お金が冒険で一番大事なもの~【お金】で何でも解決できる力を持っているのに、仲間のせいで今日も貧乏です~ 作:ダブルピース
夕飯を食べ終えた僕たちは、明日の依頼に備えて休息を……取る前に、お風呂に入ることにした。
僕とオオガミは一日くらい入らなくても平気なのだが、うちのワガママ女王はそうはいかない。
まぁ、年頃の女の子だ。身体を綺麗に保ちたいのだろう。
それに今日はゴブリンに追いかけ回されたせいで、僕も汗を流したい気分だ。
「ふふーん♪お風呂、お風呂♪」
上機嫌なエナを先頭に、大通りを歩く。
行き先は銭湯……だったらよかったのだが、僕らにそんな金はない。向かうのは、街から離れた場所にある川だ。
とはいえ、川だからとバカにできない。
以前たまたま見つけた大きなツボに水を汲み、エナの火の魔法で温めれば、体の芯までぽかぽかになる即席風呂の完成だ。湯船に浸かりながら見上げる夜空はとても神秘的で、心も体も癒してくれる。
「ビール、キンキンに冷えてますよ!」
「紅鳥の串焼き、焼きたてです!」
「お兄さん!可愛い娘、揃ってるよ!安くするから寄っててよ」
夜になったこの街は、昼とは別の顔をしていた。
肉、酒、ギャンブル。あらゆる娯楽が、容赦なく僕たちに襲いかかってくる。
ちらりと横を見ると、エナは串焼きの露店を見つめてよだれを垂らし、オオガミはセクシーな格好をしたお姉さんを見て、鼻の下を伸ばしていた。
「……二人とも、お金がないんだから我慢だよ」
「わ、わかってるわよ!いちいち言われなくても我慢できるわ!私はおしとやかな女なんだから!」
そう言いながら、エナは「匂いだけならタダなんだから」とスーハースーハーと串焼きの煙を吸い込んでいる。
どこがおしとやかなんだ……と思ってしまうが、口には出さないでおこう。
「おいサク! あそこのガールズバー行ってみようぜ! 俺が女の扱い方を教えてやるよ!」
オオガミは興奮気味に、僕の肩をバシバシと叩いてくる。
こいつ、さっき我慢しろって言ったばかりだろ。
呆れた僕は、オオガミの脇腹を軽く小突いた。
ぐぅ、とお腹を鳴らしながら大通りを歩いていると、
「お願いします……」
小さなケーキ屋の前で一人の女の子が今にも泣きそうな顔をしながら、ケーキ屋の店主に頭を下げていた。
小さな手をぎゅっと握りしめ、唇を噛んで、必死に涙をこらえている。
この子、7歳くらいかな……?
「お願いします……ぐすっ」
正義感の強いオオガミは無視できなかったらしく、真っ先に女の子に近づいた。
「おい、どうしたんだ?」
オオガミが話しかけた、その瞬間。
「うわーーーん!」
こらえていた涙が一気に溢れ、女の子は大声で泣き出してしまった。
「うお! どうしたんだ? 腹でも痛いのか?」
「そんなわけないでしょ!?あんたの顔が怖くて泣いてるのよ!ちょっと代わりなさい」
今度はエナが話しかける。
姿勢を低くして、女の子と目線を合わせた。
「怖かったよねー?あんなゴブリンみたいな男に話しかけられたら」
「うえーん」
「どうして泣いてるのかな?よかったら、お姉ちゃんに教えてくれる?」
「うわーーん!」
「ちょっと、いい加減泣きやみなさいよ!いい?女はね、辛いことがあっても強く生きていかなきゃいけないの!」
「何やってるのさ、エナ!」
女の子の肩を掴んで説教を始めたエナを、僕は慌てて止めに入った。
「ふん……これだから子供は嫌いなのよ」
エナは立ち上がり、ぷいと背を向ける。
「さぁ、二人とも、早く行くわよ」
「え!?諦めるの!?僕たち、この子を泣かせただけなんだけど」
「私は早くお風呂に入りたいの!こんなところで道草を食ってる場合じゃないのよ」
「ちょっと待ってよ!」
エナはさっさと先へ行こうとするが、このまま女の子を放っておくわけにはいかない。
今度は僕が何とかしてみよう。
とはいえ、この様子では女の子から事情を聞き出すのは難しそうだ。
「あのー、一体何があったんですか?」
そこで僕は、女の子が頭を下げていたケーキ屋の店主に聞いてみることにした。
すると店主は、こちらを見て深いため息をつき、「ちょっと助けてくれよ」と、うんざりした顔で言った。
「ケーキは売れないって言っても、この子が帰ってくれないんだよ」
「なんで売らないんですか? この子の手持ちが足りないから?」
「いや、そうじゃねぇけど……」
「じゃあなんで売らないんだよ」
オオガミが店主に詰め寄った。
強面で睨みつけられ、店主はすっかり怯えている。
「しょうがないだろ!俺だって売ってやりたいんだよ! でも、もう売るケーキがないんだ!」
