地球、それは希望。   作:ふじら

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第16話 空港占拠

 宇宙世紀0079年9月27日 上空

 

 

 

 仁川空港へ向かう超音速輸送機の内部は、出発時とは比べものにならないほどの騒ぎに包まれていた。

 

 機体の外壁を叩く風切り音。

 

 計器類の電子音。

 

 そして通信回線から聞こえてくる怒号と銃声。

 

 その全てが重なり、輸送機の中はひどい有様だった。

 

 

 

「じゃっ!! シンヤくん! お願いね!!」

 

 グラマンのコックピットに座るスガイ。

 

 その目の前のモニターには、輸送機の貨物区画から通信を繋いだミヤザキ大尉が映っていた。

 

 彼女は満面の笑みでピースサインを掲げている。

 

「ちょちょちょ! 本当に行くんですか!?」

 

 俺は震えながら操縦桿を握りしめた。

 

「行くも何も、もう決定事項よ!」

 

「この行き遅れアラサー! 馬鹿じゃないの! 本当にパージするなんて!」

 

 リルが怒鳴った。

 

 その隣ではハナが青ざめた顔でモニターを見つめ、ノエルは軍用ノートパソコンを抱えて刻一刻と更新される戦況データを追っていた。

 

「言ったでしょ! 非常時にはあり得るって!」

 

「にしても早いわよ! 伏線回収が早すぎるでしょ!」

 

 リルの言葉には、もはや怒りを通り越した呆れが混じっていた。

 

 そもそも何故こんな事態になっているのか。

 

 話は仁川空港への接近を始めた直後に遡る。

 

 

 

 

 

 

 当初の任務は、極東方面で発生した戦闘に対する救援活動だった。

 

 スガイたちの搭乗するグラマンを仁川空港へ送り届け、現地部隊と合流させる。

 

 その後は現地の指揮系統に従って戦闘に参加し、孤立した友軍の救援と敵部隊の排除を支援する。

 

 それが本来の計画だ。

 

 ところが仁川空港に接近した輸送機が受信した通信は、当初の想定を大きく覆すものであった。

 

「こちら仁川空港警備隊! 敵モビルスーツ部隊が滑走路周辺に侵入! 繰り返す、敵モビルスーツ部隊が侵入中!」

 

 通信には激しい銃撃音が混じっていた。

 

「滑走路の一部が使用不能! 地上部隊は交戦中! 航空機の着陸誘導は困難!」

 

 続いて飛び込んできたのは別の部隊からの救援要請だった。

 

「こちら歩兵第一中隊! 敵モビルスーツの攻撃を受けている! 対MS火器が不足している! このままでは防衛線が」

 

「航空戦力は全て破壊された!! 攻撃ヘリもだ!!」

 

 そこで通信が途切れた。

 

 

 輸送機の操縦席にいたミヤザキ大尉、彼女はしばらく黙っていた。

 

 モニターには仁川空港周辺の戦術情報が次々と表示されていく。

 

 敵のモビルスーツが空港周辺に展開し連邦の地上部隊と交戦している。

 

 更には対空陣地も稼働しており、この輸送機が通常の着陸進入を行えば、攻撃を受ける可能性が高い。

 

 つまり空港の滑走路は使用不可能。

 

 

 

 

 

「……なるほどねぇ」

 

 ミヤザキは頬杖をつき、画面を睨んだ。

 

「予定通りに降りて、グラマンを下ろして、それから出撃……なんて悠長なことをやってる時間はない訳ね」

 

 彼女は現地部隊との通信を試みていたが返ってくるのは断片的な報告ばかりだった。

 

 地上の混乱は激しく、着陸地点の安全を確保できる見込みも立たない。

 

 仮に無事に着陸できたとしても、グラマンを搬出し、整備員が安全確認を行い、スガイたちが出撃準備を整えるまでには時間がかかる。

 

 

 

 その間にも地上では友軍が戦っている。

 

 

 

「なら運んで届けるんじゃなくて、直接戦場に届ければいいじゃない」

 ミヤザキはあっさりと言った。

 

 その場にいた輸送担当者はぎょっとした顔で振り返る。

 

「……大尉。まさか投下するおつもりですか?」

 

「ほかに手がある?」

 

「ですが、機体への衝撃が……」

 

「なら計算して。投下高度、降下速度、着地地点。グラマンが耐えられる条件を洗い出すのよ」

 

「パラシュートや減速装置はありませんが!?」

 

「だから、できるだけ低空で落とすのよ!!」

 

「できるだけ、って……!」

 

 ミヤザキは聞く耳を持たなかった。

 

 もちろん、無謀な思いつきだけで決めたわけではない。

 

 通常の着陸が困難な以上、グラマンを戦場へ投入するには、空中からの直接投下が最も早い。

 

 グラマンが機体の重量と着地衝撃に耐えられれば、地上部隊が出撃準備を整える時間を丸ごと省ける。

 

 それに、敵が空港を制圧しようとしている今なら、戦場に突然現れるモビルスーツは、敵の予想を裏切る一手にもなる。

 

