修学旅行で買った『龍が巻き付いた金のキーホルダー』。伝説の呪具だった 作:鳥人間コンテスト
禪院家という家系が存在する。
そこは、現代にして未だ女尊男卑ならぬ男尊女卑、呪術師尊重、実力主義が蔓延る負の温床。
呪術師として優秀であれば重宝され、そうでなければ見下される。男であれば多少の失敗は許されるが、女であれば些細な失敗さえ許されない。
生まれ持った才能が、その人間の価値を決める。術式の有無で人生の勝敗が最初から決まる狂った世界。
そんな雰囲気が、さも当然のようにまかり通っている場所だった。
そんな禪院家に、とある双子の少女がいた。
禪院真依と、禪院真希。
双子であるにもかかわらず、二人に与えられた扱いは平等ではなかった。
姉の真希は、呪力を一般人程度しか持たず、呪術師としての才能がないと見なされていた。妹の真依もまた、禪院家が求めるほどの才能を持っていなかった。
もっとも、真依の場合は少し事情が違った。
彼女には術式があった。
しかし、それは禪院家の人間が望むような、優れた術式ではなかった。構築術式。使えるものなどほとんどいない術式。
彼女は蔑まれた。
才能がないと罵られ、役立たずと笑われ、時には暴力を振るわれる。
姉と一緒にいれば、二人まとめて馬鹿にされた。
姉から離れれば、今度は一人で標的にされた。
どこへ逃げても、何をしても、結局は同じ。
禪院家という檻の中で、真依に安息の場所などなかった。
真依は、勝負の土俵にさえ立つ事を許さないそれが、自分の術式が嫌いだった。
そんなある日のこと。
真依は、中学校の修学旅行に行っていた。沖縄にいった。そこで、見つけた。
「なに、このだっさいキーホルダー……」
影の薄い売店で売られていたのは、呪力を纏った呪具だった。だが、他に置いてある物に呪力を纏っているものはないし、売人も呪術師って感じではなかったので、きっとたまたまこの呪具が置いてあるだけなんだろうなと思った。
そのときだった。
『僕のこと、使う?できれば、使ってくれたらありがたいなぁ……一応伝説の呪具や』
「……え?」
中学生くらいだろうか。少なくとも、真依とそう変わらない年頃の少年の声に聞こえた。
しかし、周囲には誰もいない。
真依は思わず振り返った。
「……誰?」
返事はない。
気のせいだったのだろうか。
ふと、声が聞こえたその方向を見てみると、
まばらに置いてある雑品の中に、金色の剣があった。
いや、剣というには、あまりにも小さい。
全長数センチ程度。刃の部分は金色に輝き、柄には龍が巻きつき、小さな輪が取り付けられている。
どう見ても、剣を模したキーホルダーだった。
修学旅行のお土産屋にでも置いてありそうな、安っぽいデザイン。
少なくとも、由緒正しい呪具には見えない。
「……?」
真依は、しばらくキーホルダーを見つめた。
そして、拾った。
瞬間。
頭が、妙に冴えた。
「……なに?」
なんだろう。
別に、何かが劇的に変わったわけではなんらない。
ただ、いつもならぼんやりとしか考えられないことが、妙にはっきりと頭に浮かんでくる。
周囲の音が、少しだけ鮮明に聞こえる。
考え事をしても、普段のように思考が脱線しない。
不思議な感覚だった。
「これ……買っていい?」
売人に尋ねた。
「ん?なんだそれ……」
男は真依の手元を覗き込み、眉をひそめた。
「……キーホルダーか?あれ、そんなもん取り扱ってたかな……まあ、ウチはいろんなガラクタを取り寄せてる生粋のマニアだ。買ってくかい?」
男はキーホルダーを一瞥し、
「300円でいいぞ」
「いいの?」
「ほんと、客に聞くような質問じゃないが、誰がそんなもん欲しがるんだよ。金取る方が申し訳ない程だよ。ま、こっちも商売だ。金銭のやり取りだけはさせてもらう」
売人は椅子に座り、帽子で目元を隠したままそう言い放った。
☆
「買っちゃった……」
手の中のキーホルダーを見つめる。
金色の小さな剣。
四流呪具……といっても差し支えはない呪力。
そんな評価が正しいそれは、しかし、真依にはどこか暖かい雰囲気を感じさせる。
「……変な呪具ね」
そう呟いて、真依はキーホルダーをポケットにしまった。
