「第二種目は──騎馬戦よ!」
ミッドナイトの宣言とともに、大型モニターへ競技名が映し出された。
障害物競走の順位に応じて各選手にポイントが割り振られ、チームを組んだ際にはその合計が得点となる。
その得点を示すハチマキを奪い合い、15分後に多くのポイントを所持していた上位4チームが最終種目へ進出できる。
そして、第一種目で1位だった緑谷には、1000万ポイントが与えられた。
『そう!狙われるのはトップに立った者!これぞ雄英の洗礼よ!』
ミッドナイトが楽しそうに笑った。それに反して緑谷の顔からは、みるみる血の気が引いていく。
まあ、気持ちは分かる。
1000万なんて数字をつけられたら、誰だって狙うに決まっている。僕だって当然そのつもりだ。
ちなみに、騎馬戦に参加できるのは第一種目を勝ち抜いた42人だけ。
大半がA組とB組のヒーロー科生徒で、普通科の心操やサポート科の発目がヒーロー科以外の生徒になる。
誰と組むかはもう決めた。向こうがすんなり頷いてくれたら楽なんだけど。
「司!」
そんなことを考えていると、耳郎が近づいてきた。
「どうしたの?」
「ウチと組まない?」
誘ってくれるかもしれないとは思っていたけど、来るのが随分と早かったね。でも、ごめん。
「ごめん、耳郎。今回は組みたい相手がいるんだ」
「......え?」
耳郎が目を瞬かせる。
「もう決めてるの?」
「まだ誘ってもいないけどね」
「ふーん......」
少しだけ唇を尖らせた。
「誰?」
「轟」
「......ああ」
耳郎は轟の方を見て、納得したように頷いた。
「そっか。あの個性なら、確かに強いよね」
「うん」
「......別に、ウチが弱いから断ったわけじゃないんでしょ?」
「当たり前じゃないか。耳郎は十分強いよ。ただ、今回は轟と組んでみたいんだ」
「......そっか」
耳郎は少し黙ってから、小さく笑った。
「じゃあ、今回は敵同士だね」
「そうなるね」
「言っとくけど、手加減しないから」
「僕もしないよ」
「うん。それでいい」
耳郎が僕の肩を軽く叩く。
「頑張ってね、司」
「耳郎もね」
そう言うと、耳郎は別のチームを探しに行った。少し残念そうだったけど、最後にはちゃんと笑っていた。
恋人だからといって、いつも同じチームでいる必要はない。むしろ、たまには別々の場所で競い合うのも悪くないと思う。
もっとも、僕としては耳郎に勝ってほしい気持ちもあるから、少し複雑だけどね。
耳郎が離れていくと、今度は何人かの生徒から声をかけられた。
「東雲!俺たちと組まねえか!?」
「こっちもまだ決まってないんだけど!」
僕の入試首席という肩書きと障害物競走の結果は、それなりに魅力的らしい。
「誘ってくれてありがとう。でも、ごめんね。もう組みたい相手がいるんだ」
断ってから周囲を見渡して目的の相手を探す。
いた。
少し離れたところでは、轟も似たような状況になっていた。
障害物競走2位。それでいて、紛うことなき強個性持ち。轟と組みたい相手は多いだろう。
「悪い。まだ決めてねえ」
轟が誘いを断ったところで、僕は声をかけた。
「轟、僕と組まない?」
「......おまえと?」
「ああ。僕の能力と君の氷を組み合わせれば、かなり強いチームになると思うんだけど」
轟は少し考え、それから緑谷へ視線を向けた。
「俺は緑谷の1000万ポイントを狙う」
「僕もそのつもりだよ」
「......そうか」
轟がこちらへ向き直る。
「分かった。組もう」
「ありがとう。じゃあ、残り2人を考えようか」
「何か考えがあるのか?」
「候補はいるけど、轟の意見も聞きたいな」
僕たちは少し人の少ない場所へ移動した。
「まず、騎手は轟に任せたい」
「俺が上か」
「うん。氷を使うなら、周囲を見渡せる位置の方が便利でしょ。ハチマキを奪うのも君に任せたい」
「......分かった」
「そうなると、必要なのは機動力と防御かな」
「飯田はどうだ」
「飯田?」
「あいつのエンジンなら、移動は任せられる」
なるほど。
「いいね。僕も身体能力を強化できるから、飯田の速度についていけるから問題ないし」
「おまえは誰を考えてる?」
「塩崎さん」
「障害物競走で、おまえが抱えてゴールした奴か」
「そう。彼女のツルなら広範囲を守れるし、相手の動きを制限することもできる。僕たちの足りないところを補ってくれると思うんだ」
「......悪くないな」
「それに、個性そのものがかなり強力だしね」
轟が頷いた。
「なら、その2人にしよう」
「決まりだね」
まず、飯田へ声をかけた。
彼は事情を聞くなり、眼鏡を押し上げて大きく頷いた。
「なるほど!僕のエンジンによる機動力を評価してくれたのだな!」
「うん。轟を騎手にして、飯田には移動の主力として動いて欲しい」
「全力で務めよう!」
続いて塩崎を探すと、ちょうど彼女もチームを決めようとしているところだった。
