阿蘇惟将、頑張る ~阿蘇家で廻る、TS九州三国志~ 作:NoRAheart
装束合わせの日、立花の屋敷に呼ばれた僕だったが、なんだか嫌な予感がして、やっぱり逃げようと決心した。
逃げようと思ったのは、まさか大友家が催す場で、本当に男の自分が巫女服なんぞ着るはずもないと思うのであるが、道雪のおばあ様ならやりかねないと思い直したからだ。
しかし失敗した。
立花家の屋敷を出た直後、門の外で待ち構えていた筋肉ムキムキマッチョなお侍方に猫をとらえるようにして捕まってしまった。
お侍方の後ろには、紹運殿が立っていた。
「ごきげんよう、阿蘇殿。さあどちらへ」
「え、えへへ、ちょっと阿蘇谷の方へ」
「着付けのお部屋ですね。お連れします」
「ちくしょうぅ!!はめられたっ!!」
「衣装をはめるのは貴方様でございます」
うわーん、やっぱり巫女にさせられるんだ!!お嫁にいけないよー。
罪人運びの様に四肢を持ち上げられて、地面に背を向け運ばれた。
「やだー下ろしてー!!おろしてよー!!」
「下ろしたら逃げるでしょう?」
「逃げませ―――嘘です、逃げます」
「正直でよろしい」
下ろしてもらえなかった。
立花家の奥座敷に運び込まれた時には、既に十数人の女中が待機していた。
全員、目が輝いていた。
嫌な輝きだった。
中央に、道雪のおばあ様が座っていた。
その膝の前に、白と緋の装束が広げられている。
巫女装束である。
どこからどう見ても、完璧な、巫女装束である。
「おばあ様」
「なんじゃ」
「これは何ですか」
「装束じゃ」
「巫女の装束ですよね」
「うむ」
「本気ですかぁ!!」
「本気じゃ!!」
道雪殿は、実に堂々と言い放った。
「そなたが、可愛いのがいかん!!」
女中の皆様も、お侍方もうんうんと頷いておられた。いや頷くな。
褒められているのか貶されているのか、まったく判断がつかない。
「おばあ様、僕は饗応のお役目も、神事を務めるとも言いました。確かに引き受けました。しかし大友家中の皆様が集まる場で、おのこがこのような格好をするのはいかがなものかと。阿蘇家は女装する家だと誹りを受けまする」
「もう遅い。立花の家中一同、惟将が巫女服で舞うと知っておる」
「えぇ」
「阿蘇谷の舞はお主が思うとるより有名での。皆、生で男の娘が見られると楽しみにしとるぞぇ」
「なんでぇ!?」
「「ささ、若様。お召し替えを」」
女中たちがにじり寄ってきた。
最後の抵抗を試みる。
「待って、自分で着付けはできまする!!」
「ご冗談を。巫女装束は、一人では着られませぬ」
「着られます! 僕、経験者なので!!」
言ってから、後悔した。
部屋中の女中が、一様にうれしそうな顔で「「まぁ、経験者……」」と呟いた。
道雪殿は、口元を押さえて、背を丸めて笑いを堪えていた。
もうやだ。殺して、殺して……。
「阿蘇殿」
僕を下ろさせた紹運殿が、女中の輪に割って入った。
「わたしがやります」
「紹運殿まで!?」
「御礼はいずれ、と申しました」
「御礼じゃないよ!!仇だよ!!」
紹運殿は、真顔で帯を手に取った。
「実は、娘の着付けをするのが夢でした。統虎―――いえ、宗茂殿はもののふに育てておりましたので」
「いや僕、男ですから!!なに女の子でしょ、みたいないい雰囲気で話を進めているのですか!!それで紹運殿!!『えっ』て、不思議そうな顔しないで。もうやだぁ」
帯が、腰に回る。
締まる。
締まる。
まだ締まる。ぐえっ。
「し゛ょ゛う゛う゛ん゛と゛の゛、く゛る゛し゛い゛て゛す゛」
「あら」
少し緩んだ。
死ぬかと思った。
「ごめんなさい阿蘇殿。不器用なもので。加減を、宗茂殿と一緒に覚えねばなりませんね」
