僕は愛を囁く   作:Mr.♟️

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雄英体育祭 前編

 

珍しいこともあるもんだ。

 

体育祭の入場を待つ控え室で、轟が緑谷に宣戦布告をしている。

 

ついさっきまで、切島や上鳴、芦戸が騒いでいたのに、そんな賑やかな空気が今は嘘みたいに静まり返っている。

 

「客観的に見ても、俺の方が上だと思う」

 

轟の声は淡々としていた。だからこそ、冗談には聞こえない。

 

「けど、おまえには勝つ」

 

「......轟くん」

 

緑谷は困惑していたけど、轟から視線を逸らすことはなかった。それどころか小さな声ではあったものの、自らの意志を示した。

 

「僕だって、負けるつもりはないよ」

 

轟と緑谷が今まで競い合っていたことはない。なのに、なぜわざわざ宣戦布告を?

 

轟はプロヒーロー、エンデヴァーの息子だ。エンデヴァーといえば、長年オールマイトの背中を追い続けている男として有名だ。

 

一方、緑谷はオールマイトに妙に目をかけられている。

 

最初は、どちらも身体能力を高める個性だから親近感があるのだと思っていた。でも、それだけじゃないようにも見える。

 

USJでの一件を思い出す。

 

僕の個性を見たオールマイトは、誰からその力を貰ったのか、と尋ねた。

 

個性を人から貰うなんて、普通は言わない。オールマイトは個性を与えられる方法を知っていて、そのことに緑谷が関係しているのかもしれない。

 

そう考えると、目の前の宣戦布告は単なる同級生同士の対抗心ではなく、オールマイトとエンデヴァーの関係を映したもの、とも考えられる。

 

エンデヴァーが緑谷のことを知っていて、轟に何か情報を与えた。

 

......いや、流石に飛躍しすぎか。

 

全部憶測だ。

 

考えるのは自由かもしれないけど、これ以上前のオールマイトの発言の意味を考えるのはやめておこう。

 

結論が出たとしても、きっとそれはそこまでいいことじゃないだろうから。

 

「司、何その顔」

 

隣から耳郎が覗き込んできた。

 

「今日のお昼、何食べようか考えてた」

 

「絶対嘘」

 

「本当だよ。あー、お腹すいたなぁ」

 

「適当にはぐらかしすぎでしょ」

 

「まあ、轟も緑谷も本気なんだなって思ってたんだよ。僕もがんばらないとなぁって」

 

「ああ、それならわかる」

 

耳郎は唇を少し尖らせ、それから笑った。

 

「言っとくけど、ウチも全力で頑張るから」

 

「応援してるよ」

 

「お二人とも、随分楽しそうですわね」

 

八百万が歩み寄ってきた。

 

「八百万は緊張してる?」

 

「少しばかり。ですが、わたくしも負けるつもりはありませんわ」

 

「いいね。勝った人は残りの2人に何か奢ってもらう?」

 

「えっ、そこは勝った人が奢るんじゃないの?」

 

「それだと、僕が奢ることになるから嫌だ」

 

「ったく、謙遜しなよ、謙遜」

 

耳郎が笑う。八百万も口元を緩めた。

 

「東雲くん!」

 

そこに飯田が、背筋をぴんと伸ばしてやってきた。

 

「君は選手宣誓を任されているのだろう!準備は万全か!」

 

「うん。言うことは考えてあるよ」

 

「ならばよし!入試首席として、堂々とした宣誓を期待している!」

 

「任せて。ちゃんと盛り上げるから」

 

「......盛り上げる?」

 

飯田の眼鏡がきらりと光った。

 

「東雲くん。何か余計なことを考えていないだろうな?」

 

「失礼だなぁ。僕を誰だと思ってるの?」

 

「それを知っているから心配しているのだ!」

 

耳郎が吹き出した。酷いなぁ、僕は今まで何一つ問題を起こしてないのに。

 


 

スタジアムへ足を踏み入れた途端、歓声が全身を叩いた。

 

