1年半に渡り続いた地球連合とプラントの凄絶な戦争は、あのヤキン・ドゥーエ宙域における未曾有の大決戦を以てようやく終戦を迎えた。世界はユニウスセブンにおいて締結された『ユニウス条約』の下、形ばかりの不戦の誓いを交わし、崩壊しかけた平和への道を再び歩み始めていた。
そして時代はC.E.72年。
かつて大戦の火の粉に巻き込まれ、地球連合の欺瞞によって一度は無残に陥落した国が、今まさに新星のごとく息を吹き返していた。
若き最高指導者――シャル・アスハ女王陛下の下、日本は同じ理念を抱くオーブ連合首長国の多大なる助力を受け、前年であるC.E.71年に東アジア連合、および地球連合の支配から完全なる独立を果たす。それと同時に、従兄弟であるカガリが率いるオーブとの間で相互安全保障同盟を締結。世界にいかなる争いも持ち込ませない中立国として、新たにその第一歩を歩み始めていた。
かつて壊滅に追い込まれた日本の首都、東京。
戦後、シャルが帰国した当時は文字通りすべてが灼き尽くされた見渡す限りの焼け野原であったものの、オーブからの迅速な物資・技術援助、および何よりもシャル自身による傷ついた国内各地への相次ぐ直接の訪問は、絶望の底にいた日本国民たちにとって何よりも大きな励ましとなった。人々の魂を奮い立たせた若き女王の背中に押し上げられるようにして、首都・東京の街並みは僅か1年余りでかつての威容を完全に、奇跡的な復興を遂げたのであった。
美しく再建された東京の皇居の静謐な執務室において、シャルは端正な佇まいのまま、官僚たちの持参した電子コンソールを真っ直ぐに見つめていた。
目の前に直立した官僚は、一礼すると重々しい声音で国内の現状の数値を報告し始めた。
「陛下、各地の具体的な復興状況です。――現在、大阪は60%、名古屋は58%、京都および福岡は50%まで復興の工事が進んでいます。しかしながら、その他の地方都市やかつての激戦地においては未だに復興への道が見えず、完全に基盤を立て直すにはなお多大なる時間を要するかと存じます」
官僚の告げた、復興の冷徹な格差の数値。それを聞いたシャルは、紅色の瞳を僅かに細めると、普通通りの淡々としたタメ口のまま、冷静な国家の舵取りの声を静かに響かせた。
「そうか。……ならばまずは各地の主要都市を完全に復興させ、それらを物流の拠点にして周辺へと進めていくしかないだろ。――防衛戦力の方はどうなっている」
そのシャルの問いに対し、官僚は戦術マップのホログラムを切り替え、現在の日本独立軍の脆弱な軍事スペックのリアルな数値を差し出した。
「はい。我が独立特務隊の誇る二大巨艦――特務艦ヤマト、および2番艦ムサシの2隻は完全に健在ですが、周囲を固める水上戦力は最新鋭のイージス艦が10隻のみ。端的に、国内に配備されているモビルスーツは全体で僅か20機余りに過ぎません。その現有する機体のうち、5機がオーブから正規導入された最新の可変モビルスーツ『ムラサメ』ですが……残る残存の機体は、M1アストレイの改修型、および東アジア連合から購入したストライクダガーのみです」
「ハァー。……やることは山積みだな。ありがとう、各自仕事に戻ってくれ」
「はっ。失礼いたします」
官僚たちはシャルを残して、一礼すると静かに部屋を後にした。
広々とした執務室に静寂が戻り、シャルがデスクの上の書類に視線を落とした――まさにその刹那だった。
コン、コン――。
静かな部屋の木扉に、ノック音が響いた。シャルは顔を上げることなく応じた。
「入れ」
ガチャリ、と自動扉が開き、聞き馴染んだ重々しくも穏やかな足音が執務室の絨毯を厳かに踏みしめて入ってきた。
「お疲れ様です。陛下」
入ってきたのは、かつてはヤマトを率いる特務隊指揮官であり、現在は防衛長官として日本国内にあるすべての軍の最高責任者となった男――神代であった。
シャルはその鉄の仮面のような佇まいのなかに、確固たる信頼の光を宿した懐かしい姿を見つめ、少しだけその厳しい表情を和らげてタメ口を返した。
「久しぶりだな。3ヶ月ぶりか」
「はい、仕事が片ついたので、暇つぶしに立ち寄ってみたのですが、仕事中でしたか」
神代は静かに微笑を浮かべながら、かつての親代わりのような、どこかくだけた声音で語りかけた。シャルは手元のコンソールをそっと閉じると、首を振って応じた。
「いや、少し休むところだ。よかったら話に付き合ってくれないか」
「陛下の頼みである以上、断れませんよ」
神代がそう言ってソファーに腰掛けると、タイミングを見計らったかのように専属のメイドが静かに、2人の前に温かい紅茶を持って現れた。上品な茶葉の香りが漂うなか、シャルは紅茶のカップに手を伸ばし、普通通りの淡々としたタメ口で問いかけた。
「それで、ヤマトとムサシの方はどうなんだ」
「今は東西に別れて、物資運搬が主な任務です。もはや格納されているモビルスーツもそれぞれ2機程度で、大量の物資を下ろす仕事がメインですよ。……今の若い新米たちは、あの二大巨艦があのヤキン・ドゥーエで本当に死に物狂いで戦ったのかと、ただの噂話をするほどです」
「それほど、平和になったということだろ。あの戦争で私たちは多くの者を失った。……蓮が今のこの国を見たら、どう思うかな」
不意にシャルの唇から漏れ出た、あの最愛の少年の名前。
神代は窓の向こうの東京の美しい街並みを見つめ、どこか寂しげに、しかし確固たる声音で答えた。
「それは……アイツ自身に聞かないと分からないことです。本来、この防衛長官という役目は私ではなく、アイツが担うはずでしたから」
神代は自らの懐から、唯一残された、蓮のモビルスーツ隊がオーブ本土で初めて結成された当初の古い写真を取り出して静かに見つめた。
写真の中心には、一切の感情を排した無機質な瞳のまま真っ直ぐに佇む、若き連隊長・蓮の姿。その右隣には凛とした笑みを浮かべるシャルが立ち、左隣には神代が並び、その周囲を今や帰らぬ人となった多くの愛しい部下たちが笑顔で囲んでいた。
「懐かしいな。あの時が」
「はい」
2人が静かに過去の因縁に想いを馳せていた、まさにその瞬間だった。
コン、コン――。