背中で、紹運殿が小さく息を吐いた。
笑ったのだと、なんとなく分かった。
前にこの人が本当に笑うことはあんまりないと統虎殿は言っていた。
笑うじゃないかと、息を吐いた。
◇
饗応の当日。
立花家の広間には、家中の者が百人近く集まっていた。
膳が並ぶ。
その膳の献立は、僕が全部組んだ。
これに関しては、本気を出した。
饗応役は、その場限りのお役目である。
だが百人の家中が、阿蘇の嫡子の膳を食べる。
旨ければ、阿蘇の名が百人の腹に残る。
こんな好機は、そうそうない。
まず、汁。
これは麦味噌である。
肥後から取り寄せた、というと聞こえがいいが、要するに妹が持たせてくれた壺の残りを種に、こちらで似せて仕込ませたものだ。
米味噌に慣れた豊後の人間には、甘く感じるはずである。
具は、大根と、干した椎茸と、豆腐。
次に、焼き物。
府内は港町だから、魚が良い。
鯛を塩で締めて焼いた。塩は多め。
働く者の舌は、塩が効いていないと物足りない。
煮物は、里芋と、牛蒡と、鶏。
そして、飯。
ここが肝心だった。
白米を出さなかった。
白米の代わりに、粟と大豆を混ぜた飯を出した。
「惟将殿」
配膳の差配をしている時、背後から声がかかった。
振り返ると、相も変わらず背の高い、赤い髪の人が立っていた。
この人と顔を合わせるのは、あの夜以来だった。
名を改めてから、初めてである。
「宗茂殿」
僕は初めて面と向かってその名を呼んだ。
すると宗茂殿は、一瞬止まった。
それから声には出さずに、何かを確かめるように、口の形だけでなぞった。
むねしげ、と。一度だけ。
「はい」
返事は、いつも通りより少し高く返ってきた。
浮ついているとも違う。
どこか、腰の据わり方が違って聞こえた。
「母が」
宗茂殿は、言いかけて、言葉を探している様子であった。
待ってみた。やはり返ってきた。
「母が、あの日、屋敷中わたしを探し回りまして」
「伺っております。壁が、いくつか」
「三つです。それと障子が二枚」
「すごいですね」
「見つかってから、抱きしめられました」
「それは、よかった」
「骨がいくらか持っていかれました」
「それは、よかった、んですかね!?」
「よかったのです」
宗茂殿は、真顔で言った。
真顔のまま、口の端だけが、上がっていた。
「母が、間違っていたと申しました。わたしに伝えたかったことを一から十まで教えてくれました。けれどもわたしも、間違えていたのだと思います。母の言葉を、言葉の通りにしか、受け取れずにおりましたので」
「お二人とも、不器用なだけだったのですよ」
「それを、惟将殿が、ほどいてくださいました。さらには名まで、いただきました」
「名の件に関しては、僕じゃありませんって」
「母から、そう伺っております。惟将殿は、きっとそう申されるだろうと」
先回りされていた。
高橋の母娘は、どうにも、僕の言い訳を読むのが上手い。
「ところで、惟将殿。一つ、伺っても」
「はい」
「なぜ、白米ではないのですか」
この人は、こういうことを必ず聞く。
そして、聞いた上で、僕の答えを最後まで聞く。
だから僕は、この人に説明するのが好きだった。
「宗茂殿。今日、この膳を食べるのは、どういう人たちですか」
「大友家の、家中の者です」
「その家中の人たちは、普段、何を食べていますか」
宗茂殿は、考えた。
「祝い事以外は、麦や粟が多いと聞きます」
「はい。白米を毎日食べているのは、たぶん上の十数人だけです」
粟飯の桶に手を置いた。
「祝いの席で白米を出すのは、簡単です。喜ばれます。でも、それは『今日だけの特別』にしかなりません。今日、粟と大豆の飯を出して、それが旨かったら。明日から、家中の人たちが毎日食べているものが、旨くなります。祝いの日だけ旨いものより、毎日が旨くなる方が、僕は好きです」
