元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません 作:炭酸水ひろみつ
「熊本♡」
「…………」
『熊本www』
『遠征きたあああ』
『飛行機確定』
『交通費』
ルーレットの中央に表示された大地竜グランドリューの名と、その出現地域を示す《熊本》の二文字を前に、玄馬はしばらく黙り込んだ。
隣ではティガが、やけに楽しそうな笑みを浮かべている。
「ゲンマ♡」
「言うな」
「飛行機だね♡」
「言うなって!!」
貸し会議室に玄馬の絶叫が響き、配信コメントが一斉に笑いで埋まった。
「次の舞台は九州、熊本だな」
騒ぎの中でも変わらず落ち着いた声で、亮二がルーレットの結果を確認する。ブルーファンタズムとして全国各地のダンジョンを渡り歩いているだけあって、東京から熊本という距離にもさほど動じた様子はない。
『遠征ー!!』
『一気に話広がったな』
『熊本ダンジョン見たかった』
『グランドリュー来たあああ』
『大地属性か』
「じゃあ、宿と交通の手配は任せて」
輝夜がさっそくスマートフォンを取り出した。
「人数は……ブルーファンタズム四人に、ゲンマ君とティガちゃんで六人ね。配信機材もあるから、荷物多めで計算して――」
口ではそう言いながら、指はすでに予約サイトを行き来している。
昔から変わらない。
討伐ルートの確認から宿の確保、移動時間の調整、装備の点検まで。戦い以外の部分を誰より早く片づけてくれるのが輝夜だった。
「助かる、カグヤ」
「ん?」
「こういう段取り、昔から手際よかったもんな。頼むわ」
輝夜が一瞬、目を丸くする。
その隣で、鉄哉がにやりと笑った。
「へえ」
「なんだよ」
「お前、ちゃんと礼言えるようになったじゃねえか」
「俺をなんだと思ってんだ」
「昔は全部やってもらって当然みたいな顔してた奴」
「…………」
否定しづらい。
玄馬は目を逸らし、それから小さく肩をすくめた。
「まあ……自分で色々やるようになったからな。チーム抜けてからは、装備も素材も移動も、全部自分でやるしかなかったし」
ダンジョンへ潜る日程を決めるのも、採掘した素材を管理するのも、傷んだ装備を工房へ持ち込むのも自分一人。
そうなって初めて、以前は誰かが当たり前のようにやってくれていたことの多さに気づいた。
「誰かが段取りしてくれるのって、普通にありがたいんだなって分かった」
「成長したじゃない」
輝夜がくすりと笑う。
「うるせえな」
「褒めてるのよ」
『ゲンマ褒められてる』
『昔どんだけだったんだ』
『カグヤさん完全に保護者』
『32歳を褒める会』
「コメントまで乗っかんな!」
そんなやり取りの横で、ティガだけはすでに別の方向へ意識が飛んでいた。
「熊本かぁ……」
スマートフォンで何やら検索しながら、口元を緩める。
「馬刺し、熊本ラーメン、辛子れんこん……」
「お前、もう飯のことしか考えてないだろ」
「当然じゃん♡ 遠征なんだからグルメと観光も込みでしょ」
「ダンジョン攻略しに行くんだぞ」
「討伐して、宝玉引いて、おいしいもの食べる。完璧♡」
「宝玉引くところだけ急に難易度跳ね上がってんだよ」
『旅番組始まった』
『Team虎馬ご当地グルメ編』
『熊本城も行け』
『ゲンマの財布が死ぬ』
「なんで俺が払う前提なんだよ!」
笑いに包まれたまま、その日の配信は熊本遠征の日程を決めて終了した。
♢
数日後。
東京から飛行機で熊本へ飛び、そこから車で移動した一行は、ダンジョンゲート熊本へ到着した。
巨大な管理施設で入場手続きを済ませ、ゲートを越える。
その先に広がっていたのは、これまで玄馬たちが潜ってきたフィールドとはまるで違う景色だった。
「……でっけえな」
思わず声が漏れる。
眼前には、果てが見えないほど巨大なカルデラ地形が広がっていた。
幾重にも重なる山々が遠くまで連なり、その内側には緑の草原と荒々しい岩場が複雑に入り混じっている。ところどころで大地が大きく裂け、剥き出しになった岩盤の隙間から白い蒸気が立ち昇っていた。
湿った土と草の匂い。
遠くから聞こえる、低い地鳴り。
