元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません 作:炭酸水ひろみつ
アルカルクス討伐から数日後。
黒金家の離れにある工房では、朝から絶え間なく金属を打つ音が響いていた。
炉から立ち昇る熱気に、焼けた鉄と油の匂い。壁には大小さまざまな武器や工具が所狭しと並び、その中央にある頑丈な作業台には、一振りの巨大な大剣が横たえられている。
「おう、来たか!」
工房へ入ってきた玄馬とティガを見つけると、鉄斎は待っていたと言わんばかりに笑った。
「できてるぞー!」
「おお!」
玄馬の視線が、作業台へ吸い寄せられる。
そこに置かれていたのは――魔剣グランエイジ。
以前よりも、刀身を走る紋様が増えていた。
煉獄竜レッドドラゴンから得た炎熱を示す、溶岩の亀裂を思わせる赤い紋様。その隣を走るように、新たな白銀の光が細い筋となって刀身へ刻み込まれている。
玄馬が柄を握った。
ずしりと手へ馴染む重さ。
同時に刀身が微かに振動し、赤と白、二色の光が応えるように明滅する。
視界へステータスが展開された。
《魔剣グランエイジ》
《攻撃力レベル――1200 → 1400》
《獲得属性――白光》
《保有属性――炎熱・白光》
「攻撃力レベル、千四百……!」
「これで二つ目だ」
鉄斎が太い腕を組み、満足そうに頷いた。
「炎熱に白光。六大魔竜の宝玉が増えるたび、こいつは本来の力を取り戻していく」
「あと四つか」
「まだ三分の一だけどねー」
ティガも玄馬の隣へ並び、グランエイジの刀身を覗き込む。
「でも、二属性使えるようになったのはデカいよ。攻撃だけじゃなくて、属性相殺に使える手札も増えたし」
「ああ」
アルカルクスのマッハブレイクへ炎熱壁をぶつけたときの衝撃が、今でも腕に残っている気がした。
単純に攻撃力が上がるだけではない。
宝玉を一つ手に入れるたび、使える属性が増え、それまでなら取れなかった選択肢が増えていく。六つすべてを揃えたとき、この剣がどこまで化けるのか――今はまだ想像もつかない。
「……いいな」
玄馬の口元が自然と緩んだ。
「なんか、育ててるって感じがしてきた」
「でしょ?」
ティガも嬉しそうに笑う。
「世界初のMAX強化まで、あと四個♡」
「その前に俺のガチャ運をどうにかしてくれ」
「それは無理♡」
「即答!?」
♢
その日の夜。
「はい、こんばんはー! ティガでーす♡」
黒金家では、いつもの配信が始まっていた。
今日はティガの部屋ではなくリビング。テーブルの上に小型カメラを置き、その前のソファにはティガと玄馬が並んで座っている。少し離れたところでは鉄斎が胡坐をかいて酒を飲み、村雨も宿題を広げながら、ときどき配信へ目を向けていた。
「今日はまず、こちら!」
ティガがカメラへ向かってグランエイジを示す。
「アルカルクスの宝玉で、グランエイジ第二段階強化――完了しましたー!」
『おおおお!!』
『白く光ってる』
『炎熱+白光きた』
『攻撃力Lv1400!?』
『あと4属性』
『MAXまで遠いな』
「あと四体倒すだけじゃん♡」
「言うほど簡単じゃねえんだよ」
玄馬がすかさず突っ込む。
「しかも倒したあと、宝玉引かなきゃいけねえんだぞ」
『最大の難関』
『ゲンマのガチャ運』
『ボスより強い』
「お前ら本当に俺のことなんだと思ってんの?」
「引き弱おじさん♡」
「お前に聞いてねえ!」
後ろで鉄斎が豪快に笑い、村雨も口元を押さえる。
『師匠笑ってて草』
『村雨ちゃんいる?』
『SSR妹』
コメントに気づいた村雨が、画面の端から小さく手だけ振った。
『いたあああ』
『SSR引いた』
『今日一番のレア』
「俺よりレア扱いされてねえ?」
「実際レアじゃん」
「そういう問題!?」
そんな、いつも通りの配信だった。
少なくとも――その通知が届くまでは。
「ん?」
ティガが手元のスマートフォンへ視線を落とす。
「どした?」
「いや、なんか来た」
Team虎馬の配信活動用アカウントへ、一件のメッセージが届いていた。
ティガが何気なく開き、内容を確認する。
「えーっと……コラボのお誘い?」
「コラボ?」
「うん。『よかったら次回の配信で、一緒にダンジョン攻略しませんか』って」
『お?』
『コラボきた』
『誰だ誰だ』
『Team虎馬も声かかるようになったか』
「どこから?」
玄馬は何気なく尋ねた。
「ちょっと待ってね」
ティガが送り主を確認する。
そして。
「――え?」
声色が変わった。
「どうした?」
「これ……マジ?」
鉄斎が酒を口へ運ぼうとしていた手を止める。
村雨も宿題から顔を上げた。
コメント欄には『誰?』『はよ』『焦らすな』と、送り主を催促する文字が猛烈な勢いで流れていく。
「誰なんだよ」
「……ブルーファンタズム」
玄馬の表情が止まった。
「え?」
「ブルーファンタズムから。Team虎馬に、コラボのお誘い」
一瞬の静寂。
直後――コメント欄が爆発した。
『は!?』
『ブルファンだとおおお!?』
『マジ!?』
『トップ配信チーム!!』
『超大手じゃん』
『Team虎馬すげえええ』
『大型コラボきた!!』
「え、そんなすごいの?」
村雨が目を丸くする。
「トップどころじゃねえよ」
鉄斎が低い声で答えた。
「今のダンジョン配信を代表する連中だ」
「え、やばっ!」
ティガはスマートフォンと玄馬を交互に見る。
「ゲンマ! これ受ける!? ていうか、なんでブルーファンタズムがあたしたちを――」
そこで、ようやく気づいた。
玄馬が黙っている。
「……ゲンマ?」
鉄斎だけは何も言わなかった。
玄馬とブルーファンタズムの関係を知っているからこそ、酒の入ったグラスを静かに置き、その横顔を見守っている。
玄馬の脳裏に、三人の顔が浮かんだ。
三年前まで、同じダンジョンへ潜り、同じモンスターと戦っていた仲間たち。
そして――自分から背を向けた相手でもある。
「…………」
以前なら。
この名前を見ただけで、嫌な記憶ばかりが先に浮かんでいたかもしれない。
だが今は、少し違う。
――あなたならできるから頼んでるの。
アルカルクスを倒したあと、ようやく理解できた言葉がある。
自分はあいつらに否定されていたわけじゃない。
自分が、あいつらを見ようとしていなかっただけだ。
そんな答えへ辿り着いた直後に――今度は向こうからやって来た。
「あいつら……」
玄馬は画面に表示されたブルーファンタズムの名前を見つめる。
驚きはある。
気まずさだって、もちろんある。
それでも。
もう、目を逸らす理由はなかった。
「……マジかよ」