元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません 作:炭酸水ひろみつ
玄馬が大地を蹴るのと、ティガの
爆風を背に受けたティガの身体がふわりと宙へ跳ね上がり、そこから二度、三度と噴射を重ねるたびに軌道を鋭く変え、レッドドラゴンの正面から頭上、さらに側面へと回り込んでいく。一方の玄馬は低く身を屈めたまま熱風を突っ切り、巨体の真正面へ踏み込んだ。
空と地上。
別々の方向から挟み込む二人を、ユンユンは少し離れた岩場からカメラで追っている。最初は玄馬を大きく映していた画角がティガの上昇に合わせてすっと引かれ、二人とレッドドラゴンの位置関係が一目で分かる広角へ切り替わった。
『お、ええやん。二人ともちゃんと画角に入ったで』
『ユンユン有能』
『空と地上から同時攻撃か』
『これソロじゃ無理なやつ?』
『炎のバリア削れてるぞ!』
玄馬はグランエイジの柄へ添えた右手を滑らせ、普段よりも刃に近い位置を握り込む。巨大な剣をあえて短く持つことで重心を身体へ引き寄せ、取り回しを優先する構え。
「
間合いを捨て、一撃の威力さえ通常の斬撃より落とす代わりに、大剣とは思えないほど隙を小さくする型だった。双剣のような速度で斬り刻めるわけではないが、今必要なのは一発の大火力ではない。
玄馬がグランエイジを横へ流す。
巨大な刀身が炎の障壁へ叩きつけられた瞬間、火花とも違う赤い粒子が弾け、ずしりとした反動が腕へ返ってきた。まるで硬い壁を殴ったような感触とともに炎の密度がわずかに薄くなるが、すぐさま周囲の炎が集まり、削れた箇所を埋め始める。
「なるほどな……!」
玄馬は返す刃を斜めに振り上げた。
二撃目。
通常の大剣なら大きな隙が生まれるところを、流し斬りなら次へ繋げられる。
「ティガ! 攻撃を切らすな!」
「りょーかい!」
頭上からティガが急降下する。
エリアルロッドを逆手に持ち替え、その先端をレッドドラゴンの肩口へ向けると、短く噴射した爆風の勢いまで乗せて叩きつけた。炎が大きく揺らいだ直後、再び爆風を噴かせて反対側へ回り込む。
レッドドラゴンが苛立たしげに頭を振り、空中のティガへ牙を剥いた。
その隙を玄馬は逃さない。
懐へ潜り込み、短く持ったグランエイジを下から振り上げる。
玄馬の一撃が炎を削れば、その隙間へティガが追撃する。ティガが注意を引けば、今度は玄馬が踏み込む。どちらか一方が止まれば炎は勢いを取り戻すが、上下から交互に攻撃を繋ぎ続ければ、障壁の再生が追いつかない。
「俺が正面から押す! 上を切らすな!」
「そういう脳筋指示なら得意そうじゃん♡」
「一言多い!」
『息合ってんな』
『煽りながら連携するなw』
『これがTeam虎馬』
『レッドドラゴンめっちゃキレてる』
巨体が咆哮し、玄馬めがけて爪を振り下ろす。
玄馬は横へ滑り込むようにかわしながら、その勢いを殺さずグランエイジを炎の障壁へ流し込む。上ではティガがレッドドラゴンの頭上ぎりぎりを横切り、すれ違いざまにエリアルロッドを叩きつけた。
その瞬間。
炎が大きく膨らむ。
直後、ガラスが砕け散るような音とともに、レッドドラゴンを覆っていた火炎の障壁が一斉に弾け飛んだ。
『BREAK!!』
『割ったあああああ!!』
『今だ!』
『麻酔通るぞ!』
「ティガ!」
「言われなくても!」
ティガは空中で身体を反転させ、腰のポーチへ手を伸ばした。麻酔玉を片手で握ると、エリアルロッドを上方へ噴射して一気に高度を落とし、レッドドラゴンの顔面近くまで接近する。
「今度は燃やさせないよ!」
至近距離から投げ込まれた麻酔玉が、赤い鼻先へ直撃した。