「塩崎さん。良かったら、僕たちと組まない?」
「......私と、ですか?」
少し意外そうに目を瞬かせる。
「ええ。東雲さんと轟さん、それに飯田さんですか......」
「塩崎さんのツルがあれば、攻守ともにかなり安定すると思うんだ」
「......そうですか」
塩崎は僕たちを見回し、少しだけ考えた。
「私でお役に立てるのでしたら、喜んでお受けいたします」
「ありがとう。頼りにしてるよ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
塩崎が穏やかに微笑んだ。
前から思ってたんだけど、雄英高校って顔採用してない?してる気がしてならないんだけど。
競技開始までの時間を使い、僕たちは作戦を確認した。
騎手は轟。
飯田が騎馬の先頭で移動を担当し、僕と塩崎が左右から支える。
轟は氷で進路を制限し、塩崎がツルで牽制と防御を担当する。僕は騎馬の安定と、必要に応じた風の補助だ。
「東雲くん。君の瞬間移動を使えば、相手のハチマキを容易に奪えるのではないか?」
飯田がもっともな疑問を口に出した。
「そうだね。でも、今回は基本的に使わないつもりだよ」
「何故だ!?」
「僕ひとりなら問題ない。でも、4人まとめて移動するとなると話が違うんだ」
僕は3人の顔を見回した。
「突然景色が変わって距離感が狂ったら困るでしょ?即席チームで何度もテレポートしたら、連携が崩れると思う」
「......確かにな」
轟が頷いた。
「それに飯田がいるし、僕も身体能力なら自信がある。テレポートを使わなくても、十分戦えると思う」
「なるほど!確かに、慣れない瞬間移動は危険かもしれないな!」
「ただし、ピンチの時は緊急離脱で使うかもしれない。そのときは必ず僕に触れてね。僕が触れていない人までは一緒に移動できないから」
「わかりました」
塩崎が真剣に頷いた。その後、彼女は何かを考えるように自分のツルへ手を添えた。
「私からもひとつ提案があります」
「何かな?」
「飯田さんの速度に、私がついていけるか分かりません。ですから、皆さんの身体を私のツルで繋いでおきたいのです」
「繋ぐ?」
「ええ。東雲さんと飯田さんにツルを巻き付け、お二人の動きに合わせて私も走ります。そうすれば、速度の差で置いていかれる心配はありません」
なるほど。
僕と飯田の速度を利用して、塩崎自身も同じ速度で移動するわけか。
「それに加えて、轟さんの下半身と私たち騎馬の腰回りを固定します。上半身は動かせるようにしておけば、行動には支障ないはずです」
「......なるほど」
轟が興味深そうにツルを見る。
「確かに。それなら加速しても騎馬が崩れにくいな」
「実際に試してみようか」
塩崎がツルを伸ばした。
僕と飯田の腰回りにそれぞれツルが巻き付き、塩崎自身と繋がる。続いて、轟の腰から太腿へツルが回り、僕たち騎馬の身体を繋ぐように編み込まれていった。
腕も肩も問題なく動かせる。試しに身体をひねってみる。
「おお。思ったより動きやすいね」
「締め付けすぎないように調整してます」
「轟、どう?」
「......問題ない」
轟は腕を動かし、足元を確かめた。
「では飯田さん、少し走っていただけますか?」
「了解した!」
僕たちは実際に騎馬を組み、短い距離を走ってみた。
飯田が加速し、僕も足並みを合わせる。
塩崎の身体が一瞬だけ引かれたものの、ツルが張ることで速度が揃い、すぐに走り方が安定した。
轟もほとんど揺れていない。
「......これは良いな」
「うん。すごくいい」
僕は素直に感心した。
「塩崎さん、かなり助かるよ」
「お役に立てるなら何よりです」
塩崎は控えめに微笑んだ。
ただし、これだけで完璧というわけではない。
塩崎がツルを展開する際、騎馬を繋ぐ部分まで緩めてしまえば意味がない。反対に、必要以上に締め付ければ僕たちの動きを妨げる。
だから、騎馬の固定に使うツルと、攻防に使うツルは完全に分けてもらうことにした。
「この固定用のツルは、競技が終わるまで維持できそう?」
「はい。私が意識していれば問題ありません」
「なら、あとは実戦で試そう」
作戦は決まった。
次は狙いだ。
「最初から緑谷を追い回すより、まず通常のハチマキを何本か確保したい。1000万ポイントを奪うことだけに集中して、ほかのチームから得点を奪われたら本末転倒だからね」
「......ああ」
「それに、最初の数分で実際に動いてみれば、4人の連携も確認できる」
「賛成だ!まずは堅実に得点を獲得しよう!」
『さあ、各チーム準備はいいかァ!?』
プレゼント・マイクの声がスタジアムに響いた。
周囲を見れば、緑谷の騎馬には麗日、常闇、発目。
爆豪の騎馬には切島、瀬呂、芦戸がついている。
そして少し離れたところに、心操を騎手にしたチーム。
......あれ?