再び扉にノックの音が鳴り響き、自動扉が開くと同時、一人の緊迫した表情の日本軍の兵士が室内へと入ってきた。兵士はシャルの前で直立不動の敬礼を捧げると、差し出した電子コンソールの資料を丁重に手渡した。
「陛下、諜報部が新たなる重要情報を入手いたしました!」
「諜報部が……?」
シャルが資料を受け取ると、兵士は直ちにその深刻な内容を報告し始めた。
「まずザフトのことですが、近いうちに最新鋭の新型宇宙戦艦が進水するとのことです」
「ザフトの新型艦……」
不穏な軍備増強の動きにシャルが僅かに眉をひそめると、兵士は続けて最も核心となる驚愕の情報を告げた。
「はい、後もう一つ。その進水式が行われるL4コロニー『アーモリーワン』に向けて、オーブ連合首長国の代表であるカガリが、護衛1人のみを伴って秘密裏に向かわれたという情報が入りました」
「なんだと!? カガリが……向かった理由は分かっているのか!」
シャルは思わずソファーから身を乗り出し、普通通りの激しいタメ口で問い詰めた。兵士は資料を示しながら、その緊迫した理由を告げた。
「はい。どうも先のオーブ解放戦の最中、ザフトへと流出してしまったオーブの技術者や、その最先端技術の軍事利用に対することを深刻に懸念されているようです。それを直接止めるため、秘密裏ではありますが、プラントのギルバート・デュランダル議長と直接の会合を持つためのようです」
カガリが、たった1人の護衛を連れてザフトの軍事要塞コロニーへと足を踏み入れたという厳然たる事実。
世界の新たなる戦火の歯車が不気味に動き出すのを肌で感知しながら、シャルと神代の2人は、手渡されたアーモリーワンの不穏な宙域のマップを、ただ静かに、重々しく睨み据えるのだった。
シャルが皇居の執務室にてカガリの行き先を知った頃。
プラントの軍事要塞コロニー「アーモリーワン」の周辺に広がる、無数の小惑星がひしめき合う不気味なデブリ帯の影において、独自のナノミラージュコロイドを展開した秘密武装組織『ウルブズ』の主力艦、コンゴウ型強襲巡洋戦艦1番艦『コンゴウ』が、その姿を宇宙の闇に完全に潜めながら密かに航行していた。
薄暗いコンゴウのブリッジには、新鋭のコンソールが放つグリーンの電子光が怪しく揺らめき、オペレーターたちの緊迫した声が静かに交わされていた。
「システム、オールグリーン」
「索敵レーダー作動。……周囲にはザフト、および地球連合の艦、モビルスーツの機影共になし。探知されぬまま予定航路を維持」
完璧な隠密航行が確認されているブリッジへ、重々しくも硬質な軍靴の音がカツ、カツと響いた。
「状況は」
ハッチを開けてブリッジの指揮官席へと静かに入ってきたのは、一人の引き締まった表情の女性艦長であった。
その正体は、かつて地球連合軍においてアークエンジェルの副長を務め、アラスカの地での転属後はアークエンジェル級2番艦ドミニオンの艦長を拝命。ヤキン・ドゥーエの深淵において、アークエンジェルとの死闘の末にドミニオンが撃沈される直前に脱出するも負傷し、死亡したと思われていたナタル・バジルール少佐であった。プラントでの極秘の治療を経て生還したその双眸には、プロの軍人としての鋭い眼光が完全に、完璧に蘇っていた。
直立したオペレーターが、手元のホログラムを切り替えながらナタルへと応じた。
「周囲に敵影なし。コンゴウは現在も予定通り航行中です。……ですが艦長、本当なのでしょうか。連合がこのアーモリーワンのザフト基地を襲撃するという、あの不穏な情報は」
「真実か嘘かにせよ。我々の任務はザフト、および連合の動きを確かめることだ。あの情報が嘘で、ここで何事も起きなければ、それは世界がまだ平和だということの証明だ。――それに越したことはない」
ナタルは静かに腕を組むと、メインモニターに映し出される砂時計のタイマーを一瞥し、これ以上ない硬質な声音で下達した。
「……間もなく第1フェーズに移る。例の機体の発艦準備を始めろ」
「了解! 総員、我々はフェーズ1に移行。――モビルスーツ、発進用意!!」
オペレーターの鋭いアナウンスが、コンゴウの巨大な艦内回線へと一斉に流された。
キィィィィン――。
高周波の駆動音が響くコンゴウの第1モビルスーツ格納庫。
すでに最終のチェックプログラムを走らせていた整備兵が、データリンクのコンソールを閉じると、タラップの上で待機していたある男に向けて力強く声をかけた。
「連隊長、機体の調整はすべて完了です。内蔵された核エンジンのバイタルも100%安定しています。……いよいよ、我々の初陣ですね」
「あぁ」
タラップの上に直立していたその男は、かつての特務隊のそれとは異なる、ウルブズの規律を象徴する白と黒の新型パイロットスーツをその身に完璧に纏っていた。男はヘルメットを深く抱え、その一切の感情を排した無機質な瞳のまま、引き締まった聲音を整備兵へと静かに返した。
「我々は秘密の上にある。下手に目立つような機動をすれば、ザフト、地球連合の双方にも目をつけられるからな。任務はあくまで状況の偵察だけだ。……直ぐに戻る」
男――ウルフ0はそう短く告げると、ヘルメットを深く被り、その素顔を完全にバイザーの奥へと隠した。そして、ドックの中央で美しく白く塗装され、超高速の突撃を行う飛行形態の状態で発進に備える最新鋭可変型モビルスーツ『オーディンマークII』のコックピットの中へと滑り込むように乗り込み、重厚なハッチを完全に閉めた。
プシュー――ッ。
ハッチが密閉されると同時、密かに入手した核エンジンが凄絶な重低音を響かせて完全同調を開始した。
ガシャァン――。
コンゴウの最下部にあるモビルスーツハッチが左右へと烈しく開き、星々のまたたく漆黒の闇が広がる。カタパルトの線上へと滑らかに誘導されたオーディンマークIIは、両翼のミサイルポッドを冷たく固定させ、完全に出撃態勢へと移行した。
『――ウルフ0、カタパルトロック確認! 出撃タイミング、いつでもどうぞ!』
ブリッジからの発艦許可のインカムを頭脳の奥で受け取ったウルフ0は、新型複合主砲『マークスマン・アグニ・システム』の操縦桿を力任せに強く引き絞り、魂の底からの冷徹な音声を暗号回線へと響かせた。
「――ウルフ0、オーディンマークII、出撃する!!」
ドォォォォォンッ!!!!!