「うわ......すごいな」

 

見上げれば、観客席は空いている席がなく全席埋まっている。巨大モニターには入場する僕たちの姿が映っている。

 

これだけでも十分な光景だけど、テレビやネット中継の向こうには、もっと大勢の人がいるはずだ。

 

雄英体育祭はただの学校行事じゃない。未来のヒーローを全国が見定める舞台でも、日本中な注目している一大イベントだ。

 

「司、緊張してない?」

 

隣を歩く耳郎が、少し声を潜めて尋ねた。

 

「どうだろう。自分では緊張してないつもりだけど」

 

やがてミッドナイトの声が響き、開会式が始まった。生徒たちが整列し、スタジアムの熱気が少しずつ落ち着いていく。

 

 

 

そして、僕の名前が呼ばれた。

 

入試首席として、選手宣誓を務めるのは僕だ。

 

壇上へ上がる。マイクの前に立つと、広大な観客席が一度に視界へ入った。

 

僕はゆっくり息を吸った。

 

「宣誓!」

 

声がスタジアムへ広がる。

 

「僕たち雄英高校の生徒一同は、日頃の鍛錬で培った力を存分に発揮し、正々堂々、全力で競い合うことを誓います!」

 

観客席が静まり返る。

 

「勝敗にかかわらず互いの健闘を称え、ヒーローを志す者として恥じない姿をお見せします!」

 

そして、少しだけ間を置いてから言葉を紡ぐ。

 

「もちろん、僕自身も優勝を狙っています。誰にも譲るつもりはありません」

 

拍手が起こる。

 

よし。ここまでは完璧な例年通りの選手宣誓だ。

 

「それと、最後にひとつだけ」

 

僕はわずかに口元を緩める。

 

「皆さんからのファンレターもお待ちしてます。特に、可愛い女の子たちからのね」

 

一瞬の静寂。

 

それから、客席のあちこちで笑い声が上がった。

 

「なんだあいつ!」

 

「学生にファンレター送る奴なんていないだろ!」

 

「首席、調子いいな!」

 

「俺からも送ってやろうかー!」

 

「男性からのお手紙も歓迎ですよ」

 

軽く手を振って返すと、また笑い声が広がる。

 

眉をひそめた人もいるだろうけど、会場の空気は柔らかく、かつ盛り上がった。

 

「以上、選手代表、ヒーロー科1年A組、東雲司!」

 

さて、これで一つ目の演出は終わり。

 

僕の恋愛の形は、多くの人が当たり前だと考えるものと違う。

 

将来、ヒーローとして人前に立ち続けるなら、その違いをいつまでも隠しておくわけにはいかない。

 

第一印象で優等生だと思われてから、その後に複数の恋人がいると知られれば、裏切りだと感じる人もいるだろう。

 

だったら最初から、少し調子が良くて女の子に弱い男として顔を覚えてもらった方がいい。

 

それで批判が消えるとは思わない。でも、将来のために今からできることはあるんだからやらない理由がない。

 

列へ戻ると、耳郎が半眼になっていた。

 

「......やっぱり何かやると思った」

 

「ちゃんと宣誓したでしょ?」

 

「最後の一言が余計なの」

 

「でも笑ってくれた人もいたよ」

 

「前半はとても立派でしたのに。司さんらしいといえば、司さんらしいですわね」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

「わたくしは褒めているつもりですわ」

 

「ヤオモモ、甘やかしちゃ駄目だって」

 

耳郎の言葉に、八百万が慌てて首を振った。

 

「テメェ、浮かれてんじゃねえぞ」

 

爆豪がこちらを睨んでいる。

 

「競技じゃ絶対ぶっ潰す」

 

「応援してるよ。出来れば戦いたくないけど」

 

「その余裕ぶった顔、いつまでもさせねぇからなァ!」

 

ずいぶん気合が入っているなぁ。まあ、それは僕も同じだけど。

 


 

「さあ、第一種目を発表するわよ!」

 

