お金が冒険で一番大事なもの~【お金】で何でも解決できる力を持っているのに、仲間のせいで今日も貧乏です~ 作:ダブルピース
夜が明け、朝が始まる。
洗濯してもらった服に着替えた僕は、昨日夕ご飯を取った食堂へ向かった。
僕より先にキロがいた。猫舌なのか「ふーふー」と紅茶を冷ますために息を吹きかけている。「おはよう」と言うとキロはティーカップを置いて挨拶するように手を上げた。
「やぁサク。昨夜はどうだったかい?」
「うん、眠れたよ」
「そうじゃないよ!エナちゃんと一緒に寝たんでしょ?」
キロが接近してくる。
ぐいぐい来る彼女に後ずさりをしていると壁にぶつかってしまう。
「別に何もしてないってば」
「何もしてなかったの。ふむふむ……エナちゃんの言った通り、サクはいくじなしだったんだね。よかった安心した~」
「……」
キロは胸を撫で下ろしながら、僕の心を抉る。
それやめて。地味に傷つくから。
「それでエナちゃんの寝顔はやっぱり可愛かった? 寝相はいいほうなの? 何か寝言とか言ってなかった? あ、もしかしてエナちゃんって寝ながら服を脱いだりする?」
「知らないから!ちょっと落ち着いてよ!」
どんだけエナに夢中なんだよ。
目を輝かせて質問攻めにしてくるキロに、僕は恐怖すら覚えた。
困り果てていると、オオガミが晴れやかな笑顔で食堂に入ってきた。
「ういーす! お、綺麗な姉ちゃんがいるじゃねぇか! なぁ姉ちゃん、何カップだ?」
「Eだよー」
オオガミは「おはよう」の次に初対面のキロに向かって胸の大きさを聞いた。
普通の女性なら不快な思いをするところだが、さすがキロだ。恥ずかしがる素振りもなく、まるで「おはよう」と挨拶を返すように自分の胸のサイズを答えた。
初めて見た、自分の名前より先に胸の大きさを教える女性を。
「君がオオガミだね。私はキロ。リシアちゃんを助けて、プロポーズしに来た冒険者だよ」
まだ言っていたのかよ。
「んだよ……姉ちゃん、相手がいたのかよ」
「そうだよ、悪いね」
リシアちゃんはまだ結婚できない少女なのに。オオガミは真に受けて「ちぇ」と悔しがっている。
もしかして、キロを口説こうとしていたのか?
「まぁまぁ、そんなに落ち込まないでよ~。オオガミは良い体してるし、その髪もなかなか洒落てるから、すぐ彼女ができるよ」
「お、そうか? 姉ちゃん、なかなか見る目があるじゃねぇか!」
「髪は染めてるのかい?」
「いや、これは生まれつきだ」
「地毛なのかい?」
キロは一瞬驚いた顔をした。それから「へぇー」と赤髪をじろじろ眺め、「クールだね!」と親指を立てて褒めた。
「そういえば、愛しのエナちゃんの姿が見えないけど?」
「まだ寝てるよ。エナ、朝が弱いから、僕が起こしに――」
「エナちゃぁぁぁぁん!」
僕が「起こしに行くよ」と言い終える前に、キロはエナの部屋へ猛ダッシュしていた。
とんでもない速さだ。まったく見えなかった。僕は呆気にとられてしまう。
食堂には、オオガミの鼻歌だけが聞こえる。髪を褒められて上機嫌らしく、窓に映る自分の姿に見入っていた。
その後、どこからか聞き覚えのある絶叫が響いた。
〇○○
「それじゃリシアちゃんを探すぞ!」
ぷんすか怒るエナが揃ったところで依頼を開始する。
キロは元気よく「おー!」と拳を上げると、続けてオオガミも「おう!」とやる気満々に拳を上げた。
なぜか知らないが、キロは鼻血が出たみたいでティッシュを詰めていた。
鼻血が出た理由は分からない。エナの寝顔を見て興奮したのか、襲った時にエナに殴られたのか……
「ここでサクに問題です!」
そんなどうでもいいことを考えていると、突然キロにビシッと指を差された。。
「シュガさんの話によると、リシアちゃんはイルム団に捕まっている可能性が高いです。さて、どうやってイルム団を見つけるでしょうか?」
どうやって見つけるか……?
そんなの分からない。
答えが出ずに悩んでいると、僕の代わりにオオガミが「はいはい!」と手を上げた。
「じゃあ、オオガミ!」
「そりゃ気合だ! ひたすら辺りを歩き回って探し出す!」
「そういう根性論は嫌いじゃないぜ!」
キロは称賛しているが、たぶん間違っている。
「正解は、私の優秀な部下たちを使う、でした」
「部下?」
僕が首を傾げていると、エナが「ふんっ」と鼻で笑った。
「あんたみたいな変態に、部下なんているわけないじゃない」
「ふふふ……私を侮っちゃいけないぜ、エナちゃん。私には、慕ってくれる部下が60人もいるんだから!」
「はいはい。この寒さで頭がおかしくなったのね。サク、可哀想だから
優雅に紅茶を飲みながら、ひどいことを言うエナ。
「も~信じてくれないなら見せてあげるよ。もうすぐイルム団を探している部下たちが私に連絡してくれるから」
キロは半べそをかきながら、机の上に半透明の石を置いた。
このオレンジ色の石は、遠くの人と話せる「伝達石」という魔石だ。はぐれた仲間と連絡が取れるため、冒険者の中には持っている人が多い。
便利な魔石だが、その分値段も高い。安いものでも24万ゴールドはするから、僕たちは持っていない。
「お、きたきた!」
伝達石がオレンジ色に輝き出した。光ったということは、誰かがキロの石に連絡してきたということだ。
「ほらエナちゃん。私の言ってたこと、本当だったでしょ?」
「驚いた……まさか本当に部下がいるなんてね。あんたを慕っているってことは、その部下たちも相当なド変態なのかしら?」
「みんな可愛い子たちだよ~」
にししと笑って、キロは伝達石を口元に近づける。
「もしもし、こちらキロだよ~! 連絡してくれたってことは、見つけたんだね!」
『はい。イルム団と思われるアジトを発見しました』
石から聞こえたのは、男性の声だった。
どうやら、僕たちがシュガさんの屋敷でのんびりしている間に、キロの部下たちがアジトを見つけてくれたらしい。
けれど、その声は暗かった。なんだか嫌な予感がする。
『現在、我々はそのアジトの中にいるのですが……』
「え、アジトの中? もしかして、イルム団をやっつけちゃった?」
『いえ、すでにイルム団は、何者かに皆殺しにされていました。今は雪に埋まっている遺体を掘り起こして、調べているところです』
「……! その遺体の中に、行方不明の女の子は?」
『いえ、いませんでした。行方不明の子供の手がかりが見つかり次第、またご連絡します』
「そう、分かった。ありがとう」
伝達石の光が消える。
さっきまでにこやかだったキロの顔は、険しいものに変わっていた。
それは僕たちも同じだった。
僕たちは、リシアちゃんはイルム団に誘拐されたのだと思っていた。そのイルム団が殺されていたということは、リシアちゃんを見つけ出す唯一の手がかりが消えてしまったことになる。
一気に絶望へ叩き落とされた気分だった。
「うーん。困ったねこりゃ……」