コンゴウの船体を烈しく軋ませる凄絶な電磁衝撃波の尾を引き、白き後継主役機オーディンマークIIは、飛行形態の圧倒的な大推力を宇宙の闇の中に爆発させながら電磁レールから激しく射出され、そのままコンゴウから遥かアーモリーワンの宙域へと向かって、超高速の速度を以て一瞬のうちに飛び去っていくのだった。
コンゴウのカタパルトから解き放たれ、漆黒の宇宙へと躍り出たウルフ0のオーディンマークIIは、流麗な飛行形態の圧倒的な大推力を維持しながら、密集するデブリや諸惑星の影へと巧みにその身を隠しつつ進行を続けた。
推進火線を限界まで抑え、目標であるザフト軍の軍事要塞コロニー「アーモリーワン」を光学カメラで直接目視できる距離へと肉薄していく。やがて、事前に設定していた予定通りの小惑星の裏側へと滑り込むように機体を潜めると、ウルフ0はコックピットの暗号回線を開いた。
「ポイントに到着。……これより、偵察を開始する」
ウルフ0がコンソールの射出トリガーを引き絞ると同時、オーディンマークIIの機首から、1発の特殊な大型ロケットが宇宙の闇へと静かに解き放たれた。
ポシュゥゥゥン――。
放たれたロケットは一定の座標へ到達した瞬間、爆発することなくその外殻を滑らかに開放した。すると、その内部から無数の小型索敵カメラが弾け飛ぶようにして、アーモリーワンの全周囲の空間へと一斉にばら撒かれていった。
ピピピピピピピッ!!!
あらかじめプログラミングされていた各ポイントへとカメラが到達した瞬間、オーディンマークIIのメインモニターへと、発射したすべてのカメラが捉えたクリアな高解像度映像が一斉に映し出された。ウルフ0はヘルメットの奥の無機質な瞳を向け、画面の向こうにそびえ立つアーモリーワンの港湾ドック、防衛線の配置、および新鋭宇宙戦艦ミネルバの姿を、コックピットの電子パネルを通じて冷徹にスキャンし、要塞全体の偵察を淡々と進めていくのだった。
一方、そのウルフ0が冷たく見下ろすアーモリーワンの、物々しい警戒態勢が敷かれたザフト基地の最高首脳陣用応接室においては。
オーブ連合首長国の代表首長であるカガリが、身分を隠してアレックス・ディノと名乗るアスランの護衛を背後に従え、プラント最高評議会議長であるギルバート・デュランダルと、息の詰まるような緊迫した秘密会談を執り行っていた。
対談の始まりにおいて、カガリは厳しい表情のまま、先のオーブ解放戦の最中にプラントへと流出してしまったオーブの優秀な技術者たち、および彼らの持つ最先端技術を、ユニウス条約の目を盗んで軍事利用することを即座にやめるよう、強い口調で詰め寄っていた。
しかし、デュランダル議長は穏和な笑みをその端正な顔に湛えたまま、突如として何の前触れもなく、不気味に話題を切り替えた。
「――ときに姫、貴女はここ最近、各陣営の裏舞台で活動していると噂される、ある謎の組織について何かご存じですか」
そのデュランダルの問いかけに、カガリは眉をひそめ、怪訝そうな声音のまま真っ直ぐに答えた。
「……何のことだ。そんなものは初耳だな」
「そうですか。組織の名は『ウルブズ』。――我々の側でも未だ掴んでいる情報が少なく、すべてが事実かどうかは定かではないのですが……彼らはザフト、地球連合の双方から、各陣営の優秀なパイロットや最先端の技術者たちを極秘裏に集めてできた組織であると、私も耳にしていましてね。さらに驚くべきことに、彼らは独自でモビルスーツ、さらには最新鋭の軍艦の設計、開発、生産までを行っているとのことです」
「なんだと!? そんな組織、世界にとってあまりに危険ではないか! なぜそんな不穏な存在を知っていながら、ザフトは即座に軍を動かして拘束しない!」
カガリは思わず声を荒らげて問い詰めた。だが、デュランダルは手元のティーカップを静かに置くと、目を細めて言葉を繋じた。
「この組織はまた、特に我々に対して直接的な攻撃やテロ行為を行っているわけではありませんからね。……それに姫。貴女は関係がないように話されていますが、私はその『ウルブズ』の奇妙な行動理念を聞いたとき、かつてオーブに存在していた、ある特別な組織に酷く似ていると思ったのですがね」
「どういう意味だ。……私たちが、そのウルブズと言いたいのか」
カガリの鋭い拒絶に対し、デュランダルは優しく両手を振ってそれを否定した。
「いえいえ、滅相もない。我々も、現在のオーブがその組織に一切関与していないことは完全に分かっていますよ。……ですがね、かつて先の戦争の最中、オーブの絶対の中立という理念をただ守るためだけに、歴史の闇で戦い抜いたオーブの秘密の軍団――『第0特務隊』」
「――っ!? お前、なぜ……その名を……っ!!」
背後に控えるアスランが僅かに息を呑み、カガリの顔が一瞬にして驚愕に強張る。一般には決して明かされていないはずの、独立0特務隊の名称。デュランダルはどこか哀愁を帯びた声音で、その因縁の真実を静かに紡いだ。
「戦後、個人的に調べさせてもらったのです。あの凄絶な戦争で不条理に犠牲となった、名もなき者たちについてね。そこで見つけたのですよ。第0特務隊。……先の戦争の初期、我々ザフトの重大な誤認による攻撃で沈んだオーブの軍艦の遺族や、その悲痛な生き残りたちだけで結成された、平和のための秘密の軍隊。しかし、彼らは先の戦争の果てに姫と共に最後まで戦い抜き、多くの優秀なパイロットを失い……今や生き残った僅かな者たちは、姫の従兄弟であるシャル・アスハ女王陛下が治める『日本』に所属していると」
「……確かに、先の戦争でその軍は実在した。だが、それと、お前の言うその秘密組織と一体何の関係があるというんだ」
カガリが必死に動揺を抑えて聞き返す。デュランダルは、そのカガリの瞳を壊れ物を扱うかのように真っ直ぐに見つめ返し、核心の問いを投げかけた。
「彼らウルブズもまた、先の戦争で家族や親友、あるいは恋人といった、理不尽な戦争によって大切な者を失った人たちだけが集まった組織だと聞きます。――姫、何か……このようなあまりに純粋で、孤独な行動を執る人物に、貴女自身のなかで心当たりはありませんか」
そのデュランダルの静かな問いかけを浴びせられた瞬間、カガリの脳裏には、ヤキンの星の海でシャルを護るために身を挺して散っていった、あの白き可変機の残影が烈しくフラッシュバックしていた。
「……1人、思い当たる男がいる。だが、ソイツは先のヤキン・ドゥーエの戦いで完全に戦死した。……私の従兄弟である、シャルの最愛の恋人だった男だ」
「そうですか。それは……大変に失礼なことを聞いてしまった。申し訳ない」
デュランダルは深く痛々しげに一礼すると、ソファーから重々しく立ち上がり、穏やかな笑みを再びその顔に湛えて雰囲気を変えた。
「代わりと言っては難ですが、姫。これからの平和の共有として、我がプラントが誇るこのアーモリーワン基地の内部を、直々に案内させてもらえないでしょうか」
「あぁ。……分かった。頼む」
カガリはその提案を承諾すると、身分を隠すアスランと共にソファーから立ち上がり、これからの世界の行く末、およびザフトの真意をその目で確かめるため、デュランダルの案内に従って不穏な基地のドックへと、重々しい足取りで向かっていくのだった。
ウルフ0と名乗る男が、白き新鋭機オーディンマークIIのコックピットにおいて、小惑星の影からアーモリーワンの隠密偵察を開始してから、すでに数時間の刻が経過していた。
要塞のドック周辺には特に大きな動きはなく、真空の静寂が広がるばかりであり、ウルフ0はヘルメットのバイザーの奥の瞳を僅かに細めながら、多数の索敵カメラが同期するモニター群を冷徹に見つめ続けていた。
「……情報に誤りがあったのかもしれないな。これ以上の滞空はプロトコルに反する。一度、コンゴウへ帰還して――」
ウルフ0がそう呟き、操縦桿を戻そうとしたまさにその刹那であった。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
光学カメラの死角であったアーモリーワンの強固な外壁を突き破るようにして、凄絶な極大の閃光が宇宙の闇へと烈しく噴き出された。それを複数のカメラ越しにリアルタイムで捉えたウルフ0のモニターが一斉に激しく明滅する。
「なっ!? ……爆発か!?」
ウルフ0は即座にコンソールを叩き、爆煙の上がる座標へと最優先で光学カメラの焦点を合わせ、画面を極限まで拡大させた。
ズバァァァンッ!!!
