ガンダムSEED DESTINY OdinⅡ   作:アニ督

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お待たせ致しました。


第7話 新たな仲間

あの大戦乱のディオキア沖において、私設白兵特務艦アークエンジェル、自由の翼を広げたキラ、そして日本の女王であるシャルとのあまりにも切なく烈しい再会と決別のドラマから、静かに数日の刻が過ぎ。

 蓮は今、ウルブズが誇る最新鋭の超大型隠密潜水母艦『フェンリル』の漆黒の艦内に身を置き、再び不穏な気配の立ち込めるインド洋へと極秘裏に哨戒任務へと赴き、すべての走査を終えて地球本部基地への帰投途中であった。

 超伝導電磁推進による完全な無音航行が維持され、深い海の底の静寂が支配していたブリッジのなかに、突如として緊張の走る鋭い電子音が響き渡った。

 ピッ、ピピピピピピッ!!!

 メインコンソールの音響ソナーを見据えていた潜水母艦の通信兵が、深海に響く不気味な衝撃波―― 熾烈な戦闘音を鋭く拾う。

「隊長! 戦闘音を検知! 全周囲の広域波形から無線の音声信号が混入しています!」

 その非常事態は直ぐに指揮官である蓮に伝えられ、蓮がデスクの音声回線を開いて通信内容を聞くと、スピーカーの奥からは、孤立したモビルスーツ隊と大西洋連邦の地球軍による激しい戦闘の無線の様子が、激しい混信のノイズを伴って生々しく流れていた。

 ザーーザザザザァァァッ!!

『こちら、ザフト軍、我々は孤立し激しい攻撃を受けている。島には多数子供や女、老人や非戦闘員が多数いる。このままでは我々は殺されます。どうか、援軍を。誰か助けて。』

 プツゥゥゥン――。

 戦場に充満する不条理な殺意と、死の恐怖に震える悲痛な叫びを最後に、広域無線は完全に途切れる。

蓮は白と黒の制服を身に纏ったまま、ピクリともその鉄の表情を崩すことなく、即座にソナー席を鋭く見据えて直ぐに無線を拾った方向を聞いた。

「方角、および発信源の正確な距離を割り出せ。」

蓮の厳格な下達を受け、コンソールの走査波形を必死に逆探知した通信兵が、即座にその正確な座標を叫んだ。

『北西ここから11キロ先の島です。』

「地図を出せ。」

蓮がそう遮るように鋭く指示を出し、ブリッジの中央に立体ホログラムの光学戦術地図を展開させ、その現地の地形を深く凝視して確認する。

「通信が発せられている箇所はここです。」

オペレーターがコンソールを叩くと、立体地図のなかに浮かび上がる一つの孤島の座標へ、烈しい赤色のインジケーターの印をつける。

これを見た蓮は、椅子の背もたれからゆっくりと身を起こし、中立を掲げるウルブズとしての次なる電撃介入の計算を冷徹に行うため、物資の保有状況を厳しく聞いた。

「物資はどれくらい持つ。」

すぐに後方の補給班の兵士がコンソールの備蓄データを叩き、確固たる規律の声で報告を上げる。

「1ヶ月は持つように備蓄してあります。」

救出作戦を展開し、避難民を艦内に収容してなおも完全に作戦を持続できるだけの、十分すぎるほどの貯え。その確実なファクトが揃った瞬間、蓮の引き締まった瞳の奥に、不条理な殺戮を絶対に許さない冷徹な大義の火が灯った。

「なら、決まりだ。進路を北西に我々は救出へと動く。俺もオーディンで出る。」

蓮がそう力強く全軍への急襲救出指示を響かせた、まさにその刹那だった。ブリッジの通路の奥から、自らも支給されたパイロットスーツに身を包んだシェルが、凛としたトーンの強い決意の声を響かせた。

「私も行きます。」

かつての甘さを完全に捨て去り、世界の不条理を力任せにブチ抜くためのウルブズの戦士としてのシェルのブレなき覚悟の眼差し。蓮はそのシェルの紅色の瞳を真っ直ぐ見据え、短く、しかし確固たる声音で下達した。

「直ぐに出る。準備しろ。」

蓮はそう鋭く言い放つと、蓮達は次なる大戦火の嵐が待つ最前線へと向けて、凄絶な速度を以て格納庫に向かう。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッ!!!!!

