元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません 作:炭酸水ひろみつ
「というわけでぇ――!」
輝星竜アルカルクスの巨体を背に、ティガが両手を大きく広げた。
激戦を終えた山丘フィールドには再び穏やかな風が戻り、青々とした草原が波のように揺れている。つい先ほどまでマッハブレイクが飛び交っていたとは思えないほど長閑な景色だが、アルカルクスが墜落した一帯だけは地面が深々と抉れ、その中心には白銀の巨体が横たわっていた。
「皆さん、お待ちかね! 討伐なんかより大事な――剥ぎ取りガッチャのお時間でーす♡」
「討伐より大事にすんな」
『本編開始』
『討伐は前座』
『今日は何敗するかな』
『前回9敗1勝の男』
「うるせえ! 最後に宝玉引いたんだから勝ちだろ!」
『???』
『9敗の記憶を消すな』
『勝てば過程を改竄していいと思ってる32歳』
『ここ顔寄っとくで』
「ユンユン! お前、絶対わざとだろ!」
ユンユンのカメラが抗議する玄馬の顔へぐっと寄り、コメント欄が一斉に笑いで埋まった。
六大魔竜から行える剥ぎ取りは、一人につき五回。玄馬とティガなら合わせて十回となるが、前回同様、ティガは自分に割り当てられた五本の剥ぎ取りナイフを何のためらいもなく玄馬へ差し出した。
「はい♡」
「……本当にいいのか?」
「今さら何言ってんの。あたしが宝玉引いてもグランエイジには使えないんだから、ゲンマが引くしかないでしょ」
「そりゃそうなんだけどな」
「それともぉ――」
ティガが口元を吊り上げる。
「自分の五回だけじゃ引ける自信ないのぉ?♡」
「十回全部使って引いてやるよ!」
「最初からあたしの五回アテにしてるじゃん。ざぁこ♡」
『正論』
『ティガのナイフが本体』
『引き弱おじさん頑張れ』
「見てろよ!」
玄馬は一本目のナイフを握り、アルカルクスの白い外皮へ突き立てた。
《RARE 1》
《輝星竜の白鱗》
「…………まあ、最初だからな」
「はいはい♡」
二本目。
《RARE 1》
《輝星竜の白皮》
「まだ二回だ」
三本目。
《RARE 1》
《輝星竜の白鱗》
『また鱗』
『白い』
『画面が白い』
「次!」
四本目。
《RARE 1》
《輝星竜の白鱗》
そして五本目。
《RARE 1》
《輝星竜の白皮》
「鱗と皮しかねえじゃねえか!!」
玄馬の絶叫が草原へ響き渡った。
「ざぁこ♡ ざぁこ♡ 五連レア1ゲンマ~♡」
「うるせえ!」
「白鱗いっぱいでよかったねぇ♡ 鎧でも作るぅ?♡」
「俺が欲しいのは宝玉だよ!」
『はい、ここアップや』
ユンユンがアルカルクスの素材ではなく、玄馬の引きつった顔を画面いっぱいに映す。
『素材は白いのに顔が暗い』
『白鱗×3』
『白皮×2』
『防具屋なら喜ぶ』
『ゲンマにはハズレ』
「次だ次!」
六本目。
《RARE 2》
《輝星竜の翼》
「おおっ! 上がった!」
「レア2で喜んでる♡」
「一から二になったんだから前進だろ!」
しかし七本目も、八本目も――。
《RARE 2》
《輝星竜の翼》
《RARE 2》
《輝星竜の翼》
「翼三枚もどうすんだよ!」
『飛べ』
『ゲンマもエリアルデビュー』
『翼3枚あれば飛べるだろ』
「飛べるか!」
「ゲンマが空飛んだら面白そうじゃん♡」
「俺は地上でいい!」
残り二本。
ここまで八回引いて、宝玉はゼロ。
「そろそろ来いよ……!」
玄馬は祈るように九本目を突き立てる。
《RARE――4》
《輝星竜の角》
「おおっ!」
それまで玄馬の引き弱を楽しんでいたコメント欄にも、一瞬だけ期待が走った。
『お!?』
『一気に4』
『角きた』
『でも違う』
『逆鱗5』
『宝玉6』
「分かってるよ……」
レア度は上がった。
だが、目的のものではない。
残る剥ぎ取りナイフは――あと一本。
玄馬は最後の一本を握ったまま、しばらくアルカルクスを見つめた。
「…………」
「ゲンマ?」
「これ外したら、アルカルクスもう一回なんだよな」
「そうだね♡」
「なんで嬉しそうなんだよ」
「また配信できるじゃん」
「俺はもうマッハブレイクの囮やりたくねえぞ!」
『おかわり』
『再戦期待』
『白鱗あと5枚集めようぜ』
『防具一式作れるぞ』
「いらねえっつってんだろ!」
ティガはそんな玄馬を楽しそうに眺めていたが、やがて小さく息を吐いた。
「しょうがないなぁ。手、貸して」
「手?」
「ほら」
ティガがすぐ隣へ立つ。
玄馬が最後の剥ぎ取りナイフを握ると、その手の上からティガの手が重ねられた。
「……おい」
「なに?」
「近くない?」