「八百万と上鳴、あそこにいるんだ」
心操の騎馬を支えているのは、八百万、上鳴、そしてB組の庄田。2人とも妙に静かだ。
特に八百万なら、積極的に作戦を提案しそうだけど。まあ、今は競技に集中しているのかもしれない。
『それでは、騎馬戦──スタート!!』
号令とともに、周囲の騎馬が一斉に動き出した。
「飯田、まず右へ!」
「了解!」
エンジンの唸りが響く。
飯田の加速に合わせて、僕も地面を蹴った。
白虎の力で強化した脚は、想定通りに急激な速度の変化にも問題なく対応できる。そして塩崎は、僕と飯田を繋いだツルを利用して、少しも遅れることなくついてきていた。
上に乗る轟も、腰から下を固定されているおかげで姿勢が安定している。
「......悪くないな」
轟が呟いた。
「でしょ?塩崎さんのおかげだね」
「まだ始まったばかりです。油断なさいませんよう」
「ははっ。分かってるよ」
最初に狙ったのは、比較的近くにいた騎馬だった。
轟が氷で進路を狭め、飯田が横へ回り込む。僕も速度を合わせ、塩崎がツルで相手の動きを妨害する。
轟がハチマキを掴むまで、さほど時間はかからなかった。
『早速奪取!轟・東雲チーム、最初のハチマキを獲得だァ!!』
「いいね。今の感じでいこう」
それからも僕たちは何組かの騎馬と交戦し、通常得点のハチマキを獲得していった。
もちろん、一方的に奪ってばかりいたわけじゃない。
高得点のチームだと分かれば、当然こちらを狙ってくる生徒も増える。前後から挟まれたり、複数の騎馬に同時に接近されたりもした。
けれど、塩崎のツルはそうした状況でこそ役立った。
背後から伸びてくる手を弾き、側面を守り、ときには相手の騎馬の進路を塞ぐ。
しかも、固定用のツルは一切緩めない。
僕と飯田が急旋回しても、塩崎自身が引き離されることはなく、轟の姿勢も崩れなかった。
一度、相手の騎馬が正面から強引に押し込んできたこともあった。そのときは僕がぶつかって衝撃を受け止めたりもした。
『強い!轟チーム、複数の騎馬を相手にしても崩れない!!』
なるほど。
実際に動いてみると、思っていた以上に相性が良い。
飯田の移動、轟の氷、塩崎のツル。
それぞれが別の役割を担っているから、無理に誰かひとりが全部をこなす必要がない。
僕も騎馬の維持に集中できる。テレポートを使わない判断は、正解だったみたいだね。
ふと周囲を見渡すと、爆豪が物間たちを追いかけていた。
『おおっとォ!爆豪チーム、B組を猛追!!物間も負けじと応戦だァ!!』
別の方向では、心操チームが騎馬を近づけていた。相手の騎手が何かを叫び、心操が言葉を返す。
その直後。
騎手がぴたりと動きを止めた。
「......今の、何だ?」
轟も気づいたらしい。
心操は動きを止めた騎馬から、あっさりハチマキを奪っていく。八百万も上鳴も、表情をほとんど変えずに彼を支えていた。
「詳しくは分からないけど、心操には気をつけた方がよさそうだね」
「......ああ」
今の動きが個性によるものなら、不用意に話すべきじゃない。まあ、少なくともこの競技の間関わることはないけど。
『残り時間、あと5分!!1000万ポイントを守る緑谷チーム、いまだ逃走中だァ!!』
「さて」
僕は前方へ目を向けた。
「そろそろ本命を狙おうか」
「......ああ」
轟の目が鋭くなる。飯田が脚を踏み直し、塩崎のツルが僕たちを囲むように揺れた。
──決めさせてもらうよ。
緑谷チームは、簡単に捕まる相手じゃなかった。
轟が氷を広げて進路を塞ぐ。
だけど、麗日の個性と発目のサポートアイテムを利用して、緑谷たちは巧みに逃げていく。
近づいたところで、常闇のダークシャドウが牽制してくる。
「逃がさねぇよ....」
「轟くん!僕だって負けられないんだ!」
緑谷はただ逃げ回っているわけじゃない。こっちの動きを観察し、どうにか時間を稼ごうとしているらしい。
「飯田、右から追える?」
「可能だ!だが、常闇くんの黒影が厄介だ!」
「塩崎さん、牽制をお願い」
「お任せください!」