ミッドナイトが鞭を振ると、大型モニターに文字が浮かび上がった。

 

障害物競走。

 

雄英の敷地を利用した全長約4キロメートルのコース。

 

思わず笑ってしまった。相性が良すぎる。

 

テレポートさえ使えれば、どんな障害があろうと僕が負けるはずがない。普通に走ったら、間違いなく僕が1位になる。

 

もちろん、他の生徒を舐めてる訳じゃないけど──1位にならない方が難しいのは事実だ。

 

不測の事態はあるにせよ、この競技で僕の能力が圧倒的に有利のは間違いない。

 

そして、そこが問題でもある。

 

瞬間移動できる選手が優勝しても、観客は『まあ、そうなるよな』で終わってしまう。

 

せっかく全国から観客が人が集まって、テレビの前でも大勢が見ているのに、その終わり方はあまりにも呆気ないし面白くない。

 

他の参加者もアピールできない上、僕も美味しくない。

 

だったら、面白くすればいい。

 

僕自身がハンデを背負えばそれで解決する。

 

「司?」

 

耳郎が怪訝そうに僕を見た。

 

「また何か考えてるでしょ」

 

「うん。ちょっとした演出をね」

 

「演出?」

 

「ああ、気にしなくてもいいよ。耳郎は全力で走ればいい」

 

「その言い方、すっごく嫌な予感がする」

 

ご名答。

 

今回、僕が自分へ課すハンデは10分。

 

全員が出発してから10分間、あえてスタートしない。

 

そこから一気に追い上げて、最後は1位でゴールする。

 

出遅れた選手がトップを奪う。きっと盛り上がる。失敗して予選落ちでもすればただの馬鹿だけど、成功すれば盛り上がる上に最高のアピールにもなる。

 

「位置について!」

 

スタート地点へ人が押し寄せる。入口は狭く、一斉に飛び出せばすぐに混雑するのが目に見えていた。

 

『さあさあ!実況は俺、プレゼント・マイク!解説はイレイザーヘッドでお届けするぜェ!』

 

聞き慣れた声がスピーカーを震わせる。

 

『ヒーロー科も普通科もサポート科も、全員まとめてスタートだァ!』

 

僕は肩の力を抜き、前方を見据えた。

 

「スタート!!」

 

号令とともに、一斉に足音が響く。

 

そして先頭付近で、轟が早速仕掛けてくる。

 

「──!」

 

氷が爆発的な勢いで広がった。

 

『おおっとォ!轟焦凍、開始早々に大規模氷結だァ!!』

 

ずいぶん派手な挨拶だね。ヒーロー科じゃないとこれを回避するのは難しいはずだ。

 

僕は氷が届く直前、視界の先にある何もない空間へテレポートした。足場なんて必要ない。

 

空中に現れた身体を白虎の風でふわりと支え、凍った通路を見下ろす。そのまま氷の届かない壁際へ移動した。

 

『ヒーロー科は全員回避したか!?東雲選手も回避!さすが入試首席......って、あれぇ!?』

 

うん。ここからが本番だ。

 

僕は壁にもたれ、競技場の大時計を見上げた。

 

『動かない!東雲、氷を避けたのに前へ進もうとしないぞ!?』

 

「東雲くん!何をしているんだ!」

 

振り返った飯田が、目を丸くしていた。

 

「ちょっと待ってから行くよ!」

 

「何故だ!?」

 

「その方が面白そうだから!」

 

「面白さで競技を判断するなーっ!」

 

怒鳴りながらも、飯田は走り続けていく。

 

耳郎まで振り向いた。

 

「司!?本気で何やってんの!?」

 

「後で追い抜くよ」

 

「......予選落ちしても知らないからね!」

 

八百万は心配そうに僕を見たけれど、やがて前へ向き直った。

 

『イレイザー!あいつ何してんだ!?』

 

『知らん。だが、何か考えてはいるんだろ』

 

『教え子なんだからもうちょっと説明してくれよ!』

 