 問題は成功するかどうか。

 

 そしてその問題を解決するための計算は現在進行形で行われていた。

 

 

「大尉! 計算上は機体が着地の衝撃に耐えられる可能性はあります! ただし地面の状態や進入角度によっては脚部が破損する恐れが――」

 

「よし!! ならいけるわね!」

 

「まだ説明は終わっていません!」

 

 こうしてスガイたちの意見を聞く暇もなく、作戦は実行に移されることとなった。

 

 

 

 

 

 そして現在。

 

 その無茶苦茶な計画の当事者であるスガイは、これから自分が落とされるという事実を、ようやく理解し始めていた。

 

 

「いや、待ってください! 俺が乗ってるんですけど!? 人命第一!」

 

「もちろん知ってるわよ!」

 

「知っててやってるのが一番怖いんですよ!! なんでそんな指示飛ばせるんですか!?」

 

「大丈夫! 低空飛行だから!! 衝撃は計算上、耐えられるはずよ!」

 

「いや普通に考えて、約七十トンの機械が落ちて、無事で済むわけないでしょうが!!」

 

 リルの叫びが、通信回線に響き渡る。

 

「ていうかノエル! 現地の状況は!?」

 

「最悪です!」

 

 ノエルはノートパソコンの画面をスガイのモニターへ共有した。

 

 映し出されたのは仁川空港の上空映像。

 

 滑走路の周辺には対空陣地が展開され、地上ではジオン軍のザクが友軍部隊と交戦している。

 

 曳光弾が空を横切り対空砲火が輸送機の進路をかすめていく。

 

「対空砲火が凄いですよ! それに滑走路の周辺まで敵が入り込んでます! これジオンに空港を取られかけてるんじゃないですか!?」

 

「こ、これ……シンヤが降りても大丈夫なの?」

 

 ハナが不安そうにスガイを見た。

 

「大丈夫じゃないと思うんだけど……!」

 あまりの状況に顔が引き攣る。

 

「弱気にならないの! シンヤくんならやれるわ!」

 

「根拠がないですよね!?」

 

「あるわよ! ……私の勘ッ!!」

 

「一番信用できないやつじゃないですか!!」

 

 俺は叫びながらモニターに映る空港を凝視した。

 

 地上では対空砲火が絶え間なく空へ向けて放たれている。

 

 そして空港の一角には、こちらへ砲口を向けているように見える対空陣地があった。

 

 もうあの人たちと目が合ってない?

 合ってるよね、確実に!!

 

 

「大尉! あれ、こっちに撃ってません!?」

 

「友軍にはシグナルを送っとくから!!」

 

「いや、そういう問題じゃ――」

 

 

 

「じゃあ! レッツゴー、パージ!」

「へ?」

 スガイが間の抜けた声を漏らした瞬間だった。

 

 グラマンを固定していたコンテナ下部のロックが解除される。

 

 鈍い金属音とともにハッチが開いた。

 

「ちょっと待っ――」

 

 足元から、地面が消えた。

 

「ぎゃああああああああああっ!!」

 

 グラマンはコンテナから切り離され、仁川空港へ向かって落下を始めた。

 

 コックピットに警告音が鳴り響く。

 

 俺は必死に操縦桿を握り計器を確認した。

 

 視界いっぱいに広がる地上。

 

 迫り来る滑走路。

 

 そしてこちらを見上げる敵味方の兵士たち。

 

 

 

 

「も、漏れっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 輸送機の中ではリルが頭を抱えていた。

 

「うっそでしょ……! 本当に落としたわよ、あの女!! 輸送機から落とされるのがどれだけ怖いか知らないの!?」

 

「シンヤ!!!」

 

 ハナが祈るように両手を握る。

 

「大丈夫かどうかは、着地してから考えるしかありませんね……」

 

 ノエルは青ざめた顔で、落下するグラマンの機体情報を追い続けていた。

 

 その横でミヤザキ大尉だけが満足そうに頷いている。

 

「よし。これで救援任務は予定どおりね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジオン軍 仁川空港侵攻部隊

 

「隊長!! 空からザクが!」

 

「何言ってんだ! 幻覚見てんじゃねえ!!」

 

「隊長! 空から! 空から来ます!!」

 

「だから何だってんだ!!」

 

 怒鳴り返した隊長は、部下が指差す空を見上げた。

 

 次の瞬間、その顔が凍りつく。

 

「……ああん!?」

 

 空から迫る巨大な影。

 

 見慣れたモビルスーツの輪郭。

 

 だが飛行しているわけでもなければ通常の降下作戦でもない。

 

 

 

 ただ、落ちてくる。

 

 

 

 ものすごい勢いで。

 

 

 

「「ザクだぁぁああああ!!??」」

 

 ジオン兵達の絶叫が重なった。

 

 次の瞬間。

 

 

 グラマンは落下彗星のごとく戦場へと突っ込んだ。

 

 

 轟音。

 

 