ツルが弧を描いて伸びる。ダークシャドウがそれを弾くけど、弾いた瞬間には別の方向から新たなツルが迫っていた。
広範囲に伸びるツルと自在に動く黒影。相性は悪くないけど、崩すための決定打にはならない。
緑谷たちはその隙にさらに距離を取っていく。
「......時間がないな」
轟が呟いた。
大型モニターには、残り時間が表示されている。
「焦らないで。まだ切り札は残ってるでしょ?」
僕は飯田へ目を向けた。
「飯田、あの加速は使えそう?」
「......ああ!ただし、一度使用すればしばらくエンジンが止まる!」
「いつでも使えるようにして」
「承知した!」
「塩崎さん、固定用のツルは大丈夫?」
「はい。問題ありません」
塩崎は自分のツルを確認し、静かに頷いた。
「飯田さんがどれほど加速なさっても、私が離されることはありません。轟さんの身体も、しっかり支えております」
「頼もしいね」
僕は改めて緑谷の動きを確認した。
氷を避けるとき、彼らは右へ逃げることが多い。
左側にはダークシャドウを展開し、こちらを牽制する。
なら、その動きを利用すればいい。
「轟、次は左を大きく塞いで。塩崎さんは黒影を牽制。緑谷が右へ逃げたところで、飯田に加速してもらおう」
「......分かった」
「ですが、相手も警戒しているのでは?」
「もちろん。それでも、僕たちの方が速ければ問題ないよ」
『残り時間、あと1分!!』
実況が響いた。
スタジアム全体の熱気が、さらに高まっていく。
遠くでは爆豪と物間たちがハチマキを奪い合っているらしく、爆音が聞こえた。
心操のチームも、すでにかなりの得点を確保しているようだ。
それぞれが最後の勝負に出ている。
僕たちも、ここで決める。
「轟、今!」
地面を氷が覆った。
緑谷の騎馬は左へ逃げようとして、進路を変える。
予想どおり、右へ。
「飯田!」
「行くぞ!レシプロ──バースト!!」
轟音とともに、飯田のエンジンが爆発的な勢いで加速した。
視界の端で景色が流れる。僕も白虎の力で強化した脚を地面へ叩きつけ、速度を合わせる。
身体が後ろへ引っ張られるような強烈な加速だ。塩崎も、僕と飯田へ巻き付けたツルによって引き離されることなく、同じ速度で走っていた。
塩崎のツルが騎馬の下半身をひとつに繋ぎ、轟の身体をしっかり固定している。
だから、これほど急激に加速しても、誰ひとり姿勢を崩さない。
騎馬がまるでひとつの生き物になったようだ。
「轟!」
「ああ!」
轟の氷が緑谷たちの逃げ道を狭め、そのまま轟の手が伸びる。
「っ、轟くん!」
緑谷が身体を引いたけど、飯田の加速はそれより速い。
轟の指が1000万ポイントのハチマキを掴む。
そして──引き抜いた。
『取ったァァァ!!轟・東雲チーム、1000万ポイントを奪取ッ!!』
「飛ぶよ!」
事前に決めていた合図だ。轟が僕の肩を掴み、飯田が腕に触れる。塩崎も僕の腕に手を添えた。
テレポート。
次の瞬間、僕たちは緑谷たちから離れた場所へ移動していた。
「おおっ!?」
飯田が驚いた声を上げたけど、騎馬は崩れない。塩崎のツルが4人の身体を繋ぎ、姿勢を保ってくれているからだ。
「これが君のテレポートか!分かっていても驚くものだな!」
「僕としては、ここまで姿勢が安定してることに驚いたよ」
『消えたァァァ!?東雲司、ここで初めて瞬間移動を使ったァ!!』
緑谷たちがこちらへ向き直る。
だが、もう遅い。その距離からはここまで届かない。終了を告げるブザーが、スタジアムに響き渡った。
『そこまでェェェ!!』
「......終わったな」
轟が小さく息を吐いた。
「ああ。お疲れさま」
飯田も塩崎も、ほっとしたように肩の力を抜く。やっぱり、団体競技は疲れるなぁ。
『それじゃあ、騎馬戦の結果発表だァ!!』
大型モニターに、順位が映し出された。
1位、轟チーム。
僕たちの名前が表示され、思わず笑みがこぼれる。
「やったな!」
飯田が力強く拳を握った。
「みんなのおかげだよ。飯田の加速がなければ、最後の距離は詰められなかった」
「いや、東雲くんが速度を合わせてくれたからこそだ!」