スモークを割って現れたのは、ザフトの軍事基地の内部で狂気的なまでの火線を撒き散らしながら暴れ回る、見慣れぬ異形を宿した3機のモビルスーツの姿であった。
「あれは……事前に諜報部が掴んでいた情報にあった、ザフトの新型機――カオス、アビス、ガイアか。やはり、地球連合の特殊部隊による3機の強奪は、本当だったようだな」
世界の新たなる狂気の引き金。ウルフ0はゴーグルの奥の瞳を鋭く細めると、すぐさま別のカメラの映像へと視線を巡らせた。
「――ということは、港湾ドックの方でも動きがあるはずだ」
予測のプロトコルに従ってアーモリーワンの専用港へとカメラの視点を切り替えると、ウルフ0の睨んだ通り、要塞のハッチを力任せにブチ抜いて突入していく、漆黒の夜の闇を纏った特殊部隊仕様の黒いダガーLの群れが、港に向かって一斉に殺到していく航路を完璧に確認した。
キィィィィン――。
正式にカメラが追う港湾のすぐ近くの暗黒の空間において、宇宙の空間そのものが陽炎のように激しく歪み始めた。
「あれが、今回の作戦の親玉か」
ウルフ0の目の前で、独自のミラージュコロイドを自ら解除してその邪悪な威容を現したのは、地球連合軍の特殊部隊を運んできた母艦――ガーティ・ルーであった。不気味な黒き巨大戦艦は、姿を現すと同時にその全主砲を開放し、迎撃に出ようとしていたザフト軍の防衛艦に向けて無慈悲な先制奇襲の砲撃を一斉に浴びせかけ、宇宙を真っ赤に灼き焦がしていった。
ウルフ0は即座にコンソールのウルブズ専用大容量暗号回線を開くと、本陣たる強襲巡洋戦艦コンゴウのナタル艦長へ向けて、一切の感情を排した冷徹な音声を響かせた。
「――こちらウルフ0。情報通り、地球連合の特殊部隊によるザフトの新型モビルスーツ3機の強奪を確認した」
『ウルフ0、状況は理解した。深追いをするなよ』
「了解している。……これよりデブリの影に隠れつつさらに移動し、敵味方の戦闘データの偵察を継続する」
ウルフ0はナタルへの定時通信を簡潔に締めくくると、オーディンマークIIの操縦桿を力強く引き絞った。
キィィィィン――ッ!
内蔵された核エンジンが爆発的な重低音を響かせ、白き後継主役機オーディンマークIIは、飛行形態の圧倒的な大推力を最小限に吹かせながら、激しい戦火の渦巻くアーモリーワンのデブリ帯の中へと、再び不気味に、滑らかに動き出すのだった。
地球連合軍の特殊部隊によるザフトの新型モビルスーツ3機の強奪を確認したウルフ0は、周囲の小惑星デブリの影へと滑らかに機体を潜めながら、冷徹な隠密偵察をじっと続けていた。
ガーティ・ルーによるザフト艦への奇襲砲撃が星の海を赤く灼き焦がすなか、ウルフ0のオーディンマークIIの光学メインカメラが、アーモリーワンの巨大な外壁の異変を鋭く捉えた。
ズバァァァンッ!!!!!
突如として、アーモリーワンの内部から放たれた凄絶な極大のビーム攻撃が、内側から強固な装甲隔壁を力任せにブチ抜き、コロニーの表面に巨大な大穴を開けたのだ。
キィィィィン――。
激しく噴き出す大気とデブリの煙を割るようにして、その大穴から地球軍の強奪犯たちが操るカオス、アビス、ガイアの3機が、暗黒の宇宙空間へと滑り出すようにして次々と姿を現した。
さらに、その強奪された新型3機の後を死に物狂いで追うようにして、その大穴から激しい推進火線を撒き散らしながら、2機のモビルスーツが星の海へと烈しく飛び出してきた。
1機は、ザフト軍の白いザクウォーリア。
そしてもう1機は、ザフトの最新鋭主役機――インパルスガンダムの姿であった。
ウルフ0はオーディンマークIIのコンソールを叩き、その追撃してきた未知のガンダムタイプの機影へと、光学カメラの望遠スキャンを鋭く収束させた。
「……情報にはない機体だな」
ウルブズの高度な機密情報網を以てしても、事前のデータリンクに一切存在していなかったザフトの最新最高機密。
ウルフ0はヘルメットのバイザーの奥の瞳を冷徹に細めると、目の前の大戦火の只中で、その未曾有の機体のバイタル、および特徴的なシルエットの構造を、コックピットの電子パネル越しにただ静かに、深く観察していた。
ウルフ0がそうして観察を続けていると、ザフトの軍事基地内部を蹂虙したカオス、アビス、ガイアの3機は、目的を果たしたかのように一斉に反転し、母艦であるガーティ・ルーの方角へと急速に撤退し始めた。
キィィィィン――ッ!
