阿蘇惟将、頑張る ~阿蘇家で廻る、TS九州三国志~ 作:NoRAheart
話が膨らみすぎたので、分割投稿とします。
異変に気づいたのは、荷だった。
塩を配った山の村から報せが来た。
小倉の方へ荷車が多く通るという。
村の者は、それを「毛利の兵糧が増えた」としか思っていない。
冬に向けて備えるのは当たり前である。
念のため、板を引っ張り出して、過去の記録と並べた。
並べ終えたところで、はたと気づく。
備えとして積むなら、少しずつ増える。
しかしこれは違うのだ。
三日前から、急に増えている。
その動きが、こちらに露見するのもお構いなしだ。
しかも、運ぶ先が門司ではない。
門司より手前で、止まっている。
守る城なら、荷は城の中に入れる。
城の外に積むのは、出るためである。
「毛利が動きます」
道雪のおばあ様の陣屋に駆け込んだ僕は、開口一番に告げる。
「二、三日のうちです。山の村の者が、毛利の旗を掲げた荷駄を多く見たと」
「今更兵糧を増やすか。惟将や、どう思うか」
「おそらくバレました。そして荷駄の数と動きからして、東の軍団も急ぎこちらに向かわせているものと思われます」
「なんと」
おばあ様はそんな馬鹿なと言いたげであった。
僕も同じ思いである。
おそらく、向こうは自力で答えを察したのだ。
「総掛かりにございます」
僕は確信をもって、おばあ様に断言した。
◇
「七日。七日保てば勝ちにございます」
軍議の場で、僕は早速発言をした。
喫緊の状況だ。下座の立場などもはや気にせず進んで軍議を取り仕切る。
「京より、わたくしの手の者から早馬がございました。御沙汰は間違いなくきます」
「おおっ!!」
「ただし御沙汰は公の使者が持ってきまする。急かすことはできません。使者の現在地から逆算し、早ければ五日。遅くとも七日のご到着と思われます」
「ならば門司から先の足場となる土地を渡さなければ、当方の勝ちか!!」
「左様。毛利方が今、東を空けてまで来るのは、それを読んだゆえにございます。門司が抑えられぬのなら、御沙汰が届く前に、門司の周囲の勢力圏を拡大して、門司がなくとも九州の足掛かりとなる土地を欲しているのです。故に、向こうは決戦を望んでいます。だから僕らは、それに乗りません」
上座で、宗麟様の手の中の鞭がぺちんと鳴る。
「決戦には乗らぬ、しかし保つ。これをいかに実現する」
「香春岳はどうか」
「はい。この戦線における最重要拠点。あの山城を、おとりとします」
―――香春岳城
道雪のおばあ様が上げたそれは、天慶3年に築城された古城であり、門司が九州の玄関口であるならば、香春岳城は九州に立ち入る者を見張る櫓の役目を果たす交通の要衝である。
天然の要害に守られ難攻不落の城として知られており、門司から九州を攻め入るならば、絶対に無視できない拠点である。
「毛利が欲しいのは、門司の後ろの庭にございます。門司の南の、小倉の平地。苅田のさらに南の、今井津の湊。そのどちらかを押さえれば、門司は岬ではなくなりまする」
「じゃが、どちらも香春岳の目の下よ」
先に、おばあ様に言われた。
「はい。小倉に入った兵の荷は、香春岳の麓をかすめて運ばねばなりませぬ。今井津へ抜ける道は、香春岳から丸見えにございます。あの山を残したまま庭を取っても、取った庭は、いつ背中から突かれるか分からぬ庭。毛利の将なら、必ず先にあの山を取りに来まする」
「背中に刃を当てられたまま、飯は食えぬからの」
「ならば、香春岳を守り抜けば当方の勝ちか!!」
「いいえ。守り抜かずともよいのです。毛利の目が香春岳に吸い寄せられている間に、小倉を渡さねばよい。要は片手落ちを狙うのです。小倉の紫川は、ぜひ田原様の隊に」
末席に近いところで、田原隊の将が顔を上げた。
