ビクトリア基地のマスドライバーから強烈なGを伴って一気に大気圏を突破し、ウルブズの地球本部から遥か宇宙本部へと戻ってきた蓮のオーディンマークII、そしてラーラやアキ、マコトを乗せたシャトルが、宇宙本部の巨大な格納庫へと滑らかに入港していく。
プシューーー――。
気密ハッチが静かに開放されるが、既に蓮が地上から宇宙へと戻るまでの僅かな移動時間の間に、地球圏の事態は世界を震撼させる新たなる最悪の展開を迎えていた。
蓮が漆黒のパイロットスーツのまま、オーディンマークIIの狭いコックピットから床へと降りると、タラップの下では待ち構えていたナタルが厳しい面持ちで歩み寄ってきて、直立の姿勢のまま告げた。
「既に知っているかと思いますが、少々事態が変わりました。」
ナタルがそう緊迫した声音のセリフを響かせると、蓮はヘルメットを小脇に抱えたまま、一切の感情を排した冷徹な視線を向けた。
「ベルリンの件だろ。俺も道中で聞いた。あの場にいたのは戦争で被害受けた避難民とそれを支援するために駐屯していたザフトのみだった。それを攻撃した以上、世間は地球軍を批判せざるを得ないだろう。しかし、地球軍もあんな兵器を用意してるとは。」
大西洋連邦が極秘裏に投入した、一都市を数時間で焦土に変える悪魔の超巨大モビルアーマー。蓮はその恐るべき事実を口にしつつ、空間を切り裂くような静かな足音を響かせ、ナタルを引き連れてそのまま最高本部の会議室へと向かう。
重厚な防音扉が左右へと開き、蓮が会議室に入ると、そこには地球圏の崩壊を食い止めるべく、すでに宇宙本部の幹部達が張り詰めた沈黙のなかで厳かに待機していた。
蓮は中央の指揮官席へと重々しく腰を下ろすと、並み居る幹部たちを冷徹に見据えて口を開いた。
「既にみんな知っていると思うが、ベルリンの件は聞いているだろう。だが、改めて得た情報の説明を頼む。」
蓮がそう端的に指示を出すと、コンソールの前で起立した幹部が1人立ち上がり、大画面のメインスクリーンへ諜報員から得た詳細な戦闘資料と、焦土と化したベルリンの生々しい映像や画像を映し出しながら、確固たる聲音を響かせた。
「では、説明します。数日前、ユーラシア連邦の新プラント都市に対して、地球軍の大型モビルスーツ1機が侵攻。現地のザフト軍が応戦しましたが、3つの都市が壊滅し、ベルリンまで侵攻。これに対してアークエンジェル, フリーダム、そしてマルタ沖でアークエンジェルに加わったタケミカヅチ所属のクサナギが応戦。更に途中からはミネルバとインパルスが加わり、巨大モビルスーツを撃破。しかし、被害は大きく民間人にも多数の流れ弾が命中、未だに死傷者の詳細は掴めないと。」
無差別な大虐殺の記録が次々とコンソールに同期されるなか、蓮は静かに腕を組み換え、世界の勢力図の行く末を見据えて冷徹なセリフを低く響かせた。
「これで世界に地球軍の今までの行為が明るみになるだろう。しかし、俺が心配なのはこれを機に勢いつくデュランダル率いるプラントだ。奴は何かを隠し、計画している。今のところはデュランダルの筋書き通りだろう。」
蓮がそう深く情勢を見据えて話していると、突如として作戦会議室の重厚な扉が勢いよく開き、息を切らせた下士官が慌ただしく室内へと入ってきた。
「会議中、失礼します。至急、テレビをお付けください。デュランダル議長が新たな声明を発表しています。」
下士官からそう緊迫した声音で言われ、蓮の指示でオペレーターがメインモニターの回線を地上波のハッキング受信へと切り替えてテレビをつけると、そこには、既に巨大兵器によって破壊し尽くされたベルリンの生々しい惨劇の映像が流れ、合わせてスピーカーからは、世界全土の民衆を扇動するギルバート・デュランダル議長の声が静かに流れるのだった。
演説の最後には、デュランダル議長はこの悲惨な戦争を引き起こした真の張本人は、大西洋連邦を裏で操る闇商人の集まり『ロゴス』であると言い放ち、その最重要メンバーたちの顔写真を大画面に挙げるのだった。
世界中が怒りと驚愕に包まれるその衝撃のハッキング映像を冷徹に見届け、蓮は指揮官席の椅子の背もたれに身体を預けると、瞳の奥に鋭い大義の光を宿して呟いた。
「どうやら、もうすでにデュランダルは計画へと動き出してるようだな。」
蓮がそう冷酷なチェス盤の進行を見ぬくようにしてセリフを漏らすと、そのあまりにも不気味な言葉の意味が理解できず、会議室のテーブルに着いていた宇宙本部の幹部の1人が、驚きを滲ませて立ち上がりながら聞いた。
「どういう事でしょうか。」
その幹部の問いに対し、蓮は先程見た諜報員からの映像と、今まさにテレビに映し出されている世界向けの映像とを冷徹に見比べる。
すると、テレビの画面に映し出されている戦闘記録には、全てザフトのモビルスーツのみで埋め尽くされており、実際に現場に介入してデストロイを撃破する最大の要となったはずのアークエンジェル、フリーダム、そしてクサナギの姿は、情報統制の編集によって全て消されていたのだった。
自分たちに不都合な真実を世界から完全に隠蔽し、アークエンジェルを孤立させて次なる標的に仕立て上げようとするデュランダルの欺瞞。その恐るべき世界の裏の意図を瞬時に悟った蓮は、鋭くオペレーターを振り返り、張り詰めた規律の聲音の指示を出すのであった。