 舞い上がる土煙。

 

 

 地面を揺るがす衝撃。

 

 

 仁川空港の戦場に場違いなほど派手な着地音が響き渡った。

 

 

 

 こうして極東へ救援に向かった一機のモビルスーツは、誰も予想していなかった方法で戦場、敵陣のど真ん中へ到着したのだった。

 

 

 

 

 

 

 宇宙世紀0079年9月27日 1630

 

 轟音と共に巨大な影が滑走路へと落下した。

 

 着地の瞬間、地面が爆ぜる。

 

 砕けたアスファルトが飛び散り、猛烈な土煙が周囲を覆い尽くした。

 

 衝撃で機体が大きく揺れ、脚部のサスペンションが悲鳴を上げる。

 

 金属の軋む音がコクピットにまで響いた。

 

「うおっ……!」

 

 操縦桿を握りしめ必死に機体の姿勢を維持した。

 

 やがて土煙が薄れ視界が戻ってくる。

 

「……着地成功……か? 大丈夫だよな!?」

 

 モニターに表示された機体情報を確認する。

 

 脚部に黄色の警告表示。

 

 特に足裏の負荷が大きかったらしい。

 

 だが関節部や駆動系に致命的な損傷は見られない。

 

 スラスターも正常に作動している。

 

 少なくとも動けなくなるような事態は避けられたようだ。

 

 

 

「ベルトの固定、もう少し緩かったら頭ぶつけてたぞ……!」

 

 俺は悪態をつきながらシートベルトを確かめた。

 

 ミヤザキ大尉の顔が脳裏をよぎる。

 

 

 

 あの人、絶対に後で覚えてろよ。

 

 

 

 そう思いながらも、俺はすぐに気持ちを切り替えた。

 

 周囲から銃声が聞こえる。

 

 爆発音。

 

 金属が砕ける音。

 

 兵士たちの怒号。

 

 自分が居るのは戦場のど真ん中。

 

「……冗談抜きで、最悪の立地だな」

 

 俺はブルパップ・マシンガンを構え、周囲を確認する。

 

 破壊された旅客機が誘導路の脇に横たわり、その向こうでは格納庫の一部から黒煙が上がっていた。

 

 滑走路の各所には爆撃で生じた穴が開き、連邦軍の兵士たちが車両やコンクリート製の遮蔽物に身を隠している。

 

 そしてその間を縫うように動く機影があった。

 

 

 

 ザクⅡ。

 

 ジオン公国軍の主力モビルスーツだ。

 

「……敵は、まだ俺に気づいてない?」

 

 土煙に紛れているせいか、敵機の一部はこちらに背を向けていた。

 

 俺はマシンガンを構え直す。

 

 まずは目の前の敵をどうにかする。

 

 

 

 

 

 

 

「隊長! あれは何ですか!?」

 

 旅客機の残骸を盾にしていたザクのパイロットが、突然現れた機体を見て叫んだ。

 

「何だ!?」

 

 部隊長機のモニターに、土煙の向こうから姿を現したモビルスーツが映る。

 

 見慣れた装甲。

 

 頭部の形状。

 

 肩や脚部の輪郭。

 

 どう見てもザクだった。

 

 唯一違うとすれば胸部や、腕部の一部だろう。

 

 その異質さに隊員達が息を飲む。

 

 

 そしてその機体は識別信号は味方ではなかった。

 

「馬鹿な! ザクに連邦の識別信号だと!?」

 

「味方の機体ではありません! こちらに照準を向けています!」

 

「そんなことは見れば分かる! 撃て!」

 

 部隊長の命令と同時に数機のザクがマシンガンを発砲した。

 

 弾丸が土煙を切り裂く。

 

 だがグラマンは射線が通るよりも早く動き出していた。

 

 機体を横へ滑らせ、旅客機の残骸を盾にする。

 

 弾丸が機体のいた場所を通過し、背後の地面を抉った。

 

「速い!?」

 

 敵の射撃が途切れた瞬間、グラマンが遮蔽物から飛び出す。

 

 マシンガンが火を噴いた。

 

 先頭のザクの胸部に弾丸が集中する。

 

 装甲が砕け、火花が散った。

 

 機体が大きくのけぞったところへ、さらに数発が叩き込まれる。

 

 ザクは爆発こそしなかったものの、動力を失ったように膝をついた。

 

「一機!」

 

 俺はそう叫び、操縦桿を引いた。

 

 右側から別のザクが接近してくる。

 

 グラマンは急制動をかけ、敵機の攻撃を紙一重でかわした。

 

 振り下ろされたヒート・ホークが頭上を通り過ぎる。

 

「近い……!」

 

 敵機の懐へ潜り込む。

 

 マシンガンを持つ腕をぶつけるようにして相手の姿勢を崩し、腰部からビームサーベルを抜いた。

 

 白熱する刃がザクの胴体を斜めに切り裂く。

 

 火花が散り機体が崩れ落ちた。

 

「二機目!」

 

 今までは色んな部隊と一緒に戦ってきたが今回は単独。

 

