銀河最強童貞のサイボーグ俺、ち〇こだけは守護りたい 作:たけすぃ
*
「依頼で向かった先で、どれだけ犯罪を重ねるつもりなんですか?」
ホテルの地下駐車場で、車に乗り込んだ俺を相棒が非難してくる。
「この状況で用意された車を使う程まぬけじゃない俺を褒めてくれ」
俺は乗り込んだ車をハッキングしつつ、相棒に皮肉を返す。
用意されていた車は俺でも知っている高級車だったが、これだけ情報が漏れている状態では信用なんて出来るはずもなく、俺は他の車を使う事にした。
まあ、つまりは盗んだのだ。
「よし、エンジンがかかった」
俺は後部座席に座るメートリーにも分かるように声に出しながら相棒に伝える。
「了解しました。周辺マップを確認、推定狙撃位置の死角をマークします、宇宙港までのルートを選定しますか?」
「俺なら宇宙港で待ち伏せする。むしろそっちを本命にするね」
宇宙港なんて障害物が少ないので狙撃し放題だ。
「合流は諦めて、このまま陸路で移動する。そっちはママに言って空に上がってくれ」
「良いのですか?」
「どちらにしろ惑星近郊で宇宙船が所在を隠すのは無理だからな」
遥か昔の航空機がそうであったように、安全上の理由でトランスポンダーは切れない。
ハッキング等で無理やり黙らせる事もできるが、危なすぎてママが許さないだろう。
「今ならそちらに護衛対象は乗っていないとハッキリしているから、空でも安全だろ。軌道上から援護してくれ。当然だけど自衛はいちいち俺に確認しなくて良いぞ」
「了解しました」
俺はタイヤのロックを外して慎重に車を動かす。
駐車場に止められていた車が一斉に動き出しているせいで危ないのだ。
「ところでこの無人で動いている車は何なんです?」
車列に車体を割り込ませながら、俺は相棒の質問に答える。
「自動車AIに、持ち主が自宅に忘れ物をしたって教えてやっただけだよ」
「惑星標準時で午前三時にですか? このホテルの宿泊客は随分と早起きな人ばかりなんですね」
相棒は皮肉をのたまうが、おそらく実際に泊まっている宿泊客の殆どは起きているだろう。なにせ自分が泊まっているホテルがレールガンで狙撃されたのだから。
地下駐車場から出た車列が、各々の持ち主の自宅に向けて走り出す。
相手の装備しだいだが、これで俺達の車は見失ってくれるだろう。
早朝、というか深夜の街に俄かに発生した車列は早々に細切れになり、俺達の車はランダムに設定したルートに従って首都の道路を走る。
さすが首都なだけあって、深夜でも車や人がチラホラと見えるが、それでも昼間見た時のような活気さはない。
つまり――。
「相棒、緊急事態だ。女子と二人でドライブってどうすれば良いんだ?」
車内が静かすぎて息が詰まりそう。
「何か良い感じの音楽でもかければいいのか?」
「まずはドライブじゃなくて護送任務だって思い出してください」
護送任務だろうがドライブだろうが、車内で二人きりってところは変わらないだろ。
「ですがまあ、護衛対象の緊張を解くのに音楽は有効ですね。好みでも訊いてみてはどうですか?」
「できると思うか?」
「やれって言ってるんですよ?」
これも業務か……。
護衛対象の心身を守る、そうと思えばやれるはずだ。
「地球の1990年代アメリカって国でニルバーナっていう伝説的なロックバンドがいたんだけど、ロックがただの商品になったっていう時代にインディーズの感性のままでメジャーに殴りこんで、メジャー化しない音楽で」
「待って待って待って! 待ってください! ご主人様! 最悪です!」
「何が最悪なんだよ! ニルバーナは最高だぞ!?」
「それを突然語りだしてるのがヤバいんですよ! 私は相手に訊けって言ったんですけど!?」
「どうやって訊けばいいのか分からないから、自分の好きなバンドを語ったんだが!」
そんな情けない事を堂々と言わないでください!
相棒の悲鳴じみた叫び声に、童貞に高度な会話スキル求めるんじゃねぇと、文句を言い返そうとしたら動体センサーが後部座席で動きを感知した。
「メジャー化しない音楽で――どうしたんですか?」
首を傾げたメートリーだった。
「音楽に興味があるのか?」
通信機の向こうで「嘘でしょ?」と驚いている相棒を無視して、メートリーに問い返す。
相手が興味を示してくれたのだ、この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。
何としてでも会話を繋ぐのだ。
その為だったら質問に質問を返すぐらいはやってやる。
「はい。音楽は……好きです」
動体センサーが再び動作を感知、メートリーが頷いたのだ。
「思春期の少女が旧時代のバンドに興味なんて持ちますかね? ご主人様、気を付けてください。これは敵の罠かもしれませんよ」
たとえ罠でも俺はもう無言の車内空間に耐えられそうにない。あと敵って誰だよ?
俺は相棒の言葉を無視して中断したニルバーナ語りを再開する。
「彼らは商業主義的なロックが支配的な市場で、本来ロックというジャンルが表現していた、怒りや不安や孤独感をありのまま歌ったんだ」
それ自体は、いつの時代でも珍しいものじゃないはずだ。
今も当然のように、怒りや不安や孤独感をテーマとした音楽はある。
しかし俺がこの時代の音楽を好きなのは、そこにある生々しさが好きなのだ。
作詞作曲も、演奏も人間の肉体からだけで作られた音楽。
ボーカルですら〝生身の喉を震わせて〟歌っているのだ。
今では考えられないそれは、俺からすると強烈な程に生々しさを感じるのだ。
その中でもニルバーナは俺のお気に入りのバンドの一つだ。
「でも面白いのが、彼らは非商業主義的な音楽性で、商業主義的な市場に殴りこんだのに、商業的には成功したいと考えていた事なんだ。当時の商業的ロックであるヘアメタルを否定しつつも商業的成功を目指した結果、彼らは時代を劇的に変えてしまったんだ」
それを俺は皮肉とは捉えない。
売れたい理由がまともな生活したいなんて、実に
しかし、その結果こそを俺は皮肉と感じる。
非商業的な音楽性で商業的な成功を目指し、
そして、知らない誰か達の代弁者扱いされて苦しむ事になった。
俺の勝手な想像でしかないが、彼らの音楽はずっとその根底に自分という存在があったのだ。誰かの為に歌う事はあっても、誰かの為に曲を作る事はなかった。
それがきっとカート・コバーンという人間だったのだ。
「ニルバーナのボーカル、カート・コバーンはこんな事を言った。〝自分であることで嫌われるほうが、偽りの自分を好かれるよりましだ〟って。元々は小説からの引用らしいんだけど、これが彼らの音楽の本質なんだと俺は思ってる」
俺は外部脳《アウターブレイン》の中にあるプレイリストからニルバーナの曲を車のオーディオシステムに転送させる。
「聞いてみるか?」
気に入るかどうかは知らないが、まあ一曲ぐらいは付き合ってもらおう。
「はい。聞いてみたいです」
俺は再生指示のコマンドを実行した。
深夜の車内に、爆音でニルバーナの〈Smells Like Teen Spirit〉が流れる。
現代語に翻訳するならば〈若き魂の匂い〉というタイトルだ。
意外と良い選曲だったかもしれない。
「十代少女が同乗してるからって安直な……」
俺の内心を見透かしたかのような、相棒のツッコみは無視する事にした。
そう言えばメートリーが自分から何かを要求したのはこれが初めてだな。
俺は心震わせるイントロを聞きながらそんな事を思った。