お金が冒険で一番大事なもの~【お金】で何でも解決できる力を持っているのに、仲間のせいで今日も貧乏です~ 作:ダブルピース
イルム団に起こった惨劇を伝えるため、僕たちはシュガさんのいる部屋へ向かった。
本棚に囲まれた部屋で、あるのはテーブルと椅子くらいだ。
そこには、シュガさんと執事のマルトトーゼさんがいた。仕事中だったらしく、机の上には大量の紙の束と万年筆が置かれている。
「イルム団が殺された!?」
キロがイルム団について話すと、シュガさんは驚愕して椅子から立ち上がった。
「はい。私の仲間がアジトを見つけ出したのですが、イルム団はすでに、何者かに皆殺しにされていました。先ほど遺体を調べている仲間から連絡がありまして、亡くなってから二週間ほど経っているそうです」
「殺したのは……? だ、誰です?」
「分かりません。ですが、遺体には刃物で斬られた跡がありました。それも、確実に仕留めるために急所を狙った跡です。おそらく、人殺しに慣れた人物でしょう」
次々と飛んでくる質問に、キロが答えていく。その横で、僕たち三人は黙って聞いていた。
部屋に入る前に「私が全部説明するよ」と言われていたので、邪魔をしないようにしているのだ。
「それではリシアは? そこにリシアはいたのですか?」
「リシアちゃんの姿はありませんでした。ですが、リシアちゃんの件でご報告したいことがあります」
……リシアちゃんは見つからない可能性が高いです。
キロが次に口にするのは、たぶんこの言葉だろう。
シュガさんにはあまりにも酷だけれど、正直に伝える必要がある。
イルム団が殺されて、リシアちゃんにつながる唯一の手がかりも失ってしまった。僕たちには、もう地道にランシャを歩き回って探すしか方法がない。けれど、雪の積もった広い土地で女の子一人を探すなんて、数日かかっても見つけ出せる自信がなかった。
「リシアちゃんは……」
「僕にお金を貸してください!」
でも……それでいいのか?
そんな考えが頭をよぎったとき、僕はもう深く頭を下げていた。
「え?」
「ちょっとサク!? 何を……?」
突然、お金を貸してほしいと頭を下げた僕を見て、シュガさんは唖然とした。
勝手な行動をする僕を、キロは止めようとしたが、
「待ちなさい。ここはサクに任せてなさい」
「そうだぜ、姉ちゃん」
エナとオオガミが止めてくれた。二人とも、ありがとう。
僕は頭を下げたまま、口を動かす。
「さっきお話ししたとおり、イルム団は殺されてしまい、リシアちゃんの手がかりはまったくない状態です。ですが、何としてもリシアちゃんを見つけ出します。そのためには、シュガさんのご協力が必要です。……いくらか、お金を貸していただけないでしょうか」
「もちろん! リシアのためなら、いくらでも出す覚悟です!」
「ありがとうございます。必ずリシアちゃんは見つけ出します」
正直、リシアちゃんはもう生きていないと思う。
でも、それでも。せめて、シュガさんのもとへ連れて帰る。
なんとしてでも、それだけはやり遂げないと。
〇○○
「サク様、お待たせしました。こちら、頼まれていた物です」
「ありがとうございます!」
マルトトーゼさんは、2万ゴールドと、リシアちゃんが履いていた靴を持ってきてくれた。気遣いで、寒さをしのげる毛皮のコートまで用意してくれている。
「お金は足りますか?」
「十分すぎるくらいです! 助かります!」
僕とエナはいつもの服の上にコートを羽織った。オオガミは鎧のままだ。
そして僕たちは屋敷の外へ出た。
外は相変わらず寒い。コートを着ていても体が震える。
昨夜かなり吹雪いたせいで、雪がまた積もっていて、ランシャの人たちは除雪作業に追われていた。
「それでサク。借りたお金、どうするつもりなんだい?」
キロが、借りたお金の使い道を尋ねてくる。その直後、寒さに耐えきれなくなって、「寒っ、寒っ」とコートのポケットに手を突っ込んだ。
「僕の能力に使うんだ」
「どんな能力なのかい?」
「僕の能力は【取引】。お金を使って、望む物を手に入れることができるんだ」
「へぇー」
分かっていない返事だった。キロの顔は浮かないままだ。
まぁ、口で説明するより、実際に見たほうが早い。
「取引。フルウルフの嗅覚」
――フルウルフの嗅覚……3000ゴールド――
「成立」
僕が呟くと、マルトトーゼさんから受け取った硬貨が白く輝き出した。すると借りた2万ゴールドから3000ゴールドが減る。
「「「?」」」
僕のスキルを初めて見るキロとマルトトーゼさん、それと、なぜか同じ仲間のオオガミも、そろって首を傾げていた。
「なるほど、匂いで探すのね」
「そういうこと」
エナはピンときたようだ。
そう、匂いを使う。目で見つけられないなら、鼻で見つける。
フルウルフの嗅覚は人間の千倍と言われていて、過去には32キロ離れた雌の匂いを嗅ぎつけたという話もある。
お金とリシアちゃんの履いていた靴を借りたのは、このためだ。
僕は、リシアちゃんの匂いが染みついた靴を鼻に近づけた。
「「うわ……っ」」
絵面が最悪なのは、二人のドン引きした顔を見れば分かる。
だって、9歳の女の子の靴を、くんくんと何度も嗅いでいるのだから。
「エナ、オオガミ……言いたいことがあるなら言ってよ」
「何もないわよ、ロリコン」
「おう、気にせず続けてくれ。ロリコン」
こいつら……!
