銀河最強童貞のサイボーグ俺、ち〇こだけは守護りたい 作:たけすぃ
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有難い事に。そして嘆かわしい事に。
光速の壁を出し抜き、ライトコーンを突破した人類は、それでも戦争をやめられなかった。嘘だろって思うだろ? 本当だ。
理由は様々で、アイツら気に食わないというシンプルなものから、自分達の星より便利なところに資源惑星があるからとか、自分達が作っている製品を買ってくれないからとかだ。あと自分達の思想を広めるために、なんてのもあった。
意味が分からない。
宇宙は広く、資源も居住可能惑星も割と簡単に見つかる。
居住可能惑星に関しては、惑星改造という手間暇をかけるのなら、それこそ至る所で見つかるだろう。
にもかかわらず、人類は戦争をやめない。嫌な奴、面倒な奴から離れるのも、見ないようにするのも、物理的に簡単なのに、だ。
光速の壁を越えておおよそ五百年。
分かったことは、光速の壁を突破する前に人類は、ブロックとミュート機能を実装すべきだったという事だ。
それでも中には、まあ戦争になるよね、とある程度納得できるものもある。
例えば、今回俺が受けた依頼主の惑星とかだ。
惑星の名前は資料によればベルキラウ、発音が合っているかは知らないが、インドネシア語という絶滅言語で光り輝くとかそんな意味らしい。
このベルキラウには現在二つの惑星政府が存在している。
分裂したわけじゃない、最初からそうだったのだ。
なんとこの惑星、詐欺によって二つの入植者集団が同時に入植したのだ。
当たり前だが、当然のように揉めた。最初の段階で双方がもう少しだけ理性的であれば変わったのかもしれないが、双方一歩も退かずの大揉めだ。
惑星の大陸形状も良くなかった。
同程度の大きさの大陸が二つに、丁度その間に大陸の半分ぐらいの島。
実に火種には事欠かない状況だ。
というわけで、二つの入植者集団は別々の大陸に入植するという最低限の理性はあったものの、その後は百年ほど戦争を続けているらしい。
「まあ他のと違って〝そうなるよな〟ってのは分かるよな」
俺は宇宙船ベイトフィーダのパイロット席で呟いた。
『何がです?』
外部脳《アウターブレイン》が俺の視界にテキストメッセージを表示させる。
船舶AIのママからだ。
あんまり声は聞かせてくれない。
ベイトフィーダのブリッジは俺の好みで物理ディスプレイが多く搭載されている。
なので船舶AIのママには、何が表示されているか全て分かっているので『何がです?』と訊く必要なんてない。
つまりはシャイだけどお喋りはしたいよ、って事だ。
可愛いなぁこのAI。
「今度の仕事場の戦争理由が他と比べて納得できるな、って話だよ」
俺はディスプレイに表示させたベルキラウの資料をスクロールさせながら応える。
『人類は愚かです』
ママからの辛辣かつシンプルな評に頷く。
まあ俺もその愚かな人類なんですけどね。しかもその愚かさのおかげでお金を稼げてる。
「絶滅言語の英語だと、愚かさと純粋さは同じ言葉だったりするんだよ。人類の善性の発露もたいがい愚かな理由だったりするんだ。愚かさも捨てたもんじゃない」
ママはそれには返事せず、コクピットのディスプレイ表示が3Mドライブ航法から通常航法に変わる事を教えてくれる。
まあ、宇宙船の操縦は基本的にママ任せなので、俺がやることなんて無いんだけどな。
『3Mドライブ航法から通常航法に切り替え5秒前です』
俺がテキストを読み切る時間まで計算していたのか、読み終わったところでディスプレイにカウントダウンが表示される。
俺がここにいること含め、儀式じみてるなと思うが。ママがこのプロセスを好んでいるので変える気はない。
灰色に白光する宇宙、
瞬間、ママから警告のピンが飛んでくる。
俺の外部脳がピンの連打に熱を持つのを首筋で感じる。
なんだと思う前に体が反応する。脊髄ユニットに
慣性熱変換装置が起動する前の急加速運動。
つまり、俺はパイロット席のひじ掛けを必死に掴んで空間機動の加速Gに耐えた。
「何事ですか!? 棚に挟まったんで後で救出お願いします!」
相棒からの返事を期待していない通信を聞きながら、外部脳に流れ込んでくる情報を処理し、ディスプレイにも目を走らせる。
生身の人間なら死んでいてもおかしくない機動運動。機械の体はこういう時に便利だ。
敵性機体2! 攻撃を受けています!
ママからのテキストメッセージではない、言語化されていないデータのみの非言語《ノンバーバル》な報告を聞きながら、パイロット席に座っている人間らしく宇宙船を操縦する事にする。
ママの方が宇宙船の操縦は上手いが、ママは人殺しが嫌いなAIだ。
なんで傭兵が使う戦闘艦の船舶AIしてるんだろ?
