お金が冒険で一番大事なもの~【お金】で何でも解決できる力を持っているのに、仲間のせいで今日も貧乏です~   作:ダブルピース

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第9話

 デルタさんはぴくりとも動かない。

 勝負あり……と思ったのだが。

 

「……まだだ」

 

 低い声とともに、巨体がむくりと起き上がった。

 腹を押さえてはいるが、目を見た感じ、まだ降参する気はなさそうだ。

 さすが町一番の狩人、タフすぎる。

 

「正直、お前のことを見くびっていた。強いな、お前」

「ふんっ……当たり前でしょ。これ以上痛い目に遭いたくなかったら、降参したほうがいいわよ」

「いや、今ので心に火がついた。どうしてもお前たちを狩りたくなった」

 

 デルタさんは背負っていた弓を外し、雪を蹴って後ろに跳んだ。一気に距離を取ると、矢を弓につがえる。

 

「殴られたお返しだ」

「エナ、来るよ!」

「分かってるわ!」

 

 嫌な予感がした僕は、エナに警告をする。

 エナは腰を低く落とし、いつでも躱せる体勢に入った。

 

「無駄だ。俺の矢からは逃げられない」

 

放たれた矢が、凄まじいスピードでまっすぐエナに飛んでくる。

だけどエナは横に跳んで、軽々と躱した。矢はそのまま通り過ぎていく

 

「無駄だ。俺の矢からは逃げられない……ぷぷぷ! カッコつけたくせに、簡単に避けられちゃったわね。ここは空気を読んで、当たってあげればよかったかしら?」

 

 デルタさんの声まねをしながら茶化すエナ。

 全然似てないし、ムカつく。

しかし当の本人は、冷静だった。

 戦いに集中して聞こえなかったのか? それとも、幼稚なエナを相手にしていないだけのか?

 ……いや、違う!

 

 

「エナ! 後ろ!」

 

まだデルタさんの攻撃は終わっていない。

 

「え?」

 

通り過ぎたはずの矢が、空中で軌道を変えた。まるで意思を持っているかのように、エナを追いかけていく。

 

「ちょっ……!」

 

 僕が大声を上げたおかげで、エナは間一髪で躱した。

 しかし矢は地面に刺さることなく、再び軌道を変えてエナに襲いかかる

 

「なによそれ! 曲がるなんて聞いてないわよ!」

 

 エナは慌てて走り出す。けれど矢は鋭く曲がり、確実に距離を詰めてくる。

 逃げても逃げても追ってくるのだ。

 

「俺の【追撃(ホーミング)】は、狙いを定めた瞬間に目に映っていた獲物を、当たるまで追い続ける。狩りにはもってこいな能力だ」

 

 これがデルタさんの能力か。

 マルトトーゼさんが「彼の矢は必ず獲物に当たる」と言っていたのは、この能力のことだったんだ。

 

「うわぁぁぁ! ストーカーじゃない! あっちに行きなさいよ、ストーカー矢!」

 

のんびり解説を聞いている場合じゃない。エナがピンチだ。

追いかけてくる矢から走って逃げているが、足元は雪。動きにくい足場に、とうとうエナは足を取られて転んでしまった。

ついに矢に追いつかれる。エナの体を貫く――

 

「おいおい、おっさん! 俺のことはスルーか?」

 

 オオガミが盾を構えて走り込み、エナの前に飛び込んだ。

 カァン! と甲高い音が響いて、矢が盾に弾かれる。

 力を失った矢は、雪の上にぽとりと落ちた。

 

「へへっ、どうだ! どんな攻撃でもガードする最強無敵のオオガミ様よ!」

 

 ナイス、オオガミ!

 普段は変なことばかりしているオオガミだが、仲間を守る姿は素直にカッコいい。

 

「しょうがないから助けてやったぜ、エナ。これで貸し一つだからな」

「遅いわよ、バカオオガミ! もっと早く来なさい!」

 

 怒鳴りつけたエナは、オオガミの背中に隠れた。そのまま、ぐいぐいと前へ押し出していく。

 

「おい! 何すんだ!」

「そのまま動くんじゃないわよ! 今からあんたは私の盾よ。盾なんだから、死んでも私を守りなさい」

「ちょっ! ちょっと待て! 押すなよ!」

 

 無茶苦茶だ。

 とはいえ、エナのやり方は悪くない。

 盾の後ろに隠れてしまえば、デルタさんが狙えるのはオオガミだけだ。オオガミに隠れながらデルタさんに近づく作戦は、いいと思う。

 デルタさんが次々と放つ矢は、オオガミの盾にことごとく弾かれていく。

 

