修学旅行で買った『龍が巻き付いた金のキーホルダー』。伝説の呪具だった   作:鳥人間コンテスト

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【出力0.4%】思考の****

 

 

 【出力0.3%】

 

 実験その2。

 

「生体糸を作ることには昨日成功した。構造を完璧に把握し、術式の『虚構』に頼らないこと、細胞核などのいらない要素を削ることで、呪力の消費を極限までカットした。今日はその応用」

 

 しっかりと自身の発言から目的を明確化、明文化したのち、彼女は動きだす。

 

「この呪力を、自身に纏わせるように極限まで通す糸を使って、今日も実験する」

 

 その実験とは、

 

「ふっ、糸の上手い扱い方よ!私、『出来ること』にかまけて、何をすべきかを忘れていたわ!」

 

 バカである。

 

「糸をどう上手く使ったら良いのかしら……」

 

 小さな細い糸……されどとても頑丈で、呪力消費もほとんどない。少し呪力消費が強くなるが、細胞に核を持たせれば長時間維持することも可能。

 

「『縛り』で足し算をし続ける事で逆に引き算を可能にする論理構築もした」

 

 それは、『極限まで細分化した思考』により、物を生み出す代わりに、『呪力消費を減らす』という考えだ。

 

 例えば糸だ。

 

 糸を構成する要素を細分化し、一本の糸を生み出すために必要な処理を、数千、数万の計算に分割する。

 

 その代わり、計算を始めたら最後まで続けなければならない。

 

 途中で計算を放棄すれば、縛りの恩恵を得られない。

 

 足し算を続けることを強制する代わりに、最終的な呪力消費を減らす。

 

 そんな足し算をする事で、逆に縛りの恩威を受けるのだ。簡単にいえば、『疲れる代わりに呪力消費が減る』と言ったところか。

 

 だが、縛りその2。

 

 一つの問題を解決する際、必ず複数の思考系統に分割しなければならない。

 

 これもまた、例えば、糸を生成する場合。

 

 糸の構造を計算する。

 必要な呪力を計算する。

 呪力の伝達経路を計算する。

 生成時に生じる損失を計算する。

 最初からここまでの計算結果を統合する。

 

 通常なら一連の処理として行うものを、強制的に分割する。

 

 その代わり、分割した各処理が互いに干渉せず、独立して進行できる。

 

 これによって、通常なら一度にしか処理できない問題を並列で処理できる。つまり、疲れる事を極力減らすという事だ。

 

 これも、足し算の縛りとして引き入れることで、引き算を可能にした。

 

 そうして、縛りを作り続けた。縛りというのは便利だ。自身に作った縛りは解除もできる。だから、ここから先も自縛をし続けることだろう。

 

 そうして作った縛りは大小揃えて35個。

 

 ここまで、術式の『虚構』に頼らない方式を取り続けてきたが、

 

「糸だけじゃなくて、逆に『虚構』を用いた物も作れるのよね」

 

 爆裂に思考が滑らかになっている真依はそう考えて、

 

「架空生物を作ってみるのも……できるかも?」

 

「生物創造。そこまで出来たら……」

 

「神になれるなぁ」

 

 にっこりと笑いながらも、本人は本気で、

 

「じゃあ、今日も実験と勉強をしないと。車輪の再発明をするのは昨日で十分。今のある知識でどうにかするのは、『人類の叡智』が通用する範囲で止めておこうかしら」

 

『人類の叡智』それすなわち、これまでの人類が作り上げてきた叡智そのものである。

 

 彼女は、それすらも……

 

「昨日の車輪の再発明で、気づいた。私だったら、超えられる……人類の限界を……」

 

 ゆっくりと復唱してから、

 

「今日は勉強から始めようかしらね」

 

 そうして、彼女は図書館に設置されている本を全て読み漁った。図書館のネットワークシステムで国内問わず、幅広い大学が作ったありとあらゆる論文を読み、これまで積み上げてきた知識でそれが正しいかどうか精査し、判断する。

 

 それが、ここ最近の彼女の生きがいだった。

 

 そうして、

 

「真依……最近、何してるの?」

 

 集中している時、母親から声をかけられた。

 

「かくゆーごー」

 

