お金が冒険で一番大事なもの~【お金】で何でも解決できる力を持っているのに、仲間のせいで今日も貧乏です~ 作:ダブルピース
デルタさんはぴくりとも動かない。
勝負あり……と思ったのだが。
「……まだだ」
低い声とともに、巨体がむくりと起き上がった。
腹を押さえてはいるが、目を見た感じ、まだ降参する気はなさそうだ。
さすが町一番の狩人、タフすぎる。
「正直、お前のことを見くびっていた。強いな、お前」
「ふんっ……当たり前でしょ。これ以上痛い目に遭いたくなかったら、降参したほうがいいわよ」
「いや、今ので心に火がついた。どうしてもお前たちを狩りたくなった」
デルタさんは背負っていた弓を外し、雪を蹴って後ろに跳んだ。一気に距離を取ると、矢を弓につがえる。
「殴られたお返しだ」
「エナ、来るよ!」
「分かってるわ!」
嫌な予感がした僕は、エナに警告をする。
エナは腰を低く落とし、いつでも躱せる体勢に入った。
「無駄だ。俺の矢からは逃げられない」
放たれた矢が、凄まじいスピードでまっすぐエナに飛んでくる。
だけどエナは横に跳んで、軽々と躱した。矢はそのまま通り過ぎていく
「無駄だ。俺の矢からは逃げられない……ぷぷぷ! カッコつけたくせに、簡単に避けられちゃったわね。ここは空気を読んで、当たってあげればよかったかしら?」
デルタさんの声まねをしながら茶化すエナ。
全然似てないし、ムカつく。
しかし当の本人は、冷静だった。
戦いに集中して聞こえなかったのか? それとも、幼稚なエナを相手にしていないだけのか?
……いや、違う!
「エナ! 後ろ!」
まだデルタさんの攻撃は終わっていない。
「え?」
通り過ぎたはずの矢が、空中で軌道を変えた。まるで意思を持っているかのように、エナを追いかけていく。
「ちょっ……!」
僕が大声を上げたおかげで、エナは間一髪で躱した。
しかし矢は地面に刺さることなく、再び軌道を変えてエナに襲いかかる
「なによそれ! 曲がるなんて聞いてないわよ!」
エナは慌てて走り出す。けれど矢は鋭く曲がり、確実に距離を詰めてくる。
逃げても逃げても追ってくるのだ。
「俺の【
これがデルタさんの能力か。
マルトトーゼさんが「彼の矢は必ず獲物に当たる」と言っていたのは、この能力のことだったんだ。
「うわぁぁぁ! ストーカーじゃない! あっちに行きなさいよ、ストーカー矢!」
のんびり解説を聞いている場合じゃない。エナがピンチだ。
追いかけてくる矢から走って逃げているが、足元は雪。動きにくい足場に、とうとうエナは足を取られて転んでしまった。
ついに矢に追いつかれる。エナの体を貫く――
「おいおい、おっさん! 俺のことはスルーか?」
オオガミが盾を構えて走り込み、エナの前に飛び込んだ。
カァン! と甲高い音が響いて、矢が盾に弾かれる。
力を失った矢は、雪の上にぽとりと落ちた。
「へへっ、どうだ! どんな攻撃でもガードする最強無敵のオオガミ様よ!」
ナイス、オオガミ!
