元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません 作:炭酸水ひろみつ
パン、パン。
玄馬が両手を打ち合わせる乾いた音が、山丘フィールドに響いた。
俯いていたティガが顔を上げる。
「よし。切り替えていこう」
「……え?」
玄馬はグランエイジを肩へ担ぎ直した。
その視線はティガではなく、白光障壁を取り戻したアルカルクスへ向けられている。責めるでもなく、慰めるでもない。失敗したことなど、もう過ぎたことだと言わんばかりだった。
「何度でもやればいい。どのみち剥ぎ取り運なけりゃリトライなんだ」
「そこ自虐に使う!?」
「事実だろ」
『悲しい説得力』
『レッドドラゴン9敗1勝』
『宝玉出なきゃ討伐からやり直しだもんな』
『失敗一回くらい誤差』
『ゲンマは剥ぎ取りで失敗しすぎやけどな』
「ユンユン、お前あとで覚えてろよ」
玄馬が笑う。
その笑いにつられたのか、強張っていたティガの表情もわずかに緩んだ。
けれど、その手はすでに腰のポーチへ伸びている。
悔しそうではある。
それでも――まだやるつもりだ。
「もう一度いこうぜ」
「…………」
「今度は閃光爆音玉も一丁、派手にぶちかましてみろ」
ティガは玄馬の顔を見つめたあと、自分の頬を両手で叩いた。
「……うん! 今度こそ決める!」
「おう!」
その声に応じるように、アルカルクスが咆哮を上げた。
白銀の翼が大きく広がり、全身を包む白光が強まっていく。翼の後方へ光が収束すると、その巨体は草原を蹴って一気に空へ舞い上がった。
「来るぞ!」
「調合開始!」
ティガはポーチから素材を取り出し、
《調合効果――1000%》
《調合失敗率――0%》
アルカルクスが上空を旋回し、大きく距離を取る。
その間に調合を終えたティガが、完成した閃光爆音玉を握った。
「できた!」
先ほどと同じ。
飛来するアルカルクスを引きつけ、回避できない距離で炸裂させればいい。
ティガが狙いを定める。
だが――。
「待て!」
「え?」
投擲する寸前、アルカルクスが急激に軌道を変えた。
ティガが狙っていた直線上から、白銀の巨体が大きく外れる。
「避けた!?」
『学習してる!?』
『さっきと動き違うぞ』
『閃光爆音玉警戒してんのか』
『カメラ振るで!』
ユンユンが一気に画角を広げる。
上空を高速で旋回するアルカルクス。その下で閃光爆音玉を構えるティガ。
そして玄馬は――二人から離れるように走り始めた。
「ゲンマ!?」
「同じ手を素直に食らってくれるほど甘くねえみたいだな」
走りながら、玄馬はアルカルクスの動きを追う。
一度目は一直線だった。
だが今はティガの投擲動作を警戒し、進路を小刻みに変えながら二人の周囲を飛び回っている。このままでは狙いを定められず、無理に投げれば再び外す可能性が高い。
なら――狙わせればいい。
アルカルクスが狙う相手を、一人に絞らせる。
「ティガ! まだ投げるな!」
「でも来るよ!?」
「俺を狙わせる!」
「――ゲンマ!?」
「合図まで待て!」
玄馬はティガからさらに距離を取り、広い草原の真ん中で足を止めた。
グランエイジを肩へ担ぐ。
逃げない。
隠れない。
真正面から、アルカルクスを見上げる。
『おい』
『囮!?』
『マッハブレイク正面から受ける気かよ』
『死ぬぞ!?』
上空のアルカルクスが反応した。
旋回を止める。
翼を畳む。
全身を覆う白光が、一点へ収束していく。
狙いは――玄馬。
「来いよ」
玄馬が腰を落とした。
白銀の巨体が眩い光に包まれ、次の瞬間、その姿そのものが白い閃光へ変わる。
マッハブレイク。
一直線に――玄馬へ。
「ゲンマ!!」
「まだだ!!」
遠い。
ここで投げれば、まだ避けられる。
百メートル。
五十。
二十。
轟音が近づき、猛烈な風圧が玄馬の服と髪を叩く。
「まだ!?」
「まだだ!」
十メートル。
玄馬の視界が白銀の巨体で埋め尽くされた。
もう自分も避けられない。
だが同時に――アルカルクスも、ここから進路を変えることはできない。
「――今だ!!」
「閃光爆音玉ぁぁぁ!!」
ティガが投げた。
玄馬のすぐ横を抜けた球体が、アルカルクスの眼前へ飛び込む。
炸裂。
白い閃光と凄まじい爆音が、草原を丸ごと呑み込んだ。
「ギャアアアアッ!!」
アルカルクスの頭部が跳ね上がる。
高速飛行中に視覚と聴覚を同時に奪われた巨体は大きく軌道を乱し、玄馬の頭上すれすれを通過した。
「うおっ!!」
直撃は免れた。
しかし、その余波までは防げない。
凄まじい風圧に身体をさらわれ、玄馬は地面を何度も転がった。そのすぐ横をアルカルクスが通り過ぎ、少し遅れて草原へ墜落する。
ドゴォォォン!!