苅田の陣で、規定通りに飯を炊き続けていた隊の一つである。
「承った。川一本、渡させはせぬ」
「惟将、話は分かった。しかし香春岳とて麓に兵を置き、道に兵を置き、水場に兵を置かねば保てぬ」
宗麟様のおっしゃる通り、敵方が無制限攻勢であるならば、香春岳城の周囲のことまで考えなければならない。
しかし今回は短期決戦。
「いや、あの山城なら寡兵でも耐えうる」
「はい、おばあ様のおっしゃる通りです。遊撃に三百を支隊として、城に三百だけ入れまする」
広間が、どよめいた。
「三百!?毛利方は、物見の話では西の予備戦力をかき集め、兵数は二万を優に超えたと言っておりますぞ!!」
「二万で来ようが、あの難所は城門を除いて寄せ手は城門の一つだけでございます。さらに山城までの道は険しく、門は狭うございます。一度に入れる人数は、たかが知れております。どんなに毛利方の数が多かろうと、向かってくる相手が限定されるのであれば、三百で足りまする」
「遊撃の三百は?こちらも少ないのではないか」
「城の二百と合わせ、計五百でもって麓、山岳内で二当てほどしていただきます。こちらが香春岳城だけは守る意思があるとおもわせ、伏兵を警戒させ、毛利方の足を鈍らせまする。こけおどしと思わせない打撃力が担保され、露見しづらく、撤退しやすい編成です」
「寡兵で以って蹂躙するか。ならば紹運!!お主が遊撃隊を率いよ」
「御意」
大軍も、寡兵も運用経験のある紹運殿ならば問題ないと、僕も同意した。
なにより強いし。夢に出るほど、とっても強いし。
「ならば城には儂が入るか」
「確かに、立花殿ならお役目にふさわしく―――」
「ご冗談を」
「なんと!!」
おばあ様を止めた。周りも驚くが、逆になんで道雪のおばあ様を推すのか僕には分からない。
おばあ様はすごくムッとしているが、こわいので無視した。
どうせ用兵に長け、万が一があっても老い先短い自分なら問題ないと考えての志願であるのだろう。しかし大問題である。
道雪のおばあ様は、まだ大友家の支柱であるのだ。万が一にでも害されてはいけない。
それに宗茂殿は、まだ立花家の跡目として立って間もない。
さらには足の不自由もある。
おばあ様に本当になにかあってしまえば、険しい山の中を無事に引くのはとても難しいことだ。
「わたくしが入りまする」
「惟将!!」
「理由は三つございます」
おばあ様は僕の口を止めようと被せにかかるが僕の方こそ被せにかかる。
道理があればよいのだ。皆が納得できる。
おばあ様以外にも口を挟む者が出る前に、言い切ってしまうほかない。
紹運殿とか、紹運殿とか、紹運殿とか。
「一つ。この広間にいる誰よりも、わたくしがこの場で最も失って軽い者であるからにございます。わたくしは大友の家臣ではなく、府内に預けられた人質でございます。禄も、領も、率いる兵も、大友家中にはございませぬ。槍も弓も人並みに扱えず、三百の中に混ぜたところで、兵一人分の働きにも数えられませぬ」
「人質を死なせれば名折れであろう」
「お呑みくださいませ。お捨てなされ。名誉など。人質一人の命で、われらの最大の悩みであった門司の脅威が失せるのです。天秤にかけるまでもございませんでしょう」
軍議の誰もが何かを言いかける。口を動かそうとしている。何か吐かないとという顔をしている。でも最後は言葉の置き場を失ったような顔をした。
誰かが「しかし」と呟いた。けれど続きは出てこなかった。
僕は続ける。
「二つ。この策を持ち込んだのが、わたくしだからにございます。毛利の荷が増えたと見抜いたのも、七日と区切ったのも、香春岳を囮にと申したのも、わたくしです」
嗚呼、思えば。
山の村に塩を配ったのも。京へ手を回したのも。
