地球、それは希望。   作:藤乃宮

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幕間 MissionMeeting

 

「それでは、これよりMMを始めます」

 

 ミヤザキ大尉の声が会議室に響いた。

 

 彼女は戦略図が映し出された大型モニターの前に立ち、手元の端末を操作する。画面には朝鮮半島の地図が表示され、各方面の進出予定ルートや敵部隊の推定配置が色分けされていた。

 

 集まった幕僚や各部隊の指揮官たちが、一斉にモニターへ視線を向ける。

 

「本作戦において、極東方面軍は三個方面隊に分割します。西部方面隊、中央方面隊、東部方面隊の三つです」

 

 ミヤザキ大尉が地図上の三つの区域を順番に指し示す。

 

「スガイ少尉には西部方面隊に所属してもらいます。あとでアンダーソン伍長からシグナルを接続してもらい、グラマンと連携できるようにしておいてください」

 

「了解しました」

 

 俺は短く返答した。

 

 ミヤザキ大尉は一度こちらに視線を向けると、再びモニターへと向き直った。

 

「本作戦の目的は、作戦名にもある通り、朝鮮半島における戦線を北緯三十九度線まで押し戻し、平壌を陥落させることです」

 

 画面が切り替わる。

 

 平壌を中心に、三方向から伸びる矢印が表示された。

 

「西部方面隊は平山郡方面、東部方面隊は元山方面へ進軍。両地域とも、前回の半島撤退戦において多数のモビルスーツ部隊が確認されています」

 

 そこで一度言葉を切り、中央方面の進出予定ルートを指でなぞる。

 

「中央方面隊は両方面隊と歩調を合わせて進軍。敵の防衛線を拘束し、必要に応じて突破を支援します」

 

「続いて、現在までに確認されている敵戦力ですが……」

 

 モニターに敵部隊の編制が表示された。

 

「機甲師団、三個。機械化歩兵師団、三個。歩兵師団、二個。独立機動師団、二個。砲兵旅団、二個。防空旅団、三個。そして、モビルスーツ連隊が四個です」

 

 表示された数字を眺める。

 

 師団だけでも相当な規模だ。そこにモビルスーツ部隊まで加わるとなれば、正面からぶつかるには厄介な相手だろう。

 

「ただし、これはあくまで現時点で確認できている戦力です」

 

 ミヤザキ大尉の声が少し低くなる。

 

「工兵部隊や後方支援部隊の規模については、まだ把握できていません。航空偵察も実施しましたが、敵の対空砲火が激しく、まともな陣地の把握すらできていない状況です」

 

 画面には偵察機が撮影したと思われる不鮮明な航空写真が映し出される。

 

 山間部に点在する陣地らしきものは確認できるが、詳細までは読み取れない。

 

「そのため、今回の作戦では航空支援を基本的に期待しないでください」

 

 会議室の空気がわずかに重くなる。

 

 航空優勢を確保できないまま、敵の防衛線へ突入する。決して楽な作戦ではない。

 

「火力が必要な場合は、砲兵部隊への要請を優先してください。同時に司令部にも連絡を。極東海軍が作戦海域へ展開でき次第、艦砲射撃による対地攻撃と火力支援を実施する予定です」

 

 そう言って、ミヤザキ大尉は次の資料へと画面を切り替えた。

 

 その後は各幕僚や部隊長への任務付与が続いた。

 

 進軍経路、補給計画、部隊間の連絡要領、負傷者の後送経路。

 

 次々と具体的な指示が飛び交い、会議室の空気は次第に張り詰めていく。

 

 そして、ようやく俺の番が来た。

 

「スガイ少尉」

 

 ミヤザキ大尉がこちらを向く。

 

「あなたには西部方面隊に所属する混成機械化部隊と行動してもらいます。具体的には、陸戦型ジム中隊に追従。そのまま平山郡方面の敵防衛線を正面から突破し、平壌まで進出してください」

 

「正面突破、ですか」

 

 思わず聞き返す。

 

「ええ。もっとも、あなた一人に突破を任せるわけじゃないわ。陸戦型ジム中隊と連携して、敵の防衛線に穴を開けてもらうの」

 

 ミヤザキ大尉はそう答えると、少しだけ口元を緩めた。

 

「それと、さっき航空支援は期待しないでと言ったけれど、ここに関しては別よ」

 

 彼女がモニターを操作する。

 

 すると、画面には一機のモビルスーツのシルエットが表示された。

 

「こっちの切り札を出すわ。数はないけれど、十分に役目は果たしてくれるはずよ」

 

 何か特別な機体でも用意しているのだろうか。

 

 そう考えていると、ミヤザキ大尉はそれ以上の説明をせず、会議全体へと視線を戻した。

 

「それでは、作戦開始は明日〇二三〇! 各員、作戦準備にかかれ!」

 

「「「おっす!」」」

 

「了解」

 

 会議室に返答が響き渡る。

 

 ……おっす?

