元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません   作:炭酸水ひろみつ

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「――師匠?」

 

 玄馬の口から、何年も呼んでいなかった言葉が零れた。

 

 炉の前に立つ男――黒金鉄斎は、片方だけの目を細めると、手にしていた槌を作業台へ置いた。

 

「おお。やっぱり玄馬か。久しぶりだな」

 

「……お久しぶりです」

 

「なんだ。老けたな」

 

「三年でそこまで老けませんよ!」

 

 再会早々、昔と同じ調子で返してしまう。鉄斎は喉を鳴らして笑った。

 

「口は変わってねえな。昔は『腰が高え』『武器のせいにすんな』って、何度言わせやがったか」

 

「それ、最初に蒸し返します?」

 

「事実だろうが」

 

「……師匠も変わってねえや」

 

 二人のやり取りを、ティガがぽかんと眺めていた。

 

「ちょっと待って。ゲンマ、なんでオトンと知り合いなの?」

 

「現役の頃、師匠がいた工房に世話になってたんだよ」

 

「お前が消えたあと、俺は独立したがな」

 

「なるほど。だからここは初めてなのか」

 

 玄馬は工房を見回した。ここへ来るのは初めてだが、炉の熱も、煤と油と焼けた鉄の匂いも、昔通った工房とよく似ている。

 

「だから記憶にないんだ。私、会ったことある人なら大体覚えてるし」

 

「そういうもんか?」

 

「ゲンマみたいな濃いおじさん、忘れるわけないじゃん♡」

 

「誰が濃いおじさんだ」

 

「おい虎徹。客の前でいつまで騒いでる」

 

「はいはい」

 

「……虎徹?」

 

 玄馬が聞き返すと、ティガの肩がぴくりと動いた。

 

「あぁーもう! そう! 私の本名――黒金虎徹(くろがねこてつ)!」

 

「鍛冶屋の娘としては百点満点じゃないか?」

 

「女の子の名前としての話してんの!」

 

「ティガも方向性そんな変わってないだろ」

 

「うるさい♡」

 

 距離を詰めてくるティガをあしらったところで、玄馬は思い出した。

 

「そうだ、ティガ。さっきの返事、まだだったな」

 

「さっき?」

 

「俺と組まないかって話。答えはイエスだ。よろしく頼む」

 

 一瞬だけ目を丸くしたティガの口元が、嬉しそうに緩む。

 

「……へへっ。撮れ高、期待してるよ。元トップハンター♡」

 

「そっちこそ。ちゃんと働けよ」

 

「誰のおかげで麻酔玉作れたと思ってんのぉ?♡」

 

「そこは助かったよ。だから組むんだろ」

 

「……ふーん♡」

 

 満足そうに笑うティガを横目に、鉄斎が玄馬を見据えた。

 

「ダンジョンからは引退したと聞いたぞ」

 

「……色々ありまして」

 

 チームを抜けてから三年、ほとんど一人でつるはしを振り続けた。昔の自分を知る師匠を前にしても、今度は目を逸らさない。

 

「師匠。俺、もう一度ダンジョンに戻ろうと思っています。前の俺には何かが足りなかった。それが何だったのか知りたくて、今までやらなかったことも試してきました」

 

「足りないものは見つかったか?」

 

「……まだ分かりません。ただ今日、ちょっとだけ昔とは違う戦い方ができた気はします」

 

 ドラムとの戦いでは、大剣を振る代わりにティガが麻酔玉を当てる隙を作った。昔なら選ばなかった戦い方だが、一度できただけで答えを得たつもりもない。

 

「なら、それでいい。答えなんざ先に決めるな。見つかるまでやってみろ」

 

「……はい」

 

 差し出された手を握ると、鉄斎の目が玄馬の掌にできた分厚いタコへ落ちた。大剣ではなく、三年間つるはしを振り続けた手を見て、何も言わずに口元を緩める。

 

「虎徹。お前、いつ玄馬と結婚するんだ?」

 

「はああああああああ!?」

 

「今日会ったばっかなんですけどぉ!?」

 

「そうなのか。玄馬なら婿にちょうどいいんだが」

 

「勝手に婿にすんな!」

 