陣中の叛意を鎮めて回ったのも。先の策もみな、わたくしの口から出たもの。
そのどれもが大友の兵を動かし、銭と兵糧を費やし、今に繋がっている。
でも、ここで城が落ちれば、それらはすべて水の泡。
水の泡にした責めを負うのは、策を立てた者でなければ筋が通らない。
立てた者が陣の奥に座し、他のお方が城で討たれたなんて、冗談じゃない。
そのお方は、わたくしの絵図のために死んだことになる。
三百の兵に死地を頼んでおいて、頼んだ当人が門の内におらぬのでは、それこそ毛利の兵に笑われ、大友の旗の色が悪くなる。
僕が語れば語るほど、誰も何も言わなくなった。
軍議の空気が、僕の声でいっぱいになっていた。
「三つ。わたくしには香春岳を用いて毛利方を抑える自信がございます。香春岳の地形、毛利の火の数、寄せてくる口、将の癖、昼か夜か。すべて頭に入っております。一方で紹運殿は遊撃、おばあ様は輿でしか山をお上りになれず、田原様は小倉。わたくしに代われる者はいないと自負しております」
それとも、代われる者はいるかと聞いた。
他薦でも自薦でも構わないのでと伺うも、誰も声を挙げない。
ならば決まりだ。わたくしで決まりだ。
「では惟将。そなたに香春岳の抑えを任せる。そなたが香春岳の大将である」
◇
軍議の後、宗麟様がわたくしを呼び止めた。
肩を持ち、僕を見つめる。
「惟将。生きて戻れ」
「はい」
「戻らなかったときには、大友は毛利の家を根から絶やす」
「はい……はい?」
「安芸の土が見えるまで、根切にしてくれるわ」
「冗談にしては面白いですね、でもお殿様があんまり変なこと言わない方がいいですよ」
肩から手が離れる。
「何か、存念はあるか」
帰ると断言したいところだ。
勝てると言って帰りたいところだ。
けれども何があるか分からないから。
僕は宗麟様にお願いした。
伏して、心から、お願いした。
「わたくしが万が一にも討たれましたら、何卒阿蘇家をお守りください」
◇
編成の詰めを行う。
城に入るのは三百。遊撃に三百。城の二百が遊撃へ貸し出されるので、遊撃は五百で行われる。
遊撃は紹運殿が率いる。山の中で散り、打ち、引くための隊である。役目が済めば、そのまま山を抜けて退く。香春岳城へは入らない。むしろ、余分な兵員は、『引くとき』に邪魔になる。
二百は、城に戻る。
別に戻る道を指す者がいる。
宗茂殿にも同席してもらった。
「貸し出す二百に、副将を一人付けたく存じます。遊撃の間は紹運殿の下に入り、役目が済んだら二百を連れて城へ戻る。遊撃と守備の継ぎ目に立つ方です」
兵を借りる紹運殿とおばあ様には、事前の説明を行っている最中。
もう一人、指揮が取れるものが必要だと気づいた。
「継ぎ目か。して、誰じゃ」
「宗茂殿をいれまする。遊撃隊兼守備隊の副将に」
「初陣の者に、副将を預けるとおっしゃるのね」
まさかここで宗茂殿を挙げるとは思っていなかっただろうと、声色から伺えた。
選んだのは、なにも情ではない。
いや情があるから選んでいる。
情とは、紹運殿とのである。
「紹運殿と宗茂殿は知った仲です。それこそ、宗茂殿が産まれた時から。山の中では、旗も合図も届かぬ時があります。そういう時、やり取りが最も短く済むのは言葉を介さずに動ける二人だと考えます。私は二人にはそれができると確信しております。それに遊撃にあたるのは高橋の兵で、城に入る三百は立花の兵です。兵が最も素直に動く、跡目の声。お借りいたします六百に最も声が届くは、宗茂殿の声です」
おばあ様が、宗茂殿の方へ顔を向けた。
「宗茂。やれるか」
「承りました」
即答した。
迷いが見えなかった。
「承る前に一呼吸くらい置きなさい」と紹運殿が言うが、「置いても答えは同じにございます」と宗茂殿は合理を語る。
