銀河最強童貞のサイボーグ俺、ち〇こだけは守護りたい 作:たけすぃ
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「それで? いったいどうして、そんな事に?」
相棒の口調は呆れているというより、本当に分からない、そう言いたげなものだった。
「俺にもさっぱりだよ……マジで」
俺は依頼主との面会に使ったホテル、その一室で頭を抱えたくなっていた。
「ご主人様が直接依頼主から説明を受けたんですよね? なんでさっぱりなんですか」
これは本当に呆れている相棒の声だな。
相変わらずお掃除ロボットのくせに感情豊かな奴だ。
ホテルから宇宙船にいる相棒と通信しているのだが、まるで目の前に相棒がいるかのように錯覚してしまう。
「依頼が目的地までの護衛任務なのは情報通りとして、どうして目的地までの移動手段が陸路限定なんです?」
相棒の言う事はもっともだ。
恒星間を移動できるようになる前から、人類は惑星を這いまわるのに空を飛んだりしていたのだ。何が悲しくて何千キロも陸路で移動しないと駄目なのか?
「目的地の島が対空兵器でガチガチなんだってよ」
貰った資料をそのまま信じるのなら、どこの軍隊もまず、ありったけの軌道砲撃で島の対空兵器を無力化してから近づくだろう。
当然俺もそうしたいが、俺には軌道砲撃ができるような戦艦はない。
「それに依頼主は隠密行動をご所望だ」
「まあ重要人物を護衛してますって喧伝しながら移動するのは馬鹿だけかと思いますが」
会談中に船との通信を切っていた事を後悔する。
説明が面倒になってきた。
「それに結局、ご主人様お一人での任務になったんですよね?」
相棒の声が冷たさすら感じさせる程に呆れかえっている。
「まさか過ぎてビックリしたわ」
「ビックリしたじゃないでしょ。大丈夫なんですか?」
大丈夫なわけがない。
ガッカリだ、ガッカリすぎてサイボーグなのに表情に出てしまった。
おかげでバディア報道官に怪訝な顔された。
「あんなに沢山、女性の護衛がいるのに……なんで護衛が俺一人なんだよ」
何を考えたら若い女性の護衛に、オッサン一人で大丈夫とか思うのだ?
ベルキラウ正当政府の常識を疑うぞ俺は。
これでは俺の、一緒に仕事をしている内にお互いの事が気になり始めて、なんか良い感じに芽生える恋とか愛とか計画が台無しではないか。
「あーはい。目論見が盛大に外れてガッカリしているのは分かるのですが、本当に大丈夫なんですか?」
だから大丈夫じゃないと、俺が答えようとする前に相棒が言う。
「ご主人様は何日も若い女性と二人きりになるわけですが……ちゃんと会話できます?」
「大丈夫じゃねーわ」
絶望的なまでに無理だ。
「まずもって会話の内容がさっぱり思いつかねーわ」
「社会性って言葉知ってます?」
「戦場以外の社会を知りません」
基本ボッチ傭兵だったのでマジで分からん。
しかも育ての親はAIだったので、割と対人関係に難ありなのが俺だ。
自覚はあるので、どうにかしようと努力はしてみたが、結果は実年齢で四十歳の童貞だ。
ふぅ! 我ながら終わってるぅ!
「ご主人様の悲惨な過去はともかくとして」
悲惨はやめろよ相棒。せめて悲しい過去って言ってくれ。
「それで依頼はいつから何ですか?」
せめて心の準備をしないと、とボヤく相棒に俺は答える。
「もう始まってる」
「は?」
これを言えば俺と同じように、相棒も頭を抱えてくれるかな?
