武装神姫 ~うちの神姫たちとの日々~   作:IT.exe

15 / 17
私はバトコンの八王子交流会(多分)に行った時、割と色々積んた構成でした。その辺りの経験込みで書いてたり。
(慣性飛行とか結局難しかったのですよ(・・;))


十八位

 春季オープンから一週間。その日はF2の公式開催日だった。指定されたFバトル会場で受付を済ませた篠原貴明は、ランキング端末の前で小さく息を吐いた。

 

「十八位」

「変わりませんね」

 隣に立つすずらんが言う。

「この前の通常対戦は勝ったんだけどな」

「公式順位戦じゃありませんでしたから」

「知ってる」

「なら、今日は勝って上がりましょう」

「分かってるよ」

 

 画面には現在のF2ランキングが表示されていた。篠原貴明、十八位。過去最高は十四位だが、最近は下位の順位枠から抜け出せずにいる。

 F3を勝ち抜いてF2まで進んだのだから、神姫マスター全体で見れば実力者と言えるだろう。格闘武装限定大会で優勝したこともある。それなのに、通常の総合戦では十八位から上がなかなか遠かった。

 

「次の相手は?」

 すずらんが聞く。

「十六位」

「上ですね」

「二つだけ」

「でも勝てば上がります」

「そうだな」

 

 貴明は対戦相手のプロフィールを開いた。使用神姫はアーンヴァルMk.2。中距離から遠距離を主戦場とし、射撃武装を中心に使う。飛行装備の使用率も高い。

 

「また射撃型ですね」

「F2の上の方、こういうの増えるな」

「避けます?」

「何で」

「苦手でしょう?」

「だからやるんだろ」

 

 すずらんが少しだけ笑った。

 

「マスターらしいですね」

「嫌なら変えるけど」

「やります」

 

 返事は早かった。

 

     ◇

 

 バトル筐体の前で、貴明はすずらんの装備設定を確認していた。装備一覧には、背部飛行ユニット、中距離用ライフル、補助射撃武装、腕部防御装備、脚部追加装甲、そして近接用の拳闘武装が並んでいる。

 

「重いですね」

 画面を見上げながら、すずらんが言う。

「COSTの上限には収まってる」

「そういう意味ではなく」

「分かってる」

 

 どれも必要だと思って組んだものだった。射撃主体の相手に何もできないのは困るし、飛ばれた時に追えないのも困る。一発の被弾で大きくLPを削られるのも避けたい。それで射撃武装と飛行装備を積み、防具も付けた。近距離へ入れたなら拳で戦いたいから、近接武装も残してある。

 高校時代から少しずつ調整してきた万能型の構成だ。どんな相手にも最低限は対応できる。少なくとも、貴明はそう考えてきた。

 

「ライフル、変えます?」

「何に?」

「もう少し軽いもの」

「射程落ちる」

「防具は?」

「外したら射撃一発が痛い」

「飛行ユニット」

「相手飛ぶ」

「……全部理由ありますね」

「だからこの構成なんだよ」

「そうでした」

 

 すずらんは納得したような、していないような顔をした。貴明はこれ以上装備を変えず、現在の構成で設定を確定した。

 

「行こう」

「はい」

 

     ◇

 

 ライド開始。視界が一瞬暗転し、市街地を模したバトルステージが現れた。高低差のある地形にビル状の障害物、広い道路。上空まで使える立体的な戦闘空間だ。

 貴明の操作系がすずらんへ接続され、彼女が見ている光景へ視界が切り替わる。ライド中であっても、すずらん自身の判断が消えるわけではない。

 

『接続、問題ありません』

 

 すぐ近くで声がする。

 

「こっちも」

『右肩、少し装備重いです』

「分かってる」

『試合前から言っておきます』

「終わったら調整する」

『毎回聞いてる気がします』

「今回はやる」

『分かりました』

 

 開始位置の向こうには、白いアーンヴァルMk.2が見える。相手はすでに大型の射撃武装を構えていた。

 

『来ます』

「右」

 

 貴明が大まかな回避方向を入力すると、すずらんが動いた。どの瞬間に踏み込み、身体をどこまで傾け、どこへ着地するか。細かな姿勢制御は、すずらん自身が行う。

 

