ガンダムSEED DESTINY OdinⅡ   作:アニ督

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お待たせ致しました。第10話です。どうぞ。


第10話 オーブへ

プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルの仕掛けた情報統制の欺瞞をブチ破り、不条理な戦火を終わらせるため、再び動き出した蓮率いるウルブズは、究極の最新鋭戦艦シナノを絶対の先頭に据え、所属する全ての軍艦とモビルスーツを以て宇宙基地を堂々と出撃し、静かに地球へと向かっていた。

 張り詰めた緊迫感がブリッジを満たすなか、シナノが率いる大艦隊が漆黒の宇宙の海を滑らかに滑り、地球の軌道に入り始めた、まさにその絶対の瞬間であった。

 ピピピピピピピピピッ!!!

 シナノの全周囲索敵コンソールが烈しい電子警告音を鳴らし、レーダー担当の索敵士官が緊迫した聲音を響かせた。

「前方の熱源感知、急速に拡大! 多数の推進火線と爆発を確認、激しく交戦しているようです!」

 その最前線の急報を耳にした蓮は、指揮官席から前方の大画面メインスクリーンを冷徹に見つめた。

「地球軍とザフトの戦闘か。」

「光学、最大倍率。映像を拡大します!」

 戦術士官が直ちにコンソールを叩いてメインモニターの回線を同期させると、ノイズ混じりの大画面スクリーンに映し出されたのは、無数のザフト軍ナスカ級打撃艦隊の激しい砲火の嵐に包囲され、必死に応戦を続けているピンク色の美しき高速戦闘艦エターナル、そしてその母艦を守るべく獅子奮迅の迎撃の戦いを続ける、アンドリュー・バルトフェルドの紅きガイアガンダムの姿であった。

「情報統制班より報告! 防戦しているのはクライン派の旗艦エターナル、および随伴モビルスーツ1機です! ザフトの包囲網を突破できず、艦体に被弾が続いています!」

 実際の現場に広がる、ラクス・クラインが窮地に立たされている凄絶なファクト。

 スクリーンに映るそのかつての同志たちの絶体絶命の危機をハッキリと確認した蓮は、網膜に炎を宿すようにして立ち上がり、一切の私情を排しながらも、全軍を揺るがす電撃的な規律の聲音を轟かせた。

「作戦を変更する。エターナルを援護する。全艦、第一戦闘配備!! モビルスーツは出せるだけ出せ。」

 大義の前に、まず目の前の不条理な砲火を叩き潰す。蓮が放ったその絶対の転戦命令のセリフを受け、艦長席のナタルは即座にブリッジマイクを握り込み、全コンソールへと鋭い号令を響かせた。

「シナノ、第一戦闘配備! 両舷の主砲イゾルデ、副砲バリアント、照準固定! アキ、マコト、ラーラ、オーディンM小隊、ただちに全機スクランブル!!」

 ナタルがそう烈しい号令の聲音を響かせると、ブリッジの士官たちから一斉に熱い規律の声が返ってくる。

「各個艦船へ通信同期! コンゴウ型、ナガト型、それぞれ砲撃態勢に入ります!」

「カタパルトデッキ、磁気拘束解除! オーディンM3機、発進シークエンスへ移行します!」

 ブリッジ内の士官やオペレーターたちが一斉に機敏な動作で動き出し、シナノの巨大なハッチが咆哮を上げて次々と開放されていく。

 蓮は自らも最強の牙として戦場を切り裂くべく、指揮官席から力強く立ち上がると、白と黒の制服の襟を翻し、空間を切り裂くような激しい足音を響かせながら、愛機オーディンマークIIが待つカタパルト格納庫へと真っ直ぐに向かうのであった。

 

蓮たちが救援のために急行するなか、激しい砲火が飛び交うエターナルの周辺宙域では、ラクスから託された新たなる最強の剣、ストライクルージュではなく、ストライクフリーダムに乗り込んだキラが、驚異的な金色の関節駆動システムを爆発させていた。

 キラは襲い来るグフイグナイテッドやザクウォーリアの群れを鋭いステップで翻弄し、マルチロックオンによる一斉掃射を以て、エターナルを包囲していたザフト軍のナスカ級打撃艦3隻の武装を瞬く間に全弾解体し、無力化することに成功する。

 しかし、不条理な戦火の物量はそれだけに留まらなかった。

 クライン派の完全な根滅を狙うザフトの本隊から、さらに次なる増援としてナスカ級5隻、ローラシア級2隻からなる大艦隊が、無数のモビルスーツ部隊を引き連れて、満身創痍のエターナルへと容赦なく向かっていく。

 キラが再び愛機のトリガーを引き、限界を超えた迎撃態勢をとる、まさにその絶対の瞬間であった。

 ピカァァァァァン――ッ!!!!!

 突如として、迫り来るザフト艦隊の遥か後方から、大宙の闇を強引に切り裂くような極高収束のビーム攻撃の雨が烈しく飛び交った。

「――っ、後ろからの砲撃!? ザフトの艦隊が撃破されていく!?」

 突然の電撃介入に、エターナルのブリッジにいるラクスや、コックピットの中のキラたちが大きく驚くなか、エターナルの全周囲索敵モニターは、ザフト艦隊の後方より猛烈な速度で迫る無数の熱源反応、および最新鋭戦艦シナノを先頭に据えた計7隻の巨大な軍艦の艦影を鮮烈に捕捉した。

 予期せぬ絶対の中立の牙の出現。

 背後から奇襲を受け、信じられない事態に驚愕したザフト艦隊も慌てて反転し、自らの背後を確認すると、爆煙を烈しく引き裂いて現れたのは、蓮の駆る白きオーディンマークIIを絶対の先頭に据えた、凄絶なウルブズの総力部隊であった。

『な、何だあの巨大な艦隊は!? データにない未知の識別信号だぞ、地球軍の隠密部隊か!?』

『待て、あの先頭の機体……間違いない、クレタ島沖で我が軍のバビ隊を全弾解体した、あの白い可変モビルスーツだッ!!』

 ザフトの通信回線に驚愕と焦燥の悲鳴が走る。

 ザフトのパイロットたちが恐怖に歪む視線の先、オーディンマークIIを先頭に、アキ、マコト、ラーラの3名が操縦桿を握る3機のオーディンM、さらに無骨な鉄の装甲を持つデクー、デクーカスタムの部隊、そしてウルブズの技術班が独自に改修を施した白と赤のダガーLが1機、獰猛な推進火線を爆発させて真っ直ぐに向かってきていた。

 ピン、ピピピピピッ!!!

 突然のウルブズの電撃的な出現にキラがコックピットの中で息を呑み、驚いていると、エターナルの無線回線へ、ウルブズの最高暗号を以て一本の力強い無線通信が滑らかに流れ込んできた。

『エターナルに達する。これより独立武装組織ウルブズはエターナルおよびフリーダムを援護する。』

 ナタルが最新鋭戦艦シナノのブリッジから放った、その揺るぎなき絶対の中立のセリフが全宙域に響き渡ると同時、ザフトの包囲網に対してウルブズのモビルスーツ部隊が一斉に襲いかかった。

「シナノ主砲、イゾルデ、バリアント、撃てッ!! コンゴウ型、ハルナ型、敵のナスカ級の戦線を分断しなさい!」

『コンゴウ、了解! 左舷の敵艦へ全門斉射!』

『ハルナ、弾幕を展開! 大将たちの突撃路を確保する!』

 ナタルの烈しい号令の声音に呼応し、ウルブズの軍艦7隻から放たれた極大の火線がザフト艦隊の陣形を強固にブチ砕く。

 ザフト側も必死にグフやザクウォーリアの総力で交戦を試み、ビームを放って応戦するが、ウルブズに所属するパイロットたちのその大半は、先の戦争の修羅場を生き残った地球連合軍やプラントの熟練の兵士たちによって強固に構成されていた。

『くっ、何だこのダガーは!? 動きのキレが通常の連合兵とは違いすぎる!』

『なんだこの重装甲の機体は!? こちらのザクの火線が容易に通り切らんぞ……うわああぁぁぁッ!!』

 量産機の性能に甘んじる現行のザフトパイロットたちが、その凄絶な神業の操縦力に叶うはずも到底なかった。ウルブズの精鋭たちは驚異的な連携ステップで次々とザフトのパイロット達を圧倒し、コックピットを外した関節駆動部のみを正確無比に切り裂き、次々と撃破していく。

「アキ、マコト、ラーラ! 俺の加速についてこい! 行くぞ!」

『了解、蓮隊長! 右翼のザクは私とマコトで仕留めます!』

『ラーラ、データリンク同期! 敵のグフの回避パターン、すべて網羅しました!』

『2人とも、そのまま突っ切って! マークMの全火線、一斉掃射――ッ!!』

 アキ, マコト、ラーラの3機のオーディンMが、宇宙の闇を縦横無尽に駆け巡りながら凄絶な可変超高速のステップを披露し、ザフトのモビルスーツを次々とダルマにして落としていく。

 蓮もまた自ら主役機を極限まで駆動させ、新生オーディン隊を率いて飛行形態による超高速の変形ステップを敢行、次々に迫るザフトのモビルスーツを大型ビームランスの一閃を以て撃破し、さらにはエターナルの喉元に迫っていた巨大なローラシア級2隻の動力炉を正確な狙撃で鮮烈に貫き、大爆発と共に一瞬で撃破するのだった。

 ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!

