お金が冒険で一番大事なもの~【お金】で何でも解決できる力を持っているのに、仲間のせいで今日も貧乏です~   作:ダブルピース

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第13話

 イルム団に起こった惨劇を伝えるため、僕たちはシュガさんのいる部屋へ向かった。

 本棚に囲まれた部屋で、あるのはテーブルと椅子くらいだ。

 そこには、シュガさんと執事のマルトトーゼさんがいた。仕事中だったらしく、机の上には大量の紙の束と万年筆が置かれている。

 

「イルム団が殺された!?」

 

 キロがイルム団について話すと、シュガさんは驚愕して椅子から立ち上がった。

 

「はい。私の仲間がアジトを見つけ出したのですが、イルム団はすでに、何者かに皆殺しにされていました。先ほど遺体を調べている仲間から連絡がありまして、亡くなってから二週間ほど経っているそうです」

「殺したのは……? だ、誰です?」

「分かりません。ですが、遺体には刃物で斬られた跡がありました。それも、確実に仕留めるために急所を狙った跡です。おそらく、人殺しに慣れた人物でしょう」

 

 次々と飛んでくる質問に、キロが答えていく。その横で、僕たち三人は黙って聞いていた。

 部屋に入る前に「私が全部説明するよ」と言われていたので、邪魔をしないようにしているのだ。

 

「それではリシアは? そこにリシアはいたのですか?」

「リシアちゃんの姿はありませんでした。ですが、リシアちゃんの件でご報告したいことがあります」

 

 ……リシアちゃんは見つからない可能性が高いです。

 キロが次に口にするのは、たぶんこの言葉だろう。

 シュガさんにはあまりにも酷だけれど、正直に伝える必要がある。

 イルム団が殺されて、リシアちゃんにつながる唯一の手がかりも失ってしまった。僕たちには、もう地道にランシャを歩き回って探すしか方法がない。けれど、雪の積もった広い土地で女の子一人を探すなんて、数日かかっても見つけ出せる自信がなかった。

 

「リシアちゃんは……」

「僕にお金を貸してください!」

 

 でも……それでいいのか?

 そんな考えが頭をよぎったとき、僕はもう深く頭を下げていた。

 

「え?」

「ちょっとサク!? 何を……?」

 

 突然、お金を貸してほしいと頭を下げた僕を見て、シュガさんは唖然とした。

 勝手な行動をする僕を、キロは止めようとしたが、

 

「待ちなさい。ここはサクに任せてなさい」

「そうだぜ、姉ちゃん」

 

 エナとオオガミが止めてくれた。二人とも、ありがとう。

 僕は頭を下げたまま、口を動かす。

 

「さっきお話ししたとおり、イルム団は殺されてしまい、リシアちゃんの手がかりはまったくない状態です。ですが、何としてもリシアちゃんを見つけ出します。そのためには、シュガさんのご協力が必要です。……いくらか、お金を貸していただけないでしょうか」

「もちろん! リシアのためなら、いくらでも出す覚悟です!」

「ありがとうございます。必ずリシアちゃんは見つけ出します」

 

 正直、リシアちゃんはもう生きていないと思う。

 でも、それでも。せめて、シュガさんのもとへ連れて帰る。

 なんとしてでも、それだけはやり遂げないと。

 

 〇○○

 

「サク様、お待たせしました。こちら、頼まれていた物です」

「ありがとうございます!」

 

 マルトトーゼさんは、2万ゴールドと、リシアちゃんが履いていた靴を持ってきてくれた。気遣いで、寒さをしのげる毛皮のコートまで用意してくれている。

 

「お金は足りますか?」

「十分すぎるくらいです! 助かります!」

 

 僕とエナはいつもの服の上にコートを羽織った。オオガミは鎧のままだ。

 そして僕たちは屋敷の外へ出た。

 外は相変わらず寒い。コートを着ていても体が震える。

 昨夜かなり吹雪いたせいで、雪がまた積もっていて、ランシャの人たちは除雪作業に追われていた。

 

「それでサク。借りたお金、どうするつもりなんだい?」

 

 キロが、借りたお金の使い道を尋ねてくる。その直後、寒さに耐えきれなくなって、「寒っ、寒っ」とコートのポケットに手を突っ込んだ。

 

「僕の能力に使うんだ」

「どんな能力なのかい?」

「僕の能力は【取引】。お金を使って、望む物を手に入れることができるんだ」

「へぇー」

 

 分かっていない返事だった。キロの顔は浮かないままだ。

 まぁ、口で説明するより、実際に見たほうが早い。

 

「取引。フルウルフの嗅覚」

 

 ――フルウルフの嗅覚……3000ゴールド――

 

「成立」

 

 僕が呟くと、マルトトーゼさんから受け取った硬貨が白く輝き出した。すると借りた2万ゴールドから3000ゴールドが減る。

 

「「「?」」」

 

 僕のスキルを初めて見るキロとマルトトーゼさん、それと、なぜか同じ仲間のオオガミも、そろって首を傾げていた。

 

「なるほど、匂いで探すのね」

「そういうこと」

 

 エナはピンときたようだ。

 そう、匂いを使う。目で見つけられないなら、鼻で見つける。

 フルウルフの嗅覚は人間の千倍と言われていて、過去には32キロ離れた雌の匂いを嗅ぎつけたという話もある。

 お金とリシアちゃんの履いていた靴を借りたのは、このためだ。

 僕は、リシアちゃんの匂いが染みついた靴を鼻に近づけた。

 

「「うわ……っ」」

 

 絵面が最悪なのは、二人のドン引きした顔を見れば分かる。

 だって、9歳の女の子の靴を、くんくんと何度も嗅いでいるのだから。

 

「エナ、オオガミ……言いたいことがあるなら言ってよ」

「何もないわよ、ロリコン」

「おう、気にせず続けてくれ。ロリコン」

 

 こいつら……!