しかし、ザフトの防衛線を引き裂いた強奪犯たちをこのまま逃がすまいと、背後から追撃してきた白いザクウォーリア、および最新鋭の新型モビルスーツの2機が、その背後を猛烈な速度で追い始める。
だが、その地球軍の3機がデブリ帯へと逃げ込もうとしたまさにその矢先であった。
ズバババババァァンッ!!!!!
地球軍の撤退を背後から完全に援護するかのように、暗黒の虚空から突入してきた不気味なシルエット――無数の特殊な有線式砲頭ガンバレルを空間へと鮮烈に解き放った地球連合軍の最新鋭モビルアーマー『エグザス』が、突如として戦場へと現れた。
エグザスは空間を縦横無尽に切り裂くオールレンジの猛砲撃を以て、追撃してきたザフトの新型モビルスーツ、および白いザクウォーリアの2機をまたたく間に包囲し、その圧倒的な機動性と凄絶な弾幕を以て完全に圧倒していった。
死角から次々と襲いかかる極大の熱線に晒され、防戦一方へと追い込まれていくザフトの2機。
ウルフ0はヘルメットのバイザーの奥の無機質な瞳を冷徹に細めると、デブリの影からその戦火のすべてをただ静かに見つめていた。
「……任務は偵察だけだが。これ以上、好きにさせるわけにはいかないな」
ウルフ0は操縦桿のホログラムパネルを滑らかに叩き、オーディンマークIIの最高主砲のロックプロトコルを起動させた。
ガシャァン――。
暗黒の空間のなかで、前大戦の2大兵装の長所を完全合体・発展させた複合主砲『マークスマン・アグニ』の強固な銃身が、デブリの隙間からエグザスの駆動波形に向けて、静かに、しかし凄絶な殺意の大義を宿しながら、狙い澄ますようにして真っ直ぐに構えられるのだった。
オーディンマークIIがデブリの影から密かに『マークスマンライフル・アグニ』を完全に構え、その照準の十字を固定する中。
前方の一大主戦域においては、ザフトの新型モビルスーツ――インパルスガンダムを駆るシン・アスカが、地球連合軍の不気味なモビルアーマー、エグザスの縦横無尽に飛び交うオールレンジの猛砲撃の前に、完全に四方の射線を塞がれて追い詰められていた。
キィィィィン――ッ!
エグザスが残された無数のガンバレルをインパルスの死角へと一斉に収束させる。確実にそのコックピットを仕留めるための絶対のトドメの一撃が放たれようとした、まさにその絶対の刹那であった。
「――しまっ……!?」
シンがコックピットのなかで絶望に目を見開いた、その瞬間だった。
ズバァァァンッ!!!!!
暗黒の宇宙空間を真昼のごとく一瞬にして灼き焦がす、目も眩むような極大の長距離対艦ビームが、デブリの隙間から閃光となって鮮烈に放たれた。
放たれた高収束の熱線は、寸分の狂いもなく一直線に空間をブチ抜くと、トドメを刺そうとしていたエグザスの機体を正確に捉え、その両翼に配備されていたリニアレールガン2つを、僅か一回の斉射のなかに完全に巻き込んで力任せに爆発、破壊したのだ。
「な、なんだ……!? 今のビームは、どこから……っ!?」
目の前で激しく弾け飛んだエグザスの武装を見つめ、シンは驚愕の声を荒らげた。
予期せぬ死角からの極大の破壊砲撃を受け、エグザスのコックピットでネオ・ロアノークが驚愕の悲鳴を上げる。これ以上の戦闘継続は機体のロストに繋がると瞬時に判断したエグザスは、それ以上の追撃を完全に断念し、残された推進火線を限界まで吹かして母艦であるガーティ・ルーへと向かって急速に撤退していかった。
「――くっ、待てよッ!!」
間一髪で窮地を救われたインパルスのコックピットのなかで、シンは荒い息を吐きながらスロットルを押し込み、撤退するエグザスの背中を必死に追おうとした。
ピピピピピピピピピッ!!!
しかし、そのシンのコンソールへ、アーモリーワンの港湾ドックから緊急出撃を果たした最新鋭高速戦闘艦ミネルバからの、絶対の帰還信号――退却命令のフラッシュがけたたましく鳴り響いた。
「……チッ! ミネルバからの帰還命令かよ……っ!!」
シンは烈しく奥歯を噛み締め、悔しげに操縦桿を戻してミネルバの方向へと機体を向けた。
減速しながら帰還の航路を飛ぶシンの脳裏には、先ほどの一撃の残像が未だに烈しく焼き付いて離れなかった。ザフトの最新鋭機であるインパルスを紙一重で救い去り、連合の厄介なモビルアーマーの主砲を一瞬にして撃ち抜いた、あのあまりに圧倒的な威力を持った謎の狙撃。
「あのビーム攻撃は何だったんだ……。ザフトの援護じゃない、連合の仲間割れでもない。あんな出鱈目な長距離から、ピンポイントでレールガンだけを消し去るなんて……一体誰が、何のために俺を助けたんだよ……っ!」
シンは荒い呼吸を繰り返しながら、手元のモニターの索敵ログをどれほど見返すも、発射点のデブリ帯には何の機影も捉えられていなかった。突然の謎の機体による攻撃の現実、その底知れない不気味さと鳥肌が立つような衝撃を強烈に気にしつつも、シンは操縦桿を強く握り締め、自らの母艦であるミネルバへと向かって静かに戻っていくのだった。
ザフトの新型をその極大の一撃を以て見事に救ったウルフ0は、主砲のロックを解除すると、すぐさま全周囲モニターの索敵範囲を広げた。
ズバババババァァンッ!!!!!
光学カメラが捉えたのは、新型3機とエグザスを回収し、デブリ帯の奥へと急速に撤退していく地球連合軍の黒き巨艦ガーティ・ルーの艦影。そして、それを逃がすまいと主砲を開放して猛烈な砲撃を浴びせかけながら、凄絶な速度を以てアーモリーワンから追撃に移る最新鋭艦ミネルバの威容であった。
その両軍の最高峰の巨艦が繰り広げる、息をもつかせぬ激しい大艦隊戦の推移。それらをオーディンマークIIのデータリンクへと冷徹に同期させながら、ウルフ0はヘルメットのバイザーの奥の瞳でその光景を静かに見つめ、当初のプロトコルを超えてなおも隠密偵察を続行するのだった。
ザフトの新型モビルスーツを絶体絶命の窮地から救ったウルフ0は、オーディンマークIIの機体を再び流麗な飛行形態へと素早く変形させた。
ここから先は、激しい砲火を交わし合う地球連合軍の黒き巨艦ガーティ・ルー、およびそれを猛烈に追撃していくザフト軍の最新鋭戦闘艦ミネルバの双方のレーダー網に対して、自らのシグナルを一切察知されてはならない極限の隠密プロトコルとなる。
キィィィィン――ッ!