 地球の影に、烈しい一筋の爆炎の華が咲き乱れる。

 幕引き、圧倒的なウルブズの武力介入によってすべてのザフト艦隊を撃破すると、コックピットの火線を収めた蓮のオーディンマークIIは、金色の関節を鈍く輝かせるキラのストライクフリーダムと、静かに大宙の只中で相まみえるのだった。

 2基の伝説の主役機が並び立つ、その因縁のスクリーンの奥から、一本の懐かしい無線通信が入る。

『やはり来てくれたのですね。蓮少尉。』

 インカムの向こう側から響いたキラのその安堵と、しかし世界の行く末を共に見据える男としての深い信頼のセリフ。それに対して蓮は、シートの背もたれに身体を預けながら、白と黒の制服の胸元の奥にある本音の声音を静かに響かせた。

「お前も生きていたか。・・・・・キラ、オーブへと急ぞ。」

 蓮がそう短く、しかし確固たる大義のセリフを告げると、蓮は最新鋭戦艦シナノをはじめとするウルブズの大艦隊を率いて、キラのストライクフリーダム、およびラクスたちのエターナルと共に、大切な者たちが待つ故郷、オーブの上空へと向かって、猛烈な推進風を軋ませながら一気に急行していくのであった。

 

地球の軌道上という極限の戦火の只中で再び再会を果たしたキラと蓮。

 不条理なザフト軍の追撃部隊をウルブズの大艦隊による全弾解体無双で退けた、その激しい戦闘が終わって間もなく、ラクス、バルトフェルト、そしてキラの3人は、漆黒の宇宙の海を厳かに往くウルブズの最高決戦旗艦シナノへと乗艦し、重厚な気密ハッチをくぐってその広大な艦橋ブリッジへと向かうのだった。

 金属音を立てて強固な防音隔壁が左右へと開き、応接を兼ねたブリッジにキラ達が着くと、そこには最高指揮官である蓮や宇宙本部の優秀な幹部たちに並び、ナガト、ムツ、コンゴウ、ヒエイ、ハルナ、キリシマという、ウルブズの誇る大艦隊の全ての軍艦を統率する屈強な艦長たちが威風堂々と一堂に集まっていた。

 その張り詰めた規律の沈黙のなか、ラクスはそっと前に歩み出ると、自然な形で大義の風格をマントのように纏い、凛とした気高き聲音を静かに響かせた。

「ウルブズの皆様、危ないところを助けて頂きありがとうございます。蓮少尉も、感謝しています。」

 ラクスがそう心からの感謝の言葉を漏らす。しかし、その傍らで佇むキラが、目の前の光景を視界に捉えた瞬間に、言葉を失うほどの激烈な驚愕にその身体を激しく震わせた。

 キラが驚いたのは、他でもない、指揮官席のすぐ傍らに直立不動の姿勢で立つ、ナタルの存在だった。

 先のあの大戦において、キラとナタルは白きアークエンジェルで苦楽を共にして戦い抜き、やがて最後は地球軍の歪んだ正義によって敵同士として銃口を向け合い、ナタルは乗艦ドミニオンの爆発と共に戦死したと公式に世界へと報告されていたからだ。

 あり得ないはずの歴史の真実を目の当たりにし、キラは網膜のスクリーンを揺らしながら、驚愕の声を絞り出した。

「バジルール中尉。なぜ……。」

 何故、生きているのか。何故、あのナタルがこのウルブズの最高の決戦戦艦を動かしているのか。キラがそう呆然と言葉を漏らすと、ナタルは軍人としての引き締まった面持ちを僅かに緩め、かつての戦友への確固たる礼節の聲音を静かに返した。

「お久しぶりです。ヤマト少尉。色々と思う事はあると思いますが、今はオーブのことがあります。まずはこれを。」

 ナタルがそう実直なセリフを告げると同時、コンソールの前へと歩み寄り、メインの巨大な大画面スクリーンへ地上波のハッキング放送を同期させてモニターをつけると、そこには、まさに今この瞬間に世界全土へ向けて緊急生放送されている、オーブ政府による欺瞞に満ちた記者会見の生々しい様子だった。

 ウルブズが宇宙でザフトの増援を解体していた戦闘の最中、プラントのギルバート・デュランダル議長はオーブに対し、逃亡した死の商人の主宰ロード・ジブリールの身柄を直ちに引き渡せと最後通牒の脅迫を行っていた。

 これに対して、メイン画面の奥、カガリの婚約者でもあるユウナ・ロマ・セイランが、オーブ政府を代表して不敵な聲音のセリフを発表する。

『オーブ政府を代表して、通告に対し回答する。貴艦らが要求するロード・ジブリールなる人物は我が国に存在しない。またこのような武力をもった恫喝は一主権国家として我が国の尊厳を著しく侵害する行為として大変遺憾に思う。』

 大国の最高権力者の目を眩ませるための、あまりにも見え透いたオーブの公式発表。

 テレビの奥から流れるユウナのその欺瞞のセリフを聞き届け、傍らで腕を組んでいたバルトフェルドは、不敵に笑ってニヒルな声音を低く響かせた。

「分かりやすい嘘だ。そんなことでデュランダル議長を騙せると思ってるのかね。」

「既にオーブにいる我々の諜報員がジブリールの存在は確認しています。」

 蓮の傍らに立つ宇宙本部の幹部の1人がそう確固たる声音のファクトを告げると、バルトフェルドは隻眼の視線をナタルへと向け、不骨なトーンで実戦の問いを投げかけた。

「そちらは持ってるモビルスーツはどれくらいだ。」

 そのバルトフェルドの問いに対し、ナタルは凛とした規律の聲音のまま、ウルブズが誇る現在の総力戦力の数値を実直に答えた。

「この艦隊に配備されているモビルスーツは75機です。地球には15機います。」

「全部で90機か。まぁ、反乱分子としては多い方だな。」

 バビやザク、グフの追撃を物ともしないウルブズの恐るべき陣容。バルトフェルドがそう感心したようにセリフを漏らすと、蓮は指揮官席からゆっくりと立ち上がり、白と黒の制服に身を包んだまま、世界の行く末を見据えて確固たる大義の聲音を響かせた。

「今後ウルブズはシナノで降下後、モビルスーツ隊を発艦させる予定だが、その他の艦はエターナルの指揮下に置く予定です。」

 それは、ナガト型やコンゴウ型を含むウルブズの誇る大艦隊の指揮権を、すべてクライン派へと一時的に託すという、蓮のあまりにも思いもしない決定のセリフであった。

 これにはラクスも僅かに美しい瞳を見開き、驚きを滲ませて言葉を返した。

「よろしいですか。そちらの方が私たちよりも戦力も遥かに多いのに。」

「俺たちはザフトや地球軍からすれば単なるテロ組織だが、ラクス様、貴方は違う。この中で誰よりも人々に真実を伝えられる力がある。」

 国家や陣営の欺瞞に踊らされる世界の民衆へ、ハッキング暴露放送を以て真の平和の言葉を届けられるのは、ラクス・クラインという存在をおいて他にいない。蓮がそう一切の私情を排した絶対の信頼のセリフを告げると、ラクスは深く頷き、網膜に強い光を宿して美しく微笑んだ。