蓮の指示と同時に、フェンリルの巨体はバラストタンクの空気を激しく排出しながら海の底から一気に浮上し、海面を烈しく割ってその黒い船体を洋上へと現すと同時、中央の重厚なモビルスーツハッチを左右へとダイナミックに開放する。

蓮とシェルはそれぞれの愛機の待つコックピットへと滑らかに乗り込むと、システムを最大出力へとブチ上げ、激しい推進火線の尾を爆発させて、孤立したザフト残存兵たちの待つ北西の島へと向けて鮮烈に出撃していくのであった。

 

隠密潜水母艦フェンリルから、凄絶な推進火線の尾を引き裂いて蓮とシェルが電撃的に出撃した、まさにその一方。

 世界の海図にその名すら載らぬ孤島では、この時、圧倒的な物量を誇る地球連合軍と、追い詰められたザフト軍残存兵たちによる激しい戦闘が、硝煙の嵐の中で延々と続いていた。

 地球軍は大西洋連邦の大型戦艦を中心とする大艦隊を以て島を完全に包囲し、容赦なき集中砲撃と猛烈な対地攻撃を冷酷に繰り返す。

 しかし、包囲網の底で対抗するザフト側は、もはや正規の軍隊と呼べるようなものでは到底なかった。既に残された防衛用モビルスーツは、本土との通信を絶たれたこの地で必死に指揮を執る隊長ブラッド・ガリソン、長して女性エースであるシンシア・ハミルトンの駆る旧式のザクが僅かに2機あるのみであり、残りはアジトの防衛に就く小銃を持ったザフトの戦闘員と、彼らに必死に協力して戦火を駆け巡るシグレ達現地レジスタンス数名だけであった。

 そんな絶望的な防衛線に対し、連邦側はウルブズの暴露放送による民衆の反発を力で圧殺するかのように、限りなく次々に最新鋭機ウィンダムをはじめとするモビルスーツ部隊を戦宙域へと送り込み、非情な攻撃を仕掛けてくる。

 ドガァァァァァンッ!!!

「きゃあぁぁぁッ!! メインカメラ大破……駆動油圧、低下ッ! ブラッド隊長、すいません……私、もう……っ!」

 凄絶な爆音と共に、激しい集中火線を浴びたシンシアのザクが遂に装甲を烈しく灼かれ、コックピットに火花を散らしながら戦闘不能の泥沼へと追い詰められる。

「シンシア――っ!! それ以上動くな、回路を遮断しろ!」

 駆動システムを喪失して崩れ落ちるシンシアの機体を守るため、隊長であるブラッドは自らのザクの熱核エンジンを爆発させてその前に躍り出た。

「この島には戦う力のない人間が大勢いるんだ……! お前たち連合の好きにはさせんッ!」

 ブラッドはそう怒号を響かせてマシンガンを狂ったように連射したが、圧倒的な数に物を言わせる地球軍を相手に、旧式機のフレームは悲鳴を上げ、ブラッドもまた一歩ずつ確実に追い詰められていく。

「往生際が悪いぞ、ザフトの生き残りめ! テロ組織の身内もろとも、まとめて海の藻屑になれッ!」

 その決定的な防衛線の綻びを突っつかさず、蓮達ウルブズをテロ組織と断定した地球軍の1機のウィンダムが、息の根を止めるべく烈しいプラズマの光刃――ビームサーベルを大気に閃かせ、上空から一気にブラッドのザクへ向かって肉薄した。

 誰もが、その旧式機の爆砕と、島に隠れる非戦闘員たちの死の未来を直感した、まさにその瞬間であった。

 ピカァァァァァン――ッ!!!!!

 突如として、遙か洋上の空の彼方から空間の物理法則を強引に灼き焦がすかのような極高収束の鮮烈なビームが飛来し、肉薄していたウィンダムの胴体を完璧に撃ち抜いて爆砕した。

 ドゴォォォォォンッ!!!!!