普段は変なことばかりしているオオガミだが、仲間を守る姿は素直にカッコいい。
「しょうがないから助けてやったぜ、エナ。これで貸し一つだからな」
「遅いわよ、バカオオガミ! もっと早く来なさい!」
怒鳴りつけたエナは、オオガミの背中に隠れた。そのまま、ぐいぐいと前へ押し出していく。
「おい! 何すんだ!」
「そのまま動くんじゃないわよ! 今からあんたは私の盾よ。盾なんだから、死んでも私を守りなさい」
「ちょっ! ちょっと待て! 押すなよ!」
無茶苦茶だ。
とはいえ、エナのやり方は悪くない。
盾の後ろに隠れてしまえば、デルタさんが狙えるのはオオガミだけだ。オオガミに隠れながらデルタさんに近づく作戦は、いいと思う。
デルタさんが次々と放つ矢は、オオガミの盾にことごとく弾かれていく。
「……甘いな」
デルタさんは一度に矢を三本つがえた。しかも矢が少し違う。
「おい! なんか矢が燃えてるぞ! ちょっと待てエナ! やべーぞあれ!」
「構わず行きなさい。あいつの視界に入らない限り、私には当たらないんだから!」
「俺はどうなる!?」
「知らないわよ」
「このクソ女が!」
「
先端に火を灯した三本の矢が、オオガミの盾めがけて飛んでくる。
「うおおおおおお!」
「きゃっ!」
矢が盾に触れた瞬間、爆発が起きた。凄まじい衝撃に、オオガミとエナは雪の上へ吹き飛ばされる。
「ちょっと! ちゃんと守りなさいよ!」
「うるせー! もう二度とお前を助けるか!」
オオガミとエナが揉めている間にも、デルタさんの攻撃は止まらない。
デルタさんは弓を空へ向けた。
「
一本の矢が、空高くへ放たれる。
矢は雲の下で光ると、数百本に分裂した。無数の矢が、雨のように降り注ぐ。
「うそでしょ!?」
「やべぇ!」
あの数は、盾一枚じゃとても防ぎきれない。矢の雨が、僕たちめがけて迫ってくる。
考える暇はなかった。
僕は巾着から硬貨を一枚つかみ取り、足元へ投げつける。
「取引! かまくら!」
――かまくら……480ゴールド(雪地帯のため80%オフ)――
「成立!」
硬貨が白く輝き、巾着から480ゴールドが消えた。
直後、雪が盛り上がり、あっという間に半球状のかまくらが出来上がる。
「オオガミ! エナ! 中に入って!」
僕たちは転がるようにかまくらへ飛び込んだ。
ズガガガガガッ! と、外から激しい音が響く。天井にも壁にも、矢が次々と突き刺さっているのだ。
「ちょっとオオガミ! あんたデカすぎなのよ! 一回出なさい!」
「俺が串刺しになるじゃねぇかよ!」
音が止むまで、僕たちはかまくらの隅で身を寄せ合った。
……ふぅ、なんとか助かった。
かまくらの中は意外と暖かく、少しだけ落ち着くことができた。
「……ねぇ、あいつ熱くなりすぎじゃない? 私、何回も危ない目に遭ったんだけど?」
エナがぶつぶつと文句を言う。
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。でも、さすがデルタさんだね。どこまでも付きまとってくる矢……あれをやられたら、遠距離戦じゃ勝ち目がないよ」
「矢だけに、付き的い、ってか! はははははは!」
「……」
一人で笑っているオオガミに呆れて、思わず無言になってしまう。
エナもムカついたらしく、「黙ってなさい!」とオオガミの頭を叩いた。
「で、どうするのよ? このバカの盾で近づこうとしたけど、ダメだったし」
「あぁ、あんなにいっぱい矢が飛んできたら、防ぎようがないぞ」
「そうだね……」
僕は頭を働かせて、さっきまでの戦いを思い出す。
「飛んでくる矢が厄介なら、矢を飛ばさせなければいい。どんなに凄腕でも、矢を放つまでには時間がかかるからね」
「飛ばさせない? どうやって? 言っとくけど、走っても間に合わないわよ」
「僕たちにも、遠距離攻撃があるじゃないか」
「サク、お前正気か? エナの魔法は役に立たな……ごほっ」
オオガミが言い終わる前に、エナの拳が飛んできた。
頬を押さえながら、オオガミがエナを睨む。
「てめー、何するんだよ!」
「誰が役に立たないですって!」
「本当のことだろうが!」
また喧嘩してるし。どれだけ仲が悪いんだ、この二人は。
「ごめんごめん、言い方が悪かったね。魔法もいいけど、呪文を唱えている間に矢が飛んでくると思うから、今回はなしで」
「じゃあ何よ? 遠距離攻撃って」
僕は足元の雪をすくい上げ、丸めて見せた。
「雪だよ」
二人は一瞬ぽかんとしたあと、顔を見合わせる。
そして、ニヤリと笑った。
「なるほどな。雪合戦ってことか」
「へぇ、悪くないじゃない。あの野郎に、私の剛速球を見せてやるわ」
昼間の雪合戦が頭をよぎる。街中を大パニックにした二人の喧嘩が、まさかこんな形で役に立つなんて。
「僕が雪玉を作る。二人は思いっきり投げて」
「おう!」
「任せなさい!」
作戦は決まった。あとは準備だけだ。
デルタさんは鍛えているから、雪玉は固く握らないとダメージが通らないだろう。
「いつまで隠れているつもりだ。出てこないなら、このまま全部壊してやろうか」
黙々と雪玉を作っていると、かまくらの外からデルタさんの声が聞こえた。
どうやら待ちくたびれたらしい。
僕たちは目を合わせて、うなずき合う。
「エナ、足引っ張るんじゃねぇぞ!」
「こっちのセリフよ」
エナが拳を握りしめ、かまくらの壁を殴りつけた。
ドゴォン! と音を立てて壁が砕ける。
そこから、僕たちは勢いよく外へ飛び出した。
「ほう。やっと出てきたか」
デルタさんが矢をつがえようとする。
けれど、僕たちの動きのほうが早かった。
「今だ! 投げて!」
「喰らいなさい!」
「行くぜぇぇぇ!」
僕は合図すると、オオガミとエナは、持っていた雪玉を力いっぱい投げた。
ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ!