「ありがとうございます。蓮少尉。では、急ぎましょう。オーブへ。」

 ラクスがそう力強い声音で答えると、蓮達はこれからの地球圏を包み込むであろうさらなる大激動の嵐、そしてオーブ国防への運命の降下の準備に、一斉に速やかに移るのだった。

 ――そして、作戦最高会議の解散後。

 蓮が薄暗いドックの只中で、自らの主役機であるオーディンマークIIの地球降下準備を黙々と行っていると、背後から静かな足音を響かせ、キラが1人でやってきた。

「蓮少尉。ごめん、忙しい時に。聞いてもいいかな。」

 キラがそう申し訳なさそうに視線を向けると、蓮は白と黒の制服の袖を捲り、コンソールのチェックを進めながら、一切の私情を排した冷徹な聲音を静かに返した。

「手を動かしながらで良いなら。」

「どうして、ウルブズを作ったの。」

 キラがそう、ずっと胸の奥に抱えていた根源的な問いの聲音を投げかける。そのかつての戦友の切実なセリフを聞いた蓮は、僅かにチェックの手を止めると、遠い宇宙の彼方を見つめるようにしてぽつりとセリフを漏らした。

「・・・・・2年前、ヤキンで撃破され、宇宙を漂っていた時、俺はある人に命を救われ、プラントで治療を受けてた。左腕を失い、生きていることが奇跡だと言われた。その後、日本に戻ろうと思ったが、そんな時にプラントと地球軍で新たな陰謀が動き出していると知り、俺はウルブズを作り、共に戦ってくれる仲間を集めながら、今の戦争に備え、阻止することを目的に動いていた。それに、奇跡的に残ってたオーディンのログに、ウズミ代表の言葉が残っていた。」

「ウズミ代表の言葉……?」

 キラがハッと息を呑むなか、蓮はオーディンマークIIのコンソールを操作し、その奥深くに厳重に秘匿されていた一本の古い音声ログファイルを静かに再生する。

 プツゥゥン――。

 スピーカーの奥から響いてきたのは、かつてオーブの理念を護るために自らの命を殉じた、あのウズミ・ナラ・アスハ代表の、重々しくも深い慈愛に満ちた懐かしい声音であった。

『蓮よ。これを聞いていると言う事は、私はもう既にこの世にいないと言う事だ。もしお前がこの戦争を生き延び、平和な世界で生きていると言うならそれでも良い。だが、再びこの世界が戦いになり、お前が守るもののために剣を取ると言うなら、この設計図を託す。共にいた時間は少ないが、お前は既に私にとって息子も同然の存在だった。蓮よ、オーブに日本、そしてシャルを頼むぞ。』

 ザザザザァァァッ……。

 重すぎる大義と誓いを遺し、そこで音声ログは静かに途切れた。蓮は消え去ったノイズのスクリーンを見つめ、自らのサイバネティクスの左腕をそっと握り締めながら、自嘲気味な声音を低く響かせた。

「このログと一緒に、このオーディンマークIIの設計図が送られてきた。俺はこの言葉に押されて、ウルブズを作ることにした。オーブを守れなかった俺に、今更できるかどうかは怪しいが。」

 その蓮の不器用で、しかし誰よりも熱い魂のセリフを聞いたキラは、自らの瞳に確固たる強い光を宿し、操縦桿を力強く握り締めるかのようにして真っ直ぐに言い切った。

「守れるよ。まだ、間に合う。僕も共に戦うから。」

「そうだな。」

 キラが放ったその絶対の共闘の言葉に対し、蓮は短く、しかし2年間のすべての孤独を吹き飛ばすような確固たる絶対の信頼の聲音を響かせ、二人は大切な者たちが待つオーブの空を見据えるのであった。

 

地球の軌道上において、蓮とキラの二人がそれぞれの主役機を以て運命の地球降下の準備を厳かに進めていた、まさにその一方。

 地上のオーブ連合首長国においては、ジブリールの身柄引き渡しを拒絶されたザフト軍大艦隊の総攻撃により、すでに凄絶な火線を交錯させる激しい戦闘が始まっていた。

 不条理な戦火の嵐がオーブの空を焼き払うなか、前代表であるカガリは、亡き父ウズミより託された黄金の機体、アカツキにその身を委ね、シャルと共にオーブの空へと堂々に現れる。カガリは一国の主権を汚すユウナ・ロマ・セイランの欺瞞をブチ破って力尽くで指揮権を奪取すると、通信回線を開いて凛とした規律の聲音を響かせた。

「これより全軍指揮は私が執る。皆、力を貸してくれ」

 カガリ様がそう高らかに檄を飛ばし、モルゲンレーテの秘密ドックから緊急発進したマリュー艦長のアークエンジェルと共に、瞬く間に瓦解しかけていた防衛線の立て直しを図っていた。

 幕開け、ロゴスのネズミを匿ったという大義名分を盾にして、圧倒的な数と最新鋭の性能で勝るザフト軍の猛攻に対し、オーブ軍の防衛線は徐々に包囲網の底へと追い詰められていた。

『オーブの残党め、往あがけ! 議長を愚弄したテロ国家の罪、その身を以て償え!』

 ザフトのパイロットたちが殺意を滾らせる。手持ちの武装が枯渇しつつあるオーブ軍のシャルは、苛烈な集中砲火の前に装甲を灼かれ、苦戦を強いられていた。

 シャルが荒い息を吐きながら防戦に追われる、まさにその絶対の瞬間、

『邪魔だッ! オーブのムラサメめ、まとめて塵になれッ!』

 激しい怒号と共に、1機のザフト軍のグフイグナイテッドが猛烈な推進風を軋ませてシャルの至近距離へと肉薄し、ギラリと灼熱するビームソードを凄絶な殺意を込めて振り上げる。

「……っ!!」

 シャルが死を覚悟し、網膜のスクリーンを揺らした、まさにその刹那であった。

 ――ズガァァァァァァァァンッ!!!!!

 オーブのはるか上空、大気圏の摩擦熱をミラージュコロイドの強固な防盾で強引に切り裂き、烈しい火線を引いてオーブの戦場へと一直線に向かう、3機の正体不明のモビルスーツと、一隻の雄大な超巨大戦艦の影があった。

 激戦が繰り広げられるミネルバ、そして応急修理を終えて応戦するアークエンジェルの双方のブリッジ内では、全周囲索敵ソナーの電子警告音が文字通り狂ったように鳴り響き、オペレーターの兵士たちが焦燥の悲鳴を上げた。

「艦長! 上空から超高速で大気圏を突破してくる3機のアンノウンを感知! いえ、さらにその後方に莫大な熱源反応を捉えました……巨大な物体、これは、戦艦ですッ!!」

 ミネルバのブリッジ、そのあり得ない最前線の急報を耳にした艦長のタリア・グラディスは、コンソールに映し端を険しく引き締め、驚きを隠せない聲音で言葉を漏らした。

「何ですって……っ!?」

 一方、アークエンジェルのブリッジでも、マリュー艦長がその識別信号の波形を見つめ、ハッと美しい瞳を見開いた。

「この熱源パターンは……ウルブズ!? 蓮少尉、本当に来てくれたのね……!」

 各艦が驚愕の声を漏らすのと同時に、上空から降下した3機のうち2機の白き可変機は、凄絶なベクターノズルの推進火線を爆発させてそれぞれの戦域へと鋭く分かれ、1機はアカツキを執拗に攻撃するシンのデスティニーガンダムの射線へと強引に割って入り、もう1機は、まさに今、シャルの機体に向けてビームソードを振り上げていたあのグフの喉元へと向かって真っ直ぐに突撃していった。

 ピカァァァァァン――ッ!!!!!

 大宙から放たれた、物理法則を強引に無視するような極高収束の一発の鮮烈なビーム攻撃が、寸分の狂いもなくグフの動力炉を鮮やかに貫く。

『な、何だ、上空からの超長距離狙撃……っ!? うわあああぁぁぁッ!!』

 ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!

