キヴォトスに男子校があるならば   作:鰹節の丸煮

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4:汚く忌憚なく異端なき彼ら

 窓ガラスが震えた。

 

 ザク少年は端末をしまい、右の手甲へと手を差し入れた。固定具が噛み合う。指先の駆動が戻り、青黒い五指が、一度だけ開いた。

 

 ハスミは立ち上がっていた。

 

 スズミも、チナツも。

 

 ミカが窓際へ寄る。その肩を、ナギサが呼び止めた。

 

「ミカさん。窓から離れてください」

「うん。でも、あっち」

 

 ミカが指した。

 

 ビルの向こうに、黒煙が上がっていた。

 

 七神リンの端末が鳴った。

 

 彼女は応答し、二つ、三つ、短く確認した。

 

 それから顔を上げた。

 

「シャーレの施設周辺が、襲撃を受けています」

 

 先生が立った。

 

 リンは説明を続けた。矯正局から脱走した生徒。混乱に乗じた暴徒。連邦生徒会の管理が及ばなくなった区域。

 

 そして、いま先生をそこへ連れていかなければならない理由。

 

 ユウカは、最後まで聞いた。

 

 聞いてから、鞄を机に置いた。

 

「……分かりました。まず、そちらを何とかしないと、お話にもならないということですね」

 

 ノアも鞄を置いた。

 

 その手には、もう端末がある。

 

「経路を確認します。通行止めが増える前に、移動した方がよさそうです」

「私たちも同行します」

 

 ハスミが言った。

 

 スズミが頷き、チナツは銃の確認を始めた。

 

 ミカが振り返った。

 

「じゃあ、私も――」

「ミカさん」

 

 ナギサの声に、ミカは口を閉じた。

 

 二人の視線が合った。

 

 ティーパーティーの三人が、所在も知らせず戦闘区域へ入る。その意味は、ザク少年にも分かった。

 

 セイアはもう、帽子をかぶっていなかった。

 

「私たちは、先に連絡を取ろう。トリニティ側でも、動いている者がいるはずだ」

 

 ナギサが頷いた。

 

 ミカは少しだけ唇を尖らせ、それでも端末を取り出した。

 

 軍刀が、ザク少年の肩を叩いた。

 

「俺らは」

「行く」

「だよな」

 

 机の上に、封筒が残った。

 

 その隣に、菓子の袋も残った。

 

 ザク少年は一瞬だけ袋を見て、それから扉へと向かった。

 

「待ちたまえ」

 

 セイアの声がした。

 

 ザク少年が振り返る。

 

 彼女は、その赤いモノアイを見ていた。

 

「帰ってきたら、話の続きをしよう」

「長くなるぞ」

「構わないよ」

 

 セイアは微笑んだ。

 

「私にも、まだ話したいことがある」

 

 ザク少年は頷いた。

 

 今度は、軍刀も茶化さなかった。

 

 廊下へ出る。

 

 階下から、また爆音が響いた。

 

 先生が歩きながら、ザク少年へと顔を向けた。

 

「その装備、どれくらい動けるの?」

「走るだけなら、結構」

「飛ぶと?」

「減ります」

「どれくらい?」

「かなり」

 

 先生は、少しだけ考えた。

 

「じゃあ、飛んでほしいときは、ちゃんと頼むね」

 

 ザク少年は、赤い目をそちらへ向けた。

 

 飛ぶなとも、飛べとも言われなかった。

 

 残りを気にされた。

 

「……了解」

 

 正面玄関の外で、銃声が弾けた。

 

 先生の前へ、ユウカが出た。

 

 その横を、青黒い装甲が追い越した。

 

 

 

 市街は、すでに撃ち合いのなかにあった。

 

 白い壁に弾痕が散り、道路の中央では、乗り捨てられた車のボンネットから煙が上がっている。逃げ遅れた生徒が、歩道の柱の陰で身を縮めていた。

 

 ザク少年のモノアイが走った。

 

 銃口。

 窓。

 車の下。

 屋上。

 

 赤い目の奥で、照準が次々に重なって消えた。

 

「正面、二階!」

 

 ハスミの銃が鳴った。

 

 窓の向こうで、銃身が跳ねた。

 