宗茂殿は、しばらく僕を見ていた。
それから、こう言った。
「惟将殿は、いつも、そうですね」
「そうですか」
「はい」
宗茂殿は、粟飯の桶を軽々と持ち上げた。
僕が両手で抱えてやっと動かせるものを、片手で。
「わたしは、惟将殿のそういうところが―――」
そこで、言葉が止まった。
桶を抱えたまま、宗茂殿は、次の言葉を探していた。
探して、見つけて、それでも言わずに、仕舞った顔をした。
「―――膳を、運んでまいります」
宗茂殿は、桶を持って行ってしまった。
なお、粟飯は好評だった。
特に、下座の者らが驚いていた。
粟が旨いはずがない、と思って口に入れて、そこで固まっていた。
種を明かせば簡単な話で、粟は炊く前によく洗って、大豆は先に炒ってから混ぜている。
それと、炊く水に昆布を一切れ入れた。
それだけだ。
それだけで、粟は化ける。
誰も、粟を旨く炊こうとしたことがなかっただけなのだ。
一人が、隣の者に「阿蘇の」と囁くのが聞こえた。
よしと、腹の中で拳を握った。
◇
そして、舞の時間が来た。来なければよかったのに。
広間の中央が空けられ、篝火が焚かれた。
僕は、控えの間で装束を整えていた。
白の小袖に、緋の袴。
髪は下ろして、白い元結で束ねる。
手に、鈴。
鏡を見た。
泣き言はここまで。
ここからは、阿蘇家の者として、舞うのみ。
呼吸を整える。吸って、吐く。
阿蘇の名を、多くの大友家中の腹に残した。
どうせなら、目にも残していただくだけのこと。
ならば簡単だ。わたくしにとっては。
「惟将殿」
背後で声がした。
振り返ると、宗茂殿が立っていた。
立っていて、固まっていた。
「宗茂殿?」
返事がない。
「あの」
「宗茂殿」
「失礼、いたしました」
宗茂殿は、深く頭を下げた。
頭を下げたまま、動かなくなった。
「あの、頭を上げてください」
「もう少し、このままで」
「なんでですか」
「今、お顔を見ますと、運んでいる膳をひっくり返しかねませぬので」
「では、舞台に上がったわたくしも見られませぬか?」
「いえ、そのようなことは!?」
顔を上げた宗茂殿は、お顔を真っ赤にされていた。
自慢のお顔だ、惚れてしまえ。
「宗茂殿のために舞うのですから、今のうちに慣れておくのが吉ですよ」
そうでなければ、男で巫女なんぞ、やってはいけぬ。
◇
神楽というのは、不思議なものだ。
型が体に入ってしまうと、様になって見える。
足がどこへ運ばれるか、手がどこへ上がるか、鈴がどこで鳴るか、全部、体が知っている。目をつぶってでも舞える。
りぃん、と鳴る。間があって、また、りぃん、と鳴る。
篝火が爆ぜる音が混じる。
百人の呼吸が、だんだん静かになっていくのが分かる。
子どもの頃、半ば冗談で舞わされて、なんどもなんども仕込まれているうちに思った。
どうせやるのであれば、惚れさせてしまえと。
誰も笑わなくなるまで芸を高めて、極めて、だからこそわたくしはここに立てる。
半ば誇りのようなもので、武器のようなものだ。
そしてこの土地の人たちに差し出せる、芸となっている。
阿蘇谷の為政者としては、無駄なことだ。
しかしこうやって、饗応のお役目をいただいて、宗茂殿の大事な門出を祝えている。
ならば人は、無駄なことなど何一つないのであろうか。
たぶん、違う。
無駄なことは山ほどある。
だが、無駄だったものが、あとから意味を持ち、手札となることがある。
それだけの話だ。それだけの話だが、それが起きた時、人はそれを「天の配剤」と呼ぶ。
最後の一節で、鈴を高く掲げた。