『説明できるなら俺も苦労しない』

 

競技開始から2分。

 

競技場のモニターには巨大ロボットと対峙する生徒たちが映し出され、金属がぶつかり合う轟音がスタジアムへ響いている。

 

『さあ第一関門ロボ・インフェルノ!巨大な仮想敵が選手たちを待ち受ける!』

 

開始から4分。

 

「おーい首席!棄権かー!」

 

「優勝宣言してたじゃないか!」

 

観客席から野次が飛ぶ。ああ、この距離だと客席からの声も聞こえるよね。

 

「早く追いかけろー!」

 

僕は笑って手を振り返す。

 

なぜ動かないのか、どうするつもりなのか。分からないからこそ、人は先を気にする。注目する。

 

開始から6分。軽く屈伸する。スタート付近にはもう誰もいない。凍っていた生徒はリタイアするか既に脱出してスタートを切っている。

 

有難いことに、実況は時折こちらへ話題を戻してくれる。

 

『おいおい、東雲はまだ待機中!これにはどういう意味があるんだァ!?』

 

『本人に聞け』

 

『聞けるなら聞きたいぜ!』

 

開始から8分。

 

先頭集団は第二関門を抜け始めているらしい。

 

テレポートは100メートル以内の視認できる場所なら、空中だろうと移動できる。風を使えば落下することなく高度を維持することも可能だ。

 

開始から9分。

 

少し緊張してきた。これで予選落ちしたら、本当に笑い話だから。笑い話どころか、雄英高校体育祭の後世に語り継がれるレベルの愚行だ。

 

9分50秒。

 

55秒。

 

58秒。

 

10分。

 

「さて」

 

壁から離れ、前を向く。

 

「そろそろ始めようか」

 

空中の安全な位置へ意識を合わせた。

 

テレポート。

 

景色が一瞬で切り替わる。

 

『動いたァァァ!!東雲司、ついにスタート!!実に10分遅れだァ!!』

 

実況とともに、背後で待ちかねていた観客たちの声が上がった。

 

いいね。

 

これで舞台は整った。

 

あとは、僕が期待に応えるだけだ。

 


 

第一関門、ロボ・インフェルノ。

 

巨大な仮想敵が、進路を塞いでいた。

 

入学試験では敵だったけど、今は単なる障害物だ。

 

「久しぶりに見たけど──トロイデカブツだ」

 

ロボットが腕を振り下ろす。

 

その直前で僕は消え、機体の頭上へ転移した。

 

空中に浮いたまま視線を前へ向ける。その先には、開けた空間が見える。

 

もう一度、テレポート。

 

機体の背後へ。

 

さらに、前方へ。

 

『速いッ!東雲選手、ロボットを相手にしない!頭上から次々と抜き去っていくゥ!!』

 

障害物があるなら、その上を通ればいい。

 

転移先にロボットの腕が来ないかだけは念の為確認してからテレポートする。

 

『たった今、第一関門突破!10分の差が、どんどん縮まっていくぞォ!!』

 

 

 

 

 

第二関門、ザ・フォール。

 

下には、深い谷が広がっていた。ロープが何本も張られ、生徒たちが必死に渡っている。

 

「よっと」

 

風をまとって高度を上げる。

 

足元には何もないけど、白虎の風が身体を支えてくれる。便利な能力で助かる。

 

対岸までは、見通せる空中を何度かに分けて転移する。

 

テレポート。

 

谷の上空へ。

 

続けて、さらに前へ。

 

遠くの地面がぐんぐん近づいてくる。

 

「な、なんだあいつ!テレポート!?」

 

ロープの上にいた生徒が、思わずこちらを見上げた。

 

「僕を見てたら危ないよ。まあ、落ちたいなら好きにすれば?」

 

声をかけると、その生徒は慌ててロープへ視線を戻した。

 

『ザ・フォールまで突破!東雲選手、まるで障害物が存在しないような動きだァ!』

 

