元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません   作:炭酸水ひろみつ

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序章 爆豪竜ドラム
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『Whatever comes tomorrow, |we’ll find our way〜♪』

(明日何が起きても、僕たちはきっと道を見つけられる〜♪)

 

 スマートフォンから流れる歌声を聞きながら、御堂筋玄馬(みどうすじげんま)は自宅のソファーへ深く腰を沈めていた。

 

 配信者の名前は――刻鉄の乙女(アイゼンメイデン)。

 

 顔を出さず、古い洋楽やマイナーなバラードを歌う配信者で、玄馬(げんま)が彼女を知ったのは第一線から退いてしばらく経った頃だった。題名も知らず、英語だって半分も聞き取れないのに、その透き通った歌声が妙に耳に残り、それから何度となく配信を開くようになった。

 

 歌が人生を変えてくれた――なんて言うつもりはない。

 

 ただ、何もかもどうでもよくなりかけていた時期に、立ち止まって自分を振り返る時間をくれた。

 

 それで十分だった。

 

「……相変わらず、いい声だな」

 

『黒王号:今日も素晴らしい歌でした。いつも勇気をもらっています。次回の配信も楽しみにしています。』

 

 三十二歳の男が書くには少々気恥ずかしいが、嘘ではない。そのまま送信して配信を閉じると、入れ替わるようにテレビから明るい声が飛び込んできた。

 

『――続いては、いま人気急上昇中のダンジョン配信です!』

 

 画面の中では、大型モンスターを相手にハンターたちが武器を振るっている。狩りを生配信し、討伐だけでなく得られた素材にまで視聴者が一喜一憂する――玄馬が第一線を退いている間に、ハンターという職業も随分と様変わりしたものだ。

 

「……俺らの頃にはなかったよな、こんなの」

 

『今回密着するのは、現在最前線で活躍するトップハンターチーム――』

 

 聞き覚えのあるチーム名が流れ、缶コーヒーへ伸ばしかけた手が止まった。

 

「…………」

 

 二本の剣を構えた男が大型モンスターの懐へ飛び込み、その背後から紫色の弾丸が巨体を痙攣させる。巨大な盾を構えた男が爪を受け止める動きも、何度となく隣で見てきたものだった。

 

 だが、その三人の間を駆け抜けた銀髪の太刀使いだけは知らない。

 

「……誰だ、あいつ」

 

 閃いた刃がモンスターを斬り裂き、巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。画面の中では、昔の仲間三人と知らない男が肩を並べて笑っていた。

 

「あいつら……すっかり有名人だな」

 

 妬ましいとは思わない。

 

 少なくとも、そう思っているつもりだった。

 

 自分から抜けたのだから、それでいい。

 

 ただ――昔と変わらない三人の隣で、知らない男が、自分のいた場所でうまくやっている。

 

 玄馬は缶コーヒーを置いた。

 

 カツン、と。

 

 思っていたより強い音が鳴った。

 

 第一線を離れてから、嫌というほど考えた。喧嘩別れした直後は、自分が悪かったなんて思えなかったし、誰よりもダメージを与えている自分を囮に回そうとする仲間の方がおかしいと、本気で思っていた。

 

 だが、時間が経ってようやく認められた。

 

 ――あの頃の自分は、傲慢(エゴイスト)だった。

 

 自分が強ければいい。最後に自分が火力を出せば勝てる。仲間が何を見て、何を求めているかなんて、ろくに考えもしなかった。

 

「……ほんと、ガキだったな」

 

 ただ、間違っていたと認めることと、どう変わればいいのかを知ることは別の話だ。

 

 テレビを消した玄馬は、部屋の隅に立てかけてある使い込まれたつるはしへ目を向けた。

 

 狙っているのは、特殊な技能を宿す秘石(ラピス)。中でも欲しいのは、麻痺や睡眠、回復や強化といった調合系だった。

 

 大剣を振って敵を倒す以外にも、仲間のためにできることを増やしたい。

 

 誰かを支える力さえ手に入れれば、今度は違う自分になれる。

 

 少なくとも――そのときの玄馬は、そう思っていた。

 

     ♢

 

 数日後。

 

「……あっつ」

 

 火山フィールドへ足を踏み入れた途端、むっとする熱気と硫黄の臭いが全身を包み込んだ。煤煙で濁った空の下、ひび割れた黒い大地から赤い溶岩が覗いている。

 

 今回受注したのは爆轟竜討伐クエストだが、玄馬の目当ては追加依頼の火山鉱石の納品と、そこから稀に採れる秘石(ラピス)だった。

 

「よおし、掘るぞー」

 

 元トップハンター、御堂筋玄馬。三十二歳。

 

 現在の得物は――つるはしである。

 

 採掘ポイントへ近づくと、すでに岩壁を叩いている先客がいた。

 

 派手な金髪をツインテールにした女で、黒いチューブトップに虎柄のオーバーサイズジャケット、ショートパンツにボーダー柄のニーハイと厚底ブーツ。煤と溶岩ばかりの火山では嫌でも目立つ。

 

 というか、そんな格好で火山に来るなよ。

 

「Whatever comes tomorrow~♪」

 

「…………」

 

 女は玄馬に気づかず、金髪を揺らしながら鼻歌を続けている。

 

「~we’ll find our way.~♪」

 

 つい数日前にも聞いた曲だった。

 

「その曲、好きなのか?」

 

「ん?」

 

