長だった時はひたすらに逃げる戦い方だったのかもしれないが、俺が隊長になったのが運の尽き。俺はコープと違って敵に優しくないのだ。
「ジョーカー隊全機、死ぬ気でついてこい。円卓の狩りを見せてやる」
「らしいぞ、ディーラー。頼む!」
『了解した。これより【シーヴの翼】がシャドウズと交戦する! 全機続け! シャドウズを墜とせ!!』
空高く飛んでいるシャドウズの機体────あれはMiG-29Aか。ファルクラムの愛称で呼ばれる戦闘機であり、バラライカ同様に格闘性能が高い。小型ゆえに、Suよりも燃料搭載量が少ないものの、小型機らしく小回りが利きやすいため、こちらを愛用するパイロットもいる。兵装も対空、対地どちらも装備可能で、ミラージュなどの他戦闘機と組ませて戦術の幅を広げることも可能だ。
間違いなく高性能な戦闘機に乗っているシャドウズ……ソトア軍の中でもエリートではあるのだろうが……
『正面から向かってくるとはな』
『気付いてないんだろう。我らがルクス・ルーナ────』
馬鹿が。自分達が相手よりも強いと慢心してペチャクチャと無駄話をしているから、真っ先に被弾して墜ちるんだよ。フレアを焚いたのはまだ評価できるが、そのまま回避行動を取らずに真っ直ぐ飛んだら射的の的だろう。さては素人か?
『始まった! レックスが一機撃墜!! 凄いぞ!!』
「レックスがシャドウズを……!」
「コスター、今の」
「ああ。ミサイルを囮にした。これが円卓の飛び方?」
「その一つだ」
もっとも、これは俺が編み出した戦術ではなく、円卓を飛んでいた連中がやっていた手口の一つなのだが。しかも本来であれば一人でやるのではなく、複数人でやる戦術である。
手順としては簡単なものだ。一人がミサイルを発射し、それを回避しようとする敵機に向けて、他の連中が機銃を同時に撃ち込む。挟み撃ちの形で撃てるのなら100点満点、同じ方向から撃ってイージス艦の対空射撃のような弾幕を疑似的に生み出すのもよし。
初見殺しな戦術だと思われがちだが、これが本当に刺さる。昨今ミサイルの性能が向上したことで、ミサイルを主体とした戦闘が主流になっていることもあって、機銃を使う人間が減ってきている。だからこそ、機銃の脅威を理解していない人間が増えて、機銃を警戒しない飛び方をする。そんな飛び方を咎める戦術が、ミサイルを囮にしたガンキル戦術。円卓の防衛ラインで大きな戦果を挙げ続けたチームの一つ、インディゴチームとエスパーダチームの十八番だ。この戦術の派生形として、ジャミングを叩き込んだ後に長距離ミサイルを発射しつつ機銃でミサイルの直撃コースに追い込む『オルカ戦術』と呼ばれる戦術もある。これも中々刺さるのだ。弾幕の雨を嫌った先に待っている誘導性能の高い長距離ミサイル────俺だったら相手にしたくない。
「ちょっとギア上げていくぞ」
「おいおい、まだ本調子じゃなかったってのか!?」
バクスターの驚愕の声を聞きながら、一気に速度を上げていく。
『一機やられた! 散開しろ! ロックオンにはフレアで対応しろ!!』
『今のはミサイルじゃない! 機銃で墜ちたんだ!!』
先程一瞬で一人やられたことがあまりにもショックだったのか、動きが逃げに注力したものになっているな。気持ちは分からないでもないが、一機やられただけでああも乱されるとは……この区域に来た連中はシャドウズの中でも経験が少ないメンバーだったのか? まあ、それはそれで好都合なんだけどな。心が簡単に乱れるのであれば、操縦にもそれが現れる。
