お金が冒険で一番大事なもの~【お金】で何でも解決できる力を持っているのに、仲間のせいで今日も貧乏です~ 作:ダブルピース
「ウルフです! 皆様、お気をつけて。噛まれたら危険です。食いちぎられる可能性があります」
マルトトーゼさんは一本のダガーナイフを取り出し、刃先をウルフに向けた。
その声に、僕たちも戦闘態勢に入る。エナは魔法の準備、オオガミは盾と剣、僕は聖剣(ニセモノ)を構えた。
「……」
僕は、ちらりとマルトトーゼさんを見る。
マルトトーゼさんって強いのかな? 昔は冒険者だったって言っていたけど。
今さら心配になったが、他人の心配をしている場合じゃない。この中で一番弱いのは、治療師の僕だから。
いつも通り、攻撃は任せて、回復に専念しよう。
「もー! あんたのせいで敵に見つかったじゃない!」
「安心しろ! このオオガミ様がちょちょいと倒してやるよ!」
「……サク、こいつの頭、治せないかしら?」
「……無理だよ」
エナも呆れている。僕も呆れている。
あぁ、僕たち、生きて帰れるだろうか。この先が不安でしかない。
「あの、サク様」
「はい?」
僕たちを食おうとよだれを垂らすウルフ。足をガクガク震わせている僕。そんな僕に、マルトトーゼさんが尋ねてきた。
「オオガミ様は、いつもこんな感じなのでしょうか?」
「こんな感じ?」
「申し上げにくいのですが、その……奇行に走る、と言いますか」
「……すみません」
僕は、つい謝ってしまった。
オオガミのフォローは、どうしてもできなかった。
「来るわよ!」
エナの声に、僕とオオガミは返事をした。
ウルフの荒々しい咆哮が洞穴に響く。それに続いて、数多くの足音が聞こえてきた。一匹だったウルフが、ものの数秒で十匹に増える。
四足歩行で、体を覆う毛は鼠色。一瞬見えた牙は鋭く、噛まれたら大ケガは確実だ。獲物を狙う目は黄色く光っていた。
ウルフたちはすぐに、僕たちを囲むように配置についた。どこから来るかと警戒していると、最初に襲いかかったのは、オオガミの前にいた一匹だった。
「オオガミ!」
僕は叫ぶ。
オオガミが構えた盾に、ドンッと衝突音が響いた。
かなりの威力だったらしく、オオガミは歯を食いしばって、飛ばされないよう踏ん張っている。
「おらっ!」
オオガミが盾で押し返すと、ウルフは宙で体勢を立て直し、見事に着地。まったくダメージを受けた様子はない。
僕はオオガミの後ろに避難する。いつ誰が負傷するか分からない。いつでも治療できるように準備だ。
「エナ、マルトトーゼさん、密集して僕を守って! 僕は治療するから!」
全方向からウルフが一斉に襲ってきても対応できるように、エナ、オオガミ、マルトトーゼさんは、僕を囲む陣形を組み直した。
ウルフの鳴き声を合図に、群れが一斉に突撃してくる。大きく開いた口に、鋭い牙が並んでいた。
「エナ! 大丈夫!?」
一匹のウルフが、エナの腕に噛みついた。
「えぇ! コートを噛まれただけ!」
よかった。牙は腕まで届いていないようだ。
けれど、いくら振りほどこうとしても、ウルフの口は服を離さない。引っ張られて、エナの体が前のめりになる。
グルルルル!