 

 どうやら極東方面軍では、了解ではなく「おっす」と返すのが主流らしい。

 

 軍隊というより、どこか体育会系の部活動みたいだ。

 

 そんなことを考えていると、会議が終わるなりミヤザキ大尉がこちらへ歩いてきた。

 

「じゃあ、スガイ君」

 

 先ほどまでの階級呼びとは打って変わり、彼女は随分と気安い調子で俺の肩に腕を回してきた。

 

「グラマン、見に行こっか!」

 

 そう言って、彼女は俺を連れて会議室を後にした。

 

 

 

 

 極東方面軍 モビルスーツ格納庫

 

 格納庫の扉が開くと、独特の機械油の匂いと、金属を削る音が出迎えてくれた。

 

 天井から吊るされた大型照明が、整備中のモビルスーツを照らしている。

 

 整備員たちが忙しなく行き交い、工具の音や作業指示の声が絶え間なく響いていた。

 

 その一角。

 

 一機のモビルスーツが、周囲の機体とは明らかに異なる姿で鎮座していた。

 

「これが……グラマン……? 凄い、別物みたいだ」

 

 思わず口から感嘆が漏れる。

 

 以前見た姿とは大きく異なっていた。

 

 ザクとジムの特徴を併せ持った外観はそのままに、各部には新たな装甲や装備が追加されている。全体的に無骨さが増し、実戦を想定した改修が施されていることが一目で分かった。

 

「でっしょーん! 余ってる資材をふんだんに使ったからね~。そっちの司令へのお土産も兼ねてるのよ」

 

 ミヤザキ大尉は自慢げに胸を張った。

 

「ハイマン閣下に?」

 

「そそ。わざわざ貴方を貸し出してくれたんだから、モビルスーツくらい一級品にして返すの。そうすれば、今後も良い人材を回してくれるでしょ?」

 

 ……なるほど。

 

 どうやら俺の貸し出しには、そういう裏事情もあったらしい。

 

 ミヤザキ大尉は手元の資料を取り出すと、グラマンの前に立ち、機体を指し示しながら説明を始めた。

 

「じゃあ、頭部から行きましょうか」

 

 彼女が最初に指したのは、ザクの面影を色濃く残す頭部だった。

 

「まず、ザク頭は健在ね。そこに中口径のバルカン砲を二門搭載してあるわ。威力はそれなりだけど、弾数は多くないから、あくまで牽制や緊急時用。無駄撃ちはしないでね」

 

 頭部の左右に設けられた砲口が、照明を受けて鈍く光る。

 

「それから、このブレードアンテナ。角型アンテナって呼ぶ人もいるけど、正式にはブレードアンテナね」

 

 頭頂部から伸びるアンテナを指で示す。

 

「今回、新しく取り付けたものよ。今までは貴方一機しかいなかったから、そこまで必要なかったけど、今回は陸戦型ジムの部隊と一緒に行動するでしょ? 味方との通信や部隊間の情報共有には必要になるわ」

 

「なるほど」

 

「それと、両側面にはジャブローから先行して送られてきた通信機器とセンサージャマーを搭載してあるわ」

 

 頭部の側面に目を向ける。

 

 通常のザクとは異なる、追加装備らしきユニットが確認できた。

 

「これは敵の通信やレーダー、各種センサーへの妨害用ね。周波数は手動でも変更できるけど、基本的には自動調整。細かい設定や運用は担当のノエルちゃんがやってくれるから、貴方はあまり気にしなくていいわ」

 

 ノエルに任せておけばいい、ということらしい。

 

「次は肩ね。左肩はザクの肩部装甲を流用して、棘を取り払ってあるわ。それ以外の腕部はジムのものを使ってる」

 

 左肩の装甲は、確かにザクの意匠を残している。

 

 しかし、棘がなくなったことで、以前よりも実用性を重視した印象になっていた。

 

「脚部はザクのものをそのまま流用。ただし、頭部と脚部にある動力パイプは見ての通り、装甲で覆ってあるわ」

 

 彼女は脚部の外装を軽く叩いた。

 

「動力パイプは被弾すると厄介だからね。完全に防げるわけじゃないけど、これなら小火器や破片程度ならある程度耐えられるはずよ」

 

「なるほど……」

 

「あと所々に付いている緑色の装甲があるでしょ?」

 

 機体の肩や脚部に設けられた、通常装甲とは異なる色のパネル。

 

「これは爆発反応装甲。敵の砲弾が命中した際に内部の炸薬が作動して、弾体の貫徹力を弱める仕組みよ」

 

「爆発反応装甲まで……」

 

「ただし、万能じゃないわ。何度も同じ場所で使えるわけじゃないし、爆発する以上、周囲への影響もあるからね」

 

 そう言いながら、ミヤザキ大尉は少し得意げに笑った。

 

「それから、反応装甲の下地には耐熱塗料を塗ってあるの。元々はバーニア周辺に使うものだけど、反応装甲が作動した時に母材の装甲まで余計な熱や損傷を受けるのは嫌でしょ?」

 

「そこまで考えてあるんですね」

 

「まっ! 余ってたから、とりあえず塗っただけなんだけどね。ないよりはあった方がいいでしょ?」

 

 ……本当に大丈夫なのだろうか。

 

 説明を聞いている限りではかなり手の込んだ改修に思えるが、ところどころ妙に適当な部分がある。

 

