元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません 作:炭酸水ひろみつ
御堂筋玄馬は、採掘したばかりの魔剣グランエイジを両手で握った。
《攻撃力レベル――1000》
《会心率――マイナス100%》
攻撃性能だけなら規格外だが、問題は後者だった。CRITICALならダメージ二倍、BAD CRITICALなら半減。そして会心率マイナス100%ということは――。
「攻撃力レベル1000もあるのに、絶対BAD CRITICAL♡ 引きよわおじさんにピッタリじゃん♡」
「俺まで巻き込むな!」
「数字だけ立派なざこ武器♡」
「武器まで煽るのかよ!」
言い争う間にも爆轟竜は赤黒い巨体を揺らして迫り、一歩ごとに岩盤が震える。岩石のような鱗が擦れ合い、鼻孔から熱い白煙が漏れる姿を、ユンユンが後方へ跳びながら画角いっぱいに収めた。
『おっちゃん! 来るで!』
爆轟竜が地面を蹴った。
「速っ――!」
巨体からは想像もできない速度で間合いが消え、玄馬が横へ跳んだ直後、巨大な爪が岩盤を粉砕する。
「ざぁこ♡ ざこゲンマ~♡ 元トップハンターのくせに、その程度なのぉ?♡」
「帰ったら覚えてろよ、ティガ!!」
着地と同時に地面を蹴り、巨竜の懐へ潜る。
前脚の位置、重心の傾き、次の攻撃までの僅かな隙――何年も大型モンスターとまともに戦っていないというのに、どこへ踏み込み、どこへ刃を通せばいいのかを身体は覚えていた。
「――ッ!!」
腰を捻り、全身の力を乗せたグランエイジを脇腹へ叩き込む。
ガギィン!!
分厚い鉄板でも殴ったような衝撃が両腕を駆け上がった。
《BAD CRITICAL》
《DAMAGE ×0.5》
「ぶはっ! 出たぁ♡ BAD CRITICAL♡」
「笑うな!」
『半減確定は草』
『攻撃力レベル1000が泣いてる』
『えらい武器引いてもうたな、おっちゃん』
「ユンユンまで言うな!」
「ゲンマ!」
横薙ぎに迫った尾をグランエイジの腹で受けると、凄まじい衝撃に靴底が岩盤を削り、玄馬の身体が数メートル押し流された。
「はっ……はっ……」
攻撃は見えるし、大剣の扱いも忘れていない。だが身体まで現役時代のままではなく、心臓はうるさいほど鳴り、痺れた掌には汗が滲んでいる。
怖くないわけじゃない。
それでも相手を見て間合いを測り、どうすれば一撃を通せるのか考えていると、自然と口元が緩んだ。
「……やっぱり、嫌いじゃねえな」
「なにニヤニヤしてんの!? キモいんですけどぉ♡」
「うるせえ!」
ティガの声で我に返り、その手に握られた
《調合効果――1000%》
《調合失敗率――0%》
「ティガ! 麻酔玉は作れるか?」
「素材ならある! 誰に聞いてんの♡」
ティガが腰のポーチから素材を取り出すと、ラピスが淡く発光する。
《調合成功――麻酔玉》
《調合効果――1000%》
「うわ……普通の麻酔玉じゃないんだけど」
「それ、当てられるか?」
「はぁ? 私を誰だと思ってんの?」
「同接百人の配信者」
「そこじゃない!!」
「じゃあ頼む。俺が隙を作るから、合図したら投げてくれ」
ティガが赤紫の瞳を瞬かせた。
「初対面の女に頼み事ぉ? 一人じゃ何もできないの、ざこゲンマ♡」
「ああ。一人じゃ無理だ。だから頼んでる」
「…………は?」
煽った本人が言葉を失う。
玄馬はもうティガを見ず、グランエイジを構えて爆轟竜だけを見据えていた。
「できるか?」
「……当たり前じゃん♡ ちゃんと私が投げやすいように働いてよね?」
「任せろ」
玄馬は真正面から走り、爪をかわし、噛みつきの懐へ潜り、振るわれた尾を大剣の腹で受け流す。爆轟竜が振り返った瞬間、無防備な脇腹が目に入り、反射的にグランエイジを振り上げかけた。
――斬れる。
だが、止めた。
今、必要なのは自分が一発多く斬ることじゃない。
「こっちだ!!」
攻撃せずに巨竜の右側へ回り込み、ティガとの射線から岩を外しながら、自分だけへ注意を引きつける。
「ティガ! 準備!」
「いつでも!」
走っている相手へ無理に投げさせる必要はない。ならば止めればいい。
「おらぁ!!」
グランエイジの腹を岩盤へ叩きつけると、轟音に反応した爆轟竜が前脚を振り上げた。迫る爪をギリギリまで引きつけて横へ跳ぶ。
ドゴォン!!