 それ故に緊張は未だ解せていない。

 

 機体が揺れるたびに衝撃が身体へ伝わる。

 

 爆発の光が視界を焼き、敵の銃弾が装甲を掠めるたびに心臓が跳ね上がった。

 

 それでも俺は操縦桿を握る手を緩めなかった。

 

 ここで止まれば背後にいる連邦軍の兵士達が危険にさらされる。

 

 それだけは避けなければならなかった。

 

「隊長! あいつザクじゃありません!」

 

「見れば分かる!」

 

 ジオン兵達の混乱は広がっていた。

 

 連邦軍の識別信号を発するザクそっくりの機体。

 

 その正体を判断できないまま、彼らは目の前の敵へと攻撃を続ける。

 

 だが連携が崩れ始めていた。

 

 各機が互いの射線を気にし、遮蔽物を挟んで移動する味方の位置を確認する。

 

 そのわずかな迷いが俺には隙として見えた。

 

 

「そこだ!」

 

 グラマンが地面を蹴った。

 

 スラスターの噴射炎が土煙を吹き飛ばす。

 

 敵のマシンガンが火を噴くより早く距離を詰め、グラマンは相手の側面へ回り込んだ。

 

 ビームサーベルが閃く。

 

 ザクの片腕が切断され、武器ごと地面へ落ちた。

 

「なっ……!」

 

 敵機が僅かに後退する。

 

 その動きを追うように、グラマンのマシンガンが火を噴いた。

 

 弾丸が脚部を捉え、ザクはバランスを崩して転倒した。

 

 俺は深追いせず直ぐさま次の敵へと向き直る。

 

 右手の誘導路から二機のザクが並んで接近してきていた。

 

 敵は縦に隊列を組み射撃を開始する。

 

「くそっ、ちゃんと連携してくるか!」

 

 俺は後退しながらマシンガンを撃ち返した。

 

 弾丸が敵機の前方に着弾し、進路を塞ぐ。

 

 その一瞬、一機の射線が前の機体に被さった。

 

 グラマンはその隙を逃さない。

 

 急激に進路を変え、片方のザクへ突進する。

 

 相手が照準を修正する前に、機体をぶつけるようにして接近した。

 

 至近距離からマシンガンを撃ち込む。

 

 ザクの胸部装甲が弾け、コクピット周辺から火花が散った。

 

 そのまま敵機を押し倒し、グラマンは転倒する機体を踏み越えて離脱する。

 

 

 もう一機が立て直した時には既に遅かった。

 

 ビームサーベルが、ザクの武器を持つ腕を斬り飛ばす。

 

 

「武器が……!」

 

 ジオン兵が叫ぶ。

 

 グラマンはそのまま敵機の背後へ回り込み、マシンガンを撃ち込んだ。

 

 ザクは大きくよろめき、誘導路の脇へ倒れ込んだ。

 

 短い時間で、部隊の戦力が次々と削られていく。

 

 部隊長は歯を食いしばった。

 

 

 

「何なんだ、あの機体は……!」

 

 見た目はザク。

 

 しかし、動きは明らかに異なる。

 

 こちらの攻撃を避け、連携の隙を突き、最小限の動作で敵機を無力化していく。

 

 そのうえ、連邦軍の識別信号を発している。

 

 まるで自分達の姿を借りた何かが戦場に紛れ込んだかのようだった。

 

 

「隊長! これ以上は無理です! 後退しましょう!」

 

「くそっ……! 全機、後退! 格納庫側の部隊と合流する!」

 

 残ったザクが煙幕を張り、誘導路の奥へと後退していく。

 

 俺はマシンガンを構えたまま、敵の動きを目で追った。

 

 追撃すれば更に損害を与えられるかもしれない。

 

 しかし、敵が逃げ込んだ先は格納庫群の方向だ。

 

 そこにはまだ別の敵部隊がいる可能性がある。

 

 遮蔽物の多い場所へ不用意に踏み込めば、今度はこちらが包囲されかねない。

 

「……深追いは……やめた方がいいよなぁ」

 

 俺は息を吐き、周囲を確認した。

 

 撃破した機体。

 

 損傷して動けなくなった機体。

 

 そして煙の向こうへ逃げていく敵機。

 

 この一帯の敵は押し返せた。

 

 だが空港全体から銃声が消えたわけではない。

 

 遠くでは、なおもマシンガンの連射音が響き、格納庫付近から新たな爆発が上がっていた。

 

「こちら、モビルスーツ! 空港警備部隊! 応答してください!」

 

 通信機に向かって呼びかける。

 

 しばらく雑音が続いた後、切迫した声が返ってきた。

 

「こちら空港警備部隊! 聞こえている! そちらは何者だ!?」

 

「連邦軍所属のシンヤ・スガイ特務少尉です! 現在滑走路南側の敵部隊を押し返しました! そちらの状況を教えてください!」

 

「南側を押し返しただと……?」

 

 通信の向こうで、相手が息を呑む気配がした。

 

