かつて世界を滅亡から救い上げた強者たちがそれぞれの歪んだ正義を抱えて乱入し、再び最悪の火蓋が切って落とされたクレタ島沖の激戦。
ザフト軍の新鋭艦ミネルバと、ロゴスの欺瞞に呑まれた大西洋連邦・オーブ軍の艦隊、そして戦火を強引に止めるべく介入したアークエンジェルとフリーダムの戦いは、泥沼の混乱を極めつつも、やがて凄絶な決着は着く。
激しい戦闘の末、防衛線を乱されたミネルバもまた艦体に多数の深刻な損害を負うことになった。
しかし、牙を剥いたシン・アスカのインパルスガンダムによる驚異的な活躍により、派遣されていたオーブ軍の艦隊は、トダカ一佐の乗るフラッグシップの大型空母タケミカヅチをはじめとして完全に壊滅させられ、連邦の犬へと成り下がった多くの軍艦と、量産型モビルスーツであるムラサメを多数失うという、凄絶な大敗北を喫することになる。
海を埋め尽くす凄絶な黒煙が立ち込めるなか、蓮とシェルの2機が全速の巡航スラスターを響かせて現場に着くと、そこには既に命を懸けて殺し合っていた者たちの戦いは終わり、残るは海に浮かぶ無残な軍艦の残骸と、力なく漂うモビルスーツの鉄屑のみであった。
コックピットの全周囲モニターに映し出された、あまりにも理不尽で凄惨な戦火の爪痕。
蓮は操縦桿を握り締めたまま、網膜のスクリーンを睨み据えてぽつりと声を漏らした。
「遅かったか。」
蓮がそう冷徹に言いつつ、生存者や敵の待ち伏せが残っていないか周囲を警戒して確認していると、オーディンマークIIの最高暗号回線のコンソールへ、不意に一本の通信が届く。
ピッ、ピピピピピッ!!!
その内容は、あらかじめ洋上へと放たれ、アークエンジェルを捕捉していたウルブズ所属の隠密随伴モビルスーツ・ハンターが、激戦の末に戦域を離脱したアークエンジェルの巨体を隠密裏に追跡して再び捕捉し、その最新の現在潜伏座標をこちらへと一斉に送ったものであった。
スピーカーの奥からハンターの電子シグナルが明滅する。
「隊長、ターゲットの現在位置を特定。データを同期します。」
その確実な報告を確認した蓮は、即座にベクターノズルを極限までブチ上げ、インカムの奥のシェルに向けて真っ直ぐに下達した。
「シェル、アークエンジェルを見つけた。行くぞ。」
「はい、蓮様! 追従します!」
シェルのその迷いを完全に振り切った新兵の鋭い応答の声が同期された瞬間、飛行形態へと滑らかに変形を完了させたオーディンマークII、およびその背部に固定されたパンドラの2機は、凄絶な推進火線の尾を爆発させ、沈みゆく夕陽の暗がりのなか、今度こそ大義の決着を突きつけるためにアークエンジェルの潜む空へと向かって、猛烈な超高速の飛行機動でそのままアークエンジェルの元へと向かうのであった。
オーブ軍の無残な壊滅という凄絶な大敗北を前に、泥沼のクレタ沖での戦いを止めることはできず、悲痛な硝煙を引いて戦域を離れていくアークエンジェル。
そして、傷ついた母艦に続くようにして洋上を飛行するキラのフリーダムと、シャルの専用ムラサメ。本来なら消耗したアークエンジェルに格納されることが普通である状況だが、かつての戦友であるウルブズの介入を予期してか、2機は周囲の警戒を極限まで厳とし、死角のない護衛を続けていた。
ピピピピピピピピピッ!!!
