元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません 作:炭酸水ひろみつ
15
都内某所。
駅からほど近いビルの一室に、玄馬たちはいた。
今日の配信のために借りた貸し会議室は、長机と椅子、それに壁際のホワイトボードが置かれているだけの簡素な造りで、ダンジョン配信者同士の大型コラボ会場としてはいささか味気ない。
だが、その中央に集まっている顔ぶれだけを見れば、そんな印象など簡単に吹き飛んだ。
「よう、ゲンマ」
低い声がした。
「生きてたか」
「…………」
玄馬が振り返る。
坊主頭に日に焼けた肌。シャツ越しにも分かるほど首も腕も太く、昔と変わらない頑丈そうな体格をした男が、そこに立っていた。
かつて玄馬と同じブルーファンタズムで戦い、そして最後には真正面からぶつかった男だった。
「久しぶりだな、テツヤ」
「ああ」
鉄哉は短く答えた。
それだけで会話が途切れる。
三年もの間、顔を合わせていなかった。
しかも最後の記憶は、互いに声を荒らげての大喧嘩だ。何から話せばいいのか分からず、玄馬が気まずそうに頭を掻いていると、先に口を開いたのは鉄哉だった。
「先に言っとくぞ」
「ん?」
「別に、お前とまた喧嘩しに来たわけじゃねえ」
「……そうか」
「リーダーがコラボしたいって言うから来た。それだけだ」
相変わらず、ぶっきらぼうな言い方だった。
けれど、それだけで玄馬の肩から少しだけ力が抜ける。
「そういうわけだ」
鉄哉の後ろから、一人の男が歩いてきた。
黒髪をすっきりとセンターパートに分けた、細身の長身。整った身なりと穏やかな表情は、見るからに無骨な鉄哉とは正反対の印象を与える。
ブルーファンタズムのリーダーだ。
「久しぶりだな、ゲンマ」
「……リョウジ」
亮二は昔と変わらない調子で、軽く片手を上げた。
「ところで――ティガちゃんは?」
「ん?」
再会して二言目がそれなのか。
わずかな違和感を覚えたものの、玄馬は深く考えず振り返る。
「呼んでるぞ、ティガ」
「ハ、ハイ!」
妙に上擦った声が返ってきた。
いつもなら「ざぁこ♡」の一言くらい飛んできそうなものだが、今日のティガは明らかに様子が違う。
金髪のツインテールを揺らしながら玄馬の隣までやってくると、ぺこりと頭を下げた。
「ティガです! 今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ。いつも配信見てるよ」
「ありがとうございます!」
やけに礼儀正しい。
玄馬が珍しいものを見るような目を向けると、ティガの肘が脇腹へ飛んできた。
「痛っ」
「…………」
ティガが顔を寄せ、声を潜める。
「……ゲンマ、本当にブルーファンタズムと知り合いなんだ」
「いや、前に言っただろ」
「聞いたけど! 実物見ると話違うじゃん!」
「俺も昔はそこにいたんだよ!」
「改めて考えると、ゲンマって本当にすごかったんだね」
「過去形にすんな」
「はいはい、内緒話はあとにしましょうねー」
柔らかな女性の声が割って入った。
艶のある茶髪を高い位置でポニーテールにまとめた、すらりとしたモデル体型の女性が、配信用の機材を手際よく確認している。
昔から装備やスケジュールの管理までこなし、個性の強い面々を取りまとめていたブルーファンタズムのまとめ役である。
「カメラ、もうすぐ回すわよー。それからオニマル。スマホゲームは一旦ストップしなさい」
「……ハーイ」
気の抜けた返事が、部屋の隅から飛んでくる。
一人だけ椅子にも座らず、壁際で体育座りをしてスマートフォンを弄っている若者がいた。
銀色の髪は眉にかかる程度で不揃いに切り揃えられ、片側だけ長い前髪が澄んだ青い瞳へとかかっている。二十歳という若さに加え、どこか中性的ですらある整った顔立ちは、モデルか俳優と言われても通りそうだ。
もっとも本人は、大型コラボにも三年ぶりの再会にも、まるで興味がないらしい。
画面から顔すら上げず、片手だけひらひらと振った。
「……ハーイ」
「二回言わなくていいから」
「もう終わるー」
ポチポチ。
終わっていない。
玄馬が呆れて見ていると、ようやくゲームが一区切りついたのか、鬼丸が顔を上げた。
青い瞳が玄馬を見る。
「ところでさ」
「ん?」
「誰?」
「…………は?」
「このおっさん」
「お前、俺のこと知らねえの!?」
「知らなーい」
「オニマル」
輝夜が額を押さえる。
「前に話したでしょ。ブルーファンタズムの元メンバーよ」
「あー」
鬼丸は玄馬の顔を数秒眺める。
「この人が」
「反応薄っ!」
「よろしくー」
「お、おう……」
再びスマートフォンへ視線を落とした鬼丸を見ながら、玄馬は眉間を押さえた。
自分が抜けたあとに加入した、新しい四人目。
もう少し何かあるのかと思っていたが――どうやら、こいつに限っては何もなさそうだった。
♢
「はーい! みんな、こんばんはー!」