 予期せぬ超長距離からの狙撃介入に戦場全体が大きな驚愕に凍りつくなか、激しい硝煙を引き裂いて雲の隙間から現れたのは、猛烈な推進風を軋ませて飛行形態から滑らかに変形し、その無骨な四肢を解放してモビルスーツへと姿を変える、かつて大戦を共に生き抜いた伝説の白いモビルスーツ――オーディンマークIIの紛れもない気高き威容であった。

 

 大気を激しく灼き焦がす極高収束の熱線が、肉薄していた連邦のウィンダムを一瞬にして爆砕し、戦場全体へ凄絶な衝撃波を撒き散らした。

 ドゴォォォォォンッ!!!!!

 大音響の残響が激しく響き渡るなか、旧式のザクのコックピットの中で死を覚悟していた隊長のブラッドは、目の前に舞い降りた白き巨体の熱源反応を全周囲モニターに捉え、驚愕の声を漏らした。

「あれは・・・・ウルブズ。」

 それは、地球軍の理不尽な対地爆撃に怯え、島の薄暗い洞窟の奥へと身を隠していた大勢の無力な島民や、武器を握り締めていたシグレ達現地レジスタンス、そしてアジトの通信席で必死に戦況を精査していたラーラ達ザフト軍残存兵の全員も、一斉に網膜のスクリーンや爆煙の隙間から、その気高き白き主役機の姿を目にするのだった。

 しかし、不意に現れたウルブズの電撃的な介入に対し、洋上に展開する地球軍の艦隊旗艦のブリッジでは、面目を完全に潰された指揮官が烈火の如く激昂し、全軍へ向けて冷酷な撃破命令を叫んだ。

「何をしている! 奴らは大西洋連邦を愚弄した国際テロ組織だ! 総員、撃ち落とせ!」

 その非情な一号令を契機に、包囲艦隊の無数の対空火砲、そして狂ったように牙を剥いて殺到するウィンダムのモビルスーツ部隊の一斉射撃が、一斉にオーディンマークIIへと向けられる。

 凄絶な包囲火線が迫る絶体絶命の宙域のなか、蓮はコックピットの暗号通信を開き、後方から合流してきたシェルの赤い試作機パンドラに向けて、一切の私情を排した隊長としての規律の聲音を低く響かせた。

「シェル、お前は島にいるザフトを守れ。後は俺がやる。」

「了解です、蓮様! 民間人には指一本触れさせません!」

 シェルのその迷いを完全に振り切った新兵の鋭い応答の声が同期された瞬間、蓮はオーディンマークII的熱核エンジンを最大出力へと爆発させ、無数のビームの火線を高速のステップで滑らかに掻い潜り、ビームを撃ちつつ、敵に向かっていく。

「なんだこの動きは……!? 速すぎる、照準が追いつかないっ!」

「うわあぁぁぁっ! 関節をやられた……動けないっ!」

 次々に現れる大西洋連邦の最新鋭モビルスーツに対し、蓮はこれまでの激戦を潜り抜けてきた熟練パイロットの圧倒的な腕前で、オーディンマークIIの近接武器であるビームランスや高出力ライフルを正確無比に閃かせ、敵のコックピットを外した駆動関節のみを一撃で次々と撃墜していく。

 大空に無数の爆炎の尾が咲き乱れるなか、蓮の白き牙の勢いは微塵も衰えることなく、遂には洋上を埋め尽くす包囲艦隊にまで凄絶な速度を以て迫り、次々と放たれる主砲の射線を掻い潜りながら、地球軍の強固なイージス艦をも一瞬の狙撃を以て轟沈させ、次々と沈め始める。

 凄絶な水柱と炎の嵐が海原を支配するなか、蓮は最後は、激しい応射を続ける地球軍の残った艦隊旗艦である大型空母の上へと重々しく乗り上げ、その巨大なブリッジのガラス窓の目の前にオーディンマークIIの大型ビームランスの光刃を突きつけた。

