元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません 作:炭酸水ひろみつ
広大なカルデラを、乾いた風が吹き抜けていた。
なだらかな草原の向こうには黒々とした岩山が幾重にも連なり、ところどころで地面の裂け目から白い噴気が立ち昇っている。空は高く、視界を遮るものも少ないというのに、見渡す限り敵らしい姿はない。
それでも玄馬たち四人は、武器を構えたまま動かなかった。
「…………」
玄馬が足元へ視線を落とす。
靴底から、かすかな振動が伝わってきた。
一度。
二度。
一定の間隔を刻んでいたそれが、少しずつ大きく、近くなってくる。
『なんかおるで』
ユンユンも異変に気づいたらしい。ぴんと耳を立てると、背負ったカメラを地面へ向けた。
『地震?』
『来るぞ』
『どこだ?』
『画面じゃ分からん』
地表に散らばっていた小石が、カタカタと音を立てて震え始める。
その瞬間、亮二が声を上げた。
「全員、一ヶ所に固まるな! 散開!」
「了解!」
「ティガちゃんは上へ! 地中から出てきた瞬間に吹っ飛ばされるなよ!」
「りょーかい!」
ティガが空中法機〈エリアルロッド〉の先端を地面へ向ける。
爆発。
反重鉱石によって重力の影響を軽減された身体がふわりと浮き上がり、直後、爆轟竜の宝玉が生み出した爆発が噴射口から放たれた。その推進力で一気に上空へ跳ね上がり、二度、三度と噴射を重ねながら空中で体勢を整える。
「来るぞ!」
ドゴォォォォン!!
玄馬たちが立っていた地面が、内側から爆発した。
土砂と岩石を撒き散らしながら姿を現したのは、六大魔竜の一角――大地竜グランドリュー。
土に汚れた巨体を覆うのは、岩盤を思わせる分厚い外皮。頭部から突き出した巨大な鼻先はモグラを思わせる形状をしており、左右に広がる翼も空を飛ぶためのものではない。
骨格そのものが太く発達し、その先端は巨大なドリルのように鋭く尖っている。
『でっっっか』
『モグラ!?』
『モグラドラゴン』
『翼がドリルじゃん』
『顔撮るで!』
ユンユンが後退しながらカメラを振り上げ、土煙の中から飛び出したグランドリューの巨体を画面いっぱいに捉える。
「今だ!」
亮二が飛び込んだ。
玄馬も同時に地面を蹴る。
右から大剣。
左から双剣。
真正面からは鉄哉のランスが巨体を穿つ。
さらに上空へ舞い上がったティガがエリアルロッドの噴射方向を切り替え、急降下の勢いを乗せた長い金属杖を叩きつけた。
だが――。
《BAD CRITICAL》
「硬っ!」
ティガのロッドが弾き返される。
グランドリューは巨体を震わせると、左右のドリル翼を猛烈な勢いで回転させた。
「離れろ!」
亮二の声と同時に土砂が爆発し、その巨体が地中へ沈んでいく。
数秒後には、巨大な穴だけが残された。
『逃げた』
『潜ったぞ』
『地中戦めんどくさ』
「……なるほどね」
ティガが地上へ降りてくる。
「出てきた瞬間しか、まともに攻撃できないってこと?」
「それだけじゃない」
亮二は双剣を下ろさず、足元へ視線を落としていた。
「来るぞ。右!」
「っ!」
玄馬が横へ跳ぶ。
直後、それまで立っていた地面を突き破ってグランドリューが飛び出した。
「ぐっ!」
完全には避けきれない。
玄馬はグランエイジの腹を盾のように構えて受けたものの、凄まじい衝撃に身体ごと吹き飛ばされた。地面を転がりながら受け身を取り、勢いが死ぬと同時に片膝をついて立ち上がる。
「ゲンマ!」
「平気だ!」
その間にもグランドリューは地上へ出ているわずかな時間だけ巨体を暴れさせ、再びドリル翼を回転させた。
「また潜るぞ!」
鉄哉が叫ぶ。
土砂が舞い上がり、巨体が地中へ沈んでいく。
それを見送った亮二が、ふとティガへ顔を向けた。
「ティガちゃん」
「なに?」
「音響爆弾、作れる?」
「作れるけど……」
「じゃあ頼む。調合効果は最大で」
「――あ」
ティガも意図に気づいたらしい。
口元を吊り上げ、腰の調合ポーチへ手を突っ込む。
「なるほどね♡」
複数の素材を取り出し、その場で素早く混ぜ合わせていく。
《調合効果――1000%》
《調合失敗率――0%》
『お』
『音響爆弾?』
『まさか』
「地中を主戦場にする奴は、視界が利かないぶん、振動や音に敏感なことが多い」
亮二は足元から伝わってくる振動へ意識を集中させながら、地中を移動するグランドリューの位置を追っている。
「そこへ調合効果千パーセントの爆音をぶち込む、と」
玄馬が笑う。
「そういうこと」
「えっぐ♡」
完成した球体を手の中で弄びながら、ティガが舌を出した。
「ユンユン、穴!」
『分かっとる!』
カメラがティガから、グランドリューの消えた穴へ向く。
ティガは大きく振りかぶった。
「モグラ退治のお時間でーす♡」
投擲。
「――《音響爆弾》!!」
球体が穴の奥へ吸い込まれていく。
一秒。
ドンッ!!