 肉薄していたグフは、シャルの目の前で一瞬にして凄絶な爆炎を撒き散らして木端微塵に爆散したのだった。あまりにも一瞬の、かつ圧倒的な電撃介入のファクトに、周囲のザフトのパイロットたちは通信の奥で激しく息を呑んで驚く。

 そして、激しい黒煙を切り裂き、大気軋む金属音を響かせてシャルの専用機の目の前に、着陸スラスターを滑らかに絞りながら1機のモビルスーツが堂々と現れるのだった。

 その獰猛なフレーム、そして圧倒的な強者としての佇まい。

 それは紛れもなく、あのクレタ島の海岸線で別れる際、必ず戻ると誓った蓮の乗る主役機オーディンマークIIの威容であった。

 2機のインカムの回線が鮮烈に同期し、スピーカーの奥から、ずっとシャルが待ち続けていたあの男の確固たる大義の聲音が真っ直ぐに響いてきた。

「シャル、戻ったぞ。」

 その2年間の絶望と、これまでのすべての愛憎を溶かす蓮の不器用な約束のセリフ。それをコックピットの中で耳にしたシャルは、大粒の涙をその美しい瞳に浮かべ、張り裂けそうな万感の思いをその唇に震わせた。

「蓮……本当に、戻ってきてくれたのだな。」

 シャルがそう愛おしげに涙ながらに言葉を漏らすと、大気圏の雲海を割ってウルブズの旗艦『シナノ』が雄大にその船体を現し、共に降りてきたキラのストライクフリーダムも金色の関節を鈍く輝かせて大空へと並び立つ。

『こちらストライクフリーダム、キラ・ヤマトです! これ以上のオーブへの侵攻は僕たちが止めます!』

 キラのその魂の叫びが全回線に響き渡る。蓮はオーディンマークIIの操縦桿を力強く握り締め、白と黒の制服の胸元の奥にある本音の覚悟の瞳を鋭く研ぎ澄ませながら、オーブを蹂躙せんとするザフト軍の大艦隊の前に、最強の壁として真っ向から立ち塞がるのであった。

 

大気圏の雲海を割って、ストライクフリーダムと共に突如としてオーブの空へと現れた白きオーディンマークII、そしてウルブズの旗艦『シナノ』。

 黄昏の空に君臨したその不敵なウルブズの大戦力は、地上で激戦を繰り広げていたオーブ軍、ザフト軍, 新鋭艦ミネルバ、およびアークエンジェルの全ての兵士たちの目に、強烈なファクトとしてしっかりと映し出されていた。

 激動の戦場に衝撃が走るなか、傷つきながらも立ち向かうアークエンジェルのブリッジへ向けて、一本の最高暗号通信が滑らかに同期した。

『聞こえるか。アークエンジェル。』

 プツゥゥン――。

 スピーカーの奥から響きてきたその聲音は、マリュー艦長や、操縦桿を握るノイマンにとって、あまりにも、あまりにも深く耳の奥に刻み込まれていた聞き覚えのある懐かしい声であった。メインモニターに鮮烈に映し出されたのは、白と黒の制服の襟元を正したナタルの姿だった。

「ナタル!? 何故、貴方が……ッ!?」

 ヤキンの地で死んだはずの親友の幻影を前に、マリューは我が耳を疑って大きく驚くが、ナタルは一人の軍人としての気高き面持ちを引き締め、確固たる大義のセリフを真っ直ぐに浴びせかけた。

『話は後です。本艦シナノはこれよりモビルスーツ隊発進後、アークエンジェルを援護します。』

「……分かったわ!」

 マリューはそう応じると同時、親友が後ろ盾についてくれたその絶対の信頼に網膜を奮い立たせ、アークエンジェルは推進スラスターを最大出力にブチ上げ、敵の主力艦ミネルバに向かって真っ直ぐに突き進んで行く。

 一方、上空に浮かぶ旗艦シナノのブリッジ内では、ナタルがコンソールを力強く叩き、周囲のオペレーターたちへ向けて鋭い指示を飛ばしていた。

「モビルスーツ隊、発進を急がせろ!! 発進後はオーブ軍と協力し、防衛線の立て直しに専念しろ。」

 ナタルがそう烈しい号令の聲音の下達を行うと、シナノの広大な直線カタパルトデッキの磁気拘束が一斉に解除される。

 バシュゥゥゥゥゥッ!!!

 アキ、マコト、ラーラの3名が駆る3機のオーディンMが宇宙からの初陣へ向けて飛び立つと、それに続くようにして、無骨な鉄の装甲を持つデクー、さらに強固な重火器を携えたデクーカスタムの小隊が、次々と旗艦シナノから大空へと鮮烈に発艦していくのだった。

 ――同じ頃、ユウナを排除してオーブの最高司令部である国防本部へと急速に戻ったカガリは、盤面の戦況スクリーンを見つめながら、機敏に動くオペレーターたちへ向けて指示を響かせていた。

「ウルブズに、我が軍の防衛線の情報をリアルタイムで共有しろ!」

 カガリ様がそう矢継ぎ早に命令を下していると、ハッキング通信班の1人がハッと大きく目を見開き、カガリ様を振り返った。

「カガリ様、蓮・ミタミから暗号通信です。内容を伝えます。『我が組織ウルブズはこれよりオーブ軍の指揮下に入る。指揮はそちらに任せる。』……とのことです!」

 かつてと同じオーブの理念を学び、ウズミ代表から『息子』とまで遺言を託された蓮の、あまりにも男気溢れる中立のセリフ。その蓮の真意を完璧に受け止めたカガリ様は、迷いを完全に振り払い、最高指揮官としての確固たる聲音を国防本部に轟かせた。

「直ぐにウルブズのモビルスーツ隊と無線を共有し、それぞれの戦線に配置させろ。それとムラサメ隊に伝えろ、ムラサメ隊は蓮に続くようにと!」

 カガリ様がそう的確に指示を出すと、国防本部の各オペレーター達は指示内容を伝え、それはオーブの空へと降り立ったウルブズの全モビルスーツ隊へと瞬く間に伝えられた。

 情報リンクを同期させたデクーやデクーカスタムの精鋭たちは、カガリ様の指示通りにオーブ軍のムラサメ部隊と強固に協力し、ザフトの物量に押されていた各防衛線の立て直しを滑らかに始めるのだった。

 しかし、戦火の包囲網はさらに外周からも狭まりつつあった。

「レーダーに次なる熱源を感知! 西から、さらに多数のモビルスーツの接近を確認! 数は15です!」

 オペレーターがそう緊迫した最前線の急報をカガリ様の元に伝えると、国防本部に緊張が走る。だが、その絶対の刹那、インカムの奥から、オーディンマークIIのコックピットにいる蓮の、低く研ぎ澄まされた規律の聲音が滑らかに通信を繋いできた。

『安心しろ。それはウチの地球本部にいた連中達だ。』

 地中海の地下ドックから、全速の輸送機でオーブの危機へと急行していた地上の総戦力。その蓮のセリフを聞いたカガリ様は、即座に全軍へ向けて叫んだ。

「西から接近するモビルスーツは味方だ。決して撃つなよ。」

 カガリ様がそう指示を出すのと同時、西の空から凄絶な推進風を軋ませて現れたモビルスーツ15機の混成部隊の中には、

「さぁ、行くぞ。お前ら!!」

 と、ブラッドが操縦桿を力強く握り締める漆黒の新型機【ハカイオー】を筆頭に、シンシアの駆る紅き【アキレスディード】、超長距離からの精密射撃に特化したモビルスーツ【フェンリル】や【ハンター】の小隊、そして――新たにクノイチ小隊長を任された、シェルが率いる紅蓮の新型機【パンドラ】の部隊も、ハッキリとその中に含まれていた。

 シェルはパンドラの全駆動スラスターを爆発させ、シグレたち5名のクノイチ部隊を引き連れてオーブの凄絶な戦場へと鮮烈に降り立つと、コックピットの中で紅色の瞳を鋭く輝かせ、小隊長としての絶対のセリフの指示を出した。

「各自、2機でタッグを組んで、攻撃してください。」

 後ろに護られるだけだった少女はもういない。一隊を率いる指揮官としてのブレなき覚悟の声を響かせると、シェルもまたパンドラを滑らかに前進させ、ザフトの包囲網をブチ砕くべく、凄絶なプラズマの刃を閃かせて戦場を縦横無尽に動き出すのだった。

 地上の防衛線が強固に結ばれたまさにその瞬間、遙か宇宙の彼方から、大気圏の摩擦熱で真っ赤に灼けた無数の降下ポッドが多数放たれ、凄絶な速度で大気圏を強烈に突破していった。

 ヒュゥゥゥゥゥゥンッ!!!