空気を裂く音とともに、雪玉が弾丸みたいにデルタさんへ飛んでいく。二人の剛速球が、機関銃のように降り注いだ。
僕はひたすら雪玉を作って、足元に並べる。
「ぐっ……!これでは弓を引く暇が……!」
矢をつがえようとしたデルタさんの肩に、雪玉が直撃する。
もう一度構えようとすれば、今度は太もも。その次に手の甲。
一発一発が重い。
エナの玉は特に、当たるたびに「ガッ」と鈍い音がしていた。
雪玉を作っては渡し、作っては渡し。製造係も案外忙しい。
「ま、待て……!」
「待たないわよ!」
エナが投げた一球が、デルタさんの弓に命中した。
弓は手から弾かれ、雪の中に突き刺さる。
「くそっ!」
デルタさんは身をひるがえして、雪玉を避けた。
すぐに次の雪玉が飛ぶ。さらにその次が。エナとオオガミが交互に投げるので、雪玉の雨は途切れない。
僕も必死に雪を丸める。手が冷たい。でも、休んでいる暇はなかった。
「くっ……! うっ!」
デルタさんは右へ左へ、跳んだり転がったりして避け続けている。
すごい身のこなしだ。あれだけ投げても、なかなか当たらない。
でも、避けている分だけ体力は削られていく。
「ぐっ……なめるなぁ!」
デルタさんは転がりながら雪に刺さった弓をつかみ、無理やり矢をつがえて引き絞ろうとした。
ほんの一瞬、動きが止まる。
その一瞬を、エナは見逃さなかった。
「そこよっ!」
「ちょっとエナ!? それ雪玉じゃないよ!?」
エナが投げたのは石だった。足元に落ちていた、こぶし大の石。
石は一直線に飛んで、デルタさんの額にゴッ! と命中した。
「……が……っ」
デルタさんは目を回し、そのまま雪の上に倒れ込む。
手から離れた弓と矢が、雪にぽとりと落ちた。
一瞬の静寂。
「殺った……?」
僕は恐る恐る聞いた。
「やったわね」
エナは腰に手を当て、フンと胸を張る。
「いやいやいや!僕が言っているのは違う、やっただよ、殺したほうのやっただよ!」
「やったやった、うるさいわね。これで、私の勝ちよ」
「いや、なんで石を投げたのさ! 雪玉を投げてって言ったよね!?」
「あれ~? 私、雪玉と間違えて石を投げちゃった? まぁ仕方ないわね。事故よ、事故」
絶対嘘だ。絶対、石と分かって投げただろ?
デルタさんにめちゃくちゃ狙われて怒ってたんだ。
……ほら、マルトトーゼさんも青い顔で見ているし。
「あの、エナ様。『相手を殺さなければ』と申し上げましたが……」
「殺してないわよ。ちゃんと手加減したもの」
「そ、そうですか」
デルタさんの額には、立派なたんこぶができていた。幸い、生きているようだ。
マルトトーゼさんは完全にドン引きしていた。