ウルフ0は推進火線の出力を限界まで低く抑え、両軍の激しい砲撃の残光が飛び交う戦火の海のなか、ミネルバ、および地球連合の船の双方に決して気づかれぬよう、複雑に入り組んだ小惑星デブリや無数の小惑星の影に巧みに隠れつつ、冷徹な隠密の追尾偵察を継続していた。
すると、耳元のインカムの暗号回線へ、本陣たる強襲巡洋戦艦コンゴウから凛としたナタル艦長の制止の声が割り込んできた。
『――少尉。艦から離れすぎています。既に我々の当初の任務は完全に完了しています。深追いをやめ、直ちに本艦へお戻りを』
「……いや、もう少し新型のモビルスーツや、あのミネルバの動きを見ておきたい」
ウルフ0はヘルメットのバイザーの奥の瞳を前方のモニターへと向けたまま、いつも通りの淡々とした聲音のなかに確固たる大義の意志を宿して静かに返答した。
「ザフトがこの時代に送り出してきたあの最新鋭艦の情報は、今後、我がウルブズの行動をも大きく左右する存在になるかもしれない。……もう少しだけ、追わせてくれ」
そのウルフ0のブレなき言葉の重みを通信越しに受け止めたナタルは、僅かな沈黙ののち、信頼の滲む諦めたような声音で応じた。
『……分かりました。では、本艦も隠密を維持しつつ、遅れる形にはなりますが貴機を追撃・追護します』
「頼む。――あと、コンゴウ側からは絶対に攻撃は仕掛けるな。こちらの存在は可能な限り、両軍に悟られたくないからな」
『分かりました。……索敵を維持します』
ナタルがそう告げると、ノイズと共に暗号無線は静かに切れた。
ウルフ0はすぐに思考を戦闘プロトコルへと戻し、再び冷徹な偵察を再開した。
キィィィィン――。
オーディンマークIIの最大望遠カメラの視界の先、デブリ帯に差し掛かったミネルバのカタパルトデッキから、激しい推進火線を撒き散らしながら次々とモビルスーツが宇宙へと発進していくのをウルフ0は鮮烈に捉えた。
「どうやら、連合の艦に追いついたようだな」
既にウルフ0の側は、双方の艦の正確な座標位置をオーディンマークIIの超高性能な索敵レーダーによって完全に把握していたため、あとはミネルバの戦術がどう動くかを見守るだけであった。
出撃していったザフト軍の4機のモビルスーツの熱源波形をモニターでスキャンしていくと、その陣形の中心には、先ほど窮地から救い出したあの未知の新型機――インパルスガンダムのシグナルが確かに含まれているのをありありと確認した。
しかし、オーディンマークIIのコンソールが弾き出した広域戦術マップの上には、地球連合軍のガーティ・ルーがこのデブリ帯の死角に仕掛けた、巧妙なブービートラップの駆動反応が既に冷たく浮かび上がっていた。
「さて……相手は手慣れた罠を張っているが。ザフトの最新鋭がどう動くか、じっくり見せてもらおうか」
ウルフ0はそう静かに呟くと、主砲のロックを静かにかけたまま、再び小惑星の巨大なデブリの陰へと機体を深く潜め、その大戦火の状況をただ冷徹に、深く観察するのだった。
小惑星の巨大なデブリの陰へと機体を深く潜め、ザフトの最新鋭高速戦闘艦ミネルバ、およびそこから出撃した4機のモビルスーツの戦術をただ静かに観察していたウルフ0。
彼のオーディンマークIIが捉えるレーダーマップの予測通り、世界の戦火は最悪のタイムラインへと一気に加速した。
ミネルバの先陣を切ってデブリ帯を進んでいたザフト軍のモビルスーツ隊が、要塞コロニーの残骸の死角に完全に身を隠していたカオス、アビス、ガイアの新型3機から、容赦なき奇襲の集中砲火を正面から浴びたのだ。
ズバババババァァンッ!!!!!
不意を突かれた2機のグフが、回避の機動を執る間さえ与えられずに一瞬にして装甲を灼き裂かれ、真空の闇のなかに激しく爆散、破壊された。
一網打尽に前衛を失い、戦域に生き残ったルナマリアの赤いザクウォーリア、およびシンのインパルスガンダムの2機は、完全に退路を断たれる形で絶体絶命の窮地へと追い込まれていく。
さらに、悲劇は前線のモビルスーツ隊だけに留まらなかった。
大規模な追撃を続けていた本陣のミネルバまでもが、地球連合軍の放った精巧なレーダーデコイの欺瞞に完全に引っかかり、針路を大きく見誤らされてしまう。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
デブリの影に息を潜めて待ち伏せていた地球連合軍の黒き巨艦ガーティ・ルーが、完全に死角となったミネルバの背後から、その全主砲を開放して容赦なき不意打ちの砲撃を烈しく叩き込んだのだ。
不沈を誇る最新鋭艦の船体が激しく軋み、爆炎の煙が宇宙へと噴き出す。
「……無様だな。ザフトの最新鋭が聞いて呆れる。完全に敵の術中に入り込んでいるぞ」
前線の精鋭も、後方の母艦も、すべてがファントムペインの張った緻密な罠のなかにドロドロに嵌まり込み、跡形もなく壊滅しかけていくザフトの戦況。ウルフ0は全周囲モニターの光をヘルメットのバイザーに反射させ、冷酷な声音で呟いた。
「だが……これ以上、あの地球軍の好きにさせるわけにはいかないな」
ウルフ0はヘルメットのバイザーの奥の瞳を僅かに鋭く光らせると、手元のスロットルレバーを力任せに前へと押し込んだ。
「仕方ない、少しばかり手を貸してやるか」
ウルフ0はそう静かに告げると、隠密を維持していたオーディンマークIIの機体を飛行形態のまま、内蔵された核エンジンの爆発的な大推力を一気に解放した。
キィィィィン――ッ!
凄絶な推進火線が宇宙の闇を真昼のごとく一瞬にして灼き焦がす。
誰にもその存在を察知されぬまま、白き新鋭機オーディンマークIIは、新型3機の猛攻に晒されて崩壊しかけているコロニー周辺の過酷な乱戦地帯の元へと向かって、残像を遺すほどの超高速の速度を以て、猛烈な突撃の機動で烈しく駆け出していくのだった。
白き新鋭機オーディンマークIIが爆発的な大推力を以て乱戦地帯へと急行する中、前線の主戦域においては、シン・アスカのインパルスガンダムとルナマリア・ホークの赤いザクウォーリアの2機が、地球連合軍の強奪3機を相手に死に物狂いの凄絶な交戦を続けていた。
しかし、緻密な罠によって連携を完全に分断され、圧倒的な物量と性能の差の前にザフトの2機は防戦一方へと追い込まれていく。
ズバァァァンッ!!!