腹の底まで震わせる低い爆音が地中で炸裂し、足元からカルデラ一帯へ強烈な振動が走った。
次の瞬間。
ドゴォォォォン!!
少し離れた地面を突き破り、グランドリューが飛び出した。
だが、先ほどとは違う。
巨体を左右へ揺らし、平衡感覚を失ったように頭を振っている。
『出たああああ!!』
『モグラ叩きwww』
『音響爆弾効いた!』
『調合1000%えぐい』
「うわ、ほんとに出た!」
「お前が投げたんだろ!」
「こんな綺麗に釣れると思わないじゃん!」
「鉄哉!」
亮二が叫ぶ。
「おう!」
グランドリューが体勢を立て直すより早く、鉄哉が真正面へ飛び込んだ。
巨大な頭部が振り下ろされる。
だが鉄哉は逃げない。
ランスと大盾を地面へ突き立て、その一撃を真正面から受け止めた。
ドゴォン!!
「ぐ……おおおおっ!!」
足元の地面が陥没する。
それでも、退かない。
「止めたぞ!」
「十分だ!」
亮二が駆ける。
玄馬もグランエイジを握り直し、その背を追おうとした。
だが――。
「ゲンマ、右脚!」
「!」
「ティガちゃん、左から障壁を削って!」
「りょーかい!」
玄馬は一瞬だけ亮二を見る。
なぜ自分が右なのか。
なぜティガが左なのか。
聞く必要はなかった。
「ティガ!」
「分かってる!」
二人が左右へ散る。
玄馬の大剣が右脚へ食い込み、反対側ではエリアルロッドが爆発的な加速を乗せて外皮を打ち据える。
その間も正面では鉄哉がグランドリューの攻撃を引き受け続ける。
三人が作った中央の空間へ、亮二が滑り込んだ。
二本の刃が閃く。
一撃。
二撃。
三撃。
そこから先は、数えることすら難しかった。
右の刃が外皮を裂いた直後には左が同じ場所を抉り、身体を捻って爪を避ける動作さえ、そのまま次の斬撃へ繋がっていく。浅かった傷は攻撃が重なるごとに深くなり、硬い外皮の隙間から赤いものが覗き始めた。
《DAMAGE――412》
《DAMAGE――387》
《DAMAGE――506》
《DAMAGE――448》
《DAMAGE――621》
数字が止まらない。
「速っ……!」
ティガが思わず声を漏らす。
だが亮二は答えない。
グランドリューが脚を動かせば半歩ずれ、頭部が振られれば紙一重で潜り抜け、そのたびに二本の刃が新しい傷を刻む。
無闇に振り回しているわけではない。
相手の動き。
鉄哉が受け止めている攻撃。
玄馬とティガが削っている箇所。
そのすべてを見ながら、最も安全で、最も効率よくダメージを稼げる位置だけを選び続けている。
「――ここだ」
二本の刃が交差した。
それまで刻み続けた亀裂へ、十字の斬撃が走る。
《CRITICAL!!》
《RUSH TOTAL DAMAGE――10,482》
『!?』
『10000超え!?』
『双剣で!?』
『ラッシュだけで五桁』
『これがブルファンのリーダー』
玄馬の目がわずかに見開かれる。
「……相変わらず、馬鹿みてえな火力出すな」
「ゲンマに言われたくないな」
亮二は涼しい顔で答えると、血糊を払うように双剣を振った。
「俺は一発じゃ出せないからね」
その直後。
玄馬とティガの攻撃が左右から重なった。
《BARRIER BREAK》
《大地障壁――破壊》
「よし!」
「このまま押し切るぞ!」
睡眠は使えない。
ならば、起きているうちに削り切る。
四人が一気に畳みかけるが、相手も六大魔竜の一角。
グランドリューは咆哮とともに巨体を振り回し、正面に立つ鉄哉を力任せに押し退けると、再びドリル翼を高速回転させた。