りぃん、と鳴った。
その音が消えるまで、広間は完全に静まっていた。
音が消えても、誰も動かなかった。
拍手も、どよめきも、何もなかった。
この場にいた多くのものが、ただ、ただ、静まり返っていた。
僕は、その静けさの中にしゃんと立っていた。
◇
最初に音を立てたのは、道雪のおばあ様だった。
脇息が、倒れた音だった。
振り向くと、彼女は脇息を押しのけて、上体を前に投げ出していた。
膝から下は、動かない。
だがその上体が、明らかに立ち上がろうとしていた。
「殿!!」
近習が慌てて駆け寄った。
道雪殿は、その手を振り払った。
振り払って、両手を床に突き、腕の力だけで身を起こそうとした。
枯れ枝のような腕が、震えていた。
大友の雷神が、床を掴んで、震えていた。
何を。
僕は思わず駆け寄った。
駆け寄って、その手を取った。
道雪殿の手は、氷のように冷たくて、そして恐ろしく強い力で、僕の手を握り返した。
「惟将や」
「はい」
「見えたぞ」
道雪殿は、僕を見上げていた。
その目がぎらぎらと、生気に満ちていた。
「いかづちよ」
息を呑んだ。
この人は、雷に撃たれた人だ。
その一撃で足を失って、それ以来、輿の上で戦い続けてきた人だ。
「そなたが鈴を鳴らした時にな。お主がカッと光りおったわ。あれはまさしく、いかづちじゃ」
僕は好奇心で、その時の話を一度聞いたことがある。
『いかづちは、恐怖であり、誇りであり、そして生涯でもっとも美しかったもの。自分がなりたかったもの』だと言っていた。
「『いかづち』は、そこにあったか」
それと僕を重ねてくれる、いつもよりも様子がおかしく見えたおばあ様に、僕は何も言えなかった。
広間の大友家中が、その言葉を聞いていた。
誰も、何も言わなかったなかで、やがて道雪殿は、僕の手を離して居住まいを正した。
自力で正して、背筋を伸ばして、広間全体を見渡した。
「皆、聞けぃ」
声を出したその時には、道雪のおばあ様は完全に、大友の雷神に戻っていた。
「今宵の舞は、阿蘇の大宮司家より、立花の新しき跡目への、祝いである」
道雪殿は、上座の脇に控えていた、背の高い人の方を、扇で示した。
「立花宗茂。今日より、儂の跡を継ぐ者じゃ。皆、よう見ておけ」
宗茂殿は、深く頭を下げた。
広間の隅で、紹運殿が、同じだけ深く頭を下げていた。
多くの目が、その人に集まった。
集まって、それから、なぜか、僕の方にも、ちらちらと流れてきた。
名をつけた童がいるという話は、もう家中に回っているらしかった。
◇
披露が済み、膳が下げられ、家中の者たちが三々五々に帰り始めた頃。
輿の担ぎ手を待つ間、道雪のおばあ様は、縁側の端で、庭の篝火を見ていた。
僕は片付けの手を止めて、おばあ様の横に腰を下ろした。
「おばあ様。お身体は」
「大丈夫じゃ」
道雪殿は、篝火から目を離さなかった。
「のう、惟将や」
「はい」
「そなたは儂の孤独に寄り添ってくれた。無理にばあさまー、ばあさまーと儂の話に付き合ってもくれた」
「そのようなことは……」
「それに宗茂も連れてきてくれた。よい跡目じゃ。儂が幾年探しても見つからなんだものを、そなたがパッと解決してくれた。もはや文句はない。後悔はない。一つもない。なんなら今日ここでぽっくり逝ってしまってよかった」
「そう思っておったのに」と。
篝火の向こうの闇を、ジッと見ていた。
「猶更思うんじゃよ。そなたが大友の家中の者であればと。いや―――」
そこで、言葉を切った。
切って、僕の腕をグッと掴んだ。
「立花の子で、あればとな」
「!?」
そう言ったおばあ様は、ひたすらに暗いまなこをしていた気がした。
僕はそのあまりの暗さに、気圧されて、慄く。