『墜ちた!!』
『今の距離やばすぎ』
『自分を囮にして回避不能まで引きつけたのか』
『ティガの投擲まで込みの作戦だ』
「ゲンマ!」
「大丈夫だ!」
玄馬は受け身の勢いを利用して立ち上がった。
身体のあちこちが痛む。
だが、それを確かめている暇はない。
「畳み掛けるぞ!」
「オッケー!!」
ティガが
爆発。
反重鉱石によって身体と装備にかかる重力の影響を軽減し、爆轟竜の宝玉が生み出す爆発を推進力へ変えると、低空を一直線に駆け抜けた。
玄馬も走る。
グランエイジ。
エリアルロッド。
二つの武器が、倒れたアルカルクスの白光障壁へ立て続けに叩き込まれる。
アルカルクスが起き上がろうとすれば玄馬が正面から押さえ、その隙にティガが側面へ回り込み、加速を乗せた一撃を叩き込む。
一人が作った隙へ、もう一人が攻撃する。
「あとちょっと!」
「おおおおおッ!!」
玄馬がグランエイジを振り下ろした。
甲高い破砕音とともに亀裂が走り、全身を覆っていた白光障壁がガラスのように砕け散る。
《BREAK!!》
『二回目!!』
『今度こそ!』
ティガが麻酔玉を握った。
だが――。
「…………」
振りかぶろうとした腕が止まる。
握った麻酔玉が微かに震えていた。
玄馬はそれを見る。
「ティガ」
「……なに?」
アルカルクスから目を離さないまま、一言だけ告げた。
「任せた」
「――!」
それだけだった。
ティガは一度、大きく息を吸う。
そして麻酔玉を握り直した。
「――うん!」
今度は遠くから投げない。
エリアルロッドを起動すると、噴射の勢いを乗せて一気にアルカルクスの横へ飛び込んだ。
「これなら――外さない!!」
至近距離。
麻酔玉を、その頭部へ直接叩きつける。
炸裂。
白い薬煙がアルカルクスの顔を包み込んだ。
《SLEEP》
『入ったあああ!!』
『ナイスティガ!!』
『リベンジ成功!』
「よっしゃあ!」
ティガが振り返る。
「ゲンマ!!」
「ここからは――俺の仕事だ!!」
玄馬はすでにグランエイジを構えていた。
一歩。
二歩。
踏み込みながら巨大な刀身を引き絞り、全身の力を一撃へ集約する。
「――真溜め」
眠りへ落ちるアルカルクス。
無防備になった頭部へ狙いを定め――。
「霊峰斬ッ!!」
一閃。
《CRITICAL!!》
《DAMAGE――12,000》
『12000きたあああ!!』
『やっぱ睡眠初撃つえええ』
『-100%会心を踏み倒す男』
『これがゲンマの必殺コンボ』
大地が爆ぜた。
凄まじい衝撃が草原を走り抜け、アルカルクスの巨体が一度だけ跳ね上がる。
そして――動かなくなった。
《QUEST CLEAR》
《輝星竜アルカルクス――討伐完了》
『うおおおおおおお!!』
『輝星竜討伐!!』
『二体目きたあああ!!』
『Team虎馬つええええ!!』
「やったあああ!!」
ティガが両手を上げて飛び跳ねる。
ユンユンのカメラも、倒れたアルカルクスから二人へゆっくり画角を移していった。
「……今回は、最後に大技とかないみたいね」
「そうだな」
答えながらも、玄馬はすぐにはグランエイジを下ろさなかった。
ティガの前へ出たまま周囲を見渡し、他のモンスターが近づいていないことを確かめてから、ようやく肩の力を抜く。
「…………」
そのとき、ふと先ほどの戦いが頭をよぎった。
ティガが麻酔玉を外したとき。
三年前の自分なら、どうしていただろう。
苛立ったかもしれない。
もういい、自分でやる。
そう言っていたかもしれない。
だが今回は違った。
ティガを見た。
悔しがっていることも、それでももう一度やろうとしていることも見えた。
だから任せた。
アルカルクスが警戒するなら、自分が囮になった。ティガが狙える場所まで引きつけ、あとは託した。
――あなたならできるから頼んでるの。
三年前の輝夜の声が蘇る。
あのとき、仲間たちも同じだったのかもしれない。
玄馬が何をできるのか。
自分たちが何をすれば、その力を活かせるのか。
それを見たうえで、玄馬に役割を任せようとしていた。
なのに当時の自分は――。
「…………」
玄馬はグランエイジを見下ろした。
自分がどう戦いたいか。
自分がどうすれば一番火力を出せるか。
そればかりだった。
「……俺、自分しか見えてなかったんだな」
口に出してみると、驚くほど単純な言葉だった。
三年間、うまく形にできなかったものが、ようやく一つの言葉になった気がした。
「ゲンマ?」
「……いや」
玄馬は顔を上げる。
まだ、これだけですべてが分かったとは思わない。
ただ少なくとも――三年前とは違う戦い方が、今日はできた。
「なんでもねえよ」
♢
ティガは、そんな玄馬の背中を見上げていた。
大きな剣。
いくつもの傷が残る、鍛えられた背中。
先ほどはアルカルクスの正面へ一人で立ち、自分にチャンスを作った。そして今も、何かあればすぐ動けるよう、自分より一歩前に立っている。
「…………」
ティガの口元が、ほんの少し緩む。
(……なんか)
風が吹き抜けた。
草原がさざ波のように揺れ、その音に混じるように、ふっと短い旋律が頭へ落ちてくる。
「あ……」
まだ歌詞にもなっていない。
ほんの数小節。
それなのに、妙に耳へ残った。
ティガは何も言わず、もう一度玄馬の背中を見る。
(……歌のフレーズ、思いつきそう)
旋律を忘れないよう、頭の中でもう一度繰り返した。