風が草原を渡るたび、広大な大地そのものがゆっくりと呼吸しているように見える。
そして、このどこかにいる。
六大魔竜、三体目。
大地竜グランドリュー。
「さて」
全員が装備を整えたところで、亮二が口を開いた。
「今回は二回狩る」
「……二回?」
玄馬が眉をひそめる。
「Team虎馬は固定。ゲンマとティガちゃんには二戦とも参加してもらう。そのうえで、残り二枠を俺たちブルーファンタズムから二人ずつ出す」
「なるほど」
ティガが頷く。
「四人パーティを二種類作るってことね」
「そういうこと」
「組み合わせは?」
「もう決めてある」
亮二が指を二本立てた。
「一戦目は、俺と鉄哉」
「…………」
玄馬が二人を見る。
三年前まで、共に戦っていた仲間。
亮二と鉄哉と俺が初期メンバー。
その後に輝夜が加入したのだ。
「二戦目は、輝夜と鬼丸」
「……昔と今で分けたのか?」
「まあ、そんなところだ」
亮二が笑う。
「せっかくのコラボだ。いろんな組み合わせでやった方が面白いだろ?」
『いいじゃん』
『新旧ブルファン』
『組み合わせ熱い』
『一戦目おっさん率高くね?』
「誰がおっさんだ」
「お前と俺だろ」
「テツヤまで認めんな!」
「それから――」
亮二がスマートフォンを取り出す。
「普通に狩るだけじゃ面白くないから、各パーティに一つずつ縛りを入れる」
「嫌な予感しかしねえ」
「それもルーレットで決めよう」
『企画始まった』
『縛りプレイきた』
『ブルファン容赦ねえ』
『絶対ロクなの出ない』
「じゃ、一戦目から回すよー」
鬼丸がスマートフォンを操作する。
画面上で高速回転していた文字列が、やがてぴたりと止まった。
《1st PARTY》
《御堂筋玄馬》
《ティガ》
《奄美島亮二》
《鉾田鉄哉》
そして――。
《1st RULE》
《睡眠不可》
「…………」
「…………」
玄馬とティガが同時に固まった。
「えええええ!?」
ティガの悲鳴がカルデラへ響く。
「いきなりキツいな!」
『睡眠禁止www』
『虎馬の必殺コンボ封印』
『ティガ泣いてる』
『グランエイジの確定CRITICAL封じ』
「ちょっと待って! それ私の一番得意なやつ!」
「だから縛りなんだろ」
「納得いかない!」
亮二は笑いながら、双剣を腰へ差した。
「睡眠なしなら、久しぶりに別の組み方を試せそうだ」
「…………」
玄馬が亮二を見る。
その横から、鉄哉の大きな手が肩へ置かれた。
「やれるよな」
かつてなら。
その言葉を挑発と受け取っていたかもしれない。
何を偉そうに。
俺が火力を出せば十分だ。
そんな言葉を返していたかもしれない。
けれど、今は違う。
「……ああ」
玄馬はグランエイジを担ぎ直した。
「やれるさ」
睡眠がなくても。
確定会心がなくても。
自分たちは、もうそれだけで戦っているわけではない。
その隣では、ティガが未練たっぷりに頬を膨らませていた。
「……私の見せ場」
「安心しろ」
「ん?」
玄馬が笑う。
「見せ場がなくなるなんて、誰も言ってねえ」
「……!」
『お』
『今のちょっとカッコよくない?』
『ゲンマどうした』
『ティガ照れてる?』
「な、なにカッコつけてんの♡」
「お前が困ってたから言ったんだろ!」
「別に困ってないし♡」
「さっき悲鳴上げてたろ!」
そんな二人を横目に、鬼丸が次のルーレットを回す。
「じゃ、二戦目も決めとこー」
《2nd PARTY》
《御堂筋玄馬》
《ティガ》
《牛尾輝夜》
《日ノ元鬼丸》
続いて、縛りが決まる。
《2nd RULE》
《討伐制限時間――5分》
「……は?」
「タイムアタックかよ!」
『5分www』
『鬼畜』
『グランドリュー5分はヤバい』
『火力試験じゃん』
だが――。
隣にいた鬼丸だけは、スマートフォンをポケットへ滑り込ませると、まるでコンビニへでも行くような調子で言った。
「いけるでしょ」
「軽いな!?」
玄馬が振り返る。
銀髪の青年は、澄んだ青い瞳をわずかに細めていた。
「僕らなら」
「…………」
相変わらず、つかみどころがない。
ゲームばかりしている。
玄馬のことすら知らなかった。
それなのに――その一言だけは、不思議と冗談には聞こえなかった。