「ひっ……! ば、化け物め……っ!」

 極限の恐怖と威圧感が空母のブリッジを完全に支配するなか、蓮は全周波数の通信回線を開き、一切の私情を排した組織の最高責任者としての冷徹な最後通牒の聲音を氷のように響かせた。

「今すぐに軍を引け。そうすれば、命だけは助けてやる。」

 それは、理想論の甘さなどではない、圧倒的な武力を以て戦場を完全に支配した強者だからこそ口にできる、絶対の警告であった。

 巨大なモビルスーツの牙を眼前に突きつけられた地球軍の指揮官は、圧倒的な実力差に悔しげに顔を歪めて歯を食いしゃぶり、

「くっ……! おのれテロ組織め……! 全艦、撤退だ! 負傷者を連れて直ちに軍を引け!」

 と叫び、これ以上の戦闘継続は全滅を意味すると瞬時に悟り、負傷者を連れて、這う這うの体で島から軍を引いて撤退していくのであった。

 ザザァァァァァッ!!!!!

 地球軍の艦隊が命辛々撤退していくのと全く同時に、島の海岸線の海面が烈しく割れ、隠密潜水母艦フェンリルから発進していたウルブズ所属のモビルスーツ――デクーが、強固な主脚で波飛沫を蹴り上げて島に到着するのであった。

 

電撃的な介入によって地球連合軍の大艦隊を這う這うの体で撤退に追い込んだ後、地中海の生温かい海風が吹き抜ける島の海岸線へ、蓮のオーディンマークIIはゆっくりと厳かに降り立った。

 金属音を立ててコックピットのハッチが開き、白と黒の引き締まった制服に身を包んだ蓮が床へと降り立つと、そこには激戦を潜り抜けてボロボロとなったザフト兵5名とシグレ達現地レジスタンス5名、さらにその後ろには怯えたように身を寄せ合う子供や年寄り、女性など住民30人ほどの姿が出迎える。

 硝煙の立ち込める静寂の中、ザフトの泥のついた軍服を纏った先頭に立つ大柄な男が重々しく前に出てきて、直立の姿勢を執った。

「救援に感謝する。俺はザフト所属のブラットだ。後ろにいる女は副官のシンシアだ。残りは部下のアキ、マコト、ラーラだ。後はこの島のレジスタンスだ。」

 その実直な名乗りの言葉を耳にした蓮は、一切の感情を排した冷徹な視線を向けた。

「ウルブズリーダーの蓮・ミタミだ。率直に聞きたい。なぜ、ここにザフトが。」

 蓮がそう端的に問うと、ブラッドは自らの背後に佇む大破したザクの残骸を見上げ、悔しげに言葉を吐き出した。

「俺達は開戦の降下作戦で攻撃を受け、降下ポッドをやられてここに降りる羽目になったんだ。最初は何もなく救出を待つだけだったんだが、ある時連邦の偵察に見つかって以降は連邦のモビルスーツが攻撃に来るようになってな。迎撃しているうちに敵も本気になって、4日前から艦隊が来て攻撃を受けてたんだ。元々いたモビルスーツ5機も今は損傷した2機だけで危ないところだった。おかげで住民も救われた。」

「偶然無線を拾っただけだ。」

 蓮はブラッドの感謝の言葉を淡々と遮ると、さらに険しさを増していく世界大戦の国際情勢の現実を冷酷に突きつけた。

「それよりこれからどうするんだ。撤退したとは言え、連合は再び来るぞ。」

「島を離れるしかないだろう。」

 ブラッドが重々しく首を振ると、蓮は腕を組んだまま真っ直ぐに問いを重ねた。

「行くあてはあるのか。」

「俺達にはあるが、島民やレジスタンスのコイツらにはないな。巻き込んでしまった以上、放っておくわけにはいかないからな。」

 自分たち正規のザフト兵は本土の基地を目指せばいいが、地球軍の圧政に抗って共闘してくれた現地の民衆には、大西洋連邦の報復から逃れる術など万に一つもない。そのブラッドの悲痛な独白が重々しく響いていた、まさにその時だった。