その様子に気づいたのか、おばあ様はハッとされて手を離された。
後ろ手をついた僕に、すまんの、と手を伸ばされた。
「詮無いことじゃ。ないものを、ねだっておる。年寄りの、悪い癖じゃ」
輿の担ぎ手が、廊下の向こうから、やって来た。
道雪殿は、担がれる前に、もう一度だけ、僕を見た。
「情を、もろうた。宗茂を、もろうた。もうそれで、十分じゃ」
それは自分に対して、言い聞かせるような言い方に聞こえた。
輿が、廊下の向こうへ消えていく。
その背中が、道雪のおばあ様とは思えないほど小さく見えた。
◇
その夜。
控えの間で装束を解いていると、宗茂殿が入ってきた。
入ってきて、今日は鴨居をかわしてみせた。
「今日はぶつけませんでしたね」
「はい」
宗茂殿は正座して、しばらく口を開かなかった。
その間に、緋の袴を畳んでいた。
「惟将殿」
「はい」
「あの舞は、どこで、覚えられたのですか」
「阿蘇神社です。子どもの頃に、祭りで巫女が倒れて、代役をやらされました」
「代役」
「はい。冗談のつもりだったらしいです」
袴を畳み終えた。
「そこから、なぜか本気で仕込まれまして。この有様です」
「嫌でしたか」
「どうでしょう。生理的には抵抗はまだあります。男なのに、と。今日も、正直、逃げようとしました。紹運殿や周りに捕まってしまいましたけどね」
「はい。母から、聞きました」
「でも」
白い元結を手に取った。
「大友家中の皆様には、良き見世物ができたと思っています。なんだったらおばあ様なんか、いかづちが見えたとおっしゃっていましたね。それはとても光栄なことです」
元結を、畳の上に置く。そして、顔を上げた。
「ならば、どうして嫌だと言えましょうや」
宗茂殿は、僕を見ていた。
その目が、揺れていた。
揺れて、それから、この人は俯いた。
「惟将殿」
「はい」
「わたしは、母から、無駄を憎めと教わりました。無駄な稽古はするな。無駄な言葉は使うな。無駄な飾りは持つな。それが武士だと」
「はい」
「ですが、惟将殿は、人が無駄だというものを、たくさん拾っておられます」
「そうですね」
苦笑した。実際、そうだ。
兼業とはいえ武家の家の者が、槍は振れない。馬も下手。
戦場では役に立たない知識ばかり多く持ち。
一方では菓子を作る。舞を舞う。綴りをつける。
武士としては、無駄の塊である。
「その拾ったものが、経験が」
宗茂殿は、膝の上で拳を作った。
「雷神に、いかづちを見せるのですね」
答えられなかった。何と答えればいいのか分からなかった。
そもそも養子の話は、僕の名前が最初に上がったことを、宗茂殿は知っている。
また今日、道雪のおばあ様が言ったことは、宗茂殿ではなく未だ僕を見ていることになる。
当事者としては堪ったものではない話だ。
慕っていた親から離されて他家に来た傍から冗談じゃないと思うはずだ。
なんと言ったらいいのかと、思考を回していたら宗茂殿は僕の傍に少し寄った。
「惟将殿、違います」
「え?」
「不快に思わなかったと言えば、嘘になります。嫉妬しなかったと言えば、嘘になります」
謝りかけたところで、僕の唇は、宗茂殿の人差し指に止められた。
「でも同時に、誇らしくも思いました。あそこまで言わしめる惟将殿に、師事を受けられていることに。慕う師を褒められて、誇らしく思わない子が、どうしていましょうか」
「宗茂殿」
「だからどうか、卑下なされませぬように。わたしの小さな師は、とてもすごいのだと、今夜ここだけでも自慢させてはくれませんか?」
「小さいは余計じゃー!!」
ぷんすこ怒る僕の様子に笑みを浮かべてくれる宗茂殿と、しばらく雑談に興じてその日を終えた。
次回、戦争パート