☆
修学旅行が終わり帰った舞依。
その晩、布団に潜り込んでいた。
禪院家の屋敷は、夜になると静かになる。
だが、その静けさが真依に安らぎを与えてくれるわけではない。
明日になれば、一日が始まる。
馬鹿にされ、見下され、姉のことを考えては、自分の無力さを思い知らされる。
そう考えると、眠るのさえ嫌になる。
「……はぁ」
ため息をつき、ポケットからキーホルダーを取り出す。
金色の剣は、月明かりを受けて鈍く光っていた。
なんなんだろう。この呪具は。
そう思うものの、真依はキーホルダーを手放さなかった。
なぜだか、手放したくなかった。
理由はわからない。
ただ、これを持っていると、ほんの少しだけ気が楽になるのだ。
まるで、誰かがそばにいてくれるような。
そんな気がした。
改めて、
「……変な呪具……」
真依は、キーホルダーを握りしめて、そして、目を閉じる。
☆
翌日。
真依は、いつもどおりヒソヒソと誰かから隠れる様にして禪院家の屋敷を歩いていた。
ポケットには、例のキーホルダーが入っている。
不思議なことに、キーホルダーを持っていると、頭が冴える気がする。
気のせいかもしれない。
けれど、ただの気のせいにしては、あまりにもはっきりとした変化だった。
そんなことを考えていたときだった。
「なあ、真依ちゃん」
見たかった。聞きたくもない声がした。
禪院直哉。
禪院家の人間であり、真依にとっては、できることなら一生関わりたくない相手だ。
「……なに?」
「なんや、そんな怯えんでもええやろ」
直哉は、にやにやと笑っていた。
その目は、虫でも見下すかのように冷たく……
「ちょっと話しかけただけやん。ほんま、愛想ないなあ」
「……ごめんなさい」
「は?なんで謝ってるん?」
直哉は笑った。
「ほんま、おもろいなぁ、舞依ちゃんは」
真依は、俯いた。
どうせ、何を言っても無駄なんだ。謝っても、謝らなくても、結局は同じ。
そう思った瞬間、直哉が拳を振り上げた。
また殴られる。
そう思った。
しかし。
「……え?」
真依は、思わず顔を上げた。
直哉の拳が、妙にゆっくりと見えた。
いや、違う。
拳が遅くなったわけではない。
自分の頭が、異常なほど冴えているのだ。
見える。見えるぞ!そう言わんばかりに安易と、その拳の軌道が読めた。
拳が飛んでくるまでの、ほんのわずかな時間。
それらが、まるで一つ一つ分解されたかのように理解できる。
真依は、反射的に身体を動かした。
拳が頬をかすめる。
だが避けた。
直哉の拳を。
いつもなら、何もできずに殴られていたはずなのに。
「……は?」
直哉の顔から、笑みが消えた。
「今、避けたん?」
「……え?」
「いや、避けたやろ。なんで?どうやって?」
「……わ、わからない……」
真依自身、何が起きたのか理解できていなかった。
ただ、わかったのだ。
拳がどこから飛んでくるのか。
どの方向に身体を動かせばいいのか。
どうすれば、攻撃を避けられるのか。
それらが、考えるまでもなく頭に浮かんできた。
直哉は舌打ちした。
「……調子乗んなや」
次の瞬間、彼の動きが変わった。
投射呪法。
自分の動きを一秒間を24分割し、あらかじめ作った動作を再現する術式。
直哉の姿が、周囲からみればなくなった様に感じる猛スピード。大人がない。今度こそ運良くは避けられない。そう覚悟した。
しかし。
見える。
真依は、目を見開いた。
速い。あまりにも速い。
なのに、動きがわかる。
次にどこへ移動するのか。
どのような軌道で攻撃してくるのか。
何を狙っているのか。
それらが、とても恐ろしいほど鮮明に理解できた。
頭の中で、無数の可能性が組み立てられて、可能性が、現実に昇華される。
避けるべく行動する。
右に動く。いや、違う。その場合、次の攻撃が来る。
ならば、左。いや、そこも駄目だ。直哉の動きを読み、最適な行動を選択する。思考が止まらない。頭が爆発しそうな超絶思考。
まるで、自分の頭の中に、何万人もの自分がいるようなマトリョーシカ。
そして、真依は直哉の攻撃を避けた。
だが、直哉の指先が、真依の身体に触れた。
投射呪法のもう一つの性質。