「俺まで巻き込まないでもらえます!?」

 

 豪快に笑う鉄斎を睨んでいたティガは、ふと思い出して作業台へ向かった。

 

「オトン。これ」

 

「……爆轟竜の宝玉か」

 

「さっき引いた♡」

 

 ティガは棚からファイルを取り出し、一枚の設計図を広げた。

 

「これがあれば作れるんじゃない?」

 

「素材は揃ってる。ただし火入れから先は、お前も立ち会え。自分で使う武器だろうが」

 

「もちろん!」

 

 数百万円で売れる宝玉を前に、父娘が話すのは値段ではなく何を作れるか。設計図を覗き込むティガの横顔は、もう完全に鍛冶屋のものだった。

 

「玄馬。お前の得物も見せろ」

 

「ああ。こいつです」

 

 魔剣グランエイジを作業台へ横たえると、鉄斎は刀身を丹念に調べ始めた。

 

「……やっぱりな。こいつが伝承に残る魔剣グランエイジなら、まだ完成品じゃねえ」

 

「これで?」

 

《攻撃力レベル――1000》

 

《会心率――マイナス100%》

 

「正確には、本来の力を失ってる。完全な状態まで叩き上げるには、六種類の特別な宝玉が必要になる」

 

 鉄斎の指が、刀身に刻まれた六つの意匠をなぞる。

 

「六種類?」

 

「ああ。六大魔竜――そいつら全部の宝玉だ」

 

     ♢

 

それから少しして。

 

 帰宅した鉄斎の次女、黒金村雨への挨拶を済ませ、玄馬とティガは二階にあるティガの部屋へ移動した。

 

 配信用のパソコンや小型カメラが並ぶ机の端には、見慣れないミキシング機器まで置かれている。

 

「お前、音楽もやるの?」

 

「まあね。昔から、たまに」

 

「多趣味だな」

 

「器用って言って♡」

 

「自分で言うな」

 

 ティガは笑いながら小型カメラの角度を調整した。

 

「そんなわけで――私たち、正式に配信者コンビを組みまーす!」

 

『正式コンビきた!』

 

『おっさん続投』

 

『ゲンマ逃げて』

 

「なんで俺が被害者なんだよ」

 

「こんな美少女配信者と組めるんだから感謝してほしいんですけどぉ?♡」

 

「さっき親父さんに婿入りさせられそうになったんだぞ」

 

『もう親公認』

 

「埋まってねえ!!」

 

 コメント欄を満足そうに眺めながら、ティガはタブレットに六つの巨大な影を映し出した。

 

「せっかくコンビを組むなら目標が欲しいと思いませんか?」

 

「さっきの六大魔竜だろ」

 

「正解♡ 炎熱、白光、大地、氷水、暗黒、風雷。ダンジョン最深部に君臨する六体の超大型モンスターにして、現代ハンター最高峰の討伐対象ね」

 

「俺が前線にいた頃にはいなかったな」

 

「三年もあればダンジョンだって変わりますぅ♡」

 

 狩りは配信という娯楽になり、知らないモンスターまで現れた。三年間で変わったものは多いが、知らないなら、また知ればいい。

 

「討伐例はある。でも、倒しても宝玉は超低確率。六種類全部揃えた人は――当然ゼロ♡」

 

「倒して終わりじゃなく、そこからガチャかよ」

 

「剥ぎ取りガッチャまでが狩りです♡」

 

『ゲンマ詰んだ』

 

『六連宝玉とか無理ゲー』

 

「お前ら覚えてろよ……」

 

「そもそもね、グランエイジ持ってる人自体、ほとんどいないんだよ」

 

「そうなの?」

 

「採掘ガチャの超低確率。そのうえ引いたところで会心率マイナス百パーセント。六大魔竜を狩れるようなトップ層なら、その時間でモンスター狩って素材武器作った方が早いもん」

 

「…………」

 

「強いくせに配信もせず、延々ダンジョンで鉱石掘ってる変なおっさんでもない限り、普通は狙わない♡」

 

「誰が変なおっさんだ!」

 

『いたわ』

 

『条件完全一致』

 

『グランエイジの方からゲンマを待ってた説』

 

