ウマ娘の語り場 作:湯豆腐ラーメン
理由があるとすれば唯一つだけ。
「トレーナー……」
「……行こう」
「……はい」
そして私達は同じ想いを胸に抱き、一歩を踏み出した。
☆☆
「ふぅ……」
緊張が解けた拍子で、小さな息が零れる。
時刻が深夜を廻っている為か乗り込んだ電車の中は私達2人以外誰もおらず、実質貸し切り状態だ。
「綺麗ですね……」
私の隣に座っている赤毛の長髪のウマ娘ーーーーレッドディザイアが窓の夜景を見ながら呟く。
そんな彼女の姿に対して、私は口を開く。
「……ディザイア。 若しも何かあった時は、他の人には『無理矢理』でも『脅された』でも良いから『私に連れ攫われた』って、説明してね」
私は彼女の恋人であると同時に担当トレーナーだ。
この子の未来を守る為だったら、私は犯罪者でも何にでもなってやる。
それを覚悟した上で、この道を選んだんだから。
「……なら、そうならない様に貴女を連れて、この道(レース)を駆け抜けて行くだけです。 だって私は……真の『聖女』なのですから」
ディザイアは私の言葉にレースの時以上に真剣な様子で、静かに力強い意思を込めて言った。
「でも本当に良かったの? 貴女にはこの先、もっと輝ける道や素敵な未来があった筈なのに……」
覚悟を決めたと言いながらもこんな事を考えてしまう事自体、自分でも矛盾しているのは分かっている。
でも、今でも時々考えてしまう。
若しディザイアのトレーナーが私では無い別な人だったら、彼女を今以上に幸せにする事が出来たのでは無いかと。
トレーナーになってまだ1~2年の経験しか無い私何かよりも、もっと上の経験あるトレーナーだったら、彼女のポテンシャルを今以上に引き出して、もっと沢山のレースで活躍をさせる事だって出来たかもしれない。
そしてその人が男性だったなら、彼女が『新しい生命』を願った時、女性の私には絶対に叶えられ無いであろうその願いを、叶えてあげられたかもしれない。
それに若し----彼女とその人の相性が私以上に良かったら。
待ち受ける同性愛の弊害と将来への不安、ディザイアの幸せを願う反面、見知らぬ誰かと一緒に微笑む彼女の姿に対しての喜べない自身への情け無さなど、複雑に絡んだ想いが私の心を支配していた。
「トレーナー」
不意に私の名を口にしたディザイアが、私の膝にゆっくりと手を置いた。
「これは私が『こうしたい』と思って、自分の意志で選んだ事です。 貴女は何も悪くありません」
ディザイアが真剣な眼差しを私に向けて語りかける。
その彼女の金色の瞳の輝きに目を奪われた私は、まるで身体が石の様に固まって、言葉を口にする事が出来ない。
「貴女が傍にいてくれるなら、私はどんな困難な道でも……どんなレースでも……走り抜ける事が出来ますから」
ゆっくりと、彼女の指が私の顔に触れる。
「だから……笑って下さい。 それが私の願いです」
ディザイアが私を真っ直ぐ見つめながら微笑み、そんな彼女を私は強く抱きしめた。
「ありがとう……ディザイア……私、貴女のトレーナー……ううん、恋人になれて……幸せだよ」
溢れそうになる涙を堪えながら私は、感謝の気持ちを伝える。
そんな私の背中を、彼女は何も言わずに優しく撫でた。
☆☆
暫くして気持ちが落ち着き、私はディザイアに語り掛ける。
「ねぇディザイア。 これから何処へ行こっか?」
「……トレーナーの行きたい場所だったなら、私は何処でも付いて行きますよ」
「ふふっ……有難う」
私達はお互いの手を握りながら、静かに目を閉じた。
この先、どんな事が起こるのかは何も分からない。
若しかしたら、悲しい事や辛い事だってあるかもしれない。
でも例えどんな事があったとしても、私達はこの手を離しはしない。
だって、世間体とか理屈とかそんな物何て如何でも良いって思える程、お互いに愛しているのだから。
若しもディザイア(トレーナー)の目が見えなくなってしまったのなら、私の目が貴女の目になろう。
耳が聞こえなくなったなら、私の耳が貴女の耳となろう。
手足が動かなくなってしまったのなら、私の手足が貴女の手足となろう。
記憶を忘れる様になったのなら、私の脳が貴女の分の記憶も覚えていよう。
そして。
若しも貴女が罪に問われるのなら、私も共に貴女の罪を背負って生きて行こう。
私達は既に、この棘の道を共に駆け抜けて行く覚悟は既に出来ているのだから。
夢の世界に意識が移ろうとしている私達の耳に、電車の音が届く。
その音はまるで、私達の事を案じる様に聞こえる。
それを聞き届けたのを最後に、私達は静かに意識を2人だけの夢の世界に委ねた。
以下、本作のディザトレさんの簡単なキャラ設定。
ディザイアトレーナー
性別:♀
身長:156cm
体重:44kg
血液型:O型
趣味:お菓子作り
ディザイア担当の女性トレーナー。
トレーナーの経験はまだ新人ではあるが、常にウマ娘に対しては真っ直ぐな姿勢で接する事を心掛けている。
具体的な容姿に関しては、皆様の御想像にお任せします(但し髪型のみに関しては、『日々は過ぎれど飯うまし』の河合まこをモチーフにしています)。