不名誉だが、これも捜索のためだ。手がかりがない以上、僕が頑張るしかない。
「匂いだけに、犯罪臭がするな」
「おー、オオガミ、上手いね」
「そうだろ」
うるせぇよ。
「ははははっ」と笑い合うオオガミとキロを、僕は睨みつけた。
よし……リシアちゃんの匂いは覚えた。
今度は、辺りの匂いを嗅ぐ。
くんくん……くんくんくんくんくん…………くん……
「ダメだ……リシアちゃんの匂いが見つからない」
「まぁ、そりゃそうね。リシアちゃんが家出したのは3週間前で、しかも2週間前から雪が降っているんだもの。匂いが残っていないのは当然よ」
「うーん……そうだよね」
くそ……どうする?
僕が歯を食いしばって次の案を考えていると、キロが話しかけてきた。
「サク、君のスキルって、お金を消費して欲しい物を手に入れる力、で合ってるよね?」
「うん」
「それじゃ、英雄リリーアの第60の魔法、
「ナルージャ?」
会話についていけず、ぽけーっと間抜けな顔をしているオオガミのために、マルトトーゼさんが説明してくれた。
「これまでに使えたのは、開発した英雄リリーアとケネデルに住むサチ様しかいない、リリーアの魔法の中でも最高難易度。記録によれば、どれほど遠く離れた場所でも見通せて、遠い未来さえ見ることができる、まさに神の目です」
「つまり、スゲェ目がいいってことか」
「視力がいいという話ではないのですが……まぁ、そういうことです」
説明が面倒になったのか、マルトトーゼさんは教えるのを諦めた。
「たぶん使えると思う。だけど取引は、使う魔法が強力なほど、消費するお金が多くなるんだ」
「どれくらい用意したら、
「そうだね……ちょっと待って。取引……英雄リリーアの第60の魔法、
――
――予算が不足しているため、不成立――
「うっ……3億2000万ゴールドくらいあれば、なんとか……」
「「は!?」」
エナとオオガミが、桁違いの金額に大声を上げた。
「いくらでも出す」と言っていたシュガさんでも、さすがにすぐに出せる額ではないだろう。
「……3億2000万ね。それだけ用意すれば、本当にリシアちゃんを見つけられるんだね?」
キロが僕に尋ねる。その目つきがさっきまでと変わっていて、少し怖かった。
僕はごくりと唾を呑んで、キロの目をまっすぐ見返した。
「必ず見つけるよ」
僕が答えると、キロはニコッと優しく笑った。
「分かった。それじゃ、3億2000万ゴールド。私が用意するよ」
「でも、どうやって?」
キロは「ははは……」と頭を掻きながら苦笑いした。
「そうだね……これをやったら私は捕まっちゃうけど、まぁ、リシアちゃんのためだし……バレなきゃいいよね」
捕まる?
「サク、シュガさんから借りたお金、私に貸してくれない? 増やして返すから」
キロが僕に手を差し出す。
僕がお金を渡す前に、「ちょっと!」とエナが間に入った。
「あんた、まさかカジノに行くつもりじゃないでしょうね!?」
「おー、カジノ行くのか? なら俺も連れてけよ。ぐるぐる回る7を揃えるの、得意だぜ!」
「残念だけど、そうじゃないよ。私がやるのは、確実に増えるやつだから」
「どういうこと?」と僕が聞くと、キロは「まぁ、見ててよ」と言って、僕から硬貨を受け取った。
「倍化」
キロが硬貨を地面に置き、そっと手を触れた。すると、
「すごい……」
「ふぉぉぉぉぉ! 金が増えた!」
目を疑う出来事が起きた。
さっきまで巾着に収まる程度だった硬貨が、キロが触れた途端に倍々に増えていき、瞬く間に硬貨の山ができあがる。
増えた硬貨は、材質も柄も本物と同じだった。手持ちの硬貨と見比べていると、キロが「本物だよ」と教えてくれる。
「私のスキルは倍化。あらゆる物を、何倍にでもすることができるんだ」
「神様、仏様、キロ様、どうか私にお恵みを。硬貨を1兆倍に、いえ、10兆倍に!」
さっきまで高圧的だったエナが、あっさり屈して跪いた。必死に拝みながら、持っていた1ゴールドを差し出している。
「エナちゃん、頼ってくれるのは嬉しいんだけどね。むやみにお金を増やしちゃダメだって、怖い人に念押しされてるんだよ。だからごめんね」
「何よ! ケチね、このエロ女!」
……すごい手のひら返しだ。
「はい、サク。用意できたよ。受け取って」
キロが、増えた硬貨を僕に差し出す。受け取れと言われても、手で持てる量じゃない。
キロのスキルの凄さに圧倒されて反応が遅れたが、僕は「キロ、ありがとう」と頭を下げた。
そして、さっそく取りかかる。
「取引……英雄リリーアの第60の魔法、
瞼を閉じて呟くと、キロが用意してくれた硬貨が白く光り出したらしい。「うおおおお! 眩しぃ!」というオオガミの声が聞こえた。
「成立」