誰に似たのやら。
「宗茂殿。毛利は、慌てて組み直した軍です」
「はい」
「彼らの装備は平地の戦のそれでした。馬の飼葉が多く、兵の長柄の束が多い。山を攻める支度ではありませんでした。それを急に香春岳へ向けるのです。馬も、長槍も、そのまま連れて山に入ってくるでしょう」
「左様ですね」
紹運殿が興味あるわと割って入る。
戦上手な道雪のおばあ様と紹運殿に聞かれるのは少し恥ずかしいが、今は宗茂殿に策、というよりも『安心』を渡す。
「一つ。麓の森の中で騎馬を見かけても、怖くありません。罠にはめて、シバきましょう」
平地の騎馬は、とても怖い。
しかし森の中では左右は木と、味方の兵と馬に塞がれる。
だから曲がれない。だからまっすぐ来る。
来る筋が決まっているならば、罠にかけやすい。
その筋に、隠匿した縄を渡してしまえば、勝手に転んで手柄にできる。
「二つ。長槍の列が、おそらくあります。彼らはこの香春岳では騎馬より戦えません。騎馬より容易な相手です」
長槍は、実のところ突くための得物ではない。
列で並べて、上から振り下ろす。それでもって、前の兵を叩き潰すための獲物である。
振り上げれば、枝に掛かる。
並べようにも、木が邪魔をする。
長槍を担いだ列が狩場に入ったら、横合いから短い得物でかかればよい。
「三つ。これが一番重要です」
「なんでしょう」
「ぶっちゃけ宗茂殿と紹運殿に敵う武者はおりませぬ」
「まぁ!!」
紹運殿が、宗茂殿の肩を叩いた。
それはいいが、一度いちどがものすごい音を立てている。
たぶん僕なら錐もみしながら飛んでいく自信があるけれど、宗茂殿は動じていなかった。
この怪力親子がと内心ツッコミを入れながら、宗茂殿大丈夫かなと、無言で下を向いていた顔を覗いた。
なんだか口元がむずむずしているような、我慢しているような、変な顔をしていた。
「惟将や」
「何でしょう、おばあ様」
「嫁入りは、いつか」
これから方々で死地に赴くというのに、道雪のおばあ様はとてもニコニコしていた。
何を言っているのだ、この人はとあきれながら、僕は返した。
「…………耄碌するのは何卒、後にしてくださいませ」
◇
一日経って。
僕らは香春岳城に着陣した。
苅田から南へ。
平らな道をしばらく進み、そこを過ぎると岩肌の白い山が行く手を壁のように聳え立つ。
香春岳城は、その山の中腹にある。
寄せ手が取りつける口は、大手門の一つだけ。
道は細く折れ曲がり、人が三人並べば埋まってしまう。
入城した足で、紹運殿の遊撃隊と宗茂殿の二百は、山へ散っていった。
城に残ったのは、百と、僕である。
残ったもので、仕込みを進めた。
毛利の先手が山の入口に見えたのは、翌日の朝だった。
物見台から見えるのは、山肌を這う煙と、舞い上がる砂塵ばかりである。
細かいことは、伝令が運んできた。
伝令が言う。
「谷の口で、先手を止めましてございます。左右の崖から矢を三度浴びせ、手負いを出させて退きました」
伝令が言う。
「橋を落としました。毛利は、その場で架け直しにかかっております」
伝令が言う。
「倒した杉で、道を塞ぎました。取り除くのに半日はかかると」
伝令が言う。
「林の中で、騎馬が縄に掛かりましてございます。馬だけが駆け抜け、乗り手は皆、落ちましてございます」
報せが来るたび、綴りを開いた。
書いていないと、物見台の手すりを、何度でも撫でてしまいそうだった。
夜になると、遠い尾根に篝火が灯り、鬨の声が上がった。
一箇所ではない。毛利が槍を向けた先には、もう誰もいない。
向けるたびに、別の尾根で火が灯る。
毛利の兵に、まとまった眠りを与えないための策である。
三日目の昼前に、最後の報せが来た。