「……甘いな」

 

 デルタさんは一度に矢を三本つがえた。しかも矢が少し違う。

 

「おい! なんか矢が燃えてるぞ! ちょっと待てエナ! やべーぞあれ!」

「構わず行きなさい。あいつの視界に入らない限り、私には当たらないんだから!」

「俺はどうなる!?」

「知らないわよ」

「このクソ女が!」

「追撃(ホーミング)。特殊弾、爆発矢!」

 

 先端に火を灯した三本の矢が、オオガミの盾めがけて飛んでくる。

 

「うおおおおおお!」

「きゃっ!」

 

矢が盾に触れた瞬間、爆発が起きた。凄まじい衝撃に、オオガミとエナは雪の上へ吹き飛ばされる。

 

「ちょっと! ちゃんと守りなさいよ!」

「うるせー! もう二度とお前を助けるか!」

 

 オオガミとエナが揉めている間にも、デルタさんの攻撃は止まらない。

 デルタさんは弓を空へ向けた。

 

「追撃(ホーミング)。特殊弾、分裂矢!」

 

 一本の矢が、空高くへ放たれる。

 矢は雲の下で光ると、数百本に分裂した。無数の矢が、雨のように降り注ぐ。

 

「うそでしょ!?」

「やべぇ!」

 

 あの数は、盾一枚じゃとても防ぎきれない。矢の雨が、僕たちめがけて迫ってくる。

 考える暇はなかった。

 僕は巾着から硬貨を一枚つかみ取り、足元へ投げつける。

 

 

「取引! かまくら!」

 

――かまくら……480ゴールド(雪地帯のため80%オフ)――

 

「成立!」

 

 硬貨が白く輝き、巾着から480ゴールドが消えた。

 直後、雪が盛り上がり、あっという間に半球状のかまくらが出来上がる。

 

「オオガミ! エナ! 中に入って!」

 

 僕たちは転がるようにかまくらへ飛び込んだ。

 ズガガガガガッ! と、外から激しい音が響く。天井にも壁にも、矢が次々と突き刺さっているのだ。

 

「ちょっとオオガミ! あんたデカすぎなのよ! 一回出なさい!」

「俺が串刺しになるじゃねぇかよ!」

 

 音が止むまで、僕たちはかまくらの隅で身を寄せ合った。

 ……ふぅ、なんとか助かった。

 かまくらの中は意外と暖かく、少しだけ落ち着くことができた。

 

「……ねぇ、あいつ熱くなりすぎじゃない? 私、何回も危ない目に遭ったんだけど?」

 

 エナがぶつぶつと文句を言う。

 

「まあまあ、そんなに怒らないでよ。でも、さすがデルタさんだね。どこまでも付きまとってくる矢……あれをやられたら、遠距離戦じゃ勝ち目がないよ」

「矢だけに、付き的い、ってか! はははははは!」

「……」

 

 一人で笑っているオオガミに呆れて、思わず無言になってしまう。

 エナもムカついたらしく、「黙ってなさい!」とオオガミの頭を叩いた。

 

「で、どうするのよ? このバカの盾で近づこうとしたけど、ダメだったし」

「あぁ、あんなにいっぱい矢が飛んできたら、防ぎようがないぞ」

「そうだね……」

 

 僕は頭を働かせて、さっきまでの戦いを思い出す。

 

「飛んでくる矢が厄介なら、矢を飛ばさせなければいい。どんなに凄腕でも、矢を放つまでには時間がかかるからね」

「飛ばさせない? どうやって? 言っとくけど、走っても間に合わないわよ」

「僕たちにも、遠距離攻撃があるじゃないか」

「サク、お前正気か? エナの魔法は役に立たな……ごほっ」

 

 オオガミが言い終わる前に、エナの拳が飛んできた。

 頬を押さえながら、オオガミがエナを睨む。

 

「てめー、何するんだよ!」

「誰が役に立たないですって!」

「本当のことだろうが!」

 

 また喧嘩してるし。どれだけ仲が悪いんだ、この二人は。

 

「ごめんごめん、言い方が悪かったね。魔法もいいけど、呪文を唱えている間に矢が飛んでくると思うから、今回はなしで」

「じゃあ何よ? 遠距離攻撃って」

 

 僕は足元の雪をすくい上げ、丸めて見せた。

 

「雪だよ」

 

 二人は一瞬ぽかんとしたあと、顔を見合わせる。

 そして、ニヤリと笑った。

 

「なるほどな。雪合戦ってことか」

「へぇ、悪くないじゃない。あの野郎に、私の剛速球を見せてやるわ」

 