「――しまっ、後ろぉッ!?」
ルナマリアがコックピットのなかで悲鳴を上げた。デブリの死角から鮮烈に回り込んできたアビスガンダムによって、彼女の駆る赤いザクウォーリアの背後を完全に捕らえられてしまったのだ。
アビスがその巨大なビームランスを頭上へと高く振り上げ、ザクのコックピットを装甲ごと無残に突き刺さんと強烈に振り下ろした、まさにその絶対の刹那であった。
ズバァァァンッ!!!!!
暗黒の空間を鋭く引き裂くようにして、アビスとザクのまさにその僅かな隙間を突っ切る極高収束のビーム攻撃が、虚空から鮮烈に放たれた。至近距離を掠めた熱線の猛烈な衝撃波を浴び、アビスの突き出す刃の軌道が寸前で力任セに弾かれ、その必殺の攻撃が一時的に止まる。
「な、何なの……っ!?」
ルナマリアが息を呑んだ、その次の瞬間だった。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
凄絶な爆音を撒き散らしながら、暗黒の深淵から残像を遺すほどの超高速で突入してきた何かが、体勢を崩したアビスの強固な機体に向けて正面から強烈な体当たりを喰らわせたのだ。
『な、なんだこの速度はっ!? うわぁぁぁっ!!』
核エンジンの生み出す圧倒的な質量と超速度を宿したラムアタックを受け、アウルのアビスはコントロールを完全に失って宇宙空間へと激しく吹き飛ばされ、その強固な防衛の体勢を崩していった。
「ルナマリアッ!! ……おい、今度は何が来たんだよッ!!」
シンがインパルスのメインモニターを睨みつける。間一髪で窮地を脱したルナマリア、およびシンがその真ん前で目撃した突如として戦場へ介入してきた正体――それは、これまでのザフトや地球連合のあらゆるデータベースにも存在しない、白と青、速度と黒の洗練された境界線を纏った、未知の美しき白いモビルアーマーの姿であった。
キィィィィン――ッ!
凄絶な駆動音を空間に響かせ、突き抜けた白いモビルアーマーは空間を滑らかに滑るようにして鋭く反転、旋回した。ウルフ0はヘルメットのバイザーの奥の瞳を冷徹に細めると、インパルスを包囲しようとしていた残る2機、ガイアとカオスに向けて、新型複合主砲『マークスマン・アグニ・システム』から一斉にビーム攻撃を放った。
ズバァァァンッ!!!
牽制の精密な射撃が2機の装甲を掠め、カオスとガイアの動きが一瞬にして阻まれる。
『チッ、どこの機体だ!? ザフトの伏兵かよッ!!』
スティングがカオスのコックピットで烈しく毒突く。しかし、オーディンマークIIはその爆炎の煙を割るようにして、完全に動きの止まったカオスとガイアのまさにその僅かな機体の隙間を、飛行形態の圧倒的な大推力を爆発させながら、超高速の速度を以て一瞬のうちに鮮烈にブチ抜けていった。
「――あ、う……あ、アイツ……ッ!!」
その瞬間、黒き可変機ガイアガンダムのコックピットのなかで、黒髪の少女ステラ・ルーシェの野生的な瞳が、自らの横を通り抜けていった白き可変翼のプレッシャーを感知して烈しく見開かれた。
「――あいつ、強い……!」
闘争本能を剥き出しにしたステラは、スティングたちの静止の声を聞くこともなく、単独でガイアのライフルを乱射しながら、猛烈な逆噴射を以てその白いモビルアーマーの後を遮二無二追い始め、空間へと飛び出していった。
『おい、ステラ!? チッ、勝手に飛び出すな!!』
『待てアウル、そっちは罠が……くそっ、追うぞ!!』
暴走したガイアをこのまま単独で死なせるわけにはいかない。それを見たカオスとアビスの2機も、ガーティ・ルーへの撤退航路を急遽変更し、激しい推進火線を吹き放ちながらガイアの後を猛烈に追い始める。
「ルナマリア、動けるか!? あの白いやつも、強奪犯どもも、絶対にここで逃がすなッ!!」
「え、ええ……っ! 追うわよ!!」
そして、謎 of 白い機体に命を救われ、戦場のパワーバランスが完全に引っ繰り返るのを肌で感じたシンとルナマリアの2機もまた、それぞれの操縦桿を力任せに押し込み、宇宙の闇のなかで猛烈な超高速の尾を引きながら、すべての因縁が殺到していくその白いモビルアーマーの背中の後を、死に物狂いの推力を以て激しく追いかけていくのだった。
シンとルナマリアの2機が、前方に現れた正体不明の白いモビルアーマーの後を死に物狂いで追っている一方で。
カガリ、アスラン、およびギルバート・デュランダル議長を乗せたザフトの最新鋭高速戦闘艦ミネルバは、未だ地球連合軍の黒き巨艦ガーティ・ルーからの一方的な猛砲撃を浴び、激しい追撃戦のなかで再度、絶体絶命の窮地に陥っていた。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
さらに、ガーティ・ルーの艦首ハッチからは、地球軍の特殊部隊仕様のダガーLの群れに加え、先ほどシンのインパルスを絶望的なまでに追い詰めたネオ・ロアノークの駆るモビルアーマー『エグザス』が再び殺到し、防衛線の崩壊したミネルバに対して無慈悲な猛攻撃を仕掛けていた。
『ハハハッ! ザフトの最新鋭艦も、これじゃあ形無しだねぇッ!!』
空間を縦横無尽に切り裂くエグザスのガンバレル。満身創痍のミネルバを孤軍奮闘で守るのは、レイ・ザ・バレルの白いザクウォーリアただ1機のみであった。レイは卓越した精密射撃を以て必死に敵の弾幕迎撃に当たるものの、ネオの駆るエグザスの執拗なオールレンジ攻撃に完全に足止めされ、その隙を突いた複数のダガーLによるミネルバ本体への肉薄・突破を無残にも許してしまう。
『――各座、衝撃に備えろッ!!』
ミネルバのブリッジでタリア艦長が鋭く叫び、最悪の直撃を誰もが覚悟した、まさにその絶対の瞬間だった。
ピピピピピピピピピッ!!!
ミネルバの対空レーダーのコンソールが、突如としてけたたましい大音量の警告音を鳴り響かせた。
『――艦長! ミネルバの後方、いえ、我々を追撃している地球連合軍の艦の、さらにその真後ろの座標から、凄絶な速度を以て接近してくる正体不明のシグナルを捕捉!!』
――っ!?
