日本国召喚 〜文明圏外の超大国〜   作:1番道路

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日本との本格的な交流を見据え、帝国の港湾関係者たちは準備を始める。遠い国との出会いは、帝都の日常にも小さな変化をもたらしていた。


第十九話 港に吹く新しい風

「おお、帰ってきた役人さんじゃないか!」

 

 港に響いた声に、レオンは足を止めた。

 

 振り返ると、見覚えのある大工の親方が手を振っている。

 

「お久しぶりです」

 

「ずいぶん長い旅だったな」

 

「ええ。おかげさまで無事に帰ってまいりました」

 

 レオンは一礼した。

 

 親方は笑いながら、後ろの建物を指差した。

 

「見ていけよ」

 

 そこには、以前使用を停止した第二倉庫があった。

 

 修繕はすでに終わっている。

 

 傷んでいた梁は新しいものに交換され、屋根にも補修が施されていた。

 

 以前の薄暗い印象はなくなり、倉庫の内部には明るい光が差し込んでいる。

 

「見違えましたね」

 

 レオンが感心して言う。

 

「だろう?」

 

 親方は胸を張った。

 

「今度は、そう簡単には傷まんぞ」

 

「それは、何年ほど保証していただけますか」

 

「おいおい、役人みたいなことを言うな」

 

「役人ですので」

 

 二人は笑った。

 

     *

 

 倉庫の検分を終えたレオンは、港務局へ向かった。

 

 長旅の疲れはまだ残っていたが、仕事は山積みだった。

 

 日本で得た情報を港務関係者に伝えるため、いくつかの会合が予定されている。

 

 港務局の会議室では、すでに上役が待っていた。

 

「来たか」

 

「遅くなりました」

 

「構わん。倉庫を見ていたそうだな」

 

「はい。修繕は順調に終わっておりました」

 

「それはよかった」

 

 上役は頷いた。

 

「さて、日本の港について聞かせてもらおう」

 

「承知しました」

 

 レオンは資料を広げた。

 

 港湾設備。

 

 荷物の管理。

 

 船舶の入出港。

 

 そして、船の大きさ。

 

「日本の船は、我が国の一般的な商船より大きなものが存在します」

 

「具体的には?」

 

「確認した範囲では、船体の高さも幅も相当なものでした」

 

 レオンは簡単な図を描いた。

 

 上役が眉を寄せる。

 

「これほどか」

 

「はい」

 

「となると、我が国の港では接岸できない場所もあるな」

 

「その可能性があります」

 

 レオンは頷いた。

 

「水深の確認が必要です。また、岸壁の強度や係留設備についても調べるべきかと」

 

 上役はしばらく考えた。

 

「なるほど」

 

 そして、窓の外へ目を向ける。

 

 大河には、多数の船が行き交っていた。

 

 帝都の港は、帝国最大級の物流拠点の一つである。

 

 だが、その規模が大きいからといって、どのような船でも利用できるわけではない。

 

「今のうちに調べておくべきだな」

 

「はい」

 

「ただし、すぐに港を造り替える話にはするなよ」

 

「承知しております」

 

 上役は笑った。

 

「まだ日本の船が来ると決まったわけではないからな」

 

     *

 

 その日の午後。

 

 港務局では、荷物管理の改善についても話し合いが行われた。

 

 レオンが持参した資料には、日本側の管理方法を参考にした提案が記されている。

 

「木札の番号を、もう少し統一してはどうでしょうか」

 

 レオンが言った。

 

「倉庫によって記録方法が違いますので、荷物を移した時に確認が必要になります」

 

「確かにな」

 

 上役が頷く。

 

「だが、すべての倉庫を一度に変更するのは難しいぞ」

 

「まずは第二倉庫で試験してはいかがでしょうか」

 

「修繕したばかりの?」

 

「はい。荷物の配置も整理されておりますので、試験には都合がよいと思います」

 

 担当官たちが顔を見合わせた。

 

「悪くない案だ」

 

 一人が言った。

 

「失敗しても、元の方法に戻せる」

 

「それなら、やってみる価値はあるな」

 

 上役も頷いた。

 

 こうして、第二倉庫で新しい荷物管理方法を試すことが決まった。

 

 大がかりな制度改革ではない。

 

 帝国全土を変えるような発明でもない。

 

 ただ、日々の仕事を少し便利にするための、小さな試みだった。

 

 しかし、そうした積み重ねこそが、巨大な国家を支えている。

 

     *

 

 数日後。

 

 帝都の港では、測量のための準備が進められていた。

 

 水深。

 

 岸壁の状態。

 

 水路の幅。

 

 河口から港へ至る航路。

 

 それらを改めて確認することになったのである。

 

「日本の船を入れるためですか?」

 

 若い測量士が尋ねた。

 

「それもある」

 

 上役が答えた。

 

「だが、今後の港湾整備にも必要な資料だ」

 

「なるほど」

 

「船は年々変わっている。商船も大きくなっているし、積荷の量も増えている」

 

 若い測量士は頷いた。

 

「では、以前の記録と比較してみます」

 

「頼む」

 

 港の整備は、日本との交流だけのために行うものではない。

 

 帝国の物流をさらに発展させるための仕事でもあった。

 

     *

 

 夕方。

 

 レオンは、修繕を終えた第二倉庫を再び訪れた。

 

 内部では荷役人夫たちが新しい棚を組み立てている。

 

「また来たのか、役人さん」

 

 親方が声をかけた。

 

「少し確認したいことがありまして」

 

「今度は何だ?」

 

「荷物の番号札についてです」

 

 レオンは、新しい記録用紙を取り出した。

 

 親方はそれを眺めた。

 

「また面倒なことを考えたな」

 

「慣れれば、仕事が楽になると思います」

 

「本当か?」

 

「試してみなければ分かりません」

 

 親方は大きく笑った。

 

「正直でよろしい」

 

 そして、近くの人夫たちへ声をかけた。

 

「おい、新しいやり方を試すぞ!」

 

 人夫たちが顔を上げる。

 

「また役人さんの思いつきか?」

 

「そうらしい!」

 

 笑い声が広がった。

 

 レオンは少し困った顔をしたが、すぐに笑った。

 

 帝都の港には、今日も多くの荷物が運び込まれている。

 

 日本との交流が始まれば、その流れはさらに変わるかもしれない。

 

 だが、その変化を支えるのは、結局のところ、こうして働く人々なのだ。

 

 レオンは手元の紙を開いた。

 

「では、最初の荷物から始めましょう」

 

 港に、新しい仕事が始まった。




第十九話でした。日本との交流を契機として、帝国の港湾管理と物流の改善が進み始めます。
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