「直ぐに地球本部のブラットに繋いでくれ。」
じゃあ、頼むぞ。」
蓮がそう画面の向こう側のブラットへ地球本部の運命を託すようにして伝えると、ブラットはいつもの不敵な笑みを浮かべた。
「了解。大将。」
ブラッドがそう短く、確固たる覚悟を込めて応じると同時に、プツンと音を立てて全宇宙暗号通信の無線が切れる。巨大なホログラムスクリーンが静かに暗転し、元の張り詰めた静寂が戻った作戦会議室の中で、蓮はシートの背もたれに身体を預けながら、聲音を低く漏らした。
「後はブラット達次第か。」
そう呟くと同時、蓮は自らの手でメインコンソールの通信を完全に切る。
国家や陣営の欺瞞に踊らされる地上の情勢を見据え、一息ついていると、鳴り響いた電子音と共に暗号回線の通信が再び入る。蓮が即座に手元のスイッチを叩いて通信に出ると、スピーカーの奥から響いてきた相手の声は、宇宙本部の留守を預かっていたナタルからであった。
蓮がメインスクリーンを真っ直ぐに見据えた。
「どうした。」
『例の戦艦の調整が終わりました。後、既に3人にも配備先を伝えているので、後は訓練を積むだけかと。』
ナタルがそう画面の向こう側から、完成を終えたウルブズ独自の例の戦艦のロールアウト、そして地球から送られた3名の精鋭パイロットへの新型機の下達を実直なセリフで報告してくる。その確実な一報を耳にした蓮は、小さく頷いて規律の聲音を返した。
「分かった。俺も訓練にはたびたび参加すると伝えておいてくれ。」
『了解いたしました。そのように伝達しておきます。』
蓮がそう短く応答を交わして通信を切り、自らも新たなる最強の牙の威容を確かめるべく、空間を切り裂くような静かな足音を響かせながら宇宙本部の巨大な格納庫へと向かう。
強固な気密隔壁が左右へと開き、ナトリウム灯の薄暗い光が差し込む広大な格納庫に入ると、そこには、主役機として威風堂々と鎮座する自分のオーディンマークIIのすぐ隣に、蓮にとってあまりとも見覚えのある獰猛なシルエットを持った3機の新型モビルスーツが、強固な係留アームに固定されて静かに収納されていた。
蓮がその凄絶な3機の鋼鉄の牙を見上げていると、背後から油のついたツナギを着た本部の整備班が歩み寄ってきて、白い歯を見せながら親しげに声をかけてきた。
「隊長、やはり見にきたのですか。」
整備班のその実直なセリフを耳にした蓮は、視線を新型機に据えたまま、その強固な装甲を見つめて低く言葉を響かせた。
「これがオーディンMか。」
蓮がそう端的に問うと、整備班の男は誇らしげに胸を張り、その機体へ秘められた恐るべき開発経緯と最高峰のシステムスペックを熱く語った。
「はい。先の戦争で隊長が乗られていたオーディン改を基に性能はオーディンマークIIと同等にし、武装は各状況に合わせて変更可能、また飛行形態においても状況に応じて武装の追加が可能です。」
かつての大戦を共に駆け抜けた愛機の魂を受け継ぎ、ウルブズの最先端テクノロジーを以て限界まで昇華させた最高の可変型量産試作機。その圧倒的なファクトを耳にした蓮は、白と黒の制服のまま真っ直ぐに整備班を見据えて聞いた。
「俺が指名したパイロット3人には伝えてあるのか。」
「はい。今はシミュレーターで訓練をしています。遂にオーディン隊の完成ですね。」
「あぁ。」
整備班のその期待に満ちたセリフに対し、蓮は短く、しかし確固たる絶対の信頼を声音に宿して静かに応じると、新たに配備されたオーディンMの獰猛な鉄の巨体を、ただ静かにながめるのであった。
最高指揮官である蓮が地球を離れて宇宙本部へと向かってから、数週間の刻がすでに経過し、地球圏の事態はウルブズの警戒通りにさらなる地獄の激動を迎えていた。
――エンジェルダウン作戦。
それはプラントのギルバート・デュランダル議長が、世界の中立の欺瞞を暴くアークエンジェルとフリーダムの完全な撃墜を目的として発動した冷酷な暗殺作戦であり、この過酷な作戦にはシン・アスカらの駆る新鋭艦ミネルバも全戦力として参加、熾烈を極めた激戦の末、伝説のエースであったフリーダムはインパルスの驚異的な猛威によって遂に撃破され、母艦であるアークエンジェルも艦体に多数の致命的な損傷を負うも、海中へと辛うじて潜航し、難を逃れるのだった。
フリーダムに乗るキラ・ヤマトも、機体の爆発からなんとか生還して生き残るが、最強の矛であったフリーダムを完全に失ったことにより、満身創痍のアークエンジェルに残されたモビルスーツの戦力は、タケミカヅチから合流したオーブ軍のクサナギに所属する少数のアストレイ部隊、そしてカガリ・ユラ・アスハの乗るストライクルージュのみであった。さらに、その極限の最中、ザフト軍から脱走して傷を負ったアスラン・ザラとメイリン・ホークの二人もアークエンジェルへと命からがら合流するが、戦力が絶望的に枯渇している事態の深刻さに変わりはなかった。
黒海周辺から、すでに逃亡したアークエンジェルを地の果てまで徹底的に捜索するザフト軍の潜水艦が、黒海、そして地中海の主要海域にもくまなく哨戒のために大量に派遣されていた。
そんな息の詰まる包囲網のなか、満身創痍のアークエンジェルが地中海へと必死に潜り込んだ、まさにその絶対の瞬間であった。
ピピピピピピピピピッ!!!