爪が岩盤へ深々と食い込み、巨体が止まった。
「――今だ!!」
「任せて!!」
ティガの投げた麻酔玉が一直線に飛び、爆轟竜の顔面で炸裂した。
《STATUS――SLEEP》
濃い煙の中で巨竜の足取りがふらつき、やがて地響きとともに倒れ込む。
「ふふーん♡」
金髪を払って胸を張るティガに、玄馬も素直に感心した。
「……やるじゃん」
「誰に向かって言ってんの、ざこゲンマ♡」
『ティガうっま』
『おっさんの誘導も上手くね?』
『普通にコンビとして噛み合ってて草』
ユンユンのカメラへピースするティガの横で、玄馬はSLEEPの表示を見つめた。
「……待てよ。これ、いけるぞ」
「何が?」
「睡眠状態への初撃は、通常の会心率計算を無視して確定CRITICALになる」
「ってことは、マイナス100%でも?」
「踏み倒せる」
ティガはグランエイジと眠る爆轟竜を見比べ、にんまりと口元を吊り上げた。
「なにそれ、めっちゃズルじゃん♡」
「仕様だよ」
「好き♡」
「……俺が?」
「武器が♡」
「だよな」
玄馬は爆轟竜の頭部へ近づき、深く息を吸った。
足の位置を決め、腰を沈め、肩から腕へと全身の力を巨大な刃へ伝えていく。何年も前に数え切れないほど繰り返した動作を、頭ではなく身体が覚えていた。
一段、二段――さらに溜めるにつれて余計なものが意識から消え、視界には爆轟竜の首、その一点だけが残った。
「――真溜め」
踏み込む。
「霊峰斬!!」
グランエイジが首へ叩き込まれ、爆発じみた衝撃が岩盤を走った。
《CRITICAL》
《DAMAGE ×2.0》
《10,000》
「い、一万!?」
『は?????』
『10000!?』
『睡眠初撃+真溜め+CRITICAL』
『ロマン砲すぎる』
爆轟竜の巨体が大きく痙攣する。
《QUEST COMPLETE》
玄馬は大剣を振り下ろした姿勢のまま荒い息を吐いた。両腕に残る衝撃も、狙った場所へ一撃を通した感覚も、何年もの空白を飛び越えて蘇ってくる。
「……覚えてるもんだな」
グランエイジを見下ろしているうち、自然と口元が緩んだ。
「やっぱ、気持ちいいな」
「うわ。おじさん、今すっごい悪い顔してた♡」
「ほっとけ」
『おっちゃん、コメントえらいことになっとるで』
ユンユンに促されて配信ウィンドウを見る。
『元トップってマジだったの?』
『クレイモアスタイル!?』
『一人だとBAD CRITICAL、二人なら確定CRITICALなの面白い』
『同接2000超えたぞ』
《同時接続数:2,037》
「……二千?」
ティガの動きがぴたりと止まった。
「私の配信が?」
「お前の配信だろ」
「きたぁぁぁぁぁぁ!!」
「うるせえ!!」
「二千だよゲンマ! ユンユン、アーカイブ保存! 切り抜き用にマーク!」
『任せとき!』
興奮したティガが玄馬の腕を掴み、硫黄臭の中へ甘酸っぱい香水の匂いが混じった。
「ねえ、ゲンマ。その魔剣――ウチで引き受ける」
「ウチ?」
ジャケットから放られた名刺を受け取る。
黒金鍛造工房。
「実家、鍛冶屋なんだ♡」
「これ、鍛えられるのか?」
「さあ?」
「おい」
「だから調べるんでしょ。こんな面白そうな武器、他所に持ってかれたくないし♡」
「結局お前の欲望じゃねえか」
「ゲンマだって損しないでしょ?」
ティガがラピスを掲げる。
「この子とグランエイジ、めちゃくちゃ相性いいみたいだし」
玄馬が欲しかった秘石をティガが、ティガが欲しかった遺物武器を玄馬が持っている。交換はできないが、一緒に使うことならできる。
「……なるほどな」
「でしょ♡ だからさ、ゲンマ――」
ティガは、とびきり楽しそうに笑った。
「わたしと組まない?♡」
「お前と――!?」
『盛り上がっとるところ悪いんやけど』
ユンユンが二人の間へ割って入り、カメラを倒れた爆轟竜へ向ける。
『剥ぎ取り、せんでええんか?』
「…………」
ティガの赤紫の瞳が輝いた。
「剥ぎ取りガッチャ!!」
「忘れてたのかよ!」
♢
都内タワーマンションの一室。
照明もつけていない部屋で、長身の男がスマートフォンを凝視していた。画面の光が、センターで分けた黒髪と整った横顔を青白く照らし、ソファーの脇には鞘に収められた二本の剣が立てかけられている。
画面に映っているのは、使い慣れた大剣を構え、野性味のある笑みを浮かべる男の姿。
「……玄馬」
男は懐かしむように目を細めた。
「久しぶりだな」