「また潜る!」
「ティガちゃん、もう一発!」
「はい!」
ティガが音響爆弾を作ろうと調合ポーチへ手を伸ばす。
だが――。
「ティガ」
「ん?」
玄馬が片手を上げた。
掌を向ける。
――ステイ。
「…………?」
ティガの手が止まった。
グランドリューは完全に地中へ消える。
だが玄馬は追わない。
亮二も。
鉄哉も。
『あれ?』
『追わないの?』
『音響爆弾もう一発いけるだろ』
『ゲンマ何してる?』
やがて地面の振動が遠ざかっていく。
先ほどまでなら、潜った直後からこちらの足元を狙っていた。
だが今は違う。
地中を移動する振動は玄馬たちの周囲を回るのではなく、明確にカルデラの奥へ向かっている。
玄馬はそれを足裏で確かめると、今度は二本の指を前へ倒した。
――ゴー。
「後をつけよう」
「ああ、なるほどな」
亮二が即座に笑った。
「仕方ねえな」
鉄哉もランスを肩へ担ぐ。
「譲ってやるよ」
「……?」
ティガだけが三人を見比べた。
「なに? なんの話?」
「行けば分かる」
「なにそれ! あたしだけ仲間外れ!?」
『ワイも分からんから安心せえ』
「ユンユンはこっち側かぁ」
『古参三人だけ通じてる』
『元ブルファンの狩り方?』
『なんか始まった』
ユンユンのカメラが、地面に残された盛り上がった土の筋を追う。
グランドリューは戦場から離れ、カルデラの奥へ向かっていた。
「この手のモンスターはな」
移動しながら亮二が説明する。
「体力が減ると、ねぐらへ逃げる習性がある」
「ねぐら?」
「そこで寝るんだよ」
鉄哉が続けた。
「体力を回復して、また戻ってくる」
「…………寝る?」
ティガが足を止めかける。
玄馬が振り返り、にやりと笑った。
「そう」
「あ」
ティガの赤紫色の瞳が大きくなる。
「寝るじゃん!!」
『wwwww』
『そういうことか』
『睡眠不可とは』
『自然睡眠は草』
『ルールの穴ついてきた』
「違う違う」
亮二が笑う。
「こっちから意図的に眠らせたわけじゃない。あいつが勝手に寝に帰っただけだ」
「つまり――」
ティガの口元も吊り上がる。
「勝手に寝たなら、殴っていい♡」
「そういうこと」
「お前ら、悪い顔してんな」
♢
グランドリューのねぐらは、カルデラの岩壁に開いた巨大な洞穴の奥にあった。
四人は足音を殺して進み、やがて先行していたユンユンが声を潜めながら戻ってくる。
『寝とるで』
カメラが洞穴の奥へズームする。
そこには、グランドリューの巨体が横たわっていた。
岩のような腹が、ゆっくりと上下している。
《SLEEP》
『ほんとに寝てるw』
『完全に熟睡』
『起こしてあげよう』
『やさしくな』
「……これ、本当にアリなの?」
ティガが小声で尋ねる。
「アリだ」
亮二が即答する。
「禁止したのは、俺たちが睡眠状態にすること。自然睡眠まで禁止した覚えはない」
「屁理屈♡」
「ルールっていうのは、書いてあることがすべてだからね」
「リーダーが一番悪い顔してる!」
「昔からこういう奴だよ」
鉄哉が喉を鳴らして笑う。
「失礼だな。クレバーと言ってくれ」
『クレバー』
『物は言いよう』
『さっき10000削った奴がルールの穴まで突いてる』
『さすがリーダー』
「……変わってねえな」
玄馬も小さく笑った。
懐かしかった。
言葉にしなくても、手の動き一つで意図が伝わる。
何年も一緒に狩ってきたからこそ身についた呼吸は、三年という時間を挟んでも完全に消えてはいなかった。