不気味な警報音がアークエンジェルのブリッジに鳴り響き、ザフト軍の最新鋭潜水艦にアークエンジェルの巨体は完全に捕捉されてしまう。
「ダメです、敵潜水艦に完全ロックされました! 本艦の熱源パターンを完全に掴まれています!」
「本艦の防盾エネルギー、すでに限界値を下回っています! 次の一撃を防ぐ余力はありません!」
オペレーターたちの悲痛な叫びがブリッジを濡らす。
一方、ソナーの光点に完全に獲物を捉えたザフト軍潜水艦のコックピット内では、パイロットたちが冷酷な確信の声を無線で交わし合っていた。
『ターゲットの熱源パターンを固定。逃がさんぞ、偽りの正義を掲げる白き魔女め……!』
『議長を愚弄したアークエンジェルも、今やただのボロ雑巾だ。全魚雷発射管、開け! 海の底で完全に塵にしろ!』
ザフトのパイロットが操縦桿のトリガーに指をかけ、絶望的な殺意を滾らせる。すでに艦体の多くの重要部分を損傷し、防盾のエネルギーも底を突いているアークエンジェルは、今や一度でも敵からの魚雷攻撃を喰らえば、一撃で海の底へと撃沈される恐れがある最悪の窮地に立たされていた。
「……っ!!」
マリュー・ラミアス艦長が操縦桿を前にして誰もが死を覚悟した、まさにその刹那、
ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!
『な、何だ!? 後方から未知の高速魚雷接近――うわあああぁぁぁッ!!』
アークエンジェルの眼前で、追尾してきていたザフト軍の潜水艦が、突如として別の海域から放たれた無音魚雷の猛烈な直撃攻撃を受け、一瞬にして凄絶な爆炎を撒き散らして海の底へと撃沈されたのだった。
「――っ、何が起きたの!? ザフトの潜水艦が撃破された!?」
マリュー艦長をはじめとするブリッジのクルーたちが烈しい警戒をしながら周囲を走査していると、アークエンジェルの精密ソナーのスクリーンが、直近の海中から急速に接近する新たに一隻の巨大な潜水艦の熱源反応を鮮烈に捕捉した。
「艦長! 海中から未知の超大型潜水艦が急速接近! 本艦のすぐ横に並びます!」
しかし、その不気味な潜水艦はアークエンジェルに対して一切攻撃することなく、驚異的な静粛性のまま滑らかに舵を切り、傷ついたアークエンジェルのすぐ横に並ぶようにしてその巨体を並べた。
ピン、ピピピピピッ!!!