 次の瞬間、光弾が元いた場所を通過した。

 

「まだ遠いな」

『射程負けてます』

「分かってる」

 

 こちらもライフルを一発放つが、相手は高度を上げて難なく避けた。

 

「飛ぶか」

『了解』

 

 背部ユニットを起動し、すずらんが高度を上げる。しかし、相手はさらに距離を取った。

 射撃を交わしながら互いに高度を変え、また撃つ。貴明は眉を寄せた。

 

「当たらない」

『向こうも、まだ大きいのは当ててません』

「でも、こっちの方が消費してる」

 

 飛行、射撃、回避を同時にこなす必要がある。すずらんが細かな動きを補正してくれても、相手の方が上手かった。特に高度管理が違う。上昇したかと思えば止まり、急に落ちて射線を切り、また上がる。その動きを追うほど貴明の判断は一拍ずつ遅れていった。

 

『左上』

「見えてる」

 

 射撃。

 

「防御!」

 

 すずらんが腕部装甲を前へ出す。衝撃が走り、LPが削られた。

 

「ちっ」

『防げました』

「でも削られた」

『防具なければもっとです』

「それもそう」

 

 すずらんの言うとおりだ。防具が被害を抑え、ライフルは相手に完全に自由な射撃をさせずにいる。飛行ユニットがあるから、上空へ逃げられても追える。どの装備にも役割がある。それなのに、有利になっている感覚はなかった。

 

 相手がビルの向こうへ回る。

 

「降りる」

『はい』

 

 すずらんが地上へ向かう。着地。

 

「走るぞ」

『了解』

 

 遮蔽物を使って地上から距離を詰める。直線で追えば撃たれるだけだ。

 

『右から来ます』

「そのまま」

 

 ビルの角から相手の射撃が飛ぶ。すずらんは貴明の入力を待たず、瞬間的に身体を沈めた。光弾が頭上を抜ける。

 

「今!」

 

 すずらんが前へ出て、相手との距離を詰める。三分の二。さらに半分。相手が下がった。

 こちらも飛ぶ――

 

「いや」

 

 貴明は一瞬だけ迷った。

 

『マスター?』

「そのまま地上!」

 

 飛行ユニットは使わない。すずらんが走る。

 

 相手は上空へ逃げた。

 

「ジャンプ!」

『はい!』

 

 脚部出力を使って地面を蹴る。すずらんの身体が大きく跳び、一気に相手の高度へ届いた。相手が驚いたように動く。

 

「右!」

 

 拳闘武装を構え、すずらんが空中で姿勢を調整する。肩と腰を連動させ、拳の軌道を合わせる。神姫ボクシングで何千回と繰り返してきた動作だった。

 

 右ストレート。

 

 直撃。

 

『っ!』

 

 相手が大きく吹き飛んだ。

 

「入った!」

 

 すずらんが着地し、吹き飛ばされた相手も地上へ落ちる。

 

「詰める!」

『了解!』

 

 一気に距離を縮めた。

 

 そこから、攻防の空気が変わった。相手がライフルを向けると、すずらんは半歩外した。貴明が大まかな回避方向を入力するより、こうした至近距離の微細な対応は彼女自身の方が速い。

 ジャブで相手の照準をずらし、もう一発。続く右を相手がガードすると、すずらんは左へ動いた。

 

「ボディ!」

 

 拳が入り、相手の姿勢が崩れる。すずらんが距離を調整する間に、貴明は次の攻撃を選んだ。

 

「右!」

 

 右ストレート。

 また入った。

 

『マスター』

「何?」

『やっぱり近い方が楽です』

「俺も」

 

 相手が強引に飛ぼうとする。

 

「逃がすな!」

『はい』

 

 すずらんが踏み込み、左で相手の上昇を止める。続く右が相手を吹き飛ばした。

 LP差が一気に縮まる。先ほどまでライフルを一発当てることさえ難しかった相手を、今は明らかに押していた。

 

 だが、相手もF2十六位だった。すずらんの右をガードしたまま後退し、緊急上昇する。

 

「追う!」

 