「じゃあ、ゲンマ」
亮二が場所を空ける。
「最後は譲るよ」
「だからさっき『譲る』って言ったのか」
ティガがようやく理解する。
睡眠状態への初撃。
それなら――会心率マイナス100%など関係ない。
「さっき一万出した奴が、よく言うぜ」
「俺のはラッシュの合計。お前のは一発だろ?」
亮二が肩をすくめた。
「こういうのは適材適所だ」
「……そうだな」
玄馬はグランエイジを構えた。
大きく息を吸い、足を開いて腰を落とす。巨大な刀身を引き絞るように後方へ構えると、ユンユンも意図を察したらしく、カメラが玄馬の背後へ回り込んだ。
『ここは寄るで』
『きた』
『真溜めだ』
『睡眠不可なのに結局これw』
『合法睡眠CRITICAL』
力を溜める。
一段。
二段。
全身の筋肉が軋み、グランエイジの刀身が低く震えた。
かつて爆轟竜ドラムを沈めたとき、この一撃が叩き出したダメージは一万。
だが、今のグランエイジは違う。
煉獄竜の宝玉。
そして輝星竜の宝玉。
二つの力を取り込み、その基礎性能はすでに《攻撃力レベル1400》へ到達している。
「――真溜め」
踏み込む。
眠るグランドリューの頭部へ向け、全体重と剣の重量を乗せる。
「霊峰斬ッ!!」
轟音。
巨大な刀身が頭部へ叩き込まれ、洞穴どころか大地そのものが震えた。
《CRITICAL!!》
《DAMAGE――14,000》
『!?』
『14000!?』
『一万どころじゃねえ』
『アルカルクス戦より上がってる!』
『グランエイジ強くなってるな!!』
グランドリューの巨体が一度だけ大きく跳ね、そのまま力を失って地面へ沈む。
《QUEST CLEAR》
《大地竜グランドリュー――討伐完了》
一瞬の静寂。
直後、コメント欄が爆発した。
『討伐きたああああ!!』
『リーダーはラッシュで10000』
『ゲンマは一発14000』
『火力の出し方が真逆』
『自然睡眠うめえ』
『これがベテランの狩りか』
『ハンドサインだけで通じるの良かった』
『ティガだけ分かってなくて草』
「ちょっと!」
ティガがカメラへ詰め寄る。
「あたしだって音響爆弾でめっちゃ活躍したんですけどぉ!?」
『知ってる』
『モグラ叩き担当』
『調合1000%は普通に反則』
『リーダーが即使い方思いついたのもヤバい』
「ほらぁ♡」
「すぐ機嫌直るな、お前」
玄馬が笑う。
その横では亮二も笑い、鉄哉が満足そうにランスを肩へ担いでいた。
昔と同じ呼吸。
けれど、昔とまったく同じ狩りではない。
今はそこにティガがいる。
玄馬自身も三年前とは違う。
そして、亮二たちもまた――あの頃から立ち止まっていたわけではなかった。
ティガの調合能力を見るや、その場で音響爆弾を使った戦術へ組み込み、鉄哉に正面を任せ、玄馬とティガを左右へ振る。そして三人が作った隙へ自分が飛び込み、一万を超えるダメージを叩き出す。
相変わらずだった。
周りを見ている。
誰が何をできるのかを把握し、その力を組み合わせて、最も大きな結果を作る。
そのうえで、自分自身もトップクラスの火力を出す。
だからこいつは、ブルーファンタズムのリーダーなのだ。
「どうした、ゲンマ?」
「いや」
玄馬はグランエイジを肩へ担ぎ直した。
「やっぱ強えなと思って」
「今さら?」
「うるせえ」
亮二が笑う。
玄馬も笑った。
かつての仲間と、今の相棒。
その両方と肩を並べて戦うこの感覚は、ずいぶん久しぶりだった。
悪くない。
いや――かなり、楽しかった。