元トップハンターのおっさん、落ちぶれ炭鉱夫から再起する 。ガチャで引いた魔剣をメスガキギャル配信者とMAX強化! 六大魔竜の宝玉が出るまで帰れません 作:炭酸水ひろみつ
配信を再開してから数分後。
玄馬たちの前には、先ほどまで火山フィールドを我が物顔で暴れ回っていた煉獄竜レッドドラゴンが、その巨体を横たえていた。
赤熱していた外皮はすでに冷え始め、周囲を焦がしていた熱も弱まりつつある。それでも間近で見る巨体には圧倒されるものがあり、玄馬が霊峰斬を叩き込んだ頭部には深々と傷跡が刻まれ、煉獄熱波を放つ直前まで灼熱していた身体からは、今なお陽炎のような熱気が立ち昇っていた。
そして――大型モンスターとの戦いが終われば、ハンターにはもう一つの戦いが待っている。
「さあ皆さん、お待たせしましたぁ!!」
待ちきれないとばかりにティガがレッドドラゴンの前へ飛び出すと、ユンユンも心得たもので、カメラを玄馬からティガへ振り、その背後に倒れた煉獄竜の巨体まで収まるよう大きく画角を広げた。
「六大魔竜、第一戦! 煉獄竜レッドドラゴン――討伐成功!! というわけでぇ!」
一拍。
ティガが、にやりと笑う。
「お楽しみの――剥ぎ取りガッチャのお時間でーす♡」
『きたあああああ!!』
『本編開始』
『討伐は前座』
『ここからが本当のレッドドラゴン戦』
『ゲンマの本領発揮』
「おい最後」
玄馬がコメント欄を睨む。
前回の爆轟竜戦。
三回の剥ぎ取りで玄馬が引いた素材は、レア1、レア1、レア1。
一方のティガはレア5の逆鱗を二枚に、最高レアであるレア6の宝玉を一発で引き当てた。たった一度の配信で、玄馬はすっかり引き弱おじさんとして視聴者に認識されてしまったらしい。
『まあ実績あるからしゃーないわ』
「ユンユンまで言うんじゃねえよ!」
カメラが、すっと玄馬へ寄った。
「しかも顔抜くな!」
『ここ撮らんでどこ撮るねん』
『有能カメラマン』
『わかってる』
『ガチャ前から撮れ高あるのズルい』
通常、狩猟を終えた大型モンスターから素材を得るための剥ぎ取り回数は、一人につき三回。
だが、六大魔竜は例外だった。
その希少性と討伐難度から、参加したハンターには一人につき五本の専用剥ぎ取りナイフが支給される。今回参加した玄馬とティガなら、それぞれ五回ずつ――合計十回の抽選権があるということだ。
もっとも、玄馬が欲しい素材はただ一つ。
レア6――煉獄竜の宝玉。
グランエイジを完全な状態へ戻すために必要となる六つの宝玉、その最初の一つである。
「よし」
玄馬は支給された五本のナイフを受け取ると、気合いを入れるように両頬を叩いた。
「五回もありゃ、一個くらい――」
「はい」
横から、さらに五本のナイフが差し出された。
「……ん?」
「どーぞ♡」
見れば、ティガが自分に支給された剥ぎ取りナイフを、まとめて玄馬へ突き出している。
「いや、これお前の分だろ」
「知ってるけど?」
「いいのか?」
剥ぎ取った素材は、実際にナイフを使ったハンターへ直接付与され、一度取得した素材を別のハンターへ譲渡することはできない。その一方で、まだ使用していない剥ぎ取りナイフそのものを仲間へ渡すことは禁止されていなかった。
つまり、ティガが自分で宝玉を引き当てたところで玄馬へ渡すことはできないが、最初から玄馬にナイフを渡して剥ぎ取らせれば、取得者は玄馬になる。
理屈は分かる。
だからといって、自分の五回を丸ごと差し出すとなれば話は別だ。
六大魔竜の素材である。低レアでさえ装備や調合素材として十分な価値があり、ティガ自身にとっても決して無用なものではない。
「いいのいいの」
ところがティガはまるで惜しむ様子もなく、五本すべてを玄馬の手へ押しつけた。
「ゲンマのグランエイジ強化するために来たんだし。あたしが宝玉引いても意味ないじゃん」
「でもな……」
「そのかわり――」
ティガの口角が、悪魔のようにつり上がる。
「十回全部、全力で煽るからウィンウィンでしょ♡」
「俺側のウィンどこ!?」
『草』
『ティガだけ得してて草』
『五回増えるのは普通にウィンだろ』
『引ければな』
『↑重要』
「引くわ!!」
こうして、玄馬にとっては討伐戦以上に過酷な戦い――十連剥ぎ取りガッチャが始まった。
一回目。
玄馬がレッドドラゴンの外皮へナイフを突き立てると、刃先から光が弾け、取得した素材が表示される。
――《レア1・煉獄竜の赤鱗》。
「…………」
「ざぁこ♡」
「まだ一回目だ!」
二回目。
――《レア1・煉獄竜の赤鱗》。
「ざぁこ♡ ざぁこ♡」
「まだ八回ある!」
三回目。
――《レア2・煉獄竜の牙》。
「おっ!」
「レア2で喜んでるぅ♡」
「うるせえ!」
ユンユンのカメラが忙しく動く。素材表示へ寄ってから玄馬の顔を抜き、すぐさま隣でニヤニヤしているティガへ切り替える。そのたびにコメント欄が加速し、命懸けでレッドドラゴンと戦っていたときとは別方向の熱気が配信を包み始めた。
『ガチャ配信うますぎる』
『カメラワーク完璧で草』
『これが元トップハンターの姿か?』
『戦闘中より追い詰められてない?』
四回目――レア1。
