地球、それは希望。   作:ふじら

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第10話 別れる悲しみ、出会う幸せ

宇宙世紀0079年9月24日 1130

 

 太陽が輝く青空の下、スガイとハナは基地の屋上に立ち、眼下に広がる街を眺めていた。

 

 その空はどこまでも青かった。

 

 昨日まで戦闘が行われていたとは思えない程、街には穏やかな日差しが降り注いでいる。

 

 だが、目を凝らせば崩れた建物や黒く焦げた壁が視界に入る。

 

 戦闘の痕跡は街の至るところに残されていた。

 

 二人の後ろでは少し離れてリルが携帯デバイスを操作していた。

 

 これからの移動に備え、仕事内容や研究機器の管理について、改めて確認しているらしい。

 

 そんな彼女を他所にスガイは街を見つめたままようやく口を開いた。

「……お別れだね」

 

「そうだね」

 ハナもまた苦しそうに街を見つめていた。

 

 二人にとってこの土地は単なる居住地ではなかった。

 

 幼い頃から一緒に過ごしてきた場所だ。

 

 同じ幼稚園に通い、同じ学校へ進み、一緒に道を歩いた。

 

 家族ぐるみの付き合いであった為、互いの家に泊まったのも一度や二度ではない。

 

 シンヤの家にはハナとの思い出があり、ハナの家にはシンヤとの思い出があった。

 

 部屋に飾られた写真。

 

 何気なく置かれた小物。

 

 いつも通っていた道。

 

 二人で何度も歩いた通学路。

 

 当たり前であり、態々大切だと意識することも無かったもの。

 

 それらが今はもう手の届かない場所にある。

 

 二人の家は戦争に巻き込まれて焼け焦げ倒壊していた。

 

 あの日、何も持たずに逃げ出した二人は殆どのものを置いてきてしまった。

 

 戻れば何かしら残っているかもしれない。

 

 写真の一枚くらいは、瓦礫の下から見つかるかもしれない。

 

 幼い頃に使っていた品も運よく焼け残っている可能性はある。

 

 けれど二人は戻れなかった。

 

 そこに残っているのは思い出の品だけではないからだ。

 

 両親の遺体。

 

 見知った人々の遺体。

 

 同じ学校に通っていた友人達のもう二度と動かない姿。

 

 思い出の場所へ帰ればそれらを目にしてしまうかもしれない。

 

 ハナはそれを真正面から受け止めることができなかった。

 

 シンヤもまた、振り返ってはいけないのだと自分に言い聞かせていた。

 

 昨日のリルの言葉が頭の中に浮かんでくる。

 

 戦時中なんだから、あなたたちの親だって、そういう危険があることくらい覚悟していたでしょうし。

 それに二人とも生き残った。

 それだけでも親からしたら万々歳よ。

 

 

 ずいぶんと率直な言葉で、言い方も決して優しいとは言えなかった。

 

 それでも不思議なほど胸にすっと落ちてきた。

 

 リルはシンヤやハナの悲しみを軽く扱いたかった訳ではない。

 

 自分自身にも何かを抱えているような彼女が、それでも自分達のことを真剣に考え、言葉を選んでくれた。

 

 その事がシンヤには嬉しかった。

 

 そしてもう一つ。

 

 

 

 昨日三人で街へ出かけたこと。

 

 

 

 兵士達に囲まれ、散々騒がれ、落ち着いて食事をする事さえ難しかったけれど、それでも楽しかった。

 

 

 ハナと一緒に街を歩いたことも、リルと冗談を言い合ったことも。

 

 戦争が始まってからそんな時間を過ごせるとは思っていなかった。

 

 失ったものを取り戻すことはできない。

 

 過去に戻ることもできない。

 

 それならば。

 

 今、自分のそばにいる人たちを大切にすること。

 

 これから先に残されている時間を少しでも大事にすること。

 

 それが今の自分にできることなのかもしれない。

 

 勿論そんなことを考える自分自身に違和感がない訳ではなかった。

 

 まだ十七歳の自分に何が分かるというのだろう。

 

 大人になりきってもいない人間が、人生について何かを悟ったような顔をしていいのだろうか。

 

 それでも自分なりに答えを見つけなければ前へ進めない。

 

