日本国召喚 〜文明圏外の超大国〜   作:1番道路

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帝国の使節団が辿り着いた港では、すでに新しい隣国との往来が始まっていた。


第九話 クワ・トイネの波止場

 入港の許可を待つ間、レオンは甲板から港を眺めていた。

 

 岸壁には荷車が並び、倉庫の前には人だかりができている。

 

 忙しそうだった。

 

 カイザーヴァルトほどの規模ではない。

 

 だが、人も荷も、絶えず動いていた。

 

「あの倉庫、増築していますね」

 

 レオンが言うと、マルタが頷いた。

 

「新しい材木の色だ」

 

「積荷が増えているのでしょうか」

 

「降りて聞けば分かる」

 

 まもなく、港務の役人を乗せた小舟が近づいてきた。

 

 書簡を確かめ、使節団の目的を聞く。

 

 アルディア大帝国の名を聞いた役人は驚いた様子を見せたが、手順を飛ばすことはなかった。

 

 マルタは、むしろそれに好感を持ったらしい。

 

「いい港ね」

 

 小舟が離れたあと、彼女は言った。

 

     *

 

 上陸した使節団は、用意された宿舎で待つことになった。

 

 エーリヒは、正式な照会文を先方へ渡す。

 

 日本という国が存在するか。

 

 クワ・トイネ公国が、その国と接触しているか。

 

 もし可能であれば、帝国からの面会希望を伝えてもらえるか。

 

 求めたのは、まずその三点だった。

 

 返答は、思っていたより早かった。

 

「日本国との接触については、事実でございます」

 

 公国側の担当官は、そう答えた。

 

 エーリヒは、膝の上で組んでいた指をほどいた。

 

「差し支えない範囲で、どのような国かお聞かせいただけますか」

 

「それが……説明するのは、少々難しく」

 

 担当官は困ったように笑った。

 

「私どもにも、まだ分からないことが多いのです」

 

「例えば、船について」

 

「大きい船を持っております。大変、大きい」

 

 その言い方が、あまりに実感のこもったものだったので、エーリヒは続きを急かさなかった。

 

「それから、時間に正確です」

 

「時間に?」

 

「約束した時刻になると、本当においでになります。こちらが待たされることは、ほとんどありません」

 

 意外な評価だった。

 

 だが、実際に交渉している者の言葉でもある。

 

 エーリヒは、それも書き留めた。

 

     *

 

 翌朝、レオンは港の見学を許された。

 

 案内役について歩いていると、これまで見たものとは作りの違う箱が目に入った。

 

 整った文字。

 

 揃った角。

 

 表面には、見慣れない印刷がある。

 

「日本から来たものですか」

 

「ええ。触らないでくださいね。まだ引き渡しが済んでいませんから」

 

 レオンは、伸ばしかけた手を引っ込めた。

 

 近くでは商人が、持参した秤について説明を受けていた。

 

 やり取りに使われている数字や単位が、こちらとは違うらしい。

 

 通訳が何度も紙を指差し、双方が頷くまで説明を続けている。

 

 噂に聞いた国は、目の前で荷を運び、量を測り、受け取りの確認をしていた。

 

 レオンには、その光景が妙に印象に残った。

 

     *

 

 港の一角で、案内役が足を止めた。

 

「今日は、あちらまでにしましょう」

 

 視線の先には、人の動きを整理するための区切りが設けられていた。

 

 その向こうに、見慣れない服装の男たちがいる。

 

 帽子。

 

 揃った上着。

 

 金属の留め具。

 

 その一人が、こちらに気づいて会釈した。

 

 レオンも、慌てて頭を下げる。

 

「あの方々が?」

 

「日本の方です」

 

 案内役が答えた。

 

 レオンはもう一度、顔を上げた。

 

 姿そのものは、自分たちと大きく変わらない。

 

 角もなければ、翼もない。

 

 一人は紙を見ながら何か話し、もう一人は汗を拭いていた。

 

 それなのに身につけた物の一つ一つが、違っていた。

 

     *

 

 宿舎に戻ると、エーリヒが公国の担当官と話していた。

 

「日本側へ、お取り次ぎいただけたのですか」

 

「はい。まずは当地で、担当の者がご挨拶したいとのことです」

 

「願ってもないことです」

 

「ただし、正式な国交や通商の取り決めについては、本国への確認が必要になると」

 

「もちろんです。こちらも、そのつもりで参りました」

 

 会談の日取りが伝えられる。

 

 エーリヒは礼を述べ、相手を送り出した。

 

 扉が閉まってから、レオンを見る。

 

「会ったそうだな」

 

「遠くから見ただけです」

 

「どうだった」

 

 レオンは少し考えた。

 

「暑そうでした」

 

 エーリヒは瞬きをし、それから笑った。

 

 旅に出て以来、初めて見るほど気の抜けた笑い方だった。

 

「そうか」

 

 彼は椅子に座り、面会に備えた書類を広げた。

 

「それなら、茶くらいは一緒に飲めそうだな」




日本は、もはや噂の中だけの国ではなくなりました。
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