「だからロマンなの。ほとんど誰も持ってない魔剣に、六大魔竜の宝玉を六つぶち込んだら何ができるのか――」

 

 ティガはそこで言葉を切ると、楽しそうに笑った。

 

「見てみたくない?」

 

「…………」

 

 六頭すべてを倒し、そのうえ超低確率の宝玉を六種類引き当てる。

 

 普通なら、やらない。

 

 割に合わない。もっと効率のいい武器はいくらでもある。

 

 だからこそ――。

 

「……面白えじゃん」

 

 玄馬の胸には、久しく忘れていた狩りへの熱が灯っていた。

 

「でしょ♡ だから、私たちが世界で最初にやるの。六大魔竜を全部狩って、宝玉を集めて――」

 

「グランエイジを完成させる」

 

「そゆこと♡」

 

「悪くねえな。それに、挑む資格なら問題ない。こう見えて俺は上級ハンターライセンス持ちだ」

 

『そういや元トップだった』

 

『炭鉱夫のイメージ強すぎ』

 

「俺のライセンスがあれば六大魔竜の指定任務を受けられる。お前が組むってんなら、挑む資格は揃ってる」

 

「さっき返事したばっかなのに、もう六大魔竜に連れてく気なんだ♡」

 

「やるからには本気でやる」

 

「言うじゃん、おじさん♡」

 

 そこへ湯呑みが二つ置かれた。

 

「お茶、どうぞ」

 

 村雨だった。

 

『SSR妹』

 

『姉よりレア』

 

『村雨ちゃんのお茶代 ¥10,000』

 

「一万!?」

 

「……不本意ながら、私より人気なんだよね」

 

「お前、妹目当てで日常配信してないだろうな?」

 

「ギクッ!」

 

「私はお茶を持ってきてるだけですけど」

 

「村雨ぇ!?」

 

 コメント欄が笑いで埋まると、ティガは露骨に話題を打ち切った。

 

「はい! 最初の標的いきまーす!」

 

 画面に映ったのは、二本の脚で大地を踏み砕く巨体。全身の鱗は内側から灼熱するように赤く輝き、巨大な顎から漏れる炎が周囲の景色を歪ませている。

 

「現在受注できる指定任務。場所は上野ダンジョン」

 

「近いな。遠征費が浮く」

 

「世界最高峰のモンスターより交通費なんだ♡」

 

「世知辛いんだよ、大人は」

 

『交通費に ¥1,000』

 

「交通費ありがとぉぉぉ!!」

 

「本当に助かります」

 

『急に社会人』

 

 ティガが画面を拡大する。

 

「私たちが最初に挑む六大魔竜――『炎熱』煉獄竜レッドドラゴン」

 

 ドラムを前に身体が強張った感覚は、まだ残っている。その遥か上の怪物を怖くないと言えば嘘になるが、今日、昔とは違う戦い方を一つ試せた。

 

 答えが分からないなら、次も試せばいい。

 

「やってやろうじゃねえか」

 

「その意気♡」

 

 二人が拳をぶつけた、その直後。

 

『ところでコンビ名は?』

 

「…………」

 

「…………」

 

「考えてなかったな」

 

「考えてなかったね」

 

『虎徹と玄馬』

 

『虎馬』

 

『Team虎馬』

 

 ティガの指が止まった。

 

「これいいじゃん。Team虎馬」

 

「トラ……ウマ?」

 

「虎徹の『虎』と、玄馬の『馬』♡」

 

「縁起悪すぎんだろ!」

 

「覚えやすいから採用♡」

 

『Team虎馬爆誕』

 

『トラウマコンビw』

 

 けらけら笑うティガが、もう一度拳を差し出す。

 

「改めて――よろしくね、ゲンマ♡」

 

「ったく……よろしく頼む、ティガ」

 

 元トップハンター、御堂筋玄馬と、豪運メスガキギャル鍛冶屋、黒金虎徹――配信者ティガ。

 

 二人合わせて、Team虎馬(トラウマ)。

 

 六頭を狩り、六つの宝玉を引き当て、魔剣グランエイジを世界で最初に完成させる。落ちぶれた炭鉱夫と豪運メスガキギャル鍛冶屋による六大魔竜攻略は、こうして幕を開けた。

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