「ガチャに集中しなよ♡」
「お前が原因だよ!」
『!?』
『これケーキ入刀じゃね?』
『初めての共同作業』
『実質鍛冶屋の婿入り』
『鉄斎パパ見てるー?』
「誰が婿だ!!」
「ほら、ゲンマ」
ティガは流れるコメントなど気にも留めず、玄馬の手を包んだままナイフへ力を込める。
「せーのでいくよ♡」
「お、おう」
「せーの!」
二人の手が同時に動いた。
ザクッ。
白い外皮へ、最後のナイフが突き立つ。
ユンユンのカメラが重なった二人の手元へ寄り、そこからゆっくりと上へ動いて、空中に出現したリザルトウィンドウを画面中央へ捉えた。
《RARE――》
「来い!」
「お願い!」
数字が表示される。
《RARE 6》
一拍遅れて――。
《輝星竜の宝玉》
「…………!」
「――っしゃあああああ!!」
玄馬が拳を突き上げた。
「出た! 出たぞティガ!!」
「ほらぁ! あたしが手伝えば一発じゃん♡」
「九回外れてるけどな!」
「それゲンマの九回でしょ?」
「十回全部俺が剥ぎ取っただろ!」
『きたああああ!!』
『マジで出たw』
『共同作業成功』
『ティガバフ強すぎ』
『婿入り待ったなし』
「だから婿じゃねえ!」
「えー? じゃあ次もあたしが手握ってあげよっか♡」
「……宝玉出るなら頼む」
「即落ちじゃん! ざぁこ♡」
『プライド<宝玉』
『堕ちるの早すぎ』
『完全に餌付けされてる』
『はい、二人ともこっち向いてやー』
ユンユンに呼ばれて振り返る。
カメラは宝玉を手にした玄馬と、その隣で笑うティガを少し引いた画角で捉えていた。背後には討伐したアルカルクスの白銀の巨体と、二人が駆け回った草原がどこまでも広がっている。
二体目。
六大魔竜攻略は――これで三分の一。
♢
数日後の夜。
「おっ」
風呂を済ませた玄馬は、ベッドへ腰掛けながらスマートフォンを眺めていた。
その画面に一件の通知が届く。
表示された名前を見た瞬間、ぱっと表情が明るくなった。
「
さっそくイヤホンを耳へ入れ、再生する。
流れてきたのは、第一線を離れていた頃から何度も聴いてきた、澄んだ歌声だった。
顔も知らない。
本当の名前も知らない。
それでも、迷った夜や、ひたすら鉱石を掘り続けた帰り道に、何度となく聴いてきた声。
ただ――今回の曲は少し雰囲気が違った。
どこか懐かしさを感じさせる旋律はそのままに、いつもより軽やかで、青空の下を駆け抜けていくような明るさがある。
「……いい」
玄馬はスマートフォンを胸元へ置き、そのままベッドへ仰向けになった。
「最高。今回はなんか……青春って感じのラブソングなんだな」
目を閉じて、流れる曲へ耳を傾ける。
すると、なぜか数日前の景色が浮かんできた。
青空。
風に揺れる草原。
白い閃光となって駆け抜けるアルカルクス。
失敗して、それでももう一度挑んで――最後には、ティガと二人で一本のナイフを握った。
「…………」
玄馬が眉を寄せる。
「なんであいつが出てくるんだよ」
答えは出ない。
結局そのまま最後まで聴き終えると、玄馬はいつものようにコメント欄を開いた。
♢
同じ頃。
都内の、とあるカラオケボックス。
「はい、お疲れ様ー」
「ありがと、村雨」
録音を終えた虎徹がヘッドホンを外すと、隣に座っていた村雨が冷たいドリンクを差し出した。
「
「こっちの配信、ほとんど人いないのに毎回ありがとね」
「私はこっちのお姉ちゃんも好きだから」
「なにそれ」
虎徹は笑いながらストローへ口をつける。
村雨は投稿したばかりの新曲についた反応を確認していたが、しばらくして、ふと姉へ視線を向けた。
「でも今回、珍しいね」
「何が?」
「ラブソング」
「…………そう?」
「うん。しかも結構、青春っぽい」
「たまたまだよ」
「ふーん」
「……なに、その顔」
「別にー」
美術大学で玄馬をモデルにしながら、あれこれ嬉しそうに構図を変えていた姉の姿が脳裏をよぎったが、村雨は口には出さなかった。
「あ」
「今度はなに?」
「コメント来たよ。黒王号さんから」
その名前を聞いた途端、虎徹がわずかに身を乗り出した。
「なんて?」
「えっと――」
村雨が画面を読み上げる。
「『いつも楽しみにしています。今回は青春っぽい曲で、とても良かったです』だって」
「…………」
虎徹の口元が自然と緩んだ。
「毎回コメントくれるよね、この人」
「かなり前からだよね?」
「うん」
虎徹は画面に表示された黒王号という名前をしばらく見つめ、それから小さく笑った。
「ずっと聴いてくれてるんだよね」
そして、いつものように。
黒王号のコメントへ、小さなハートを返した。