「あら、それじゃあ別のことは?」

 

「太陽の作成ー」

 

「……面白い事を言う様になったわね」

 

 トリップ中の真依はイカれた目つきで、

 

「太陽を構成する為に必要な重力の変数計算がとにかく膨大だったよ。火と土で中心の原子星を作ったけど、この役割を持つものがそもそもダメで、何度もやっても内圧が低すぎて、重力に対抗できなかった。つまり静水圧平衡もまともに働かなかった。重力収縮も殆ど起こせないから大きくは出来ない。でも、しっかりと核融合は起きていたから実験にしては上出来だった」

 

「?」

 

「とにかく、上手くいっているってこと!」

 

「そ、そう?」

 

 ☆

 

「まず、超高温の炎と、土を作る……」

 

 今日の下準備をする。太陽を作ろうと思う。

 

「超高温の炎は……」

 

 真依は指先を立てた。炎を作る。それ自体は簡単だ。しかし、太陽を作るための炎となれば話は別である。

 

「温度……密度……熱容量……放射……対流……」

 

 ぶつぶつと呟きながら、空中に指を走らせて、

 

「そもそも、ただ高温にすればいいわけじゃない。高温の物質を用意したところで、それを維持できなければ意味がない。周囲に熱が逃げていくなら、中心部の温度を保てない……それが地球での限界……?」

 

 火を作る。土を作る。それだけなら、構築術式で、再現、実現できる。

 

 だが、太陽は違う。太陽は、ただ燃えている巨大な火の玉ではない。

 

 自身の重力によって物質が集まり、内部で高温高圧の状態が維持され、核融合によってエネルギーを生み出している天体だ。

 

「だったら、火を作るんじゃなくて、核融合が起こる環境を作ればいい」

 

 真依は笑って、目的を変更する。

 

 太陽そのものを作るのではなく、まずは太陽を構成する条件を作る。昨日までの自分なら、最初から太陽を作ろうとしていた。

 

 だから、失敗した。今日は違う。

 

「まず、超高温の炎と、土を作る……」

 

 右手に炎。左手に土。炎は、昨日よりも高温に。土は、昨日よりも密度を高く。

 

 ただし、密度を上げすぎればいいわけではない。物質の組成も1から考えなければならないし、中心部に必要な条件を再現するためには、それぞれの性質を把握する必要がある。

 

「……ああ、そっか」

 

 真依は、唐突に手を止めた。

 

「最初から本物の太陽と同じ物質を作る必要はないんだ」

 

 必要なのは、現象を成立させること。ならば、現象の成立に関係しない部分は、削れる。物質を構成する要素のうち、必要なものだけを残す。昨日の実験で得た結論だ。彼女は、火と土を見つめた。

 

「まずは、中心核の役割を持つものを作る。そこから、必要な条件を一つずつ足していく……」

 

 足し算。

 

 足し算。

 

 足し算。

 

 その果てに、不要なものを削る。

 

 これが、彼女の構築術式。新たに見出した呪術の使い方。

 

「じゃあ、第一段階。中心核の構築」

 

 真依は、両手を合わせた。炎と土が混ざり合う。

 

 昨日よりも精密に。昨日よりも緻密に。昨日よりも少ない呪力で。極小さな球体が生まれた。

 

「……うん」

 

 悪くはない……少なくとも、昨日のものよりは明らかに安定している。

 

「次。重力の再現……」

 

 ここで、真依の表情が変わった。

 

 重力。

 

 物質が存在することで生じる、互いに引き合う力。太陽を作るためには、物質を集め、内部に十分な圧力を生み出さなければならない。

 

 彼女の構築術式は、物質を生み出す術式だ。だが、重力そのものを、好き勝手に作れるわけではない。

 

「……問題は、ここよね」

 

 真依は、球体を見つめて、

 

「物質を増やせば重力は強くなる。でも、物質を増やすにも、密度を増すにも呪力が必要。呪力を節約するために構造を簡略化したら、今度は必要な性質まで削ってしまう……」

 

 ならば、どうするか。答えは簡単。

 

「重力を作るんじゃなくて、重力が十分に働く条件を作る」

 

 何をどうすれば完璧にいくのか、本人にも、まだ完全にはわかっていない。

 