乾いた破裂音とともに白煙が弾け、レッドドラゴンの頭部を包み込む。巨体が大きく揺れ、抵抗するように首を振ったものの、その動きは次第に鈍くなっていった。
「グォ……ォ……」
やがて巨体が横倒しになり、大地を揺らす。
『寝た!!』
『必殺コンボ来るぞ』
『例のやつだ』
『-100%会心を踏み倒す時間』
玄馬は何も答えず、グランエイジを握り直した。
短く持っていた右手を柄尻へ滑らせる。
流し斬りは、もう必要ない。
眠りに落ちた獲物への初撃は、会心率を無視して確定会心となる。会心率マイナス100%というグランエイジ最大の欠点を、ただ一撃だけ踏み倒せる瞬間。
今度は手数などいらない。
必要なのは――最大の一撃。
玄馬はゆっくりと大剣を持ち上げた。右足を踏み込み、腰を落とし、巨大な刀身を肩口まで引き絞った瞬間、全身の筋肉が一本の弦のように張り詰める。
ユンユンのカメラも空気を読んだように玄馬の背後へ回り込み、その肩越しに眠るレッドドラゴンを正面へ捉えた。
『ここは寄るで。ええとこや』
『ユンユン分かってる』
『来るぞ』
『真溜め!』
『霊峰斬!!』
玄馬が息を吐く。
「――真溜め」
一歩。
大剣を振り下ろす。
「霊峰斬ッ!!」
グランエイジがレッドドラゴンの首筋へ食い込み、爆発じみた衝撃が大地を走った。
轟音とともに火山灰が舞い上がり、画面いっぱいに赤いダメージ表示が弾ける。
《CRITICAL》
《DAMAGE――10,000》
レッドドラゴンの巨体が大きく沈み、地響きを立てて再び地面へ伏した。
『討伐!?』
『六大魔竜一体目きた!?』
『初見突破マジ?』
『Team虎馬つええええ』
「やった!?」
ティガが着地し、エリアルロッドを肩へ担ぐ。
だが、玄馬は答えなかった。
グランエイジを引き抜きながら、倒れた巨体を見据えている。
「……待て」
「え?」
歓喜に沸いていたコメント欄が、一瞬遅れて異変に気づく。
倒れたレッドドラゴンの周囲で、空気が揺れていた。
真夏の道路に立ち昇る陽炎など比較にならないほど濃い熱気が、巨体を中心に沸々と湧き上がっている。砕けた鱗の隙間から漏れていた赤い光が次第に白さを増し、呼吸のたびに周囲の地面まで赤熱していく。
『おい』
『なんかヤバくね?』
『HP残ってる!!』
『離れろ!!』
レッドドラゴンが、ゆっくりと立ち上がる。
その巨体から、先ほどまで纏っていた炎すら生温く思えるほどの熱が噴き出した。周囲の岩が音を立ててひび割れ、溶けた表面が赤い雫となって滴っていく。
ティガの表情から笑みが消えた。
「……なに、これ」
玄馬にも分かった。
炎を放つ技ではない。
こいつ自身が、炉になる。
命そのものを燃料にして、周囲すべてを焼き尽くすための最後の一撃。
煉獄竜レッドドラゴン――奥義。
煉獄熱波。
「ティガ、下がれ!!」
玄馬は反射的にグランエイジを地面へ突き立てた。
ティガが一歩下がるより早く、その前へ身体を滑り込ませる。巨大な刀身を盾にするように両手で柄を掴み、足を開いて大地を踏みしめた。
「ゲンマ!?」
「ティガ、俺の後ろから出るな!!」
次の瞬間、世界が赤く染まった。
轟音すら飲み込む熱の奔流が正面から襲いかかり、グランエイジの刀身が焼けるような音を立てる。玄馬は歯を食いしばり、腕に伝わる衝撃と灼熱へ耐えながら、ただ一歩も退かない。
背後にいるティガだけは、絶対に通さない。
それだけを考えていた。
――そのはずなのに。
薄れていく意識の底から、三年前の声が聞こえた。
『玄馬。次、お前が囮に回れ』
かつてなら、聞いた瞬間に反発していた言葉。
ティガが何か叫んでいる声が遠のいていく。
玄馬の指から、ゆっくりと力が抜けた。
そして意識は、三年前へと沈んでいった。