 シンヤは隣に立つハナへと視線を向けた。

 

「ねえ、ハナ」

 

「……シンヤ?」

 

「また戻ってこようね」

 

 スガイの言葉にハナは少しだけ目を見開いた。

 

 それから街へと視線を戻し小さく頷いた。

 

「……そうだね」

 

 二人はもう一度だけ街を見つめた。

 

「「また……」」

 

 その先の言葉は、続かなかった。

 

 けれど今はそれでよかった。

 

 また戻ってこよう。

 

 今度こそ何も恐れずに家まで歩ける日が来ることを願って。

 

 二人は胸の中で静かに約束を交わした。

 

 

 

 

 

 

 二人から少し離れた位置でリルは携帯デバイスの画面を見つめていた。

 

 そこに表示されているのはスガイと出会ってから彼女が逐一記録したモノ。

 

 彼の精神状態に関する観察データだ。

 

 発言内容、視線の動き、行動の変化。

 

 会話中の反応や特定の話題に触れた際の表情の変化。

 

 それらが簡潔な記録とグラフにまとめられている。

 

 研究任務の一環としてリルはシンヤを注意深く観察していた。

 

 彼が自分に対して積極的に質問するようになったこと。

 

 時折、何かを決意したかのような目をすること。

 

 そして昨日の食事の席で両親の話題に触れた際に見せた表情。

 

 彼女はそれらを一つひとつ思い返していた。

 

「……精神状態、やや不安定」

 画面を操作しながら小さく呟く。

 

「でもこれは単純な悪化じゃないわね。喪失への適応と心理的な成長による変化……」

 教育学校で学んできた用語を彼に当て嵌める。

 

 

 彼女は顔を上げシンヤの背中を遠巻きに見つめた。

 

 

 十七歳。

 

 

 まだ子供と呼ばれてもおかしくない年齢だ。

 

 

 それなのに彼は戦場に立ち、人の命を奪い、仲間の生死を背負っている。

 

 そのうえ自分の悲しみを抱えながら、他人のことまで気にかけようとする。

 

「……シンヤ。あんた、ちょっと大人になりすぎよ」

 

 誰にも聞こえないほどの声でそう呟いた。

 

 それは研究者としての所見だったのか。

 

 それとも彼を見つめる一人の人間としての感想だったのか。

 

 リル自身もまだ判然としていなかった。

 

 

 

 

 

 1130

 

「おーらい! おーらい! そのまま、そのまま!」

 

 基地の車両集積所では整備兵たちが慌ただしく動き回っていた。

 

 大型トレーラーの荷台へグラマンがゆっくりと積み込まれていく。

 

 機体の周囲には誘導を担当する兵士達がおり、車体と機体の位置を慎重に確認していた。

 

 グラマンに自分を乗せて自走させず、トレーラーで輸送するのは移動中に敵から発見される危険を減らすためらしい。

 

 エンジン音や排気、機体の動きなど、余計な手掛かりを敵に与えないための措置だった。

 

 一番は10mを優に超える兵器が歩いているという視覚的要因だが。

 

 

 まあそうだよなぁ。

 

 スガイは少し離れた場所からその様子を眺めていた。

 

 動かしたかったなぁ。

 

 彼はグラマンに乗れないのが寂しいと感じている、なにせ死戦を三度乗り越えた愛機だ。

 

 初めて会った時と姿は変わっても魂は変わらない。

 

 次はいつ乗るんだろう。

 

 彼が乗るということは任務に着くとき、接敵し戦闘になるかもしれない実状況だがそれでも彼は乗りたいという欲求の方が強かった。

 

 彼は愛機の体の変化に気づく。

 

「綺麗になってる……」

 

 昨日までの機体には戦闘で付着した土埃がこびりつき、塗装が剥がれた箇所もあった。

 

 それが今では見違えるほど綺麗になっている。

 

 損傷の確認や整備だけでも大変だったはずなのに、短い時間でここまで仕上げてくれたのだ。

 

「よっ! 英雄!」

 背後から声をかけられスガイは振り返った。

 

 そこにいたのは一人の整備兵だった。

 

 見覚えがある。

 

 昨日、街のレストランで真っ先にスガイを見つけ、周囲の兵士たちを巻き込んで騒ぎを起こしたあの男だ。

 