 なら、わからないのなら調べればいい。調べて、仮説を立てて、実験する。失敗したら、原因を探す。原因がわかったら、次の実験に反映する。

 

 それだけだ。それだけのことなのだ。そして、そのそれだけを、彼女は異常な速度で繰り返す。

 

【出力0.3%】

 

 思考が分割される。

 

 Aは質量と密度。

 

 Bは圧力と温度。

 

 Cは核融合の条件。

 

 Dはエネルギーの損失。

 

 Eは生成物の安定性。

 

 F以降は、それぞれの補助と、更なる検証。

 

 そして、最後に。すべての計算結果を統合して……

 

「……ふふ」

 

 真依は笑った。

 

「昨日より、ずっといい」

 

 昨日の実験では、重力収縮がほとんど起こらなかった。

 

 内圧が低すぎた。中心核は、太陽の中心核としての役割を果たせなかった。しかし、可能性はある。少なくとも、何もかもが間違っていたわけではないだろう。

 

 昨日間違っていた部分を修正すればいい。そうして、再び実験を始める。球体の内部構造を変更する。物質の密度を調整する。温度の分布を変える。それぞれの条件を変え、結果を観測する。

 

 失敗。

 

 失敗。

 

 失敗。

 

 そして、

 

「……あ」

 

 真依の目が見開かれた。

 

 球体の内部で、微かな変化が起きていた。昨日とは違う。物質が、わずかに内側へと集まり始めている。重力による収縮。その兆候だ。

 

「ふふっ……」

 

 真依は、口元を押さえた。

 

「ふふふふ……!」

 

 まだ、小さい。まだ、不安定。これだけで太陽が完成したなどとは、とても言えない。

 

 それでも。

 

 昨日は、ほとんど起こせなかった現象が、今は確かに起きている。彼女は、すぐさま計算をやり直した。頭は頑張って働いてくれる。

 

 収縮によって変化する密度。密度の変化によって変わる圧力。圧力と温度の関係。そして、核融合が継続するために必要な条件。

 

 すべてを再計算する。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

「……ああ、そういうことか」

 

 答えが、少しずつ見えてくる。尾を出して誘惑する。

 

 太陽を作るためには、ただ物質を生み出すだけでは足りない。

 

 生み出した物質が、どのように振る舞うのか。その振る舞いによって、次に何が起こるのか。それを考慮しなければならない。

 

 明確に、構築して終わりではない。構築した後に起こる変化まで、計算に含める必要がある。

 

「……なるほどね」

 

 真依は、ゆっくりと、

 

「昨日の私は、太陽を作ろうとしていた。でも、今の私は違う」

 

 彼女は、球体を見つめる。

 

「太陽ができる過程を、構築(作ってる)んだ」

 

 その言葉と同時に、球体の内部で、再び変化が起きた。微かな熱。わずかな収縮。そして、確かに観測できる核融合反応。 

 

 まだまだ、太陽には程遠い。質量も足りない。構造も不完全。安定性にも問題がある。

 

 しかし、実験は前進していた。

 

「……よし」

 

 真依は満足そうに笑った。

 

「今日はここまでにしよう」

 

 そう言ってから、少し考えて、

 

「……いや、待って。もう一回だけ」

 

 実験を続ける。

 

 そうして、気づけば。外はすっかり暗くなっていた。

 

「……あれ?もう夜?」

 

 彼女は、球体を見つめる。その内部では、依然として微かな反応が続いていた。熱く熱く煌めいている。

 

 太陽には遠い。だが、昨日よりは近い。

 

 確実に。

 

「……ふふっ」

 

 真依は、金色のキーホルダーを握りしめた。真依は、嬉しそうに笑った。その顔は、年相応の少女のものだった。

 

 ただし。彼女の目の前にあるのは、普通の少女が作るものでは決してない。地面に堕ちている小さな球体。

 

 内部で核融合が起きている、人工的な天体の試作品。

 

 それを作った少女は、今日もまた、新しい可能性を見つけてしまったのだった。

 

 ☆

 

 実験その2。

 

 結果。

 

 恒星、太陽の作成には失敗。

 

 しかし、重力収縮の再現には一部成功。

 

 核融合反応の維持にも成功。

 

 そして、朝起きて、冷静になった真依は、

 

「だから、なんで私は『出来ること』にかまけて、何をすべきかを忘れるのか……」

 

 バカなんじゃないか?