「塩崎さんにも助けられたね。あのツルがなかったら、レシプロバーストで騎馬が崩れていたかもしれない」
「私こそ、皆さんと共に戦えたことを光栄に思います」
塩崎が穏やかに微笑んだ。
「それに、今回は最初から真剣に競技へ臨まれていましたね」
「前回はちょっと失敗したからね」
「......ふふっ。そうでしたか」
どうやら、障害物競走で10分待機したことは、まだ覚えられているらしい。轟は大きく喜ぶことこそなかったけど、表情はどこか柔らかかった気がする。
「最後の転移は悪くなかった」
「ありがとう。轟の氷も助かったよ」
「......ああ」
続いて2位、爆豪チーム。
3位、心操チーム。
そして──4位、緑谷チーム。
「......へえ?」
思わずモニターを見直した。
緑谷たちの1000万ポイントは、間違いなく僕たちが奪った。
それなのに、4位で残っている。
視線を向けると、緑谷の頭には先ほどまでなかったハチマキが巻かれていた。
「......なるほど。常闇か」
僕たちが1000万ポイントを奪った瞬間、ダークシャドウがハチマキを奪っていたらしい。
「どうした?」
「完全勝利とはいかなかったなって」
轟もハチマキに気づいたらしい。
「......そうか」
「でも、今回は僕たちの勝ちだね」
「ああ」
結果発表が終わったあと、思わぬ申し出があった。心操チームの庄田が、個人戦への出場を辞退するという。なんでも、自分の意志では戦っていなかったことが理由らしい。
なるほど。
あの不自然な動きは、やっぱり心操の個性だったのか。八百万と上鳴も、あのとき操られていたんだろうね。
「わたくし、不甲斐ないですわ......」
近くに戻ってきた八百万が、悔しそうに拳を握っていた。
「気づいたときには、競技がほとんど終わっていましたの」
「そうだったんだ。怪我がなくてよかったよ」
「ですが、次の競技には臨みますわ。機会を無駄にはしたくありません」
「うん。それでいいと思う」
「......司さんは、私が辞退しなくてもよろしいと思いますか?」
八百万が少し不安そうに尋ねた。
「もちろん。不正で勝ち上がったわけじゃないし、八百万が悪いことをしたわけでもない。それに、僕は八百万の戦うところを見たいよ」
「......司さん」
彼女の表情が少し和らいだ。
「ありがとうございます。必ず、全力を尽くしますわ」
上鳴は少し困った表情で頭を掻いていた。
「いやー、マジで途中から記憶がないんだよな。でも、せっかく勝ち上がったんだし、やるしかねえか」
心操は個性を使って勝っただけで、ルールを破ったわけじゃない。その結果にどう向き合うかは、それぞれ次第だろう。
空いた1枠は、5位だった拳藤たちのチームへ繰り上がりの権利が回ったけど、拳藤たちは辞退し、鉄哲を推薦した。
そうして、最終種目進出の16人が揃った。
いよいよ個人戦だ。
『さあ、待ちに待った最終種目!1対1の決勝トーナメントだァ!!』
プレゼント・マイクの声に、観客席が大きく沸く。
大型モニターに、対戦表が表示された。
Aブロック。
緑谷出久VS心操人使。
轟焦凍VS瀬呂範太。
塩崎茨VS上鳴電気。
飯田天哉VS発目明。
続いてBブロック。
東雲司VS爆豪勝己。
常闇踏陰VS八百万百。
切島鋭児郎VS鉄哲徹鐵。
麗日お茶子VS芦戸三奈。
僕の初戦は爆豪か。
爆豪は油断できる相手じゃない。初戦から当たる相手にしては、正直ついてない相手だ。
「ハッ!」
すぐ近くから、鼻で笑う声がした。
「ようやくテメェをぶっ潰せるわけか」
爆豪だ。
獰猛な笑みを浮かべながら、僕を睨んでいる。
「障害物競走でも騎馬戦でも好き勝手しやがって......今度は逃がさねえぞ」
「逃げたつもりはないけどね」
「うるせえ!今度こそテメェを叩き潰してやる!」
やる気満々のところ悪いけど、僕も負けてあげるつもりはない。
「──勝つのは僕だよ。君と僕の対戦は、第一種目、第二種目と同じ結果になる」
「......あァ?」
爆豪の口元から笑みが消えた。
「障害物競走では僕が3位で君が5位。騎馬戦でも僕たちが1位だった。今回も僕が君より上になる。それだけの話だよ」
