元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません 作:炭酸水ひろみつ
美術大学をあとにした玄馬たちが黒金家へ戻る頃には、すでに日は大きく傾いていた。
母屋の裏手に建てられた工房からは、一定の間隔で金属を打つ甲高い音が響いている。引き戸を開けた途端、むっとする熱気と鉄の匂いが玄馬の顔へ押し寄せ、粘土と石膏に囲まれていた昼間の美術大学とは、まるで違う空気が肺を満たした。
「おう、来たか!」
炉の前から振り返った鉄斎が、待っていたと言わんばかりに口角を上げる。
その奥――作業台の上に置かれていたものを見て、玄馬の足が止まった。
「おお……」
――魔剣グランエイジ。
見慣れたはずの大剣だった。
しかし、明らかに何かが違う。
黒鉄色の刀身には溶岩の亀裂を思わせる赤い紋様が走り、その奥で脈打つように光が明滅している。離れていても微かな熱を感じるほどで、玄馬が近づくにつれて肌を撫でる空気までじわりと温度を上げていった。
「強化完了だ!」
鉄斎が分厚い胸板を張る。
「煉獄竜の宝玉はきっちり馴染んだ。炎熱の
「これが……」
玄馬がグランエイジの柄を握る。
ずしり。
重量そのものは変わっていないはずなのに、手へ返ってくる感覚が以前とは違う。刀身へ意識を向けると赤い紋様が一際強く輝き、刃の周囲で陽炎が揺らめいた。
同時に、視界へステータスが展開される。
《魔剣グランエイジ》
《攻撃力レベル――1000 → 1200》
《獲得属性――炎熱》
「二百も上がったのか!」
「六大魔竜の宝玉だからな。それだけじゃねえ。今まで無属性だったこいつに、初めて属性が宿った」
鉄斎は刀身を軽く指で叩く。
「炎熱だ。そして炎熱と相反するのが――氷水」
「相反属性?」
「弱点関係だよ」
横からティガが口を挟み、両手の人差し指を向かい合わせた。
「炎熱と氷水。白光と暗黒。大地と風雷。この六つは、それぞれ二つずつ相反関係になってんの」
炎熱 ↔ 氷水。
白光 ↔ 暗黒。
大地 ↔ 風雷。
「たとえば氷水属性のモンスターに炎熱をぶつければ――」
左右の指先をぶつける。
「弱点攻撃成立。大ダメージ♡」
「じゃあ炎熱には氷水か」
「そ。逆も同じ」
「なるほど」
玄馬は赤い紋様の走るグランエイジへ目を落とす。
「ただし、勘違いすんなよ」
鉄斎が釘を刺した。
「炎熱を手に入れたからって、どんな相手にも弱点を突けるわけじゃねえ。白光の相手を炎熱で斬ったところで、弱点補正は乗らん」
「せっかく手に入れたのに!?」
「当たり前だろ。だが――防御となりゃ話は別だ」
「?」
「たとえば白光の攻撃が飛んできたとする。そこへ炎熱をぶつけりゃ、属性エネルギー同士をぶつけて威力を削ることはできる」
「白光の弱点じゃないのに?」
「攻撃相性と属性相殺は別ってこと♡」
ティガが人差し指を立てる。
「弱点を突くなら相反属性。でも防御なら、持ってる属性をぶつけて相手の攻撃を相殺することもできる。どこまで消せるかは出力とか使い方次第だけどね」
「……なるほどな」
攻撃に使うか。
防御に使うか。
同じ炎熱でも、使い方次第で戦い方が変わる。
玄馬は柄を握り直した。
単純に攻撃力レベルが二百上がっただけではない。グランエイジそのものに、以前はなかった選択肢が増えている。
「面白えじゃん」
自然と口元が緩む。
「だろ?」
鉄斎も満足そうに笑った。
♢
そして、その日の夜。
「はい、というわけでー!」
黒金家の居間では、次なる六大魔竜を決める配信が始まっていた。
テーブルの上にはスマートフォンと小型カメラ。画面には六大魔竜の名前が並んだルーレットが表示され、討伐済みの煉獄竜レッドドラゴンだけが灰色になっている。
『待ってました』
『次どいつだ』
『レッドドラゴンお疲れ!』
『グランエイジ強化見せて』
