お金が冒険で一番大事なもの~【お金】で何でも解決できる力を持っているのに、仲間のせいで今日も貧乏です~ 作:ダブルピース
……不思議な感覚だ。
初めて来たはずなのに、まるでここが生まれ故郷であるかのように、ランシャの情報が頭の中に流れ込んでくる。
ここから18メートル離れた先で、子供が三人、雪合戦をしている。飛んでくる雪玉から逃げている最中に一人の男の子が転んだ。
33メートル先の家では、老婆が花瓶を落として割ってしまった。
すぐ近くでは、オオガミが鼻をほじりながら僕のほうを見ている。
そして……
ここから遠く離れた場所にある洞穴。氷柱ができるほどの極寒の地で、すやすやと眠っている少女の姿があった。
その子は、僕たちが必死に探していたシュガさんの娘、リシアちゃんだった。
い、生きてる! 生きてるぞ!
……でも。
「サク! サクってば!」
さっきまで何も聞こえなかったのに、突然、周りの騒音が耳に飛び込んできた。
エナの声だ。切迫した声で、僕の名前を叫んでいる。
「げふっ!」
僕はビンタをされたらしく、頬にヒリヒリとした痛みが走った。
その痛みで、
「サク! あんた! 目は大丈夫!?」
「え?」
エナに言われて、僕の頬に水滴のようなものが流れていることに気づいた。
涙かと思って触ってみると、それは赤い血だった。
うわ!なんだこれ!?
「私のこと、見えるかい?」
キロが目の前で手を振っている。僕が「見えるよ」とうなずくと、ほっとした笑みを見せた。
「「どうやら失明はしてないみたいだね。よかったよ」
「よかったよ、じゃないわよ! 目から血が出るなんて聞いてないわ! 心配したじゃない!」
「ごめんね、エナちゃん……私も、こんなに負担の大きい魔法だとは思わなかったんだよ。サクも、ごめん。軽率だった」
「別にいいよ。そんなことより!」
「そんなことじゃないでしょ!? あんた自分のことなのよ! もし目が見えなくなったらどうするつもりだったのよ! 誰が私の傷を治すのよ!」
「ご、ごめん」
エナは声を荒げて叱りつける。オオガミが「そんなに怒るなよ」となだめようとしたが、怒りは収まらず、エナは「バカっ」とそっぽを向いてしまった。
「何キレてんだ、エナのやつ? 牛乳飲んでねぇからか?」
「いや、僕のせいだよ」
エナが怒っているのは、僕を本気で心配してくれている証拠だ。
僕はもう一度エナに謝ってから、キロのほうを見た。
「リシアちゃん、見つけたよ。しかも、生きてる」
「本当かい!?」
「うん。ランシャから北にある洞穴。そこにいる」
僕が朗報を伝えると、マルトトーゼさんは「……そこか」と小さく呟いた。
「うおおおおお! 生きてるのか!」
「うん!」
「サク、お手柄だよ!」
オオガミとキロに褒められて、こそばゆい気持ちになる。
「だけどリシアちゃんの髪が変だったんだ。……なんだか、赤色だった」
「赤色?」
写真に写っていたリシアちゃんは、ベージュ色の髪をしていたはずだ。
「マルトトーゼさん、リシアちゃんって髪を染めたんですか?」
「いえ、染めていません」
それじゃ、なんで髪が赤かったんだろう?
僕が考え込んでいると、キロは何か心当たりがあるのか、顔色を曇らせた。
「これは急いだほうがいいね。手遅れになる前に」
「え?」
どういう意味だろう?
けれどキロは答えず、伝達石を取り出して、イルム団のアジトにいる部下と話し始めた。
「もしもし、私。ちょっとお願いがあるんだけど、カナちゃんをこっちに来させるよう伝えて。急ぎでお願いね」
『はい。カナディアさんにお伝えします』
「ありがとう。私は今からそっちに行くから」
通話を終えると、キロは心配そうに僕を見た。
「サク、今から動ける? 無理そうなら、シュガさんの家で休んでていいよ」
「大丈夫。僕も洞穴に行くよ」
「ごめんね……無理させちゃって。本当は休んでほしいけど、ゆっくりもしていられないから」
「キロは、イルム団のアジトに行くの?」
「うん。ちょっと調べたいことがあってね。そのかわり、部下を一人こっちに呼んだよ。私よりずっと強い、期待の新人をね」
〇○○
「サクさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
マルトトーゼさんが報告のために一度屋敷へ戻ると、すぐにシュガさんが僕の名前を叫びながら飛び出してきた。僕の肩をつかみ、必死の形相で聞いてくる。
「ほ、本当にリシアは見つかったんですか!?」
「はい。リシアちゃんは、生きてますよ」
「はっ……あはははは! よかったぁぁぁぁ!」
僕が安心させるように答えると、シュガさんはその場に泣き崩れた。
顔が涙でぐちゃぐちゃになっているのを見て、本当に見つかってよかったと心の底から思う。
けれど、まだ見つけただけで、助けたわけじゃない。依頼は終わっていない。
だから僕は、もう一度シュガさんに約束した。
「必ずリシアちゃんを、ここに連れて帰ります」
「お願いします……お願いします……」
泣きながら頭を下げるシュガさんの後ろから、マルトトーゼさんが歩み出た。
「サク様。私も、お嬢様を助けに洞穴へ参ります」
「え? マルトトーゼさんもですか? でも、洞穴には魔物がいるかもしれないし……」
「その心配はいりません。実は私、ご主人様に雇われる前は冒険者でしたので」
そう言うと、マルトトーゼさんはダガーナイフを見せた。
「ご主人様、よろしいですよね?」
「あぁ……優秀な君だ。きっとサク様たちの役に立つだろう。頼んだよ」
「かしこまりました」
こうして、僕、エナ、オオガミ、マルトトーゼさん、そして後から合流するカナディアさんで、リシアちゃんの救出に向かうことになった。
人数は多いほうがいい。