 振り返った女は、赤紫の瞳で玄馬を頭から爪先まで眺め、楽しそうに口元を吊り上げた。

 

「まあね。おじさんも知ってんの?」

 

「……まあ、ちょっとな」

 

「ふーん。顔が演歌しか聴かなそうなのに♡」

 

「初対面で喧嘩売ってんのか?」

 

「おじさん、ここ初めて?」

 

「ああ。俺はゲンマ、秘石狙いで来た」

 

「私は遺物武器(ロストアームズ)狙い。おじさんとは違うんだよねぇ♡」

 

「そんなものまで採れるのか」

 

「なんにも知らないじゃん♡ 素人おじさん♡」

 

「ハンター歴ならお前より長いと思うぞ」

 

「はいはい、昔はすごかったんですねぇ♡」

 

 会って一分でデコピンしたくなってきた。

 

「で、お前は?」

 

「泣く子も煽る人気ダンジョン配信者――ティガ! こう見えて同接百人はいるんだから!」

 

「百人……」

 

「今、微妙って思ったでしょ!?」

 

「いや」

 

「その間がもう失礼!」

 

 ティガの後ろでは、灰色と白の毛並みをした犬のような生き物が、背中のカメラを玄馬へ向けていた。

 

「……犬?」

 

「ハスキー型コボルトのユンユン!」

 

『おっちゃんよろしく。ワイはユンユンや』

 

「なんで猛虎弁なんだよ」

 

『せやで』

 

「答えになってねえよ」

 

 配信ウィンドウには『知らんおっさん誰?』『逃げろおっさん』とコメントが流れている。

 

「ほら♡ 採掘だって何が出るか分かんないアイテムガチャなんだから、配信になるの」

 

「なるほどな」

 

「それくらい知っときなよ、おじさん♡」

 

 ティガがスマートフォンを見せようと隣へ寄ると、硫黄と焼けた岩の臭いに甘酸っぱい香水の匂いが混じった。

 

「……近いんだよ」

 

「なに? 女の匂い意識しちゃったぁ?♡」

 

「そういうとこだぞ、お前」

 

「ざぁこ♡」

 

「へいへい」

 

 口は悪いが、言っていること自体は間違っていない。

 

 二人はそれぞれ岩壁へ向き直り、玄馬はラピス、ティガはロストアームズを求めてつるはしを振るった。

 

 ガキンッ!

 

「――おっ!」

 

 玄馬の手に違う感触が返り、岩の割れ目から淡い光が漏れた。

 

「取れた!」

 

「きたぁ!! ユンユン、カメラ!」

 

『任せとき!』

 

 急かされながら岩の隙間へ手を突っ込み、重い何かを引き抜く。

 

《遺物武器(ロストアームズ)を入手しました》

 

「ロストアームズ?」

 

「はぁぁぁぁ!? それ私のぉぉぉ!!」

 

「知らねえよ!」

 

 すると今度は、ティガのつるはしの先で光が弾け、古びた石飾りが転がった。

 

《秘石(ラピス)を入手しました》

 

 二人は自分の獲物を見て、次に相手の手元を見た。

 

「「逆ぅぅぅぅぅ――ッ!!」」

 

「交換!」

 

「取得者固定だから無理だ!」

 

「知ってるしぃ!!」

 

「じゃあ言うな!」

 

 二人は睨み合いながら鑑定する。

 

《魔剣グランエイジ》

 

《攻撃レベル――1000》

 

「せん!?」

 

《会心率――マイナス100%》

 

「ぷっ。攻撃レベル1000もあるのに絶対クリティカル出ないとか♡ 引きよわおじさんにピッタリ♡」

 

「うるせえ! お前のも見せろ!」

 

「私の豪運見て泣かないでねぇ?」

 

《調合効果――1000%》

 

《調合失敗率――0%》

 

「…………」

 

「…………」

 

 玄馬が欲しかった力をティガが。

 

 ティガが欲しかった武器を玄馬が持っている。

 

 ――ドスン。

 

 足元が揺れた。

 

 もう一度。

 

 ――ドスン。

 

 岩壁から砂が落ち、熱風に生臭い臭いが混じると、ユンユンの耳がぴんと立った。

 

『……ワイらの後ろ、なんかおらへん?』

 

 二人はゆっくり振り返った。

 

 赤黒い鱗に覆われた巨大な脚。

 

 視線を上げれば、その遥か上から二つの眼がこちらを見下ろしている。

 

「…………」

 

 そういえば、今回受注したのは――。

 

 爆轟竜討伐クエスト。

 

 玄馬は魔剣グランエイジを、ティガは調合効果1000%のラピスを見てから、互いに顔を見合わせた。

 

「……ティガ。お前、調合できる?」

 

「できるけど」

 

「奇遇だな」

 

 玄馬はつるはしを放り出し、何年ぶりかになる大剣の柄を握った。

 

「俺は大剣が使える」

 

「まさか戦う気!?」

 

「向こうが帰してくれそうに見えるか?」

 

「見えないけどぉ!!」

 

 爆轟竜の咆哮が火山を震わせ、足元の小石がびりびりと跳ねる。

 

 玄馬は久しぶりに握る大剣の重さを両手で確かめた。何年も前まで毎日のように握っていた感触は懐かしく、それでいて驚くほど手に馴染んでいる。

 

 ほんの少しだけ、口元が緩んだ。

 

「じゃあ――やるしかねえだろ」

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