「こちらは管制施設と格納庫の間で交戦中だ! 敵の別働隊が侵入している! 負傷者も出ているが、車両が破壊されて移動できない!」

 

「位置を送ってください。こちらから向かいます!」

 

「待て、君の機体は……」

 

 通信はそこで途切れかけた。

 

 そのとき、土煙の向こうから連邦軍の装甲車が姿を現した。

 

 車体には弾痕がいくつも刻まれ、側面の装甲板は大きく歪んでいる。

 

 車両の後ろには数人の兵士が続いていた。

 

 ひとりは腕を押さえ、もうひとりは肩を貸しながら仲間を支えている。

 

 装甲車がグラマンの前で停止した。

 

 ハッチが開きヘルメットを被った士官が顔を出す。

 

「おい! そこのモビルスーツ!」

 

 その声は先程の通信相手と同じ声だった。

 

「はい!」

 

「君がこの敵を撃退したのか!?」

 

「この周辺にいた敵はひとまず押し返しました!」

 

 士官はグラマンを見上げ言葉を失った。

 

 ザクにしか見えない。

 

 それなのに味方だという。

 

 疑問はいくつもあった。

 

 だが今はそれを問いただしている場合ではなかった。

 

「助かった……! こちらの部隊は格納庫付近で孤立している! 敵の別働隊に押さえ込まれて、負傷者を連れて動けなくなっているんだ!」

 

「孤立した部隊の位置は?」

 

「管制施設の東側だ! だが途中の誘導路は敵の射線に入っている!」

 

 

 

 俺は地図情報を確認した。

 

 複数の赤い反応が、管制施設と格納庫の間に表示されている。

 

 敵は遮蔽物を利用して進路を塞ぎ、孤立した連邦軍部隊を足止めしているようだった。

 

 先ほどの敵部隊を撃退しただけではまだ足りない。

 

 このままでは孤立した味方が持ちこたえられなくなる。

 

「分かりました、俺が先行します。皆さんは負傷者を連れて、できるだけ遮蔽物の陰を通ってください!」

 

「君一人で行くつもりか!?」

 

「他に早い方法がありますか?」

 

 士官は一瞬、言葉に詰まった。

 

 たしかに、装甲車で敵の射線を突破するのは難しい。

 

 歩兵だけで向かえば、さらに時間がかかる。

 

「……頼むぞ。あそこにはまだ大勢の仲間が残っている!」

 

「必ず連れて帰ります!」

 

 俺は機体を旋回させた。

 

 脚部の警告表示はまだ黄色のままだ。

 

 だが動作に支障はない。

 

 運がいいことに先の戦闘は無傷で終わったからだ。

 

 グラマンはスラスターを噴射し、煙の立ちこめる誘導路へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 管制施設の東側。

 

 連邦軍の警備部隊は、崩れたコンクリート壁と放置された整備車両を盾に、必死の抵抗を続けていた。

 

「弾薬が残り少ない! 補給はまだか!」

 

「無線が繋がりません! 南側も突破されたようです!」

 

「冗談じゃないぞ……!」

 

 連邦軍兵士達の顔には疲労と焦りが浮かんでいた。

 

 彼らは当初、空港への侵入を試みる敵部隊を撃退する任務に就いていた。

 

 しかし別方向から進入したザクに側面を突かれ部隊が分断された。

 

 撤退しようにも負傷者を置いていくわけにはいかない。

 

 その為、彼らは動けずにいた。

 

 敵のザクが誘導路の向こうからゆっくりと姿を現す。

 

「連邦の連中め! もう逃げ場はないぞ!」

 

 ザクが連邦軍の歩兵部隊に照準を合わせた。

 

 その瞬間。

 

 横合いから猛烈な銃撃が襲いかかった。

 

 先頭のザクの胸部に弾丸が集中し、機体がよろめく。

 

「何だ!?」

 

 

 ザクが振り向く。

 

 煙の向こうから現れたのは、一機のモビルスーツだった。

 

 緑色の装甲。見慣れた頭部の形状。

 

 そう思ったジオン兵たちは、次の瞬間にその動きを止めた。

 

「おい! あれが通信に上がってきたヤツか!?」

 

 連邦軍の識別信号が表示される。

 

 理解が追いつかない。

 

 だが考える時間は与えられなかった。

 

 グラマンはスラスターを噴射し続ける。

 

 敵のマシンガンが火を噴くより先に、機体は遮蔽物の間を縫って距離を詰めていた。

 

 俺は敵の照準を見ながら、操縦桿を倒す。

 

 右からの射撃をかわし、左側のザクへ接近。

 

 マシンガンを撃ち込みながら横をすり抜け、そのままビームサーベルを抜いた。

 

 敵機の武器を持つ腕が切り飛ばされ、グラマンは勢いを殺さず次の敵へ向かった。

 

「こいつ手馴れてるぞ!!」

 

 ジオン兵が叫ぶ。

 

 別のザクが側面から攻撃しようとするが、グラマンは急制動で射線を外し、敵の正面を横切った。

 