『瞬間移動ができるうえ、風で空中の姿勢も制御できるからな。あいつにとっては、実際障害物は無いに等しい』

 

 

 

 

『さあ、先頭集団はいよいよ地雷原へ!緑谷、轟、爆豪が接戦を繰り広げている!』

 

遠くに影が見える。ようやく、追いつける。思ったよりも差はあったけど、このくらいなら予定通り1位を狙える。

 

僕は風を切って進み、最後の関門へ向かった。

 


 

第三関門、地雷原。

 

赤茶けた地面では、あちこちで小さな爆発が起きていた。

 

地雷は競技用 殺傷力はなくても、踏めば足止めされる。

 

でも、空中をテレポートしていけば関係ない。

 

僕は白虎の風を使って地面から距離を取り、見通せる場所へ次々とテレポートする。

 

『おおっとォ!東雲選手、先頭集団に追いつくぞ!!』

 

あとは抜くだけだ。

 

前方には轟と爆豪。僕の後ろでは、緑谷が大きな金属板を抱えているのが抜かす前に見えた。

 

前方の空間が見える。あそこへ飛べば、一気に先頭へ並べる。あと2回のテレポートで僕が1位だ。

 

 

 

 

次の転移先を定めようとした、その瞬間。

 

「......え?」

 

後ろから今までの比にならない爆風と轟音が響いた。

 

その爆発が周囲の地雷へ伝わり、さらに別の地雷を巻き込んでいく。地面が跳ね上がった。

 

火柱が連なり、砂塵が空高く噴き上がる。

 

『なァァんだこの大爆発はァ!?緑谷出久、地雷原をまとめて爆破したァ!!』

 

「余計なことを.....!」

 

緑谷が爆風に乗って飛んでいく。あれが狙いだったのか。

 

巻き上がる砂塵が僕の視界へ迫る。転移で一気に抜けようと、気を取り直して進行方向を見定めた。

 

──そのとき。

 

「っ!避けてくださいっ....!」

 

横から、大きな声が聞こえた。

 

緑谷の爆発に巻き込まれたのか、宙を舞っている。そして、その身体は僕の方へ飛んできた。

 

テレポートすれば、激突することはない。受け止めてからだと、爆風による砂塵が僕の視界を塞ぐことになる。

 

視界を塞ぐのは数十秒だろうけど、この場面ではその時間が痛い。1位を目指すなら投げかけられた言葉通り無視して先にテレポートするべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──仕方ない、か」

 

飛んでくるその女性とを両腕を広げて受け止める。

 

空中で衝撃に傾いた身体を、風で支える。

 

「大丈夫?」

 

「は、はい......!」

 

その一瞬だった。

 

ごおっ、と砂塵が押し寄せる。

 

緑谷の爆発で生まれた茶色い幕が、僕たちをすっぽり包み込んでしまった。

 

「......緑谷め、余計なことを」

 

周囲が見えない。

 

空中へテレポートすること自体はできる。でも、視界が遮られた状態では、飛ぼうとする先に何があるのか判断できないから飛ぶべきではない。

 

見えない空間へ適当に転移して、爆風や別の選手にぶつかるわけにはいかないからね。

 

「ちょっと風が強くなるから、掴まっててね」

 

「風、ですか?助けていただいたことには感謝申し上げますが、出来れば下に降ろし──」

「目の前が見えないなら、見えるようにすればいい」

 

【白虎の力】。

 

身体の周囲を巡る風を、正面へ集める。

 

次の瞬間、凄まじい風が一直線に吹き抜け、厚く広がっていた砂塵が左右へ押し流される。

 

まるで巨大な幕を真ん中から引き裂いたように、ゴールへ続く空間が開けた。

 

「まあ......!」

 

腕の中の少女が息を呑む。

 

『なっ!?なんだあの風はァ!!砂煙が一直線に吹き飛んだぞ!!』

 

『東雲!女子生徒を助けたうえに、今度は風を操って進路を確保したァ!!』

 

よし。見えた。

 