 スズミが前へ出る。その手から投げられた閃光が、路地の入口を白く焼いた。

 

 ユウカが先生の腕を引いた。

 

「いまです!」

 

 そこで、ザク少年は、柱の陰にいた知らない生徒を抱え上げた。

 

 その少女は悲鳴をあげかけ、青黒い胸部装甲を見て、別の意味で悲鳴をあげた。

 

「大丈夫、味方だよ!」

「えっ」

「はいここに隠れる! いいね! 降ろすぞ!」

 

 建物の奥へ押し込む。

 

 振り返ったときには、軍刀が車道へ出ていた。

 

 軍刀は抜かれていなかった。

 

 左手で鞘を押さえ、右手には対物拳銃がある。短く撃ち、交差点の角を黙らせる。

 

「車が来ます!」

 

 ノアが言った。

 

 音が、先に来た。

 

 重いエンジンの唸り。積載を無視したサスペンションの軋み。それらをまとめて引きずりながら、横の通りから一台のトラックが飛び出してきた。

 

 ユウカが銃口を向けた。

 

 ザク少年が腕を出した。

 

「待て! うちの!」

 

 特徴的な紋章を書かれたトラックが、横滑りした。

 

 車輪が黒い円弧を刻み、荷台の鉄板が、車体の後ろで大きく跳ねた。

 

 運転席の扉が開いた。

 

 白い靴が、路面へ降りた。

 

 白い学ランだった。胸元から喉元まで、ホックで前を留めた、汚れのない白。その袖口から出た両手には、何も握られていない。

 

 リベリオンが顔を上げた。

 

「迎えに来た」

「何で分かった」

「サイレン。煙。お前らの位置情報」

 

 ザク少年は軍刀を見た。

 

 軍刀は肩をすくめた。

 

「乗り物は要るだろ」

 

 荷台のあおりが倒れた。

 

 その上から、男が降りた。

 

 いや、落ちたというべきだった。重い靴が路面を打ち、筋肉で膨れ上がった上体が、その衝撃を膝の屈伸だけで受け止めた。

 

 背には弾薬。

 肩には銃。

 腕には、さらに銃。

 

 コマンドーは、先生を見た。

 

 それから、少女たちを見た。

 

 彼は銃を持ち替え、道を空けた。

 

「ご婦人方。乗っていけ、リクライニング・シートで修羅場行きしないか?」

 

 ユウカが荷台を見た。

 

「……これ、座席は?」

「予約制だ。申し込みしてないのか?」

「そもそも椅子がないでしょう!」

「立ち見も歓迎する」

 

 軍刀が荷台へ跳び乗り、奥から折り畳み椅子を引きずり出した。

 

「あるから! こいつの言うことを全部聞くな!」

 

 ノアが荷台を覗いた。

 

 弾薬箱の脇に、毛布。

 水。

 救急箱。

 

 彼女はコマンドーを見た。

 

「準備がいいんですね」

「鉄火場には鉄火巻きが要る」

 

 そう言って、コマンドーは、荷台の奥の食料箱を指した。

 

 ザク少年は、いまではないと思った。

 

 先生も、たぶん同じことを思っていた。

 

 その瞬間、屋根の上で、誰かが笑った。

 

 高いところから、花びらのような赤が舞った。

 

 赤ではなかった。

 

 燃える導火線だった。

 

「伏せろ!」

 

 軍刀が叫んだ。

 

 ザク少年は地面を蹴った。背面の噴射が、車道の砂を吹き飛ばす。青黒い右腕が、落ちてくるそれを空中で払った。

 

 爆発が、ビルの壁を叩いた。

 

 装甲へ熱が走った。

 

 その熱の向こうで、狐の面がこちらを見ていた。

 

 長い髪。

 赤と黒の衣装。

 銃を携えた、細い姿。

 

 狐坂ワカモが、崩れた看板の上に立っていた。

 

「まあ。ずいぶんと賑やかですこと」

 

 彼女の視線が、一行を巡った。

 

 そして先生で止まった。

 

 ほんの一瞬だった。

 

 けれど、その一瞬だけ、ワカモの銃口が下がった。

 

 ハスミは、その隙を逃さなかった。

 

 銃声が、看板を砕いた。

 

 ワカモの姿が落ちた。

 