術式によって作られた動きを強制され、それに従えなければ、一秒間の硬直が発生する。
普通なら、初見で対処できるものではない。
しかし。
――24フレーム。
――動作の分割。
――1秒間の動き。
――事前に決められた軌道。
それらの情報が、瞬時に頭の中で整理された。
真依は、自分の身体に触れられた瞬間、動きを組み立て終えていた。
硬直は起きなかった。
そして、そのまま直哉の横をすり抜ける。
「なっ……!」
直哉の驚愕を背に、真依は走った。
走って、走って、走り続けた。
誰もいない場所まで逃げてから、ようやく足を止める。
「はぁっ……はぁっ……!」
心臓がうるさい。
手足が震えている。
けれど、それ以上に、頭の中が異常なほど冴え渡っていた。
「な、なに……今の……」
真依は、ポケットに手を入れた。
金色のキーホルダーを取り出す。
小さな剣。
ただのキーホルダーにしか見えない。
しかし、これを持ってから、明らかに自分の集中力が変わっている。知力も変わっている。
考える力が。
物事を理解する力が。
そして、状況に対処する力が。
その全てが、今までとは比べものにならないほど、強くなっていた。
「……もしかして」
真依は、キーホルダーを握りしめた。
「これが……原因?」
返事はない。
何も答えてはくれない。
それでも、真依は、キーホルダーをそっと胸元に押し当て、
「……ありがとう」
小さく、そう呟いた。
☆
古くからまことしやかに、呪術師に語り継がれてきた伝説の呪具がある。
その名は、『田中』。
あまりにも小さく、あまりにも奇妙なその呪具は、年月、日本のどこかにあると言われていた。まるで、徳川埋蔵金の様に。
しかし、誰もその正体を知らない。
出生、不明。
製作者、不明。
正体、不明。
だから、わからない。もしかしたら、それは沖縄の個人で営んでいる小さな売店にて売られていた、金色の剣を模した、小さなキーホルダーサイズの呪具なのかも。
誰もが、それを取るに足らないガラクタだと思っていた。
けれど。
もしも、それが『本物』だとすれば、それはきっと不思議な不思議な呪具だろう。
☆
世間ではそんな風なのはさておいて、龍が巻きついた金の剣はルーズに考える。
(やっぱ、どえらい転生してもうたよなぁ……)
呪具、『田中』はここにいる。
こんな修学旅行で買う様な安っぽいデザインで、しかも呪力量は四級程度まで抑えられているため、誰も気づかない。長らく一般人の手によって管理されていたため、救難信号も出せない。
(世界さん。僕なんかにスポットライト当てんなや、鬱陶しい……)
『田中』は普通にそんなことしか考えていない。
(記憶もまちまちだし、なんでこない状況になってんねやろなぁ……)
あと、なんか感謝されているという事実も、胸に押し当てられた時とか、
(いや、僕普通に彼女いたはずなんで、というか一途に愛す男なんで……いや、確かに二股かけとったけど、そんなのは関係なしに、そういうことされても対応に困るっていうか……)
この通り、これも辟易する理由だった。
真依が頼ったのは、二股をかけてるクズである。
それが身内に暴力を振るうクズから身を助けただけ。
真依の明日はどっちだ!?
呪具名:田中
効果:??
通常時
才能 【SS】
根性 【C】
カリスマ 【C】
ルックス 【A】
コミュ力 【C】
政治力 【C】
支配力 【C】
運 【A】
演技力 【SS】
人心掌握 【C】
異性関係 【C】
眼力 【C】
総合評価【50点】
??時
才能 【SS】
根性 【B】
カリスマ 【A】
ルックス 【A】
コミュ力 【B】
政治力 【B】
支配力 【B】
運 【A】
演技力 【SS】
人心掌握 【B】
異性関係 【Z】
眼力 【B】
総合評価【70点】
わかりやすいランク表。
両面宿儺
才能 【S+】
根性 【B】
カリスマ 【A】
ルックス 【B】
コミュ力 【B】
政治力 【C】
支配力 【A】
運 【S】
演技力 【A】
人心掌握 【A】
異性関係 【?】
眼力 【A】
総合評価【70点】
下限:G−
上限:SSS
S+<SS
真ん中がCで、100点からの減点評価です。