元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません   作:炭酸水ひろみつ

3 / 4
03

爆轟竜ドラムの巨体が地に伏してから、しばらくして。

 

 火山フィールドの向こうから、揃いの作業服に耐熱装備を身につけたスタッフたちが姿を現し、討伐されたドラムの周囲へ規制杭を打ち込みながら、巨大な荷台や解体用の器具を手際よく運び込んでいく。

 

 大型モンスターの死骸は個人で持ち帰れるような代物ではないため、討伐後はギルドと契約した専門業者が回収することになっている。

 

 もっとも、命を張って倒したハンターに取り分がないわけではない。

 

「それじゃあ――」

 

 ティガがカメラの前へ躍り出た。

 

 さっきまで爆轟竜を相手にしていたとは思えないほど元気いっぱいに両手を広げ、金髪のツインテールと大ぶりのジャケットを翻しながら、くるりと一回転する。

 

「みんな、お待ちかね! 剥ぎ取りガッチャ!!」

 

『きたあああああ!!』

 

『本編開始』

 

『戦闘は前座』

 

『ガッチャの時間だあああ』

 

「おい。こっちは命懸けで戦ったんだぞ」

 

『でもガッチャの方が見たい』

 

「お前ら……」

 

 玄馬が肩を落としていると、スタッフの一人から小さなケースを渡された。中に収められているのは、黒い柄に銀色の刃を備えた三本の剥ぎ取りナイフ。

 

 三本――つまり、三回。

 

 鱗か、外皮か、牙か。それとも市場で何百万という値がつく激レア素材か、ドラムの巨体から何を引き当てるかはナイフを入れてみるまで分からない。

 

「……なんか緊張するな」

 

「えぇ~? 元トップハンター様が、モンスターと戦うより剥ぎ取りで緊張してるのぉ?♡」

 

「うるせえ。こっちは金がかかってんだよ」

 

「ざぁこ♡ 物欲に負けてる♡」

 

「まだ何も引いてねえだろ!」

 

 玄馬はティガを追い払い、ドラムの脇腹へ一本目を突き立てた。

 

 ポンッ。

 

《RARE 1》

 

《爆轟竜のウロコ》

 

「……まあ、一回目だ」

 

『まだ慌てる時間じゃない』

 

『次いこ次』

 

 二本目。

 

 ポンッ。

 

《RARE 1》

 

《爆轟竜のウロコ》

 

「…………」

 

『またウロコw』

 

『デジャヴ』

 

『引き弱くね?』

 

「まだ一回ある」

 

 三本目を握った玄馬は、しばらくドラムを睨んだ末、脇腹から背中側へ移動した。どこから剥いでも抽選確率は変わらないと分かっている。それでも二連続でウロコを引かされれば、場所くらい変えたくなる。

 

「……ここだ」

 

「おじさん、急にオカルトに走ってない?♡」

 

「うるせえ!」

 

 ナイフを突き立てる。

 

 ポンッ。

 

《RARE 1》

 

《爆轟竜の外皮》

 

「…………」

 

『うわあ……』

 

『レア1コンプリートおめ』

 

『逆に持ってる』

 

 無言でナイフを置いた玄馬の肩へ、ぽん、と手が置かれた。

 

 振り向けば、ティガが心配そうにこちらを見上げている。

 

「ティガ……」

 

「ゲンマ……」

 

 一瞬だけ、優しい奴なのかもしれないと思った。

 

 ティガは玄馬の顔を覗き込み――口元を、にちゃあ、と吊り上げる。

 

「ざぁぁぁぁぁぁぁこ♡」

 

「…………」

 

「引き弱♡ 命懸けで倒したのにレア1しか剥げないのぉ?♡ ウロコ♡ ウロコ♡ 外皮♡」

 

「…………」

 

「ねえねえ今どんな気持ちぃ?♡」

 

「うるせええええ!! お前がやってみろやあああ!!」

 

『キレたw』

 

『効いてて草』

 

『ティガ楽しそう』

 

『…………ふぅ』

 

『↑賢者モード乙』

 

「最後の二人は何してんだよ!!」

 

「ふっふっふ。しょうがないなぁ」

 

 ティガはスタッフから三本のナイフを受け取ると、黒く塗った爪先で器用に摘まみ、扇のように広げた。

 

「引き弱おじさんに、私がなぜ配信者なのか教えてあげる♡」

 

「ガチャ運と配信者になんの関係が――」

 

 ザクッ。

 

 ポンッ。

 

《RARE 5》

 

《爆轟竜の逆鱗》

 

「…………は?」

 

『逆鱗!?』

 

『いきなりレア5w』

 

 続けて二本目。

 

 ポンッ。

 

《RARE 5》

 

《爆轟竜の逆鱗》

 

「連続だとぉ!?」

 

『二枚抜きwww』

 

『豪運すぎる』

 

『ゲンマ見てるー?』

 

「見てるわ!!」

 

「これが配信者ってものなんだよねぇ♡ 実力だけじゃダメなの♡ ここぞってときに“持ってる”のがスターなの♡」

 

「クソッ……」

 

「悔しい?♡」

 

「死ぬほど腹立つ」

 

「ざぁこ♡」

 

 ティガは最後のナイフを手に取ると、何の迷いもなくドラムへ突き立てた。

 