「紹運様の隊、山を抜けられました。苅田の方角へ退かれております。お怪我もなく、遊撃の三百は全員、無事にございます」
つかえが一つ、下りた。
宗茂殿の二百が戻ったのは、それからほどなくした後であった。
大手門へ続く道を、二列に連なった兵がのぼってくる。
全員が土埃で白かった。山肌の石灰を踏んだ足が、道に白い跡を残している。
先頭を歩く丈の高い影が、近づくにつれて、赤い髪になった。
「宗茂、帰参いたしました」
「お帰りなさい。ご無事で何よりです」
「二百、戻しました。手負いは十ほど、いずれも軽うございます。討死は、ございませぬ」
驚いた。悉くが奇襲とはいえ、死者ゼロとはとんでもない用兵術である。
やはり宗茂殿は、とても優秀である。
「谷の口を二度、橋を一度、杉の道を一度。紹運様の差配の通りに、引き際を違えず事は運びました。毛利の先手は、麓に着くまでに二日を使っております。本来ならば、半日の道にございます」
「重畳です」
「縄は、三度張りました。三度とも、騎馬が落ちました。長柄の列は林で立ち往生し、横から崩せましてございます」
うんうんと、宗茂殿の初陣の話を聞く。
あれだけ不安がっていたのに、終わってしまえばこんなもの。
さすがは宗茂殿であると思っていたら、「あ」と宗茂殿は言葉を続けた。
「余裕がございましたので、手頃な木を素手でへし折って見せましたところ、毛利方がおびえて逃げまして、それが一番効きました」
「ふぁ!?」
「惟将殿の三つ、すべて効きました」と、平然と宣う宗茂殿。
震える声で、どのくらいの木をへし折ったかと聞いてみた。
あれくらいですと指さした木は、僕の胴の三倍はあった。
なにも聞かなかったことにした。
「手柄は上げられましたか?」
「はい。討ち取りました将の頸は、五つ」
気づいた。
兵の数、手負い、討死、働き、首。
順に並べて、一つも抜けていない。
初陣の将は、戻ってくると、たいてい数字より先に見たものが口をつく。
誰が倒れたか。何が恐ろしかったか。または誰を倒したか、どんな活躍をしたか。
宗茂殿は、そのどちらも出さなかった。
良き将になれると思った。
「見事です。その首は、どちらに。身印を改めて、書き留めておきましょう」
返事が、止まった。
宗茂殿が、報告の続きを探すように、後ろに並ぶ兵を振り返った。
兵たちは一人残らず、あらぬ方を見ていた。
「…………わぁ」
初めて聞く声だった。
「申し訳ございませぬ。五つとも、山に、置いて参りました」
「首を?」
「首を」
「耳も?」
「耳もです」
「持ち帰って、おりませぬ」と、耳を真っ赤にさせていた。
討ち取った首の代わりに、耳を削いで持ち帰る。
武家の子が、最初に叩き込まれる手順である。
紹運殿の娘が、それを知らぬはずがない。
忘れていたのだ。
忘れたのは、頭の中が、それどころではなかったからだ。
完璧に並べられた報告から、並べきれなかったものが一つ、取りこぼされていた。
この人は、何でもない顔をして、いっぱいいっぱいだったのだ。緊張していたのだ。
初陣だ、無理もない。
「構いませんよ」
「討つところは、皆が見ております。報告は、必ず」
「あ、いえ。責めているわけではなく」
「はい」
「宗茂殿が、無事に戻って来てくれただけで、それでよかったと言いたかったのです」
ばきゃん。ばきゃん?
何かが割れた音がした。音を探れば、宗茂殿の手元が音源。
見ると手槍の持ち手が粉々になっていた。
え、なんで?
「……変えてきまする」
離れる宗茂殿の背を見送る。
見送っていると、背後の兵が、ひそひそと話す。
「若殿がかわいそうじゃ」
「いっそ阿蘇殿、いかづちに撃たれませんかな」
「まったくじゃまったくじゃ」
おい、何話しているんだあなたたちは。