黄昏の静寂を強引に切り裂き、2機のコックピットに不気味な敵機接近の警告音が鳴り響く。
「――っ、来る!」
「この熱源反応は……蓮っ!」
瞬時にキラとシャルはそれぞれの操縦桿を力強く握り締めて武器を構えると、真っ赤に灼けた前方の空から、夕陽の残光を背にして見覚えのある白と紅の巨体が2機、音もなく現れた。
先頭を往く1機――飛行形態のオーディンマークIIは凄絶な機流を引いて大気を軋ませると、目の前で滑らかに変形し、その無骨な四肢を解放したモビルスーツモードへと変形を完了させる。2機は絶妙な一定の距離を保ち、マークスマン・アグニの銃口をアークエンジェルへと真っ直ぐに向けてライフルを構えた。
それは紛れもなく、かつて大戦を共に戦い抜いた蓮のオーディンマークII、そしてその背部に追随するシェルのモビルスーツ・パンドラであった。
戦宙域の全無線回線が強制的に同期され、スピーカーの奥から、一切の私情を排した蓮の冷徹な無線が真っ直ぐに響いてきた。
『やはり、警告を聞かなかったようだな。そして、貴様達はそれが何を意味するのかも理解していてのことだな。』
カガリの甘い演説がさらなる全滅を生んだクレタの現実。蓮は冷酷にその大義を突きつけると、操縦桿を力強く握り込み、氷のような聲音を浴びせかけた。
『警告通り、今ここでキラ・ヤマト及び、アークエンジェルを撃墜する・・・・・が、もし貴様達が本気でこの戦いを終えたいと言うなら、その本気を俺に示せ。もし、それに値しないと思えば、容赦なく沈める。だが、もし俺を倒し、勝つ事ができたら見逃してやる。』
それは、ただの理不尽な殺戮などではない。理想だけを掲げて戦場へ割り込む彼らの「本気の覚悟」を試し、それを超えてみせろという、蓮としての厳格な、しかし絶対の不器用な優しさであった。
その通信の奥にある重々しい覚悟を正面から受け止めたキラは、悲しげに、しかし確固たる信頼の光を瞳に宿し、操縦桿を真っ直ぐに押し進めて答えた。
「分かった。蓮少尉に譲れないものがあると言うなら、僕もカガリも、シャルもみんな同じだ。だから、僕も力を持つものとしてそれに答えよう。」
かつて地球軍の戦場を共に泥泥になって戦い抜いた、あの「蓮少尉」というかつての名。一人の力を持つ戦士として、その重い試練を真っ向からブチ抜くという、キラの魂のセリフであった。その言葉を聞いた蓮は、僅かに目を伏せると、低く聲音を響かせた。
「・・・・そうか。なら、始めよう。」
蓮がそう冷徹に応答すると、互いに開かれた通信回線の奥から、凄絶な数秒の沈黙がただ静かに続き、戦場の時間が完全に凍りついた。
バサバサバサバサッ!!!!!
その殺気に耐えかねたかのように、近くの島で木々に止まっていた鳥達が一斉に羽ばたいて空へと飛び立った、まさにその刹那であった。
ドゴォォォォォォンッ!!!!!
オーディンマークIIとフリーダム、蓮とキラは凄絶な大推力の推進火線を完全に同時に爆発させ、互いの譲れない未来を賭けて、激動の洋上の空へと真っ直ぐに激しく動き出すのであった。
かつて大戦の火の海のなかで背中を預け合い、共に戦った蓮とキラ。しかし、今は進むべき思いも、掲げる大義の志も違う二人の伝説の牙が、真っ赤に灼けたクレタの空で真っ向から烈しくぶつかり合う。
自由の翼を広げたフリーダムと、独立の中立を掲げるオーディンマークIIの2機は、互いに大気を烈しく軋ませながら、常人では視認することすら不可能な異次元の超高速機動を何度も繰り返していた。
キラはオーディンマークIIのコックピットを狙わず、腕や足、頭を狙うが、蓮もその動きには気づいておりすぐに攻撃を交わし、近接戦に持ち込む。キラもその攻撃に対応し、迎え撃つが蓮もキラもエースパイロットであるために決着はつかない。
キィィィィン――ッ!!!!!