ここからならテレポートできる。

 

「あの、私を降ろしていただいても......」

 

「降ろしてる時間がもったいない」

 

「えっ?」

 

「まだ勝負の途中だからね。かといって、ここへ投げ捨てるわけにもいかないし」

 

「な、投げ捨てるのは.....」

 

「だから、しっかり掴まってて」

 

安全を確認できる前方の空中へ、テレポート。

 

一瞬で景色が変わった。

 

次の空間へ。

 

そして、また次へ。

 

『速い!速いぞォ!!東雲司、女子生徒を抱えたまま猛烈な追い上げだ!!』

 

前方に爆豪の背中が見えた。

 

爆破を繰り返しながら、必死にゴールへ向かっている。

 

「悪いね、爆豪。先に行くよ」

 

「──あァ!?」

 

次の瞬間には、もう彼の前方にいた。

 

『抜いたァ!東雲、爆豪を抜いたァァ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、残念なことに実況が告げる。

 

『緑谷出久、1位でゴォォール!!』

 

......ああ、間に合わなかったか。

 

『続いて轟焦凍、2位!!』

 

そこまで聞いて、僕は小さく息を吐く。

 

ゴールラインが見える。

 

最後の転移でその手前へ進み、彼女を抱えたまま境界を越えた。

 

『ゴォォォール!!東雲司、3位でフィニッシュ!!』

 

『そしてその腕に抱えられていた1年B組、塩崎茨も4位だァ!!』

 

『続いて5位、爆豪勝己!!』

 

くそっ、悔しい。

 

当然だ。最初から僕が狙っていたのは3位じゃない。

 


 

「テメェェェ!!」

 

背後から、聞き慣れた怒声が飛んできた。

 

振り返れば、爆豪がこめかみに青筋を浮かべている。

 

「10分も突っ立ってた奴が!女抱えて俺の前に出てんじゃねえ!!」

 

「お疲れ、爆豪。惜しかったね」

 

「どの口が言ってやがる!!」

 

「僕も1位になれなかったんだから、お互い残念だったねって話だよ」

 

「だったら最初から走れや!!」

 

「まあ、最初から僕が走ってたら誰も僕の影を踏むことさえ出来なかっただろうね」

 

「はァ!?喧嘩売ってんのか!?」

 

「売ってないよ。ただ、僕は自分の考えに基づいて行動しただけ」

 

「......ふざけやがって」

 

爆豪の声が、低くなる。

 

「次の競技は絶対に負けねえ。覚えとけ」

 

「うん。僕も次こそ勝つつもりだよ」

 

爆豪が怒りながらも少し離れたところに移動してから、僕は腕の中の少女へ目を向けた。

 

「ごめんね、騒がしくて。とりあえず、降ろすね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

足元へそっと立たせると、彼女は長い緑色のツルを整え、僕へ向き直った。

 

「1年B組の塩崎茨と申します。個性はツルでこのたびは危ないところを救ってくださり、ありがとうございました」

 

「僕は東雲司。よろしく、塩崎さん」

 

まあ、そうは言っても、僕が受け止めなくてもツルの個性なら着地して競技へ復帰することも難しくなかったはずだ。

 

「存じております。選手宣誓をなさった方ですから」

 

「ああ、宣誓聞いてくれてたんだ」

 

「はい。最初のお言葉は立派でした。ですが......最後の冗談には、少々驚きました」

 

「ファンレターの話?」

 

「ええ。申し訳ありませんが、少しばかり軽率な方なのかと」

 

僕は思わず笑った。

 

「そう思う人もいるだろうね」

 

「怒らないのですか?」

 

「本当のことだからね。可愛い女の子から応援されたら嬉しいし」

 

「......そうなのですね」

 

塩崎は僕の返答に困ったような表情を浮かべながらも、目を逸らさず続けた。

 

「正直に申し上げれば、最初から真面目に競技へ参加なさらなかったことにも戸惑いました。真剣に走る方々への礼を欠いているように思えたからです」

 