「テメェ......喧嘩売ってんのか!!」
「君が先に勝負を挑んできたんでしょ?」
「上等だ!覚悟しとけよ!!」
爆豪の掌から小さな火花が散る。
「お、おい爆豪!まだ試合前だって!」
切島が慌てて間へ入った。
「お前も、あんまり煽るなよ!」
「勝つつもりだって言っただけなんだけどなぁ」
本当に。僕は爆豪の強さを認めているし、警戒もしている。
それでも、勝つのは僕だ。
「司」
隣へ来た耳郎が、少し険しい顔をしていた。
「爆豪が相手って......大丈夫?」
「強いからね。気をつけるよ」
「いや、そうじゃなくて。絶対最初から本気で来るじゃん」
「僕だって本気で戦うよ。安心してみてなよ、僕が勝つところを」
耳郎は僕をしばらく見上げて、それから小さく息を吐いた。
「......うん。信じてる。でも、怪我には気をつけて」
「ありがとう、耳郎」
「司さん」
八百万も歩み寄ってきた。
「わたくしも応援しております。ですが、どうかご無理だけはなさらないでください」
「八百万は常闇が相手だね」
「ええ。油断ならない方ですわ」
「お互い頑張ろうね」
八百万は一瞬だけ目を見開き、すぐに真剣な顔になった。
「わたくしは──もし司さんと戦うことになっても、手加減はいたしません」
「うん。それでいいよ」
恋人だからといって、勝ちを譲ってほしいなんて思わない。誰が相手だとしても、全力で勝ちにいくだけだ。
「うわ、俺の相手、塩崎かよ!」
上鳴の情けない声が飛んできた。
「さっきの騎馬戦、ツルがすげえ厄介そうだったんだけど!」
「電気を使えるなら、十分勝ち目はあると思うよ」
「おまえは実際に組んでたから余裕で言えるんだよ!」
まあ、塩崎の強さを間近で見たからこその感想なんだけど。
飯田は発目の名前を見て、背筋を伸ばしていた。
「サポート科だからといって油断はしない!正々堂々、全力で勝負する!」
瀬呂は対戦表と轟を交互に見ていた。
「いや待て、初戦で轟って......俺、運悪すぎない?」
轟はまるで聞こえていないかのように、緑谷のいる方を見ている。緑谷との勝負を意識しているらしい。
緑谷は心操の名前をじっと見つめ、何かを考え込んでいた。
僕も改めて、モニターの自分の名前を見上げた。
東雲司VS爆豪勝己。
「──絶対に、僕が勝つ」
昼休憩が終わり、午後のレクリエーションが始まろうとしていた。僕も軽く食事を済ませ、再び競技場へ向かった。
そこで、妙な光景を目にした。
「......何これ」
A組とB組の女子たちが、揃いも揃ってチア服を着ている。
しかも、クラスごとに配色まで違う。
A組はオレンジを基調にした衣装、B組は青を基調にした衣装だ。
随分と本格的だね。
ただ、耳郎や八百万の様子を見る限り、本人たちが進んで着たわけではなさそうだ。
「司!?」
僕に気づいた耳郎が、慌てて振り向いた。
「ち、違うからね!ウチが好きで着たわけじゃないから!」
「まだ何も言ってないよ」
「その顔!絶対何か言おうとしてたでしょ!」
「似合ってるって言おうとしたんだけど」
「......え?」
耳郎は少し黙り込み、それから自分の衣装へ目を落とした。
「ウチ、こういう可愛い格好、あんまり似合わないと思うんだけど......」
「そんなことないよ。耳郎によく似合ってる」
「......ほんと?」
「うん。可愛いよ」
「......そっか」
耳郎の頬が赤くなる。
「ありがと」
声は小さかったけど、僕にはちゃんと聞こえた。
いつもは少し強気で、僕の軽口にも遠慮なく突っ込んでくる耳郎だけど、こういうところは意外と自信がない。
まあ、そこも可愛いんだけどね。
「司さん......」
隣では八百万が、両手を身体の前で重ねていた。
「どうか、あまり見つめないでくださいまし......」
「八百万も綺麗だよ。本場顔負けだね」
八百万は頬を染めながら、視線を落とした。
「褒めていただけるのは嬉しいのですが、その......恥ずかしいですわ」
「それで、どうしてこんなことになったの?」
「峰田さんと上鳴さんが、先生方からの正式な依頼だと......」
