お金が冒険で一番大事なもの~【お金】で何でも解決できる力を持っているのに、仲間のせいで今日も貧乏です~   作:ダブルピース

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第4話

 夕飯を食べ終えた僕たちは、明日の依頼に備えて休息を……取る前に、お風呂に入ることにした。

 僕とオオガミは一日くらい入らなくても平気なのだが、うちのワガママ女王はそうはいかない。

 まぁ、年頃の女の子だ。身体を綺麗に保ちたいのだろう。

 それに今日はゴブリンに追いかけ回されたせいで、僕も汗を流したい気分だ。

 

「ふふーん♪お風呂、お風呂♪」

 

 上機嫌なエナを先頭に、大通りを歩く。

 行き先は銭湯……だったらよかったのだが、僕らにそんな金はない。向かうのは、街から離れた場所にある川だ。

 とはいえ、川だからとバカにできない。

 以前たまたま見つけた大きなツボに水を汲み、エナの火の魔法で温めれば、体の芯までぽかぽかになる即席風呂の完成だ。湯船に浸かりながら見上げる夜空はとても神秘的で、心も体も癒してくれる。

 

「ビール、キンキンに冷えてますよ!」

「紅鳥の串焼き、焼きたてです!」

「お兄さん!可愛い娘、揃ってるよ!安くするから寄っててよ」

 

 夜になったこの街は、昼とは別の顔をしていた。

 肉、酒、ギャンブル。あらゆる娯楽が、容赦なく僕たちに襲いかかってくる。

 ちらりと横を見ると、エナは串焼きの露店を見つめてよだれを垂らし、オオガミはセクシーな格好をしたお姉さんを見て、鼻の下を伸ばしていた。

 

「……二人とも、お金がないんだから我慢だよ」

「わ、わかってるわよ!いちいち言われなくても我慢できるわ!私はおしとやかな女なんだから!」

 

 そう言いながら、エナは「匂いだけならタダなんだから」とスーハースーハーと串焼きの煙を吸い込んでいる。

 どこがおしとやかなんだ……と思ってしまうが、口には出さないでおこう。

 

「おいサク! あそこのガールズバー行ってみようぜ! 俺が女の扱い方を教えてやるよ!」

 

 オオガミは興奮気味に、僕の肩をバシバシと叩いてくる。

 こいつ、さっき我慢しろって言ったばかりだろ。

 呆れた僕は、オオガミの脇腹を軽く小突いた。

 

 ぐぅ、とお腹を鳴らしながら大通りを歩いていると、

 

「お願いします……」

 

 小さなケーキ屋の前で一人の女の子が今にも泣きそうな顔をしながら、ケーキ屋の店主に頭を下げていた。

 小さな手をぎゅっと握りしめ、唇を噛んで、必死に涙をこらえている。

 この子、7歳くらいかな……?

 

「お願いします……ぐすっ」

 

 正義感の強いオオガミは無視できなかったらしく、真っ先に女の子に近づいた。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

 オオガミが話しかけた、その瞬間。

 

「うわーーーん!」

 

 こらえていた涙が一気に溢れ、女の子は大声で泣き出してしまった。

 

「うお! どうしたんだ? 腹でも痛いのか?」

「そんなわけないでしょ!?あんたの顔が怖くて泣いてるのよ!ちょっと代わりなさい」

 

 今度はエナが話しかける。

 姿勢を低くして、女の子と目線を合わせた。

 

「怖かったよねー?あんなゴブリンみたいな男に話しかけられたら」

「うえーん」

「どうして泣いてるのかな?よかったら、お姉ちゃんに教えてくれる?」

「うわーーん!」

「ちょっと、いい加減泣きやみなさいよ!いい?女はね、辛いことがあっても強く生きていかなきゃいけないの!」

「何やってるのさ、エナ!」

 

 女の子の肩を掴んで説教を始めたエナを、僕は慌てて止めに入った。

 

「ふん……これだから子供は嫌いなのよ」

 

 エナは立ち上がり、ぷいと背を向ける。

 

「さぁ、二人とも、早く行くわよ」

「え!?諦めるの!?僕たち、この子を泣かせただけなんだけど」

「私は早くお風呂に入りたいの!こんなところで道草を食ってる場合じゃないのよ」

「ちょっと待ってよ!」

 

 エナはさっさと先へ行こうとするが、このまま女の子を放っておくわけにはいかない。

 今度は僕が何とかしてみよう。

 とはいえ、この様子では女の子から事情を聞き出すのは難しそうだ。

 

「あのー、一体何があったんですか?」

 

 そこで僕は、女の子が頭を下げていたケーキ屋の店主に聞いてみることにした。

 すると店主は、こちらを見て深いため息をつき、「ちょっと助けてくれよ」と、うんざりした顔で言った。

 

「ケーキは売れないって言っても、この子が帰ってくれないんだよ」

「なんで売らないんですか? この子の手持ちが足りないから?」

「いや、そうじゃねぇけど……」

「じゃあなんで売らないんだよ」

 

 オオガミが店主に詰め寄った。

 強面で睨みつけられ、店主はすっかり怯えている。

 

「しょうがないだろ!俺だって売ってやりたいんだよ! でも、もう売るケーキがないんだ!」

 