「うん。それは言われても仕方ないかな」

 

「ですが、あの瞬間、貴方は迷わず私を助けてくださいました。避けることも出来たはずなのに、ご自身の勝利を諦めて」

 

彼女の声が、少し柔らかくなった。

 

「僕は勝つつもりだったよ。実際、今でも割と悔しいし」

 

「......ええ」

 

「僕はただ、あそこから落ちたら大怪我するだろうと思ったから助けた。そういう競技ではあるけど、手が届く範囲なら助けた方が寝覚めが良さそうでしょ?」

 

塩崎は少しの間だけ僕を見つめ、そして小さく微笑む。

 

「言葉だけで人を判断してはいけないのですね。改めて、学びました」

 

「それにしても、最後まで私を抱えて進まれるとは思いませんでした」

 

「降ろす時間が惜しかったからね」

 

「......そうおっしゃっていましたね」

 

「かといって、投げ捨てるわけにもいかないし」

 

「投げ捨てると言われて肯定することはできません」

 

真顔で言われてしまった。

 

「次があれば善処するよ」

 

「......ふふっ」

 

今度は小さく声を出しながら彼女は笑った。

 

「東雲さん。次の競技でも、お互いに最善を尽くしましょう」

 

「もちろん。次こそは1位を狙うよ」

 

「私も、負けるつもりはありません」

 

 

狙っていた1位は逃したけど、結果を考えれば悪くはない。第二種目には進めたわけだし、アピールもできた。

 

.......これで1位を取れたら完璧だったんだけどなぁ。

 


 

【雄英体育祭】1年障害物競走実況・感想スレ Part8

 

581:名無しのヒーロー好き

 

緑谷の地雷爆破、何回見ても笑う あんな使い方するとは思わんかった

 

582:名無しのヒーロー好き

 

轟の氷結もやばかったぞ 今年の1年レベル高すぎ。流石エンデヴァーの息子だな。

 

583:名無しのヒーロー好き

 

それより東雲司って何者なんだよ

 

584:名無しのヒーロー好き

 

10分遅れて3位の首席な

 

585:名無しのヒーロー好き

 

いや最初から走れよ 体育祭舐めすぎだろ

 

586:名無しのヒーロー好き

 

俺は盛り上がったけどな。動き始めたときの歓声もすごかったし

 

587:名無しのヒーロー好き

 

盛り上がれば何してもいいわけじゃない。真面目に競技に参加してる生徒に失礼

 

588:名無しのヒーロー好き

 

入試首席なら普通に勝ってくれた方が格好よかった

 

589:名無しのヒーロー好き

 

でもあの瞬間移動見たら普通に勝つの当たり前じゃん。わざと遅れた理由は分からんでもない

 

590:名無しのヒーロー好き

 

理由が分かるのと好感持てるのは別

 

591:名無しのヒーロー好き

 

選手宣誓でファンレターねだってた時点で軽い奴だとは思ったw

 

592:名無しのヒーロー好き

 

学生にファンレター送る奴いねーだろwww

 

593:名無しのヒーロー好き

 

俺からも送ってやろうかって野次に返事してたのは笑った

 

594:名無しのヒーロー好き

 

女の子女の子言うタイプのヒーローは苦手だな

 

595:名無しのヒーロー好き

 

冗談一つでそこまで言わなくても 最初の宣誓自体はまともだったぞ

 

596:名無しのヒーロー好き

 

それより風どうなってんの?個性はテレポートだけじゃないのか

 

597:名無しのヒーロー好き

 

なんの個性がさっぱりわからん。複合型か?

 

598:名無しのヒーロー好き

 

あの女子が飛んできた瞬間に受け止めたのは格好よかった

 

599:名無しのヒーロー好き

 

あれは良かった。スタートは10分待つのに、人助けでは迷わず即動くんだな

 

600:名無しのヒーロー好き

 

女子だから助けたんじゃないの?