激しい金属音の残響が響き渡る混戦の只中、突如としてオーディンマークIIの背後から極高収束のビーム攻撃が不意に飛んでくる。蓮が直ちにメインモニターの索敵マップを背後へと向けると、そこには、カガリの言葉を無視した現実に烈しい怒りを滾らせたシャルの専用ムラサメが、
「蓮ーーッ!!」
と怒号の叫びを無線に叩きつけながら、凄絶な推力でこちらへと迫ってくる。
しかし、そのシャルの急襲の射線へ、後方から追従していたシェルの紅蓮の試作機パンドラが強引に割って入った。
「お姉様の相手は私です。」
シェルがコックピットの中で両手の操縦桿を力強く握り締め、ホープエッジの鋭いプラズマの刃を閃かせると、迫っていたムラサメのビームライフルを一撃で鮮烈に切断し、完全に破壊する。
ドガァァァンッ!!!
「――っ、ビームライフルが……っ!? この赤いモビルスーツ……シェル、お前なのかっ光!?」
手持ちの武装を失い、大きく体勢を崩したシャルは、メインモニターに映し出されたその紅き新型機の姿、およびインカムの奥から響いた最愛の妹の声をその瞳に捉え、引き裂かれそうな声を響かせた。
「敵だと言うならたとえ、妹でも討つ。」
シャルは日本の女王としての悲痛な規律の聲音を響かせると、即座にビームサーベルを大空に持ち、激しい火花を散らしてここに哀しき姉妹による戦いも始まる。
一方、上空の最高高度では、キラと蓮もまた互いに超高速の機動で近づいては烈しく切り掛け合い、変形ステップで交わし撃つ。これを繰り返し続けていた。
火花が四方に飛び散るなか、キラは悲しげに、しかし張り裂けそうな魂の叫びを全無線回線へと激しくぶつけた。
「どうして。どうして、貴方と戦わなければならない。ずっと貴方は味方だった筈だ。僕やアスランにとっても・・・カガリにみんな、そしてシャルの唯一味方だった貴方がなぜ!!」
キラはそう怒号を響かせながら、自由の翼を広げて全力のビームサーベルで蓮のコックピットへ向かって斬りかかる。しかし、オーディンマークIIは手にした新型シールド『リタリエイター』で防ぐ。
ガギィィィィィン――ッ!!!!!
激しいプラズマのエネルギーが互いの装甲を烈しく灼くなか、蓮は冷徹にコックピットのコンソールを叩き、
「確かに俺達は味方だった。前はお前達の理念も通じたかもしれない。だが、・・・・・。」
蓮はフリーダムを押し返すと、一切の私情を排した組織の最高責任者としての冷徹な真実のセリフを浴びせかけた。
「世界は変わった。誰もが願った平和な世界。しかし、それはあの時の理念だけや思いだけでは叶わない。戦わせたくない、死なせたくない。誰もがそう思い戦っている。でも、それでも人は戦い死んでいく。未だに情勢を見ず、無闇に戦いに介入し、戦えば無駄な犠牲を生むだけだ。それはお前も前の戦いで知った筈だ。だから、俺は世界を監視し、情勢を見て介入する組織を作った。戦いは無くならない。これがこの世界の原理だ。」
蓮はそう言い捨てると同時、オーディンマークIIのライフルを撃つ。しかし、キラは驚異的な反射神経の機動でその火線を滑らかに交わすと、
「それは違う。」
キラはその蓮の非情な現実の言葉を拒絶するように叫ぶと、そのまま激しく刀身を交錯させながら、二人はお互いの譲れない意思をぶつけ合うようにして戦い続ける。
一方、その遙か眼下、シャルとシェルは近くの島に降り立ち、地上で戦いを続けていた。
「何故だ。何故、お前がウルブズに。あの偽物に。」
シャルがムラサメの操縦桿を激しく震わせ、生いていながら自分の元へ戻ろうとしなかったあの白き主役機の存在への愛憎を涙ながらにぶつけると、シェルのパンドラのスピーカーからも、姉の目を覚まさせようとする必死の声が響いた。
「偽物。何を言って。あれは蓮様本人よ。お姉様が愛したあの。」
「違う!! あれは偽物だ。私の知る蓮はあんなやつではない。」
自分を置き去りにして世界の裏舞台へと消え去り、冷酷な最後通牒を突きつけてくる今の蓮の佇まい。シャルが激しい拒絶の叫びをぶつけると、シェルは切なげに自らの紅色の瞳をそっと伏せ、無二の優しさのセリフを返した。
「・・・・・確かにお姉様から見たら蓮様は変わってしまったかもしれません。でも、それは違います。蓮様は何も変わってない。不器用ながら人のことを思い、叶うことなら平和な世界で貴方と共に居たかったあの時の蓮様と同じです。」
「・・・・。なら、どうして戻ってきてくれなかったのだ。」
2年間、愛する男を失った深い絶望の地獄を生き抜いてきたシャルが、その胸の奥にある一人の少女としてのあまりにも切ない本音の声音を絞り出した、まさにその絶対の瞬間であった。
ピピピピピピピピピッ!!!