「どうだぁ? 映えるもんだろ?」

 

 整備兵は得意げに胸を張った。

 

「はは……こんなに綺麗にしてくれて、ありがとうございます。それと昨日は楽しかったです」

 

「そうかぁ? 俺には途中から逃げ出したそうに見えたけどな」

 

「ははは……」

 スガイは苦笑いを浮かべた。

 

 どうやら、この整備兵は、スガイが昨日どれだけ困っていたのか、最初から分かっていたらしい。

 

「まあ悪く思うなよ。みんなああいう騒ぎが久しぶりだったんだ」

 

「久しぶり……ですか?」

 

「ああ。ここじゃあ誰が死んだだの、何処が劣勢だの、そんな話ばっかりだ。たまには景気のいい話で盛り上がりたくもなるさ」

 

 整備兵はトレーラーに固定されていくグラマンを見上げた。

 

「それにお前はまだ十七なんだろ?」

 

「……はい」

 

「軍隊の教育を受けたわけでもないのにモビルスーツに乗って戦ってる。しかもあんな戦果まで挙げちまった。俺たちだって……気にならないわけがないだろ」

 

 その言葉にスガイは返事をしなかった。

 

「本当ならもっと普通の生活を送っててもおかしくない年頃だ。悩みだってあるだろうし、怖いことだってあるだろう。なのにお前は戦場へ行く、行かなきゃならない」

 

 整備兵は少しだけ表情を和らげた。

 

「俺たち整備兵は、直接前線で戦うわけじゃない。お前の代わりに敵と撃ち合うこともできない。だからせめて戻ってきたときに機体を綺麗にする。飯を食うときくらいは余計なことを忘れさせてやる。そういうのも後方にいる人間の仕事だと思ってるんだ」

 

 シンヤは思わず彼の顔を見つめた。

 

 昨日の騒ぎもただ英雄を持ち上げて楽しんでいただけではなかったのだ。

 

 あの場にいた兵士達はシンヤを一人の若い人間として気にかけていた。

 

 彼が戦場で何を見て、何を感じ、何を抱えているのか。

 

 全てを理解できるわけではない。

 

 それでも、少しでも気持ちを軽くしてやりたいと思っていたのだろう。

 

 戦場へ送り出す側の人間にできる、ささやかな援護。

 

 それが昨日の騒がしさの正体であった。

 

 

 

「……ありがとうございます」

 

 スガイは頭を下げた。

 

「おう、礼なら次の戦場で無事に帰ってきてからにしな」

 

「はい」

 

「じゃ、頑張れよ!」

 

 整備兵は豪快に手を振ると再び作業場所へと戻っていった。

 

 シンヤはその背中を見送った。

 

 胸の奥にほんの少しだけ温かいものが残っていた。

 

 

 

 

 1145

「シンヤ! お待たせ!」

 

 声のした方を振り向くと、ハナとリルがこちらへ駆け寄ってくるところだった。

 

 ハナの荷物はずいぶんと少なかった。

 

 あの日逃げ出したときに何も持ち出せなかったのだから当然といえば当然だ。

 

 今自分とハナの二人が持っているのは当時着ていた服と財布、携帯デバイス。それに昨日の外出のために用意してもらった服が少し。

 

 昨日着ていた服はハイマン司令が難民支援用の予算から手配してくれたものだった。

 二人が最低限の生活を送れるよう市場で必要な品を調達してくれたのである。

 

 ハナは女の子だから櫛などの身の回りの品も持っている。

 けれど以前の生活と比べれば手元にあるものはあまりにも少ないのは明白だ。

 

 

 

 一方、リルはというと。

 

「あっーーーーー重い!」

 女の子らしからぬ野太い声を上げながら大きなボックスを抱えて歩いていた。

 

 スガイは思わず目を丸くした。

 

「……大丈夫?」

 

「大丈夫ぢゃなーーい」

 

 

 彼女も空から飛び降りてきたあの日は携帯デバイスと財布以外、殆ど何も持っていなかった。

 

 だがその後、研究報告に使用する機器類やこちらへ来る前に用意していた日用品などが加わったらしい。

 

 その結果三つものボックスを運ぶ羽目になっていた。

 