 背後に着艦していたパンドラから降りていたシェルが、一歩前に進み出ると、インカムではなく自らの生の声の強い決意のトーンを蓮に向けて真っ直ぐにぶつけた。

「蓮様、彼らをウルブズで受け入れるのはどうでしょうか。」

 シェルのその予想外の提案を聞いた蓮は、僅かに眉をひそめ、組織の最高責任者としての厳格な規律の聲音を静かに浴びせかけた。

「出来ないわけではない。だが、彼らを更に戦闘に巻き込むことになる。」

 中立の大義の元、世界の二大陣営を相手に電撃介入を続けるウルブズに加わるということは、今以上の地獄の最前線へ身を投じることを意味する。しかし、シェルはその蓮の冷徹な指摘を正面から見つめ返し、凛と言い放った。

「少なくともここに置いていくよりはマシです。」

 故郷オーブの過ちを目の当たりにし、理想だけでは救えない現実を知ったからこそ出た、新兵の魂の言葉。蓮はそのシェルの紅色の瞳をじっと静かに見つめ直すと、小さく吐息を漏らして視線をブラッドたちへと戻した。

「分かったよ。――もしアンタらが良ければ、ウチに来ないか。」

 蓮がそう白と黒の制服の襟を静かに整えながら提案すると、ブラッドは我が耳を疑ったように大きく目を見開いた。

「俺達がウルブズにか。」

「ウチなら本部で島民の住居を用意できるが。」

 蓮のその圧倒的な受け入れの度量に、ブラッドは信じがたい面持ちで言葉を震わせた。

「・・・・・ザフトの俺達も受け入れるのか。」

「ウチは元ザフト兵も多数いる。もちろん、地球軍もいるが。」

 蓮がそう微塵もブレることのない絶対の中立のファクトを告げると、ブラッドは自らの不甲斐ない祖国への未練を完全に振り切るように、不敵に笑って力強く右手を差し出した。

「どうせ、見捨てられてた身だ。ここはアンタの元で世話になるよ。よろしくな大将。」

 その男の確固たる大義の誓いを受け、蓮の引き締まった瞳の奥にも、静かな、しかし確固たる信頼の光が宿った。

「あぁ、頼りにさせてもらう。」

 蓮がその無骨な手のひらをガシッと掴み返し、2人は硝煙の吹き抜ける海岸線の只中で、これからの激動の世界を共に戦い抜くための堅い握手を熱く握り合うのであった。

 

 名もなき孤島での突然の救出作戦から数日、蓮の駆る超大型隠密潜水母艦『フェンリル』は、大西洋連邦のあらゆる索敵網を無音で掻い潜り、ウルブズ地球本部を目の前にしていた。

 しかし、鉄の規律で満たされていたはずの潜水艦内は今、緊迫した航行スケジュールとは裏腹に、救出した島民の子供たちの無邪気な声で溢れかえっていた。

「こら! 通路で走っちゃダメだって言ってるでしょ!」

「静かにしなさい! まだ地球軍に探知されるかもしれないんだから!」

 シェルや、シグレをはじめとする現地のレジスタンスの少女5人が必死に顔を強張らせて叱るものの、子供たちの様子が変わることはなく、狭い艦内を元気に駆け回る。

「わーい! このお船、すっごく大きいね!」

「ねえねえ、ご飯まだー?」

 無邪気にはしゃぎ立てる子供たちの声が響くたび、救出された島民やレジスタンス、ザフトの残存兵たちは、いつ地球軍に探知されないかと終始怯えながら、基地への帰路の張り詰めた日々を送っていたのだった。

 そして、幾夜かの無音航行の末、フェンリルは遂に本部の島へと辿り着く。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォッ!!!!!