突如として、パンドラとムラサメの2機のコックピットの全周囲モニターに、烈しい緊急警告音が鳴り響く。
それはザフトのモビルスーツ、バビ、4機がシャルとシェルに迫っていた。
『こちらバビ1番機、前方の孤島海岸線に敵影を発見! あれはオーブ軍のムラサメ、それともう1機、未知の赤いモビルスーツだ!』
『フン、アークエンジェルを逃がすための殿か。全機、急降下で捕捉しろ! ここでまとめて叩き落とす!』
そして、バビはシャルのムラサメを捕捉するとビームライフルを放つ。シャルは必死に防ぐが4機による攻撃で追い詰められ始める。
すると、盾となるようにシェルのパンドラが前に出て、攻撃を防ぐ。
これを見たザフトのパイロットは、
「何だ、あの赤い新型機は……っ!? ウルブズの機体か! 何故オーブの機体を庇う! 邪魔だ、まとめて蜂の巣にしてやれッ!」
と戸惑うも攻撃を続ける。
2機が完全に包囲網の底へと追い込まれ、撃破されそうになった瞬間、突如としてビームがいくつも放たれ、
「な、何だ、上空から狙撃……っ!? うわあぁぁぁっ!」
「な、何が起きたんだ……っ!? 一瞬で3機がやられたというのかっ!?」
とバビは1機は爆散、2機はスラスターをやられ、海中へと落ちる。
残った1機が困惑しているとそこへオーディンマークIIとフリーダムが現れる。
そして、そのままオーディンマークIIがリタリエイターを構え、接近し一刀両断し、バビは爆散する。
ネジ切れた鉄屑が火線を引いて海へと堕ちていく、そんな圧倒的な光岩をシャルとシェルは見届けるのであった。
突如として上空から乱入したザフトのバビ部隊を瞬く間に全弾解体し、絶体絶命の危機に陥っていたシャルとシェルを間一髪のところで救い出したフリーダムとオーディンマークII。
しかし、不意の不条理な強襲を退けたとはいえ、依然として蓮とキラの二人の間に横たわる思いの決着は尽いておらず、オーディンマークIIの白き巨体は、フリーダムに向けて再び冷徹にマークスマン・アグニの銃口を向ける。
黄昏の空に烈しい一触即発の緊張感が張り詰めた、まさにその刹那であった。
アークエンジェルの通信回線からキラに、そして蓮の元には近くで隠密待機していたウルブズ所属のモビルスーツ・ハンターのパイロットから、不気味な警告の残響がほぼ同時に通信に飛び込んできた。
『隊長! 全周囲索敵レーダーに未知の熱源を多数感知! ザフトの増援です!』
アジトを全滅させられたザフト軍が、アークエンジェルを確実に抹殺すべく放った次なる大艦隊の影。その切迫した最前線の報告をインカムの奥に聞いた蓮は、フリーダムに向けた銃口を静かに下げると、操縦桿を力強く握り込み、キラに向けて確固たる聲音を響かせた。
「キラ、分かっていると思うが、ザフトの増援が向かってきている。お前らの覚悟は理解した。だから、行け。シャルを頼む。増援はこちらが抑える。」