 その一瞬、敵機同士の位置が重なる。

 

 グラマンがマシンガンを撃った。

 

 弾丸は手前のザクの脚部を貫き、その機体が崩れ落ちる。

 

 背後のザクは射線を遮られ、照準を修正するために動きを止めた。

 

 そこへグラマンが踏み込む。

 

 ビームサーベルが装甲を切り裂いた。

 

 敵機が倒れ、爆発の光が誘導路を照らす。

 

 残るザクは距離を取り、煙幕を張って後退し始めた。

 

「撤退だ! これ以上は持たん!」

 

 敵部隊は遮蔽物の向こうへと消えていった。

 

 俺はすぐには追わなかった。

 

 機体を反転させ、連邦軍の陣地へ向き直る。

 

「こちらモビルスーツ! 敵部隊は後退しました! 今のうちに負傷者を移動させてください!」

 

「助かった……! 本当に助かったぞ!」

 

 警備部隊の兵士達が、安堵の声を上げる。

 

 壁の陰から兵士たちが姿を現し、負傷者を支えながら移動を始めた。

 

 装備を失った者も仲間の肩を借りて歩いている。

 

 俺は機体を少し離れた位置に移動させ、周囲を警戒した。

 

 まだ戦闘は終わっていない。

 

 遠くでは別の部隊が交戦を続けており、空港の各所から銃声が聞こえてくる。

 

 敵が再び攻め込んでくる可能性も十分にあった。

 

 やがて先ほどの装甲車が到着した。

 

「負傷者を乗せろ! 歩ける者は車両の周囲を警戒しながら移動!」

 

 士官が指示を飛ばす。

 

 兵士たちは迅速に負傷者を車両へ運び込んだ。

 

 最後の負傷者が装甲車へ乗り込む。

 

 士官がグラマンを見上げた。

 

「君のお陰で全員を連れ出せる。礼を言う」

 

「いえいえ構いません。それよりここからの撤退経路は?」

 

「南側の誘導路を抜けて、空港外周の防衛線へ向かう。だが、途中にも敵がいるかもしれん」

 

「分かりました。俺が後ろを警戒します」

 

「いや、君も一緒に下がってくれ。これ以上、ここで孤立するのは危険だ」

 

 俺は一瞬だけ迷った。

 

 まだ空港には敵が残っている。

 

 自分が残ればもう少しだけ戦況を改善できるかもしれない。

 

 しかし機体には着地時の負荷が残っている。

 

 弾薬も無限ではない。

 

 敵の増援が現れれば、今度は撤退する味方を守りきれなくなる可能性もあった。

 

 何より、彼の目先の目的は空港の敵を一機残らず倒すことではない。

 

 生きている仲間を救い、味方の部隊と合流することなのだ。

 

 

 

「……了解しました。撤退しましょう」

 

 グラマンは装甲車の後方についた。

 

 負傷者を乗せた車両が動き出し、兵士たちがその周囲を固める。

 

 俺は機体を後退させながら、マシンガンを構えて周囲を警戒する。

 

 格納庫の向こうで、再び爆発が起きた。

 

 煙の中にザクの影が一瞬だけ浮かび上がる。

 

 俺は照準を合わせたが、敵はすぐに建物の陰へと消えた。

 

「……まだ、いるのか」

 

 追撃したい気持ちを抑え、俺は撤退する車列から離れないように機体を動かした。

 

 やがて連邦軍の防衛線が見えてくる。

 

 車両が防衛陣地の内側へ入ると、待機していた衛生兵達が駆け寄り、負傷者の救護を始めた。

 

 俺はマシンガンを下ろした。

 

 コクピットの中に、荒い呼吸だけが響く。

 

「……何とか、助けられたか」

 

 安堵が遅れて押し寄せてきた。

 

 急に空挺降下をさせられて、敵陣のど真ん中。

 

 なんとか俺は切り抜けることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間に及ぶ戦闘が終わり、前線には少しずつ静けさが戻り始めていた。

 

「こちら前線指揮所。敵モビルスーツ部隊の後退を確認。各部隊は警戒を維持しつつ、負傷者の救護と損害状況の確認を急げ」

 

 無線から流れる報告を聞きながら俺はようやく一息ついた。

 

 先ほどまで戦場を駆け回っていた機体の装甲には、いくつもの傷が刻まれている。

 

 敵のザクを退け、孤立していた友軍を救出し、なんとか防衛線まで戻ってきたものの、機体にも自分自身にも疲労は色濃く残っていた。

 

 俺は教えられた手順を思い出しながら、機体を一つずつ確認していく。

 

 装甲の損傷。

 

 関節部の異常。

 

 武装の残弾。

 

 各部の動作。

 

 ノエルに教えてもらった点検方法だ。

 

 まだ自分一人で整備状態を正確に判断できるほどの知識はないが何も確認せずに済ませるわけにはいかない。

 

 

 

 そんな時、俺の耳に車のエンジン音が聞こえてくる。

 