エンジンの出力を上げて、加速しながら上昇していく。心が乱れたパイロットは、大きな隙に食いつく習性がある。生物としての本能が早く緊張から解放されたいと感じてそう動いてしまうのか、それとも一機墜とせば状況をひっくり返せると思っているのかは定かではないが、とにかくこうして孤立して突出しているやつを狙うようになるのだ。それがもしかしたら罠の可能性だってあるというのに。
『敵の背後を取った! 翼のエンブレム……こいつが例の────!』
『待て、先走るな! 囲んで確実に墜とすぞ!!』
『俺だってルクス・ルーナエなんだ! 翼がなんだ! 俺がやってやる!!』
そら、食いついた。若いな。血気盛んで、相手がエースだろうが自分一人でどうにかできると思っているような、青い考えを持っているパイロット。ある意味ではプライドに生きるやつ、と言ってもいいだろう。成長すればプライドに生きるエースとして名を馳せていたかもしれないが、残念ながらそうなる未来は俺が潰してしまう。というか潰さなければどうせ厄介なやつとして飛んでくるので、ここで摘み取っておかないとならないだろう。
上昇、下降、左右への揺さぶり、ハイGターンを用いた急停止と加速……様々な操作を用いて背中を追いかけてくるシャドウズの若者を振り回す。
『なんでだ……! なんでミサイルが当たらない!? 向こうはフレアも焚いてないんだぞ!?』
『落ち着け! 隊列に戻れ!! そいつは今までの翼じゃないぞ!!』
『くそっ! くそっ! くそっ! 当たれ! 当たれよ!!』
祈って当たれば苦労はしないだろうに。そう思いつつ、ミサイルをマニューバを用いて回避しつつ、焦って突っ込んできたシャドウズの一機の背後をコブラ機動で取る。そしてそのままミサイルを二発発射、二機目を潰す。
『レックスがシャドウズを二機撃墜!!』
『恐ろしい飛び方をするな、レックス。味方から見ても、敵から見ても』
ディーラーの興奮した声と、コープの呆れと称賛が入り混じる声が耳に入る。まぁ、危なっかしい飛び方かもしれないが、こういう飛び方をするやつがゴロゴロいるのが円卓である。ある意味エースが跋扈する馬鹿みたいな空域だ。あそこを飛んできたからこそ、ここまで生き残れたと言っても過言ではない。
『翼が逃げない……! 情報と違うぞ!?』
『そもそも翼はトプラク大佐が墜としたと言っていたはずだ』
『ならあいつはなんだ!? 亡霊だとでも言うのか!? 【ラーズグリーズの亡霊】のような!』
おお、【ラーズグリーズの亡霊】の名前はソトアにも轟いていたのか。やはりエースパイロットが率いる部隊の知名度は高いな。……しかし、乱れたな。相当なレベルで。
「残り二機……クィーン隊、早く来ないと俺達で料理を全部平らげるぞ」
『あら、真っ先に食べに行ったのに言うじゃない』
「中々美味しいスシなもんでね。何せ超新鮮だ。オープンチャンネルで喚き散らすくらい活きがいい」
『生憎だが、スシは得意じゃないんだ。そっちで平らげてくれ』
「了解。……悪くないんだがなあ、スシも」
まぁ、生魚を食べるのに気が引ける気持ちも分からないでもない。ノースポイントで食べたスシは中々美味しかったが……食べることができたのは俺とディーラー、それとD.D.にジェンキンズ、ケイトと……ああ、イモータルズか。何だかんだで戦後もイモータルズとの交流は続いたな……さすがは船乗りと思うくらい酒に強くて驚いたよ。
「スシって確か……あれだよね。生魚をお米に乗せたやつ」
「元々は保存食だったものが気付けば保存食とする前に食べるようになったものだな」
「蛸とか美味いぞ。生のやつを炙ったのがいい」
「腹が減ってくるな……」
蛸は案外食べたりするから、海産物を生で食べるならスタートとしてアリかもしれない。……牡蠣も生で食べたりするのに、魚を生で食べることには抵抗があるのはどういうわけなのだろうか?