 店主の言うとおり、ショーケースの中は空っぽで、ケーキは一つも残っていなかった。

 

「じゃあ今から作れ」

「材料がないんだよ! 買い出しに行きたくても、もうこんな時間だ。八百屋もパン屋も閉まっちまってる」

「なんとかしろ。ケーキ屋だろ?」

「そんな無茶な!!」

 

 どうしようもない状況だった。

 売るケーキもなければ、作る材料もない。それに近くにケーキを売っている場所はない。

 

「お嬢ちゃん、ケーキの予約しといてやるから、明日うちに来な」

「ダメ! 今日じゃないとダメなの!」

「どうしてだ?」

「だって今日……お母さんの誕生日だもん」

「そいつは……困ったな」

 

 店主が唸り声を上げる。

 困り果てた僕と店主の前で、女の子はぽろぽろと大粒の涙をこぼした。

 

「どうしよ……お母さんに美味しいケーキを買ってくるって約束したのに……ぐすっ……」

「……」

 

 その言葉に、僕は静かに目を伏せた。

 そして女の子の前にしゃがみ込み、目線を合わせる。怖がらせないよう、できるだけ優しい声で話しかけた。

 

「そっか。じゃあ、とびっきり美味しいケーキを用意しないとね」

「え?」

 

 そっと肩に手を乗せると、女の子は驚いたように目を丸くした。

 

「ねぇ、持ってる硬貨を、ちょっと僕に貸してくれるかな?」

 

 僕が手を差し出してお願いしていると、横で見ていたエナがちょっかいを出してくる。

 

「サクも悪い男ね。その子のお金を持ち逃げするつもりなんでしょ?」

「しないよ!分かってるだろ!?アレをやるんだよ」

 

 エナのせいで、女の子はすっかり警戒してしまった。それでも恐る恐る、僕の手のひらに硬貨を置いてくれた。

 

「ちょっと!材料はないって言ってるだろ!?どうやって作るんだよ?」

「まぁ、見ててください。ねぇ、どんなケーキがいい?」

 

 さっきまで泣いていた女の子の顔が、ぱっと明るくなる。

 

「イチゴがいっぱい乗ってるやつ!お母さん、大好きなんだ」

「ショートケーキだね。よし、僕に任せて」

 

 僕が親指を立てると、店主が呆れたように言った。

 

「おいおい、一体何するつもりだよ?」

「僕の力を使うんですよ」

「……力?」

「はい。あんまり自慢できるような力じゃないですけど、それじゃさっそく」

「……お兄ちゃん」

 

 女の子が不安げに僕を見上げる。

 この子にはもう僕しか頼れる人がいない。必ず成功させないと。

 僕は安心させるように微笑んで、女の子の頭をゆっくりと撫でた。

「取引」

 

 僕は一枚の硬貨を親指で弾き、空中に飛ばした。

 子供と店主が黙って見守る中、硬貨が白く輝き出す。空中に光の粒が舞い始め、それらは渦を描くように集まって、形を成していく。

 

「……成立」

 

 一瞬の閃光。

 次の瞬間、僕の手のひらの上には、イチゴが山ほど乗った豪華なケーキが現れていた。

 よし、成功だ。

 

「わぁ……!」

 

 女の子の目が輝き、一歩前に進み出る。

 

「な……これはすごい。一瞬でケーキができやがった」

 

 店主は目を疑うように、一歩後ずさった。

 

「これでお母さん、喜ぶと思うよ」

 

 僕はケーキを差し出した。

 女の子は小さな手で皿を受け取ると、甘い香りに目を細め、可愛い笑顔を見せた。そして、嬉しそうに頬を赤くさせながら「美味しそう……!」と小さく呟いた。

 

「すみません。崩れないように、箱に入れてもらえませんか?」

「お、おう。そうだな」

 

 店主はケーキを箱に詰めると、おまけにロウソクまで入れてくれた。

 

「お嬢ちゃん、落とさないように気をつけろよ」

「うん! お兄ちゃん、ありがとう」

「お母さん、いい誕生日になるといいね」

 

 僕が優しく言うと、女の子は力強く頷いた。

 

「うん! じゃあね!」

 

 女の子は大事そうにケーキを持ちながら、駆けていく。

 その後ろ姿を見送りながら、僕は軽く手を振った。

 すると隣で、エナが「あ!」と何かを思い出したように大声を上げた。

 

「ケーキのお代と手間賃、もらい忘れたわ!私、請求してくる!」

「やめてよ!」

 

 エナはオオガミに羽交い絞めにされる。

 

「離しなさいよ、バカオオガミ!コラー!金払えーーーー!」

「ほら、早くお風呂に入るよ」

 

 暴れるエナを運びながら、僕らは再び歩き出した。

 そのとき、ケーキ屋の店主と目が合ってしまった。店主はさっきの不思議な出来事に、びっくりした顔で僕をじっと見つめている。

 眉をひそめ、何か言いかけては、言葉を探しているようだった。そして、ようやく絞り出すように問いかけてくる。

 

「……一体何者なんだ? 材料もないのに一瞬でケーキを作るなんて、まさか神様か何かか?」

「神様だなんて、そんな。ただの未熟者(ぺーぺー)の冒険者ですよ」

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