 落下の途中で銃が翻り、こちらへ火を噴いた。

 

 ザク少年の胸に、弾丸が当たった。

 

 一つ。

 二つ。

 

 青黒い装甲が、乾いた音でそれを受けた。

 

 赤いモノアイが、真っ向から狐の面を捉えた。

 

 ワカモは、着地と同時に横へ消えた。

 

 その先へ、また弾丸が走った。

 

 ハスミの銃だった。

 

「追います!」

 

「待ってください」

 

 ノアが、端末を見た。

 

 表情が変わっていた。

 

「後方から、別の集団が来ています。車両が複数。こちらを挟むつもりです」

 

 交差点の向こうに、装甲車の鼻先が見えた。

 

 その上で、無人銃塔が回った。

 

 軍刀が、舌打ちした。

 

「脱走者の装備じゃねえぞ」

 

 先生は、前を見た。

 

 ワカモが消えた方向。

 シャーレへ続く道。

 

 それから、後ろを見た。

 

 銃塔がこちらへ向いていた。

 

「二手に分かれよう」

 

 先生が言った。

 

「こちらはシャーレへ。後ろの車両を止められる?」

 

 ザク少年は、隣を見た。

 

 軍刀。

 白い学ラン。

 筋肉。

 

 全員が、同じものを見ていた。

 

「止めるだけでいいんですか」

 

 軍刀が尋ねた。

 

 先生は頷いた。

 

「追いかけなくていい。道を塞いで、逃げる人を通してほしい」

 

 軍刀は、銃を下ろした。

 

 代わりに、左手の親指が、刀の鍔を押した。

 

「了解」

 

 ユウカがザク少年を見た。

 

「無理はしないで。状況が変わったら、すぐ連絡すること」

「はいはい」

「返事は一回!」

「了解!」

 

 ノアが、通信を繋いだ。

 

「こちらで経路を見ます。後ほど合流しましょう」

「おう」

 

 コマンドーが、荷台の救急箱をチナツへ渡した。

 

「あの世ピクニック・バックだ。説明書は天使にでも聞いてくれ」

「ありがとうございます。そちらも、お気をつけて」

 

 トラックが動いた。

 

 運転席にはリベリオンではなく、移動を手伝う別の生徒が収まっていた。少女たちと先生を乗せ、車体は銃声の向こうへと進んでいく。

 

 ザク少年は、それを見送った。

 

 白い学ランが、その隣に立った。

 

 軍刀が反対側へ出た。

 

 コマンドーが、肩から銃を下ろした。

 

 少女たちの声が、遠ざかった。

 

 エンジンの音も、遠ざかった。

 

 代わりに、無人銃塔の駆動音が、交差点に近づいてきた。

 

 軍刀が息を吐いた。

 

「……さて」

 

 ザク少年のモノアイが、赤く灯った。

 

「今日、ジャンヌ・ダルクの下痢じみた奇跡ばっか、起きてるよな」

「あとで、飼い犬にイエスの十字架でションベンさせておこう」

 

 リベリオンが言った。

 

 ザク少年は頷いた。

 

「ハルヒも泣いて喜ぶぜ」

 

 コマンドーが、弾帯を銃へ送った。

 

「悪い子には、オナ禁と筋トレの相乗効果を教えてやらないとな」

 

 軍刀が笑った。

 

「先生がいなくなったらこれか。女神のキャバ嬢なみにケバいぜ」

「我らが母校には王女様しかいねえよ。あとはうるせえメイド女」

「ありゃ、二人ともミレニアム行きになったろ」

「王女様はともかく、メイド様は血肉ともども女子になっちまったからな。男子校とは女人禁制なり」

 

 銃塔が止まった。

 

 四人へと、銃口が揃った。

 

 ザク少年の機械の目が、なによりも赤く、その交差点の向こうを睨んだ。

 

 軍刀が、抜けた。

 

 刀身は、白かった。

 

 白日の光を一筋に受け、その鋼だけが、路面の影のなかで凍りついたように輝いている。軍刀の男は鞘を左へと送り、抜き放った右腕を、そのまま低く下げた。

 

 刃が、地面に触れそうなほど低い。

 

 その冷たい切先に、躊躇いはなかった。

 