 

「まあ、いいわ。それより、今日も実験しないと……」

 

 もはや、実験は彼女の生活の一部と化していた。

 

 ☆

 

 (まあ、僕が制限させとるとはいえ、頑張っとる方か……)

 

 田中はそんな事を思いながらも、

 

 (うーん、こっから出力上げていって、さっさとさせたい事させようかなぁ……でも、頭爆発するしなぁ……)

 

 少し悩んでから、

 

 (まあ、後遺症が出ない程度やったら普通の倫理観やろ。さっさとするか)

 

 ☆

 

 【出力0.4%】解禁: 思考の完全分離。

 

「あれ?今日は格段に思考が滑らかね……いや、違う……」

 

 脳内で沢山の自分が揺蕩っている。それが這い出てきて、ギラリとした目で研究に没頭しそうな顔をしていて、

 

 (きも……いや、私の顔だから結構イケてるんだけど)

 

 真依はそんな事を思いながらも、実験を開始した。今日の実験は……

 

「太陽の方は、まあこれから上手くやっていくわ。それなりに上手くいったけど、同時に限界も感じた……」

 

 限界。地球上にいる限界である。

 

「宇宙に飛び立てれば、今でも恒星程度作れそうだけど、地上にいる限りは難しいかしら……」

 

 考えれば考えるほど、答えは出ない。だが、考える。

 

「まあいいわ。今日は待望の、『架空生物の創造』よ」

 

 彼女は走りだす。朝っぱらからやりたい放題していく。呪力を万能エネルギーとして、全てを構築する神となる。

 

「学べば学ぶほど、呪力はエネルギーとして非常に優秀ね。素晴らしいわ……」

 

 そう言いながら、

 

「さあ、ここからが本番よ」

 

 架空生物の創造。まずは小さな体を作ろう。大きな体はそも作れない。よって、小さな体だ。

 

「えーっと、まずは臓器よね。いや違う……原始生物の様に、単細胞の、RNAなどの核酸やタンパク質が脂質の膜をもった子から作ろう。生物が作れるのかもまだわかってないんだから……」

 

 生物の定義は、増殖、繁殖する事でとりあえずはいいだろう。

 

「でも、深海で熱水噴出孔でようやく生まれるのが原始生物なのよね……」

 

 真依は考える。その結果、

 

「まあ、単細胞生物を作ったらいいか。そこからしていこう。『虚構』を使って、実験も兼ねて……」

 

 そうして、初めて出来たのが……

 

「水、タンパク質、脂質、核酸、炭水化物……その為もろもろ。そして『虚構』」

 

 彼女は小さなルーペを作ってそれで観察する。

 

「うん、『虚構』を上手く使えばこれで出来る……でも、呪力が結構取られるわね……」

 

 とは言っても、10%も使っていない。

 

「呪力消費が激しい……あ、そうだ。なら……」

 

 彼女は考えた。

 

「人工の自分を作ってそれを外付けの呪力タンクにすればいいんだ……」

 

 詰まるところ、呪術的に自分と認定される存在を作ればそれを小型化して携帯、呪力を湧かせる機械が完成する。

 

「これで、架空生物を作る大義名分ができたわね」

 

 倫理観的に問題がありそうだが、とりあえずはそう言って、作成に取り掛かる。

 

 まずは、

 

「恐竜でも作ってみようかしら」    

 

 

 

 

 

 そうして、一年が経った。

 

 

 

 

 

 中学三年生になった。太陽さえ1週間足らずで作った真依だったが、生命製造はあまりに難航を極めた。

 

「……網膜が難しい。脳の作成はもっと難しい……」

 

 あまりにしんどい作業だった。

 

「でも、脳みそはないけど、他は全部作れた。クラゲ程度なら作れる……」

 

 でも、クラゲが作れたところで何になるんだ?

 

「……どうしよ」

 

 クラゲや単細胞生物しか作れない現実に萎えぽよになった真依であった。




『禪院真依』

 やっぱりトリップ中は性格が変わる
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