「ああ」
短い説明で、だいたい察した。
「ヒーロー科の女子が応援に参加することになったと伺いまして、わたくしが衣装を創造したんですの」
「なるほど。あの2人に騙されたわけか」
「ええ......。皆さんまで巻き込んでしまって、お恥ずかしい限りですわ」
八百万は見るからに落ち込んでいる。
「八百万が悪いわけじゃないでしょ。嘘をついたのはあの2人なんだから」
まあ、僕からすれば目の保養になるから嬉しいけど。
「ですが、確かめもしないで......」
「次から気をつければいいよ。それに、体育祭はお祭りでもあるんだし、こうなったら楽しみなよ」
八百万は少しだけ僕を見つめ、それから恥ずかしそうに微笑んだ。
「......ありがとうございます、司さん」
「ねえねえ、東雲くん!」
宙に浮いて見えるチア服が、くるりと回った。迷うまでもなく葉隠だ。
「せっかくだから見て!こういう衣装、ちょっと着てみたかったんだ!」
「葉隠は楽しそうだね」
「うん!騙されたのはあれだけど、もう着ちゃったし!どう、似合ってる?」
「もちろん。すごく可愛いと思うよ」
「やったー!」
葉隠は誰に言われるでもなく、自分自身で騙されたことよりも、今の状況を楽しむ方向へ切り替えたらしい。
一方、B組の方に視線を向けると拳藤が苦笑していた。近づいてみると、話しかけてくれた。
「いやあ、参ったわ。私がみんなに伝えちゃったのよね」
「拳藤さんも騙されたんだ?」
「そう。たまたま話を聞いて、一緒に騙されちゃった」
拳藤が呆れたように笑う。
「まあ、慰めになるかは分からないけど、よく似合ってるよ」
「ははっ、ありがと!」
拳藤と話していると、塩崎が静かに近づいてきた。
「......東雲さん」
当然ながら笑顔ではない。むしろ、かなり真剣な表情だ。
「ひとつ、確認させていただいてもよろしいでしょうか」
「いいよ。あ、でも先に言っておくけど、僕は今回の件には完全に無関係だからね。峰田たちが何を考えてたかなんて知らなかったよ」
「......そうなのですね」
「うん。そのうえで言うけど、塩崎さんのチア服姿もとても綺麗だよ」
「お褒めいただいても、騙したという事実は変わりません」
きっぱりと言われてしまった。僕が騙した訳じゃないんだけど。
「もちろん。峰田と上鳴が悪いよ」
「人の善意や信頼を利用して欺くなど、決して許される行いではありません。あとでお二人には、きちんと反省していただく必要があります」
「そうだね。全面的に同意するよ」
まあ、行動には責任が伴うからね。
「でも、塩崎さんが似合ってるっていうのは本当だからね」
「......ありがとうございます」
塩崎は少しだけ目を伏せた。
「ただし、それと今回の件は別のお話です」
どうやら、この問題に関しては一歩も譲るつもりがないらしい。実に塩崎さんらしいね。
「......司」
聞き慣れた小さな声がした。
小大が、B組のチア服を着てこちらを見ている。
表情はいつもと変わらない。
でも、よく見ると頬が少しだけ赤かった。
「やあ、唯。唯も着てたんだね」
「......ん」
「似合ってるよ」
「......ありがと」
小大は少し視線を伏せ、それから僕を見上げた。
「......変じゃない?」
「全然。可愛いと思うよ」
「......そっか」
ほんのわずかに、口元が緩む。
「......司」
「うん?」
「......次、頑張って」
ああ、爆豪との試合か。
「ありがとう。もちろん勝つつもりだよ」
「......ん」
小大は小さく頷いた。
その表情は相変わらず控えめだけど、さっきよりも少し嬉しそうに見えた。
【雄英体育祭】1年騎馬戦&決勝トーナメント実況・感想スレ Part11
841:名無しのヒーロー好き
轟チーム強すぎだろ
842:名無しのヒーロー好き
轟の氷、飯田のエンジン、塩崎のツル、東雲の瞬間移動
どうやって勝てと
843:名無しのヒーロー好き
なお東雲、瞬間移動は最後の1回しか使ってない模様
844:名無しのヒーロー好き
それより東雲の身体能力おかしくない?