 地表近くでそのポッドが一斉に咆哮を上げて開くと、中からはエターナルの開発した最新鋭モビルスーツ、ドムトルーパー3機に加え、あの開戦時の激しいプラント防衛戦でシェルと共に地球軍側として最前線で戦い抜き、負傷したところをウルブズに救出されて合流したエレナの乗るウルブズ改良型ダガーLが1機、そして宇宙に残ったコンゴウ、ヒエイ、ハルナ、キリシマから放たれたデクーカスタムやデクーの精鋭部隊も、次々にオーブの戦場に降り立ち、上陸してきたザフト軍のモビルスーツ隊を相手に、互角の凄絶な死闘を繰り広げ始めるのだった。

 ズガァァァァァァンッ!!!

 燃え盛るオーブの空では、蓮のオーディンマークIIに完全に追従する3機のオーディンM、そしてカガリ様の檄によって息を吹き返したオーブ軍のムラサメ隊が、襲い来るザフト軍のバビやグフの混成部隊を相手に、一歩も退くことなく烈しく交戦し続けていた。

『おのれ、上空から降下してきた奴らめ、何者だッ!』

『このドムとかいう重装甲機、ジェットストリームアタックだと!? こちらの射線が完全に読まれて――うわあああぁぁぁッ!!』

 ザフトの一般パイロットたちが恐怖の悲鳴を上げる。

 すると、激しいドッグファイトの最中、蓮のオーディンマークIIのすぐ隣に、窮地を脱したシャルのムラサメが滑らかに滑り込むようにして並び、美しい一糸乱れぬ戦闘編隊に加わった。二人のインカムが瞬時に同期し、蓮はスラスターを制御しながら短く言葉をかけた。

「無理はするなよ。」

「分かってる。」

 シャルがそう凛とした、しかし一人の少女としての信頼を込めた声音で短く応じると、蓮は即座に後方を往く3名の女性パイロットたちへ向けて、引き締まった規律の聲音の指示を飛ばした。

「アキ、マコト、ラーラ。お前達はムラサメ隊とオーブの制空権を守れ。俺はこのムラサメと向かってくる敵を抑える。」

『了解いたしました、蓮隊長! ムラサメ隊の皆さん、私たちに続いてください!』

『おうよ、ウルブズの新型機に遅れを取るな! オーブの空は俺たちが死守するぞッ!』

 アキたちの呼びかけにオーブ軍のムラサメ隊パイロットたちも熱く応じると、すぐに向きを変えてオーブ軍のムラサメ隊を率い、激しい地上戦が展開されているオノゴロ島へと向かって急行していくのだった。

 キィィィィン――ッ!!!

 蓮はシャルと共に、背中を預け合う見事な連携の機動を以て、次々と襲いかかってくるザフトのモビルスーツ部隊を圧倒し、強固に抑え込んでいく。

 一歩も退かぬ空中戦が繰り広げられるその下、激しい硝煙の立ち込めるオノゴロ島では、シェルやブラッドが率いる地上のウルブズ精鋭部隊が、凄絶な弾幕を以てザフトの上陸戦線を完璧に食い止めて抑え込み、その稼ぎ出された絶対の時間の間に、オーブ軍の兵士たちは民間人の避難を最優先で急がせていた。

『ブラッド隊長、敵のザク部隊がさらに海岸線から上陸してきます!』

『ケッ、数だけは一丁前に揃えやがって! ハカイオーの火力を見せてやる、1機もドックへ近づけるなッ!!』

 ドゴァァァァァァォンッ!!!

 さらに、烈しい波飛沫が吹き荒れる海岸線においては、宿敵であるミネルバに対し、マリューのアークエンジェル、そしてナタルの旗艦シナノが、歴史の不条理をブチ砕くための凄絶な大激戦を今なお執拗に続けていた。

 ドッバァァァァァァンッ!!!

 まさにその絶対の刹那、ザフトの主力艦ミネルバの艦内では、全周囲索敵ソナーが地鳴りのような非常警報を鳴り響かせ、オペレーターの女性兵士が顔面を蒼白にして驚きの悲鳴を上げた。

「艦長! 東の空から、さらに新たな2隻の超巨大戦艦と、20機近くのモビルスーツ部隊が急速接近!! この識別信号は……日本の、ヤマトとムサシです!!」

 全コンソールが烈しく明滅する。間髪入れずに、全周囲通信の回線から、日本の誇る超弩級戦艦の気高き声音のセリフが全戦場へと厳かに響き渡った。

『こちら、日本所属のヤマト、ムサシ。本艦はこれより相互安全保障条約に基づき、オーブ軍を援護する。』

 かつての前大戦において、白きアークエンジェルと共に数々の地獄を潜り抜け、奇跡的に生き残ったあの伝説の巨艦ヤマトとムサシが遂にオーブ国防の空へ電撃参戦を果たし、凄絶な主砲の斉射を以て一斉に攻撃を開始する。

 ズドォォォォォォォォンッ!!!

『な、何という凄まじい砲撃だ……ッ! 前線の防衛部隊が瞬く間に壊滅していく!』

『司令船もロスト! 通信が完全に遮断されました! もう持ちこたえられません!』

 この圧倒的な日本の加勢により、島に上陸していたザフト軍は形勢が完全に逆転。すでにアークエンジェルの猛烈な精密攻撃によって戦術を統括していたザフトの司令船も爆沈して失い、頼みのモビルスーツ部隊もウルブズとオーブ軍の前に多数が全弾解体されて失われており、残す全戦力はミネルバと少数の潜水艦のみという、破滅の一歩手前へと追い詰められていた。

 まさにその大混乱の隙を突くようにして、突如、オノゴロ島の真の裏側に隠されていた極秘射出カタパルトから、すべての戦火の元凶である闇の主宰ロード・ジブリールを乗せた、1機のシャトルが宇宙へ向かって轟音と共に飛び立った。

 シュゥゥゥゥゥゥーッ!!!

「――っ、あのシャトル……ジブリールか!!」

 蓮がオーディンのコックピットの中で即座に気づくが、ジブリールを捕らえるべく先に動いたのは、海岸線で応戦していたミネルバであった。艦内から緊急発艦したシン・アスカのインパルスガンダムが、怒号と共にシャトルへ向かって烈しいビーム攻撃を仕掛ける。

『逃がすかよぉぉぉッ! お前たちのせいで、オーブがまた……落ちろぉぉぉッ!!』

 ズガァァァァァンッ!!!

 シンの咆哮と共にインパルスが放った烈しい火線。しかし、死の商人の乗ったシャトルは、その凄絶な砲火の軌道を滑らかに変えて強引に回避すると、そのまま青き地球の重力を振り切り、眩い白光の尾を引いて大宙の彼方へと上がって行くのだった。

 ジブリールの逃亡。それはザフト軍にとって、このオーブを蹂躙するためのすべての大義名分を失ったことを意味していた。

『これ以上の交戦は無意味です……! 全軍、作戦を直ちに中断し、撤退しなさい!』

 ミネルバのタリア艦長が通信の奥で悲痛な叫びを下達し、旗艦から烈しい撤退のカラー信号が全宙域へと放たれると、悔しげに反転スラスターを爆発させ、残るザフトのモビルスーツ部隊は一斉に財う財うの体で撤退していくのだった。

『チクショウ……! ジブリールのシャトルを落とせなかった上に、撤退だと!? 俺たちは、何のために……っ!』

 シンがコックピットの中で悔しげに操縦桿を叩きながら後退していく。

 ピィィィィィー――ッ!!!