 ところが、引き抜いた直後。

 

「……ん?」

 

 その表情が変わった。

 

「どうした?」

 

「なんか……手応えが」

 

 開いたウィンドウに、すぐには結果が表示されない。

 

 光の粒が集まり、縁を走っていく。

 

『え』

 

『演出違くね?』

 

『待て待て』

 

『これまさか』

 

 異変に気づいたのか、ドラムの搬出作業を進めていたスタッフまで手を止めた。

 

 やがて光が弾ける。

 

《RARE 6》

 

《爆轟竜の宝玉》

 

「「…………」」

 

 一瞬、コメント欄すら止まった。

 

 直後。

 

『宝玉!?!?!?』

 

『うおおおおおおお!!』

 

『都市伝説じゃなかったの!?』

 

『逆鱗→逆鱗→宝玉???』

 

『確率どうなってんだよ』

 

「……マジか」

 

 玄馬も言葉を失った。

 

 希少素材の中でも別格。市場に出れば数百万、場合によってはそれ以上の値がつく代物を、こいつはたった三回で引き当てた。

 

 さすがのティガも呆然と宝玉を見つめていたが――やがて、くるりと玄馬を振り返る。

 

「……あ」

 

 嫌な予感がした。

 

「ねえ、ゲンマぁ♡」

 

 ずい、と目の前まで詰め寄られる。甘酸っぱい香水の匂いと一緒に金髪のツインテールが揺れ、赤紫の瞳がこれでもかというほど愉悦に染まっていた。

 

「引き弱いねぇ♡」

 

「言うな」

 

「私は逆鱗二枚とぉ~♡」

 

「やめろ」

 

「宝玉まで出ちゃったけどぉ~♡」

 

 にっこり。

 

「ざぁぁぁぁぁこ♡」

 

「ぐっ……!」

 

『死体蹴りw』

 

『爆轟竜よりゲンマの方がダメージ受けてる』

 

『今日一番効いてて草』

 

「……お前、昔からこんな引きしてんのか?」

 

「まあね♡ 配信者には、“華”ってものが必要だから♡」

 

「神様がいるなら、一度くらい確率について話し合いたい……」

 

 ところがティガはしばらく宝玉を眺めると、大切そうにケースへ収めた。

 

「よし。これ、オトンに持って帰ろ」

 

「……売らねえの?」

 

「は?」

 

「いや、宝玉だぞ。何百万すると思ってんだ」

 

「だからだよ」

 

 返事は即答だった。

 

 玄馬が黙る。

 

 ティガはもう宝玉ではなく、玄馬が背負っているグランエイジを見ていた。その赤紫の瞳から、さっきまでのふざけた色が少しだけ消えている。

 

 鍛冶屋の目だった。

 

「ゲンマ。このあと時間ある?」

 

「まあ、あるけど」

 

「じゃあ――ウチ来てよ♡」

 

     ♢

 

 それから約一時間後。

 

「……思ってたよりガチだな」

 

 玄馬は思わず呟いた。

 

 案内された黒金家は、外から見れば少し大きな一軒家にしか見えなかったが、母屋の奥には別棟があり、その扉を開けた瞬間、むっとする熱気と鉄の匂いが押し寄せてきた。

 

 壁には大小さまざまなハンマーやヤットコが並び、棚には用途も分からない工具と金属素材が所狭しと収められている。中央には年季の入った金床が鎮座し、その奥では炉が赤々と燃えていた。

 

「だから言ったじゃん。実家、鍛冶屋だって♡」

 

「町の包丁屋くらいを想像してたんだよ」

 

「失礼すぎ♡ ウチ、ハンター用の武器も打ってるから」

 

 先ほどまで火山を駆け回っていたティガはジャケットを脱ぎ、慣れた様子で工房の奥へ進んでいく。

 

「オトーン! いるー?」

 

 返事はない。

 

 代わりに――。

 

 カァン!!

 

 奥から、腹に響くような金属音が聞こえた。

 

 カァン!!

 

 カァン!!

 

 一定の間隔で繰り返される音に誘われて工房の奥を覗き込むと、炉の前に一人の男が立っていた。

 

 五十代ほどだろうか。灰色がかった髪を後ろで束ね、片目を覆う眼帯の下には無精髭。分厚い革の前掛けに包まれた身体は、年齢を感じさせないほど大きく、太い腕がハンマーを振り下ろすたび、赤熱した鋼から火花が飛び散っている。

 

「オトン!」

 

「聞こえてる。騒ぐな」

 

 低い声で返しながら、男はもう一度だけ鋼を叩いた。

 

 カァン!!

 

 それからハンマーを置き、額の汗を腕で拭う。

 

「で、何の用だ。配信は――」

 

 振り返った男の片目が、玄馬を捉えた。

 

 動きが止まった。

 

「…………」

 

 玄馬もまた、目の前の男を見たまま固まっていた。

 

 灰色の髪も、顔に刻まれた皺も、昔よりずっと増えている。

 

 それでも見間違えるはずがない。

 

「……お前」

 

 男が目を細める。

 

「玄馬か?」

 

 ティガが二人を交互に見た。

 

「……え?」

 

 玄馬の口から、何年も呼んでいなかった言葉が零れた。

 

「――師匠?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。