 不名誉だが、これも捜索のためだ。手がかりがない以上、僕が頑張るしかない。

 

「匂いだけに、犯罪臭がするな」

「おー、オオガミ、上手いね」

「そうだろ」

 

 うるせぇよ。

「ははははっ」と笑い合うオオガミとキロを、僕は睨みつけた。

 よし……リシアちゃんの匂いは覚えた。

 今度は、辺りの匂いを嗅ぐ。

 

 くんくん……くんくんくんくんくん…………くん……

 

「ダメだ……リシアちゃんの匂いが見つからない」

「まぁ、そりゃそうね。リシアちゃんが家出したのは3週間前で、しかも2週間前から雪が降っているんだもの。匂いが残っていないのは当然よ」

「うーん……そうだよね」

 

 くそ……どうする?

 僕が歯を食いしばって次の案を考えていると、キロが話しかけてきた。

 

「サク、君のスキルって、お金を消費して欲しい物を手に入れる力、で合ってるよね?」

「うん」

「それじゃ、英雄リリーアの第60の魔法、千里眼(ナルージャ)とかも使えるのかい?」

「ナルージャ?」

 

 会話についていけず、ぽけーっと間抜けな顔をしているオオガミのために、マルトトーゼさんが説明してくれた。

 

「これまでに使えたのは、開発した英雄リリーアとケネデルに住むサチ様しかいない、リリーアの魔法の中でも最高難易度。記録によれば、どれほど遠く離れた場所でも見通せて、遠い未来さえ見ることができる、まさに神の目です」

「つまり、スゲェ目がいいってことか」

「視力がいいという話ではないのですが……まぁ、そういうことです」

 

 説明が面倒になったのか、マルトトーゼさんは教えるのを諦めた。

 

「たぶん使えると思う。だけど取引は、使う魔法が強力なほど、消費するお金が多くなるんだ」

「どれくらい用意したら、千里眼(ナルージャ)が使えるんだい?」

「そうだね……ちょっと待って。取引……英雄リリーアの第60の魔法、千里眼(ナルージャ)」

 

 ――千里眼(ナルージャ)……3億2000万ゴールド――

 ――予算が不足しているため、不成立――

 

「うっ……3億2000万ゴールドくらいあれば、なんとか……」

「「は!?」」

 

 エナとオオガミが、桁違いの金額に大声を上げた。

「いくらでも出す」と言っていたシュガさんでも、さすがにすぐに出せる額ではないだろう。

 

「……3億2000万ね。それだけ用意すれば、本当にリシアちゃんを見つけられるんだね?」

 

 キロが僕に尋ねる。その目つきがさっきまでと変わっていて、少し怖かった。

 僕はごくりと唾を呑んで、キロの目をまっすぐ見返した。

 

「必ず見つけるよ」

 

 僕が答えると、キロはニコッと優しく笑った。

 

「分かった。それじゃ、3億2000万ゴールド。私が用意するよ」

「でも、どうやって?」

 

 キロは「ははは……」と頭を掻きながら苦笑いした。

 

「そうだね……これをやったら私は捕まっちゃうけど、まぁ、リシアちゃんのためだし……バレなきゃいいよね」

 

 捕まる?

 

「サク、シュガさんから借りたお金、私に貸してくれない? 増やして返すから」

 

 キロが僕に手を差し出す。

 僕がお金を渡す前に、「ちょっと!」とエナが間に入った。

 

「あんた、まさかカジノに行くつもりじゃないでしょうね!?」

「おー、カジノ行くのか? なら俺も連れてけよ。ぐるぐる回る7を揃えるの、得意だぜ!」

「残念だけど、そうじゃないよ。私がやるのは、確実に増えるやつだから」

 

「どういうこと?」と僕が聞くと、キロは「まぁ、見ててよ」と言って、僕から硬貨を受け取った。

 

「倍化」

 

 キロが硬貨を地面に置き、そっと手を触れた。すると、

 

「すごい……」

「ふぉぉぉぉぉ! 金が増えた!」

 

 目を疑う出来事が起きた。

 さっきまで巾着に収まる程度だった硬貨が、キロが触れた途端に倍々に増えていき、瞬く間に硬貨の山ができあがる。

 増えた硬貨は、材質も柄も本物と同じだった。手持ちの硬貨と見比べていると、キロが「本物だよ」と教えてくれる。

 

「私のスキルは倍化。あらゆる物を、何倍にでもすることができるんだ」

「神様、仏様、キロ様、どうか私にお恵みを。硬貨を1兆倍に、いえ、10兆倍に!」

 

 さっきまで高圧的だったエナが、あっさり屈して跪いた。必死に拝みながら、持っていた1ゴールドを差し出している。

 

「エナちゃん、頼ってくれるのは嬉しいんだけどね。むやみにお金を増やしちゃダメだって、怖い人に念押しされてるんだよ。だからごめんね」

「何よ! ケチね、このエロ女!」

 

 ……すごい手のひら返しだ。

 

「はい、サク。用意できたよ。受け取って」

 

 キロが、増えた硬貨を僕に差し出す。受け取れと言われても、手で持てる量じゃない。

 キロのスキルの凄さに圧倒されて反応が遅れたが、僕は「キロ、ありがとう」と頭を下げた。

 そして、さっそく取りかかる。

 

「取引……英雄リリーアの第60の魔法、千里眼(ナルージャ)」

 

 瞼を閉じて呟くと、キロが用意してくれた硬貨が白く光り出したらしい。「うおおおお! 眩しぃ!」というオオガミの声が聞こえた。

 

「成立」

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