まぁ、飯の話は置いておいて、残りのシャドウズを墜としてしまおう。無駄話ができるくらいには余裕があるが、今は作戦中だ。気を緩めるタイミングを誤っちゃいけない。
「ジョーカー隊、残り二機、確実に取りに行くぞ。俺を中心に高度差を作って網を張れ。追い込み漁だ」
「了解。本当にコープの飛び方とは違うなレックス」
俺の背中を追いかけてきてくれているジョーカー隊と共に、残る二機を囲み込むように追い込んでいく。現在俺が指示した追い込み漁みたいな飛び方だが、これも数の暴力でエース級の敵を叩く時に凄く役立った。本来なら六~八機で網を張るのだが……この程度の連中であれば四機の網で追い込みができる。
『なんだこいつらの飛び方……!』
『まるで網みたいに……囲まれてる! くそっ、翼の部隊は逃げるだけじゃなかったのかよ!!』
本当に分かりやすく動揺してくれるお蔭でやりやすくて助かるよ。もう少し海に近ければステルウォートの甲板からもう一度スティンガーが飛んできそうなんだが……難しいな。ホワイトバレー基地の方まで誘導してやったら、他の隊と併せてさらに追い込み漁ができるが、今回の作戦はホワイトバレー基地の防衛なので、近付けさせないのが正解だ。
「そら、水揚げの時間だ! 4AAM発射!」
「ミサイルの雨を喰らいやがれ!」
「ついでに機銃も!」
『よ、避けられない! 墜ち────』
一機目が機銃とミサイルの雨で爆散していく。あれはベイルアウトできてないな。できていたとしても、生存は絶望的だろう。さて、残り一機だが……
『あ、ああ、ああああああああああ!! お、俺達は、誇り高きルクス────』
「誇りで食っていけるのは本物のエースだけだろ」
なんか発狂気味に突っ込んできたので、そのままミサイルを叩き込む。ミサイルも撃たずに突っ込んでくるとは……特攻でもするつもりだったのだろうか? 特攻するにしてもミサイルや機銃を撃ちながら突っ込んでくるなら分かるんだが……それだけ混乱していた、ということにしておこう。
『全機撃破を確認。シャドウズの機影は全て消えたな』
『チェックメイト! 最高の駒運びだ!』
「よぉし!」
「本当にコープの時とは全然違うやり方だね」
コープもやろうと思えばやれたと思うが、彼は案外AWACSで空と地上とレーダーと睨めっこするのが性分に合っているようだ。こんな戦争が起らなければ、軍属の航空ショー専門みたいなパイロットになって、各方面から引っ張りだこになっていたかもしれないくらい、操縦が神がかっているんだけどな。しかもモテるし。同性の俺から見てもコープは顔が整っているし、気遣いが上手いからモテる。
「ところで空軍の……空軍の人達は生きてる?」
『おう、生きてるぞ。ジョーカー4、お前だな? 調子の外れた音楽を電波に乗せて飛んでるのは』
コスターがホワイトバレー基地の安否を確認すると、どこか楽しそうに声をかけてくるパープルマジック1。コスターが流している曲を聴いて気分が上がっているのだろう。
「すみません。でもあの曲は────」
『バンド組んで三曲目のやつだぞ? よく知ってたな!』
「もちろん……! それはもちろんです!」
『懐かしいぜ。あの時から随分と色々変わっちまったが、音楽は変わってない』
是非とも民間人の慰問を目的としたパーティーで、パープルマジックの生演奏を聴いてみたいものだ。前回は敵エース部隊との交戦で疲れすぎて、気絶するように眠ってしまったからパーティーにも、生演奏観賞にも参加できなかったのだ。
「……今日のは前に来た連中と同じ部隊だっていうけど、本当に手ごわいやつが来てなかったね」
『ああ。影22……俺とアレックスを撃墜したやつだ』
「前来た時は凄くびっくりした。逃げるのが大変だったんだよ」
だろうな。あれほど熱烈で悪質な追っかけもいるまい。そのうち雌雄を決することになるだろうが……それはまだまだ先の話だ。
『よし、周辺の安全が確認できた。全機エンデュランスに集合せよ! 繰り返す! 全機エンデュランスに集合せよ!』
何にせよ……ホワイトバレー基地の防衛は完了した。見たところ、港湾施設から火の手が上がっているようにも見えない。俺達に残ったのは雪と氷に覆われた大地と、魚の加工工場だけじゃない。とりあえず汗を流したら……ホワイトバレー基地でライ麦とかを貰ってパンでも作ろう。