店主の言うとおり、ショーケースの中は空っぽで、ケーキは一つも残っていなかった。
「じゃあ今から作れ」
「材料がないんだよ! 買い出しに行きたくても、もうこんな時間だ。八百屋もパン屋も閉まっちまってる」
「なんとかしろ。ケーキ屋だろ?」
「そんな無茶な!!」
どうしようもない状況だった。
売るケーキもなければ、作る材料もない。それに近くにケーキを売っている場所はない。
「お嬢ちゃん、ケーキの予約しといてやるから、明日うちに来な」
「ダメ! 今日じゃないとダメなの!」
「どうしてだ?」
「だって今日……お母さんの誕生日だもん」
「そいつは……困ったな」
店主が唸り声を上げる。
困り果てた僕と店主の前で、女の子はぽろぽろと大粒の涙をこぼした。
「どうしよ……お母さんに美味しいケーキを買ってくるって約束したのに……ぐすっ……」
「……」
その言葉に、僕は静かに目を伏せた。
そして女の子の前にしゃがみ込み、目線を合わせる。怖がらせないよう、できるだけ優しい声で話しかけた。
「そっか。じゃあ、とびっきり美味しいケーキを用意しないとね」
「え?」
そっと肩に手を乗せると、女の子は驚いたように目を丸くした。
「ねぇ、持ってる硬貨を、ちょっと僕に貸してくれるかな?」
僕が手を差し出してお願いしていると、横で見ていたエナがちょっかいを出してくる。
「サクも悪い男ね。その子のお金を持ち逃げするつもりなんでしょ?」
「しないよ!分かってるだろ!?アレをやるんだよ」
エナのせいで、女の子はすっかり警戒してしまった。それでも恐る恐る、僕の手のひらに硬貨を置いてくれた。
「ちょっと!材料はないって言ってるだろ!?どうやって作るんだよ?」
「まぁ、見ててください。ねぇ、どんなケーキがいい?」
さっきまで泣いていた女の子の顔が、ぱっと明るくなる。
「イチゴがいっぱい乗ってるやつ!お母さん、大好きなんだ」
「ショートケーキだね。よし、僕に任せて」
僕が親指を立てると、店主が呆れたように言った。
「おいおい、一体何するつもりだよ?」
「僕の力を使うんですよ」
「……力?」
「はい。あんまり自慢できるような力じゃないですけど、それじゃさっそく」
「……お兄ちゃん」
女の子が不安げに僕を見上げる。
この子にはもう僕しか頼れる人がいない。必ず成功させないと。
僕は安心させるように微笑んで、女の子の頭をゆっくりと撫でた。
「取引」
僕は一枚の硬貨を親指で弾き、空中に飛ばした。
子供と店主が黙って見守る中、硬貨が白く輝き出す。空中に光の粒が舞い始め、それらは渦を描くように集まって、形を成していく。
「……成立」
一瞬の閃光。
次の瞬間、僕の手のひらの上には、イチゴが山ほど乗った豪華なケーキが現れていた。
よし、成功だ。
「わぁ……!」
女の子の目が輝き、一歩前に進み出る。
「な……これはすごい。一瞬でケーキができやがった」
店主は目を疑うように、一歩後ずさった。
「これでお母さん、喜ぶと思うよ」
僕はケーキを差し出した。
女の子は小さな手で皿を受け取ると、甘い香りに目を細め、可愛い笑顔を見せた。そして、嬉しそうに頬を赤くさせながら「美味しそう……!」と小さく呟いた。
「すみません。崩れないように、箱に入れてもらえませんか?」
「お、おう。そうだな」
店主はケーキを箱に詰めると、おまけにロウソクまで入れてくれた。
「お嬢ちゃん、落とさないように気をつけろよ」
「うん! お兄ちゃん、ありがとう」
「お母さん、いい誕生日になるといいね」
僕が優しく言うと、女の子は力強く頷いた。
「うん! じゃあね!」
女の子は大事そうにケーキを持ちながら、駆けていく。
その後ろ姿を見送りながら、僕は軽く手を振った。
すると隣で、エナが「あ!」と何かを思い出したように大声を上げた。
「ケーキのお代と手間賃、もらい忘れたわ!私、請求してくる!」
「やめてよ!」
エナはオオガミに羽交い絞めにされる。
「離しなさいよ、バカオオガミ!コラー!金払えーーーー!」
「ほら、早くお風呂に入るよ」
暴れるエナを運びながら、僕らは再び歩き出した。
そのとき、ケーキ屋の店主と目が合ってしまった。店主はさっきの不思議な出来事に、びっくりした顔で僕をじっと見つめている。
眉をひそめ、何か言いかけては、言葉を探しているようだった。そして、ようやく絞り出すように問いかけてくる。
「……一体何者なんだ? 材料もないのに一瞬でケーキを作るなんて、まさか神様か何かか?」
「神様だなんて、そんな。ただの