世界を掻い乱す介入の甘さを厳しく叩きながらも、一人の戦友としてのキラのブレなき強さを認めた蓮の不器用な大義のセリフ。その蓮の真意を完璧に受け止めたキラは、網膜のスクリーンの向こう側の友を見据え、確固たる信頼を込めて短く応じた。
「分かった。」
キラはそう短く答えると、フリーダムの全駆動スラスターをブチ上げ、戦闘不能となって大破しているシャルの専用ムラサメの巨体を強固に抱きかかえるようにして回収し、満身創痍のアークエンジェルが待つ大空へと滑らかに上がり始める。
遠ざかっていくムラサメの全周囲モニターの向こう側、愛憎を滾らせて自分を見つめているであろう最愛の少女の姿を瞳の奥に捉えた蓮は、白と黒の制服の胸元の奥にある、一人の男としての本当の本音の声音を静かに響かせた。
「いつになるかは分からないが、必ずシャル、お前の元に戻る。信じなくてもいい。でも、待っていてほしい。」
それは、日本の女王としての重責を独りで背負い続けてきたシャルへの、2年間世界の裏舞台へ消え去っていた蓮の、命を懸けた魂の誓いのセリフであった。
その蓮のあまりにも思いもしない本音の言葉をインカムの奥に聞いたシャルは、大粒の涙をその瞳に浮かべ、張り裂けそうな胸の内をその唇に震わせた。
「・・・・・待ってるぞ。」
シャルが引き裂かれそうな切ない聲音でそう告げると、フリーダムと共にシャルを乗せたムラサメは、洋上を離脱していくアークエンジェルへと向かって夕陽の彼方へ消えていくのだった。
残されたクレタの空、蓮は即座にコンソールの全駆動システムを戦術介入モードへと最大出力にブチ上げると、パンドラとハンターに向けて厳格な長としての命令を下達した。
「ハンター、パンドラと共に下がれ。」
その蓮の言葉に対し、姉を連れ戻せぬまま決別を突きつけられたシェルは、操縦桿を激しく震わせて食い下がった。
「まだ戦えます。私も蓮様と一緒に!」
「命令だ。おとなしく下がれ。」
これ以上の大戦火の泥沼に新兵である彼女を巻き込むまいとする、蓮の冷徹な一喝。シェルはその蓮の声音にある絶対の規律の重みに息を呑み、
「分かりました。」
と悔しげに深く目を伏せ、パンドラとハンターは蓮の背中を守るようにして、そのまま戦域を速やかに離脱する。
迫り来るザフトの無数の熱源反応を前方の索敵スクリーンへと捉えた蓮は、
「これ以上、あいつらの未来を邪魔させるか。」
と低く声音を研ぎ澄ませると、オーディンマークIIを滑らかに飛行形態に変形させ、凄絶な推進火線の尾を爆発させて、ただ単機、不条理な戦火の嵐が吹き荒れるザフトの増援部隊の渦へと向かって、鮮烈に飛び去っていくのであった。
満身創痍のシャルを回収し、クレタ島の戦域から急速離脱していくアークエンジェルとキラのフリーダム。
しかし、理想の介入を繰り返すあの白き戦艦を確実に仕留めるべく、その背後からはザフト軍の旧式ザク10機、さらに最新鋭の主力機グフ4機からなる大規模な混成追撃部隊が、猛烈な推進風を軋ませて牙を剥きながら急迫していた。
ピカァァァァァン――ッ!!!!!