「手伝うよ、これは僕たちと同じトラックでいい?」

 

「ありがとう、それでいいわ」

 

 シンヤは荷台の手すりをしっかりと掴み、軍用トラックの後部へと登った。

 

「持ち上げるわよ。重いから気をつけて」

 

「はい」

 

「せーのっ!」

 

 二人で力を合わせ、ボックスを一つずつ荷台へ押し込んでいく。

 

 どこかをぶつけたり手を挟んだりすることもなく、三つ全てを積み終えることができた。

 

 スガイは荷物に目を向けた。

 

 ボックスには養生テープが貼られ、油性ペンで『リル・ソマーズ曹長』と名前が書かれている。

 

 更には内容物まで分かるように記載されていた。

 

 衣類。

 

 日用品。

 

 機器類。

 

 きちんと分類され、どの箱に何が入っているのか、一目で分かるようになっている。

 

「へえ、マメだなぁ」

 

 軍隊ではこうやって荷物を管理するのが普通なのだろうか。

 

 それともリルが几帳面なだけなのだろうか。

 

 そんなことを考えながら箱を見ているスガイ、リルはその視線に気づいていた。

 

 

 

 

 

「先発はあと10分!! 乗り込めぇ!」

 

 

 兵士達が周囲に響き渡る声で乗車を促す。

 

 

「じゃっ乗るわよ!」

 リルは慣れた動きで荷台に乗り込んだ。

 

「えっ、えーと!」

 続くハナは不安そうに手すりを掴み、ゆっくりと登る。

 

「はい」

 僕はハナに手を伸ばした。

 

「ありがとう」

 ハナはよいしょと言いながら僕の手を握り、荷台に乗り込んだ。

 

 

 三人は荷台に備え付けられた椅子に腰を下ろす。

 

 

「シンヤ?」

 リルは彼の名前を呼んだ。

 

「ん? なに?」

 

「さっき、私のボックス見てたわよね」

 

「え? あ、うん」

 

「衣類と日用品の中身を見るんじゃないわよ? 私も女だからね、それ相応のモノぐらい入ってるわ」

 

「いっ!」

 思わず顔が赤くなる。

 彼の頭の中は一瞬にして、彼女の指すそれ相応のモノという概念に支配され、思春期らしい男の思考に至った。

 

「え、シンヤ。覗こうとしたの?」

 

「違うよ! してない! してない!! その……テープが貼ってあったから、何書いてるのかなって」

 

「シンヤ、焦りすぎだよ。ふふっ」

 

「冗談に決まってるじゃない。誰もあんたが覗き見るようなことすると思ってないわよ」

 

「なら最初から言わないでよ……」

 僕が抗議するとリルは楽しそうに肩をすくめた。

 

「言ったら反応が面白そうだったんだもの、実際面白かったし。仕方ないでしょ?」

 

「仕方なくないよ……」

 ハナは口元を押さえて笑っていた。

 

 そんなやり取りをしている間にも、荷台の外では兵士たちが積み荷を固定し、車両の周囲を確認していた。

 運転手と打ち合わせをする者もいれば別の車両へ駆けていく者もいる。

 

 やがて出発を知らせる合図が響いた。

 

 エンジンの音が一斉に大きくなり車体が小さく揺れる。

 

 僕たちを乗せた輸送車両はゆっくりと動き始めた。

 

 荷台の隙間から見える景色が少しずつ後ろへ流れていく。

 

 しばらくの間僕たちは黙って車両の揺れに身を任せていた。

 

 やがてリルが自分の荷物から包みを取り出した。

 

「はい、二人とも」

 

「え?」

 

 差し出された包みを見て、僕は首を傾げた。

 

「パンよ。三人分、用意しておいたの」

 

「三人分も?」

 

「そうよ。移動中にお腹が空くのは分かってたから、多分お昼休憩もないから」

 

 リルは当然のことのように言いながら包みを僕とハナに手渡した。

 

「ありがとう、リルちゃん!」

 ハナは嬉しそうに受け取った。

 

「どういたしまして。ちゃんと食べなさいよ? 食べ損ねて、あとでお腹が空いたなんて言われても困るから」

 

「うん!」

 ハナは包みを開きパンを手に取った。

 