配信が始まった。
「今日は予告していたとおり――特別ゲストに来てもらってまーす!」
ティガが大きく腕を広げる。
「トップハンターチーム――ブルーファンタズムの皆さんでーす!!」
『うおおおおおお!!』
『マジで来た!!』
『ブルファンだあああ』
『豪華すぎる』
『Team虎馬どうした!?』
ブルーファンタズム側でも事前に告知されていたため、配信開始直後から凄まじい勢いで視聴者が流れ込んでくる。
「え、ちょっと待って」
ティガが同時接続者数を見て固まった。
「……十万?」
「は?」
「ゲンマ。同接、十万超えた」
「…………マジ?」
『10万突破』
『ブルファン勢です』
『初見です』
『このおっさん誰?』
『ティガにいつも煽られてる人』
『引き弱おじさん』
「初見に変な情報吹き込むな!」
玄馬の抗議でコメント欄がさらに加速する。
「じゃあ、まず俺から説明しようか」
亮二がカメラへ向き直った。
「Team虎馬の配信は、しばらく前から見せてもらってた」
「しばらく前から?」
玄馬が眉を寄せる。
「それから、知らない人も多いだろうから言っておくと――」
亮二が玄馬を見る。
「ゲンマは昔、俺たちブルーファンタズムのメンバーだった」
一瞬。
コメントの流れが止まったように見えた。
直後――爆発する。
『は!?』
『初耳』
『元ブルファン!?』
『このおっさんが!?』
『ガチの元トップじゃん』
『なんで今まで黙ってた』
「別に隠してたわけじゃねえよ」
玄馬は苦笑する。
「昔の話だからな」
「でも――」
輝夜が続けた。
「今の二人の配信を見て、いいチームだと思ったわ」
「え?」
ティガが目を瞬かせる。
「アルカルクス戦も、ちゃんと見てたわよ」
「……そうか」
玄馬が答える。
すると、それまで腕を組んでいた鉄哉が口を開いた。
「変わったな、お前」
「…………」
「昔のお前なら、あそこでティガに二投目は任せなかった」
玄馬は何も言い返さなかった。
ほんの少し前までなら、その言葉に反発していたかもしれない。
だが今なら分かる。
「……だろうな」
玄馬は小さく笑った。
鉄哉の眉がわずかに動く。
その返事こそが意外だったらしい。
「だから――」
鉄哉も、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「今のお前となら、やれる気がしたんだ」
「……テツヤ」
胸の奥に、じわりと熱が広がった。
何年も前に、自分から背を向けた場所。
そこにいた仲間たちが、今の自分を見てくれていた。
「リョウジ、カグヤ……」
そして――。
「それになにより」
亮二が口を開いた。
「ティガたん」
「はい?」
「…………」
玄馬はゆっくり亮二を見る。
今。
ティガたんって言ったか?
「今回コラボした暁には、ぜひ俺も剥ぎ取りガッチャで煽ってほしい」
「……え?」
「ずっと配信見てました!」
亮二が身を乗り出す。
「ティガたんの煽りがないと満足できない身体なんです!」
「…………」
「…………」
部屋の空気が死んだ。
『!?』
『リーダー???』
『奄美島さん!?』
『おい誰だこいつ』
『ブルファンの威厳返して』
「え……?」
ティガが恐る恐る過去ログを開く。
見覚えのあるコメントが並んでいた。
『……ふぅ』
『ご褒美助かる』
『もっと煽ってください』
「…………」
玄馬が、ゆっくり亮二を見る。
「……おい」
「なんだ?」
「まさか、これもお前か?」
「…………」
亮二は静かに目を逸らした。
「お前だったのかよ!!」
「っ……!」
ティガが机へ突っ伏した。
肩が震えている。
笑い声すら出てこないほど爆笑していた。
「だからコラボしたかったのかよ……」
鉄哉が頭を抱える。
「ごめんなさいね」
輝夜が申し訳なさそうに笑った。
「この人、戦闘中はまともなんだけど」
「フォローになってねえよ!」
『たまたま見つけたとは』
『ティガ目当てじゃねえかw』
『感動返せ』
『ブルーファンタズム終了のお知らせ』
大型コラボ初回にして、トップチームの威厳が音を立てて崩れていく。
そんな大混乱の横で――。
「じゃあさー」
鬼丸がスマートフォンを弄りながら言った。
「次の行き先、ルーレットで決めようかー」
「お、おう……」
玄馬はすっかり毒気を抜かれて頷いた。
(こいつ……本当にマイペースだな)
鬼丸が画面を操作する。
残された六大魔竜の名前が高速で流れ、やがてルーレットの針が一つを指し示した。
《大地竜グランドリュー》
「おっ」
ティガが顔を上げる。
「次はグランドリュー!」
「出現場所は?」
「熊本♡」
「…………」
『熊本www』
『遠征きたあああ』
『飛行機確定』
『交通費』
ティガが満面の笑みで玄馬を見る。
「ゲンマ♡」
「言うな」
「飛行機だね♡」
「言うなって!!」
玄馬の絶叫が、貸し会議室いっぱいに響き渡る。
こうして――。
玄馬たちが挑む六大魔竜、第三の標的が決まった。