アークエンジェルの全無線回線へ、ウルブズの最高暗号を以て一本の無線通信が割り込み、スピーカーの奥から規律の取れたウルブズのオペレーターの聲音が真っ直ぐに響いてきた。
『こちら、ウルブズ所属潜水母艦フェニクス。アークエンジェル、これより貴艦を安全な基地へと誘導する。我に続かれたし。』
それは、世界中からテロ組織として追われる身となったアークエンジェルに対し、あまりにも非情で、しかし最も求めていた最強の救済のセリフであった。
「ウルブズの、潜水母艦……? 蓮のいる組織……」
キラやカガリ、あるいはシャルが息を呑むなか、マリュー艦長はこれが次なる罠である可能性を疑うものの、今や自らの全推進スラスターすら限界を迎えている現実、および自分たちを救ってくれたウルブズの行為に甘えるしか道はなく、その決断を承諾した。
「……分かりました。本艦は、これより貴艦の誘導に従います。」
マリュー艦長がそう無線を切って承諾を受け、傷ついた白き戦艦は誘導されるまま、フェニクスの航跡を追って、ブラッドやシェルたちが待ち受ける地中海のウルブズの地球本部へと、暗い海の底を静かに向かうのであった。
突如としてザフト軍の執拗な魚雷急襲からウルブズの潜水母艦フェニクスに救われたアークエンジェルは、その巨大な航跡による誘導の下、地中海の強固な岩壁ゲートをくぐり、ウルブズの地球本部の秘密ドックへと静かに入港した。
ガギィィィン――。
係留アームが傷ついた巨体をがっしりと固定し、タラップが架けられる。マリュー艦長やカガリ、シャル、そしてキラの4人が緊張感を網羅してアークエンジェルから降りると、そこには地球本部の防衛管理を任されたばかりのブラッドとシンシア、そして自らの部下5名を背後に引き連れたシェルの姿があった。
シャルは驚き、ハッと息を呑んで声を漏らした。
「シェル。」
シャルがそう驚くが、シェルは一隊を率いる指揮官としての引き締まった面持ちのまま静かにそれを見つめる。
正式にラミアス艦長はブラッドの元へと歩み寄り、正面から対面すると、気高き規律の聲音を響かせた。
「アークエンジェル艦長のマリュー・ラミアスです。危ないところを助けて頂きありがとうございます。」
「この基地を任されてるブラットだ。よろしく。」
ブラッドがそう不敵な笑みを浮かべて大柄な体躯を揺らしながら挨拶を返すと、周囲に聳え立つ鉄の防壁を見渡したマリューは、驚きを隠せない聲音で言葉を漏らした。
「こんな地中海のこんな基地あるなんて。」
「ここは前の戦争で放棄されたユーラシアの基地だ。そして誰もいない基地をウチの大将がそのまま占領したってことだ。俺もウルブズに所属して間もないが、大義に燃える大将からあんた達の手助けを頼まれてね。簡単な補給と整備は可能だ。既にいつでも整備班を動かせるが、どうする?」
ブラッドが咥え煙草を揺らしながらそう端的に聞くと、アークエンジェルの満身創痍の現状を見据えたマリューは、小さく目を伏せて深く頭を下げた。
「では、お言葉に甘えて。」
マリューがそう実直なセリフを返すと同時、待機していたウルブズの優秀な整備班が一斉に動き始め、大破した白き戦艦の補修へと取り掛かるのだった。
――その後、マリューやカガリ、シャル、キラの4人は、シンシアの手によって基地の奥にある応接室へと案内される。
重厚なソファーに腰を下ろし、出された飲み物を前に張り詰めた沈黙が流れるなか、真っ直ぐにブラッドを睨み据えて、最初に切り出したのはカガリであった。
「それで聞きたいのだが、ウルブズのリーダーは誰なんだ。」
カガリがそう強い口調の聲音のセリフで問い詰めると、ブラッドは心底意外そうに眉を跳ね上げ、不敵な声音を響かせた。
「何だ、知らないのか。あんた達も何度かあってるだろ。ウチの大将と。」
「まさか。」
ブラッドのその確信に満ちた言葉に、シャルの脳裏にある一人の男の白き主役機の幻影が烈しく過り、驚きの声を漏らす。そのシャルの表情を見据えながら、ブラッドははっきりとその絶対の事実のセリフを告げた。
「連隊長だよ。ウチの大将は。」
その言葉が応接室に響いた瞬間、マリューは自らの美しい瞳を驚愕に大きく見開き、言葉を漏らした。
「まさかと思っていたけど……蓮少尉が、ウルブズのボスだなんて! それで、蓮少尉はどこに?」
「あいにく、今は宇宙にいる。」
「そうですか……。」
ナタルたち宇宙本隊と合流すべく、すでにマスドライバーで宇宙へと上がってしまっているという事実。マリューがそう寂しげに視線を落とすと、隣にいたキラが真剣な瞳をブラッドへと向け、魂の叫びを静かにぶつけた。
「ブラットさん。なぜ、蓮少尉がウルブズを立ち上げたか、理由は知っていますか。」
かつて同じ地獄の戦場を背中を預け合って生き抜いた、あの優しき戦友の非情な決別。キラが必死にその理由の真意を聞くと、ブラッドは首を振って苦笑を漏らした。
