日本国召喚 〜文明圏外の超大国〜   作:1番道路

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日本との関係構築を進めるアルディア大帝国。皇帝フリードリヒは、外交と交易の双方を見据え、新たな方針を示す。


第十八話 皇帝の選択

 皇宮の執務室には、朝の柔らかな光が差し込んでいた。

 

 窓の外では、庭師たちが植木の手入れをしている。

 

 遠くから鳥の声が聞こえた。

 

「日本との関係について、各部門の意見がまとまりました」

 

 外務担当の高官が、書類を机に置いた。

 

 皇帝フリードリヒは、手にしていた筆を置く。

 

「聞こう」

 

「まず、外交関係の構築を優先すべきとの意見が多数でございます」

 

「当然だな」

 

 皇帝は頷いた。

 

「相手がどのような国かを十分に知らぬまま、大きな約束はできぬ」

 

「はい。また、商務部門からは、段階的な交易拡大を提案する報告が届いております」

 

「具体的には?」

 

「最初は少量の商品見本を交換し、品質や輸送条件を確かめる。その後、双方の合意に応じて取引を拡大するというものです」

 

「よい方針だ」

 

 フリードリヒは書類をめくった。

 

「軍務部門の意見は?」

 

「日本の技術に関する情報が少なく、継続的な調査が必要とのことです」

 

「それも、もっともだ」

 

 皇帝は静かに答えた。

 

 相手が未知の国家である以上、警戒を解くことはできない。

 

 だが、警戒することと、敵視することは違う。

 

 アルディア大帝国は、数多くの国々と長年にわたり関係を築いてきた。

 

 その中には、友好国もあれば、競争相手もある。

 

 重要なのは、感情によって判断を誤らないことだった。

 

     *

 

「ひとつ、確認しておきたい」

 

 皇帝が言った。

 

「日本との交流によって、周辺諸国に不利益が生じる可能性は検討したか」

 

 高官が少し姿勢を正した。

 

「はい。特に、既存の交易航路を利用する国々については、影響があると考えられます」

 

「具体的には?」

 

「日本との直接交易が増加した場合、中継貿易を担う国々の収入が変動する可能性がございます」

 

 フリードリヒは頷いた。

 

 帝国の勢力圏には、数多くの国々が存在する。

 

 大小の島国。

 

 大陸沿岸の王国。

 

 古くから帝国との関係を持つ都市国家。

 

 彼らは帝国から一方的に利益を奪われる存在ではない。

 

 帝国が安全な航路を提供し、周辺諸国が港や特産品、交易の拠点を提供する。

 

 その相互関係によって、長い繁栄が築かれてきた。

 

「新しい交易によって、古い友を困らせることがあってはならぬ」

 

 皇帝は言った。

 

「航路上の国々にも利益が生まれる方法を考えよ」

 

「承知いたしました」

 

「必要なら、彼らの商人にも新しい交易へ参加してもらえばよい」

 

 高官が頷いた。

 

「その方針であれば、周辺諸国からの理解も得られやすいと存じます」

 

「そう願いたいものだ」

 

     *

 

 続いて、話題は日本への正式な使節派遣に移った。

 

「日本側からは、継続的な対話に応じる意向が示されております」

 

「うむ」

 

「我が国として、次の使節団を派遣する準備を進めたいと考えております」

 

「誰を送る」

 

「前回の任務を務めたエーリヒを中心に、商務と技術の担当者を加える案がございます」

 

 皇帝は少し考えた。

 

「本人の意向は確かめたか」

 

「まだでございます」

 

「では、まず聞いてみることだ」

 

 高官は一瞬、意外そうな顔をした。

 

 皇帝は微笑んだ。

 

「前の旅から帰ったばかりだろう。必要だからといって、休む暇も与えず送り出すのは感心せぬ」

 

「仰せの通りにございます」

 

「もっとも、本人が望むなら話は別だ」

 

「承知いたしました」

 

 高官が書類に書き込む。

 

 フリードリヒは、さらに続けた。

 

「次の使節には、相手の国を正しく理解することを求めたい」

 

「はい」

 

「先方の技術を知ることも重要だが、制度や暮らしを知ることも忘れてはならぬ」

 

「と申されますと?」

 

「国を動かしているのは、兵器や船だけではないということだ」

 

 皇帝は窓の外へ目を向けた。

 

「農民が作物を育て、商人が品を運び、職人が道具を作り、役人がその営みを支える。日本にも、同じように暮らす人々がいるはずだ」

 

「御意にございます」

 

「相手の強さを知りたければ、その国の暮らしを見ることだ」

 

 高官は深く頷いた。

 

     *

 

 午後。

 

 皇帝は、別の会議に出席していた。

 

 議題は南部地方の灌漑設備についてだった。

 

 新しい揚水機の導入。

 

 水路の整備。

 

 農村への資金支援。

 

 技術開発を支援するための制度。

 

 日本との外交という大きな課題が生じても、帝国の政務は止まらない。

 

「試験の結果はどうなった」

 

 フリードリヒが尋ねる。

 

「新型の揚水機は、従来より少ない人員で運用できることが確認されました」

 

「故障は?」

 

「一部にございましたが、改良案が提出されております」

 

「その原因も調べたのだな」

 

「はい」

 

「よろしい」

 

 皇帝は頷いた。

 

「実際の農村で使うものだ。壊れた時に直せなければ、役には立たぬ」

 

 担当官たちが頷く。

 

 帝国は、外国の優れた技術を積極的に取り入れる。

 

 しかし、導入するだけで満足することはない。

 

 自国で修理し、改良し、生産できるようにする。

 

 そうした努力が、広大な帝国の技術基盤を支えていた。

 

     *

 

 夕刻。

 

 執務室へ戻ったフリードリヒは、日本に関する報告書を再び手に取った。

 

 遠い海の向こうから現れた、新しい国家。

 

 高度な技術。

 

 独自の社会制度。

 

 そして、これまでの世界とは異なる歴史。

 

 興味深いことは多かった。

 

 だが、皇帝が最も重視しているのは、別のことだった。

 

「長く付き合える相手であればよいな」

 

 誰に聞かせるでもなく呟く。

 

 机の上には、三千年の歴史を刻んできた帝国の地図が広げられている。

 

 数多くの国々が生まれ、栄え、時には姿を消してきた。

 

 その中でアルディア大帝国は、長い年月を生き続けてきた。

 

 力だけでは、国家は永続しない。

 

 必要な時に変わり、守るべきものを守り、他者との関係を築く。

 

 それもまた、帝国を治める者の仕事だった。

 

 フリードリヒは新しい書類を引き寄せた。

 

 そこには、次期使節団の編成案が記されている。

 

 皇帝は内容を確かめ、静かに承認の印を記した。

 

 日本との関係は、次の段階へ進もうとしていた。




第十八話でした。皇帝フリードリヒの統治者としての考え方と、既存の友好国にも配慮した対日外交方針を描きました。
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