 その方向に振り返ると土埃を巻き上げながら一台の軍用車両がこちらへ向かってきていた。

 

 車体は左右に大きく揺れ、舗装の悪い路面を走っているにしても、明らかに運転が荒い。

 

 しかも近づいてくるにつれて車内から何やら騒がしい声まで聞こえてきた。

 

 俺は思わず呆気にとられて手を止めるも、皆の様子を確認しようとコックピットのハッチを開ける。

 

 車両はグラマンの近くで急停車、運転席にミヤザキ大尉、助手席にはリル、後部座席にはハナとノエルが乗っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何してくれてんのよ!! あんたはァ!!」

 

 リルは運転しているミヤザキに怒号を飛ばす。

 彼女は助手席から身を乗り出す勢いで運転席のミヤザキへ詰め寄った。

 その顔は真っ赤になっている。

 

「仕方ないじゃない! ピンチだったのよ!? それにほら! 見て!! シンヤ君の勇ましい姿!! 私の狙い通り敵をちょいちょいっと追い払ってるわ!」

 

 ミヤザキは答える。

 彼女は悪びれる様子もなく、むしろ得意げに胸を張った。

 そして窓の外に見えるスガイの機体を指差す。

 

 その言葉を聞いたリルのこめかみに、ぴくりと青筋が浮かぶ

 怒りを鎮めるどころか、次の瞬間にはさらに激しい声が飛び出した。

 

「馬鹿じゃないの!? 結果論は聞きたくないわ!! このバツイチアラサー女!!」

 

 リルは助手席から身を乗り出したまま、ミヤザキを真正面から睨みつけた。

 

 ハナは思わず目を丸くし、ノエルは何か言いかけたものの二人の勢いに押されて口を閉じた。

 

「ちょっとそれ何処で聞いたのよ!? あとバツイチで何が悪いのよ!!」

 

 ミヤザキはハンドルを握ったまま、勢いよくリルへ顔を向けた。

 

 車両は停車している。

 それでも彼女の手はハンドルを離さず、まるで今にも再発進しそうな勢いだった。

 

 作戦への反論よりも個人情報を知られていたことへの驚きと、離婚歴を持ち出されたことへの怒りが勝っているらしい。

 

 リルは鼻で笑った。

 むしろその反応を待っていたとでも言いたげな表情だった。

 

「オーガスタの情報資料に載ってたわよ!! 諜報能力舐めないで!! あとバツイチは悪よ!!」

 

 リルは人差し指をミヤザキの顔に突きつけ、きっぱりと言い放った。

 

 どうやら彼女は本当に資料を読んで知ったらしい。

 

 しかも情報の出所を明かした上で、最後には完全に個人的な価値観をぶつけている。

 

 コックピットから顔を出した俺は二人の会話を聞きながら、何か口を挟むべきか迷った。

 

 しかしどこからどう見ても自分が割って入っていい雰囲気ではない。

 

「はあ!? ちょっと聞き捨てならないわね! 女はバツが一つ付いてからが良い味だすのよ!」

 

 ミヤザキは助手席側へ身を乗り出し、リルの言葉を真っ向から否定した。

 

 先ほどまで自分の作戦の正しさを主張していた人物とは思えないほど、今は個人的な名誉を守ることに必死だった。

 

 その表情には譲る気など微塵もない。

 

 リルもまた引くどころかさらに目を細めた。

 

「ださないわよ!!! そんな賞味期限切れの黒カビクリスマスケーキ!! 出るのは粘り気だけよ!!」

 

 あまりにも容赦のない罵倒だった。

 

 ハナは引きつった笑みを浮かべたまま、隣のノエルへそっと視線を向けた。

 

 ノエルもまた、何とも言えない顔で小さく首を横に振る。

 

 戦場から戻ってきたばかりの兵士達がすぐそばで戦闘後の処理を進めている。

 

 さっきまで死闘を味わっていた兵士には気の毒だ。

 多くの兵士達が疲れきった表情で二人のやり取りを眺めていた。

 

 当の二人は周囲の視線などまるで届いていなかった。

 

「ぬぁんですってぇ!!?? そっちこそ経験なしの喪女のくせに!」

 ミヤザキの顔が怒りで引きつった。

 遂に彼女はリルの恋愛経験にまで攻撃の矛先を向けた。

 

 リルの表情が一瞬だけ固まる。

 

 どうやら痛いところを突かれたのかもしれない。

 

 しかしその動揺はほんの一瞬だった。

 すぐに顎を上げミヤザキを見下ろすように胸を張る。

 

「わたしは高嶺の花なの!! 喪女とは違うのよ!! そんなのも分からないの! この中古!!」

 

 リルは言い返しながらわざとらしく髪を払った。

 

 自分は選ばれないのではなく、簡単には手が届かない存在なのだ。そう言わんばかりの態度である。

 

 もっともその主張がどこまで説得力を持っているかは別問題だが。

 

 ミヤザキは一度目を見開き、それからゆっくりと笑みを浮かべた。

 