 貴明は反射的に飛行ユニットを起動した。

 すずらんが追って飛び上がった瞬間、接近戦のリズムが切れた。重い飛行装備を使い、高度と旋回を管理しなければならない。一方の相手は、上空で急反転した。

 

『前!』

「防御!」

 

 間に合わない。射撃。

 

 直撃。

 

 すずらんの身体が弾かれた。

 

「すずらん!」

『問題ありません』

 

 すずらんは自分で姿勢を立て直した。だが、距離はもう開いていた。

 

「またか」

 

 相手はすでに射撃姿勢へ戻っている。距離も、試合開始時と同じところまで戻されていた。

 もう一度近づこうとした。射撃で牽制し、防具で受け、飛行や障害物も利用して何度も距離を詰めようとする。しかし先ほどのようにはいかない。相手も学習していた。地上から近づけば高度を上げ、跳躍で届きそうな間合いにも入らない。すずらんの拳を明確に警戒している。

 

『残り時間、一分』

 

 システム音声。LP差は、こちらが僅かに不利。

 

「行くしかない」

『分かってます』

 

 正面からライフルを一発。相手が避けた。

 

「飛ぶ!」

 

 上昇して追うが、相手もさらに上がり、こちらへ射線を通してくる。

 

「右!」

 

 すずらんが右へ回避する。続いて左から、相手の射撃が来た。

 

「防御!」

 

 ガードで受ける。それでもLPを削られた。

 

「あと少しなのに」

『距離が』

「分かってる!」

 

 さらに加速すると、相手が撃った。すずらんは身体を捻って一発目を避ける。

 

 二発目。

 

 脚部へ命中。姿勢が崩れた。

 

「まだ!」

『行けます』

 

 それでも上昇を続ける。拳が届くまで、あと少し。

 ほんの少し。

 

 相手が後退しながら最後の射撃を放った。直撃。

 

 視界が大きく揺れた。

 

     ◇

 

『BATTLE END』

 

 終了表示に続いて、数秒後。

 

『LOSE』

「……負けた」

 

 貴明は息を吐く。ライドが解除され、貴明の視界がFバトル会場の対戦筐体へ戻る。筐体内ですずらんがゆっくり身体を起こし、装備を解除した。貴明はすぐにケースを開いた。

 

「お疲れ」

「はい」

 

 すずらんが差し出された手へ乗る。

 

「損傷は?」

「ありません」

「脚は?」

「最後に当たったところ、少し違和感ありますけど。診断上は問題ないです」

「帰ったら見る」

「はい」

 

 貴明は戦績表示へ目を向けた。僅差の敗北だ。大敗ではなく、途中からはかなり追い上げてもいた。それでも結果は負けだった。

 

「近づいた時は取れてました」

 すずらんが言った。

「うん」

「ほとんど一方的でした」

「うん」

「でも」

「近づくまでが長すぎる」

 

 貴明が先に言った。すずらんが少し黙る。

 

「……はい」

 

 貴明は筐体脇の画面で簡易リプレイとログを開き、距離別の数値を確かめた。遠距離では相手の命中率が上回り、空中戦も相手が優勢。防御装備は正常に機能し、被害をかなり軽減している。だが近距離の数字だけは、はっきりとこちらが上だった。

 

「極端ですね」

 すずらんが言う。

「何が?」

「距離別の数字」

「そうだな」

 

 近距離へ入っていた時間は、試合全体の二割にも満たない。それなのに、その短い時間だけで相手のLPを大きく削っていた。

 

「近接だけなら勝ってた」

「格闘限定なら」

「うん」

「でも総合です」

「分かってる」

 

 だから射撃、飛行、防御の装備を積んだ。総合戦で戦うために必要だと思うものを揃えた。

 

「……なのに勝てない」

 貴明が呟く。

「マスター」

「何?」

「ランキング」

 

 すずらんが画面の隅を指す。表示が更新された。十八位。

 

「……変わらないな」

「はい。上位への挑戦に負けても、順位は入れ替わりませんから」

「……分かってる。でも、上へ行けなかった」

 

 貴明はもう一度結果表示を見た。十六位への公式挑戦は敗北に終わり、ランキングは十八位のまま。数字だけを見れば変化はないが、上へ進めなかった事実は残る。

 