 敗走していくザフトの艦影を前に、国防本部のカガリは、これ以上の無駄な血を流さぬよう、凛とした最高指揮官としての規律の聲音を全軍の回線へ響かせた。

「オーブ全軍に告ぐ! 撤退するザフトへの追撃は一切行わない! 繰り返す、追撃はするな!」

 カガリ様がそう全軍に強く伝え、激しい砲火の音が静かに止んでいく。蓮はオーディンマークIIの操縦桿からそっと手を離すと、自らの手で守り抜いた、元の美しい姿を取り戻したオーブの青き大空をコックピットから静かにながめ、確固たる大義の聲音を低く呟くのであった。

「終わったようだな。」

 

すべての戦火の元凶である闇の主宰ロード・ジブリールが宇宙へと逃亡し、大義名分を失ったザフト軍の大艦隊が完全な撤退を完了した、その直後。

 オーブ連合首長国の全土には、いつ何時次なる敵の急襲が迫るか分からぬ強固な臨戦体制を依然として保ちつつも、本国の危機に対して独断の覚悟で防衛戦に参加した日本独立軍の超弩級戦艦ヤマト、ムサシ、そして伝説の白きアークエンジェルにフリーダム、ジャスティス、そして蓮率いる独立武装組織ウルブズが、陣営の枠組みを超えて互いに深く協力し合い、泥に塗れた戦場で無数の負傷者たちの迅速な救護や手当てに全力で当たっていた。

 硝煙と熱風が静かに引いていくオノゴロ島の乾いたドックの只中。

 キィィィィン――ッ!!!

 主役機としての獰猛な駆動音を静かに絞り、鉄の係留アームにがっしりと固定されたオーディンマークIIのコックピットから、蓮はゆっくりと床へと降り立ち、激動の終わりを告げる2年ぶりにオーブの硬い大地へとその足を踏みしめるのだった。

 蓮のすぐ背後には、地上の最前線を護り抜いたシェルやブラッド、シンシアの3人、そして大気圏を突破して上空から降りてきた旗艦シナノの艦長たるナタルが、白と黒の引き締まったウルブズの制服の襟を整えて厳かに直立していた。

 そして、その蓮たちの目の前には、アカツキから降りたカガリに、キラ、日本の戦艦ヤマトを最高指揮官として率いていた神城艦長、そして――涙をその瞳に溜めた、最愛のシャルが立ち尽くしていた。

 張り詰めた戦後の沈黙のなか、蓮は静かな動作で頭部のヘルメットを外し、その整った素顔を全員の前へと静かに見せるのだった。

 ナトリウム灯の薄暗い光の奥、シャルたちの目にハッキリと映し出されたのは、あの2年前のヤキン・ドゥーエの地獄で戦死したと世界に公式に報告され、誰もがもうこの世にはいないと思い込んでいた、蓮・ミタミその人の紛れもない生きた姿であった。

「蓮……っ!!」

 シャルがその愛しい少年の名前を唇に震わせ、激しい涙を流しそうになるのを必死に堪えるなか、オーブの前代表であるカガリは、自らの感情を国家元首としての厳格な規律の聲音の奥へと押し殺し、真っ直ぐに蓮を睨み据えてハッキリと言い放った。

「我が国を、この不条理な戦火から助けてもらった事は心から感謝している。……だが、蓮! お前ほどの男が、2年間もの間、なぜ私たちに姿を隠し続けていたのか、その本当の理由は今ここで残さず話してもらうぞ。」

 ユウナの欺瞞をブチ砕き、オーブの全権を力尽くで奪取したカガリ様の、正義に満ちた強い詰問のセリフ。そのカガリ様の引き締まった表情を正面から冷徹に見据え、蓮は白と黒の制服の胸元の奥にある、亡きウズミ代表から託された『本当の約束』をその網膜に宿し、迷いのない確固たる大義の聲音を響かせた。

「それは無論、そのつもりです。そのためにも、俺はこのオーブの地に戻ってきたのですから。」

 すべてを白日の下に晒し、世界を裏から支配するギルバート・デュランダル議長の次なる暗黒のチェス盤を力尽くでブチ砕く。蓮がそう一切の私情を排した声音で端的に告げると、蓮は副官たるナタルと共に滑らかな足音を響かせ、自らの誇る最高峰の旗艦シナノの広大な応接室へと、シャル、カガリ、キラ、ラクス、マリュー・ラミアス艦長、そしてムゥ・ラ・フラガに、日本のヤマトを率いる神城艦長の全員を、世界の歴史の真実を語り明かすために厳かに案内するのであった。

 

すべての戦火の元凶である闇の主宰ロード・ジブリールが宇宙へと逃亡し、大義名分を失ったザフト軍の大艦隊が完全な撤退を完了した、その直後。

 オーブ連合首長国の全土には、いつ何時次なる敵の急襲が迫るか分からぬ強固な臨戦体制を依然として保ちつつも、本国の危機に対して独断の覚悟で防衛戦に参加した日本独立軍の超弩級戦艦ヤマト、ムサシ、そして伝説の白きアークエンジェルにフリーダム、ジャスティス、そして蓮率いる独立武装組織ウルブズが、陣営の枠組みを超えて互いに深く協力し合い、硝煙の立ち込める戦場で無数の負傷者たちの迅速な救護や手当てに全力で当たっていた。

 硝煙と熱風が静かに引いていくオノゴロ島の乾いたドックの只中。

 キィィィィン――ッ!!!

 主役機としての獰猛な駆動音を静かに絞り、鉄の係留アームにがっしりと固定されたオーディンマークIIのコックピットから、蓮はゆっくりと床へと降り立ち、2年ぶりにオーブの硬い大地へとその足を踏みしめるのだった。

 蓮のすぐ背後には、地上の最前線を護り抜いたシェルやブラッド、シンシアの3人、形成、そして上空から降りてきた旗艦シナノの艦長たるナタルが、白と黒の引き締まったウルブズの制服に身を包んで厳かに直立していた。

 そして、その蓮たちの目の前には、アカツキから降りたカガリに、キラ、日本の戦艦ヤマトを最高指揮官として率いていた神城、そして――瞳に溢れんばかりの涙を溜めた、最愛のシャルが立ち尽くしていた。

 蓮は静かな動作で頭部のヘルメットを外し、その整った素顔を全員の前へと見せるのだった。

 ナトリウム灯の薄暗い光の奥、シャルたちの目にハッキリと映し出されたのは、あの2年前のヤキン・ドゥーエの地獄で戦死したと世界に公式に報告され、誰もがもうこの世にはいないと思い込んでいた、蓮・ミタミその人の紛れもない生きた姿であった。

 万感の想いが交錯する戦後の沈黙のなか、蓮はかつてオーブ軍第0特務隊として共にヤキンの地獄を戦い抜いた日本の国防指揮官であり、自分にとって『兄』も同然の存在である神城と静かに視線を交わし、自らの誇る最高の旗艦シナノの広大な応接室へと、シャル、カガリ、キラ、ラクス、マリュー・ラミアス艦長、ムゥ、筑後、そして神城の全員を、世界の歴史の真実を語り明かすために厳かに案内するのだった。

 重厚な防音扉が左右へと閉まり、静まり返ったシナノの応接室にシャル達を案内すると、蓮は副官たるナタルと共に正面の席に着く。

 全員が息を呑んでソファーに腰を下ろするなか、かつての戦友の生還を受け止めたマリューが、引き締まった瞳を蓮へと向けて最初に口を開いた。

「それで……まずは2年前、ヤキン・ドゥーエの後、何があったか教えてくれ。」

 マリューがそう問いかけると、蓮は自らのサイバネティクスの左腕を静かに見つめ、一切の私情を排した規律の聲音を静かに響かせた。

「はい。2年前、私はヤキン・ドゥーエで撃破された後、オーディンのコックピット内で負傷したまま宇宙を彷徨っていたところを、ある男が指揮するプラントの救助隊に偶然発見され、保護されました。そして、そのプラントの極秘医療施設で、私はその男と初めて会いました。名はギルバート・デュランダル。今のプラントの最高議長です。」

 その衝撃的なファクトが蓮の口から紡がれた瞬間、カガリは驚愕のあまり椅子から身を乗り出すようにして声を上げた。

「デュランダル議長と、お前は知り合いだったのか!? なら何故、その彼が率いるザフトと敵対することを……っ!」

「カガリ。落ち着いて、まだ蓮少尉が話してる途中だから。」

 キラが隣からそう優しくカガリの肩を制すると、蓮は僅かに目を伏せて、重々しいセリフを続けた。

「カガリ様が驚かれるのも無理はありません。デュランダル議長に救われた俺は、彼の手によって、あの戦いで失ったこの左腕の義手を用意してもらいました。そして、彼の平和を望む言葉を信じ、自分も最初はデュランダル議長を深く信頼し、尊敬していました。治療を終えて退院した後、俺はデュランダル議長の下で、議長の命を裏から狙う過激派組織の抹殺を担当する、特殊隠密部隊にいました。ですが、ある時、デュランダル議長の私邸に何者かが侵入し、最高機密の一部データを盗み取りました。自分はその者の徹底的な排除を命じられ、そしてその者を遂に見つけました。しかし、その者というのは・・・・。」