「さっきも言ったが、俺はまだ新参者でね。そんな詳しいことは聞いてないのよ。言える事は、大将が今、デュランダル議長の動きを警戒しているってだけだ。例に俺にあんた達を助けるように指示を出したのは大将だ。後、ウチのシェル小隊長はそこにいる女王陛下の妹なんだろ。少し、話してきたらどうだ。」
ブラッドがそう咥え煙草の煙を吐き出しながら粋な計らいのセリフを向けると、マリューもまたシャルの引き裂かれそうな胸の内を察し、無二の優しさの聲音をそっと添えた。
「そうね。今までは色々とあったから、少し話してもいいのではないかしら。」
「だが……。」
自分が一国の女王としての規律に縛られ、妹にまで刃を向けたクレタの現実。シャルがそう切なげに俯いて躊躇っていると、キラは優しくシャルを見つめ、声音で背中を押した。
「ここは僕たちが聞くから。カガリといってきたらどうだい。」
「すまない。」
シャルはキラたちのその温かい配慮のセリフに深く感謝すると、椅子からゆっくりと腰を上げ、カガリと共に、ドックの前で毅然と待つ最愛の妹・シェルの元へ向かって応接室を歩み出ていくのであった。
シャルとカガリの二人が張り詰めた空気の応接室を後にし、ナトリウム灯の明かりが灯る巨大な地下格納庫へと行くと、そこには愛機パンドラの前で、かつて現地オーブのレジスタンスであったシグレたち5名に、毅然とした態度で次なる防衛の指示を出しているシェルの姿があった。
その背中へ、シャルは空間を切り裂くような静かな足音で近づき、切なげに声をかけた。
「シェル。」
シャルがそう呼びかけると、シェルはハッとしたように少し振り向き、背後の部下たちへ向けて凜とした声音のト書きを告げた。
「各自、少し休憩しておいてください。」
シェルがそう的確に指示を出すと、シグレたち5名は規律正しく一礼してその場を離れていく。シェルはゆっくりとシャルとカガリの方を向き、そっと目を伏せて言葉を漏らした。
「・・・・・お久しぶりです。お姉様、カガリさん。」
その最愛の妹の声を耳にした瞬間、シャルは溢れ出る感情を抑えきれず、シェルに烈しく抱きついた。
「心配したのだぞ! 2年前、急に居なくなって、お前の居場所を必死に探していたら……お前が大西洋連邦にいて、あのヤキン・ドゥーエの地獄で戦死したと聞いて……!」
シャルがその細い肩を抱き締めながら、一人の少女として大粒の涙を流すと、シェルもまた姉の温もりに操縦桿を握る手の震えを止め、その背中に腕を回した。
「申し訳ありません、お姉様……。もっと早くにお姉様に生きていることを伝えるべきでした。なのに私は、お姉様に何も言わずに……。」
シェルもまた大粒の涙を流しつつ、2年間の絶望の闇を完全に吹き飛ばすようにして、姉妹は互いに再会を喜ぶのであった。
そして、しばらくしてようやく2人は気持ちを落ち着かせると、傍らで見守っていたカガリを連れて、冷たいドックを離れてシェルの私室へと移動する。
シェルの自室の静けさのなか、シェルが世界の裏舞台であの白き主役機と再会し、どのような思いを抱いてウルブズに入ったのか、そのすべての経緯をシェルから話すのであった。
そして、すべての経緯を伝え終わると、シャルは自らの胸元にあるネックレスをそっと握り締め、最も聞きたかった問いの声音を漏らした。
「蓮がなぜ、あの時に私たちの元へ戻らなかったのか……お前は知ってるのか。」
シャルがそう縋るようにして聞きと、シェルは寂しげに紅色の瞳を伏せて言葉を返した。
「ごめんなさい、私もその詳しい理由は知らないのです。何故、蓮様がオーブにも日本にも戻らず、独りでウルブズを立ち上げたのか……私もずっと疑問には思っていましたが。・・・・ですが、これだけははっきりと高らかに言えます。蓮様はお姉様の事をきっと1秒たりとも忘れた事はありません。むしろ、誰よりも激しく後悔しておられました。生きているのにも関わらず、死を偽装し、あの時の約束を果たさなかった自分のことを。」
不器用なほどに冷酷な仮面を被りながら、その実、誰よりもシャルとの約束に縛られ、独りで世界の泥を背負おうとしている蓮の真実。シェルのその決死のセリフを聞いたシャルは、僅かに目を見開き、やがて愛おしげにそっと声を漏らした。
「そうか。・・・・アイツはやっぱり、何も変わっていなかったのだな。……それで、蓮は今は宇宙で何をしているのだ。」
「細かい事は分かりませんが、蓮様達は『近いうちに再び世界の事態は大きく変わる。そのために宇宙へと戻る』としか言っていませんでした。」
デュランダル議長が仕掛ける、アークエンジェルを孤立させるための次なる世界規模のチェス盤の罠。蓮が宇宙のオーディンMと共にその防備へ動いている現実にカガリもまた引き締まった面持ちとなり、シェルの顔を見つめて聞いた。