 真っ暗な海の底、海中内に隠されていた潜水艦用の巨大なゲートが静かに開き、潜水艦はその狭い岩壁の間を通り、本部の潜水艦ドックに辿り着く。

 プシューーー――。

 重厚な気密ハッチが開放され、本部に着くと蓮は白と黒の制服の襟を静かに整えながら、真っ先に潜水艦から降りて、待ち構えていた本部の管理幹部たちへ向けて、一切の私情を排した声音のまま速やかに指示を出した。

「救出した島民達の住居を最優先で手配しろ。それから、ブラッド達ザフトや、シグレ達レジスタンスの者には、それぞれの能力に応じた仕事を与えるように。今日から不自由はさせるな。」

「了解いたしました、隊長。直ちに手配いたします。」

 蓮がそう冷徹に、しかし確固たる救済の指示を響かせると、部下たちは規律正しく一礼を捧げて島民たちの誘導へと一斉に動き出す。

 蓮は、そのブラッドやシグレたちが安堵の表情で本部の巨大なドックを見上げている様子を静かに視線の端に捉えながらも、それ以上の言葉を交わすことなく、

「後は任せるぞ、シェル。」

「はい、蓮様!」

 と短く言葉を交わすと、蓮はそのまま空間を切り裂くような静かな足音だけを響かせ、独り、次なる大戦乱の情勢を見据えるために自らの執務室に戻るのであった。

 

地中海の隠された地球本部基地へと無事に帰還した蓮は、自らの執務室でメインコンソールに向かい、網膜のスクリーンに映し出される新たに得た世界の最新情勢の情報に冷徹な視線を走らせていた。

「アークエンジェルもミネルバ、派遣されたオーブ軍にも大きな動きはなしか。」

 蓮がその走査波形のログを低く読み上げると、デスクの上に両手を預け、窓の外の漆黒の海を見つめながら静かに独りごちた。

「やはりしばらくは様子見だな。」

 大西洋連邦のロゴス、日本のシャル、ザフトのデュランダル議長。それぞれの陣営の次なる一手を見極めた蓮は、椅子の背もたれからゆっくりと身を起こし、白と黒の制服の襟元を静かに整えると、愛機の待つ格納庫に向かう。

 独特の熱気と油の匂いが立ち込める広大な地下ドックへと辿り着くと、そこには薄暗いナトリウム灯の光に照らされ、おやっさんが極秘裏に最終調整を終えたばかりの、見たこともない凄絶な威容を誇る新たな2機のモビルスーツの強固な鉄の巨体を見つける。

 蓮は聳え立つ新型機の足元へと歩み寄り、

「おやっさん。それが例の新型のモビルスーツか。」

 と声をかけると、首からタオルを下げてコンソールを叩いていた総整備主任のボリス・ジェスターが、咥え煙草の煙を無造作に吹き出しながら不敵に笑った。

「あぁ、重装甲モビルスーツ、ハカイオーと汎用型モビルスーツ、アキレスディードだ。」

 蓮がその2機の獰猛な牙の構造を見つめていると、格納庫の堅牢な通路の奥から、空間を切り裂くような重々しい足音が響いてきた。

「へぇ、ウルブズが独自のモビルスーツを持っているのは本当のようだな。」

 とそこへ、大柄な体躯を揺らしながらザフトの泥のついた軍服を纏ったブラットがやってくる。

 蓮はブラッドのその引き締まった面持ちに冷徹な視線を向けた。

「島民の方はどうだ。」

 蓮が端的に問うと、ブラッドは不敵に笑って首を振った。

「満足してるよ。食事に寝床、おまけに医療設備とすごいなこの基地は。」

「それならよかった。それで仕事は決まったのか。」

「あぁ、俺やシンシア、アキにマコトやラーラにレジスタンスの5人は、モビルスーツのパイロットに配属だ。」

 ブラッドがその無骨な右拳を握り締め、アキやマコトたち女性兵士、そしてシグレたちレジスタンス5名の計10名全員がパイロットとして編入された事実を実直なセリフで伝えてくる。

 蓮はそのブラッドの2メートルを超える頑強な体躯、および眼前に聳え立つハカイオーの強固な重装甲を交互に見据えると、ボリスに向かって、一切の私情を排した隊長としての規律の聲音を静かに響かせた。