 その笑顔を見たリルの表情がわずかに強張る。

 

「あなたこそ入荷したてなのに貰い手いないの可哀想ねぇ!! 購入特典でもサービスしたらどう!? 割引シール貼ってあげましょうか!?」

 

 最後の一言とともに、彼女は手をひらひらと動かす。

 リルの顔から、すっと表情が消えた。

 

 先ほどまで怒りに染まっていた目が、今度は絶対に許さないという色に変わっていく。

 

 車内に奇妙な沈黙が落ちた。

 

 俺は無意識に一歩だけ後ずさった。

 

 これはもう、仲裁などできる状況ではない。

 

「あ……あははは」

 

 ハナは苦笑いを浮かべた。

 

 どうにか場を和ませようとしたのかもしれないが、声には明らかな困惑が混じっていた。

 

 彼女は二人を交互に見てから、そっと視線を逸らす。

 

 どうやら、どちらの味方をするのも危険だと判断したようだった。

 

「うわ〜醜いですねこれは……」

 

 ノエルも引いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからしばらくしてやっと車から降りて来たかと思うとミヤザキ大尉はリルに根負けして下を向いていた。

 

 先程までは自分もミヤザキ大尉を問い詰めたくなっていたが、そんな彼女を見ては可哀想で気力もなくなった。

 

「いいじゃない……バツイチぐらい。私だってそのまま添い遂げるつもりだったわよ、それがいつのまにかレスになってさ、そのまま流れるように離婚にまで発展して……私だってバツ付けたくて付けたわけじゃないし、私だって一生懸命あの人の親御さんと話してできるだけ縁を取り戻そうと必死になって、SNSだって鍵垢滑り込ませてあの人の生活を見てるぐらいにはまだ愛してるし……あ、それが粘り気か」

 

 

 

 

「リル……ミヤザキ大尉が悪霊に取り憑かれたみたいになってるよ」

 

「いいのよあれぐらいで、さっさと後方の司令部までいくわよ」

 

「……分かった」

 

 

 

「それに子供だって欲しかったわよ、そうすれば? 離婚までいかなくてすんだかもしれないし? あの人との子さえいれば私だってそれなりに頑張って生きようとやけになったし? 今みたくお酒に逃げたりなんかしてな……」

 

 

「………」

 俺は何も見なかったことにした。

 

 

 一方ハナとノエルは

「……離婚って怖いんだね」

「そうですね、好きな人と結ばれた幸せの分、別れもそれなりに辛いのかもしれませんね」

 

 

「なによ若いからって、私だってまだ20代よ、来年で30なんだからまだ全然よ、経験あるからこそ次の相手を支えることができるとかそういう考えはないわけ? なにごとも若ければいいってもんじゃ……」

 

 

 

 

 一人落ち込むミヤザキとそれを宥めるノエルとハナ。

 

 俺とリルはそこから少し離れた場所で、今後の行動について打ち合わせを始めていた。

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

 俺が尋ねると、リルは先ほどまでの口論が嘘のように、すぐさま真剣な表情へ切り替えた。

 

「まずは後方の司令部へ向かうわ。現地の指揮系統に状況を報告して、今後の指示を受ける必要があるもの。それにあなたの機体の損傷も確認しないと」

 

「分かった。一応、降下した時の着地で脚部に負担がかかってるみたいだから整備は必要だと思う」

 

「でしょうね。あんな無茶な方法で投入されたんだから、何も問題がない方がおかしいわ」

 

 リルはそう言って、ミヤザキ大尉の方をちらりと見た。

 

 彼女はまだ何かを訴えていたが、ハナとノエルは相変わらず困惑した様子で対応している。

 

 リルは小さく息を吐いた。

 

「……まったく。あの人行き当たりばったりすぎるでしょ」

 

「作戦の判断も、もう少し相談してほしかったなぁ……」

 

「全面的に同意するわ」

 

 リルは即答した。

 

 俺は苦笑するしかなかった。

 

 あの投下作戦が成功したのは事実だ。

 

 結果として敵部隊を押し返し、孤立した友軍の救援にも成功した。

 

 だが、だからといってあの方法をもう一度やりたいかと聞かれれば、答えは決まっている。

 

 

 二度とごめんだ。

 

 

「とにかく、司令部へ行きましょう。戦闘が終わったとはいえ、まだ空港全体の状況は分かっていないもの」

 

「ああ。分かった」

 

 俺は頷いた。

 

 背後では、ミヤザキ大尉がまだ自分の年齢と人生経験について主張している。

 

 ハナとノエルは、どうにかその話を切り上げようと苦心していた。

 

  俺はそちらを見ないようにしながら、リルとともに次の行動へ意識を切り替えた。

 

 今はまだ、戦いの後始末が残っている。

 

 そして、これから向かう司令部では、今回の無茶な作戦についても説明を求められることになるだろう。

 

 ……できれば、その説明はミヤザキ大尉本人にしてもらいたい。

 

 俺は心の底からそう願った。

 

 





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