まあ、良い。俺は個性を大事にしたい派閥原理主義的過激派だ。
俺の脳が宇宙船と完全リンク。宇宙船のセンサー類を直接感じ、自己が拡張された感覚。
パイロット席にある操縦桿《そうじゅうかん》はとうの昔にただの飾りで、今では緊急時以外は体を支える為の棒にすぎない。
俺は宇宙船のエンジンを馬鹿みたいに吹かしながら、人類が光速の壁を突破した副産物――船体を包むシールドの残量を確認する。
シールド残量80%。不意打ちを喰らってこれは、相手のヘボさを笑う前にママに感謝すべきだろう。
「馬鹿みたいな機動運動のおかげで棚からはスッポ抜けましたけど! こんな救出方法は望んでません!」
相棒からの通信に、黙ってどこかに体を固定させてろ、とテキストメッセージを投げ返す。喉も機械化しているが、声帯部品は柔らか素材なので今声を出したら変な声になる。
『敵宇宙船、こちらの機動に混乱しているようです』
ママからのメッセージを読みながら敵宇宙船の一つに狙いを定める。
慣性熱変換装置は3Mドライブ航法中は使えない、故に
それをスカされて動揺するのは分かるが、隙を晒し過ぎだ。
船舶AIに宇宙船の全権限を渡しているのがそんなに珍しいか? まあ珍しいだろう。俺も俺以外にそんな奴を知らない。
宇宙船に関するありとあらゆる些事をママに放り投げ、俺は自分の体となった宇宙船を操作する事だけに集中する。
『もう少しエンジンは優しく吹かしてください』
ママからの注意にごめんなさいと謝りながら、慣性熱変換装置の起動が終わったことに歓声を上げる。
「奇襲に失敗した時点で逃げるべきだったな!」
敵宇宙船はこちらと同じ中型の戦闘艦だ。
逃げに徹しられたら追いつくのは不可能だったかもしれない。
奇襲の確実性を高めようと、俺の予想到着地点に潜んでいたのがあだになったな。
普通の宇宙戦闘ではありえないほどの近距離戦。
俺は片方の敵戦闘艦を間に挟んで射線を一つに絞りつつ、慣性熱変換装置やエンジンをママに手厚く面倒を見てもらいながら、無茶をする。
慣性熱変換装置が限界ギリギリまで駆動して、処理しきれない慣性が振動という形で船体を揺らす。
だが問題ない、艦首の主砲が完璧に敵戦闘艦の一隻を捉える。
地上戦じゃなかったら俺に勝てると思ったか? バーカ。
俺の宇宙船にはママがついてんだよ。俺の既知宇宙最強のママだぞ。
「あの世で悔いろ、この*****野郎!」
俺の言葉はママによってピー音でマスクされ、敵戦闘艦の一隻がこちらの主砲に撃ち抜かれて爆散する。
あまりに近距離すぎて破片でシールドの数パーセントを持っていかれる。
『あまり汚い言葉は使ってほしくないです』
再度ママに叱られる。宇宙船内はママの権限が強いので、俺と相棒はよく言葉をマスクさせられ、その度《たび》にやんわり怒られている。
俺が爆散した敵戦闘艦のガスと破片を横滑りで突っ切りながら、残りの戦闘艦に意識を向けた時には、相手は既に逃げの体勢に入っていた。
『追いますか?』
ママのメッセージに俺は首を横にふって返事する。
「腹が立つけどここから離脱するのが先だな」
相手がこちらの到着予想地点を一つに絞れるような預言者ならともかく、普通に考えれば他の予想地点にもいるはずだ。
囲まれてボコボコにされる趣味は俺にはない。
『了解しました。欺瞞処理を開始。ベルキラウ正当政府が指定した宇宙港までの航路はランダムに設定。先方には到着予定時間に遅れることを連絡します。送信完了。ベルキラウ正当政府宇宙港の管制に八パターンの航路を通達。文句が届く前に出発します』
流石ママ、仕事が早い。
あと当然のように俺達の情報を漏らしたのが、雇ったはずのベルキラウ正当政府かもしれないと疑っているのが優秀。
俺は今の今まで自分が何かヘマをやらかしたとしか思っていなかった。
「ご主人様、やっぱりこの依頼やめません? 嫌な予感しかしないんですけど」
相棒が通信で話しかけてくる。もう戦闘はないと踏んだのか、映像データ付きだ。
大量のベルトで通路の手摺に固定されている相棒が見えた。ちょっと面白い。
『マスター、私もお掃除ロボさんの意見に賛成です。こちらの情報がどういう理由にしろ漏れていました。取引相手としては信用できません』
ママまでも相棒の意見に賛成してくる。
悲しいかな。身内の女性陣には分かってもらえない。この悲痛な童貞の望みを。
「やだよ! 俺は運命の女性と出会うんだよ!」
俺の外部脳《アウターブレイン》に非言語な溜息のようなものが二つ届いたような気がしたが、きっと勘違いだろう。
俺は童貞を捨てたいんだよ!
ママァ