五回目――レア1。
六回目――レア2。
「…………おかしくない?」
「なにがぁ?♡」
「俺、六大魔竜倒したんだよな?」
「うん♡」
「世界でもトップクラスのモンスターなんだよな?」
「そうだね♡」
「なんで俺、さっきから鱗ばっか剥いでんの?」
「剥ぎ取り下手なんじゃない?♡」
「技術関係あんの!?」
『物欲センサー仕事しすぎ』
『宝玉「こいつには行きたくない」』
『レッドドラゴン死後最大の抵抗』
『煉獄熱波より効いてて草』
「まだ四回ある!!」
そう自分へ言い聞かせるように叫んで挑んだ七回目も、無情のレア1。
「…………」
「ざぁ~~こ♡」
耳元から聞こえてくる煽りを無視し、玄馬は八本目のナイフを突き立てた。
――《レア3・煉獄竜の頭殻》。
「よし! 上がってきた!」
「レア3で大喜びしてる元トップハンターかわいそ♡」
「黙ってろ!」
そして、九回目。
玄馬は祈った。
もはや大剣を構えるとき以上に真剣な顔でナイフを両手に握り、頼む、頼むぞ、と念じながらレッドドラゴンの亡骸へ突き立てる。
光が弾けた。
――《レア1・煉獄竜の赤鱗》。
「………………」
静寂。
ユンユンは何も言わなかった。
ただ無言で、玄馬の顔へゆっくりとズームしていく。
「寄るな」
さらに寄る。
「寄るなって」
まだ寄る。
「おい」
ついには玄馬の顔が画面いっぱいになる。
『…………』
「なんか言えよ!」
『レア1×6』
『レア2×2』
『レア3×1』
『美しい』
『ここまで来ると芸術』
『宝玉以前にレア4すらない』
『引き弱の神に愛された男』
「誰が神に愛されてんだよ!!」
残るナイフは――一本。
十回目。
これを外せば、少なくとも今日のレッドドラゴンから煉獄竜の宝玉を手に入れる機会はなくなる。
そして宝玉を求めるのなら、もう一度レッドドラゴンの指定任務を受注し、最初から狩り直さなければならない。
「…………」
玄馬は手の中に残された最後の一本を見つめた。
討伐よりこっちの方が緊張するのは、絶対に何かがおかしい。
「ゲンマ」
「ん?」
「ナイフ貸して」
ティガが手を差し出していた。
玄馬は首を傾げながらも、最後の一本を渡す。
ティガはそれを受け取ると、刃ではなく柄の端を指先で摘まみ、少しだけ顔へ近づけて――。
ちゅっ。
軽い音を立てて、唇を触れさせた。
「…………」
玄馬が固まる。
コメント欄も一瞬だけ止まり――直後、爆発した。
『!?!?!?』
『おい』
『キスした!?』
『引き強注入』
『これは勝った』
『俺のナイフにもお願いします』
「はい♡」
何事もなかったかのように、ティガがナイフを差し出してくる。
「おまじないしといたから、いけるでしょ」
「お、おう……」
「なに照れてんの♡ ざぁこ♡」
「照れてねえ!」
そう言い返しながら受け取ったものの、さっきティガの唇が触れた柄が、どうにも妙に気になる。
「…………」
玄馬は余計なことを考えないよう頭を振ると、レッドドラゴンの前へしゃがみ込んだ。
「頼むぞ……!」
最後の一回。
ナイフを突き立てる。
刃が外皮へ食い込んだ瞬間、光が弾けた。
だが――これまでとは違う。
赤。
橙。
金。
幾重もの光が粒子となって舞い上がり、眩い輝きが画面いっぱいに広がっていく。
《RARE 6》
《煉獄竜の宝玉》
「…………」
一秒。
二秒。
玄馬の目が大きく見開かれる。
「――っしゃああああああああ!!」
拳を突き上げた。
『うおおおおおお!!』
『出たああああ!!』
『マジで引いたwww』
『十回目www』
『おまじない強すぎる』
『ティガ神』
『キスバフ実在した』
ユンユンのカメラが取得した宝玉を大写しにし、そこから歓喜する玄馬へ、そして最後にティガへと振られる。
玄馬は手の中に現れた赤い宝玉を握りしめた。
六つ必要な宝玉、その一つ目。
グランエイジを取り戻すための、最初の一歩。
しばらくその輝きを見つめていた玄馬だったが、やがて何かを思い出したように顔を上げ、真っ先にティガへ振り返った。
「ティガ!」
「ん?」
「ありがとう!!」
ティガが一瞬、目を丸くした。
自分の剥ぎ取りナイフを五本すべて譲ってくれたことも、十回の挑戦に最後まで付き合ってくれたことも、最後の一本にくだらないようで妙に心強いおまじないをしてくれたことも――全部まとめて出てきた言葉だった。
やがてティガは、少しだけ目を細めて笑った。
「いいのいいの。それより――」
人差し指を一本立てる。
「貸しは貸しだからね♡」
「……膝枕の?」
「それも込み♡」
「何要求する気だよ」
「んー?」
ティガの視線が、玄馬の頭から足元までゆっくりと下りていく。
上から下まで、品定めするように。
そして――。
悪魔のような笑みを浮かべた。
「体で払ってもらうから♡」
「体!?」
『!?』
『おいおいおい』
『配信中だぞ』
『詳しく』
『急に始まった』
玄馬が思わず身構える一方、ティガはそんなコメントなど気にも留めず、人差し指をまっすぐ彼へ突きつける。
「ゲンマ」
「な、なんだよ」
「脱いでもらおうか♡」
「――はぁ!?」
火山フィールドに、玄馬の素っ頓狂な声が響き渡った。