「シェルはこれからどうするのだ。」
「私はこのまま、ここに残ります。今の私には、この地球本部を護る小隊長としての新たな役目がありますから。」
「・・・・そうか。」
シャルは、自らの後ろに隠れるだけだった妹が、ウルブズの確固たる戦士として自分の足で立っている姿に寂しげに、しかし誇らしげに声音を呟くのであった。
――そして、2日後。
ウルブズ地球本部の優秀な整備班と豊富な物資の手によって、アークエンジェルの応急整備と物資の補給はすべて完了し、シャルとカガリはアークエンジェルを以て、再びかつての故郷オーブへと向かうことになる。
激しい波飛沫が防壁を濡らすアークエンジェルのいるドックの只中、タラップの手前でシャルは静かに足を止めた。
「元気でな。」
シャルがそう万感の思いを込めて言うと、見送りに来たシェルは指揮官としての綺麗な敬礼の姿勢のまま、無二の優しさの聲音を返した。
「はい。お姉様もお気をつけて。」
シャルは最後に愛しい妹の姿をその瞳に焼き付けると、アークエンジェルに乗り込むのであった。
そして、気密ハッチが重々しく閉まり、シェルやブラット、シンシアたち地球本部の面々に見送られ、満身創痍の傷を完全に癒やした白き伝説の戦艦アークエンジェルは、次なる大戦乱の歴史の真実をブチ抜くために、ウルブズの地球本部を静かに後にするのであった。
シェルやブラッド、シンシアたちの確固たる絶対の信頼に見送られ、無事にウルブズの地球本部を後にしたアークエンジェルが、ザフト軍の執拗な哨戒網を完璧に掻い潜って、かつての故郷オーブのモルゲンレーテ社の秘密ドックへと無事にたどり着いた、まさにその一方。
遥か上空の宇宙圏では、最高指揮官である蓮率いる新生『オーディン隊』が、来たるべき世界の激動に備えて日々苛烈な模擬戦闘訓練に励んでいた。
宇宙本部の付近に広がる、無数の岩塊が浮遊する危険な小惑星帯。
そこでは、先の戦争で蓮が駆っていたオーディン改の魂を受け継ぎ、新たに生産された3機のオーディンMのコックピットへ、地球から送られたアキ、マコト、そして実戦復帰したオーブの精鋭であるラーラの3名がそれぞれ乗り込み、スラスターの熱線を激しく明滅させていた。
蓮は主役機であるオーディンマークIIの操縦桿を力強く握り込み、そんな3人を自らの指揮の下に置きながら、障害物の乱立する小惑星の隙間を縫うようにして、飛行形態による圧倒的な超高速移動や、敵の弾幕を最小限のステップで掻い潜る鋭い回避などの実践訓練を休むことなく続けていた。
「アキ、マコト! ロール軸の傾きが甘い! それでは飛行形態時の旋回半径が広がり、敵のマルチロックの餌食になるぞ!」
「ラーラ! オーディンマークIIと同等の可変レスポンスに恐れるな! 機体を信じてスラスターを限界までブチ上げろ!」
インカムの奥から響く蓮の冷徹な規律の聲音に、3名の女性パイロットたちは歯を食いしばりながら必死に操縦桿を押し進め、白き可変機の群れが宇宙の闇に鮮烈な航跡を描き出していく。
――そして、数時間に及ぶ苛烈なドッグファイトを終え、一度、蓮はオーディンマークIIのコンソールを待機モードへと切り替えて休憩に入り、狭いコックピットのシートの中で冷たい水分を取っていると、
ピピピピピピピピピッ!!!
コックピットの全周囲モニターの中央へ、宇宙本部の指令室から発せられた最高暗号のレッドシグナルが烈しく点滅し、至急、本部のブリッジへと戻るように伝える緊迫したアラートの音声が響き渡った。
モニターの奥で、ナタルや戦術班のオペレーターたちが不穏な世界の情勢を網羅して慌ただしく動いている。そのただ事ではないファクトを確認した蓮は、即座にボトルをデスクへと戻すと、操縦桿を引き戻して全無線回線を開いた。
「訓練はここまでだ。本部から緊急招集が入った。アキ、マコト、ラーラ、直ちに戻るぞ。」
『了解いたしました、隊長!』
蓮がインカムの奥の3人にそう戻る事を鋭い規律の聲音で伝えると、飛行形態のベクターノズルを極限までブチ上げ、4機の白き伝説の牙は推進火線の尾を大宙へと爆発させ、世界の次なる不条理な戦火をその瞳に宿しながら、急加速の機動で宇宙本部へと戻るのであった。
ただ事ではない緊急アラートを受け、小惑星帯での苛烈な合同訓練から宇宙本部へと急行して帰還した蓮は、オーディンマークIIの狭いコックピットから床へと降り立ち、漆黒のパイロットスーツから白と黒の引き締まったウルブズの最高指揮官制服へと素早く着替えると、すぐに会議室へと向かうのだった。
重厚な気密隔壁が左右へと開き、蓮が会議室に入り、席に着くと、すでに室内に待機していた宇宙本部の幹部たちの間に張り詰めた沈黙が流れる。
蓮は並み居る幹部たちを冷徹に見据え、静かに口を開いた。
「それで、何があった。」