「今、シャワー浴びてる」
「はぁ!?」
俺は相棒に向けてSOS信号を連打した。
俺のような宇宙生活者にとっては、シャワーや入浴という習慣は割と遠い。
宇宙では水が貴重だから、というのもあるが、最大の問題は宇宙船の利用可能な空間のせいだ。
水は基本的に完全な循環系になっているが、これが結構なスペースを取るのだ。
浴室を削るだけで確保できるスペースは、驚くほど大きい。
俺の宇宙船、ベイトフィーダ―号のような中型戦闘艦ではそれこそ無視できない程に。
というわけで。
つまり俺のような宇宙生活者にとって、湯上りというのはそれだけで一種の非日常なのだ。
つまり若干湿った髪の女性が目の前にいると、それだけでドキドキする。
「助けてくれ相棒」
俺は通信で助けを求めた。
「何を助けろって言うんですか」
相棒の冷たい言葉に、俺は声に出して叫びたい気持ちを抑えた。
「シャワー浴びた女性が、ソファの対面に座って、黙ったままこっちを見続ける状態に対してだよ!」
通信では叫んだ。
ちなみに既に十分以上経過している。
何か話した方が良い、程度の事は俺も分かるのだが、何を話せば良いのかさっぱりだ。何を口にしても相手を不愉快にさせるんじゃないかと不安になる。
「とりあえず天気の話でも振ってみたらどうです? あからさま過ぎて噴飯《ふんぱん》ものですけど、会話の切っ掛けぐらいにはなってくれるでしょ」
相棒の頼もしさが身に染みる。
「今日の天気は?」
「天気の話をしろって言ってるんです! 何で訊くんですか!? もしかして相手を旧時代のAIだと思ってます?」
相棒の辛辣なツッコミに、今のは間違いだと、慌てて訂正しようとする前に少女が口を開いた。
初めて少女の声を聞くことになりそうだが、それが罵倒になりそうなのが凄く嫌。
「本日の天気は首都近辺は晴れ、気象管理AIが公表しているスケジュールによると今後一週間は晴れが続く予定です」
ホテルの一室が超新星の地殻並みに硬い沈黙で包まれる。
「おい相棒、これはギャグか? ギャグだと思うか? 笑わないと駄目か? なあ?」
「お掃除ロボットに思春期少女の内面を尋ねないでください。人類の矜持はないんですか?」
うわズルい。AIが人類の矜持とか持ち出して答えを拒否してきやがった。
「えーっと、ご飯食べる?」
天気の話が駄目ならこれだろ、鉄板だろ飯の話。
なにせ人類は全身サイボーグ化しても飯を食う機能を残すのだ。食欲こそが世界を動かす原動力だ。なお戦争の理由にもなるので、傭兵的にはこれが本当の飯のタネって奴だガハハ。
「次の食事は四時間後の十九時に摂る予定になっています」
実に事務的な答えを返してきた少女の顔は、皮膚の下にはメタルフレームでも埋まっているのかと思うような無表情だった。
白磁のような肌もあいまって、まるで旧時代のサイボークかアンドロイドみたいだ。
青い髪は遺伝子操作で造られた人間だというタグみたいなものだが、それにしたって彼らは人間だ。感情はあるし、怒りもすれば笑いもする。
つまりこれはあれか? お前なんぞに表情筋を動かしてやる義理もないって奴だろうか?
思春期女子こえぇな。
「あーそうか。うん、規則正しい生活は大事だな」
俺はどうすっかなぁと、膝の上で両手の指を付けたり離したりしながら考える。
そしてふとひらめく。
「そう言えば自己紹介がまだだったな」
途端、相棒から「まだ自己紹介もしてなかったんですか!?」という驚きの声を投げつけられたが無視した。
女性の名前を訊くタイミングなんて俺に分かるわけがないだろ。
「俺の名前はバシマ・アルスタッド。独立傭兵で、知ってはいるだろうけど、君の護衛だ」
握手の為に手を差し出すべきかどうか、俺は一瞬だけ迷って手は膝の上に置いたままにした。拒否されても無視されても辛いからだ。
そして返ってきたのは沈黙だった。
これはキツイ、マジできっつい。
握手を拒否られるのも、無視されるのも予想できたが、自己紹介を無視は予想外だった。
俺は何とか、まだ俺は傷ついてないよ? 平気だよ? と笑顔を浮かべて首を傾げてみるが、たぶんコレ傍《はた》から見ると虚勢に見えるんだろうな。
しかし、実際のところ護衛対象の名前も知らないというのは実務上でも不具合が発生する。バディア報道官から貰った資料には名前は書いてなかったのだ。
欠陥資料すぎる。
まるでガラス玉のような少女の瞳、俺はそれに負けてお願いを口にする。
「できれば名前を教えて欲しいんだが……君の名前は?」
これで無視されたらバディア報道官に貰った緊急連絡アドレスを使おう。
緊急連絡用のラインを、護衛対象の名前を訊くのに使うというのは非常にアレだが、背に腹は代えられない。
「私の名前は」
少女の、ガラスのコップを弾いたような声に思わずビクっとする。
てっきり無視されると思っていた。
「メートリー・カラナです」
やばいチョット泣きそう。
「ご主人様、流石に名前を教えて貰えただけで感動するのはちょっと……」
うるせぇよ。
「よろしく、メートリー」
俺は握手を求め、彼女に手を差し出し――。
そして俺の手を見て首を傾げる少女の顔を見て引っ込めた。
おっと危ない調子に乗りすぎた。
童貞の心は傷つきやすいのだ、もっと慎重にならねば。