『引き弱おじさん今日もいる』
「誰が引き弱おじさんだ」
玄馬が即座に拾う。
「でも宝玉引いたじゃんねー?」
「そうだぞ」
「九回外したけど♡」
「最後に引けば勝ちなんだよ!」
『9敗1勝』
『勝率一割』
『ティガのおまじないがなかったら全敗』
『実質ティガのドロップ』
「ぐっ……」
「ざぁこ♡」
満足そうに笑ったティガが、画面のルーレットへ指を伸ばす。
「それじゃ、次のターゲットを決めるよー!」
「来い!」
「ルーレット――スタート!」
タップ。
残る五頭の名前が高速で回転を始める。
『暗黒来い』
『風雷見たい』
『いや氷水引け』
『氷水なら炎熱でWEAKNESS取れるぞ』
『いきなり新属性活躍あるか?』
回転が徐々に遅くなる。
風雷。
大地。
氷水。
暗黒。
そして――停止。
「決まった!」
ティガが画面を覗き込む。
「第二のターゲットは――輝星竜アルカルクス!!」
表示された属性は――。
《白光》
「…………」
玄馬がグランエイジを見る。
「炎熱で弱点突けねえじゃねえか!」
『草』
『さっそく』
『属性講座を即回収』
『WEAKNESSならず』
「でも防御には使えるって言ったでしょ♡」
「分かってるよ!」
笑いながらティガが次の情報を開く。
「アルカルクスの出現ステージは――つくばだね」
「お、茨城か」
玄馬がほっと胸を撫で下ろした。
「今回も電車で行ける範囲だから助かるな」
『そこ?』
『世界最高峰モンスターより交通費』
『庶民派トップハンター』
「笑うな! 六ヶ所回るんだぞ! 交通費だってバカにならねえんだからな!」
「ゲンマ」
「なんだよ」
「後半……きっついよ」
「…………」
玄馬は六大魔竜の出現地域一覧を見る。
そして、静かに目を逸らした。
「言うな……」
♢
「ゲンマ……活動してたのか、この野郎」
同じ頃。
別の場所でも、その配信を見ている者たちがいた。
画面を睨んでいたのは、日に焼けた肌に坊主頭、厚い胸板と太い腕を持つ男――鉾田鉄哉《ほこたてつや》。
かつて玄馬とブルーファンタズムで戦っていた仲間だった。
「まあ、そう怒らないで」
艶のある茶髪をポニーテールにまとめた牛尾輝夜《うしおかぐや》が、夫の肩を軽く叩く。
「元気そうじゃない。それにしても、よく見つけたわね、亮二」
「まあな。たまたまだよ」
ソファの中央で答えたのは、黒髪をセンターパートに分けた細身の長身――奄美島亮二《あまみしまりょうじ》。
「誰それ?」
一人だけ事情を知らない男が、スマートフォンから顔も上げずに尋ねた。
日ノ元鬼丸《ひのもとおにまる》。
玄馬が抜けたあとにブルーファンタズムへ加入した、二十歳の若手ハンターだ。銀色の髪は眉のあたりでぱつりと切り揃えられているが、左右は非対称で、片側だけが頬へかかるほど長い。澄んだ青い瞳と相まって、黙っていればどこか中性的で浮世離れした美青年に見える。
もっとも本人は、久しぶりに元メンバーを発見してざわつく三人などどこ吹く風。ソファへ深く腰掛け、スマートフォンのゲームを片手間に進めていた。
「このおっさん、知り合い?」
画面をタップしながら、鬼丸が配信へちらりと目を向ける。
「……ああ」
亮二は少しだけ間を置いた。
配信画面の向こうでは、玄馬とティガが次のアルカルクス戦について騒いでいる。
「元いた……仲間だった奴だよ」
「ふーん」
鬼丸はそれだけ答えると、再びゲームへ視線を落とした。
鉄哉は相変わらず難しい顔で玄馬を見つめ、輝夜はどこか懐かしそうに微笑んでいる。
そして亮二は――。
『じゃ、次回! つくばダンジョンで会おーね♡』
画面いっぱいに映ったティガを見つめた。
「…………」
無言で配信の通知設定を《すべて》に切り替える。
(ティガたん……今日も最高だ)
玄馬とはまったく別の理由でこの配信を発見していたことを、亮二はまだ誰にも話していなかった。