 

601:名無しのヒーロー好き

 

さすがに邪推だろ。あの状況なら誰でも助けるんじゃね

 

602:名無しのヒーロー好き

 

あの一瞬の出来事で、助けようとして助けられる奴はそんな多くないぞ

 

603:名無しのヒーロー好き

 

まあ、それは認める

 

604:名無しのヒーロー好き

 

抱えながらゴールは驚いたけどな

 

605:名無しのヒーロー好き

 

爆豪が5位でキレてて草

 

606:名無しのヒーロー好き

 

正直東雲は好きになれん。でも実力は認める

 

607:名無しのヒーロー好き

 

俺は好き。ああいう変な奴がいた方が体育祭面白い

 

608:名無しのヒーロー好き

 

次も同じことやったら叩くわ

 

609:名無しのヒーロー好き

 

逆に次どう戦うか気になる

 

610:名無しのヒーロー好き

 

今回の競技は相性が良かっただけじゃね?

 

611:名無しのヒーロー好き

 

まあ良くも悪くも話題になったわ

 

612:名無しのヒーロー好き

 

東雲司か。良くも悪くも名前覚えた

 


 

塩崎

 

 

 

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個性『言霊』で紡ぐ僕のヒーローアカデミア(作者:稲荷狐心)(原作:僕のヒーローアカデミア)

発した言葉を現実へと変える個性──『言霊』▼これはそんな強力な個性を持った少年が仲間たちと共に、最高のヒーローとなるまでに紡ぐ物語である。▼※圧倒的最強ヒロイン八百万百!


総合評価:739/評価:8.5/連載:11話/更新日時:2026年10月13日(火) 20:00 小説情報

魔訶不思議大冒険(作者:一番好きなのは界王拳)(原作:僕のヒーローアカデミア)

孫悟空に憧れた青年が転生してサイヤ人になり、大切な人と共にヒーローを目指して、いつか“最強”のヒーローになるまでの物語。▼タイトル思い付かなかった……。※ドラゴンボールの知識が無くても多分問題ないです。


総合評価:1298/評価:8.12/連載:10話/更新日時:2026年10月21日(水) 09:00 小説情報

デメテル・ファミリアの団長(作者:Mr.♟️)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

▼地雷だと思った方はブラウザバックしてください。▼オリ主ハーレム?モノです。▼タグは随時更新します。▼原作の30年前から始まります。▼挿絵は全てAI絵になります。▼オリ主:ライ・フェンネル▼物語スタート時、年齢:10歳。▼狐人とハイエルフのハーフ、妖精狐(エル・ルナール)。


総合評価:1839/評価:7.49/連載:13話/更新日時:2026年09月01日(火) 00:00 小説情報

氷の系譜、春を抱く(作者:メガネ閣下)(原作:僕のヒーローアカデミア)

圧倒的な氷結の個性「冬」を持ちながら、成果至上主義の一族を拒絶し家出をした少年・氷叢冬真。雄英高校校長である根津の養子となり、彼は己の存在意義を探すように雄英高校1年A組へと入試を経て潜り込む。▼↓氷叢冬真のコスチューム▼https://photos.app.goo.gl/WuVWsHsyGZ3uTKz99


総合評価:307/評価:7.88/連載:17話/更新日時:2026年10月22日(木) 18:00 小説情報

転生予定より11年早かった件について、とりあえず経営科でドラゴン旅行会社を起業する(作者:ルクエリシオン)(原作:僕のヒーローアカデミア)

【神様のくしゃみで予定より11年早く転生し、現在15歳。舞台は原作開始の11年前です】▼神様から神の個性『レックウザ』を授かり、ヒロアカの世界に赤ん坊として転生した翡翠凪(ひすい なぎ)。▼だが、着地したのは原作が始まる26年も前の時代。15歳に成長した現在――気付けば原作開始の11年前の世界だった!?▼「まあいいや。省エネで美味しいものを食べて生きていこう…


総合評価:601/評価:6.25/未完:9話/更新日時:2026年09月10日(木) 23:36 小説情報


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