オペレーターの悲鳴のような報告。さらにその戦術マップの上には、信じられないタイムラインが次々と同期されていく。その正体不明の謎の熱源シグナルのすぐ直後からは、強奪されたガイア、カオス、アビスの3機が猛烈な速度で続いており、さらにその死に物狂いの最後尾からは、それらを必死に追撃しているルナマリアのザクとシンのインパルスのバイタルデータまでもが、一列に並ぶようにしてレーダーへと鮮烈に捉えられたのだ。
艦長のタリアは一瞬にしてその大混乱の戦況に驚きつつも、即座に全軍へ向けて鋭い号令を響かせた。
「迎撃態勢! 全砲門、後方からの接近物に照準ッ!!」
ミネルバの迎撃行動が開始されるよりも早く、超高速で戦域へと殴り込んできたその正体不明の白い影――オーディンマークIIは、ザフトではなく、自らを追ってきた地球連合軍の巨艦ガーティ・ルーに向けて、新型複合主砲『マークスマン・アグニ・システム』の極大熱線を正面から容赦なく叩き込んだ。
ズバァァァンッ!!!!!
黒き巨艦の艦首装甲が一瞬にして爆沈、炎上する。ガーティ・ルーのブリッジが激しい衝撃に揺れるなか、白い可変機はさらにその猛烈な速度を維持したまま、ミネルバの眼前でレイのザクを追い詰めていたネオのエグザスに向けて、機首からの牽制の斉射を放ち、レイを完全に護衛しつつその側面の空間を鮮烈に通過した。
『――チッ、また邪魔者が……っ!!』
ネオが忌々しげにエグザスを反転させる。しかし、白いモビルアーマーの進撃はそれだけに留まらなかった。旋回のプロトコルのまま、さらに前方からミネルバのブリッジ目掛けて突撃を仕掛けようとしていた地球軍のダガーL2機に対し、手持ちのマークスマン・アグニのライフルを正確無比に一閃させた。
ズバァァァンッ!!!
極高収束のビームが2機のダガーLのコックピットを関節ごと完璧に貫き、真空の闇の中で一瞬にして爆発、撃破する。
ドゴォォォォォンッ!!!
白いモビルアーマーは、爆炎の煙を割るようにして、そのまま満身創痍のミネルバの艦橋のすぐ真上を、凄絶な風切り音を艦体へと響かせながら鮮烈に通過していった。
その刹那、ミネルバのブリッジの防弾ガラス越しに、直立していたカガリ、およびその隣で息を呑むアスランの2人は、自らのその目でありありと、その白と青、速度と黒の洗練された境界線を纏った美しいモビルアーマーの姿を直に目にした。
「あ……あ、あの機体……まさか……っ!?」
アスランの声音が激しい動揺に烈しく震えた。隣に立つカガリの紅色の瞳も驚愕に大きく見開かれる。
その直後、ミネルバの艦橋を通り抜けた白いモビルアーマーの後を死に物狂いで追っていたステラのガイアガンダムが、逆噴射を以て一気にその距離を縮めた、まさにその絶対の瞬間だった。
ガシャァン――ッ!
背後の脅威を感知した白い影は、超高速の推進力を維持したまま、機体の各部装甲を一瞬にして強固に変形解除させ、流麗な飛行形態から、絶対の牙たるモビルスーツ形態へとその姿を鮮烈に変貌させ、遂にその完全なる人型の威容を世界の表舞台へと現したのだ。
メインモニター越しに映し出されたその特徴的な頭部、流麗なウイング、および白き装甲のシルエット。それを見たカガリとアスランの2人は、胸を引き裂くような激しい衝撃と共に、その場に凍りついたようにして驚愕した。
「お、オーディン……!? そんな馬鹿な、あの機体は、蓮はあのヤキンで……ッ!!」
形や色に細かな違いこそあれど、それはかつてC.E.71年のヤキン・ドゥーエの最終決戦において、最愛のシャルを護るために身を挺して散っていった独立0特務隊の伝説の牙――『オーディン』の紛れもない姿であった。
周囲が大激戦の渦に巻き込まれるなか、オーディンマークIIの静謐なコックピットのなかで、ウルフ0を名乗っていたそのパイロットのヘルメットのバイザーが、電子音と共にゆっくりと上へと跳ね上がった。
/ コンソールの淡い光に照らし出されたのは、いつもと変わらぬ、しかし2年の歳月を経てより深く冷徹な大義を宿した、あの少年の素顔だった。
ヤキンの深淵から蘇った最強の少年兵――蓮・ミタミは、目の前の全周囲モニターに映る地球軍のモビルスーツ部隊を冷徹にロックオンすると、手元の操縦桿を力任せに強く引き絞り、自らの愛機のなかで静かに、しかし凄絶な殺意の声を響かせた。
「――蓮・ミタミ。オーディンマークII。これより、敵の殲滅に当たる」
その魂の底からの冷徹な独白と共に、復活を果たした少年の瞳が鋭く光った、まさにその同じ瞬間のことだった。
遙か気の遠くなるような宇宙の彼方――。
完全独立を果たし、静かなる平和の夜に包まれた新星・日本の首都、東京。
皇居にある自らの広々とした執務室の奥、夜風が静かにそよぐベランダの前に、日本の女王であるシャルはただ一人佇んでいた。
サラリ、と。
夜の帳を揺らす冷たい風が、シャルの美しい金髪の髪をそっと揺らす。
その瞬間、シャルの胸元に輝く、あの透き通るようなエメラルドのネックレスが、まるで遠く離れた最愛の主の魂の覚醒に呼応したかのように、夜闇の中で微かに熱を帯びた。
シャルは不意に胸を締め付けられるような、言いようのない絶対の、懐かしい確固たる気配をその魂の底で肌で感じ、弾かれたように満天の星々がまたたく漆黒の夜空をそっと見上げた。
誰もいない静謐な夜の空間のなかで、シャルは溢れ出しそうになる焦燥の愛しさを胸に抱きながら、星の海の彼方へと向かって、ただ一言、祈るようにしてその愛おしい少年の名前を静かに呟くのだった。
「……蓮?」
届くはずのない虚空の彼方、しかし2人の結んだ絶対の因縁の歯車が、2年の刻を経て今度こそ本当に動き出したのを肌で感知しながら、若き女王の紅色の瞳は、夜空の向こうの宇宙の深淵をただ真っ直ぐに見つめ続けるのだった。
ご愛読ありがとうございます。アニ督です。ようやく1話の編集が終わりました。この後、2話の編集に移る予定です。後、話は変わりますが、来年、遂にシードフリーダムがまた映画に帰ってきます。自分もファンの一人として観にいくつもりです。そして、これらを観るためにも小説と仕事を両立して頑張っていくつもりなので応援よろしくお願いします。では、次回も楽しみに。