黄昏の空の彼方から、空間の物理法則を強引に切り裂くような極高収束の鮮烈なビームの火線が突如として飛来し、先頭を往くザク2機を完璧に一瞬で貫いて大爆発させた。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
「な、何だ!? どこからの狙撃だ……っ!礼」
予期せぬ超長距離からの電撃介入に、激しい硝煙のなかで混迷し、困惑するザフトのパイロットたちの目の前へ、猛烈な推進機流を引き裂いて現れたのは、飛行形態から滑らかに変形を完了させた蓮のオーディンマークIIであった。
今まで連合の欺瞞を暴き、ザフトを間接的に援護してきたはずのウルブズが、突如として自分たちに銃口を向けて攻撃してきた事実。ザフトのパイロットは通信の奥で激しく戸惑い、スピーカー越しにその攻撃の理由を烈しく問うた。
「どういうつもりだウルブズ! 貴様たちはデュランダル議長と共に、ロゴスの不条理と戦う同志ではなかったのか! 何故オーブやアークエンジェルを庇う!」
その必死の問いかけに対し、蓮は白と黒の制服に身を包んだまま、ピクリとも鉄の表情を崩すことなく、一切の私情を排した冷徹な組織の長の聲音を氷のように響かせた。
「我々はザフトについたとは一言も言ってない。敵と判断すればそれはザフトであろうと地球軍であろうと討つ。それが我々ウルブズだ。」
国家や陣営の都合の良い枠組みなど、最初からこの中立の牙には通用しない。蓮が放ったその絶対の中立のセリフを聞いたザフトのパイロット達は、
「おのれ、裏切り者がッ! 全機、あの白い可変機を撃ち落とせ!」
と怒号を響かせ、激しいビームの弾幕を以て一斉に攻撃を始める。
しかし、蓮の神業的な操縦力に、量産機の性能が叶うはずも到底なかった。オーディンマークIIは獰猛なステップで無数の射線を滑らかに掻い潜り、大型ビームランスと高出力ライフルを正確無比に閃かせ、次々とザクとグフはコックピットを外した関節駆動部のみをピンポイントで切り裂かれ、落とされていく。
大空に無数の爆炎の華が咲き乱れ、洋上へと鉄屑が次々と堕ちていくなか、
「化け物め……! 最新鋭のグフが、こうも一方的にダルマにされるなんて……っ!」
周囲の全戦力が一瞬にして全弾解体され、残り2機のみにまで包囲網の底へと追い詰められると、蓮はオーディンマークIIの銃口をその冷や汗を流す機体へと突きつけ、冷酷な最後通牒の聲音を重々しく響かせた。
「デュランダルに伝えろ。今後、アークエンジェルを攻撃した場合、我々はザフトに対して徹底抗戦を宣告すると。」
それは、プラント最高評議会議長という世界の最高権力者へ向けた、ウルブズ最高指揮官としての絶対の宣戦布告であった。
「くっ……! ウルブズの奴ら、本気か……っ! 全機、撤退だ!」
蓮が放った底知れない強者としての威圧感のセリフに、恐怖と戦慄を覚えた残りのザフト兵は、悔しげに反転スラスターを爆発させ、這う這うの体で2機は撤退して行くのであった。
クレタ島の空を血で汚さんとしたザフト軍の執拗な追撃部隊をも単機で完全に撃退した蓮は、その凄絶な推進火線の尾を引きながら、そのまま地中海に隠されたウルブズの地球本部へと隠密裏に帰還した。
地下ドックの射出カタパルトデッキへと重々しく着艦すると、蓮は操縦桿から手を離すことなく、ブリッジのメインコンソールへと向けて鋭い指示を出した。
「ナタル艦長と話がしたい。繋いでくれ。」
蓮がそう端的に下達すると、オペレーターが直ちに最高暗号回線を駆動させ、宇宙の留守を預かる強襲巡洋戦艦コンゴウのメイン回路へと同期させる。
蓮はそのまま、オーディンマークIIの狭いコックピットに白と黒の制服のまま座った状態で、立体ホログラムスクリーンに映し出されたナタルに直接連絡を取る。画面の向こう側で直立の姿勢を執ったナタルへと、蓮は聲音を和らげて口を開いた。
「ナタル艦長、急な呼び出しすまない。」
蓮がそう切り出すと、モニターの向こう側のナタルは軍人としての気高き聲音の中に、確固たる礼節を響かせて言葉を返した。
『いえ、こちらも大して大きな動きは行なっていないので、問題はないかと。ですが、新たな情報が。』
「なんだ。」
蓮が冷徹に先を促すと、ナタルは表情を険しく引き締め、宇宙本部へと届いたばかりの不穏な世界の情勢を静かに告げた。