 昼間の雪合戦が頭をよぎる。街中を大パニックにした二人の喧嘩が、まさかこんな形で役に立つなんて。

 

「僕が雪玉を作る。二人は思いっきり投げて」

「おう!」

「任せなさい!」

 

 作戦は決まった。あとは準備だけだ。

 デルタさんは鍛えているから、雪玉は固く握らないとダメージが通らないだろう。

 

「いつまで隠れているつもりだ。出てこないなら、このまま全部壊してやろうか」

 

 黙々と雪玉を作っていると、かまくらの外からデルタさんの声が聞こえた。

 どうやら待ちくたびれたらしい。

 僕たちは目を合わせて、うなずき合う。

 

「エナ、足引っ張るんじゃねぇぞ!」

「こっちのセリフよ」

 

 エナが拳を握りしめ、かまくらの壁を殴りつけた。

 ドゴォン! と音を立てて壁が砕ける。

 そこから、僕たちは勢いよく外へ飛び出した。

 

「ほう。やっと出てきたか」

 

 デルタさんが矢をつがえようとする。

 けれど、僕たちの動きのほうが早かった。

 

「今だ! 投げて!」

「喰らいなさい!」

「行くぜぇぇぇ!」

 

 僕は合図すると、オオガミとエナは、持っていた雪玉を力いっぱい投げた。

 ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!

 空気を裂く音とともに、雪玉が弾丸みたいにデルタさんへ飛んでいく。二人の剛速球が、機関銃のように降り注いだ。

 僕はひたすら雪玉を作って、足元に並べる。

 

「ぐっ……!これでは弓を引く暇が……!」

 

 矢をつがえようとしたデルタさんの肩に、雪玉が直撃する。

 もう一度構えようとすれば、今度は太もも。その次に手の甲。

 一発一発が重い。

 エナの玉は特に、当たるたびに「ガッ」と鈍い音がしていた。

 雪玉を作っては渡し、作っては渡し。製造係も案外忙しい。

 

「ま、待て……!」

「待たないわよ!」

 

 エナが投げた一球が、デルタさんの弓に命中した。

 弓は手から弾かれ、雪の中に突き刺さる。

 

「くそっ!」

 

 デルタさんは身をひるがえして、雪玉を避けた。

 すぐに次の雪玉が飛ぶ。さらにその次が。エナとオオガミが交互に投げるので、雪玉の雨は途切れない。

 僕も必死に雪を丸める。手が冷たい。でも、休んでいる暇はなかった。

 

「くっ……! うっ!」

 

 デルタさんは右へ左へ、跳んだり転がったりして避け続けている。

 すごい身のこなしだ。あれだけ投げても、なかなか当たらない。

 でも、避けている分だけ体力は削られていく。

 

「ぐっ……なめるなぁ!」

 

 デルタさんは転がりながら雪に刺さった弓をつかみ、無理やり矢をつがえて引き絞ろうとした。

 ほんの一瞬、動きが止まる。

 その一瞬を、エナは見逃さなかった。

 

「そこよっ!」

「ちょっとエナ!? それ雪玉じゃないよ!?」

 

 エナが投げたのは石だった。足元に落ちていた、こぶし大の石。

 石は一直線に飛んで、デルタさんの額にゴッ! と命中した。

 

「……が……っ」

 

 デルタさんは目を回し、そのまま雪の上に倒れ込む。

 手から離れた弓と矢が、雪にぽとりと落ちた。

 一瞬の静寂。

 

「殺った……?」

 

 僕は恐る恐る聞いた。

 

「やったわね」

 

 エナは腰に手を当て、フンと胸を張る。

 

「いやいやいや!僕が言っているのは違う、やっただよ、殺したほうのやっただよ!」

「やったやった、うるさいわね。これで、私の勝ちよ」

「いや、なんで石を投げたのさ! 雪玉を投げてって言ったよね!?」

「あれ~? 私、雪玉と間違えて石を投げちゃった? まぁ仕方ないわね。事故よ、事故」

 

 絶対嘘だ。絶対、石と分かって投げただろ?

 デルタさんにめちゃくちゃ狙われて怒ってたんだ。

 ……ほら、マルトトーゼさんも青い顔で見ているし。

 

「あの、エナ様。『相手を殺さなければ』と申し上げましたが……」

「殺してないわよ。ちゃんと手加減したもの」

「そ、そうですか」

 

 デルタさんの額には、立派なたんこぶができていた。幸い、生きているようだ。

 マルトトーゼさんは完全にドン引きしていた。

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