飯田の加速についていってたぞ
845:名無しのヒーロー好き
あれ東雲だけじゃなく塩崎もすごいぞ
ツルで騎馬全員を固定してた
846:名無しのヒーロー好き
最後の爆速移動でも誰も体勢崩してなかったのやばい
847:名無しのヒーロー好き
あのチーム、全員ちゃんと仕事してたわ
848:名無しのヒーロー好き
前回10分待ってた奴が、今回は真面目にやって1位なの草
849:名無しのヒーロー好き
今回は普通に格好よかったと思う
850:名無しのヒーロー好き
緑谷チームも最後まで粘ってたよな
1000万取られたのに4位通過はすごい
851:名無しのヒーロー好き
常闇が密かに通常のハチマキ奪ってたな
852:名無しのヒーロー好き
ところで午後のチア何あれw
853:名無しのヒーロー好き
急に話変わって草
854:名無しのヒーロー好き
A組だけじゃなくB組の女子まで全員いたんだが
855:名無しのヒーロー好き
しかもあの女子の集団に東雲いたよな?
856:名無しのヒーロー好き
いた
857:名無しのヒーロー好き
またお前かwwwww
858:名無しのヒーロー好き
選手宣誓で女の子からファンレター募集してた奴だろw
859:名無しのヒーロー好き
A組の女子と喋る→移動する→B組の女子とも喋る
なんだこいつ
860:名無しのヒーロー好き
女子とのコミュ力どうなってんだよ
861:名無しのヒーロー好き
しかも何人か照れてなかった?
862:名無しのヒーロー好き
選手宣誓の伏線回収早すぎwww
863:名無しのヒーロー好き
障害物競走で助けた塩崎とも喋ってたな
864:名無しのヒーロー好き
助ける→同じチームになる→チア服姿で談笑
何だこの恋愛漫画
865:名無しのヒーロー好き
勝手に恋愛漫画にするなw
866:名無しのヒーロー好き
戦闘能力よりコミュ力の方がチート説
867:名無しのヒーロー好き
個性:女の子と仲良くなる
868:名無しのヒーロー好き
じゃあ瞬間移動と風は何なんだよwww
869:名無しのヒーロー好き
もういいからトーナメントの話しろw
870:名無しのヒーロー好き
東雲の初戦、爆豪だよな
871:名無しのヒーロー好き
普通に爆豪が勝つと思う
872:名無しのヒーロー好き
俺も爆豪有利だな
爆破の火力と機動力は個人戦向きだろ
873:名無しのヒーロー好き
でも東雲って今まで全部爆豪より上だったぞ
874:名無しのヒーロー好き
それと1対1は別だろ
875:名無しのヒーロー好き
東雲って攻撃手段ほとんど見せてなくね?
876:名無しのヒーロー好き
瞬間移動と風があっても、爆豪をどう倒すんだって話
877:名無しのヒーロー好き
あの身体能力なら接近戦も強そうだけど
878:名無しのヒーロー好き
爆豪相手に近づくのは危険じゃね?
879:名無しのヒーロー好き
俺は爆豪7:東雲3くらいだと思う
880:名無しのヒーロー好き
俺もそのくらい
881:名無しのヒーロー好き
東雲が勝つ可能性もあるだろ
882:名無しのヒーロー好き
それは認める
でも現時点なら爆豪有利
883:名無しのヒーロー好き
対戦表出たとき爆豪めちゃくちゃ東雲睨んでたなw
884:名無しのヒーロー好き
東雲が何か言い返して、さらにキレてたの笑った
885:名無しのヒーロー好き
w
886:名無しのヒーロー好き
選手宣誓でファンレター募集して、最初は舐めプ、最後はチア女子に囲まれてた首席が初戦敗退したら伝説になるぞw
887:名無しのヒーロー好き
最後までその話引っ張るなwww
888:名無しのヒーロー好き
まあ、今のところ爆豪が勝つと思う
889:名無しのヒーロー好き
東雲司が爆豪にどこまで通用するか、見ものだな
チア服姿、耳郎&八百万&小大&塩崎&拳藤