「なら、また挑戦しましょう」

 すずらんが言った。

「簡単に言うな」

「マスターがいつも言うことです」

「そうだっけ」

「そうです」

 

 貴明は少し笑った。

 

「もう一戦します?」

 すずらんが聞いた。

「今日はやめる」

「珍しいですね」

「脚に違和感あるって言っただろ」

「軽いですよ」

「軽くても今日は終わり」

「……はい」

「それに」

 

 貴明はもう一度ログ画面を見る。

 

「一回持って帰る」

「何を?」

「今日のデータ」

「また見るんですか?」

「見る」

「何回?」

「分からない」

「三回以上?」

「必要なら」

 

 すずらんが少しだけ呆れた顔をした。

 

「好きですね、本当に」

「勝ちたいからな」

「私もです」

 

 すずらんの返事は短かった。

 

 会場を出ても外はまだ明るかった。大学からそのまま寄ったため、貴明のリュックにはノートPCも入っていて、いつもより重い。それ以上に頭を占めていたのは、今日使った装備のことだった。射撃、飛行、防御、近接。どれも必要で、それぞれ役には立ったのに、揃えていることが勝利につながらなかった。

 

「マスター」

「ん?」

「飛行で追った時」

「うん」

「あれ、よくなかったですね」

「俺も思った」

「相手の得意な場所へ行きました」

「でも追わなきゃ逃げられる」

「そうなんですよね」

 

 二人とも少し黙る。

 

「地上からジャンプした時は?」

 すずらんが聞いた。

「あれは良かった」

「飛ばなくても届きました」

「一回だけな」

「はい」

「相手も次から警戒した」

「そうですね」

 

 また少し沈黙が続いた。

 

「難しいな」

 貴明が言う。

「はい」

「総合戦」

「今さらですか?」

「今さら」

 

 すずらんが小さく笑った。

 

     ◇

 

 帰宅して夕食を済ませた後、貴明はまずすずらんをクレイドルへ入れ、脚部の違和感を調べた。一時的な負荷反応が残っているだけで、異常はない。診断を終えてから今日のログをデスクトップPCへコピーすると、すみれも横から画面を覗き込んできた。

 

「ここだけ見れば」

 

 貴明は距離別データを表示した。

 

「強そうですね」

「実際強いんだよ」

「でも負けたんですよね?」

「そう」

「射撃?」

「負け」

「空中?」

「負け」

「防御は?」

「役には立った」

「近接?」

「勝ち」

 

 すみれが少し考えた。

 

「分かりやすいですね」

「分かりやすいけど、解決しない」

「全部練習すれば?」

「してる」

「もっと?」

「簡単に言うな」

「マスターも私達に言いますよ」

 

 今日はそればかりだった。クレイドルの中から、すずらんが声を出す。

 

「すみれ」

「はい?」

「マスター、今日二回それ言われてます」

「そうなんですか?」

「三回目」

「数えてたの?」

「何となく」

 

 貴明は二人の会話を聞き流しながら、画面へ視線を戻した。画面には近距離での命中率、回避率、連撃成功率が並ぶ。その範囲だけを切り取れば、F2十八位とは思えないほどの数字だった。

 

 けれど、Fバトルは近距離だけで戦う競技ではない。相手は飛び、撃ち、逃げ、防ぐ。自分たちも対応できるように、射撃や飛行、防具、近接武装を一つずつ足してきた。不得意な状況を減らすためだ。

 その考え方が間違っているとは、まだ思えなかった。実際に防具がなければ被害は大きく、飛行装備がなければ上空の相手を追えず、ライフルがなければ遠距離で一方的に撃たれていただろう。どれか一つを簡単に不要とは言えない。

 

 それでも、モニターの距離別データは別の事実も示していた。もっとも相手のLPを削れたのは、拳が届いた短い時間だった。その距離へ入るまでの間、ずっと苦戦していたことも数字には表れている。

 

「……」

 

 貴明は装備構成の画面を開いた。射撃、飛行、防御、近接。高校時代から調整してきた、いつもの万能型だ。どれも必要なはずで、選んだ理由もある。

 だから、間違ってはいない。ただ、その「間違っていない」という考え方そのものに、ほんの少しだけ引っ掛かりが残った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。