 無人銃塔が火を噴いた。

 

 同時に、ザク少年の背後が爆炎に膨らんだ。

 

 青黒い装甲が、車道を横切る。

 

 弾丸がその後を追った。路面が裂け、駐車車両の窓が弾け、砕けたガラスが、ザク少年の背面スラスターの熱に巻き上げられた。

 

 ザク少年は着地しなかった。

 

 脚部の噴射を、路面すれすれで横へ流した。

 

 機体が、傾いた。

 

 青黒い巨体、その実、人間の背丈を一回りほど上回るだけの装甲が、横倒しになりかけた姿勢のまま、装甲車の鼻先へと滑り込む。

 

 モノアイが、光った。

 

 銃塔の黒い目が、それを追った。

 

 その一瞬に、軍刀が車道を渡った。

 

 低く、速く。

 

 銃塔の下、車輪の横、その死角へと踏み込む。軍刀の左手が装甲の縁を掴んだ。右足がタイヤを蹴り、その体が、鋼鉄の車体へと跳ね上がった。

 

 刀が走った。

 

 銃身ではない。

 

 銃塔の首、その旋回基部に露出した配線へと、白い刃が突き立った。

 

 火花が散った。

 

 銃塔が、痙攣した。

 

 発砲を続けながら、ありもしない標的へと首を振った。

 

「おい、まだ三十路並みに元気だぞ!」

 

 ザク少年が叫んだ。

 

「心配すんな、過労死の前兆だ!」

 

 軍刀が刀を引き抜いた。

 

 同時に、腰の対物拳銃を抜いた。

 

「さ、ホワイトに行かせてやるよ」

 

 至近距離の銃声が、三つ続いた。

 

 銃塔の基部で、何かが破裂した。

 

 黒煙が上がった。

 

 軍刀はその煙の中から飛び降り、膝をついて衝撃を殺した。その背を、別の銃口が狙った。

 

 白い袖が、翻った。

 

 その両手で、二挺の拳銃が黒々と口を開いた。いまだ火を噴かぬ銃口の、その暗い奥底にだけ、冷たい闘志が滾っている。

 

 リベリオンは、銃を構えて立ってはいなかった。

 

 すでに動いていた。

 

 左足を引く。

 

 半身になる。

 

 右腕が、軍刀の背を狙う銃口へと伸びた。

 

 一発。

 

 敵の銃が跳ね上がる。

 

 リベリオンの左腕は、そのときには、右腕の下を潜っていた。

 

 二発目。

 

 別の敵の肩が、後ろへ弾けた。

 

 白い学ランが、車体の影へ入る。弾丸がその裾を追い、しかしそこにあったはずの体は、もう横へとずれている。

 

 肘が曲がった。

 

 銃口だけが、肩越しに後ろを向いた。

 

 発砲。

 

 背後の窓で、銃が落ちた。

 

 リベリオンは振り返らなかった。

 

 右手の拳銃を胸元へ引き、その銃底で、路地から飛び出した生徒の手首を打った。相手の引き金が空を撃つ。リベリオンはその腕の内側へ入り、左の銃口を、相手の防弾装備へと押し当てた。

 

 撃った。

 

 相手は、息を吐き出すような声とともに、壁へ崩れた。

 

 白い学ランの前は、喉元まで閉じられていた。

 

 その白だけが、硝煙のなかで、ひどく冷静だった。

 

「右、上!」

 

 軍刀が叫んだ。

 

「見えてる」

 

 リベリオンの両腕が、左右へ開いた。

 

 銃声が、同時に響いた。

 

 窓と屋上で、二つの銃口が退いた。

 

 その下を、軍刀が駆けた。

 

 後方から、重い笑い声がした。

 

「いい眺めだ。初日の出をラブホで見たみてえだ」

 

 コマンドーだった。

 

 彼は、遮蔽物に隠れてはいなかった。

 

 道路の中央へ、太い脚を踏み出していた。

 

 肩から下ろした機関銃、その黒い銃身が、両腕のなかでゆっくりと持ち上がる。筋肉が膨らんだ。腕だけではない。胸、背、首、その全身が、これから来る反動を、すでに待ち構えていた。

 

 銃口が、開いた。

 

 爆音だった。

 