 蓮がそこで言葉を区切ると、それまで隣で直立していたナタルが、静かにその美しい口を開いた。

「私です。」

 ナタルがそう驚愕のファクトを告げると、マリューやキラが息を呑むなか、ナタルは実直な規律の聲音で言葉を続けた。

「私も蓮隊長と同様にデュランダル議長に極秘裏に救され、プラントに匿われていました。しかし、ある日私は、デュランダル議長を個人的に調べているなかで、ある計画に関する恐るべき情報を入手し、私邸へと深く潜り込みました。ですが、途中で侵入がバレ、逃げている時に蓮隊長と最悪の再会を果たしたのです。」

 ナタルのその言葉を引き継ぐようにして、蓮が再び冷徹にチェス盤の進行を語り出す。

「そして、俺は部隊の命令通り、ナタル艦長をその場で始末しようとしましたが、彼女から、デュランダル議長の計画の裏にある恐るべき欺瞞を聞かされました。自分もそれ以降はデュランダル議長に対して強い疑いを持つようになり、表向きは従うフリをしながらナタル艦長を極秘裏に匿いつつ、デュランダル議長について調べていましたが……あのミーア・キャンベルという偽のラクスクラインの存在が現れたのと同時に、俺の元にもデュランダル議長からの刺客が現れました。その後はプラントから完全に脱出し、最高機密データを以て独立武装組織ウルブズを立ち上げ、人員を集め、戦力を拡大して今に至ります。」

 2年間の空白の背後で動いていた、世界の崩壊のシナリオ。すべてを網羅して聞いたラクスは、自らの美しい瞳に引き締まった光を宿し、蓮を見据えて静かに聞いた。

「そのデュランダル議長の計画について、何か知っていることはありますか。」

「計画の名はデスティニー計画、未だ詳細については分かっていませんが、これにある人物が関わっていることは知っています。――ラウ・ル・クルーゼ。アスランもいたクルーゼ隊の隊長であり、先の戦争の被害を極限まで拡大させた真の張本人。デュランダル議長は彼と親交があり、この計画にクルーゼが関係している事は確かです。」

 その不気味な亡霊の名のファクトにキラやマリューがハッと息を呑むなか、ラクスは静かに首を縦に振った。

「やはりそうでしたか。私達もデスティニープランについては既に情報を得ています。」

「そうですか。それで内容は。」

 蓮がそう端的に問うと、ラクスは僅かに哀しげに目を伏せて、聲音を漏らした。

「まだ私達も詳しい事は。」

 未だ世界の全貌が掴めぬ不気味なデスティニープランの闇。すると、カガリは腕を組み直し、ウルブズのトップである蓮の瞳を真っ直ぐに見つめて聞いた。

「今後ウルブズはどう動くつもりだ。」

「既にウルブズはオーブやエターナルの指揮下にあります。今更、指揮権を返してもらう必要はありません。ですが、我々のせいでカガリ様やシャル様を攻撃した事は事実です。それらの件は私が全て責任を負う覚悟のつもりです。」

 かつて2年前、蓮の元恋人であった遙をザフトの誤認攻撃のなかで護れなかった消えない過去の傷。独りで世界のすべての泥を被り、責任を背負おうとする弟分のその不器用な背中を見つめ、神城が静かに目を伏せるなか、カガリは応接室全体に響き渡るような、最高司令官としての毅則とした規律の聲音を真っ直ぐにぶつけた。

「お前は先の戦争で私やシャルを救い、今回も私はお前に救われた。もし責任を感じてるというなら生きて、責任を取れ。それでいいなシャル。」

 カガリ様がそう魂の叫びのセリフを向け、隣に座る無二の親友へと視線を走らせると、シャルは溢れ出る涙をその美しい瞳からそっと拭い、蓮の素顔を真っ直ぐに見つめて、短く、しかし確固たる絶対の愛を込めて声音を響かせた。

「ああ。」

 シャルのその一言のセリフが静かに応接室へ響き、2年間のすべての孤独が溶け去っていく。すると、カガリは一歩蓮の元へと歩み寄り、これまでのわだかまりを全て洗い流すような、万感の温かい聲音を真っ直ぐに向けた。

「蓮、どんな経緯があれ、よく戻ってくれた。ありがとう。」

 カガリ様がそう微笑みながら右手を差し出す。蓮はそのオーブの未来を背負う少女の真っ直ぐな言葉のセリフを正面から受け止めると、捲り上げた自らの義手の手を伸ばし、その手をがっしりと力強く握り締め、深く頷いて応じた。

「礼を言うのはこちらです。」

 2基の魂が、オーブの空の下で再び強固に手を取り合う。

 蓮は差し伸べられたカガリの手の温もりに、かつてウズミ代表から『息子』とまで遺言を託されたこのオーブの理念、そして最愛のシャル、そして日本の兄・神城たちすべてを護るため、来たるべき宇宙の最終決戦に向けて、最高指揮官としての本当の覚悟をその胸の奥に強固に刻み込むのであった。

 

シナノの応接室における歴史的な4軍合同の最高首脳会議が散会し、再び動き出した蓮は、カガリやキラたちと別れ、静かに応接室の重厚なハッチを出る。空間を切り裂くような静かな足音を響かせながら冷たい通路を歩いていると、背後から低く不骨なトーンの声音に呼び止められた。

「蓮。」

 蓮が足を止めて振り返ると、そこには白と黒の制服姿の自分を真っ直ぐに見つめる、一人の逞しい男の姿があった。

「神城艦長。」

 蓮がそう、かつてオーブ軍第0特務隊の絶対の最高指揮官であり、自分にとって実の『兄』も同然の存在であるその男の名前を口にすると、神城は僅かに口元を緩め、不骨な声音を響かせた。

「久しぶりだな。少し、いいか。」

 神城がそう短く言葉を交わすと、二人は白き旗艦シナノを一時的に後にし、ナトリウム灯の明かりが薄暗く灯るオノゴロ島の硬い大地を踏みしめながら、ある特別な場所へと静かに向かうのだった。

 海からの激しい潮風が白と黒の制服の襟を烈しく揺らすなか、辿り着いた先は、広大なマスドライバーのすぐ近くに建てられた、静まり返った広場であった。

「慰霊碑か。」

 蓮がそう低く聲音を漏らして呟いた通り、そこについたのは、2年前のあの凄絶な大戦で国の理念を護るために犠牲となった、数多くのオーブ軍の兵士たちの威容を称える石造りの慰霊碑であった。

黒い石碑の表面に刻まれた、無数の戦死した兵士たちの名前のリスト。その文字のなかに、蓮の網膜へ、かつて自分の目の前でザフトの誤認攻撃によって散っていった最愛の元恋人・神城遙の名前、および当時自らが率いていた第0特務隊の部下達の名前が、ハッキリと生々しく載っていた。

 その慰霊碑のすぐ隣には、蓮やカガリ、シャル、あるいは神城たち全ての若者へ未来の大義を託し、最後はオーブの理念を地球軍の泥靴から護るために自らの命を殉じた、あのウズミ・ナラ・アスハ代表の重々しい墓が厳かに鎮座していた。

 神城は自らの手で持ってきた一束の白い花束を、亡きウズミ代表の墓の前へと静かに置くと、潮風に咥え煙草を揺らしながら、弟分への無二の優しさの聲音を低く響かせた。

「戦後、カガリ様が建てられたものだ。あの戦争で俺たちは、本当に多くのものを失った。……特に、シャル様はお前をあのヤキンで失った後、人知れず強く落ち込まれていたんだぞ。戦当時はまだ16の一人の女の子だったが、愛する人を目の前で失って、その胸の奥が苦しくないわけがないだろう。それでも、日本を復興へと導く王として、皆の前では毅然とした態度でしっかりとしていたが、2年が経ち、18となった今もなお、民を導く者としての重責を背負い、彼女は今日まで独りで立ち続けたんだ。……蓮、お前は独りで悩んでるだろ。今更、死を偽装して姿を消していた自分が、再びシャル様の隣に立つ者として本当に相応しいのかどうかをな。」