蓮がそう端的に問うと、コンソールの前で起立した宇宙本部の幹部の1人が一歩前に立ち上がり、大画面のメインスクリーンへと最新の地球圏の戦術データを同期させながら、確固たる聲音を響かせた。
「先程、プラントはユーラシア連邦のヘブンズベースに対して、以下の要求を正式に発表しました。内容は、ヘブンズベースへと逃亡してきているロゴスの主宰ロード・ジブリール、および残る理事達の身柄引き渡しです。そして、以下の要求が期日までに受け入れられない場合、ザフトおよび、世界全土の反ロゴス連合は武力による全面攻撃を開始するとのことです。既にこちらの索敵偵察部隊や各国の潜入諜報員からも、ミネルバ率いるザフト大艦隊と、地球軌道上における大規模な大気圏降下部隊の動きもリアルタイムで確認されています。」
スクリーンに映し出された、ロゴスの本拠地ヘブンズベースを包囲せんとするザフト・反ロゴス同盟の圧倒的な物量。その世界の激変のファクトを耳にした蓮は、指揮官席のシートに背もたれを預け、冷酷なチェス盤の進行を睨み据えて呟いた。
「やはり、そう来たか。これでジブリール達が捕まればいいが。もし失敗すれば、戦いは続だろう。」
ロゴスのネズミたちが逃げ延びた先で巻き起こるであろう、次なる未曾有の大決戦。蓮が放ったその重々しい決別の言葉の真意を受け止め、傍らに直立していたナタルは、引き締まった瞳を蓮へと向けて聞いた。
「動かれますか。」
ナタルがそう軍人としての規律の声音で問うが、蓮は首を静かに横に振り、氷のように鋭い瞳のままそれを制した。
「いや、今はヘブンズベースの結果を待とう。ただし、現時刻を以て緊急体制に移行、全艦および全モビルスーツの出撃準備開始、いつでも動けるようにしろ。地球のブラット達も同様だ。」
それは、宇宙のアキやマコト、ラーラたちのオーディンM隊のみならず、地中海の地球本部で防衛管理を任されたブラッドやシンシア、そしてクノイチ小隊長となったシェルたち全軍へ向けた蓮の冷徹な一斉下達のセリフであった。
「了解いたしましたッ!!」
蓮が放ったその絶対の規律の指示に対し、会議室の幹部達は規律正しい返事をして、次なる大戦乱への備えに向けて一斉に機敏な動作で動き出すのだった。
自由の翼をへし折られたアークエンジェルの再抜錨、そしてロゴス狩りに燃える世界の混沌の影で、ウルブズの二つの巨大な本部に張り詰めた防備のシグナルが走る。
幹部たちが足音を響かせずに持ち場へと散っていくなか、蓮はホログラムスクリーンの前で佇むナタルを見つめ、一切の私情を排した確固たる聲音を低く響かせた。
「次の出撃は、きっと例の戦艦が必要になる。艦長として準備を頼む。」
宇宙本部の秘密ドックで遂にその船体の調整をすべて完了させ、オーディンM3機の艦載をも可能とした、ウルブズが誇る新たなる最高の決戦戦艦。その新主役戦艦の命運を託されたナタルは、蓮のその絶対の信頼の重みを正面から受け止め、直立不動の姿勢のまま、美しい敬礼と共に凛とした規律のセリフを返した。
「分かりました。」
ナタルがそう力強い声音で答えて、自らの新たなる愛艦の準備へと速やかに移るのだった。
再び静まり返った最高会議室の暗がりのなか、蓮はコンソールの向こう側の地球圏を見据え、これからの時代を包み込むであろう未曾有の大激動の嵐に向けて、一人の最高指揮官としての本当の覚悟の瞳を、ただ静かに鋭く研ぎ澄ませるのであった。
プラントが突きつけた最後通牒の刻限が迫り、ウルブズの地球と宇宙の両本部が厳格な緊急体制をとり、世界を揺るがすヘブンズベースでの激戦の結果を固さに呑んで待つなか。
蓮は宇宙本部の暗がりのなかに聳え立つ、遂にすべての兵装調整を終わらせて完成を完了した、ウルブズにおける最新鋭戦艦『シナノ』の重々しいハッチをくぐり、その広大な艦橋へと上がっていた。
この『シナノ』は、先の戦争でオーブ軍の特務隊の絶対の盾として戦い抜いたヤマトやムサシ、さらに伝説の白きアークエンジェル、ザフト軍の新鋭艦ミネルバ、およびウルブズの全容を支えてきた既存のコンゴウやナガトなど、これまで地球圏に現れたあらゆる名艦の優れた設計思想や最先端のテクノロジー、自動化機能をその巨体へ全て統合した、文字通り無敵の決戦旗艦であった。
その重厚な兵装には、スラスターの対空防御を敷くイーゲルシュテュルムやヘルダートのみならず、ミネルバと同型の主砲イゾルデや強力な副砲バリアントを艦載し、対空火器も極めて豊富に備えている上、大気圏内外を問わず完全なステルスを可能とするミラージュコロイドをも搭載、隠密による奇襲から、大艦隊を統率する艦隊旗艦としての重責までをも完璧にこなせる、ウルブズの究極の牙であった。
キィィィィン――。
全システムに火が灯り、出撃体制が静かに整っていくなか、中央の艦長席へと腰を下ろしたナタルは、計器類の明滅をその瞳に映しながら、指揮官席の蓮へと向けて凛とした規律のセリフを響かせた。