 一発一発の銃声が繋がり、ひとつの轟きとなって、交差点の奥へ叩きつけられた。

 

 薬莢が飛んだ。

 

 金色の殻が、男の足元へと降り注ぐ。

 

 弾帯が、踊った。

 

 銃はその鋼の腹へ、次々に弾丸を呑み込んでいった。

 

 コマンドーは、止まらなかった。

 

 一歩。

 

 もう一歩。

 

 その肩は、銃床を受けたまま、後ろへ引かない。筋肉に埋もれた首の上で、男の顔だけが、まるで重い荷物を運んでいるだけのように平然としていた。

 

 無人車両のセンサーが砕けた。

 

 装甲の表面に、火花が走った。

 

 敵の生徒たちが車体の陰へ飛び込み、その頭上で、看板の支柱が折れた。

 

「おい! 上、落とすな! 看板娘じゃねえんだぞ!」

 

 軍刀が怒鳴った。

 

 コマンドーは、銃口を少し下げた。

 

「ご注文がメイド喫茶なみに雑だな」

「てめーのマチズモでメイドを語るか! 俺は清楚ヤリ○ン派だぞ?」

 

 ザク少年は、その弾幕の端を走った。

 

 右手にマシンガン。

 

 左手には、ヒート・ホーク。

 

 斧の刃が、赤くなっていた。

 

 紅蓮とは、そういう色なのだろうと、ザク少年は思った。炎が揺らめくのではない。鋼そのものが熱を帯び、その内側に、静かな火を飼っている。

 

 モノアイが、次の装甲車を捉えた。

 

 正面からは、まだ撃てる。

 

 側面からも、まだ狙われる。

 

 ザク少年は、上を見た。

 

「軍刀!」

「何だ!」

「首、引っ込めろ、亀頭みてえに! 飛ぶから!」

 

 返事を待たず、噴射した。

 

 車道が遠ざかった。

 

 ザク少年の脚が、装甲車の屋根より高く上がった。

 

 銃塔が仰角を取る。

 

 その機械の目が、空の青を背負ったザク少年を追った。

 

 遅かった。

 

 ヒート・ホークが、落ちた。

 

 赤熱の刃が、銃塔の基部へと噛みついた。

 

 金属の悲鳴がした。

 

 鋼が熱を受け、引き裂かれ、その裂け目から、白い煙と火花が噴き出した。

 

 ザク少年は、斧を引かなかった。

 

 着地の重さを、そのまま刃へと押し込んだ。

 

 青黒い肩が沈んだ。

 

 脚部のスラスターが、もう一度、短く吼えた。

 

 銃塔が、折れた。

 

 黒い砲身が、車体の横へと垂れ下がった。

 

 ザク少年はその上に立ち、マシンガンを交差点へ向けた。

 

 赤いモノアイが、硝煙の向こうを見下ろした。

 

「次。」

 

 銃声が、撃ってきた。

 

 弾丸が胸部装甲に当たった。

 

 ザク少年の上体が揺れた。

 

 それだけだった。

 

「てめえ?」

 

 マシンガンが火を噴いた。

 

 敵の遮蔽、その縁を、弾丸が削った。

 

 相手が身を引く。

 

 そこへ軍刀が入った。

 

 刀の峰が銃を叩き落とし、その柄頭が、相手の胸元へと突き込まれた。

 

 生徒が倒れた。

 

 軍刀は、ザク少年を見上げた。

 

「いちいち返事すんな! Botならエロくねえと意味ねえぞ!」

「うるせえ! 放置プレイを順番待ちさせてんだよ!」

「大人気だな! 排便は握手会付きか?!」

「糞に挨拶するのかテメエは?」

 

 リベリオンの銃声が、その間を縫った。

 

「喋るなら、手を動かせ。オナ○ーよりも動いてないぞ」

「動かしてんだろ! 俺のオ○ニーは十万円かけてんだよ! ちったあ喋らせろ!」

「口の方が多い。テメエのフェラなら明太子相手にやれ」

 

 空になった弾倉が、二つ落ちた。

 

 リベリオンの両手が、白い学ランの裾へと下がる。

 

 次の瞬間には、新しい弾倉が収まっていた。

 

 銃口が上がった。

 

 

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