「そうか。おやっさん。ハカイオーのパイロットをブラットに任命しておいてくれ。」

 蓮がそう冷徹に告げた瞬間、ブラッドは流石に驚愕したように、その顔を激しく強張らせて叫んだ。

「おい!! いいのかよ。こんな最新鋭機を俺に与えても。」

 突然現れたウルブズの長が、降ってきたばかりの自分へ最高クラスの牙を託した。そのブラッドの困惑を、蓮は微塵もブレぬ鉄の表情のまま見据えた。

「俺はアンタのあの島での実力を見た上で決めたつもりだ。疑問に思うなら、それはその機体の成果で俺に示せ。後、副官のシンシアはアキレスディードを任せる。おやっさん、手続きは頼む。」

 蓮はそう一方的に冷徹な指示を言い残すと、白と黒の制服のまま、次の第2格納庫へと向かう。

 タラップの上に取り残されたブラッド Wheat と、それを地上から見上げるボリスは、遠ざかっていく蓮の背中を見つめ、

「やったな、新入り。蓮の信頼を勝ち取るなんて簡単ではないぞ。」

 とボリスが煙草を揺らしながら言うと、ブラッドもまた自らの新たなる最強の牙をその瞳の奥に据えて、不敵に笑みを浮かべるのであった。

 ――そして、その蓮は第2格納庫に行くと、蓮はハカイオーとアキレスディードとは別で、新たに基地に配備されたクノイチ5機を目にする。

 漆黒の隠密装甲を纏い、不気味な暗がりのなかに直立する5機の特殊強襲機。元々、シェルのパンドラの配備前より完成はしていたが、数を揃えるために時間を要してしまい、今になって地球のこの本部に送られてきたのだ。

 蓮がその5機のクノイチの機体データを精査していると、背後から静かな足音と共にシェルがやってきて、その圧倒的な光景に感嘆の声を漏らした。

「凄いですね。こんなにもたくさんのモビルスーツを。」

 蓮はシェルのその言葉を聞き、振り返りながら、その瞳を真っ直ぐに見据えて重々しく口を開いた。

「シェル、今後この戦争は更に激化すると思う。ウチも既にモビルスーツの配備を急いでいるが、それでも数は少ない。だから、優秀なパイロットを近いうちに数名、昇進させようと思う。そこでだ。お前を小隊長に昇進させようと思う。部下は現状、あのレジスタンスの5人をクノイチのパイロットに任命してお前の下に置こうと思ってる。」

 蓮から突きつけられた、あまりにも突然の、実戦経験すらまだ浅い自分への小隊長への昇進の内示。

 シェルは驚愕のあまり、自らの紅色の瞳を大きく見開き、動揺の声を漏らした。

「私はまだ、この組織に入ったばかりです。蓮様について行くのに精一杯で……」

 自分が一隊を率いる小隊長など到底無理だと言わんばかりに俯くシェル。しかし、蓮は確固たる大義の聲音を静かに響かせた。

「お前の動きを見ていて思った。お前の技術はシャルと同等だ。それに今すぐではない。だが、頭の隅にこの事を覚えておいてくれ。」

 蓮はそう冷徹に、しかし彼女たちの未来をシェルに託すような不器用な優しさのセリフを残すと、白と黒の制服のまま、空間を切り裂くような静かな足音を残してそのまま格納庫を去って行くのであった。

 

名もなき孤島での突然の救出作戦から数日の刻が再び経過し。

 ブラット達ザフトの残存兵、そしてシグレ達現地のレジスタンスが正式に『ウルブズ』の身内として加わり、それぞれハカイオーやアキレスディード、クノイチといった新たなる最強の牙の受領、およびパイロット配属を終えて、基地内が来たるべき大戦乱への防備へ向けて慌ただしさを増していくなか。

 世界の情勢がさらなる泥沼の激流へと加速していく暗がりのなか、この日は、地球本部の地下に設けられた重々しい最高作戦会議室へと、組織の全容を担う重要人物たちが一堂に集まっていた。