 自分の胸の奥にある不器用な迷いのファクトを、正確に見抜いた兄のセリフ。その神城の真っ直ぐな言葉の刃を受け、蓮は僅かに目を伏せて言葉を返した。

「・・・・・相変わらず、人の心を読む事が得意ですね、神城の兄貴は。」

「何年、お前の兄貴分をやってると思ってる。・・・・シャル様は、きっと今でもお前を待ってるぞ。いい加減に自分の殻に籠るのをやめて、ちゃんと、お前の本当の言葉を伝えてやれ。それをきっと、ここに眠る遙やウズミ様も、空の上から望んでいる筈だ。」

 神城がそう咥え煙草の煙を吐き出しながら力強いセリフを向けると、蓮の網膜からすべての迷いの霧が晴れ、静かに言葉を返した。

「ありがとう。」

 蓮はそう短く感謝を伝えて慰霊碑の前へと歩み寄ると、亡き遙やウズミ代表の魂へ向けて静かに両手を合わせ、これからの宇宙最終決戦へ向けた絶対の覚悟を誓うと、再び自らの戦場である旗艦シナノのドックへと戻っていくのであった。

 一方、その頃。

 静まり返った旗艦シナノの広大な艦内通路においては、ナトリウム灯の明かりの下、2人の女性士官が並んで佇んでいた。

「まさか、あなたが生きていたとはね。」

 マリュー・ラミアス艦長が、信じられない奇跡の生還を果たしたかつての副官を見つめ、無二の優しさの聲音を漏らす。

 そのマリューのセリフに対し、ナタルは直立不動の姿勢のまま、自らが歩んできた2年間の過酷な歩みを実直なセリフで静かに告げた。

「この2年間、いろいろとありましたから。それに、アークエンジェルを降りた後、あのブルーコスモスや地球軍の過激派によるあんな凄絶な非道、不条理な行いを目の当たりにして……私に、大西洋連邦の軍へと戻るという選択肢は、最初からありませんでした。」

「あなたも、あなたなりに本当に苦労したのね、ナタル。」

 マリューがそう労うようにしてそっと瞳を潤ませると、ナタルは僅かに痛みに耐えるようにして美しい瞳を伏せ、自らの胸の奥に燻り続けていた過去の因縁の聲音を低く響かせた。

「それでも、私はあのヤキンの地で、かつての仲間であったあなた方に銃口を向けました。軍の命令のみを遵守して、一人の人間としての正しい倫理を捨てて……。」

 ドミニオンの艦長として、アークエンジェルと殺し合わねばならなかったあの日の冷酷な現実。ナタルがそう自責の念を言葉に滲ませると、マリューは優しく首を横に振り、彼女の言葉の刃を温かく包み込むような声音を返した。

「もういいわ、ナタル。・・・・それは私も同じよ。私も、あの時にあなたに向かって主砲を撃った。それは、もう二度と変えることもできない冷酷な事実。でも、貴方は今日、私たちの絶体絶命の危機を、その最新鋭戦艦シナノを以て再び助けてくれた。……私は、それだけで十分よ。」

 マリューはそう応じると、白と黒の制服の前に、自らの美しい右手を滑らかにそっと差し出した。

 二人の瞳が真っ直ぐに交錯し、マリューはこれからのデュランダル議長との最後の決戦を見据え、気高き規律の聲音を響かせた。

「共に、この不条理な戦争を完全に終わらせましょ、ナタル。」

 そのマリューの揺るぎなき絶対の信頼の言葉を耳にしたナタルは、網膜の奥に溜まりかけていた涙を必死に堪え、差し出されたその温かい手をがっしりと力強く握り締めると、凛とした軍人としての最高のセリフの声音を響かせた。

「はい。必ず、ラミアス艦長。」

 2人の伝説の女性士官が、オーブの夜の帳のなかで、今度こそ寸分のブレもない固い共闘の握手を交わし合う。

 地上と宇宙のウルブズ、状態、そしてアークエンジェルは、完全に一つの最強の絶対の中立の盾となり、ジブリールを追うザフトの大艦隊、およびギルバート・デュランダル議長の待つ、大宙の決戦の舞台へと向かって、それぞれの牙を強固に研ぎ澄ましてしていくのであった。

 

オノゴロ島を茜色に美しく照らしながら、静かに沈みゆく夕日の中。

 潮風が烈しく吹き抜けるウルブズの旗艦『シナノ』の広大な飛行デッキの上に、ぽつりと佇むシャルの姿はあった。

 シャルは自らの白い指先のなかで、一つのネックレスをそっと見つめていた。それはかつて2年前のあのヤキンの地獄へと赴く前、生きて戻るためのお守りとして蓮へと手渡した、眩いき緑の光を放つエメラルドのネックレスであった。しかし、激戦が終わったあの時、シャルの手元に戻ってきたのは虚しくもこのネックレスのみであり、蓮の機体の残骸も、その身体も見つかることはなかった。

 カタカタと風に震える、2年間の絶望の記憶が詰まったネックレス。シャルがただ静かにその緑の輝きを見つめていると、背後から聞き覚えのある、ずっと待ち続けていた男の静かな足音と共に、言葉が掛けられた。

「カガリは、夜に世界に向けてメッセージを伝えるようだぞ。お前は行かなくてもいいのか。」

 蓮がそう、いつもの冷徹な仮面を少しだけ緩めて歩み寄ってくると、シャルはネックレスを胸元へと収め、夜風に長い髪を揺らしながら、ツンとすました聲音のセリフを返した。

「私は本来、ここにいない者だ。手伝う理由がないだろ。」

 自分が日本へと移住し、表舞台から姿を消している身であるという現実。シャルがそう寂しげに目を伏せると、蓮はゆっくりとその距離を縮め、2年間の胸の奥に燻り続けていた本音の声音をぽつりと漏らした。

「カガリからお前が生きてるかもしれないと聞いた時、嬉しかった。でも・・・・・黒海で出会った時のお前を見て、偽物だと思って、勝手に決めつけて、今のお前から逃げてた。お前がどんな2年を送ってきたのかも知らずに、私は。」

 蓮はそう自らの不器用な弱さを静かに告白すると、愛しい少女の細い背中を愛おしげに見つめ、シャルに背後からそっと優しく抱きついた。

 ガシィッ――。

 背中から伝わる、生きている蓮の確かな温もりと心音。シャルがハッと息を呑むなか、蓮はシャルの肩に顔を埋めるようにして、白と黒の制服の胸の奥に秘めていた本当の真実のセリフを真っ直ぐに紡ぎ出した。

「本当は時々、この2年間、地球に降りては日本に来てたんだ。何度もお前の姿を観て、会おうとも考えた。でも、再びお前に声をかける勇気は俺にはなかった。戻ると約束して勝手な事をして、お前と会うことを避けてた。でも、シェルや神城艦長の言葉を聞いて、ようやく決心がついた。・・・・・お前を1人にした分は、必ずこれからの俺の命を懸けて償う。だから、またお前の隣に立っても良いか。」

 それは、蓮が2年間のすべての孤独を脱ぎ捨てて放った、シャルへの本当の告白のセリフであった。その言葉を耳にしたシャルは、張り詰めていた2年間の心の氷が完全に決壊し、大粒の涙をその美しい瞳から溢しつつ、何度も首を縦に振って声音を震わせた。

「嫌なわけないだろ。・・・・・、もう私の前からいなくならないでくれ。」

「約束する。」

 蓮がそう確固たる絶対の愛を込めて囁くと、シャルは涙を流しながら蓮の方を向き、その胸の中に強く抱きついた。蓮はシャルの長い髪を愛おしげに優しく撫でながら、静かに声音を響かせた。

「ただいま。」

 その蓮の温かい言葉のセリフを受け、シャルは蓮の白と黒の制服を強く握り締めながら、烈しい嬉し涙のなかから微笑み、最愛の男への言葉を漏らした。

「おかえり。蓮。」

 夕日が完全に沈み、オーブの夜の帳が降りるドックの只中、2基の魂は2年間のすれ違いを超えて今度こそ本当の約束を交わし、来たるべき宇宙の最終決戦に向けて、共に並び立つための真の絆を強固に結び合わせるのだった。




ご愛読ありがとうございました。少し編集に時間がかかり遅くなってしまいました。それでは、次回も楽しみに。
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