「ようやくこの艦も初陣ですね。隊長は、やはり次の戦いは地球ですか。」
ナタルがそう深い信頼の聲音を向けると、蓮は白と黒の制服の襟を静かに整え、盤面を見据えたまま短く応じた。
「おそらくな。」
蓮がそう冷徹に応答を交わした、まさにその絶対の瞬間、ブリッジのメインコンソールへ、諜報部からの最高緊急暗号の連絡が入る。蓮が即座に手元のスイッチを叩いて連絡を入れると、スピーカーの奥から、息を切らせた諜報員の緊迫した音声が真っ直ぐに響いてきた。
『隊長! ヘブンズベースの戦いが終わりました!』
戦域の全ログが同期される。蓮は即座に声音を研ぎ澄ませた。
「結果は?」
『ザフトおよび、反ロゴス同盟艦隊は多数の被害を受けるも、ヘブンズベースの全防衛線を制圧、ヘブンズベース守備隊の中には、あのベルリンで目撃された悪魔の巨大モビルスーツ・デストロイが計5機も確認されました。ですが、これをザフト軍の新型2機が圧倒的な武力で撃破、ロゴスの理事のほとんどはその場で逮捕されたのですが……主宰であるロード・ジブリールは、陥落の直前にシャトルで戦域から逃走。現在はザフトが総力を挙げて行方を追っていますが、未だ特定には至っていません!』
世界に不条理な砲火を撒き散らした死の商人たちの崩壊、および逃げ延びた一匹のネズキのログ。その最前線の一報を耳にした蓮は、網膜のスクリーンを睨み据えたまま、ぽつりと声を漏らした。
「オーブだ。」
蓮がそう低く声音を漏らして呟くと、予期せぬその地名にナタルはハッと息を呑んだ。
「えっ。」
「ジブリールはオーブに逃げたはずだ。そうなれば、ロゴス殲滅の大義名分を得たザフトも、次はその爪先をオーブへと動かす。……ナタル艦長、全艦に指示を。」
蓮が世界の冷酷なチェス盤の進行をハッキリと言い放ち、次なる大戦乱への決別を下達すると、ナタルは即座に直立の姿勢を執り、蓮へと真っ直ぐにマイクを差し向けながら告げた。
「今のこの宇宙本部の全軍の指揮官は貴方です。ご指示を。」
ナタルがそう言ったのを受け、蓮は全無線回線が同期された最高暗号の無線を取り、宇宙の全宙域を揺るがすような魂の全軍演説を重々しく響かせた。
「シナノより全艦に発する。先程、ヘブンズベースの戦いが終わった。ザフトは多数の被害を受けながらもヘブンズベースを制圧したが、ジブリールは逃走した。そして、これが意味するのは、戦争は終わらないということだ。そして、次の戦いはオーブである。もはや、時間はない。よって、30分後、全艦出撃する。もし、迷いや躊躇いがあるなら降りてくれて構わない。命をかける戦いになる、行くのも残るも諸君達の次第だ。」
国家のエゴを排し、ただ不条理な戦火から人々を護るための非情な最後通牒。蓮がそう全軍のコックピットへとスピーカー越しに冷徹なセリフを伝えると、無線を切った蓮の傍らで、ナタルは僅かにその口元を緩め、無二の優しさの聲音をそっと添えた。
「・・・・やはり、隊長はお人好しですね。でも、みんな、答えは既に最初から出ていると思いますよ。」
ナタルがそう微笑んだ、まさにその刹那であった。
『――コンゴウ、降りるものはいません!』
『――ハルナ、全員、いつでも行けます!』
ピッ、ピピピピピッ!!!
全宇宙の通信回線のコンソールが烈しく明滅し、アキ、マコト、ラーラたちの駆るオーディンM隊、および各艦船から、次々に熱い忠誠の報告が響き渡るが、誰一人としてその場を降りるものなど、文字通り最初からいなかった。
その、ウルブズの誇る全戦士たちのブレなき魂の声を耳にした蓮は、僅かに目を伏せると、確固たる大義の聲音を低く響かせた。
「そうか・・・・・全員の意思の確認が終了した。これよりウルブズは、全ての戦力をもって地球へと向かう。」
蓮がそう全軍への進軍を下達した瞬間、ナタルは艦長席の操縦レバーを力強く押し進め、ブリッジ全体へと烈しい号令の聲音を響かせた。
「シナノ、拘束解除。出力30%、前進開始――ッ!!!!!』
ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!
最高出力を得た最新鋭戦艦シナノは、宇宙本部の極秘ドックから滑らかに切り離され、凄絶な推進火線の尾を爆発させながら、ゆっくりと前へとその巨体を動き出す。
そして、暗黒の宇宙へとシナノの美しくも雄大な船体が出ると、シナノを絶対の先頭に据え、左右を固める頑強なナガト型2隻、さらに周囲の護衛を固めるコンゴウ型4隻の大艦隊は、艦隊を維持しつつ、愛する者たちが待つ地球本部、そしてオーブの空へと向かって、漆黒の宇宙の海を真っ直ぐに堂々と地球へと向かうのであった。
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