その隙を狙って、もう一匹のウルフがエナに近づいてきた。
まずい、とエナは強く腕を振るが、ウルフはなかなか離れない。
「私に噛みつくんじゃないわよっ! バカ犬!!」
怒号とともに、エナの怪力が発動した。
噛みついて離さないウルフを、軽々と持ち上げ、そのまま力強く地面へ叩きつける。
地面にはひびが入り、ウルフは弱々しい鳴き声を上げて倒れた。
そして、次に襲いかかってきたウルフを迎え撃つため、エナは手のひらに血で文字を書いた。
「英雄リリーアの第3の魔法……インプレっ……インプっ……おりゃぁぁぁぁぁ!」
エナは、呪文を唱えるのを諦めた。
拳を力いっぱい振りかぶり、飛びかかってきたウルフの顔面に叩き込む。さっきまで赤い光を宿していた手は、ウルフの血で赤く染まっていた。
ウルフ二匹は、魔法使いのエナに、魔法ではなく物理で倒された。
その戦いぶりに、マルトトーゼさんはウルフの攻撃をナイフで防ぎながら、驚愕している。
そりゃそうだろう。魔法使いが殴って戦っているんだから……。
僕とオオガミも、最初はそうだった。今は見慣れたけれど、初めて見た時は「殴るのかよ!」と驚いたものだ。
残り八匹。僕はオオガミのほうを見る。
オオガミも戦闘中だった。体を小さく縮めて、ウルフの攻撃を盾で受け止めている。
「来やがれ!! うおおおおおおおおおお!!」
オオガミは雄叫びを上げた。
その荒々しい声を脅威に感じたのか、三匹のウルフが、オオガミの盾めがけて体当たりをする。
盾越しに、無数の衝撃がオオガミを襲う。直接当たってはいないのだが、一方的に攻められているように見えて、思わず心配になってしまう。
「オオガミ、大丈夫?」
「へへへっ! 余裕だぜ!」
「怪我したらすぐに治すから、無理しないでね!」
「おうよ! 頼んだぜ、サク!」
オオガミの眩しいほどの笑顔に、ほっとする。
剣と盾を強く握りしめると、いつものバカなオオガミが、頼れる騎士の顔に変わった。
「さぁ! 先に死にたい奴は誰だ?」
オオガミは盾をバンバンと叩きながら、今日一番の大声を上げる。
何かまずいと警戒したのか、ウルフたちは攻撃をやめて、後ろに下がって様子をうかがった。
グルルルル! グオッ!
一匹のウルフが襲いかかる。
「アルティメットボンバぁぁぁぁぁ!」
オオガミは剣を振り下ろし、ウルフの体に致命の一撃を叩き込んだ。
ちなみに「アルティメットボンバー」は、魔法でも能力でもない、ただの掛け声だ。オオガミいわく、必殺技っぽいことを叫びながら剣を振ると、いつもより力が出るらしい。
いちいち叫ぶのでうるさいけれど、ウルフは確かに仕留められた。
仲間がやられたことで、残りの二匹は「グルルルル」と喉を鳴らして威嚇する。
「まとめてかかってきてもいいんだぜ?」
ニヤニヤするオオガミに向かって、ウルフたちは一斉に全力疾走した。噛み殺そうと牙をむき、二匹同時に飛びかかる。
その瞬間を狙って、
「無駄だぜ! ビッグバンシールド!」
オオガミは盾を前に押し出した。衝撃波が二匹を吹き飛ばし、壁に激突させる。
威力が凄まじいことを示すように、ウルフたちがぶつかった壁には、大きなヒビが入っていた。
ちなみに、ビッグバンシールドも気合を入れるための掛け声だ。
「どうだっ。俺様、強ぇだろ」
オオガミは大きく笑った。
おいおい……まだウルフは残っているんだぞ。そう思いながら周りを見ると、残りのウルフはエナが相手をしていた。
「サク、それ貸して!」
「え? あ、うん」
エナは、殴って噛まれるのを避けたいのか、手を差し出して僕に聖剣(ニセモノ)を要求してきた。
急いで渡すと、エナは鞘を抜かないまま構える。
剣をくるくると器用に回し、勢いよく跳躍。着地と同時に、ウルフの頭に剣を振り下ろした。
頭蓋骨にひびが入ったのか、「グェェェ!」という痛々しい悲鳴が上がる。
残り二匹のウルフが爪で襲いかかるが、エナは軽々と回避した。次の攻撃が来る前に、剣を横に振り抜き、二匹をまとめて吹き飛ばす。
エナは「ふぅ」と息をつき、剣をくるくると回して、肩に担いだ。
「やっぱり、殴ったほうが早いわね」
なにその、魔法使いが言わなさそうな台詞は。……まぁ、いいか。
なんとか、ウルフは全滅させることができた。毛皮や肉は売れそうだけど、そんな暇はないか……。
「やったね。エナ、オオガミ」
僕が声をかけると、二人は笑顔で返事をした。
よかった。二人とも、ケガはないみたいだ。「マルトトーゼさんは?」と振り向くと、マルトトーゼさんは目を丸くして僕たちを見ていた。そして「……あり得ない」と独り言を漏らす。
どうやら、僕たちの強さに驚いているらしい。まさか、オオガミとエナだけでウルフを倒すとは思わなかっただろう。
僕は「どうだ」とドヤ顔で、マルトトーゼさんを見た。
……まぁ、僕は何もしていないんですけど。