 ミヤザキ大尉はそんな俺の心情を気にする様子もなく、次の装備へと移った。

 

「武装については、ブルパップマシンガンと銃剣型ビームサーベル。今回は敵の防衛線を突破することが目的だから、基本的には陸戦型ジムの火力を支援する形になるわ」

 

 彼女はマシンガンを指し示す。

 

「ビームサーベルは試験も兼ねているけど、近接戦闘が発生した場合の保険ね。多分使うことはないわ、市街地戦が想定されるとはいえライフルで事足りるはずよ」

 

 そして最後に、機体の脇に固定されていた大型の銃器へと視線を向けた。

 

「それで最後。これが、うちの極東方面軍が用意した記念すべき試作兵器!」

 

 ミヤザキ大尉は、まるで新しい玩具を見せる子供のように目を輝かせた。

 

「七九式試製電磁加速小銃よ!」

 

「……電磁加速?」

 

「そう。ジャブローでは熱核融合炉を搭載したビームライフルを開発しているらしいけど、こっちにはそんな技術も設備もないからね」

 

 彼女は説明を続ける。

 

「そこで、極東由来の電磁砲技術を応用して試作したの。電源となるバッテリーも極東由来よ。ちなみにコンセントも付いてるから携帯端末を充電できるし、ソーラーパネルも搭載してあるわ」

 

「……ソーラーパネル?」

 

「ええ。まあ、補助電源程度だけどね。何かあった時に少しでも電力を確保できるようにしてあるの」

 

 随分と現実的な装備だ。

 

「威力はそうね……炸薬を使わないから、命中しても爆発はしないけれど、貫徹力は凄まじいわ」

 

「どの程度なんですか?」

 

「実験では、通常の装甲板をかなりの距離から撃ち抜いているわ。弾速が速いから、射程も命中精度も悪くない。ただし、まだ試作品だから、実戦での信頼性はこれから確認する必要があるけどね」

 

 ミヤザキ大尉は銃身の先端を軽く叩いた。

 

「原理は簡単よ。電磁力で超硬合金製の棒を加速して撃ち出すだけ。要するに、火薬を使わない砲弾ね」

 

「弾薬は専用のものですか?」

 

「基本的にはね。でも、代用品としてその辺の岩石を使うこともできるわ」

 

「岩石……?」

 

「ええ。もっとも、威力は落ちるし、砂や不純物が混ざると精度も落ちる。最悪の場合、給弾機構や加速装置に不調を起こす可能性もあるから、なるべく使わないでね」

 

「……分かりました」

 

 専用弾薬が尽きた場合の非常手段、ということだろう。

 

 しかし、モビルスーツが岩を拾って銃に装填する姿を想像すると、なんとも奇妙な兵器に思えてくる。

 

「こんなところね。どう? とりあえずは理解できた?」

 

 ミヤザキ大尉がこちらを振り返る。

 

 俺は改めてグラマンを見上げた。

 

 ザクとジムを組み合わせた機体に、追加装甲、電子戦装備、そして試製電磁加速小銃。

 

 元の機体からは想像もつかないほど手が加えられている。

 

「なんとなくは……」

 

「よろしい!」

 

 ミヤザキ大尉は満足そうに頷いた。

 

「要するに、防御に全振りしたから、普段は適当にマシンガンを撃って、いざという時はこの七九式を撃ちまくればいいのよ!」

 

「……そんな簡単な話なんですか?」

 

「細かいことはノエルちゃんと整備班に任せましょ!」

 

 それでいいのだろうか。

 

 俺が少し困惑していると、彼女は満面の笑みを浮かべた。

 

「まあ、明日はお願いね、シンヤ君!」

 

 そう言い残すと、ミヤザキ大尉は整備員たちのいる方へと歩いていった。

 

 俺はその場に残り、改めてグラマンを見上げる。

 

 明日の作戦。

 

 北緯三十九度線を越え、平壌まで進出する。

 

 前回の撤退戦で確認された敵のモビルスーツ部隊。その規模を考えれば、決して楽な戦いにはならないだろう。

 

 それでも、今の俺にはこの機体しかない。

 

 そう考えながら、整備員たちの手によって最終調整が進められているグラマンを見つめていた。

 

 その背後。

 

 格納庫の出入口に差しかかったミヤザキ大尉は、ふと足を止めた。

 

 そして、グラマンの試運転に向かう俺の背中を振り返る。

 

「じゃあ……頼んだわよ」

 

 誰にも聞こえないほど小さく呟く。

 

 彼女は首から提げていたものを取り出した。

 

 軍服の襟元に隠されていたIDカード。

 

 そこには、こう記されていた。

 

 

 

 極東方面軍 ムラサメ機関 特別作戦本部長

 チサト・ミヤザキ 大尉

 

 

 

 ミヤザキはその文字を一瞥すると、再びカードを軍服の中へとしまった。

 

 そして、もう一度だけシンヤの背中を見つめる。

 

「中東の……救世主(メシア)」

 

 その言葉を残し、彼女は格納庫を後にした。

 




グラマンのイメージ図です!
【挿絵表示】




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