 それからふと何かに気づいたようにリルを見つめた。

 

「……リルって、やっぱりお母さんみたい」

 

「は?」

 包みを開くリルの手が止まった。

 

「だって荷物もきちんと整理してるし、私たちの分までお昼ご飯を用意してくれてるし……。なんだか私達のことを気にかけてくれるから」

 ハナは少し照れくさそうに笑った。

 

「えへへ、やっぱりお母さんみたいだね」

 

「ちょっと待ちなさい、なんでそうなるのよ」

 リルは眉を寄せた。

 

「私はただ、必要だと思ったから用意しただけよ。別にあんた達の世話を焼こうとしたわけじゃないんだから!」

 

「でも三人分用意してくれたんでしょ? 世話焼いてるじゃん」

 僕がそう言うとリルはすぐにこちらを向いた。

 

「シンヤ、あんたは黙って食べなさい!」

 

「はい……」

 思わず背筋を伸ばしてしまった。

 

 ハナはそんな僕たちを見てくすくすと笑っている。

 

「ふふっ。やっぱりお母さんみたい」

 

 ハナはパンを胸元で大切そうに持った。

 

「……まったく。あんた達、放っておくと何をするか分からないんだから」

 

 そう言いながらリルもパンを食べ始める。

 

「だからこれは単なる合理的な判断よ。食事を抜いて体調を崩されたら、こっちまで面倒になるでしょう?」

 

「うん、ありがとうリル」

 

「ありがとうリルちゃん」

 

「……はいはい」

 リルはそっぽを向いた。

 

 

 僕にはそんな彼女の耳がほんの少し赤くなっているように見えた。

 

 リルは口ではああ言っているけれど僕たちのことをよく見ている。

 

 荷物の準備も、食事の用意も、きっと本人が思っている以上に周りを気にかけているからこそできることなのだろう。

 

「……何よ、シンヤ」

 

「いや、別に」

 

「また何か余計なこと考えてるでしょ」

 

「考えてないって」

 

「本当かしらね」

 

 リルは疑わしそうに目を細めた。

 

 ハナはパンを食べながら楽しそうに笑っている。

 

 車両の揺れに合わせて、荷台の椅子が小さく軋んだ。

 

 外では何台もの輸送車両が一定の間隔を保ちながら走っている。

 先頭の車両に続き、物資を積んだトラックや人員輸送車が列を作り、遠くまで続いていた。

 

 僕はパンを食べ終え、荷台の幌の隙間から後ろを眺めた。

 

「それにしてもずいぶん長い輸送隊だね、かっこいい」

 

「これだけの人数と荷物を運ぶんだもの、当然でしょ」

 

 リルは包みを畳みながら答えた。

 

「車両ごとに運んでいるものも違うでしょうし、積み荷の確認や故障への備えも必要になるわ。全員が無事に目的地へ着く為にはこういう準備が大事なのよ」

 

「頭いいねリル」

 

「これくらい少し考えれば分かることでしょ」

 リルは何でもないように言った。

 

 僕はもう一度、後ろを走る車両に目を向けた。

 

 沢山の人が、それぞれの役割を果たしながら、同じ目的地を目指している。

 

 その中には僕たちの知らない事情を抱えた人もいるのだろう。

 それでも、こうして同じ車列に乗り合わせ同じ道を進んでいる。

 

「……みんな、無事に着けるといいね」

 

 ハナが静かに言った。

 

「そうだね」

 

 僕はうなずいた。

 

 リルも今度は茶化すことなく前方を見つめていた。

 

「まあ、今から心配しても仕方ないわ。着いたらまず荷物を確認すること。勝手にどこかへ行かないこと。何かあったら、ちゃんと私に相談すること」

 

「……リル?」

 

「何よ」

 

「やっぱり、お母さんみたい」

 

「だから違うって言ってるでしょ!」

 

 恥ずかしがっているリルの声が荷台に響く。

 

 ハナは声を上げて笑い、僕も思わず吹き出してしまった。

 

「シンヤまで笑わない!」

 

「ごめん!」

 

「もう……本当に、あんた達は!」

 

 そう言いながらもリルの表情には、どこか呆れたような、それでいて柔らかな雰囲気があった。

 





素人分ながら読んでいただきありがとうございます。
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