『プラントに潜入している密偵からです。どうやらデュランダル議長は近いうちに大きな行動に出るようです。また、これはまだ分からないことですが、デュランダル議長はアークエンジェルを討つ作戦を考案していると。』
大国の最高権力者が裏舞台で張り巡らせる、あの白き戦艦を確実に抹殺せんとする冷酷な罠。そのナタルの言葉を聞いた蓮は、僅かに瞳を細めた。
「そうか。おそらくその情報は間違っていない。」
『何故、そう言い切れるのですか。』
ナタルが画面の向こう側から驚きを含んだ声音で問うと、蓮は自らの愛機のメインモニターに未だ残る、さきほどの激戦の残光を瞳の奥に思い浮かべながら、その理由のすべてを重々しく浴びせかけた。
「さっき、フリーダムとの交戦の最中、ザフトのバビに加え、ザクや新型が戦域に現れた。おそらく、あれはアークエンジェルに対する威力偵察だ。シェルにも攻撃したため、俺の判断で撃墜したが、ほぼ間違いだろう。そして、ザフトを攻撃してしまった以上、俺達も既にザフトからすれば敵も同然だ。今後は更なる戦いに備えなければならないな。例の戦艦はどうだ。」
理想の介入を繰り返すアークエンジェルを、デュランダル議長が力尽くで排除しようとしている冷酷な現実。蓮が放ったその引き締まった決別の言葉の重みを受け止め、ナタルは即座に姿勢を正すと、宇宙本部の極秘ドックの最新の進捗状況を実直なセリフで報告した。
『はい。既に船体は完成していますが、武装の調整が。後、例のモビルスーツですが、3機用意できました。』
「そうか。近いうちに俺もそっちに戻る。」
『分かりました。それで、シェル殿はどうされるのですか。すでに彼女の従者も怪我が治っており、すでに我々のモビルスーツ隊と訓練をしていますが。』
ナタルがそう画面の奥から、2年前の戦災の傷から完全に癒え、宇宙で凄絶な猛訓練を積んでいる日本独立軍の精鋭たちの動向を交えてシェルの処遇を聞くと、蓮は操縦桿をそっと押し戻し、確固たる声音のまま告げた。
「いや、彼女はここに置いて行く。アイツにはまだここでやることがある。その代わりだが、この3人をその完成したモビルスーツを任せようと思う。今、資料を送る。」
蓮がデスクのコマンドを力強く叩くと、宇宙のコンゴウにいるナタルの元に、地球本部から選抜された3名の精鋭パイロット――シンシア、アキ、マコトのデータ資料が鮮烈に届く。ホログラムスクリーンでその3名の顔ぶれと恐るべき実力の経歴を確認したナタルは、深く頷いて言葉を重ねた。
『分かりました。では、彼女達は貴方の隊長の下に置くつもりですか。』
「そうなるな。頼むぞ。」
蓮がそう冷徹に、しかし確固たる絶対の信頼の声音を響かせると、蓮は無線を切る。
プツゥゥゥン――。
ホグラムスクリーンの電子光が静かに消え、再び薄暗いコックピットの中に深い静寂が戻る。蓮はコンソールのメインスイッチを静かに切ると、これからの地球圏を包み込むであろうさらなる激動の大戦乱の嵐に向けて、一人のウルブズの最高指揮官としての本当の覚悟を宿し、蓮はそのままオーディンマークIIのコックピットから降りるのであった。
蓮が地中海の隠されたウルブズの地球本部へと隠密裏に帰還し、来たるべきさらなる大戦火に向けて覚悟を静かに研ぎ澄ませていた、まさにその一方。
クレタ島沖の大決戦で大きな傷を負ったザフト軍の新鋭艦ミネルバは、不穏な情勢の立ち込める欧州に向けて、静かに波飛沫を上げて航行していた。
緊迫した巡航が続くなか、アスラン・ザラの元に、艦長であるタリア・グラディスからの重々しい非常報告が入る。
「どうやら、ウルブズが我々に攻撃してきたみたいね。」
タリアがブリッジのコンソールを前にして苦渋を滲ませた聲音を響かせると、アスランは我が耳を疑ったようにハッと大きく目を見開き、激しい動揺の声を漏らした。
「なっ、ウルブズが何故。」
「理由は分からないわ。でも、バビ4機と、ザクとグフを合わせて12機が撃墜されたわ。しかも、あの白い可変モビルスーツにね。これが、生き残って命からがら帰還したモビルスーツのログに残っていた映像よ。」
タリアはそう告げると同時にメインスクリーンへ最高暗号回線の戦闘ログを同期させ、アスランに映像を見せる。
ザザザザァァァッ!!