 白と黒の制服の襟元を静かに整えて席に着いた最高指揮官の蓮、その傍らで引き締まった面持ちで佇むシェル。そして、ウルブズへ編入されて間もないながらも、その確固たる実力と覚悟を蓮に認められて会議への出席を許されたブラットやシンシア。さらに、ずらりと並んだ地球本部の幹部たちに加え、目の前のメインコンソールに展開された巨大な立体ホログラムスクリーンには、宇宙本部の強襲巡洋戦艦コンゴウの艦長席から直立して宇宙の留守を預かるナタルをはじめとする、宇宙本部の面々とも最高暗号回線のリモートで会議に参加していた。

 地球と宇宙の全戦力を繋ぐ、ウルブズの威容を象徴する最高首脳会議。誰もが静かに息を呑み、張り詰めた沈黙が作戦室を支配するなか、コンソールを叩いていた情報班の幹部が静かに片手を挙げ、最新の情勢ログを以て厳かに会議の口火を切った。

「まず、派遣されたオーブ軍に新たな動きがありました。オーブ軍は現在、このクレタ島の付近の海域でミネルバを待ち伏せているようです。対する、ミネルバもそのままクレタ海域に向かっており、戦いは避けられないかと。」

 大西洋連邦のロゴスの欺瞞に呑まれ、一線を超えてしまったかつての故郷オーブの軍勢が、激動の地上圏で放った次なる戦火の矛先。幹部がそう緊迫した声音で報告を読み上げ、戦術地図のクレタ島沖へと烈しい赤色のインジケーターを割り込ませると、蓮は腕を組んだまま、氷のように鋭い瞳で盤面を睨み据えて問いかけた。

「アークエンジェルの動きはどうだ?」

 蓮のその冷徹な問いかけに、情報幹部は重々しく視線を落とし、キーボードを叩く手を止めて言葉を返した。

「アークエンジェルは現在は足取りが掴めず、位置や行動進路や予測は不可能です。」

 世界の監視の目を網羅するウルブズの索敵網すら掻い潜る、かつての伝説の白き最高戦艦。その報告の言葉を耳にした蓮は、小さく目を伏せると、確固たる声音のセリフを会議室全体へと重々しく響かせた。

「そうか。おそらく、いや必ずアークエンジェル、そしてフリーダムはクレタに現れる。そうなれば、我々は彼らを撃つしかない。これ以上、彼らが介入すればまた無駄な犠牲が生まれる。」

 かつて世界を滅亡から救うために命を懸け、今なお自らの理想の正義のために介入を続けようとする、キラやカガリ、あるいはシャル。その彼らをこれ以上の大戦火から遠ざけるため、蓮は敢えて自らの手で撃ち落とすという非情な決別を口にする。蓮のその凄絶なセリフを聞いた地球本部の武闘派の幹部が、即座に身を乗り出して進言した。

「では、地球の我々で総攻撃を。」

 血気盛んな幹部のその言葉を、蓮は一切の私情を排した声音のまま、冷徹にそれを制した。

「いや、フリーダムもアークエンジェルもあのヤキン・ドゥーエを生き抜いた強者の集まりだ。そう簡単に倒せはしない。ここは俺と・・・シェルで対応する。」

「分かりました。」

 蓮が放った単機での迎撃という重々しい覚悟を全員が沈黙を以て受け止め、その言葉を最後に会議は解散となる。

 ――そして、会議での決定から翌日。

 地中海の地下ドックの射出カタパルトの只中、蓮は白と黒の制服から黒いパイロットスーツへと身を包み、オーディンマークⅡの狭いコックピットのシートへ深く身体を沈めながら、暗闇の奥を見据えて出撃を待っていると、メインコンソールの奥からオペレーターからの緊迫したアラートが入る。

『クレタ沖でミネルバとオーブ軍が交戦を開始、また偵察に出ていたハンター(モビルスーツ)から通信、海中から浮上するアークエンジェルを捕捉。』

 ついに切って落とされた、地球圏の歴史を血で汚す最悪の大決戦の火蓋。その前線連絡を聞いた蓮は、静かにヘルメットを被り、バイザーを下ろした。

「行くぞ、シェル。」

「はい、蓮様!」

 シェルのパンドラと共に出撃していくのであった。

 

続く




ご愛読いただきありがとございます。次回はもお楽しまに。
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