ノイズ混じりのスクリーンに映し出された映像には、夕陽に灼かれるクレタの空、突如として空間を切り裂く極高収束の熱線が飛来し、次々とザフトのモビルスーツを容赦なく落としていく、あのオーディンマークIIの圧倒的で冷徹な戦闘の様子が克明に記録されていた。
かつて大戦を共に生き抜き、誰よりも信頼していたあの男の白き愛機の、容赦なき殲滅の残像。これを見たアスランは、胸を激しく締め付けられるような悲痛なトーンの声を絞り出した。
「なぜ、蓮は・・・・。」
何故、自分たちザフトの正義を拒絶し、今度は敵としてその牙を剥いてきたのか。アスランが拳を強く握り締めていると、タリアは深く目を伏せ、一人の艦長としての厳格な規律の聲音を静かに告げた。
「貴方にとってあのモビルスーツは親しい存在なのかもしれない。でも、次に会ったときは敵だと思うべきね。私も幾度も救ってもらったから思うところはあるけど、敵となった以上、躊躇うわけにはいかないわね。」
タリアがそう重々しく語る通り、かつてディオキアの地で自分たちをロゴスの欺瞞から護り抜いてくれたウルブズの最高指揮官の選択は、あまりにも非情であった。アスランはただ沈黙を以て、その冷酷な現実のセリフを受け止めるしかなかった。
そして、この地中海・クレタ島沖での衝撃的なウルブズの電撃介入は、瞬く間にミネルバの艦内だけでなく、プラント本土を含むザフト内全体にも凄絶な波紋を広げていき、中には、あの世界を掻い乱すフリーダムとウルブズは、裏で完全に共闘しているのではないかという不気味な噂までが事実に紛れて激しく流れ始めるのであった。
アークエンジェルやフリーダムと別れてから、数日の刻が再び経過し。
クレタ島沖の戦火の余韻が世界を揺るがすなか、蓮は地球本部の司令室内において、シェル、ブラット、シンシアの3人を呼び出していた。重厚な自動扉が閉まり、3人が部屋に揃うと、蓮は白と黒の制服の襟元を静かに整え、一切の感情を排した冷徹な聲音を響かせた。
「俺は明日宇宙へと戻る。そして、3人にはここでの新たな役割を与えたいと思う。まず、ブラットにはこの地球本部を任せたい。」
蓮がそう端的に告げた瞬間、ブラッドは流石に驚愕したようにその大きな身体を揺らし、無骨なセリフを返した。
「おいおい、ここにきて間もないのに最新鋭のモビルスーツに加え、今度はここの管理者かよ。」
突然下された地球本部の最高責任者という重すぎる大役。そのブラッドの戸惑いを見据えながら、蓮は微塵もブレぬ鉄の表情のまま応じた。
「今まで実績を買っての判断だ。そして、シンシアにはブラットの補佐を頼みたい。まだ分からない部分もあると思う。支えてやってくれ。」
「分かりました。」
シンシアが軍人としての凛としたトーンでそう首を縦に振ると、蓮は最後に、その隣で佇むシェルへと視線を移し、確固たる大義の聲音を響かせた。
「シェル、お前には本日より俺の下を離れ、新たに創設されたモビルスーツ小隊の隊長を任せる。」
かつて第2格納庫の前で、クノイチ5機を背にして内示された未来。シェルは自らの紅色の瞳に強い光を宿すると、迷いのない声音でハッキリと言い放った。
「以前に言ってらしたことですね。もう、決心はついています。小隊長の任命、仰せつかります。」
かつての後ろに隠れるだけだった少女の面影を完全に捨て去り、一隊を率いる指揮官としてのブレなき覚悟のセリフ。蓮はそのシェルの成長を静かに見つめ、低く言葉を重ねた。
「これからは責任も更に増えるが、お前ならできる。頼むぞ。」
「はい。」
シェルが規律正しく一礼を捧げ、ここにウルブズの新たなる牙としての配置がすべて確定するのであった。
――そして、翌日。
地中海の地下ドックから烈しい爆音を響かせ、1機の大型輸送機が洋上へと飛び立つ。蓮はオーディンマークIIを格納した輸送機のなかに身を置き、ラーラ、アキ、マコトの3人を連れて、宇宙へと一気に駆け上がるためのマスドライバーのあるビクトリアへと向かうのであった。
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